(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125791
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】クレーン装置
(51)【国際特許分類】
B66C 13/23 20060101AFI20220822BHJP
B66D 1/54 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
B66C13/23 G
B66D1/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023579
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋本 剛志
(72)【発明者】
【氏名】林 裕隼
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA02
3F204CA05
3F204FA04
3F204FB05
3F204FB17
3F204FC01
3F204FD02
(57)【要約】
【課題】インバータ制御のモータを備えたクレーン装置であって、モータへの駆動電力の供給を遮断するためのリレースイッチ、およびインバータ装置の異常を、簡便に検出することができるクレーン装置を提供する。
【解決手段】クレーン装置は、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給と遮断の切り替えを制御するリレースイッチ56を備える。また、インバータ41からモータ40に駆動電力を供給する駆動回路の電圧を検出する電圧監視部60を備える。モータ40が運転されて支持具が運動している状態において、指令部50が支持具の運動を停止させる停止指令を発すると、リレースイッチ56がインバータ41からモータ40への駆動電力の供給を遮断させ、停止指令の発生から基準時間が経過した時に、電圧監視部60で検出される電圧が、基準電圧を下回っていない場合に、制御部70が、ブレーキ44によってモータ40の運転を緊急停止させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送対象物を支持する支持具と、
前記支持具を運動させるモータと、
前記モータの回転を停止させるブレーキと、
電源回路から入力された電源電力を、駆動電力に変換して、駆動回路から前記モータに供給するインバータと、
前記支持具の運動に関する指令を発することができる指令部と、
前記指令部からの指令に基づき、前記インバータから前記モータへの前記駆動電力の供給と遮断の切り替えを制御するリレースイッチと、
前記駆動回路の電圧を検出する電圧監視部と、
前記電圧監視部で検出された電圧に基づいて、前記ブレーキを制御して、前記モータの運転を緊急停止させることができる制御部と、を有し、
前記モータが運転されて前記支持具が運動している状態において、前記指令部が前記支持具の運動を停止させる停止指令を発すると、前記リレースイッチが前記インバータから前記モータへの前記駆動電力の供給を遮断させ、
前記停止指令の発生から基準時間が経過した時に、前記電圧監視部で検出される電圧が、基準電圧を下回っていない場合に、前記制御部が、前記ブレーキによって前記モータの運転を緊急停止させる、クレーン装置。
【請求項2】
前記基準時間と前記基準電圧の関係は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令の発生から前記基準時間が経過する前に、前記電圧監視部で検出される電圧が、前記基準電圧を下回るように定められている、請求項1に記載のクレーン装置。
【請求項3】
前記インバータへの前記電源電力の入力を停止した際に、
前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令が発せられた際に、前記駆動回路における電流の低下が、電圧の低下よりも遅く開始され、
前記基準時間は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令の発生後、前記駆動回路における電流の低下が開始されるよりも短い時間に定められている、請求項1または請求項2に記載のクレーン装置。
【請求項4】
前記基準時間は、2秒以内に設定されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のクレーン装置。
【請求項5】
