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  • 特開-酢酸亜鉛水和物を含有する医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012585
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】酢酸亜鉛水和物を含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/315 20060101AFI20220107BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220107BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
A61K31/315
A61P3/02
A61K47/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114522
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】592073695
【氏名又は名称】日医工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】天野 祐一
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 豪克
(72)【発明者】
【氏名】草島 諒徳
(72)【発明者】
【氏名】鷹澤 博明
(72)【発明者】
【氏名】熊田 俊吾
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA37
4C076BB01
4C076CC21
4C076DD41
4C076DD41C
4C076DD46
4C076DD46Q
4C076DD47
4C076DD47Q
4C076EE31
4C076EE31A
4C076EE32
4C076EE52
4C076EE52Q
4C076FF01
4C076FF36
4C076FF63
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB02
4C206KA15
4C206MA02
4C206MA05
4C206NA03
4C206ZC21
(57)【要約】
【課題】酢酸亜鉛水和物を含有し、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制した医薬組成物の提供を目的とする。
【解決手段】酢酸亜鉛水和物と、油状成分とを含有する医薬組成物。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸亜鉛水和物と、油状成分とを含有する医薬組成物。
【請求項2】
前記油状成分は、油質の賦形剤である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記油状成分は、中鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する油脂、酢酸モノグリセリドからなる群から選択される1種以上である請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分として酢酸亜鉛水和物を含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルソン病や低亜鉛血症の治療に、酢酸亜鉛水和物(CZn・2HO)は有用な成分である。
その一方で、二水和物である酢酸亜鉛水和物は、比較的低い温度の加熱によっても水和物中の結晶水が消失し、無水物に結晶転移することが知られている。
【0003】
そこで、特許文献1、2には、造粒物の製造工程における品温を40℃未満にコントロールすることで、製造工程における酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制した酢酸亜鉛水和物錠の製造方法を開示する。
しかしながら、製造工程における熱量の制限は製造効率を低下させる。
そのため、製造工程における上記温度コントロールに頼らずに酢酸亜鉛水和物の結晶転移を抑制し、安定的に結晶水を維持した製造方法が望まれる。
また、酢酸亜鉛水和物の結晶転移を他の方法、例えば添加剤を加えることにより改善できれば、市場流通時の品質安定性を向上し、服薬アドヒアランスの向上に資することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2016/088816
【特許文献2】特開2019-214625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酢酸亜鉛水和物を含有し、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制した医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る医薬組成物は、酢酸亜鉛水和物と、油状成分とを含有することを特徴とする。
ここで、油状成分とは、常温にて、又は医薬組成物の製造時において、油状の液体である添加剤をいう。
【0007】
本発明においては、油状成分が油質の賦形剤であることが好ましい。
この場合の油質の賦形剤としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド、油脂、有機酸モノグリセリド等が例として挙げられる。
本発明における油状成分は、中鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する油脂、酢酸モノグリセリドからなる群から選択される1種以上であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る医薬組成物は、酢酸亜鉛水和物に油状成分を添加することで、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制する。
これにより、製造工程における温度条件等に頼らずに、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制した製剤が製造可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酢酸亜鉛水和物(CZn・2HO)と、油状成分とを含有する医薬組成物に関する。
