(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125821
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】エラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/06 20060101AFI20220822BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220822BHJP
C07K 5/083 20060101ALI20220822BHJP
C07K 5/062 20060101ALI20220822BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220822BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220822BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20220822BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20220822BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20220822BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20220822BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
A61K38/06
C12N5/071 ZNA
C07K5/083
C07K5/062
A61K38/05
A61P43/00 105
A61K8/64
A61Q1/02
A61Q19/08
A61P17/16
A61P17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023628
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】江島 晃佳
(72)【発明者】
【氏名】白土 絵理
(72)【発明者】
【氏名】陶山 真司
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB19
4B065CA24
4B065CA44
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC31
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA15
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC521
4C084ZC522
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA11
4H045BA12
4H045EA01
4H045EA15
4H045EA28
4H045FA16
4H045FA33
4H045FA70
4H045GA21
(57)【要約】
【課題】優れたエラスチン産生促進活性を有するエラスチン産生促進剤、及び優れた細胞の遊走促進活性を有する細胞の遊走促進剤を提供する。
【解決手段】以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含むエラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤:Gly-Ala、Gly-Hyp-Gly、Gly-Thr-Gly、Gly-Leu-Gly。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含むエラスチン産生促進剤:
Gly-Ala
Gly-Hyp-Gly
Gly-Thr-Gly
Gly-Leu-Gly。
【請求項2】
繊維芽細胞におけるエラスチン産生促進剤である、請求項1に記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項3】
前記繊維芽細胞が、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞及び靱帯線維芽細胞からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のエラスチン産生促進剤。
【請求項4】
以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含む細胞の遊走促進剤:
Gly-Ala
Gly-Hyp-Gly
Gly-Thr-Gly
Gly-Leu-Gly。
【請求項5】
前記細胞が、線維芽細胞である、請求項4に記載の遊走促進剤。
【請求項6】
前記線維芽細胞が、皮膚線維芽細胞である、請求項5に記載の遊走促進剤。
【請求項7】
以下のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩:
Gly-Thr-Gly。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスチン産生促進剤、及び細胞の遊走促進剤に関する。さらに、本発明は、エラスチン産生促進活性及び細胞の遊走促進活性を有するペプチド又はその塩に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞は、結合組織を構成する細胞の1つであり、全身の結合組織に散在しており、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックス物質の産生、造骨細胞や軟骨細胞への分化、組織の損傷部位への遊走、上記細胞外マトリックス物質の産生等を通じて、皮膚、肺、靱帯、軟骨等の結合組織の形成及び弾性等の維持に深く関与している。
【0003】
また、線維芽細胞の機能低下が各種疾患と関連している場合がある。例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者において、線維芽細胞の創傷治癒能力が健常者よりも低下しているという報告もある(https://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-20590905/20590905seika/)。
【0004】
