(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125621
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】臓器モデル、内視鏡検査トレーニング装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20220822BHJP
【FI】
A61B1/00 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023310
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 恭子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 康平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 毅
【テーマコード(参考)】
4C161
【Fターム(参考)】
4C161AA04
4C161BB00
4C161CC00
4C161GG11
4C161JJ01
4C161JJ08
(57)【要約】
【課題】内視鏡挿入時に実際の臓器に挿入したときと近い手感を得られる臓器モデル等を提供する。
【解決手段】内視鏡検査トレーニング用の大腸モデルは、チューブ11を備える。チューブ11は、弾性体素材で形成された第1の層と、伸び規制素材で形成された第2の層と、を含む。チューブ11は、自然状態における断面形状が、自重により潰れたオーバル形状をなす。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブを備え、前記チューブの中空空間の長手軸の方向に、内視鏡の挿入部が挿通されるように構成された内視鏡検査トレーニング用の臓器モデルであって、
前記チューブは、
弾性体素材で形成された第1の層と、
前記第1の層の伸びを規制する伸び規制素材で形成された第2の層と、
を含む複数の層を肉厚方向に積層し、
前記長手軸の方向が重力方向と交わるときの自然状態において、前記長手軸に交わる方向の前記チューブの断面形状が、自重により潰れたオーバル形状をなす、
ことを特徴とする臓器モデル。
【請求項2】
前記第2の層は、第1の方向よりも、前記第1の方向に交わる第2の方向に伸び易い異方性を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項3】
前記第1の方向は前記長手軸の方向、前記第2の方向は前記長手軸に交わる方向である、
ことを特徴とする請求項2に記載の臓器モデル。
【請求項4】
前記第2の層は、前記第1の方向よりも、前記第2の方向に伸び易い編み方の編物として構成された網状構造体を、前記第1の方向が前記長手軸の方向と一致し、前記第2の方向が前記長手軸に交わる方向と一致するように配置して構成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の臓器モデル。
【請求項5】
前記第1の方向よりも前記第2の方向に伸び易い編み方は、ラッセル編みであることを特徴とする請求項4に記載の臓器モデル。
【請求項6】
前記チューブが前記長手軸に交わる方向に伸びるときの、伸びに抗して前記チューブが発生する反力の増加率は、前記長手軸に交わる方向の前記チューブの長さが所定の閾値未満であるときよりも前記所定の閾値以上であるときの方が大きい、
ことを特徴とする請求項4に記載の臓器モデル。
【請求項7】
環状をなし、前記環状に沿った長さが前記チューブの表面の前記長手軸周りの長さよりも短いひだ形成部材をさらに備え、
前記ひだ形成部材は、前記環状の中心軸が前記長手軸に沿うように、前記チューブの表面に固定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項8】
前記ひだ形成部材は、前記環状に沿った長さが前記チューブの外表面の前記長手軸周りの長さよりも短く、前記チューブの外表面に固定される、
ことを特徴とする請求項7に記載の臓器モデル。
【請求項9】
前記チューブは、前記自然状態において、前記長手軸を挟んで対向する内壁の一部と他の一部とが、自重により接触する、
ことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項10】
前記第1の層を形成する前記弾性体素材は、JIS K 6253準拠のタイプAデュロメータで計った値が10以下となる素材である、
ことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項11】
前記チューブの外表面の少なくとも一部に樹脂コートを設けて、前記長手軸の方向に沿って複数の凹凸が前記チューブに形成されるようにした、
ことを特徴とする請求項1に記載の臓器モデル。
【請求項12】
請求項1に記載の臓器モデルを備える、
ことを特徴とする内視鏡検査トレーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の挿入部が挿通されるように構成された管腔を有する臓器モデル、および管腔を有する臓器モデルを備える内視鏡検査トレーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臓器の内、管腔を有する大腸は、他の幾つかの臓器と比較して形状が複雑である。このため、内視鏡を大腸に挿入するには高度な技術が求められる。そこで、内視鏡を用いた大腸検査をトレーニングするための大腸モデルが提案されている。
