(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125858
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】金属溶解装置
(51)【国際特許分類】
F27B 3/28 20060101AFI20220822BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
F27B3/28
F27D19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023677
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網干 甚吾
(72)【発明者】
【氏名】師玉 隆志
【テーマコード(参考)】
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045DA01
4K045RB02
4K056AA05
4K056BB08
4K056FA04
(57)【要約】
【課題】電極からのアーク放電によって金属材料を溶解させる際に、金属材料の溶解があまり進んでいない時期から、電極の先端の位置を精度良く推定し、推定結果に基づいて電極の高さ位置を制御できる金属溶解装置を提供する。
【解決手段】電極昇降装置30と、電極測長装置40と、金属材料Mの溶解の進行に伴って、電極昇降装置40によって電極を下降させる昇降制御部52と、金属材料Mの溶解を開始する前に電極測長装置40によって実測した電極15の長さと、電極15に投入した電力量に応じた電極15の消耗量に基づいて、金属材料Mの溶解中の電極15の先端15aの高さ位置を推定する電極評価部53と、電極15に供給する電圧を制御する電圧制御部51と、を有し、電圧制御部51は、金属材料Mの溶解中に、電極評価部53によって推定された電極15の先端15aの高さ位置に基づいて、電極15に供給する電圧を制御する、金属溶解装置1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を収容する炉体と、
前記炉体内に挿入され、前記金属材料との間にアークを発生させ、前記金属材料を溶解させる電極と、
前記電極を把持部にて把持し、前記炉体に対する前記電極の高さ位置を調整する電極昇降装置と、
前記電極の長さを計測する電極測長装置と、
前記金属材料の溶解の進行に伴って、前記電極昇降装置によって前記電極を下降させる昇降制御部と、
前記金属材料の溶解を開始する前に前記電極測長装置によって実測した前記電極の長さと、前記電極に投入した電力量に応じた前記電極の消耗量に基づいて、前記金属材料の溶解中の前記電極の先端の高さ位置を推定する電極評価部と、
前記電極に供給する電圧を制御する電圧制御部と、を有し、
前記電圧制御部は、前記金属材料の溶解中に、前記電極評価部によって推定された前記電極の先端の高さ位置に基づいて、前記電極に供給する電圧を制御する、金属溶解装置。
【請求項2】
前記電圧制御部は、前記電極評価部によって推定された前記電極の先端の高さ位置が、基準位置よりも低くなると、前記電極に供給する電圧を、低水準値から高水準値へと上昇させる、請求項1に記載の金属溶解装置。
【請求項3】
前記炉体の炉底を基準として、前記炉体の高さをL、前記把持部の高さ位置をL1とし、
前記把持部から前記電極の先端までの高さ方向の距離をL2として、
前記基準位置は、(L1-L2)/Lが0.5以上0.7以下となる前記電極の高さ位置として定められている、請求項2に記載の金属溶解装置。
【請求項4】
前記高水準値は、前記電極に電力を供給する変圧器の二次側最大電圧に対して、85%以上95%以下に定められている、請求項2または請求項3に記載の金属溶解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解装置に関し、さらに詳しくは、電極の高さを制御しながら、アーク放電によって金属材料を溶解させる金属溶解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属スクラップ等の金属材料を電極からのアーク放電によって溶解するアーク炉においては、金属材料に対する電極の高さ位置を調整するために、電極昇降装置が設けられることが多い。電極昇降装置を用いて、金属材料に対する電極先端の高さ位置を調整することで、金属材料の溶解にかかる条件を制御することができる。金属材料の溶解を効率的に進めるための条件は、炉内の金属材料の状態や、金属材料と電極の位置関係等に依存するため、炉内の金属材料の状態や、電極の高さ位置、あるいはそれらを反映するパラメータを、電極への投入電力等、溶解にかかる条件の制御に利用することができる。
