(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125738
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】柱と梁との接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20220822BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220822BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
E04B1/24 L
E04B1/58 508R
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023493
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大林 優
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】網倉 彩乃
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB16
2E125AC15
2E125AC16
2E125AG03
2E125AG57
2E125BB32
2E139AA01
2E139AC33
2E139CA11
2E139CA21
2E139CC01
(57)【要約】
【課題】簡易的な構成で柱と梁をピン接合できる柱と梁との接合構造を提供する。
【解決手段】柱と梁との接合構造は、柱20と、柱20に設けられた台座(ブラケット24)と、台座に転がり支承(支承40)又は滑り支承を介して支持された梁30と、柱20と梁30の上端部とをピン接合する接合部Jと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と、
前記柱に設けられた台座と、
前記台座に転がり支承又は滑り支承を介して支持された梁と、
前記柱と前記梁の上端部とをピン接合する接合部と、
を有する柱と梁との接合構造。
【請求項2】
前記転がり支承は、前記接合部を中心点として描いた円に沿う曲面を備えている、請求項1に記載の柱と梁との接合構造。
【請求項3】
前記梁はトラス梁であり、前記転がり支承は前記トラス梁の上弦材を支持し、前記接合部は前記トラス梁の上弦材の上端部と前記柱とを接合している、請求項1又は請求項2に記載の柱と梁との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、システムトラス構造物を固定骨組に固定するピン支承構造が示されている。このピン支承構造は、システムトラス構造物の荷重を支持すると共に、システムトラス構造物の回転変位を許容している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のピン支承構造は、システムトラス構造物の鉛直荷重を支持するために高剛性とし、かつ、システムトラス構造物の回転変位を許容するために回転機構を備えるものとする必要がある。すなわち、ピン支承構造は、高剛性かつ複雑な構造である。
【0005】
また、このようなピン支承構造は、システムトラス構造物に限らず、例えば長スパンの梁等、鉛直荷重が大きい梁を柱に固定するために用いる場合も、同様に高剛性かつ複雑な構造とする必要がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、簡易的な構成で柱と梁をピン接合できる柱と梁との接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の柱と梁との接合構造は、柱と、前記柱に設けられた台座と、前記台座に転がり支承又は滑り支承を介して支持された梁と、前記柱と前記梁の上端部とをピン接合する接合部と、を有する。
【0008】
請求項1の柱と梁との接合構造では、梁に作用する鉛直荷重は、転がり支承又は滑り支承から台座を介して柱へ軸力として伝達される。
【0009】
一方、梁に発生する曲げモーメントは、梁と柱の台座との間に転がり支承又は滑り支承が設けられているため、柱へ伝達され難い。また、柱と梁の上端部とは接合部においてピン接合されているため、梁は接合部を中心として回転する。
【0010】
このため、曲げモーメントは、接合部からも柱へ伝達され難い。さらに、柱と梁とは接合されているので、柱と梁との相対移動を抑制でき、スラブのひび割れ発生も抑制できる。
【0011】
このように、本態様の柱と梁との接合構造では、柱と梁とをピン接合する接合部を高剛性かつ複雑な構造としなくても、梁に作用する鉛直荷重を柱に伝達し、梁に発生する曲げモーメントを柱に伝達し難いものとすることができる。すなわち、簡易的な構成で柱と梁をピン接合できる。また、これにより、梁と柱の接合構造を経済的に形成できる。
【0012】
請求項2の柱と梁との接合構造は、請求項1に記載の柱と梁との接合構造において、前記転がり支承は、前記接合部を中心点として描いた円に沿う曲面を備えている。
【0013】
請求項2の柱と梁との接合構造では、転がり支承が接合部を中心点として描いた円に沿う曲面を備えている。これにより、梁が接合部を中心として回転した際に、回転抵抗が小さい。このため、接合部に応力が作用し難く、接合部の耐久性が高くなる。
【0014】
請求項3の柱と梁との接合構造は、請求項1又は請求項2に記載の柱と梁との接合構造において、前記梁はトラス梁であり、前記転がり支承は前記トラス梁の上弦材を支持し、前記接合部は前記トラス梁の上弦材の上端部と前記柱とを接合している。
【0015】