エラスチンは、コラーゲンと共に、弾性線維の主要な構成成分で、脊椎動物の結合組織に広く分布する不溶性タンパク質である。生体内では動脈壁や項靭帯、肺、皮膚等、弾力性及び伸縮性が必要とされる組織に多く分布し、生体内で弾性の維持、細胞の機能調節等の様々な役割を果たしている。血管や項靭帯におけるエラスチン含量は、全乾燥重量あたり50%以上、皮膚中では2%程を占めている。生体内のエラスチンは、紫外線や加齢等の要因によって減少や変性することが知られており、皮膚でのこのような変化は、皮膚のシワやたるみ及び弾力性低下の原因となる。遺伝的にエラスチン形成能のないマウスの皮膚は弾力性がないことや(Nature, 10 Jan 2002, 415(6868):168-171)、紫外線照射後の弾性線維の構造変化により皮膚での弾力性低下やシワ形成が起こる可能性が報告されている(J. Invest. Dermatol., August 1995, 105(2):254-258)。そのため、エラスチンの産生を促進する物質は、肌の弾力性やハリを保ち、シワの予防及び改善に繋がると考えられる。
【0005】
そして、特許文献1では、ブタ及びウマ由来の水溶性エラスチン、水溶性コラーゲン、水溶性臍帯抽出物、又は水溶性鶏卵抽出物の作用により、皮膚又は毛髪が生理的健全状態に改善され、これによりポリフェノール誘導体の浸透性が高まり、皮膚に対しては美白効果、老化や炎症の防止、弾力性回復等がより有益的に作用し、また毛髪に対しては、ハリ、コシ、光沢の付与、枝毛や脱毛の防止等にも同様に作用することが報告されている。
【0006】
また、特許文献2では、ジペプチドPro-Gly(L-プロリルグリシン)が皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生促進活性を有することが報告されており、特許文献3では、Val-Pro-Gly-Gly、Val-Pro-Gly-Ala及びVal-Proのペプチドが線維芽細胞におけるエラスチン産生促進活性を有することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-205913号公報
【特許文献2】特開2010-202578号公報
【特許文献3】特開2019-73465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れたエラスチン産生促進活性を有するエラスチン産生促進剤、及び優れた細胞の遊走促進活性を有する細胞の遊走促進剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、優れたエラスチン産生促進活性及び細胞の遊走促進活性を有するペプチド又はその塩を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Gly-Ala、Gly-Hyp-Gly、Gly-Thr-Gly、Gly-Leu-Glyの4種のペプチドが、優れた線維芽細胞におけるエラスチン産生促進効果及び優れた線維芽細胞の遊走促進効果を示すという知見を得た。さらに、これらのペプチドの中でGly-Thr-Glyについては、新規なペプチドであった。
【0010】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のエラスチン産生促進剤、細胞の遊走促進剤、及びペプチド又はその塩を提供するものである。
【0011】
項1.以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含むエラスチン産生促進剤:
Gly-Ala
Gly-Hyp-Gly
Gly-Thr-Gly
Gly-Leu-Gly。
項2.線維芽細胞におけるエラスチン産生促進剤である、項1に記載のエラスチン産生促進剤。
項3.前記繊維芽細胞が、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞及び靱帯線維芽細胞からなる群から選択される少なくとも1種である、項2に記載のエラスチン産生促進剤。
項4.以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含む細胞の遊走促進剤:
Gly-Ala
Gly-Hyp-Gly
Gly-Thr-Gly
Gly-Leu-Gly。
項5.前記細胞が、線維芽細胞である、項4に記載の遊走促進剤。
項6.前記線維芽細胞が、皮膚線維芽細胞である、項5に記載の遊走促進剤。
項7.以下のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩:
Gly-Thr-Gly。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れたエラスチン産生促進活性を有するエラスチン産生促進剤、及び優れた細胞の遊走促進活性を有する細胞の遊走促進剤を提供することができる。さらに、本発明によれば、優れたエラスチン産生促進活性及び細胞の遊走促進活性を有するペプチド又はその塩を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GOG)を示すグラフである。縦軸は0μg/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
*: p<0.05 Williams test vs 0μg/ml
【
図2】ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GTG)を示すグラフである。縦軸は0μg/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
*: p<0.05,
**: p<0.01 Williams test vs 0μg/ml
【
図3】ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GLG)を示すグラフである。縦軸は0μg/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
【
図4】ヒト肺線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GOG)を示すグラフである。縦軸は0 ng/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
*: p<0.05 t test vs 0μg/ml
【
図5】ヒト靱帯線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GOG)を示すグラフである。縦軸は0 ng/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