【0003】
例えば、特開昭58-192522号公報には、弾性糸からなる編組体の両面に液状ゴムを塗布した大腸モデルが記載されている。大腸モデルは、編組体を設けたために、送気および吸引に応じて伸縮できるように管壁を薄くしても、破損を防ぐ強度を備え、かつ自然状態でも管腔がつぶれることなくチューブ形状を維持する弾力性を備える。
【0004】
また、弾性糸の編組体が設けられていない、ゴムの筒でなる大腸モデルも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の大腸モデルは、自然状態において管腔形状を保つように成型されている。このため、内視鏡を大腸モデルに挿入しても、内視鏡と大腸モデルの内壁とが接触するまでは術者が挿入抵抗を感じない。そして、内視鏡と大腸モデルの内壁が接触すると、内視鏡の先端や側面などで大腸モデルを引き伸ばす状態になり、術者は急に大きな挿入抵抗を感じることになる。
【0007】
生体内の実際の大腸は、内容物がなければ管腔がほぼつぶれた状態となっている。従って、内視鏡を実際の大腸へ挿入すると、挿入を開始してすぐに内視鏡と腸管とが常に接触している状態になる。術者は、腸管の粘膜と接触しながら内視鏡が進行する際に発生する挿入抵抗を、常に手元に感じることになる。また、内視鏡を実際の大腸内へ押し込んだ際には、内視鏡の挿入部で大腸を引き伸ばす状態になった時点で、術者が手元で感じる挿入抵抗が、それ以前と比べて急激に大きくなる。
【0008】
こうして、従来の大腸モデルなどの管腔を有する臓器モデルは、内視鏡を挿入したときに術者が受ける手感が、実際の大腸等の臓器に挿入したときに受ける手感と異なるために、実際の被検体を検査するのに適した技術を十分に習得することが難しい。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、内視鏡を挿入した際に、実際の臓器に挿入したときと近い手感を得られる臓器モデル、および臓器モデルを備える内視鏡検査トレーニング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による臓器モデルは、チューブを備え、前記チューブの中空空間の長手軸の方向に、内視鏡の挿入部が挿通されるように構成された内視鏡検査トレーニング用の臓器モデルであって、前記チューブは、弾性体素材で形成された第1の層と、前記第1の層の伸びを規制する伸び規制素材で形成された第2の層と、を含む複数の層を肉厚方向に積層し、前記長手軸の方向が重力方向と交わるときの自然状態において、前記長手軸に交わる方向の前記チューブの断面形状が、自重により潰れたオーバル形状をなす。
【0011】
本発明の一態様による内視鏡検査トレーニング装置は、前記臓器モデルを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の臓器モデル、内視鏡検査トレーニング装置によれば、内視鏡を挿入した際に、実際の臓器に挿入したときと近い手感を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態における内視鏡検査トレーニング装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】上記第1の実施形態において、腹部カバーを開けたときに見える、胴体モデル内に配置された臓器モデルの例を示す平面図である。
【
図3】上記第1の実施形態における大腸モデルの外観を一部省略して示す斜視図である。
【
図4】上記第1の実施形態において、大腸モデルが備えるチューブの肉厚方向の構成を示す断面図である。
【
図5】上記第1の実施形態において、第2の層に用いられる網状構造体としての経編の編物の一例を示す図である。
【
図6】上記第1の実施形態において、大腸モデルが備えるチューブの、自然状態における、長手軸に交わる方向の断面形状の例を示す図表である。
【
図7】上記第1の実施形態において、大腸モデル内に内視鏡の挿入部を挿入したときの、挿入量に応じた作用を、従来の大腸モデルと比較して説明するための図表である。
【
図8】上記第1の実施形態において、内視鏡の挿入部が、大腸モデルから受ける反力を、従来の大腸モデルから受ける反力と比較した例を示すグラフである。
【
図9】上記第1の実施形態において、第2の層を構成する網状構造体が、大腸モデルの伸びに応じて変化する例を示す図表である。
【
図10】上記第1の実施形態において、大腸モデルのひだ形成部材を含む部分を、長手軸に交わる方向に切断したときの断面図である。
【
図11】上記第1の実施形態において、A欄がひだ形成部材の正面図、B欄がA欄の10B-10B断面図である。
【
図12】上記第1の実施形態における大腸モデルの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0015】
