(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125770
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】加泥材
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20220822BHJP
E21D 9/093 20060101ALI20220822BHJP
E21D 9/13 20060101ALI20220822BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20220822BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220822BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
E21D9/06 301M
E21D9/093 F
E21D9/13 B
C08L33/02
C08K3/08
C08K5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023547
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 志照
(72)【発明者】
【氏名】武田 厚
【テーマコード(参考)】
2D054
4J002
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054FA05
2D054GA10
4J002BG011
4J002DE136
4J002EF026
4J002FD156
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】安定性が高い材料を用いた加泥材。
【解決手段】アクリルアミド、及びアクリル酸ナトリウムから選択される少なくともいずれかをモノマー単位として含む重合体と、有機チタン化合物と、を含有する加泥材であり、前記重合体が、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー単位として含む共重合体であることが好ましく、前記重合体と、前記有機チタン化合物との質量比(重合体:有機チタン化合物)が、1:0.1~1:3であることがより好ましく、前記有機チタン化合物が、チタンラクテートであることが更に好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド、及びアクリル酸ナトリウムから選択される少なくともいずれかをモノマー単位として含む重合体と、有機チタン化合物と、を含有する加泥材。
【請求項2】
前記重合体が、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー単位として含む共重合体である請求項1に記載の加泥材。
【請求項3】
前記重合体と、前記有機チタン化合物との質量比(重合体:有機チタン化合物)が、1:0.1~3である請求項1または2に記載の加泥材。
【請求項4】
前記有機チタン化合物が、チタンラクテートである請求項1から3のいずれか一項に記載の加泥材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加泥材に関する。
【背景技術】
【0002】
地中にトンネルを建設する工法として、地中を掘削しながらトンネルの壁を建設するシールド工法がある。シールド工法の一種として、掘削土を塑性流動化させて泥土化して、掘削するカッターの切羽を安定させる泥土圧シールド工法があり、様々な場所で行われている。
【0003】
泥土圧シールド工法を細粒分の少ない砂礫土に対して施す場合、一般的には、掘削土を塑性流動化させるためにベントナイト等の粘土を添加しつつ気泡及び高分子を併用して掘削を進めることが行われる。しかしながら、ベントナイトを混合させた土砂は、産業廃棄物として扱われるため、処分費用が高額になるという問題がある。このため、ベントナイトを用いずに掘削土を塑性流動化させる試みが行われてきた。
【0004】
ベントナイトを用いない方法として、グアガムとホウ砂とを含む加泥材を掘削土に混合して、掘削土を塑性流動化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、グアガム溶液は腐食する性質があるため、工事現場において保管すると臭気が発生することがある。また、グアガム溶液は、長期保存すると粘度が下がり、加泥材の材料としての適性が低くなることがある。このため、グアガムを用いた加泥材は、用いることができる場面が限られていた。
【0007】
本発明は、安定性が高い材料を用いた加泥材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、安定性が高い材料として、ポリアクリルアミドとポリアクリル酸ナトリウムとに注目した。これらは、安定性が高く、腐食性がほとんどないことが知られている。そして、その構造から、架橋構造を生成し、加泥材として用いることができると考えた。
【0009】
具体的には、本発明の一実施態様は、アクリルアミド、及びアクリル酸ナトリウムから選択される少なくともいずれかをモノマー単位として含む重合体と、有機チタン化合物と、を含有する加泥材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定性が高い材料を用いた加泥材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(加泥材)
本発明の加泥材は、重合体と有機チタン化合物とを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
アクリルアミド、及びアクリル酸ナトリウムから選択される少なくともいずれかをモノマー単位として含む重合体と、有機チタン化合物とを組み合わせることで、重合体と有機チタン化合物との間で架橋構造が生成される。この架橋構造が、三次元の網目構造を形成し、網目構造の内部に水などの溶媒を内包したゲルとなる。加泥材がゲル化することで、掘削土に組成流動性をもたせることができる。
【0012】
<重合体>