【0003】
例えば、特許文献1では、電気炉の炉壁内部及び炉壁外面のうち複数の位置で測定した温度に基づいて、炉壁の内周面における熱流束を算出し、その算出結果に基づいてスクラップ(金属材料)の溶け落ちの開始を判定している。また、特許文献2では、被溶解物(金属材料)が炉体の内壁に固着して生成される塊状物の溶融温度として予め定められる温度の位置を連ねて作成される炉内プロフィールと、電極の位置に基づいて、操業条件の調整を行っている。特許文献2では、電極の位置は、炉体の縁などに定められる基準位置から電極が相対的に変位した量を昇降量測定器で測定される電極長さと、電極の基準位置からの変位量とに基づいて推定される。電極先端の高さ位置によって溶解にかかる条件を制御する場合に、電極の長さを実測することが重要となる。例えば特許文献3に、炉体の外で電極の長さを実測する電極測長装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-226864号公報
【特許文献2】特開2008-116066号公報
【特許文献3】特開2016-148465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電極からのアーク放電によって金属材料を溶解させる際に、エネルギーロスを抑える観点からは、投入した電力が高効率で金属材料の加熱に用いられるように、金属材料と電極との位置関係に基づいて、電極への投入電力を制御することが有効である。この際、金属材料と電極との位置関係を正確に評価することが、投入電力の制御によるエネルギーロスの削減に、重要となる。特に、電極の周囲に金属材料が豊富に存在する溶解の初期に、積極的に電力を投入して金属材料の溶解を高速で進行させることが、エネルギーロスの低減に有効となる。
【0006】
しかし、特許文献1に開示される溶け落ちの判定や、特許文献2に開示される炉内プロフィールの作成のように、炉壁における温度分布から炉内の状況を推定する形態においては、溶解初期において、炉内の金属材料が占める体積が大きい状況では、炉壁への抜熱量が小さいため、炉内の金属材料の状況を高精度に推定しにくい。また、特許文献2では、炉内プロフィールとともに電極の位置を操業条件の調整に用いているが、電極の位置は、昇降量測定器で測定される電極長さに基づいて推定されている。昇降量測定器は、電極昇降装置による電極の昇降量を計測するのみであり、金属材料の溶解を継続する間に、電極の先端が消耗しても、その消耗が、推定される電極長さに反映されない。特許文献3に開示される電極測長装置は、電極の長さを高精度に実測できるものではあるが、炉体の外で計測を行うため、同様に、金属材料の溶解中に電極の先端が消耗することまで取り込んで、正確に電極の長さを計測できるものではない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、電極からのアーク放電によって金属材料を溶解させる際に、金属材料の溶解があまり進んでいない時期から、電極の先端の位置を精度良く推定し、推定結果に基づいて電極の高さ位置を制御することができる金属溶解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる金属溶解装置は、金属材料を収容する炉体と、前記炉体内に挿入され、前記金属材料との間にアークを発生させ、前記金属材料を溶解させる電極と、前記電極を把持部にて把持し、前記炉体に対する前記電極の高さ位置を調整する電極昇降装置と、前記電極の長さを計測する電極測長装置と、前記金属材料の溶解の進行に伴って、前記電極昇降装置によって前記電極を下降させる昇降制御部と、前記金属材料の溶解を開始する前に前記電極測長装置によって実測した前記電極の長さと、前記電極に投入した電力量に応じた前記電極の消耗量に基づいて、前記金属材料の溶解中の前記電極の先端の高さ位置を推定する電極評価部と、前記電極に供給する電圧を制御する電圧制御部と、を有し、前記電圧制御部は、前記金属材料の溶解中に、前記電極評価部によって推定された前記電極の先端の高さ位置に基づいて、前記電極に供給する電圧を制御する。
【0009】
ここで、前記電圧制御部は、前記電極評価部によって推定された前記電極の先端の高さ位置が、基準位置よりも低くなると、前記電極に供給する電圧を、低水準値から高水準値へと上昇させるものであるとよい。
【0010】