前記基準電圧は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記支持具の運動速度が、前記停止指令が発せられる前の70%以上90%以下となる際の前記駆動回路の電圧として設定されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のクレーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン装置に関し、さらに詳しくは、緊急停止機能を備えたクレーン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天井走行式クレーン等のクレーン装置において、モータに駆動電力を供給する経路に電磁接触器(コンタクタ)が設けられ、クレーン装置の運動の駆動/停止の切り替えに伴って、電磁接触器を開閉するように構成される場合がある。また、電磁接触器以外にも、クレーン装置の運動の駆動/停止の切り替えを制御する回路の途中に、リレースイッチ等の有接点開閉器が設けられる場合がある。電磁接触器やリレースイッチ等の有接点開閉器においては、接点の開閉を繰り返すうちに、開閉動作がスムーズに行われなくなって、接点部で放電が起こり、接点部に溶着が生じる場合がある。接点部の溶着が起こると、それら有接点開閉器を開閉制御することができなくなる。開状態とすることでクレーン装置の運転を停止する有接点開閉器の接点部に溶着が起こると、クレーン装置の運動が駆動されたままの状態となり、通常の方法では停止させられなくなる。クレーン装置の運動中に有接点開閉器の溶着が起こると、操作者がコントローラ等から運動の停止を指令しても、クレーン装置の運動を実際に停止することができなくなる。
【0003】
有接点開閉器において接点部の溶着が起こった際に、即座に溶着の発生を検知することができれば、モータを緊急停止させる等して、クレーン装置の破損や事故の発生を防止することができる。クレーン装置等に備えられる電磁接触器において、溶着を検出することができる故障検出装置が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1の故障検出装置においては、電源と負荷(モータ)とを接続する駆動回路に配設し、負荷に流れる電流を検出して負荷電流信号を発する負荷電流検出手段と、電磁接触器の操作回路に配設し、電磁接触器のコイルに流れる電流を検出して励磁電流信号を発する励磁電流検出手段と、負荷電流検出手段の発する負荷電流信号と励磁電流検出手段の発する励磁電流信号を比較し、電磁接触器の溶着を検出する電磁接触器の溶着検出手段が設けられる。溶着検出手段においては、励磁電流検出手段から励磁電流信号が発せられていないにもかかわらず、負荷電流検出手段から負荷電流信号が検出時差以上発せられている場合に、電磁接触器が溶着していると判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電源からモータに電力を供給する経路に、電磁接触器やリレースイッチ等の有接点開閉器が備えられたクレーンにおいて、特許文献1に記載されるように、実際にモータに流れる電流と、有接点開閉器を開閉制御するための励磁電流とを比較することで、溶着を検出することは可能である。しかし、この場合には、2か所の電流値を相互に比較する必要がある。よって、特許文献1の負荷電流検出手段と励磁電流検出手段、溶着検出手段を一体に備えた故障検知装置として市販されているものを使用することなく、任意の既存のクレーン装置において、同様の原理で溶着検出を行えるシステムを構築しようとすれば、構成が複雑になる可能性がある。
【0006】
クレーン装置としては、モータに駆動電力を供給する電源装置をインバータ装置とした形態のものも用いられている。この形態において、モータに駆動電力を供給する経路に電磁接触器を設ける必要はないが、インバータを介して、モータの運転の駆動/停止の切り替えを行う制御回路の途中に、リレースイッチが設けられることが多い。特許文献1の構成では、モータに流れる電流を溶着検出の指標として用いる必要があるが、モータに駆動電力を供給する電源装置がインバータ装置である場合には、モータを停止させる際に、モータの停止が指令されてから、実際にモータに流れる電流が低下し始めるまでに、比較的長い遅延が生じる場合が多い(
図4(a)参照)。すると、モータに流れる電流が検出時差以上にわたって観測された場合に、正常にリレースイッチおよびインバータ装置が機能している状況で、上記の遅延のために電流値の低下が遅くなっているのか、あるいはリレースイッチの溶着やインバータ装置の故障等の異常が発生したことでモータへの電力供給を停止できなくなっているのかを判別するのに、時間を要することになる。