請求項3の柱と梁との接合構造では、転がり支承はトラス梁の上弦材を支持し、接合部はトラス梁の上弦材の上端部と柱とを接合している。このため、トラス梁の上弦材と下弦材を柱に固定して、上弦材と下弦材との間の部分が短柱となる構造と比較して、柱に作用するせん断応力を低減できる。
【0016】
本発明によると、簡易的な構成で柱と梁をピン接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造を示した立面図である。
【
図2】(A)は本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造に用いる支承の形状の一例を示した斜視図であり、(B)は別の一例を示した斜視図である。
【
図3】(A)は本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造に用いる支承の配置を変更した変形例を示す立面図であり、(B)は支承を、接合部を中心点として描いた円に沿う曲面を備えた形状とした変形例を示す立面図であり、(C)は支承を滑り支承とした変形例を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0019】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
各図において矢印X、Yで示す方向は水平面に沿う方向であり、互いに直交している。また、矢印Zで示す方向は鉛直方向(上下方向)に沿う方向である。各図において矢印X、Y、Zで示される各方向は、互いに一致するものとする。
【0021】
<建物>
図1には、建物10における柱20と梁30との接合構造が示されている。この柱20と梁30との接合構造は、本発明の柱と梁との接合構造の一例である。
【0022】
<柱と梁との接合構造>
本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造は、柱20、梁30及び支承40を含んで構成されている。
【0023】
(柱)
柱20は、角型鋼管で形成されている。梁30が接合される柱20の仕口部には、ダイアフラム22A、22Bが形成されている。
【0024】
ダイアフラム22Aは上側のダイアフラムであり、梁30が接合されている。ダイアフラム22Bは下側のダイアフラムであり、梁30の鉛直荷重を支持する台座であるブラケット24が接合されている。
【0025】
ブラケット24は、柱20から梁30の延出方向(X方向)に沿って突出したH形鋼である。ブラケット24には、後述する支承40と梁30との接点の下方に位置するスチフナ24Aが形成されている。スチフナ24Aは、ブラケット24の上下フランジ間に架け渡された補強板である。
【0026】
(支承)
ブラケット24の上面には、支承40が固定されている。支承40は鋼製とされ、上側の端面40Aが曲面に沿う形状とされた、転がり支承である。なお、「曲面に沿う形状」とは、梁30の延設方向と直交する方向(Y方向)からみて曲線に沿う形状とされていることを指す。つまり、端面40Aは、X方向に対して曲率を有している。
【0027】
端面40Aの曲面形状は特に限定されるものではないが、梁30の鉛直荷重をブラケット24に伝達するとともに、当該鉛直荷重によって損傷しない程度の支圧耐力を確保できる形状とすることが好ましい。
【0028】
本実施形態においては、
図2(A)に示すように、支承40の端面40Aは、X方向に対して曲率を有し、Y方向に対して曲率を備えない(X方向からみて直線に沿う)形状とされている(所謂二次曲面)。具体的には、端面40Aは、Y方向から見て円弧に沿う形状とされ、曲率は約2000[mm]とされている。また、端面40Aは、円弧の頂点(最も高い部分)を含んで形成されている。
【0029】
なお、本実施形態においては、支承40の端面40Aは、Y方向に対して曲率を備えない形状とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば支承の上面は、
図2(B)に示す支承42の端面42Aのように、X方向及びY方向の双方に対して曲率を有する形状(所謂三次曲面)としてもよい。この場合、端面42Aは球に沿う形状(球座)としてもよいし、任意の局面に沿う形状としてもよい。
【0030】
図2(A)に示す支承40の端面40Aは、後述する梁30の上弦材32の下面が滑り易いように平滑度が調整されている。本実施形態においては、一例として、端面40Aの表面粗さが250[μm]とされている。また、錆の発生を抑制するため、端面40Aには防錆剤が塗布されている。
【0031】
(梁)
図1に示す柱20と、紙面右側の図示しない柱との間には、梁30が架け渡されている。梁30はH形鋼を組み付けて形成されたトラス梁である。梁30は、上弦材32、下弦材34及び斜材36を備えて形成されている。
【0032】
梁30は、建物10においてトラス梁ではない他の梁(例えば柱20において梁30の反対側に架設された梁50)と比較して長尺とされている。このため、梁30には、梁50等と比較して大きな鉛直荷重が作用する。
【0033】
ここで、梁30は、柱20に鉛直荷重を伝達する一方、梁30に作用する曲げモーメントを伝達し難い接合形式で接合されることが好ましい。このため、梁30は、柱20にピン接合されている。
【0034】
具体的には、梁30の鉛直荷重は、上弦材32と柱20のブラケット24との間に配置された支承40を介して、柱20へ伝達される。一方、上弦材32の下面と支承40の端面40Aとは接合されていないため、上弦材32と支承40との間では、水平力が伝達され難い。なお、上弦材32には、支承40との接点の上方に位置するスチフナ32Aが形成されている。
【0035】