【0010】
本発明における油状成分とは、常温にて、又は医薬組成物の製造時において、油状の液体である添加剤をいう。
常温とは、例えば5℃~35℃であり、医薬組成物の製造時とは、例えば35℃~65℃の温度環境下をいう。
油状成分としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド、油脂、植物油(ダイズ油、ゴマ油、ナタネ油、トウヒ油、トウモロコシ油、ヤシ油、ヒマシ油等)、有機酸モノグリセリド(酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等)、トリアセチン、クエン酸トリエチルなどが挙げられるが、脂肪酸類、油脂類、エステル類などの一般的に医薬品添加剤として用いられる公知の成分であればよい。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
本発明においては、上記油状成分をさらに油質の賦形剤と、可塑剤とに分類する。
本明細書における油質の賦形剤とは、中鎖脂肪酸トリグリセリド、長鎖脂肪酸トリグリセリド、油脂、植物油(ダイズ油、ゴマ油、ナタネ油、トウヒ油、トウモロコシ油、ヤシ油、ヒマシ油等)、有機酸モノグリセリド(酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等)をいい、本明細書においては、トリアセチン、クエン酸トリエチルを可塑剤に分類する。
本発明における油状成分は、油質の賦形剤であることが好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリド、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する油脂、酢酸モノグリセリドであることがより好ましい。
また、油状成分は、酢酸亜鉛水和物に対して0.01μL/mg以上含有されているのが好ましく、0.05μL/mg以上含有されているのがより好ましい。
【0012】
本発明において、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTともいう)とは、グリセロールおよび脂肪酸のトリエステルをいい、炭素数6~14程度、好ましくは炭素数6~10、より好ましくは炭素数8~10の脂肪酸から構成される。
具体的な脂肪酸としては、カプロン酸(炭素数6)、カプリル酸(炭素数8)、カプリン酸(炭素数10)、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)等が挙げられるが、中鎖脂肪酸トリグリセリドの3つの脂肪酸は、同種であっても異種であってもよく、好ましくはカプリル酸(炭素数8)とカプリン酸(炭素数10)から構成されるトリグリセリドであるが、一般に市販されているものを制限なく使用することができる。
【0013】
本発明において、長鎖脂肪酸トリグリセリドとは、グリセロールおよび炭素数15以上の脂肪酸のトリエステルをいい、構成する具体的な脂肪酸としては、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18)、リノール酸(炭素数18)、リノレン酸(炭素数18)等が挙げられる。
【0014】
本発明において、油脂とは、グリセロールおよび脂肪酸のトリエステルを主成分とするものであればよく、本発明においては中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有しているのが好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドの他に、長鎖脂肪酸トリグリセリドや他の脂質(脂肪酸、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、リン脂質、ステロール等)を含有していてもよい。
【0015】
本発明に用いる酢酸亜鉛水和物(CZn・2HO)は、特に限定はなく、一般に市販されているものを制限なく使用することができる。
本明細書においては、平均粒子径(D50)の異なる2種類の酢酸亜鉛水和物を用いて試験評価した。
便宜上、D50の粒子径が100μm以上の酢酸亜鉛水和物を粗大粒子、100μm未満の酢酸亜鉛水和物を微細粒子として以下説明する。
ここで、D50は、体積基準での50%積算粒径を意味し、粗大粒子は、例えば、D50が100μm~400μmであることが好ましく、D50が200μm~300μmであることがより好ましい。
また、微細粒子は、例えば、D50が1μm~10μmであることが好ましく、D50が3~6μmであることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る医薬組成物は、製剤形態の中でも携帯性等の観点から固形状製剤が好ましい。
固形状製剤としては、錠剤、トローチ剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、ドライシロップ剤、カプセル剤等が例として挙げられる。
本発明に係る医薬組成物は、錠剤や顆粒剤が特に好ましいが、これに限定するものではない。
【0017】
本発明に係る医薬組成物には、酢酸亜鉛水和物、上記油状成分以外にこの分野で通常使用される添加剤、例えば、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、矯味剤、着色剤などを含めることができる。
例えば、賦形剤は特に限定されないが、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、乳糖水和物、バレイショデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウムなどを適宜組み合わせて使用することができる。
また、滑沢剤は特に限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステルなどを使用することができる。
【0018】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
[実験例1]添加剤の配合適性を確認する実験