なお、図面の記載において、同一または対応する要素には、適宜、同一の符号を付している。また、以下の説明に用いる各図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各構成要素毎に縮尺を異ならせる場合がある。本発明は、各図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、及び各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
[第1の実施形態]
【0016】
図1から
図12は本発明の第1の実施形態を示したものであり、
図1は、内視鏡検査トレーニング装置1の外観を示す斜視図である。
【0017】
内視鏡検査トレーニング装置1は、管腔を有する1つ以上の臓器モデルを備える。なお、本実施形態では、管腔を有する臓器モデルとして下記に説明する内視鏡検査トレーニング用の大腸モデル5を例に挙げるが、大腸以外の臓器のモデルに本実施形態の構成を適用しても構わない。
【0018】
図1に示すように、内視鏡検査トレーニング装置1は、人体の胴体部分をモデル化した胴体モデル2を備えている。なお、
図1に示す胴体モデル2は、
図1の左上側が人体上側に対応し、
図1の右下側が人体下側に対応する。
【0019】
胴体モデル2の上面には、腹部カバー3が開閉自在に配設されている。胴体モデル2の、人体下側に対応する一端面2aには、肛門モデル4が配置されている。肛門モデル4は、内視鏡80(
図7等参照)を大腸モデル5内へ挿入する際の入口となる開口部である。ここで、内視鏡80の具体例は、大腸用内視鏡である。
【0020】
図2は、腹部カバー3を開けたときに見える、胴体モデル2内に配置された臓器モデルの例を示す平面図である。
【0021】
図2に示すように、胴体モデル2の内部には、臓器モデルとして大腸モデル5が配設されている。大腸モデル5の一端側は上述した肛門モデル4、他端側は着脱自在な栓によって密閉されている末端部6である。
図2において、大腸モデル5、肛門モデル4、および末端部6を他の臓器モデルと区別し易くするために、ハッチングを付している。
【0022】
さらに、実際の人体の内臓配置に近付けるために、胴体モデル2の内部には、胃モデル7、小腸モデル8、および膵臓モデル9などが配設されている。胃モデル7、小腸モデル8、および膵臓モデル9は、それぞれ例えば弾性体素材により形成されていて、実際の人体と同様に、大腸モデル5の一部を圧迫するように配置されている。
【0023】
さらに、胴体モデル2に対して開閉自在に取り付けられた腹部カバー3も、例えば弾性体素材により形成されている。そして、腹部カバー3を胴体モデル2に閉じた状態では、実際の人体と同様に、腹部カバー3が大腸モデル5の一部を圧迫する構造となっている。なお、本実施形態では他の臓器モデルならびに腹部カバー3を配置しているが、このような実施形態に限定せず、胴体モデル2に大腸モデル5のみを配置して使用するものであってもよい。
【0024】
図3は、大腸モデル5の外観を一部省略して示す斜視図である。
【0025】
上述したように、大腸モデル5は、肛門モデル4および末端部6を含み、一端側には肛門モデル4が設けられ、他端側には末端部6が設けられている。
【0026】
大腸モデル5は、腸管モデル(腸管を模した腸管チューブ)であるチューブ11を備えている。チューブ11は、内部に中空空間を有し、中空空間の長手軸の方向に、内視鏡80の挿入部81(
図7等参照)が挿通されるように構成されている。
【0027】
図4は、大腸モデル5が備えるチューブ11の肉厚方向の構成を示す断面図である。
【0028】
チューブ11は、弾性体素材で形成された第1の層15と、第1の層15の伸びを規制する伸び規制素材で形成された第2の層16と、を含む複数の層を肉厚方向に積層して構成されている。
【0029】
図4に示す例では、第1の層15は、第2の層16の一方の面に設けられた第1の層15aと、第2の層16の他方の面に設けられた第1の層15bと、の2つの層を含んでいる。ただし、第1の層15を1つだけ設ける構成でも構わないし、チューブ11に第1の層15および第2の層16以外の他の層をさらに設けてもよい。なお、
図4および後述する
図10以外の図面では、チューブ11が、肉厚方向に第1の層15a、第2の層16、および第1の層15bを積層して構成されていることの図示を省略している。
【0030】
第1の層15を形成する弾性体素材は、弾性を有する曲げ剛性の小さい素材であり、例えば、JIS K 6253準拠のタイプAデュロメータで計った値が10(いわゆる、ショア硬さA10度)以下となる素材である、
【0031】
弾性体素材の具体例としては、シロキサン結合による主骨格を持つ合成高分子化合物であるシリコーン樹脂が挙げられる。ただし、シリコーン樹脂に限らず、ゴム、ウレタン、フッ素樹脂などの弾性体素材を用いても構わない。
【0032】
第2の層16を形成する伸び規制素材は、曲げ剛性が小さく、好ましくは、伸びに異方性がある素材となっている。
【0033】
伸び規制素材は、糸を編み込んで構成した糸製メッシュシート(
図8参照)などの網状構造体を好適に使用できる。
【0034】