この場合に、前記炉体の炉底を基準として、前記炉体の高さをL、前記把持部の高さ位置をL1とし、前記把持部から前記電極の先端までの高さ方向の距離をL2として、前記基準位置は、(L1-L2)/Lが0.5以上0.7以下となる前記電極の高さ位置として定められているとよい。
【0011】
また、前記高水準値は、前記電極に電力を供給する変圧器の二次側最大電圧に対して、85%以上95%以下に定められているとよい。
【発明の効果】
【0012】
上記発明にかかる金属溶解装置においては、電極評価部による電極の先端の高さ位置の推定に、金属材料の溶解を開始する前に電極測長装置によって実測した電極の長さと、電極に投入した電力量に応じた電極の消耗量の両方を考慮している。よって、金属材料の溶解による電極の消耗を加味して、金属材料の溶解があまり進んでいない時期から、溶解がかなり進行した時期に至るまで、金属材料の溶解を行っている間の各時点における電極の先端の高さ位置を、精度良く推定することができる。そして、電圧制御部が、そのように推定された電極の先端の高さ位置に基づいて、電極に供給する電圧を制御するため、エネルギー効率の向上等、目的に応じた投入電力の制御を、高精度に行うことが可能となる。
【0013】
ここで、電圧制御部が、電極評価部によって推定された電極の先端の高さ位置が、基準位置よりも低くなると、電極に供給する電圧を、低水準値から高水準値へと上昇させるものである場合には、ある程度金属材料の溶解が進行し、電極の先端の高さ位置が低くなった状態で、電極に供給する電圧を増大させることにより、金属材料の溶解工程全体としてのエネルギー効率を、高めることができる。
【0014】
この場合に、炉体の炉底を基準として、炉体の高さをL、把持部の高さ位置をL1とし、把持部から電極の先端までの高さ方向の距離をL2として、基準位置が、(L1-L2)/Lが0.5以上0.7以下となる電極の高さ位置として定められていれば、炉壁等、設備部材におけるスパークの発生を避けながら、金属材料の溶解の比較的初期に、電極への投入電力を増大させることができ、金属材料の溶解の工程全体としてのエネルギー効率が、効果的に高められる。
【0015】
また、高水準値が、電極に電力を供給する変圧器の二次側最大電圧に対して、85%以上95%以下に定められている場合には、電源装置への過剰な負荷の印加を避けながら、効果的に電極への投入電力を増大させ、金属材料の溶解におけるエネルギー効率の向上に寄与させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置の構成を示す図である。
【
図2】電極高さに関わるパラメータを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
[金属溶解装置の構成]
まず、本発明の一実施形態にかかる金属溶解装置1の構成について、簡単に説明する。
図1に、金属溶解装置1の概略を示す。金属溶解装置1は、炉体11および電極15を備えたアーク炉10と、電極昇降装置30と、電極測長装置40と、制御装置50とを有している。制御装置50は、電圧制御部51と、昇降制御部52と、電極評価部53と、を有している。
【0019】
アーク炉10においては、炉体11に金属スクラップ等の金属材料Mを収容する。そして、蓋12を貫通させて、電極15を炉体11の内部に挿入し、電極15と金属材料Mの間で、アーク放電を行うことで、金属材料Mを加熱し、溶解させる。電極15は、電極昇降装置30の把持部31にて把持され、電極昇降装置30によって、高さ位置を変更可能となっている。図示した形態では、電極15は1本のみとしているが、3本等、複数の電極15を設けてもよい。電極15が複数設けられる場合にも、後に説明する電極15の高さ位置の制御、電極15の先端15aの高さ位置の推定、電極15に供給する電圧の制御は、各電極15に対して独立に行われる。
【0020】
アーク炉10に電力を供給する電源回路20には、タップチェンジャを備えた炉用変圧器21が設けられており、炉用変圧器21の一次側回路22が商用電源に接続されている。炉用変圧器21の二次側回路23は、電極15に至っており、電極15に電力を供給する。電極15には、二次側回路23から、三相交流が供給される。炉用変圧器21は、制御装置50の電圧制御部51による制御を受けて、出力パターンを変化させることで、電極15に供給する電圧を変化させることができる。すなわち、電極15に投入する電力を変化させることができる。二次側回路23には、計器用変流器および計器用変圧器が設けられており(図では、二次側計測器25として一括して簡略表示している)、二次側回路23の電流および電圧を計測可能となっている。二次側計測器25によって計測された二次側回路23の電流および電圧は、制御装置50に入力され、後に説明する電極15の昇降制御のための情報として用いられるとともに、電極15の先端位置の推定のための、電極15の消耗量の見積もりに用いられる。
