(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125803
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】サーモスタット装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20220822BHJP
F16K 31/68 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
F01P7/16 502A
F16K31/68 Q
F01P7/16 502B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023600
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000228741
【氏名又は名称】日本サーモスタット株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼籏 達也
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佳太
(72)【発明者】
【氏名】冨永 敬幸
【テーマコード(参考)】
3H057
【Fターム(参考)】
3H057AA02
3H057BB02
3H057CC06
3H057DD03
3H057EE02
3H057HH17
(57)【要約】
【課題】バイパス通路からの冷却液の流量を十分に確保することができると共に、エンジンからの冷却液温度に対応した優れた感温性を有するサーモスタット装置を提供する。
【解決手段】サーモ動作ユニット2には、バイパス通路を経由する第2流入口4bからの冷却液の温度に依存して、ラジエータを経由する第1流入口5aからの冷却液の導入量を制御する制御バルブ2cが備えられる。ハウジング3内には第2流入口側からサーモエレメント2aに向かって延出して形成されると共に、サーモエレメントの周囲沿って間欠的に配置されて、サーモエレメントを軸方向に移動可能に支持する複数のガイド体4gと、ガイド体の間にサーモエレメントと隙間を開けて配置される冷却液整流爪4hとが設けられ、ガイド体と冷却液整流爪との間に空隙部を形成することで、第2流入口側から冷却液の流出口4cへ向かう冷却液の迂回通路4iが形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエータによって冷却された冷却液を導入する第1流入口と、前記ラジエータを介さない内燃機関において加熱された前記冷却液を導入する第2流入口と、前記第1流入口と前記第2流入口からの各冷却液を混合した前記冷却液を、前記内燃機関に供給する冷却液の流出口を備えたハウジングと、
前記ハウジング内に収容され、前記第2流入口からの前記冷却液の温度に依存して、軸方向に移動するサーモエレメントと、
前記サーモエレメントの移動に伴って、前記第1流入口からの前記冷却液の導入量を制御する制御バルブと、
前記第2流入口側から前記サーモエレメントに向かって延出して形成されると共に、前記サーモエレメントの周囲に沿って間欠的に配置されて、前記サーモエレメントを軸方向に移動可能に支持する複数のガイド体と、
前記サーモエレメントの周囲であって前記ガイド体を避けた位置に前記サーモエレメントと隙間を開けて配置される冷却液整流爪と、
隣接する前記ガイド体と前記冷却液整流爪との間、前記ガイド体同士の間、又は前記冷却液整流爪同士の間に形成された前記第2流入口側から前記冷却液の流出口へ向かう冷却液の迂回通路と、
を備えたサーモスタット装置。
【請求項2】
前記サーモエレメントは円筒状に形成され、前記サーモエレメントの周囲に沿った少なくとも3か所において前記ガイド体が前記サーモエレメントの側面に摺接した状態で配置されると共に、前記各ガイド体における前記サーモエレメントの軸方向に沿った長さ寸法は、前記冷却液整流爪の長さ寸法に対して大きく形成されている請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項3】
前記各ガイド体の前記第2流入口側の端部は、前記冷却液整流爪よりも前記第2流入口側に位置し、前記サーモエレメントが前記第2流入口側に最も移動した状態において、前記各ガイド体の間に、前記第2流入口側から前記冷却液の流出口に至る冷却液の流路が形成される請求項1に記載のサーモスタット装置。