網状構造体は、例えば繊維生地により構成される。繊維生地は、主として、織物、編物(ニット)、不織布(ふしょくふ)に分類される。織物は、基本的に、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が直角に交差して組織を形成する。編物は糸を連続したループにして組織を形成する。繊維を撚った糸を用いる織物および編物に対して、不織布は、撚った糸にしていない繊維を絡み合わせてシート状にしたものである。
【0035】
織物は、基本的に、縦方向および横方向の伸縮性が比較的小さい。編物は、織物と比較すると、一般的に、縦方向および横方向に伸縮性がある。不織布は、繊維がランダムに結合された場合に強度および伸縮性に方向性がなく、織物および編物と比較すると強度が低い。このために、伸び規制素材に使用する網状構造体として、編物を用いることが好ましい。
【0036】
編物は、縦方向に糸を進めて連続したループを作っていく経編(たてあみ)と、横方向に糸を進めて連続したループを作っていく緯編(よこあみ)と、に分類される。
【0037】
経編(たてあみ)の中で、伸縮性および伸縮の異方性があり、シート状にしたときの凹凸が少ない編み方として、ラッセル編み、トリコット編みなどが挙げられる。
図5は、第2の層16に用いられる網状構造体としての経編の編物の一例を示す図である。経編は、複数本の経糸17を編み込んで構成されており、
図5においては、網目を分かり易くするために、一本の経糸17にハッチングを付している。
【0038】
緯編(よこあみ)の中で、伸縮性および伸縮の異方性があり、シート状にしたときの凹凸が少ない編み方として、平編、ゴム編みなどが挙げられる。本実施形態における伸縮の異方性としては、長手軸方向に伸び難く、径方向に伸び易い向きに網状構造体を配置することで達成される異方性が考えられる。
【0039】
本実施形態の網状構造体は、好適な一例として、PET(ポリエチレンテレフタラート)とポリウレタンとを合成または混紡した素材により形成した糸を、ラッセル編みした編物として構成されている。ここで、糸を形成する素材にポリウレタンを入れることで、伸縮性に富んだ編物を構成できる。
【0040】
なお、網状構造体としては、上述の例を含めた、経編および緯編の何れの編物を用いてもよい。さらに、例えば、伸縮性のある糸であって、経糸の伸縮性と緯糸の伸縮性とが異なる糸を用いることで、織物を網状構造体として用いても構わない。また、不織布についても、極細繊維を用いて高い伸縮性を実現し、救急絆用基布、医療用テープ等に用いられるものがある。こうした点を考慮すると、適切に構成された不織布であれば、網状構造体として用いても構わない。
【0041】
そして、網状構造体を糸(または繊維)により構成する場合、天然糸(天然繊維)、合成糸(合成繊維)、金属糸(金属繊維)などの何れを用いても構わない。
【0042】
第2の層16は、第1の方向よりも、第1の方向に交わる第2の方向に伸び易い異方性を有する。伸び規制素材が網状構造体である場合には、例えば、第1の方向よりも、第2の方向に伸び易い編み方の編物として構成する。
【0043】
そして、本実施形態では、実際の大腸の性質に近い配置例として、第1の方向がチューブ11の中空空間の長手軸の方向と一致し、第2の方向が長手軸に交わる方向と一致するように網状構造体を配置して、第2の層16が構成されている、
【0044】
このように、弾性体素材および網状構造体等で構成された大腸モデル5は、内視鏡80の挿入部81の挿入状態に応じて、変形することが可能となっている。
【0045】
図6は、大腸モデル5が備えるチューブ11の、自然状態における、長手軸に交わる方向の断面形状の例を示す図表である。
【0046】
チューブ11は、長手軸の方向が重力方向Gと交わるときの自然状態において、長手軸に交わる方向の断面形状が、自重により潰れたオーバル形状をなすように形成されている。ここで、オーバル形状は、真円を変形した各種の形状を広く含む。オーバル形状の例としては、楕円、長円(平行な一対の線分の両端が半円で結ばれている形状)、ラグビーボール形、卵形、瓢箪形などが挙げられ、これらの形状が自重により平坦に近い形状まで潰れている場合、およびこれらの形状にひだや皺が形成されている場合も含まれる。
【0047】
図6のA欄は、曲げ剛性が小さく柔らかい素材で形成したチューブ11の例を示している。チューブ11内に挿入された内視鏡80の挿入部81の上下は、チューブ11の内壁と接触している。また、挿入部81が挿通されていない部分は、チューブ11が自重で平坦に近い形状まで潰れている。なお、図示はしないが、挿入部81が挿通されていない状態においては、自重により、チューブ11が平坦に近い形状まで潰れる。従って、チューブ11の内壁の上下は、1箇所以上で接触する。
【0048】
図6のB1およびB2欄は、曲げ剛性が小さい(ただし、A欄のものと比較すると曲げ剛性が幾らか大きい)素材で形成したチューブ11の例を示している。B1欄は挿入部81が挿入された状態のチューブ11を、B2欄は挿入部81が挿通されていない状態のチューブ11を、それぞれ示す。
【0049】
挿入部81が挿入された状態では、チューブ11の断面は、B1欄に示すように、挿入部81が接触している部分を短径とした、略楕円形状をなしている。
【0050】