【0021】
電極昇降装置30は、把持部31と、駆動部32とを有しており、駆動部32の駆動軸33と把持部31が、支持部材34を介して接続されている。把持部31は、電極15を挟み込んで把持するクランプ状の部材である。駆動部32は、電動機または油圧シリンダ等より構成され、上下方向に駆動軸33の運動を駆動することができる。駆動部32による上下運動の駆動により、把持部31に把持された電極15の昇降運動が駆動され、炉体11に対する電極15の高さ位置を変化させることができる。駆動部32は制御装置50に接続されており、駆動部32による電極15の昇降は、制御装置50の昇降制御部52によって制御される。駆動部32には、リニアエンコーダより構成された位置検知部35が設けられ、駆動軸33が上下方向に移動した距離に基づき、把持部31の上下方向の位置を検知することができる。電極昇降装置30は、電極15を保持したまま、軸回転することもできる。
【0022】
電極測長装置40は、電極昇降装置30の把持部31によって把持された電極15に対して、電極昇降装置30の把持部31の位置から電極15の先端15aまでの距離を計測する装置である。電極測長装置40としては、特許文献3に開示された装置等を利用することができる。詳細な説明は省略するが特許文献3の電極測長装置40においては、砂42を充填され、下方からコイルばね43で支持された容器41に、電極昇降装置30による下降を利用して、把持部31にて把持した電極15を上方から進入させる。そして、容器41の下方に取り付けたリミットスイッチ44によって、容器41の下降が検知されるまでの把持部31の移動量に基づいて、電極15の長さを算出するものである。電極15の長さの算出は、リミットスイッチ44からの出力と、電極昇降装置30に設けられた位置検知部35からの出力を、制御装置50の電極評価部53に入力して行う。電極評価部53は、位置検知部35の出力値に基づいて、基準位置からの把持部31の移動量を算出し、それをもとに、電極15の長さ、つまり把持部31によって把持された箇所から先端15aまでの長さを評価する。
【0023】
制御装置50は、コンピュータ等の演算・制御装置として構成されており、その機能の一部として、電圧制御部51、昇降制御部52、電極評価部53を有している。これらのうち、昇降制御部52は、電極昇降装置30の駆動部32に指令信号を発することで、電極15の昇降を駆動することができる。電極15の昇降は、蓋12の開閉を行う場合や、電極15を炉体11から引き上げて、電極測長装置40による測長等、炉外での操作を行う場合の他、炉体11の中で金属材料Mを溶解させる間、溶解にかかる条件を制御するために、実施される。金属材料Mを溶解させる間の電極15の高さ位置の制御としては、金属材料Mの溶解の進行に伴って、電極昇降装置30によって電極15を下降させる制御を行う。つまり、金属材料Mの溶解が進行し、固体状態から溶融状態となった金属材料Mの割合が増大し、金属材料Mが全体として占める体積が減少するほど、電極15の高さ位置が下げられる。この電極15の高さ位置の制御は、インピーダンス制御によって行うことができる。つまり、昇降制御部52に二次側計測器25から、二次側回路23における電流値(V)と電流値(I)が入力され、V/Iとして算出される電極15と金属材料Mの間のインピーダンスを指標とし、そのインピーダンスを所定の値に維持するように、電極15の高さ位置の制御が行われる。
【0024】
電極評価部53は、上記のように、金属材料Mの溶解を行っておらず、炉外で、電極測長装置40によって電極15の長さを計測する際は、電極測長装置40および電極昇降装置30からの信号入力を受け、電極15の長さを評価する役割を果たす。さらに、電極評価部53は、電極15を炉体11の中に配置し、金属材料Mの溶解を行っている間は、電極15の長さと、電極昇降装置30から入力される把持部31の高さ位置に基づいて、電極15の先端15aの高さ位置(炉底11aから電極15の先端15aまでの高さ方向の距離)を推定することができる。この先端15aの高さ位置の推定に用いる電極15の長さの値は、金属材料Mの溶解を開始する前に電極測長装置40によって実測した電極15の長さと、アーク放電による金属材料Mの溶解に伴う電極15の消耗量に基づいて推定される。具体的には、電極評価部53は、二次側計測器25から電流値と電圧値の入力を受け、その時点までに電極15に投入した電力量を算出し、その電力量に応じて、電極15の消耗量を見積もる。そして、金属材料Mの溶解を開始する前に電極測長装置40によって実測した電極15の長さから、その消耗量を減じて、金属材料Mを溶解させている間の各時点における電極15の長さを見積もる。電極15の消耗量の見積もりには、算出された上記電力量と電極15の消耗量の関係を、事前の試験によって評価しておいた情報を用いればよい。