【請求項4】
前記冷却液整流爪は、前記サーモエレメントの軸方向に沿って配置される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のサーモスタット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車に搭載される内燃機関(以下、エンジンとも言う。)とラジエータとの間で冷却液を循環させる循環流路内に配置されて、前記冷却液温度を適正に制御するサーモスタット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモスタット装置は、エンジンとラジエータとの間の循環流路内を流れる冷却液の温度変化を感知して膨張・収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵するサーモエレメントを備え、この熱膨張体の膨張・収縮に伴う体積変化により、制御バルブ(弁体)の開閉を行うことで、冷却液を所定の温度に保持するように機能する。
【0003】
すなわち、熱膨張体を内蔵するサーモエレメントと制御バルブを含むサーモ動作ユニットは、ハウジング内に収容されて、例えばエンジンの冷却水路の入口側に配置される。そして、冷却液温度が低い場合には制御バルブは閉じられ、冷却液はラジエータを経由せずに、バイパス通路を介して循環される。
また冷却液温度が高くなった場合は、制御バルブが開くことで冷却液はラジエータを通して循環される。これにより、エンジン内の冷却水路であるウォータジャケット内を通る冷却液の温度を適正な状態に制御するように動作する。
【0004】
したがって、この種のサーモスタット装置においては、エンジンからの冷却液温度に早急に反応して制御バルブの開閉を制御し得る感温性の向上が求められており、その一例として特許文献1に開示されたサーモスタット装置を挙げることができる。
この特許文献1に示されたサーモスタット装置が
図13に示されており、このサーモスタット装置11はケース13とインレット14により構成されたハウジング12内に、サーモ動作ユニット15が収容されて構成される。
【0005】
前記ハウジング12を構成するインレット14側には、ラジエータ側からの冷却液の流入口14aが形成されている。同じくハウジング12を構成するケース13側には、前記したラジエータを迂回するバイパス通路からの冷却液の流入口13a、および車室内暖房用の熱交換器としてのヒータコアを介した冷却液の流入口13bが形成されている。そして、前記した各流入口13a,13b,14aからの冷却液は、ハウジング12内において混合されて、冷却液の流出口13cを介してエンジンのウォータジャケットに向かって送り出される。
【0006】
一方、前記サーモ動作ユニット15は、冷却液の温度に反応する熱膨張体(ワックス)を内蔵するサーモエレメント(感温部)15a、前記熱膨張体の作用により伸縮するピストン15b、サーモエレメント15aに取り付けられた円板状の制御バルブ(弁体)15c、この制御バルブ15cをインレット14側に当接させて閉弁状態に付勢するばね部材15dが備えられる。
そして、前記ピストン15bの先端部は、前記したインレット14内に形成されたシャフト支持部14bに装着されて、サーモエレメント15aに加わる冷却液の温度に応じて、制御バルブ15cの開弁状態が制御される。これにより特にラジエータ側からの冷却液の流入量が調整され、エンジンに加わる冷却液温度を適正に保つように動作する。
【0007】
さらに、特許文献1に開示されたサーモスタット装置11においては、円筒状のサーモエレメント15aを囲み、サーモエレメント15aとの間に所定の隙間を形成した円筒体16が、ケース13内に取り付けられて配置されている。この円筒体16によって、バイパス通路からの冷却液がサーモエレメント15aの周囲に沿って流れるように構成されている。
この構成によると、サーモエレメント15aはバイパス通路からの冷却液温度に依存して、制御バルブ15cの開弁状態を制御することになり、エンジンからの冷却液温度に対応した優れた感温性を有するサーモスタット装置を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に開示されたサーモスタット装置11においては、バイパス通路からの冷却液は、サーモエレメント15aと円筒体16との間の隙間を介して、冷却液の流出口13c側に向かうことになる。