一方、挿入部81が挿入されていない状態では、チューブ11の断面は、B2欄に示すように、管壁の中央部が自重により垂れ下がり、中央部において内壁の上下が接触している。また、チューブ11の内壁の左右は、曲率半径が小さくなることに抗する力が作用するために、曲率半径が一定値以下になるのが妨げられ、B1欄に近い曲率半径の円弧状をなしている。
【0051】
図6のC欄は、ひだが形成されたチューブ11の例を示している。ひだが形成されているためにチューブ11の断面形状には凹凸があるが、チューブ11は、自然状態において、長手軸を挟んで対向する内壁の一部と他の一部とが、自重により複数箇所で接触している。
【0052】
なお、
図6のC欄に示すチューブ11は、例えば後述するひだ形成部材12を設けて、自然状態においてひだが生じるようにしている。ただし、ひだ形成部材12を設けることなく、ひだが自然状態で生じるようにチューブ11を成型してもよい。または、内視鏡検査トレーニング装置1に大腸モデル5をセットするときに、大腸モデル5にひだが生じるようにユーザもしくは製造者がセットしても構わない。
【0053】
ただし、
図6のA欄、B1欄、B2欄に示すように、チューブ11は、ひだが設けられていなくても構わない。
【0054】
こうして、曲げ剛性が小さい素材でチューブ11を形成したために、チューブ11は、自然状態で、自重によりつぶれた状態となっている。これは、人体の大腸が、送気をしていない自然状態においてつぶれた状態であることと一致する。従って、チューブ11を用いて形成した大腸モデル5は、実際の大腸との類似性が高い構成となっている。
【0055】
さらに、大腸モデル5内に内視鏡80の挿入部81を挿入すると、チューブ11の内壁が挿入部81に常に接触する。この接触状態も、実際の大腸との類似性が高い。
【0056】
次に、
図7は、大腸モデル5内に内視鏡80の挿入部81を挿入したときの、挿入量に応じた作用を、従来の大腸モデル91と比較して説明するための図表である。
【0057】
図7の3欄は、大腸モデル5に対する内視鏡80の挿入部81の挿入状態の例を示している。
【0058】
図7の1~3欄のそれぞれにおいて、A欄は挿入部81の先端部81aが大腸モデル5の屈曲部5aにとどいていないとき(3A欄参照)、B欄は挿入部81の先端部81aが大腸モデル5の屈曲部5aにとどいて通過するとき(3B欄参照)、C欄は挿入部81が大腸モデル5の屈曲部5aを通過する際に屈曲部5aが挿入部81により押圧されているとき(3C欄参照)を示している。
【0059】
図7の1欄は、従来の大腸モデル91内に内視鏡80の挿入部81を挿入したときの、挿入量に応じた作用を示す。
【0060】
従来の大腸モデル91は、例えば、自然状態において長手軸に垂直な断面がほぼ円形の管腔形状を保つゴムの筒として構成されている。この場合、挿入部81を大腸モデル91内に挿入しても、1A欄に示すように、挿入部81が大腸モデル91の内壁に当接していないときには、大腸モデル91内に挿入している手感が得られない。
【0061】
その後、1B欄に示すように、大腸モデル91内に挿入部81を挿入しているときに、挿入部81が大腸モデル91の内壁に当接した時点で、大腸モデル91と当接したことによる反力を挿入部81が受ける。
【0062】
さらに大腸モデル91内に挿入部81を押し込むと、大腸モデル91が挿入量に応じて長手軸に交わる方向(例えば、径方向)に伸び、伸び長さに応じた反力を挿入部81が受ける(
図8に示すグラフの一点鎖線参照)。
【0063】
図7の2欄は、本実施形態の大腸モデル5内に内視鏡80の挿入部81を挿入したときの、挿入量に応じた作用を示す。なお、大腸モデル5が
図6のA欄に示したタイプである場合の例を、
図7の2欄に示している。
【0064】
本実施形態の大腸モデル5は、上述したように、自然状態においてつぶれた管腔形状となるために、2A欄に示すように、挿入部81は、挿入開始された時点から大腸モデル5の内壁に当接し、大腸モデル5からの反力Pを受ける。
【0065】
従って、本実施形態の大腸モデル5では、挿入部81を挿入した時点から、腸管内に挿入しているという手感が得られる。この手感は、生体(例えば人体)の腸管に挿入した場合との類似性が高い。こうして、
図7の1A欄に示した従来の大腸モデル91における違和感、つまり、挿入部81を挿入開始しても、挿入している手感が得られない違和感を解消できる。
【0066】
その後、2B欄に示すように、挿入部81が大腸モデル5の屈曲部5aに到達して、挿入部81が屈曲部5aを持ち上げるように押圧したものとする。すると、1B欄における左図から右図のように、水平方向につぶれていた大腸モデル5の壁部が、徐々に重力方向Gに垂れ下がる状態に移行する。
【0067】
さらに大腸モデル5内に挿入部81を押し込むと、2C欄に示すように、挿入部81が屈曲部5aを径方向に引き伸ばす状態となり、径方向に引き伸ばされる以前とは挿入部81が受ける反力Pが変化する。
【0068】
図8は、内視鏡80の挿入部81が、大腸モデル5から受ける反力Pを、従来の大腸モデル91から受ける反力と比較した例を示すグラフである。
図9は、第2の層16を構成する網状構造体が、大腸モデル5の伸びに応じて変化する例を示す図表である。
【0069】
図9のA欄に示すように、網状構造体で形成された第2の層16は、自然状態から引張する方向に力量を加えると、閉じていた網目が段々と開いていくことで、小さな力量(所定以下の力量)で伸ばせる。