重合体としては、アクリルアミド、及びアクリル酸ナトリウムから選択される少なくともいずれかをモノマー単位として含む重合体であり、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー単位として含む共重合体であることが好ましい。ここで、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー単位として含む共重合体とは、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを重合させた共重合体(以下、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体とも称する)のことを指す。
【0013】
アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体におけるアクリルアミドの割合としては、共重合体全体に対して、60%~80%が好ましい。共重合体におけるアクリルアミドの割合が60%~80%であると、効果的に土壌を塑性流動化できる。
【0014】
重合体としては、適宜合成したものでも、市販品を用いてもよい。
市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、TACスルー(アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体、販売会社名:株式会社タック)、SP-14(アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体、販売会社名:株式会社立花マテリアル、SP-NL(アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体、販売会社名:株式会社立花マテリアルなどが挙げられる。
【0015】
重合体の含有量としては、後述の質量比を満たす限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加泥材全体に対して、20質量%~95質量%が挙げられる。
【0016】
<有機チタン化合物>
有機チタン化合物としては、重合体と架橋構造をつくることができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チタンを中心金属とする錯体が挙げられる。チタンを中心金属とする錯体の配位子としては、例えば、トリエタノールアミン、乳酸などが挙げられる。
有機チタン化合物の具体例としては、チタントリエタノールアミネート、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用しても、2種以上を使用してもよい。これらの中でも、重合体との反応性が良好である点から、チタンラクテートが好ましい。
【0017】
有機チタン化合物の含有量としては、後述の質量比を満たす限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加泥材全体に対して、5質量%~80質量%が挙げられる。
【0018】
<<質量比(重合体:有機チタン化合物)>>
重合体と有機チタン化合物との質量比(重合体:有機チタン化合物)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、架橋反応の反応性の点から、1:0.1~1:3が好ましく、1:0.4~1:1がより好ましい。重合体と有機チタン化合物との質量比がこの範囲内であると、加泥材として適切な架橋密度となる。
【0019】
<その他の成分>
その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合体を合成する際に用いられる溶媒などが挙げられる。
その他の成分の含有量としては、加泥材の性能を阻害するものではない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。
【0020】
<加泥材の製造方法>
加泥材の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、重合体の溶液と有機チタン化合物の溶液とを混合する方法が挙げられる。
加泥材を製造する際の重合体の溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5質量%~2質量%が好ましい。
加泥材を製造する際の有機チタン化合物溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20質量%~40質量%が好ましい。
【0021】
<土壌の塑性流動化方法>
土壌を塑性流動化する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、以下の手順により行うことができる。
【0022】
<<手順1:注入率の決定>>
注入率とは、掘削土壌の体積に対する加泥材の体積の割合を意味する(注入率の単位:%)。注入率としては、掘削土壌の組成、掘削土壌の粒度、及び加泥材を混合した土砂(混合土とも称する)の塑性流動性の程度などに応じて適宜選択することができるが、5%~60%が好ましい。
【0023】
<<手順2:重合体溶液の濃度決定>>
手順1において決定した注入率に基づき、重合体溶液の濃度を決定する。重合体溶液の濃度は、掘削土壌の組成、掘削土壌の粒度、及び加泥材を混合した土砂(混合土とも称する)の塑性流動性の程度などに応じて適宜選択することができるが、0.5質量%~2.0質量%が好ましい。
【0024】
<<手順3:有機チタン化合物の濃度の決定>>
重合体の量に対して、前述のような質量比となるように有機チタン化合物の濃度を決定する。
なお、有機チタン化合物の量の決定に際しては、混合土のブリーディング率を検討することが好ましい。ブリーディング率は、「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(ポリエチレン袋方法)」(JSCE-F522-2007)の手順をアレンジした方法に基づいて行うことができる。混合土のブリーディング率が3%以下の場合、本発明の加泥材の配合として採用できる。
【実施例0025】