このために、前記したサーモエレメント15aと円筒体16との間の隙間において、冷却液の流れが絞られるために、ラジエータを迂回するバイパス通路からの流量が多い場合に、その流量を確保することが難しいという技術的な課題があった。
【0010】
この発明は従来の前記したサーモスタット装置の技術的な問題点に着目してなされたものであり、バイパス通路からの冷却液の流量を十分に確保することができると共に、エンジンからの冷却液温度に対応した優れた感温性を有するサーモスタット装置を提供することを主要な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るサーモスタット装置は、請求項1に記載のとおり、ラジエータによって冷却された冷却液を導入する第1流入口と、前記ラジエータを介さない内燃機関において加熱された前記冷却液を導入する第2流入口と、前記第1流入口と前記第2流入口からの各冷却液を混合した前記冷却液を、前記内燃機関に供給する冷却液の流出口を備えたハウジングと、前記ハウジング内に収容され、前記第2流入口からの前記冷却液の温度に依存して、軸方向に移動するサーモエレメントと、前記サーモエレメントの移動に伴って、前記第1流入口からの前記冷却液の導入量を制御する制御バルブと、前記第2流入口側から前記サーモエレメントに向かって延出して形成されると共に、前記サーモエレメントの周囲に沿って間欠的に配置されて、前記サーモエレメントを軸方向に移動可能に支持する複数のガイド体と、前記サーモエレメントの周囲であって前記ガイド体を避けた位置に前記サーモエレメントと隙間を開けて配置される冷却液整流爪と、隣接する前記ガイド体と前記冷却液整流爪との間、前記ガイド体同士の間、又は前記冷却液整流爪同士の間に形成された前記第2流入口側から前記冷却液の流出口へ向かう冷却液の迂回通路と、が備えられる。
【0012】
請求項1に記載の発明によると、内燃機関において加熱されたラジエータを介さない冷却液を導入する第2流入口側には、サーモ動作ユニットを構成するサーモエレメントの周囲沿って、複数のガイド体が間欠的に配置され、このガイド体によってサーモエレメントは軸方向に移動可能に支持される。これにより、サーモエレメントは軸方向に沿って円滑に移動動作を行うことができ、サーモ動作ユニットの動作の信頼性を確保することができる。
【0013】
また、サーモエレメントを支持する前記ガイド体の間には、サーモエレメントと隙間を開けて配置される冷却液整流爪が設けられる。この冷却液整流爪によると、この冷却液整流爪とサーモエレメントとの間において、第2流入口からの冷却液の一部を、サーモエレメントに沿って流すことができる。したがって、サーモエレメントは第2流入口からの冷却液温度に効率良く反応して、制御バルブの開閉制御を行うことが可能であり、サーモ動作ユニットの感温性を向上させることに寄与できる。
【0014】
さらに、周に沿って配置されたガイド体と冷却液整流爪との間、ガイド体とガイド体との間、又は冷却液整流爪と冷却液整流爪との間に空隙部を形成し、これにより第2流入口側から冷却液の流出口へ向かう冷却液の迂回通路を形成したので、第2流入口側からの冷却液は、前記したサーモエレメントと冷却液整流爪との間を流れる冷却液の量に、前記空隙部による迂回通路を流れる冷却液の量が加わることになる。
これにより、第2流入口からの冷却液の流量を十分に確保し得るサーモスタット装置を提供することが可能となる。
【0015】
また、この発明に係るサーモスタット装置の好ましい実施の形態においては、請求項2に記載のとおり、前記サーモエレメントは円筒状に形成され、前記サーモエレメントの周囲に沿った少なくとも3か所において前記ガイド体が前記サーモエレメントの側面に摺接した状態で配置されると共に、前記各ガイド体における前記サーモエレメントの軸方向に沿った長さ寸法は、前記冷却液整流爪の長さ寸法に対して大きく形成される。
【0016】
請求項2に記載の発明によると、前記各ガイド体におけるサーモエレメントの軸方向に沿った長さ寸法は、冷却液整流爪の長さ寸法に対して大きく形成され、これにより、ガイド体によってサーモエレメントの下底部側の移動範囲をカバーすることができる。
したがって、ガイド体は、軸方向に移動するサーモエレメントの特に下底部付近の径方向の振れを効果的に防止し、サーモエレメントの軸方向に沿った円滑な移動動作を実現させることができる。
【0017】