また、梁30における上弦材32の上端に配置されたフランジ32Bの端部(X方向の端部)が、柱20のダイアフラム22Aに突合せ溶接されている(接合部J)。また、上弦材32における下フランジは、柱20に接合されていない。これにより、接合部Jにおいて、柱20と梁30とがピン接合される。
【0036】
この接合部Jにおいては、柱20と梁30との間で水平力を伝達できる。このため、地震時に建物10に作用する水平力に対して、柱20と梁30とは同調して動く。また、柱20と梁30との間で曲げモーメントは伝達されない。このため、地震時又は平常時に柱20又は梁30に曲げモーメントが作用した場合、梁30は、柱20に対して接合部Jを中心として回転する。
【0037】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造では、
図1に示すように、梁30に作用する鉛直荷重は、転がり支承である支承40から台座としてのブラケット24を介して柱20へ軸力として伝達される。
【0038】
一方、梁30に発生する曲げモーメントは、梁30と支承40とが接合されていないため、支承40から柱20へ伝達され難い。また、柱20と梁30の上端部とは、接合部Jにおいてピン接合されているため、梁30は接合部Jを中心として回転する。このため、曲げモーメントは、接合部Jからも柱へ伝達され難い。
【0039】
さらに、柱20と梁30とは接合されているので、柱20と梁30との相対移動を抑制でき、
図1に二点鎖線で表したスラブSのひび割れ発生も抑制できる。また、スラブ等の躯体施工時における振れ止め効果を得られる。
【0040】
なお、接合部Jでは、柱20のダイアフラムと梁30とが突合せ溶接されている。このように、柱20と梁30との接合部Jを「鉛直荷重を負担しないピン接合」とすることで、「鉛直荷重を負担する剛接合」と比較して、構成を簡略化できる。
【0041】
「鉛直荷重を負担する剛接合」では、例えば
図1に示す梁50と柱20の接合部のように、柱20にブラケット26を接合し、このブラケット26と梁50とを、スプライスプレート52等を用いて接合する。このため施工手間がかかる。
【0042】
また、接合部Jを「鉛直荷重を負担しないピン接合」とすることで、「鉛直荷重を負担するピン接合」と比較して、構成を簡略化できる。
【0043】
「鉛直荷重を負担するピン接合」では、梁の柱に対する回転を許容する軸部を形成する一方で、梁の鉛直荷重を支持するための剛性を備える必要があり、ピン接合を形成するための部材が、高剛性かつ複雑な構造となる。
【0044】
このように、本実施形態の柱20と梁30との接合構造では、柱20と梁30とをピン接合する接合部を高剛性かつ複雑な構造としなくても、梁30に作用する鉛直荷重を柱20に伝達し、梁30に発生する曲げモーメントを柱20に伝達し難いものとすることができる。すなわち、簡易的な構成で柱20と梁30をピン接合できる。また、これにより、柱20と梁30との接合構造を経済的に形成できる。
【0045】
また、本発明の実施形態に係る柱と梁との接合構造では、支承40は、トラス梁である梁30の上弦材32を支持し、接合部Jは上弦材32の上端部と柱20とを接合している。このため、梁30の上弦材32と下弦材34とを柱20に固定して、上弦材32と下弦材34との間の部分が短柱となる構造と比較して、柱20に作用するせん断応力を低減できる。
【0046】
なお、「短柱」とは、接合される梁や腰壁、垂れ壁などの上下方向の間隔がその他の柱と比較して短く、応力が集中し易い柱のことを指す。
【0047】
<その他の実施形態>
上記の実施形態においては、ブラケット24の上面に支承40を固定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば
図3(A)に示すように、支承40は、梁30における上弦材32の下面に固定してもよい。この場合、支承40の端面40Aは、ブラケット24の上面と接触して配置される。
【0048】
ブラケット24の上面には、支承40が固定されている。支承40は鋼製とされ、端面40Aが曲面に沿う形状とされた、転がり支承である。
【0049】
また、本発明の実施形態に係る支承は、
図3(B)に示す支承44のように、接合部Jを中心点として描いた任意の半径rの円Rに沿う曲面を備えた支承としてもよい。具体的には、例えば上弦材32の下面に、円Rに沿う下側に凸の曲面を備えた上側支承44Aを固定する。また、ブラケット24の上面に、円Rに沿う下側に凸の曲面(上方から下方へ凹んだ曲面)を備えた下側支承44Bを固定する。
【0050】
これにより、梁30が接合部Jを中心として回転した際に、回転抵抗が小さい。このため、接合部Jに応力が作用し難く、接合部Jの耐久性が高くなる。
【0051】
また、本発明の実施形態に係る支承は、
図3(C)に示す支承46のように、滑り支承としてもよい。具体的には、例えば上弦材32の下面に、滑り材46Aを固定する。また、ブラケット24の上面に、滑り板46Bを固定する。
【0052】
これにより、支承とブラケット24との間で水平力の伝達し難くすることができる。なお、ブラケット24の上面を研磨又は塗装することなどにより平滑性を高めれば、滑り板46Bを省略することもできる。また、滑り材46A滑り板46Bとは、上下の配置を入れ替えてもよい。
【0053】
また、本実施形態においては、梁がトラス梁である梁30とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。すなわち、梁は1本のH形鋼を柱20に架け渡したものとしてもよい。
【符号の説明】
【0054】
20 柱
24 ブラケット(台座)
30 梁(トラス梁)
32 上弦材
40 支承(転がり支承)
42 支承(転がり支承)
44 支承(転がり支承)
46 支承(滑り支承)
J 接合部