【0070】
第2の層16が一定量(一定割合)まで伸びると、
図9のB欄に示すように、網状構造体の網目が開ききった状態となり、それ以上引張すると、網状構造体を構成する糸自体を引き伸ばす状態に移行し、引張に必要な力量が急に増加する。
【0071】
このような網状構造体を用いて形成した大腸モデル5に対して、内視鏡80の挿入部81を挿入したときに、挿入部81が大腸モデル5から受ける反力Pは、例えば、
図8の実線に示すようになる。
【0072】
まず、挿入部81の挿入を開始してから、大腸モデル5の径方向の伸び量Lが所定の閾値L1に達するまでは、伸び量Lに対する反力Pの増加率は、比較的低い増加率(P1/L1)となる。
【0073】
その後、伸び量Lが所定の閾値L1に達すると、大腸モデル5が
図7の2B欄の状態から2C欄の状態に移行する。そして、第2の層16を構成する網状構造体は、
図9のB欄に示すように網目が広がり、それ以上伸びることに対して大きい抵抗力を与えるようになる。これにより、伸び量Lに対する反力Pの増加率は、上述した増加率(P1/L1)よりも高い増加率[(P2-P1)/(L2-L1)]となる。
【0074】
こうして、チューブ11が長手軸に交わる方向(例えば、径方向)に伸びるときの、伸びに抗してチューブ11が発生する反力の増加率は、長手軸に交わる方向のチューブ11の長さが所定の閾値L1未満であるときの増加率(P1/L1)よりも、所定の閾値L1以上であるときの増加率[(P2-P1)/(L2-L1)]の方が大きい。
【0075】
実際の大腸は、力量を与えて径方向に引き伸ばすときに、一定の伸び量までは力量が少なくて済むが、一定の伸び量を超えると急に大きな力量が必要になる。従って、本実施形態の大腸モデル5は、実際の大腸と類似性が高い。
【0076】
内視鏡80が受ける反力Pが、伸び量における所定の閾値L1の前後で急激に変化するために、術者は、内視鏡80を押し込む量が適切な範囲内を超えようとしていることを感知できる。
【0077】
また、
図8の一点鎖線は、従来の大腸モデル91に挿入部81を挿入したときの反力Pの例を示している。
【0078】
従来の大腸モデル91は、上述したように、自然状態において断面がほぼ円形の管腔形状を保つために、挿入部81を挿入しても、挿入部81が大腸モデル91の内壁に接触するまでは、反力Pが発生しない。このために、実際の人体の大腸と比較して、不自然な手感となる。
【0079】
そして、挿入部81を大腸モデル91に挿入した後の、挿入部81が大腸モデル91の内壁に接触した時点から、急に反力Pが発生する。接触後は、大腸モデル91の径方向の伸び量Lに例えば比例した反力Pが、
図8の一点鎖線に示すように発生する。反力Pが押し込み量に比例する場合、適切な押し込み量の限界を感知できず、どの程度まで内視鏡80を押し込んでもよいかを判断するのが難しい。
【0080】
なお、
図8の一点鎖線は、耐久性を考慮して管壁を厚く形成した大腸モデル91に発生する反力Pの例を示している。この場合、伸び量Lに対する反力Pの増加率が比較的大きい。従って、術者が内視鏡80を従来の大腸モデル91に挿入すると、人体の腸管よりもかなり硬い手感を受ける。ただし、大腸モデル91の管壁をより薄くすれば、伸び量Lに対する反力Pの増加率は小さくなり、柔らかい手感にできる。管壁の厚みや材質を変えることで硬さ/柔らかさを調節できるのは、本実施形態の大腸モデル5も、従来の大腸モデル91も同様である。
【0081】
従来の大腸モデル91は、ゴムの筒として構成され、伸び規制素材で形成された第2の層16がない。このために大腸モデル91は、本実施形態の大腸モデル5の伸び量L2を超えても伸ばせる。例えば、大腸モデル91は、実際の症例にはあり得ない伸び量L3(L3>L2)まで伸びて、反力P3を挿入部81に与える。このときに術者は、実際の人体の大腸に対して内視鏡80を挿入したときとは大きく異なる手感を受ける。
【0082】
本実施形態の大腸モデル5は、
図3に示すように、さらに、ひだ形成部材12を備えていてもよい。ひだ形成部材12は、人体の大腸にひだがあるのを模して、チューブ11にひだを形成するために設けられている。
【0083】
ひだ形成部材12は、例えば環状(トーラス状)をなすひだ形成リングである。ひだ形成部材12の環状に沿った長さは、チューブ11の表面の長手軸周りの長さよりも短くなるように構成されている。従って、ひだ形成部材12およびチューブ11を断面が円形となる状態にした場合には、ひだ形成部材12のリング径がチューブ11のチューブ径よりも小さくなる。
【0084】
ひだ形成部材12のリング径を変えることで、チューブ11に設けるひだの量を調整できる。例えば、ひだを少なくする場合には、ひだ形成部材12のリング径を、チューブ11のチューブ径に近付ければよい。一方、ひだを多くする場合には、ひだ形成部材12のリング径を、チューブ11のチューブ径よりもかなり短くすればよい。
【0085】
ひだ形成部材12は、チューブ11と同様に、例えば、JIS K 6253準拠のタイプAデュロメータで計った値が10(いわゆる、ショア硬さA10度)以下となる弾性体素材により形成されている。なお、ひだ形成部材12は、チューブ11と同一のショア硬さかつ同一の弾性体素材(シリコーン樹脂、ゴム、ウレタン、フッ素樹脂など)により形成してもよいが、ショア硬さを異ならせても構わないし、異なる弾性体素材を用いて形成してもよい。