一方、この発明に係るサーモスタット装置は、請求項3に記載のとおり、前記各ガイド体の前記第2流入口側の端部は、前記冷却液整流爪よりも前記第2流入口側に位置し、前記サーモエレメントが前記第2流入口側に最も移動した状態において、前記各ガイド体の間に、前記第2流入口側から前記冷却液の流出口に至る冷却液の流路が形成されていることが望ましい。
【0018】
請求項3に記載の発明によると、サーモエレメントが第2流入口側に最も移動した状態において、各ガイド体の間に、前記第2流入口側から前記冷却液の流出口に至る冷却液の流路が形成される。
この流路は、サーモエレメントがケース内底部より下方へ移動した制御バルブの大開口時においても、第2流入口側から冷却液の流出口に向かって低流量の冷却液を流すことができるので、エンジンへの冷却液の供給量を確保することができる。
【0019】
さらに、この発明に係るサーモスタット装置は、前記構成に加えて請求項4に記載のとおり、前記冷却液整流爪は、前記サーモエレメントの軸方向に沿って配置される。
【0020】
請求項4に記載の発明によると、冷却液整流爪は、サーモエレメントの軸方向に沿って配置されるので、冷却液整流爪は冷却液の流れを冷却液整流爪の長手方向に沿わせて、サーモエレメントに対して効果的に接触させる作用を与える。
これにより、冷却液温度に対応した優れた感温性を有するサーモスタット装置を提供することに寄与できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バイパス通路からの冷却液の流量を十分に確保することができると共に、エンジンからの冷却液温度に対応した優れた感温性を有するサーモスタット装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明に係るサーモスタット装置の全体構成を示した正面図である。
【
図2】
図1におけるハウジングの前半部を破断して示した一部断面図である。
【
図3】ハウジングの右半部を破断し、破断方向から見た一部断面図である。
【
図4】サーモスタット装置の全体構成を示した斜視図である。
【
図5】
図4に示す状態から天地を反転した状態で示した斜視図である。
【
図6】ハウジング中央部から第2流入口側を見た状態の平面図である。
【
図7】第2流入口とサーモエレメントの関係を示した部分拡大図である。
【
図8】サーモスタット装置の組み立て途中の状態を示した模式図である。
【
図9】
図8に示す組み立て治具側から見た状態の部分拡大図である。
【
図10】
図8に示す模式図におけるA部分の拡大図である。
【
図11】冷却液の迂回通路を通る冷却液の流れを示した部分拡大図である。
【
図12】冷却液整流爪による冷却液の流れを示した部分拡大図である。
【
図13】従来のサーモスタット装置の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係るサーモスタット装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
図1~
図5は、サーモスタット装置の全体構成を示しており、このサーモスタット装置1は、エンジンとラジエータとの間で、冷却液を循環させる循環流路内に配置されて、エンジンに供給する冷却液温度を制御するサーモ動作ユニット2が、ハウジング3内に収容されて構成される。
【0024】
すなわち、サーモスタット装置1はラジエータ側からの冷却水路と、ラジエータを経由しないエンジン出口側からのバイパス通路との交差部に配置されて、ラジエータによって冷却された冷却液と、エンジンによって加熱されたバイパス通路からの冷却液を混合して、エンジン入口部に至る冷却液温度を適正に制御するように動作する。
【0025】
説明の便宜上、
図1中上下を、以下、単に「上」「下」という。この実施の形態においては、サーモスタット装置1の外郭を構成するハウジング3は、共に樹脂素材により成形されたケース4と、このケース4の上部に接合されて取り付けられたインレット5とにより構成される。
前記インレット5には、ラジエータ側からの冷却液を受ける円筒状に形成された第1流入口5aが備えられ、この第1流入口5aは後述するサーモ動作ユニット2の移動軸線に対して、60度程度屈曲(
図3参照)された状態で形成されている。
また、ケース4には、中央部にサーモ動作ユニット2のユニット収容空間4aが形成されると共に、そのユニット収容空間4aから下向きに、円筒状の第2流入口4bが形成されており、この第2流入口4bに、バイパス通路からの冷却液が導入される。