以下、開示の技術の実施例を説明するが、開示の技術は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0026】
(実施例1-1)
水500mLを攪拌機(スリーワンモータ、東京硝子器械株式会社製)により攪伴しながら、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー単位として含む重合体(1質量%、TACスルー、販売会社名:株式会社タック)、及び有機チタン化合物としてのチタントリエタノールアミン(30質量%、TC-400、マツモトファインケミカル株式会社製)を、重合体と有機チタン化合物との質量比が1:0.2になるように添加し、有機チタン化合物が完全に溶解するまで撹拌を行い、加泥材を調製した。
【0027】
(実施例1-2~1-21、比較例1-1、1-2)
実施例1-1において、重合体と有機チタン化合物の種類及び量を表1にした以外は、実施例1-1と同様にして、実施例1-2~1-21、及び比較例1-1、1-2の加泥材を調製した。
【0028】
実施例1-2~1-21、比較例1-1、1-2の加泥材がゲル化したかどうかについて、加泥材を容器(容器のサイズ:500mL)に入れた。このとき、液面と容器の縁までの距離は4cmであった。この容器を45°に傾け、傾けて5秒間後のときの加泥材表面の位置(加泥材の流動性を表す)を目視にて観察し、下記評価基準に基づき、評価した。結果を表1に示す。
―評価基準―
◎:ゲル化剤(有機チタン化合物)の添加前に比べ、容器を傾けたときの流動性の低下が著しい。加泥材の先端は、容器の縁から2cm以上離れた場所にある
○:ゲル化剤(有機チタン化合物)の添加前に比べ、容器を傾けたときの流動性の低下を目視で認識できる。加泥材は容器からこぼれないが、容器の縁から2cm未満に加泥材の先端が到達する
×:ゲル化剤(有機チタン化合物)の添加前に比べ、容器を傾けたときの流動性の低下が目視で認識できない。加泥材が容器からこぼれる
【0029】
【0030】
実施例において用いた試薬は、以下のとおりである。
<<重合体>>
・SP-14(アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合させた共重合体。アクリル酸アミド:アクリル酸ナトリウム=30質量%:70質量%、販売会社名:株式会社立花マテリアル社)
・SP-NL(アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとを共重合させた共重合体。アクリル酸アミド:アクリル酸ナトリウム=30質量%:70質量%、販売会社名:株式会社立花マテリアル社)
<<有機チタン化合物>>
・TC-310(乳酸を配位子とするチタン錯体(チタンラクテート)、マツモトファインケミカル株式会社製)
【0031】
表1から明らかなように、重合体と有機チタン化合物の混合物である実施例1-1~1-21は、ゲル化させることが可能であった。これに対し、重合体又は有機チタン化合物のいずれかが欠けている比較例1-1、1-2は、ゲル化しなかった。
【0032】
本発明の加泥材を実際の土壌に混合した際に、土壌を固めることができるかどうかについてモデル土壌を用いて試した。
【0033】
(実施例2-1)
模擬試料土A(含水比20%、Fc11%)1Lに対し、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとをモノマー成分として含む共重合体(TACスルー)を1%含有する溶液を150mL(模擬試料土に対して15%)添加し、ソイルミキサー(ニッケン株式会社製)により3分間混合した。その後、有機チタン化合物としてのチタンラクテート(TC-310)を5mL(実質量は0.15g)添加し、ソイルミキサーにより3分間混合することにより、実施例2-1の加泥材を含有する試料土を得た。
なお、上記Fcとは、細粒分含有率であり、土の質量のうち、粒径75μm未満の土粒子の質量の割合を指した値である。
【0034】
(実施例2-2~実施例2-8、比較例2-1~2-3)
実施例2-1において、重合体及び有機チタン化合物の種類及び量を表2に示すように変更した以外は、実施例2-1と同様にして、加泥材を含有する試料土を得た。
なお、表2中の模擬試料土Bは、含水比12.3%~16.3%、Fc4.0%である。
【0035】
【0036】
加泥材を含有する試料土(以下、「試料土」と略記する)が固まったかどうかについて、ミニスランプ、及びテーブルフローを用いて、下記評価基準に基づき、評価した。評価結果を表3に示した。
【0037】
<ミニスランプ試験>
ミニスランプ試験を、JIS A 1171:200に基づき行った。スランプコーン(上端内径50mm×下端内径100mm×高さ150mm、株式会社マルイ製)に試料土をすりきり入れ、スランプ板(300mm×300mm×厚さ3mm)にかぶせ、スランプコーンを外し、広がった距離を測定した。
【0038】
<テーブルフロー試験>
テーブルフロー試験は、「セメントの物理試験方法」(JIS R5201)の「12 フロー試験」(http://kikakurui.com/r5/R5201-2015-01.html)に準じて行った。具体的には、試料土をフローテーブルの中央に置いたフローコーンに2層に分けて詰めた。突き棒により各層の全面を各々15回突き、必要に応じて試料土を補い表面を均した。その後直ちにフローコーンを垂直方向に取り去り、15秒間に15回の落下運動を与え、試料土が広がった後の最大径と、最大径に直角な方向に延びる経を測定し、2値の平均値を算出した。試験は2回行い、その平均値をテーブルフローの値とした。
【0039】
―評価基準―
〇:ミニスランプ試験の結果が2cm~6cmであり、かつテーブルフロー試験の結果が105mm~140mm
×:ミニスランプ試験の結果が2cm~6cmを満たさない、又はテーブルフロー試験の結果が105mm~140mmを満たさない
【0040】
【0041】
本発明の加泥材を用いた実施例2-1~2-8は、判定が「〇」となり、土壌(砂礫)を塑性流動状態にすることができた。これに対し、重合体を用いない比較例2-1~2-3は、土壌を塑性流動状態にすることができなかった。
以上のことから、本発明の加泥材は、砂礫を塑性流動状態することができ、腐食性のない材料を用いているため、長期にわたり使用することができる。