【0086】
ひだ形成部材12は、環状の中心軸が、チューブ11の長手軸に沿うように、チューブ11の表面(内表面または外表面)に固定される。ただし、チューブ11の内表面にひだ形成部材12を固定すると、内視鏡80の挿入部81がチューブ11の中空空間を通過する際にひだ形成部材12と当接して、引っ掛かりを感じるなどの不自然な手感を与える。
【0087】
このために、ひだ形成部材12をチューブ11の外表面に固定することが好ましい。この場合、ひだ形成部材12の環状に沿った長さは、チューブ11の外表面の長手軸周りの長さよりも短い。
【0088】
大腸モデル5は、実際の人体の大腸に合わせた長さに成型されている。このために、チューブ11の長手軸に沿って、複数のひだ形成部材12を例えば所定の間隔で設けることで、大腸モデルの全体にひだが形成されるようにしている。
【0089】
図10は、大腸モデル5のひだ形成部材12を含む部分を、長手軸に交わる方向に切断したときの断面図である。
図11は、A欄がひだ形成部材12の正面図、B欄がA欄の10B-10B断面図である。なお、
図10および
図11においては、見易くするために断面形状などを円形にしているが、自然状態においては、上述したようにつぶれた管腔形状となっている。また、
図10および
図11においては、ひだの図示も省略している。
【0090】
図10に示すように、ひだ形成部材12は、径を縮めた状態のチューブ11の外周面に、例えば、接着剤13を用いて接着されている。ここに、接着剤13としては、樹脂やゴムなどの素材同士を接着するのに適した一般的な接着剤を使用できる。
【0091】
図11に示すように、ひだ形成部材12は、環状の内周側が例えば断面直線状、つまり立体的に見ると、環状の中心軸を中心とする円筒面12aとして成型されている。このような構成により、接着面積を確保して、ひだ形成部材12をチューブ11の外周面へ確実に接着できる。また、ひだ形成部材12は、他の物体と接触したときに受ける力を減らすために、環状の外周側が断面円弧状、例えば断面が半円状となるように成型されている。
【0092】
なお、ひだ形成部材12をチューブ11の内周面へ接着する場合には、環状の外周側を円筒面として成型し、環状の内周側を断面円弧状に成型すればよい。
【0093】
ただし、ひだ形成部材12を、その他の断面形状、例えば円形、四角形などの断面形状になるように成型しても構わない。
【0094】
図12は、大腸モデル5の変形例を示す断面図である。
【0095】
本変形例の大腸モデル5は、チューブ11の外表面の少なくとも一部に柔軟性のある樹脂コート18を設けている。樹脂コート18は、長手軸の方向に沿って複数の凹凸がチューブ11に形成されるように設けている。樹脂コート18は、例えば、硬化後も柔軟性がある接着剤をチューブ11に塗布することで設けられている。
【0096】
図12は、チューブ11の長手軸に沿って、所定の間隔で複数のひだ形成部材12を設けた例を示している。この構成において、ひだ形成部材12が設けられている部分が谷(凹)5vとなり、隣接する2つのひだ形成部材12の中間が山(凸)5pとなるように、チューブ11およびひだ形成部材12の外表面の適宜の箇所に樹脂コート18を設けている。樹脂コート18は、山5pとなる部分に接着剤を塗布して山となるくせ(山折り目)がつくように硬化し、谷5vとなる部分に接着剤を塗布して谷となるくせ(谷折り目)がつくように硬化することで、設ける。
【0097】
樹脂コート18は、チューブ11およびひだ形成部材12の表面の全体に設けた上で、長手軸の方向に沿って山5pと谷5vとが交互に形成されるようにしてもよい。
【0098】
ただし、実際の人体の大腸は、一定間隔で規則的に山と谷が形成されておらず、不規則性がある。そこで、チューブ11およびひだ形成部材12の表面の、山(凸)5pにする部分および谷(凹)5vにする部分の所々に、樹脂コート18をランダムに設けるとよい。これにより、長手軸の方向に沿って山5pと谷5vとがランダム性を持ちながら形成され、大腸モデル5を、より実際の大腸の形状に近づけられる。
【0099】
こうして長手軸の方向に沿って山5pと谷5vとが形成された大腸モデル5を、挿入部81に設けられた吸引チャンネルにより吸引すると、大腸モデル5がアコーディオン状に短縮して、山5pが外径方向に移動する。また、吸引チャンネルによる吸引を停止すると、大腸モデル5がアコーディオン状に伸張して、山5pが内径方向に移動して自然状態に復帰する。
【0100】
なお、谷5vとなるひだ形成部材12が設けられている部分は、径方向の厚みが、ひだ形成部材12自体の厚みとチューブ11の厚みとの合計となる。これに対し、大腸モデル5の山5pとなる部分の径方向の厚みは、チューブ11の厚みである。このために、谷5vは山5pよりも径方向に移動し難く、吸引/吸引停止を行っても、谷5vである状態を維持できる。
【0101】
ただし、谷5vである状態をより確実に維持するために、上述したショア硬さA10度の範囲内で、ひだ形成部材12の曲げ剛性を、チューブ11の曲げ剛性より大きくしても構わない。
【0102】