【0026】
さらに前記ケース4には、サーモ動作ユニット2の移動軸線に対して直交する方向に向かって、冷却液をエンジン側に供給する冷却液の流出口4cが形成されており、この冷却液の流出口4cは、インレット5に形成された第1流入口5aの折り曲がり方向とは反対側に向かって(
図3参照)形成されている。
【0027】
なお、冷却液の流出口4cは、エンジンに冷却液を送りこむウォータポンプの上流側に配置できるように構成されており、このために図示せぬウォータポンプ側にサーモスタット装置1を直結するためのフランジ4dと、このフランジ4dの180度対向する位置に締結ボルトの挿通孔4e(
図4、
図5参照)が形成されている。そして、冷却液の流出口4cを囲むようにして、その開口に沿ってウォータポンプ側に接合する環状のパッキン4fが取り付けられている。
【0028】
ハウジング3のユニット収容空間4aに収容されたサーモ動作ユニット2には、冷却液の温度に依存して膨張・収縮する熱膨張体(ワックス)を内蔵する円筒状のサーモエレメント(感温部)2aが備えられており、前記熱膨張体の膨張および収縮により、サーモエレメント2aの軸心に沿って配置されたピストン2bが、サーモエレメント2aから伸縮するように動作する。
前記ピストン2bの先端部は、ハウジング3を構成するインレット5内の中央上部に形成されたシャフト支持部5bに嵌め込まれて、ハウジング3内に取り付けられている。
したがって、円筒状のサーモエレメント2aは、ピストン2bの伸縮に伴って、ユニット収容空間4a内を軸方向に移動するように動作する。
【0029】
また、サーモエレメント2aの上部には円板状の制御バルブ(弁体)2cが取り付けられており、この制御バルブ2cは、インレット5の下部開口に形成された環状の弁座5cに当接することで、閉弁状態になされる。そして、制御バルブ2cに一端部が接するように、ばね部材2dがサーモエレメント2aを囲むようにして配置されており、このばね部材2dの他端部は、前記ケース4内において、間欠的に環状に配列されたガイド体4gと冷却液整流爪4hを取り囲むようにして、ケース4の内底部4j(
図6、
図7参照)に当接している。
したがって、前記したばね部材2dは、インレット5に形成された環状の弁座5cに対して、円板状の制御バルブ2cを押し当てるように付勢力を与えている。
【0030】
前記ガイド体4gと冷却液整流爪4hとは、
図6および
図7にも示されているように、ケース4の第2流入口4b側から、ユニット収容空間4aに向かってそれぞれ立ち上がるようにして形成されている。
このうち、ガイド体4gは、第2流入口側4bからサーモエレメント2aに向かって延出して形成されており、この実施の形態においては、サーモエレメント2aの周囲に沿って、120度間隔をもって配置されている。すなわち、3本のガイド体4gにおける軸方向に長い内接面が、サーモエレメント2aの側面に摺接して、サーモエレメント2aを軸方向に移動可能に支持する機能を果たしている。
【0031】
なお、ガイド体4gの上端は、冷却液整流爪4hの上端より高い位置にある。さらに、前記ガイド体4gは、
図7に示すように前記したケースの内底部4jよりも、さらに第2流入口4b側に至るように、サーモエレメント2aの下底部側の移動範囲を、カバーするように形成されている。
これにより、前記各ガイド体4gにおけるサーモエレメント2aの軸方向に沿った長さ寸法は、前記冷却液整流爪4hの長さ寸法に対して大きく形成されている。
そして、前記したガイド体4gは、軸方向に移動するサーモエレメント2aの特に下底部付近の径方向の振れを効果的に防止し、これにより、サーモエレメント2aの軸方向に沿った円滑な移動動作を実現させている。
【0032】
また、冷却液整流爪4hは、3本のガイド体4gのそれぞれの間に、周方向に等間隔となるように配置されている。すなわち、3本の冷却液整流爪4hは、
図7に示すようにケースの内底部4jより立ち上がり、その上端部は、前記ガイド体4gの上端部よりも若干低い位置となるように形成されている。
そして、冷却液整流爪4hは、サーモエレメント2aの側面に対して、所定の隙間をもって配置されている。なお、サーモエレメント2aの側面と冷却液整流爪4hとの隙間は、1mm以上となるように設定されていることが望ましい。
これにより、各冷却液整流爪4hは、第2流入口からの冷却液の流れを、冷却液整流爪4hの長手方向に沿わせて、サーモエレメントに効果的に接触させる作用を与える。