**: p<0.01 Williams test vs 0 ng/ml
【
図6】ヒト靱帯線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GTG)を示すグラフである。縦軸は0 ng/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
【
図7】ヒト靱帯線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GA)を示すグラフである。縦軸は0 ng/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
*: p<0.05 Williams test vs 0μg/ml
【
図8】ヒト靱帯線維芽細胞におけるエラスチン産生試験の結果(GLG)を示すグラフである。縦軸は0 ng/mlを1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=8
【
図9】ヒト皮膚線維芽細胞における細胞遊走活性試験の結果を示すグラフである。縦軸は0.5%FBSの面積当たりの細胞遊走数を1とした相対値である。値は平均±標準偏差 n=4-7
*: p<0.05,
**: p<0.01 Student T-test vs 0.5%FBS
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0016】
本発明のエラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤は、以下のアミノ酸配列からなるペプチドからなる群より選択される少なくとも1種のペプチド又はその塩を含むことを特徴とする。
(1)Gly-Ala (以下、「GA」と称することもある)
(2)Gly-Hyp-Gly (以下、「GOG」と称することもある)(Hypはヒドロキシプロリンを示す)
(3)Gly-Thr-Gly (以下、「GTG」と称することもある)
(4)Gly-Leu-Gly (以下、「GLG」と称することもある)
【0017】
上記の(1)~(4)のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「(1)~(4)のペプチド」と称することもある)又はその塩は、エラスチンの産生を促進させる活性、特に線維芽細胞におけるエラスチンの産生を促進させる活性を有している。ここでの線維芽細胞の種類としては、特に限定されず、例えば、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、靱帯線維芽細胞などが挙げられる。
【0018】
また、上記の(1)~(4)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその塩は、細胞の遊走を促進させる活性、特に線維芽細胞の遊走を促進させる活性を有している。ここでの線維芽細胞の種類としては、特に限定されず、例えば、皮膚線維芽細胞などが挙げられる。
【0019】
(1)~(4)のペプチドは、N末端のアミノ基、C末端のカルボキシ基などが塩(アミン塩及び/又はカルボン酸塩)を形成していてもよい。塩の種類は、本発明の効果を得ることができ、医薬や飲食品などの用途において許容される限りにおいて、特に限定されない。塩としては、例えば、ペプチドのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リン酸塩、有機酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、ピクリン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩など)などが挙げられる。N末端のアミノ基及びC末端のカルボキシ基の双方が塩を形成している場合、分子内塩(双性イオン:Zwitter ion)であってもよい。
【0020】
また、(1)~(4)のペプチドには、その誘導体も含まれる。ここで「誘導体」とは、(1)~(4)のペプチドの官能基を公知の方法により修飾、付加、変異、置換、削除などにより改変されたものをいう。例えば、(1)~(4)のペプチドのN末端、C末端、又はアミノ酸の側鎖が保護基などによって修飾されているものが挙げられる。誘導体としては、例えば、アセチル化、パルミトイル化、アミド化、ミリスチル化、ダンシル化、アクリル化、ビオチン化、リン酸化、アニリド化、サクシニル化、ベンジルオキシカルボニル化、ホルミル化、ニトロ化、スルフォン化、アルデヒド化、グリコシル化、環状化、モノメチル化、ジメチル化、トリメチル化、グアニジル化、マレイル化、トリフルオロアセチル化、トリニトロフェニル化、カルバミル化、ポリエチレングリコール化、アセトアセチル化、標識化(例えば、蛍光色素など)されたものなどが挙げられる。
【0021】
(1)~(4)のペプチドを構成するアミノ酸は、L体又はD体のいずれであってもよく、好ましくはL体である。
【0022】
(1)~(4)のペプチドは、固相合成法、液相合成などの公知の合成手法を利用すること、タンパク質を加水分解すること、発酵法、該ペプチドをコードする遺伝子を導入した形質転換体を培養することなどにより製造することができる。
【0023】
製造したペプチドの精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム塩析法などにより行うことができる。
【0024】
本発明のエラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤に含まれる(1)~(4)のペプチド又はその塩の割合は、特に制限されず、例えば、0.00001~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0025】
本発明のエラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、(1)~(4)のペプチド又はその塩以外の公知の成分を適宜配合することができる。
【0026】
本発明のエラスチン産生促進剤及び細胞の遊走促進剤は、化粧品、飲食品(特に、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品))、医薬品などとして使用することができる。また、本発明のエラスチン産生促進剤、細胞の遊走促進剤は、それぞれエラスチン産生促進作用、細胞の遊走促進作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。