さらに、大腸モデル5の長手軸の方向の長さを短縮する操作(短縮操作)を行い、または短縮操作を取り止めた場合にも、吸引/吸引停止と同様に、大腸モデル5がアコーディオン状に伸縮する。
【0103】
ところで、大腸モデル5を使用する際には、術者または術者の補助者などが、使用前に大腸モデル5の内壁に第1の潤滑剤を塗布し、挿入前に内視鏡80の挿入部81の表面に第2の潤滑剤を適宜塗布する。
【0104】
従来は、第1の潤滑剤として、例えば高吸水性高分子の一種であるポリアクリル酸ナトリウムを水と混合したものが用いられていた。
【0105】
これに対して、本実施形態では、第1の潤滑剤として、エンドルブリ(登録商標)とグリセリンとを混合したものを用いる。ここで、エンドルブリ(登録商標)は、グリセリンを10%程度配合し、その他の成分として、水、プロピレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、パラベン、炭酸水素ナトリウムなどを含む医療用潤滑ゼリーである。従って、本実施形態では、従来と異なる第1の潤滑剤を用いている。
【0106】
また、第2の潤滑剤として、エンドルブリ(登録商標)を用いる。
【0107】
大腸モデル5に第1の潤滑剤を塗布し、内視鏡80の挿入部81に第2の潤滑剤を塗布することで、例えば
図7の2欄に示したように、大腸モデル5が挿入部81にまとわりついた状態になり、実際の大腸への挿入時と類似性の高い手感が得られる。
【0108】
このような第1の実施形態によれば、内視鏡検査トレーニング装置1の大腸モデル5を構成するチューブ11を、弾性体素材で形成された第1の層15と、伸び規制素材で形成された第2の層16と、を含む複数の層で形成したために、実際の症例にはあり得ない伸びが起こるのを伸び規制素材により防止できる。
【0109】
さらに、自然状態におけるチューブ11の断面形状が自重により潰れたオーバル形状をなすようにしたために、内視鏡80を挿入したときに、大腸モデル5が挿入部81にまとわりつくように接触する。このために、術者は大腸モデル5に由来する抵抗を常に手元に感じられ、実際の大腸への挿入時と類似性の高い手感が得られる。
【0110】
また、第2の層16の伸び易さが異方性を有し、長手軸の方向よりも長手軸に交わる方向に伸び易くすることで、実際の大腸の伸びの性質に近い大腸モデル5を得られる。
【0111】
第2の層16として伸び易さが異方性を有する網状構造体を用いたために、網状構造体の層に弾性体素材の層を重ねることで、大腸モデル5を容易に製造できる。
【0112】
伸びに抗してチューブ11が発生する反力の増加率が、
図8に示したように、所定の閾値L1未満であるときよりも所定の閾値L1以上であるときの方が大きくなるようにした。このために、内視鏡80をある程度以上押し込むと術者が手元に感じる抵抗が急激に大きくなり、実症例において押し込む力を緩めるべき力量変化をトレーニングにおいて適切に再現できる。
【0113】
チューブ11の表面にひだ形成部材12をさらに固定した場合には、送気していない状態でチューブ11がつぶれすぎるのを防止できる。また、送気した際にチューブ11の特定部分が膨らみ過ぎるのも防止できる。
【0114】
特に、ひだ形成部材12をチューブ11の外表面に固定する場合には、内視鏡80の挿入部81をチューブ11の中空空間に挿入したときに、引っ掛かり難い利点がある。
【0115】
チューブ11のオーバル形状が、自然状態において、長手軸を挟んで対向する内壁の一部と他の一部とが自重により接触するようにした場合には、術者が手元において大腸モデル5から感じる抵抗感が、実際の大腸への挿入時とより高い類似性をもつ。
【0116】
第1の層15を形成する弾性体素材を、JIS K 6253準拠のタイプAデュロメータで計った値が10以下となる曲げ剛性が小さい素材とすることで、自然状態におけるチューブ11の断面のオーバル形状を適切に再現できる。
【0117】
チューブ11の外表面の少なくとも一部に樹脂コート18を設けて、長手軸の方向に沿って複数の凹凸が設けられた形状にチューブ11を形成した場合には、吸引や短縮操作によりチューブ11が軸方向に短縮され易くなり、実際の大腸との類似性がより高い手感を得られる。
【0118】
このとき、ひだ形成部材12が設けられていると、ひだ形成部材12の部分は吸引や短縮操作を行ってもつぶれ難くなるために、ひだ形成部材12の部分が谷5v、隣接する2つのひだ形成部材12の間の部分が山5pとなって、大腸モデル5がよりアコーディオン状に伸縮できる。
【0119】
なお、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明の態様を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。このように、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0120】
1…内視鏡検査トレーニング装置
2…胴体モデル
2a…胴体モデルの一端面
3…腹部カバー
4…肛門モデル
5…大腸モデル
5a…屈曲部
6…末端部
7…胃モデル
8…小腸モデル
9…膵臓モデル
11…チューブ
12…ひだ形成部材
12a…円筒面
13…接着剤
15,15a,15b…第1の層
16…第2の層
18…樹脂コート
80…内視鏡
81…挿入部
81a…先端部