酢酸亜鉛水和物は、粗大粒子(D50≒237μm)と微細粒子(D50≒5μm)の2種類から選択した。
油状成分として、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、食用油、酢酸モノグリセリド、トリアセチン、クエン酸トリエチルを選択し、酢酸亜鉛水和物に対して油状成分を滴下し浸潤させて実施例1~9の試料を調製した。
食用油は、中鎖脂肪酸トリグリセリド又は長鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する油脂の例として使用し、本実施例においてはヘルシーリセッタ(商品名)、日清オイリオグループ株式会社製を使用した。
比較例として、酢酸亜鉛水和物に添加剤を添加しない比較例1,2、参考例として、アルコール系可塑剤であるマクロゴール400、プロピレングリコールを選択して酢酸亜鉛水和物に対して滴下し浸潤させて参考例1~4の試料を調製した。
具体的な成分とその成分量を、下記の表1,表2に示す。
【表1】
【表2】
【0020】
上記実施例1~9、比較例1、2及び参考例1~4に対して、熱重量分析装置を用いて20℃から60℃まで昇温速度1℃/分で温度制御し、40℃、50℃および60℃到達時点における試料をサンプリングして、その重量減少率を算出し、結晶水の消失を重量減少にて評価した。
なお、重量減少率は、添加剤重量を差し引いて原薬である酢酸亜鉛水和物の重量変化量に換算した値である。
その結果を、下記の表3,表4に示す。
【表3】
【表4】
【0021】
上記表3の結果から、粗大粒子である酢酸亜鉛水和物に対して油状成分を2μL/mg添加した実施例1~5は、添加剤を添加しない比較例1に比べて、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少率がいずれも低くなった。
油状成分の中でも、油質の賦形剤である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、食用油、酢酸モノグリセリドを添加した実施例1~3は、50℃および60℃における重量減少率がより低く、40℃から50℃、60℃への温度上昇に対して、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失による重量減少が抑制されていた。
特に、MCT、食用油を添加した実施例1、2は、40℃における重量減少率と60℃における重量減少率がほとんど変わらず、温度上昇に伴う結晶水の消失がほとんど抑制されている。
また、上記表4の結果から、微細粒子である酢酸亜鉛水和物に対して油状成分を2μL/mg添加した実施例6~9も、添加剤を添加しない比較例2に比べて、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少率がいずれも低く、油質の賦形剤を添加した実施例6~8は、50℃および60℃における重量減少率がより低くなった。
ここで、酢酸亜鉛水和物は、比較例1、2の結果から、その粒子径の違いによって40℃の温度条件下では重量減少率にほとんど違いがみられないものの、50℃、60℃と温度が上昇することで、粗大粒子に比べて微細粒子である酢酸亜鉛水和物の重量減少率が増大することが明らかとなった。
微細粒子である酢酸亜鉛水和物については、アルコール系可塑剤に分類されるマクロゴール400やプロピレングリコールを添加した場合にも、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少率を低くできたため、参考例3、4として表中に示した。
【0022】
次に、添加剤の添加量による効果を確認した。
【0023】
[実験例2]添加剤の添加量適性を確認する実験
酢酸亜鉛水和物は、粗大粒子(D50≒237μm)と微細粒子(D50≒5μm)の2種類から選択した。
油状成分として中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を選択し、酢酸亜鉛水和物に対して油状成分を各添加量滴下し浸潤させて実施例1,6,10~15の試料を調製した。
また、比較例として、酢酸亜鉛水和物に添加剤を添加しない比較例1,2を用いた。
具体的な成分とその成分量を、下記の表5,表6に示す。
【表5】
【表6】
【0024】
上記実施例1,6,10~15及び比較例1、2に対して、熱重量分析装置を用いて20℃から60℃まで昇温速度1℃/分で温度制御し、40℃、50℃および60℃到達時点における試料をサンプリングして、その重量減少率を算出し、結晶水の消失を重量減少にて評価した。
なお、重量減少率は、添加剤重量を差し引いて原薬である酢酸亜鉛水和物の重量変化量に換算した値である。
その結果を、下記の表7,表8に示す。
【表7】
【表8】
【0025】
上記表7の結果から、粗大粒子である酢酸亜鉛水和物に対して中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を0.125μL/mg~2μL/mgの範囲で添加した実施例1,10~13は、添加剤を添加しない比較例1に比べて、その添加量にかかわらず50℃、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少率がいずれも低くなった。
実施例1,10~13を比べると、MCT添加量の最も多い実施例1は、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少抑制効果が最も高いが、40℃、50℃における重量減少率に関してはMCT添加量による違いはほとんど認められず、いずれも酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制する結果となった。
また、上記表8の結果から、微細粒子である酢酸亜鉛水和物に対してMCTを0.5μL/mg~2μL/mgの範囲で添加した実施例6,14,15も、添加剤を添加しない比較例2に比べて、50℃、60℃における酢酸亜鉛水和物の重量減少率がいずれも低くなった。
【0026】
次に、本発明に係る医薬組成物として、錠剤又は造粒物を実施例とした具体的な処方例に基づき、以下説明する。
【0027】
<錠剤>
酢酸亜鉛水和物、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、結晶セルロースを袋混合し、その後、ステアリン酸マグネシウムを追加してさらに混合を行った。