よって、市販品の故障検知装置を用いるとしても、特許文献1のようにモータに流れる電流を指標として、有接点開閉器の溶着等の異常を検出する形態は、クレーン装置に備えられるモータがインバータ制御のものである場合には採用しにくい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、インバータ制御のモータを備えたクレーン装置であって、モータへの駆動電力の供給を遮断するためのリレースイッチ、およびインバータ装置の異常を簡便に検出することができるクレーン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のクレーン装置は、搬送対象物を支持する支持具と、前記支持具を運動させるモータと、前記モータの回転を停止させるブレーキと、電源回路から入力された電源電力を、駆動電力に変換して、駆動回路から前記モータに供給するインバータと、前記支持具の運動に関する指令を発することができる指令部と、前記指令部からの指令に基づき、前記インバータから前記モータへの前記駆動電力の供給と遮断の切り替えを制御するリレースイッチと、前記駆動回路の電圧を検出する電圧監視部と、前記電圧監視部で検出された電圧に基づいて、前記ブレーキを制御して、前記モータの運転を緊急停止させることができる制御部と、を有し、前記モータが運転されて前記支持具が運動している状態において、前記指令部が前記支持具の運動を停止させる停止指令を発すると、前記リレースイッチが前記インバータから前記モータへの前記駆動電力の供給を遮断させ、前記停止指令の発生から基準時間が経過した時に、前記電圧監視部で検出される電圧が、基準電圧を下回っていない場合に、前記制御部が、前記ブレーキによって前記モータの運転を緊急停止させる。
【0009】
ここで、前記基準時間と前記基準電圧の関係は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令の発生から前記基準時間が経過する前に、前記電圧監視部で検出される電圧が、前記基準電圧を下回るように定められているとよい。
【0010】
前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令が発せられた際に、前記駆動回路における電流の低下が、電圧の低下よりも遅く開始され、前記基準時間は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令の発生後、前記駆動回路における電流の低下が開始されるよりも短い時間に定められているとよい。
【0011】
前記基準時間は、2秒以内に設定されているとよい。前記基準電圧は、前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記支持具の運動速度が、前記停止指令が発せられる前の70%以上90%以下となる際の前記駆動回路の電圧として設定されているとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかるクレーン装置においては、リレースイッチの溶着やインバータの故障等の異常によって、インバータからモータへの駆動電力の供給を遮断できなくなると、指令部から停止指令が発せられても、インバータからモータに駆動電力が供給され続けることになり、電圧監視部によって検出される電圧も低下しなくなる。あるいは低下が遅くなる。そこで、基準時間が経過した際に、電圧監視部によって検出される電圧が基準電圧を下回らないことをもって、リレースイッチの溶着やインバータの故障等の異常が起こっていることを、検知することができる。この際、インバータからモータに駆動電力を供給する駆動回路に、電圧を計測できる電圧監視部を設け、計測された電圧を基準電圧と比較できるようにするという簡素な構成だけで、リレースイッチの溶着やインバータの故障等の異常を監視することができるようになる。また、モータをインバータで駆動する場合に、インバータに電力の出力の停止が指令された際に、インバータから出力される電圧は、電流よりも早期に低下を始める傾向があるため、駆動回路の電流ではなく電圧を検出することで、インバータを用いる形態においても、リレースイッチの溶着やインバータ自体の故障等の異常が生じているか否かの判定を、短い遅延時間で、また正確に行うことが可能となる。
【0013】
ここで、基準時間と基準電圧の関係が、リレースイッチおよびインバータが正常に動作している状態において、停止指令の発生から基準時間が経過する前に、電圧監視部で検出される電圧が、基準電圧を下回るように定められている場合には、リレースイッチおよびインバータが正常に動作している状態と、リレースイッチの接点部の溶着やインバータの故障等の異常によって、モータへの駆動電力の供給を遮断できなくなっている状態とを、明確に区別することができる。
【0014】
前記リレースイッチおよび前記インバータが正常に動作している状態において、前記停止指令が発せられた際に、駆動回路における電流の低下が、電圧の低下よりも遅く開始され、基準時間が、リレースイッチおよびインバータが正常に動作している状態において、停止指令の発生後、駆動回路における電流の低下が開始されるよりも短い時間に定められている場合には、リレースイッチおよびインバータの異常の有無の判定に、駆動回路の電圧を指標として用いることで、電流を指標とする場合には達成しえない短い検知時差で、溶着の発生を検知することができる。
【0015】