【0033】
一方、ガイド体4gと冷却液整流爪4hとの間における前記ケースの内底部4jの上部位置には、
図3および
図6に示すように空隙部4iが形成されている。この空隙部4iは前記第2流入口4b側から前記冷却液の流出口4cへ向かう冷却液の迂回通路(空隙部と同一の符号4iで示す。)として機能する。この冷却液の迂回通路4iの作用効果については、後で説明する。
【0034】
なお、前記した各ガイド体の第2流入口側の端部は、
図7に示すように、冷却液整流爪4hよりも第2流入口側に位置し、制御バルブ2cの開弁量が大きくなってサーモエレメント2aがケース内底部4jより下方へ移動した状態において、
図6に示すように、各ガイド体4gの間にサーモエレメント2aを内周面とした円弧状の流路4kが形成される。
この円弧状の流路4kは、サーモエレメント2aがケース内底部4jより下方へ移動した制御バルブ2cの大開口時においても、第2流入口側から冷却液の流出口に向かって低流量の冷却液を流すことができ、エンジンへの冷却液の供給量を確保することができる。
【0035】
図8~
図10は、前記したサーモスタット装置1を組み上げる手順について示している。このサーモスタット装置1を組み上げるに際しては、組み立て治具7として、柱状に成形されたサーモエレメントの支持部材が用意される。
この組み立て治具7は、正三角柱を基本として、正三角柱の3つの内角部を形成する稜線部分を、それぞれ円弧面に成形した構成にされており、その長手方向の下端部側から見た形状は、
図9に示したとおりとなる。そして、各円弧状に成形された面が、
図8に示すようにケース4の第2流入口4b、及び、冷却液整流爪4hに接する寸法となるように成形されている。
【0036】
加えて、この組み立て治具7には軸心に沿って軸孔7aが形成されると共に、その上端部には、
図10に部分拡大図で示したように、円弧状に成形された端面から突出して小突起7bが形成されている。この円弧状の小突起7bは、サーモエレメント2aの底部周面に接して、サーモエレメント2aが組み立て治具7の上端部に載置できるように構成されている。
【0037】
柱状に成形された前記組み立て治具7は、
図8に示すようにケース4の第2流入口4b側から挿入される。このとき
図9に示すように、ケース4に形成されたガイド体4gの部分に、組み立て治具6の角柱の面7cが位置するように、すなわち、ガイド体4gに組み立て治具7の円弧面が当たらないようにして、組み立て治具7を第2流入口4bに挿入する。続いて、ケース4から上部に突出した組み立て治具7の周囲に沿って、ばね部材2dを装着する。
【0038】
そして、予め制御バルブ2cを取り付けたサーモエレメント2aを、ばね部材2dの上部に乗せて軸方向に押さえることで、サーモエレメント2aの下底部は、
図10に示すように小突起7bをガイドとして軸合わせされ、その下底部は組み立て治具7の上端部に当接する。ここで、組み立て治具7の軸孔7aを介して負圧を加えることで、サーモエレメント2aは、組み立て治具7の上端部に吸着されて仮固定される。
【0039】
サーモエレメント2aが、組み立て治具7の上端部に仮固定された状態で、サーモエレメント2aに設けられたピストン2bの先端部を、インレット5のシャフト支持部5bに差し込む。
この状態でインレット5をケース4側に押しつつ、組み立て治具7を第2流入口4bから引き抜くことで、サーモエレメント2aは、環状に配列されたガイド体4gと冷却液整流爪4hの中央部に収容される。
最後に、ケース4の上に、インレット5を接合することで、サーモスタット装置1の組み立てが完了する。
【0040】
図8~
図10に基づいて説明した組み立て治具7を用いるサーモスタット装置1の組み立て手段によると、第2流入口4bに組み立て治具7を挿入して、組み立て治具7にサーモエレメント2aを装着することで、第2流入口4bを取り囲むようにして配置されたガイド体4g、冷却液整流爪4hの中心にサーモエレメント2aの中心を合わせ、センターリングされた状態でサーモエレメント2aをガイド体4g、冷却液整流爪4hの内側へと引き込むことができる。
これにより、組み立て時にばね部材2dに倒れが生じず、必ず、サーモエレメント2aをガイド体4g、冷却液整流爪4hの内側に挿入することができる。
このように、ばね部材2dの倒れを防いで、サーモエレメント2aを必ずガイド体4g、冷却液整流爪4hの内側に挿入できるので、自動機械による組み付けが可能となる。
【0041】