【0027】
上記の飲食品には、(1)~(4)のペプチド又はその塩をそのまま使用することもできるが、必要に応じて、ビタミン類、フラボノイド類、ミネラル類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、崩壊剤、滑沢剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0028】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、キャンデー、ゼリー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0029】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0030】
飲食品をサプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0031】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0032】
上記の医薬品には、(1)~(4)のペプチド又はその塩のみを使用することもでき、ビタミン、生薬など日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することもできる。
【0033】
医薬品として調製する場合、(1)~(4)のペプチド又はその塩をそのまま使用するか、又は医薬品において許容される成分とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、フィルムコート錠、発泡錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液や電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。
【0034】
医薬品には、(1)~(4)のペプチド又はその塩以外にも、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、懸濁化剤、増粘剤、抗酸化剤、吸収促進剤、pH調節剤、着色剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、安定化剤、甘味剤、矯味剤、香料等の薬学的に許容される成分を適宜配合することができる。
【0035】
医薬品の投与方法は特に限定されず、例えば、経口投与、動脈内投与、静脈内投与、口腔内投与、直腸投与、経腸投与、経皮投与などにより行うことができる。
【0036】
医薬品の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与方法、剤型の種類などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0037】
上記の化粧品には、(1)~(4)のペプチド又はその塩以外に、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0038】
化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧品が含まれる。
【0039】
化粧品の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、粉末系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等の幅広い剤型を採り得る。
【0040】
化粧品の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、洗顔料、乳液、化粧水、クリーム、ジェル、美容液、エッセンス、パック、マスク等が挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等が挙げられ、その他、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、シェービングクリーム、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、制汗剤、入浴剤等が挙げられる。
【0041】
化粧品、飲食品及び医薬品の投与量及び摂取量としては、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、好ましくは成人1日当り0.1~2000 mg/日である。もちろん投与量及び摂取量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量及び摂取量より少ない量で十分な場合もあるし、或いは上記範囲を超えて必要な場合もある。
【0042】
なお、本発明における医薬品及び化粧品には、医薬部外品も包含される。
【0043】
以上説明した本発明のエラスチン産生促進剤、細胞の遊走促進剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して適用されるものである。
【0044】
後述する実施例で示すように、本発明者らは、(1)~(4)のペプチド又はその塩が優れた線維芽細胞におけるエラスチン産生促進作用及び線維芽細胞遊走促進作用を示すことを見出した。そのため、(1)~(4)のペプチド又はその塩は、優れたエラスチン産生促進作用及び細胞の遊走促進作用を有するのでエラスチン産生促進剤、細胞の遊走促進剤の有効成分として好適に使用することができる。エラスチンの産生が促進される結果として、肌の弾力性やハリを保ちシワの予防及び改善、靭帯の損傷予防や強化、肺機能の改善などの効果が導かれる。また、線維芽細胞の遊走が促進される結果として、創傷した皮膚組織の治癒などが促進されることになる。さらに、(1)~(4)のペプチドの中で(3)のペプチドについては、文献未記載の新規ペプチドである。
【実施例0045】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0046】
<材料>
・ヒト皮膚線維芽細胞(Lonza)
・ヒト肺線維芽細胞(Lonza)
・正常ヒト靱帯線維芽細胞(関節リウマチ患者又は変形性膝関節症患者より摘出した組織より単離(倫理審査済))
・FBS (Invitrogen)
・ペニシリンストレプトマイシン(Invitrogen)
・DPBS (Invitrogen)
・トリプシン(Invitrogen)
・DMEM (Invitrogen)
・GA (国産化学株式会社)