基準時間が、2秒以内に設定されている場合には、リレースイッチの接点部の溶着等、インバータからモータへの駆動電力の供給を遮断できなくなる異常が発生した状態で、停止指令を発した後、短い検知時差で溶着を検知し、モータの回転および支持具の運動を緊急停止させることになる。そのため、停止指令を発したにもかかわらず支持具が運動し続ける時間および距離を短くすることができ、意図しない支持具の運動による影響を小さく抑えることができる。
【0016】
基準電圧が、リレースイッチおよびインバータが正常に動作している状態において、支持具の運動速度が、停止指令が発せられる前の70%以上90%以下となる際の駆動回路の電圧として設定されている場合は、停止指令を発した後、短い検知時差で、リレースイッチおよびインバータの異常を検知できるとともに、誤検知を抑えて、高精度に検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるクレーン装置の構成を示す概略図である。
【
図2】上記クレーン装置の駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)モータ電圧と(b)リモコンからの指令信号の時間変化を示す模式図である。モータ電圧については、正常時を実線で、溶着発生時を破線で示している。
【
図4】(a)モータ電流および(b)モータ電圧の時間変化を実測した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態にかかるクレーン装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明のクレーン装置は、搬送対象物を支持した支持具を、モータの回転によって運動させられるものであれば、特にその種類を限定されるものではない。以下では、クレーン装置が天井走行式クレーンである場合を例に、説明を行う。
【0019】
[クレーン装置の概略]
図1に、本発明の一実施形態にかかるクレーン装置1の構成を示す。本実施形態にかかるクレーン装置1は、天井走行式クレーンであり、工場等の建屋の天井に設けられたレール(図略)上を、車輪11によって走行可能な走行体10を有している。また、走行体10の上面には、レール(図略)が設けられており、台車20が車輪21によって走行可能となっている。台車20には、モータ40を有する巻き揚げ装置22が搭載されている。
【0020】
台車20からは、ワイヤーロープ23を介して、柱状のマスト24が垂下されている。マスト24の下端には、搬送対象物を支持して運搬するための支持具として、フック30が取り付けられている。
【0021】
ワイヤーロープ23は、滑車25を介して、巻き揚げ装置22によって、繰り出しおよび巻き取り可能となっている。モータ40を一方向に回転させて、ワイヤーロープ23を巻き揚げ装置22から繰り出すことで、フック30が下降する。一方、モータ40を他方向に回転させて、ワイヤーロープ23を巻き揚げ装置22に巻き取ることで、フック30が上昇する。
【0022】
クレーン装置1において、フック30にて搬送対象物を支持した状態で、巻き揚げ装置22のモータ40を回転させることで、フック30が上昇し、搬送対象物が空中で支持される。その状態で、天井面に対する走行体10の移動、また走行体10に対する台車20の移動を駆動することで、搬送対象物を移動させることができる。クレーン装置1には、指令部としてのリモートコントローラ(リモコン)50が備えられており、それらの各方向へのフック30の運動を、リモコン50を介して操作者が指令することができる。リモコン50は、各方向へのフック30の運動に対応するボタン51を備えている。所定の方向へのフック30の運動に対応するボタン51を操作者が押し続けている間、その方向にフック30が運動し、ボタン51の押し下げをやめると、フック30の運動が停止する。
【0023】
[クレーン装置の駆動制御部]
次に、上記クレーン装置1において、フック30の運動を駆動し、制御する駆動制御部の構成について説明する。以下では、フック30の運動のうち、巻き揚げ装置22による昇降運動を駆動・制御する駆動制御部を例として説明を行うが、天井面に対する走行体10の移動、また走行体10に対する台車20の移動によるフック30の水平運動を駆動・制御する駆動制御部としても、同様の構成を適用することができる。
【0024】
図2に、クレーン装置1の駆動制御部の構成をブロック図として示す。上記のように、クレーン装置1の巻き揚げ装置22はモータ40を有しており、リモコン50を介した指令を受けて、モータ40を回転させることで、フック30を昇降させることができる。
図2においては、電源系統を太線、制御系統を細線、無線信号を破線で表示している。
【0025】
本クレーン装置1において、モータ40はインバータ制御されており、インバータ41より駆動電力を供給される。インバータ41は、電源部42から電源回路45を介して供給された直流の電源電力を、周波数可変の交流よりなる駆動電力に変換して、駆動回路46からモータ40に供給する。電源部42は、例えば、コンバータ回路を含み、商用電源等の交流を直流に変換するものとして構成される。電源部42への入力回路の途中には、メインスイッチ43が設けられている。メインスイッチ43は、平常時は閉状態とされているが、異常が発生した際には、制御部70からの制御信号により、開状態とされ、電源部42への電源電力の供給を遮断することができる。