【0025】
図2に示すように、炉体11の炉底11aを基準として、把持部31の高さ位置をL1、把持部31から電極15の先端15aまでの高さ方向の距離をL2とする。把持部31の高さ位置L1は、電極昇降装置30から電極評価部53へと入力される。距離L2は、上記のように、金属材料Mの溶解開始前に実測した電極長から、溶解中の電極15の消耗量を減じて、電極評価部53によって推定される値である。この場合に、金属材料Mの溶解中の各時点における電極15の先端15aの高さ位置は、L1-L2として見積もることができる。
【0026】
電圧制御部51は、金属材料Mの溶解中に、電極評価部53によって上記のようにして推定された電極15の先端15aの高さ位置に基づいて、炉用変圧器21を制御し、二次側回路23から電極15に供給する電圧を制御する。電圧制御部51による電圧の制御について、次に詳しく説明する。
【0027】
[電極の先端の高さ位置に基づく電圧の制御]
上記のように、本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、電極評価部53によって、金属材料Mの溶解中に推定された電極15の先端15aの高さ位置に基づいて、電圧制御部51によって、電極15に供給する電圧が制御される。金属材料Mの溶解が進行するに従って、電極15が下降されるので、電極15の先端15aの高さ位置は、金属材料Mの溶解の進行の程度を示す良い指標となる。その指標に基づいて、金属材料Mの溶解の進行の程度に応じて適した水準に、電極15に供給する電圧を制御すればよい。
【0028】
例えば、金属材料Mの溶解の進行の程度によって、エネルギー効率、つまり、電極15に供給した電力量のうち、金属材料Mの加熱に利用される電力量の割合を高められるように、電極15に供給する電圧を変化させればよい。金属材料Mとの間でアーク放電を開始してから、金属材料Mの溶解がまだわずかしか進行していない段階では、電極15に供給する電圧を低く抑えておく一方、金属材料Mの溶解がある程度進行し始めたら、電圧を上昇させることが、エネルギー効率の点で好ましい。金属材料Mの溶解がわずかしか進行しておらず、電極15の表面の多くの部分が、炉壁等、炉内の設備部材に面している段階では、電極15の先端15aと金属材料Mの間にアークが発生する以外に、炉壁等、炉内の設備部材との間に、スパークが発生し、金属材料Mの溶解以外にもエネルギーが消費されやすいので、過剰に電極15に供給する電圧を上昇させない方が好ましい。一方で、金属材料Mの溶解がある程度進行し始め、電極15が下降されると、電極15の周囲を囲む金属材料Mの量が多くなり、不要なスパークが発生しにくくなるので、電極15に供給する電圧を上昇させ、金属材料Mに大きな熱量を投入することで、金属材料Mの溶解を効率的に進めることができる。このようにして、金属材料Mの溶解の全工程のトータルとして、エネルギー効率を高め、エネルギーロスを削減することができる。
【0029】
電極15の下降に伴って、電極15に供給する電圧を連続的に上昇させても、段階的に不連続に変化させてもよい。制御の簡便性においては、電圧を段階的に変化させる形態の方が好ましい。この場合に、電圧を2段階の水準の間で変化させることが好ましいが、さらに多数の段階に区切って、電圧を変化させてもよい。
【0030】
本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、インピーダンス制御によって、金属材料Mの溶解が進行するほど電極15の高さ位置を下げる制御が行われており、金属材料Mの溶解の進行の程度を示す指標として、電極15の先端15aの高さ位置が利用される。電極15の先端15aの高さ位置は、特許文献1に開示されるような炉壁の温度分布等とは異なり、金属材料Mの溶解があまり進行していない初期の段階から、金属材料Mの溶解の進行の程度を正確に、また敏感に反映するパラメータである。よって、電極15の先端15aの高さ位置に基づいて、電極15に供給する電圧を制御することで、金属材料Mの溶解があまり進行していない段階であっても、金属材料Mの溶解の進行の程度に応じて、エネルギー効率の向上等、目的に応じた電圧の制御を、正確に行うことが可能となる。上記のように、金属材料Mの溶解がわずかしか進行していない段階では、大きな電力を電極15に供給しても、スパークの発生によって、エネルギーロスが生じやすいが、溶解が定常的に進行し始めると、その溶解の進行の比較的初期の段階から、積極的に大きな電力を投入することで、未溶融の金属材料Mに効率的に熱を与えて、溶解の全工程のトータルとして、金属材料Mの加熱・溶解に電力を高効率で利用することができる。