なお、サーモスタット装置1の組み上げる手順については、この限りではなく、適宜変更できる。例えば、サーモスタット装置1を手動で組み立てても良いのは勿論である。このような場合には、第2流入口4bが形成されるバイパス通路側の管路の形状が、図示するようにストレート形状であっても良いのは勿論、L字状、又はその他の形状であってもサーモスタット装置1の組み立てが可能になる。
つまり、第2流入口4bが形成されるバイパス通路側の管路の形状は、ストレート形状、L字状、又はその他の形状であっても良い。
【0042】
以上のように構成されたサーモスタット装置1によると、バイパス通路側からの第2流入口4bに供給される冷却液は、サーモエレメント2aが位置するハウジング3のユニット収容空間4a内に供給される。そこで、バイパス通路側からの冷却液の温度が上昇すると、サーモエレメント2aに内蔵された熱膨張体が膨張して、前記ピストン2bが伸張(突出)する。
これにより、サーモエレメント2aに取り付けられた制御バルブ2cは、ばね部材2dの付勢力に抵抗して、第2流入口4b側に向けて後退することで開弁し、第1流入口5aからのラジエータを介した冷却液が導入される。
したがって、第1流入口5aからの冷却液と、第2流入口4bからの冷却液は、ユニット収容空間4a付近で混合されて、冷却液の流出口4cからエンジンのウォータジャケットに送り込まれる。これにより、エンジンのウォータジャケットを通る冷却液の温度を適正な状態に制御することができる。
【0043】
さらに、前記したサーモスタット装置1は、
図6および
図7に示されているように、サーモエレメント2aの周囲に沿って等間隔に配置された3本のガイド体4gによって、サーモエレメント2aは軸方向に移動可能に支持されている。これにより、サーモエレメント2aは軸方向に沿って、円滑に移動動作を行うことができ、サーモ動作ユニット2の動作の信頼性を確保することができる。
【0044】
加えて、この実施の形態においては、バイパス通路を介して第2流入口4bに供給される冷却液を、サーモエレメント2aに沿って流す3本の冷却液整流爪4hが、前記ガイド体4gの間に配置されている。これによると、
図11にB方向に至る矢印で示したように、第2流入口4bからの冷却液の一部を、冷却液整流爪4hの長手方向に沿って流すことができる。
したがって、サーモエレメント2aは、第2流入口4bからの冷却液温度に効率良く反応して、制御バルブ2cの開閉制御を行うことが可能となり、サーモ動作ユニットの感温性を向上させることに寄与することができる。
【0045】
さらに、この実施の形態においては、サーモエレメント2aの周囲に沿って配置されたガイド体4gと冷却液整流爪4hとの間には、空隙部を形成して、第2流入口4bから冷却液の流出口4cへ向かう冷却液の迂回通路4iを形成したので、
図12にC方向に至る矢印で示したように、第2流入口4bからの冷却液を、前記空隙部による迂回通路4iによって、効率良く流すことができる。
したがって、第2流入口4bからの冷却液は、
図11に矢印Bで示す流れに、
図12に矢印Cで示す流れが加わることになり、バイパス通路を経由する冷却液の流量を、十分に確保し得るサーモスタット装置を提供することが可能となる。
【0046】
なお、前記した実施の形態においては、周方向に沿って等間隔に3本のガイド体4gを備えているが、これは必要に応じて4本以上備えることもでき、また周方向に沿って不等間隔に備えることもできる。
さらに、冷却液整流爪4hは、各ガイド体4gの間にそれぞれ配置されているが、これは各ガイド体4gの間に2本以上配置することも、また、冷却液の流出口4cの位置に応じて、その数を選択的に設定することもできる。
したがって、冷却液の迂回通路を形成する空隙部4iは、ガイド体4gと冷却液整流爪4hの配列状況に応じて、隣接するガイド体4gと冷却液整流爪4hとの間、前記ガイド体4g同士の間、又は前記冷却液整流爪4h同士の間に形成される場合もある。
【符号の説明】
【0047】
1 サーモスタット装置
2 サーモ動作ユニット
2a サーモエレメント
2b ピストン
2c 制御バルブ(弁体)
2d ばね部材
3 ハウジング
4 ケース
4a ユニット収容空間
4b 第2流入口
4c 冷却液の流出口
4d フランジ
4e ボルト挿通孔
4f パッキン
4g ガイド体
4h 冷却液整流爪
4i 空隙部(冷却液の迂回通路)
4j ケース内底部
4k 流路
5 インレット
5a 第1流入口
5b シャフト支持部
5c 弁座