【0026】
モータ40にはブレーキ44が備えられる。ブレーキ44は、モータ40を緊急停止させることができる機構である。電磁ブレーキ等、モータ40の軸回転を停止させる公知の機構として、ブレーキ44を構成することができる。
【0027】
リモコン50からの指令は、無線受信盤55およびリレースイッチ56を介して、シーケンサ等よりなる制御部70に伝達される。無線受信盤55は、リモコン50からボタン51の操作によって送信される無線信号を電気信号に変換し、リレースイッチ56に出力する。つまり、リモコン50において、操作者がボタン51を押し下げ、フック30の上昇または下降を指示している間、リモコン50から指令信号が無線信号として送信され続け、無線受信盤55は、その指令信号を受信している間、制御信号を出力し続ける。一方、操作者がボタン51の押し下げをやめると、リモコン50から指令信号の送信が停止され、無線受信盤55からの制御信号の出力も停止される。なお、本実施形態においては、フック30の運動を指令するリモコン50からの指令信号の送信の停止をもって、フック30の運動の停止を指令する停止指令とみなすが、停止指令にあたる信号が別途リモコン50から送信される形態としてもよい。
【0028】
リレースイッチ56は、無線受信盤55からの制御信号の入力に応じて、制御部70を介して、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給と遮断の切り替えを制御することができる。リレースイッチ56に無線受信盤55から制御信号が入力されている間のみ、リレースイッチ56が制御部70へと制御電流を出力する。制御部は、リレースイッチ56から制御電流の入力を受けている間のみ、インバータ41を、駆動回路46に駆動電力を出力する状態に制御する。操作者がリモコン50のボタン51を押しておらず、リモコン50からフック30を上昇または下降させるとの指令信号が発せられていない間は、無線受信盤55からリレースイッチ56に制御信号が出力されず、リレースイッチ56から制御部70への制御電流の出力、および制御部70の制御によるインバータ41から駆動回路46への駆動電力の出力が、行われない。一方、操作者がリモコン50のボタン51を押し、リモコン50からフック30を上昇または下降させるとの指令信号が発せられている間は、無線受信盤55からリレースイッチ56に制御信号が出力され、リレースイッチ56から制御部70へと制御電流が出力される。制御電流の入力を受けた制御部70は、インバータ41を、駆動回路46に駆動電力を出力している状態に制御する。操作者がリモコン50のボタン51を押し続けており、モータ40が運転されてフック30が運動している状態から、操作者がボタン51を押すのをやめ、リモコン50からの指令信号の発生が停止されると(停止指令が発せられると)、無線受信盤55からリレースイッチ56への制御信号の出力が停止されて、リレースイッチ56から制御部70への制御電流の出力、および制御部70の制御によるインバータ41から駆動回路46への駆動電力の出力が、停止される。
【0029】
本実施形態にかかるクレーン装置1においては、インバータ41からモータ40に駆動電力を供給する駆動回路46に、電圧監視部60が設けられている。電圧監視部60は、駆動回路46の電圧、つまりインバータ41からモータ40に供給される電圧(モータ電圧)を計測して、監視することができる。電圧監視部60を構成する具体的な機器の種類は限定されないが、AC-DCトランスデューサを利用する形態等を挙げることができる。
【0030】
本クレーン装置1は、以上で説明した駆動・制御にかかる各種機器を制御するための制御部70を有する。制御部70は、シーケンサ、コンピュータ等より構成すればよい。制御部70は、上記で説明したとおり、リレースイッチ56からの制御電流の入力の有無に応じて、インバータ41を介して、モータ40の運転状態を制御することができる。また、ブレーキ44を制御して、回転しているモータ40を緊急停止させることができる。さらに、制御部70は、電圧監視部60から、計測したモータ電圧の値を入力され、その入力値に基づいて、ブレーキ44の制御を実施することができる。
【0031】
[リレースイッチおよびインバータの異常の検出]