【0031】
さらに、本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、電極評価部53で推定され、電極15に供給する電圧の制御の指標として用いられる電極15の先端15aの高さ位置が、金属材料Mの溶解を開始する前に、炉外の電極測長装置40によって実測した電極長から、金属材料Mの溶解中のアーク放電に伴う電極15の消耗量を減じて推定された、金属材料Mの溶解中の各時点における電極長に基づくものであるため、電極15の先端位置の推定を、高精度に行うことができる。電極測長装置40で電極長を実測しておくことにより、溶解開始前の電極長を、正確に把握することができる。さらに、金属材料Mの溶解の進行に伴って、電極15は消耗されて徐々に短くなるが、二次側計測器25で計測された投入電力量に基づいて推定される電極15の消耗量を考慮することで、金属材料Mを溶解させている最中の電極長を、リアルタイムで推定することが可能となる。すると、金属材料Mの溶解があまり進んでおらず、電極15の消耗量が少ない初期の段階から、金属材料Mの溶解が大きく進行し、電極15の消耗量が多くなる溶解の終盤の時期に至るまで、各時点における電極15の先端15aの高さ位置を、精度よく推定し、電極15に供給する電圧の制御に利用することができる。その結果、エネルギー効率の向上等の目的が、金属材料Mの溶解の進行の程度に応じた電圧の制御によって、効果的に達成されるようになる。
【0032】
上記のように、金属材料Mの溶解の工程の全体を通じたトータルとしてのエネルギー効率を高めるためには、金属材料Mの溶解がある程度進行した段階で、電極15に供給する電圧を上昇させる制御が有効である。電極15の先端15aの高さ位置に対して、具体的にどのように電極15に供給する電圧を変化させるかは、特に限定されるものではないが、例えば、電極評価部53によって推定された電極15の先端15aの高さ位置が、基準位置よりも低くなると、電極15に供給する電圧を、低水準値から高水準値へと上昇させる形態を、好適なものとして挙げることができる。
【0033】
この場合に、電極15に供給する電圧を低水準値から高水準値へと切り替える電極15の先端15aの基準位置は、例えば以下のように定めることができる。上記のように、金属材料Mを溶解させている間の電極15の高さ位置は、L1-L2として見積もられる。この場合に、炉底11aを基準に、炉体11の高さをLとし、相対高さL’を、L’=(L1-L2)/Lとして、電極15に供給する電圧を切り替える基準位置を、相対高さL’が、0.5以上、かつ0.7以下となる範囲で定めればよい。相対高さL’の値が大きいほど、電極15の先端15aが高い位置に存在することになる。L’=0が炉底11aの位置に対応し、L’=1が炉体11の上端縁の位置に対応する。基準位置における相対位置L’を0.5以上とすることで、金属材料Mの溶解の全工程のうちで、電極15の位置が大きく下降していない、比較的初期の段階で、電圧を高水準値に切り替えることになる。すると、炉内に未溶融の金属材料Mが豊富に存在する段階で、その未溶融の金属材料Mに積極的に熱を投入することになり、エネルギー効率を向上させることができる。一方、基準位置における相対位置L’を0.7以下とすることで、電極15の位置がまだ十分に下がっていないために、金属材料Mに周囲を囲まれていない電極15と、炉壁等の設備部材との間にスパークが発生しやすい段階で、電圧を高水準値に切り替えて、スパークの発生にエネルギーを消費してしまう事態を、抑制することができる。なお、通常、金属スクラップ等、溶融対象の金属材料Mを炉体11に収容する際に、その金属材料Mの上面の位置は、相対高さL’で、0.9~1.0程度とされる。
【0034】