この混合物を、打錠機(機種:HANDTAB-200、市橋精機株式会社製あるいは機種:VIRGO、株式会社菊水製作所製)を用いて打錠成形し、実施例16の錠剤とした。
比較例3は、MCTを添加せずに上記混合、打錠により錠剤とした。
なお、本実施例における酢酸亜鉛水和物は粗大粒子(D50≒269μm)を用いた。
錠剤を比較評価した処方例を、下記の表9に示す。
【表9】
【0028】
《重量変化測定》
上記実施例16及び比較例3の各錠剤10錠を、50℃に設定した定温乾燥器(型式:DS401、ヤマト科学株式会社製)に入れ、経時的(0分、30分、60分、120分、240分、480分)に電子天秤で重量を測定した。
重量測定後は速やかに定温乾燥器に戻し、同じ錠剤について重量変化を測定した。
結果を表10、図1に示す。
【表10】
【0029】
上記表10,図1の結果から、酢酸亜鉛水和物に対して中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を0.1mg/mg含有している実施例16は、MCTを添加していない比較例3に比べて、酢酸亜鉛水和物の水分減少率が50℃、各時間(30分、60分、120分、240分、480分)において、いずれも低くなった。
【0030】
《X線回折測定》
50℃で各時間(0分、30分、60分、120分、480分)乾燥させた上記実施例16及び比較例3の錠剤を、X線回折装置(機種:MiniFlex600、波長:1.5418オングストローム[CuKα]、株式会社リガク製)を用いて測定し、原薬である酢酸亜鉛水和物ピーク面積(2θ=12.5±0.2°)と無水物ピーク面積(2θ=12.0±0.2°)から、無水物ピーク面積比を算出することにより無水物含有率を算出した。
結果を表11、図2に示す。
【表11】
【0031】
上記表11,図2の結果から、50℃、各時間(30分、60分、120分、480分)における酢酸亜鉛水和物の無水物含有率は、比較例3に比べて実施例16がいずれの時間においても低くなった。
以上のことから、重量変化測定試験の結果だけでなくX線回折測定の結果からも、MCT添加による酢酸亜鉛水和物の結晶水消失抑制効果が認められた。
【0032】
<造粒物>
酢酸亜鉛水和物、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、結晶セルロースを混合して、流動層造粒機(型式:MP-01、株式会社パウレック製)に投入した。
その後、ヒドロキシプロピルセルロースを精製水にて溶解した水溶液を用いて、噴霧造粒し、実施例17の造粒物を得た。
比較例4は、MCTを添加せずに上記噴霧造粒により造粒物とした。
なお、本実施例における酢酸亜鉛水和物は粗大粒子(D50≒269μm)を用いた。
造粒物を比較評価した処方例を、下記の表12に示す。
【表12】
【0033】
《製品温度におけるX線回折測定》
上記造粒後の実施例17及び比較例4を、造粒物の温度が35℃、40℃、45℃、50℃になるまで乾燥し、各品温となった時点でX線回折装置(機種:MiniFlex600、波長:1.5418オングストローム[CuKα]、株式会社リガク製)を用いて測定し、原薬である酢酸亜鉛水和物ピーク面積(2θ=12.5±0.2°)と無水物ピーク面積(2θ=12.0±0.2°)から、無水物ピーク面積比を算出することにより無水物含有率を算出した。
この結果を、製品温度における無水物含有率として表13、図3に示す。
【表13】
【0034】
上記表13,図3の結果から、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を添加していない比較例4は、造粒物の製造工程における造粒後の乾燥により品温を35℃、40℃にした際には酢酸亜鉛水和物の無水物含有率が約1%であったのに対し、品温45℃、50℃に乾燥した場合はそれぞれ11.6%、15%と無水物含有率を増大させた。
一方、酢酸亜鉛水和物に対してMCTを0.1mg/mg含有している実施例17は、いずれの品温(35℃、40℃、45℃、50℃)に乾燥した場合であっても、無水物含有率の値が0%~0.2%と低く、ほぼ酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制した。
【0035】
《保存後再乾燥温度におけるX線回折測定》
上記品温50℃まで乾燥した実施例17及び比較例4を、その後保管室(0℃~30℃)で3日間保存した。
保存後の実施例17及び比較例4を流動層造粒機に再投入し、造粒機から排出される空気温度が35℃、40℃、45℃、50℃になるまで再度乾燥し、各排気温度となった時点でX線回折装置(機種:MiniFlex600、波長:1.5418オングストローム[CuKα]、株式会社リガク製)を用いて測定し、原薬である酢酸亜鉛水和物ピーク面積(2θ=12.5±0.2°)と無水物ピーク面積(2θ=12.0±0.2°)から、無水物ピーク面積比を算出することにより無水物含有率を算出した。
この結果を、保存後再乾燥温度における無水物含有率として表14、図4に示す。
【表14】
【0036】
上記表14、図4の結果から、MCTを添加していない比較例4は、排気温度35℃においてすでに16.9%と無水物化が進行し、排気温度が上昇するとより酢酸亜鉛水和物の無水物含有率が増大していた。
一方、実施例17は排気温度35℃において無水物含有率を0.3%に抑制し、排気温度40℃~50℃においても、その無水物含有率が比較例4と比べて低い値であった。
【0037】
以上のことから、酢酸亜鉛水和物に油状成分、特に油質の賦形剤を添加することで、温度条件をコントロール、例えば品温を40℃未満にコントロールしなくても、酢酸亜鉛水和物中の結晶水の消失を抑制できることが明らかとなった。
また、酢酸亜鉛水和物は、その亜鉛イオンが酸化反応によって酸化亜鉛に化学的変化することが懸念されるため、油状成分の添加により酢酸亜鉛水和物の酸化防止効果も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】乾燥時間毎の錠剤の水分減少率変化を示すグラフである。
図2】乾燥時間毎の錠剤の無水物含有率変化を示すグラフである。
図3】造粒物の製品温度における無水物含有率変化を示すグラフである。
図4】造粒物の保存後再乾燥温度における無水物含有率変化を示すグラフである。
図1
図2
図3
図4