リレースイッチ56においては、接点の開閉を繰り返すこと等に起因し、動作に異常を生じる場合がある。例えば、接点の運動の円滑性が下がり、接点を閉状態とした際に、接点間に微小な空隙が残り、その空隙においてアーク放電が起こる場合がある。すると、接点材料が溶融し、接点間に溶着が起こる。溶着が生じると、接点を開放することができなくなり、常時接点が閉じられた状態となってしまう。すると、リレースイッチ56から制御部70に制御電流が入力され続け、それを受けた制御部70が、インバータ41を、モータ40に駆動電力を供給したままの状態に保持することになる。あるいは、インバータ41に故障等の異常が発生し、制御部70から、駆動電力の出力を停止させる指令を受けても、モータ40への駆動電力の出力を停止できなくなる場合がある。それらリレースイッチ56の溶着や、インバータ41の故障等の異常が起こると、操作者がフック30の移動の停止を意図して、リモコン50のボタン51の押し下げをやめ、リモコン50からの無線信号の送信が停止されても、モータ40の回転が停止されず、フック30の移動が継続されることになる。操作者の意図に反してフック30が移動し続けることにより、クレーン装置1自体や周囲の装置に破損が生じたり、フック30の近傍に滞在している作業者の安全に支障が生じたりする可能性がある。
【0032】
そこで、本実施形態にかかるクレーン装置1においては、リレースイッチ56の溶着やインバータ41の故障等の異常が起こり、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給を正常に遮断できなくなった場合に、そのことを検知し、モータ40の運転を緊急停止させる。なお、以下では、リレースイッチ56およびインバータ51の異常として、リレースイッチ56の接点部の溶着を主に扱うが、接点部の溶着以外にも、電気的あるいは機械的な要因により、リレースイッチ56に不具合が生じ、閉状態から開状態に切り替えることができなくなり、その結果としてインバータ41からモータ40への駆動電力の供給を遮断できなくなる可能性が考えられる。また、上記のとおり、インバータ41自体の故障も、リレースイッチ56の不具合と同様に、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給を遮断できなくなる要因となりうる。それらの異常のように、リレースイッチ56の接点部の溶着以外の異常によって、リモコン50から停止指令が発せられた際に、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給を正常に停止できなくなる場合についても、以下に説明する構成により、同様に検知することができる。以下、リレースイッチ56の接点部の溶着以外の異常が発生する場合については、同様の現象が起こるものとして説明を省略する。
【0033】
リレースイッチ56の接点部の溶着の検知は、フック30の移動を停止する際に、電圧監視部60が計測したモータ電圧に基づいて、制御部70が行う。
図3に、モータ40によってフック30の昇降運動を駆動する際に、電圧監視部60において計測されるモータ電圧の時間変化を、リモコン50から発せられる指令信号とともに示す。時刻t0より以前には、リモコン50から指令信号が発せられておらず、リレースイッチ56も開状態となっている。インバータ41は、駆動回路46に駆動電力を出力していない状態にある。モータ40はインバータ41から駆動電力を入力されずに停止しており、モータ電圧はゼロとなっている。
【0034】
時刻t0において、操作者がリモコン50のボタン51を押すことで、
図3(b)に示すように、リモコン50からフック30を移動(上昇あるは下降)させるための指令信号が発せられる。すると、無線受信盤55を介してリレースイッチ56から制御電流が制御部70へと出力される。制御電流の入力を受けた制御部70による制御で、インバータ41からモータ40への駆動電力の出力が開始される。すると、
図3(a)に示すように、電圧監視部60で監視されるモータ電圧が上昇を始め、定常値V0に達する。この間、モータ40は徐々に加速され、フック30が移動を始める。その後も、操作者がリモコン50のボタン51を押し続けている間は、リレースイッチ56が閉状態に維持され、モータ電圧が定常値V0に維持される。この間、モータ40が一定の回転数で運転され、フック30が一定の定常速度での移動を継続する。
【0035】
操作者が、時刻t1において、フック30の運動を停止するために、リモコン50のボタン51の押し下げをやめると、リモコン50からの指令信号の発生が停止される(停止指令が発せられる)。このように、リモコン50からの指令信号の発生が停止されると、無線受信盤55を介してリレースイッチ56から制御部70に出力されていた制御電流が途切れる。これにより、制御部70がインバータ41を、駆動電力を出力しない状態に切り替える。すると、モータ40に駆動電力が供給されなくなり、モータ40が減速を開始する。モータ40の減速中、電圧監視部60によって計測されるモータ電圧は徐々に低下する。
【0036】
リレースイッチ56およびインバータ41が異常を起こさずに動作している状況、つまりリモコン50からフック30を運動させる指令信号が発せられている間は、インバータ41から駆動電力を出力する一方、リモコン50から停止信号が発せられると、インバータ41からの駆動電力の出力を遮断する、という動作を正常に実行している状況においては、