・GOG (株式会社スクラム)
・GTG (株式会社スクラム)
・GLG (株式会社スクラム)
・可溶性エラスチン(ウシ項靱帯由来)(Sigma-Aldrich)
・Anti-tropoelastin (Rabbit-Poly)PR385 (フナコシ株式会社)
・Peroxidase-Labeled Affinity Purified Antibody To Rabbit IgG(H+L)(KPL)
・セルカルチャーディッシュ35 mm (Corning:Falcon (登録商標))
・スクラッチガイド(AGCテクノグラス株式会社:CELL Scratcher (登録商標))
・グリッドシール(AGCテクノグラス株式会社:CELL Scratcher (登録商標))
【0047】
試験例1:ヒト皮膚線維芽細胞におけるエラスチン産生試験
<方法>
・培養条件
培養フラスコにて培養した皮膚線維芽細胞を96 wellプレートに2×104 cells/wellになるように播種した(100μl/well、培地:10%FBS DMEM)。37℃、5%CO2条件下で24時間培養した後、ウェル中の培養液を除去し、0.5%FBSを含むDMEMを添加して同条件下で更に24時間培養した。ウェル中の培養液を除去し、DPBSにより洗浄し、DPBSを除去した。0.5%FBSを含むDMEMにて0、0.1、1、10μg/mlの濃度となるように試験ペプチドを調整し、100μlずつウェルに添加した。37℃、5%CO2の条件下で3日間培養を行い、細胞数をCell Counting Kit-8で測定した。培養上清は回収し、エラスチン産生量の測定サンプルとした。
【0048】
・エラスチンの測定方法
検量線作成のための標準物質として可溶性エラスチン(ウシ項靱帯)を用いて、2000、1000、500、250、125、62.5、31.25、0 ng/mlの濃度となるように0.5%のFBSを含むDMEMで希釈した。これらを50μlずつ2連で、Corning 96 Well EIA/RIA Half Area Flat Bottom Plate (High binding)へ加えて4℃で1時間30分プレートへ固定化した。また、各培養上清も50μlずつ添加して固定化した。ウェル内の液を捨てPBSTで洗浄後、0.5%ゼラチンを含むブロッキングバッファー(150μl)で1時間ブロッキングした後、PBSTで洗浄し、PBSTで500倍に希釈した一次抗体[Anti-tropoelastin (Rabbit-Poly)PR385]を50μl加えて1時間インキュベートした。ウェル内の液を捨ててPBSTで洗浄後、PBSTで1000倍希釈した二次抗体[Peroxidase-Labeled Affinity Purified Antibody To Rabbit IgG(H+L)]を50μl加え、30分インキュベートした。ウェル内の液を捨ててPBSTで洗浄後、基質溶液(TMB Peroxidase substrate : Peroxidase Substrate Solution B = 1:1 solution)を50μl加えて5分間、室温にてインキュベートした。そして、2N H2SO4を50μl加え酵素反応を停止した後、450 nmの吸光度(A450)を測定し、検量線を元にエラスチンの産生量を算出し、細胞1個当たりのエラスチン産生量を求めた。
【0049】
<結果>
GOGのエラスチン産生能の結果を
図1に、GTGのエラスチン産生能の結果を
図2に、GLGのエラスチン産生能の結果を
図3に示す。皮膚線維芽細胞にGOGを10μg/ml添加することで有意なエラスチン産生量の増加を確認した(
図1)。また、皮膚線維芽細胞にGTGを1μg/ml添加することで有意なエラスチン産生量の増加を確認した(
図2)。GLGにおいてもエラスチン産生促進活性がみられた(
図3)。
【0050】
試験例2:ヒト肺線維芽細胞におけるエラスチン産生試験
<方法>
ヒト皮膚線維芽細胞に代えてヒト肺線維芽細胞を使用した以外は、試験例1と同様にしてエラスチン産生試験を行った。
【0051】
<結果>
GOGのエラスチン産生能の結果を
図4に示す。肺線維芽細胞にGOGを50μg/ml添加することで有意なエラスチン産生量の増加を確認した(
図4)。
【0052】
試験例3:ヒト靱帯線維芽細胞におけるエラスチン産生試験
<方法>
ヒト皮膚線維芽細胞に代えてヒト靱帯線維芽細胞を使用した以外は、試験例1と同様にしてエラスチン産生試験を行った。
【0053】
<結果>
GOGのエラスチン産生能の結果を
図5に、GTGのエラスチン産生能の結果を
図6に、GAのエラスチン産生能の結果を
図7に、GLGのエラスチン産生能の結果を
図8に示す。靱帯線維芽細胞にGOGを5μg/ml又は50μg/ml添加することで有意なエラスチン産生量の増加を確認した(
図5)。また、靱帯線維芽細胞にGAを50μg/ml添加することで有意なエラスチン産生量の増加を確認した(
図7)。GTG及びGLGにおいてもエラスチン産生促進活性がみられた(
図6、8)。
【0054】
試験例4:ヒト皮膚線維芽細胞の遊走活性試験
<方法>
培養フラスコにて培養したヒト皮膚線維芽細胞を35 mmディッシュに3,500 cells/cm2 (17,500 cells/ml)となるように播種した。37℃、5%CO2条件下で約24時間培養後、DPBSで洗浄し、10%FBS DMEM培地へ交換を行い、継続して約4日間培養した。ディッシュ上で細胞がコンフルエントになったことを確認した後、滅菌されたチップでスクラッチガイドをガイドとし、引っかき傷(スクラッチ)をつけた。また、ディッシュの裏に目盛りとなるグリッドシールを貼り付けた。その後、DPBSを用いて2回洗浄し、0.5%FBS DMEM培地へ交換した。24時間後、ディッシュ中の培地を除去し、DPBSにより洗浄した。
【0055】
0.5%FBS DMEM培地に対して、サンプルをそれぞれ0.1、1、10μg/mlの濃度となるように調整し、ディッシュに添加した。37℃、5%CO2条件下で培養し、0時間、16時間、24時間、40時間後にスクラッチの状態を倒立型顕微鏡(Nikon ECLIPSE TS100)及び画像撮影ソフト(ScopeImage 9.0 HDCE-X3)を用いて観察した。スクラッチ部分に移動した細胞数をカウントし評価を行った。経過時間毎に同一箇所において細胞数をカウントした。
【0056】
<結果>
結果を
図9に示す。
図9から、0.5%FBS(コントロール)と比較してGA、GTG、GOGにおいてヒト皮膚線維芽細胞に対する遊走活性を確認することができた。特にGOG、GTGにおいて有意な活性が確認できた。