電極15の先端15aの高さ位置が上記の基準位置よりも低くなってから採用する値である高水準値は、炉用変圧器21の二次側最大電圧の85%以上95%以下に定めておくとよい。ここで、二次側最大電圧は、炉用変圧器21が二次側回路23に出力できる最大の電圧を示す。高水準値を、二次側最大電圧の85%以上とすることで、電極15の先端15aの高さ位置が基準位置よりも低くなった状態で、大きな電力を投入することになり、金属材料Mの溶解におけるエネルギー効率を、効果的に向上させることができる。好ましくは、高水準値を、二次側最大電圧の90%以上とするとよい。一方、高水準値を、二次側最大電圧の95%以下に抑えておくことで、炉用変圧器21等、電源設備への過剰な負荷の印加を回避しやすくなる。
【0035】
本実施形態にかかる金属溶解装置1においては、アーク放電による電極15の消耗を考慮した電極15の先端15aの高さ位置を利用することで、炉内の状態を反映する他のパラメータによらなくても、高精度に、金属材料Mの溶解の進行の程度を判定し、投入電力の制御を行うことができる。しかし、投入電力の制御を行うための指標として、炉内の金属材料Mの溶解状態を反映する他のパラメータを、電極15の先端15aの高さ位置の情報と併用することもできる。そのようなパラメータとして、特許文献1,2に開示されるような炉壁における温度分布や、出願人による特開2020-016345号公報に詳しく説明されている、炉体11からの発生音の周波数分布、および一次側回路22における高周波成分の強度等、炉内の状況を反映するパラメータを用いることができる。電極評価部53によって推定される電極15の先端15aの高さ位置と、それらのパラメータとを総合して推定される金属材料Mの溶解の進行度が、所定の閾値を超えた段階で、電極15に供給する電圧を、低水準値から高水準値に切り替えればよい。
【実施例0036】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0037】
[試験方法]
図1に示し、上に説明した構成を有する金属溶解装置を用い、鉄スクラップの溶解を行った。電極の本数は3本とした。溶解に際し、電極に供給する電圧を低水準値から高水準値へと切り替える際の電極の先端の基準位置を、相対高さL’(=(L1-L2)/L)で0.2から1.0まで、0.1刻みで変化させて、複数回の溶解を行った。ここで、0.2との相対高さL’は、金属溶解装置の設備構成上、電極を最大限下降させて操業できる位置に対応する。
【0038】
溶解を行う間、設備部材と電極との間のスパークの発生の有無を、目視にて観察するとともに、電力ロス指標を見積もった。電力ロス指標とは、電極に投入した電力量のうち、金属材料の溶解に用いられなかった電力量(炉壁抜熱量から算出)の割合を示すものであり、ここでは、電極の先端の基準位置をL’=0.2とした際の値を100%の基準として、電力ロス指標を表示する。
【0039】
[試験結果]
下の表1に、電極に供給する電圧を切り替える際の電極の先端の基準位置と、スパークの発生状態および電力ロス指数の関係をまとめる。電極の先端の基準位置をL’=0.8以上とした場合については、スパークの発生のために、溶解試験を続けることができず、電力ロス指標を見積もれなかった。
【0040】
【0041】
表1によると、電極に供給する電圧の切り替えを行う電極先端の基準位置が、相対高さL’で0.5以上0.7以下の範囲では、電極と設備部材との間のスパークの発生が、起こっていないか、軽微な程度に抑えられている。また、電力ロス指数が、安定して低い水準に抑えられている。これに対し、基準位置がL’=0.5未満の場合には、上記範囲と比較して、電力ロス指数が大きくなっており、しかも、基準位置が低くなるほど(相対高さL’が小さくなるほど)、その電力ロス指数が大きくなっている。一方、基準位置がL’=0.7よりも大きい場合には、電極と設備部材との間にスパークが発生し、溶解を続けることができなくなっている。このことから、電極に供給する電圧を高水準値に切り替える電極先端の基準位置を、相対高さL’で0.5以上かつ0.7以下としておくことで、不要なスパークの発生を抑制し、かつ金属材料の溶解の比較的早い段階から積極的に電力を投入することで、エネルギー効率を高められると言える。
【0042】
なお、表1において、基準位置を変化させた際の電力ロス指標の変化量は、数値としては小さなものではあるが、電力ロス指標は、安定性の高い数値であり、十分に有意な変化量である。また、一般的な金属溶解装置の操業においては、多量の金属材料を溶解するので、電力ロス指数をわずかでも低減することができれば、1か月あるいは1年等の所定の期間の積算として、所要電力量を大きく低減することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。