図3(a)に実線で示すように、時刻t1においてフック30を運動させる指令信号の発生が停止されると、直後からモータ電圧の低下が開始され、ゼロになるまで下降する。しかし、時刻t0からt1までの間に、リレースイッチ56に溶着が発生し、時刻t0において閉状態としたリレースイッチ56を正常に開状態とできなくなっていると、時刻t1において指令信号の発生が停止されても、インバータ41からモータ40への駆動電力の供給を停止することができず、モータ電圧が正常に下降しなくなる。つまり、
図3(a)に破線で示すように、時刻t1以降のモータ電圧の下降が遅くなる。あるいは、モータ電圧が定常値V0から下降しなくなる。
【0037】
このように、時刻t1においてフック30を運動させる指令信号の発生が停止された後のモータ電圧の挙動に、リレースイッチ56における溶着の発生の有無によって差が生じる。そこで、基準時間Tsと基準電圧Vsを設定し、基準時間Tsにおいて、電圧監視部60で検出されるモータ電圧を基準電圧Vsと比較することで、リレースイッチ56の溶着の有無を判定することができる。
図3(a)において、溶着が発生していない実線の場合には、リモコン50からの指令信号の発生が停止された時刻t1から基準時間Tsが経過する前に(時刻t1+Tsよりも前に)、検出されるモータ電圧が基準電圧Vsを下回っている。一方、溶着が発生している破線の場合には、時刻t1から基準時間Tsが経過しても、検出されるモータ電圧が基準電圧Vsを下回らない。
【0038】
よって、本クレーン装置1においては、リモコン50からの運動の指令信号の発生が停止された(停止指令が発せられた)時刻t1から基準時間Tsが経過した時に、制御部70が、電圧監視部60で検出された電圧が基準電圧Vsを下回っていないことを検知することで、リレースイッチ56の接点に溶着が生じ、リレースイッチ56が正常に閉状態から開状態への切り替えを行えない状態となっていると判定する。そして、制御部70は、その異常判定に基づき、ブレーキ44を作動させ、モータ40の運転を緊急停止させる。
【0039】
このように、電圧監視部60で検出されるモータ電圧を指標として、リレースイッチ56の溶着の監視を行うことで、時刻t1の後、基準時間Tsと、モータ40の緊急停止に要する短い時間のみで、フック30の運動を停止させることができる。すると、装置の破損や安全への支障等、リモコン50からの指令に反したフック30の運動による影響を、小さく抑えることができる。フック等を支持具30として有するクレーン装置1においては、玉掛け作業等、支持具30による搬送対象物の支持および搬送に必要な作業を実施するために、作業者が支持具30または支持具30に支持された搬送対象物の近傍に滞在している場合も多く、リモコン50からの指令に反した支持具30の運動を小さく抑えておくことで、作業者にとっての安全性の向上に高い効果が得られる。
【0040】
具体的な基準時間Tsの長さおよび基準電圧Vsの値は、異常判定に要求される判定時差の短さや精度の高さ等に応じて、任意に定めることができる。リレースイッチ56が正常である場合と、溶着による異常が生じている場合とを、正確に判別する観点からは、事前の試験により、リレースイッチ56が正常に動作している状態において、時刻t1から基準時間Tsが経過する前に、モータ電圧が基準電圧Vsを下回るように、基準時間Tsと基準電圧Vsの関係を定めておけばよい。さらに、基準時間Tsを短く、また基準電圧Vsを高く設定するほど、短い検知時差で、リレースイッチ56の溶着を検知し、モータ40を緊急停止させることができる。一方、基準時間Tsを長く、また基準電圧Vsを低く設定するほど、時刻t1の後、リレースイッチ56の溶着を検知できるまでの検知時差は長くなるものの、計測されるモータ電圧の揺らぎやノイズ等の影響による誤検知を抑えて、溶着の有無を高精度に判別することができる。
【0041】
例えば、基準時間Tsを2秒以下としておけば、十分に短い検知時差で、溶着の検知とモータ40の緊急停止を行うことができ、リモコン50からの指令に反したフック30の移動による影響を小さく抑えることができる。また、基準電圧Vsまでモータ電圧が下降した際のフック30の運動速度vsが、定常電圧V0に対応する時刻t1以前の定常速度v0に対して、70%以上となるように(vs≧0.7・v0)、基準電圧Vsを設定するとよい。すると、基準時間Tsを短く設定できるので、時刻t1の後、十分に短い時間で溶着の検知とモータ40の緊急停止を行うことができる。一方、その運動速度vsが定常速度v0の90%以下となるように、基準電圧Vsを設定するとよい。(vs≦0.9・v0)すると、誤検知を抑えて、溶着の有無を高精度に判別することができる。例えば、運動速度vsが定常速度v0の80%程度となるように、基準電圧Vsを定めればよい。
【0042】
以上に説明した本実施形態にかかるクレーン装置1においては、モータ電圧のみを指標として用いて、リレースイッチ56の接点部における溶着の有無を判定している。AC-DCトランスデューサを用いる形態等、インバータ41とモータ40の間の駆動回路46に、交流の電圧を読み取り可能な電圧監視部60を設置するのみの簡素な構成で、リレースイッチ56における溶着の有無判定が可能となる。よって、任意の既存のクレーン装置において、リレースイッチ56の溶着の有無を判定し、溶着が生じた場合にモータ40を緊急停止させられるシステムを、簡便に導入することができる。
【0043】
また、本実施形態にかかるクレーン装置1では、駆動回路46を介してインバータ41からモータ40に供給される電流(モータ電流)ではなく、電圧(モータ電圧)を指標としてリレースイッチ56の溶着を検知することで、インバータ制御のモータ40において、検知時差が短く、かつ精度の高い溶着の検知が可能となっている。
図4に、インバータ制御のモータを備えた実際のクレーン装置において、リレースイッチ56が正常に動作している状態で測定された、(a)モータ電流と(b)モータ電圧の時間変化を示す。時刻t1でリモコン50からの運動の指令信号が停止された後、しばらく遅延時間を置いて、おおむね時刻t2で、モータ電圧の下降が開始されている。時刻t2の後、モータ電圧は、緩やかに下降を続けている。一方、その時刻t2では、モータ電流はまだ下降を始めておらず、高値を維持している。そして、時刻t2よりも後の時刻t3付近において、モータ電流が下降を始める。時刻t3よりも後は、モータ電流は、急激に下降している。このように、多くのインバータ制御のモータにおいては、回生現象等に起因して、インバータに電力の出力の停止が指令された後、モータ電圧よりも遅くモータ電流が低下を開始する。そして、一旦低下が始まると、モータ電圧は緩やかに低下するのに対し、モータ電圧は急激に低下する。このような挙動の差により、インバータ制御のモータ40においては、リレースイッチ56の溶着の検知に、モータ電流よりもモータ電圧を用いるのが適している。
【0044】
図4のように、モータ電流も、モータ電圧と同様に、インバータ41に電力の出力の停止が指令されると、遅延時間はあるものの、低下を起こす。よって、上記でモータ電圧について説明したように、モータ電流に基準値(基準電流)を設け、時刻t1から所定の基準時間が経過した時に、モータ電流が基準電流を下回っていなければ、リレースイッチ56に溶着が生じていると判定することは、理論的には可能である。しかし、
図4に示されるように、モータ電流の方が、モータ電圧よりも下降を始めるのが遅いため、時刻t1の後、溶着の有無を判定できるまでに、長い時間を要し、検知時差が長くなる。よってリレースイッチ56の溶着を早期に検知し、リモコン50からの指令に反したフック30の移動距離を小さく抑える観点からは、モータ電流ではなく、モータ電圧を用いることが好ましい。
【0045】
モータ電流をリレースイッチ56の溶着の検出に指標として用いる場合に、溶着の有無を判定するための基準電流を高い水準に設定することで、検知時差を短くすることも考えられる。しかし、
図4(a)に示されるように、モータ電流は、下降を開始すると、急激にゼロまで低下するので、そのように基準電流を高い水準に設定すれば、モータ電流の揺らぎやノイズによって、容易に誤検知が起こりうる。つまり、ゆらぎ等によってモータ電流の検出値が突発的に大きくなった場合に、リレースイッチ56が正常に動作しているにもかかわらず、異常が生じたと判断して、モータ40を緊急停止させてしまう事態が生じやすくなる。これに対し、モータ電圧を指標として用いる場合には、誤検知を防ぐ観点から、基準電圧Vsを過度に高くならないように設定しておいても、比較的早期に溶着の有無を判定することができ、検知誤差の短縮と検知精度の向上を両立することができる。
【0046】
モータ電流ではなくモータ電圧を指標として、リレースイッチ56の溶着を検知する本実施形態にかかるクレーン装置1において、溶着の判定を行う基準時間Tsを、リレースイッチ56およびインバータ41が正常に動作している状態で、時刻t1の後、モータ電流の低下が開始されるよりも短い時間に定めておくとよい。つまり、
図4において、モータ電圧の下降が開始される時刻t2と、モータ電流の下降が開始される時刻t3との間に、基準時間Tsが経過し、溶着の判定を行えるようにしておけばよい。この場合には、モータ電流では溶着の判定が行えない早い時期に、モータ電圧によって溶着の判定を行い、溶着が生じている場合に、モータ40を緊急停止させることが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 クレーン装置
10 走行体
20 台車
22 巻き揚げ装置
23 ワイヤーロープ
24 マスト
30 フック(支持具)
40 モータ
41 インバータ
42 電源部
43 メインスイッチ
44 ブレーキ
45 電源回路
46 駆動回路
50 リモコン(指令部)
51 ボタン
55 無線受信盤
56 リレースイッチ
60 電圧監視部
70 制御部