(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125873
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】電波伝搬シミュレーションモデル生成方法及び電波伝搬シミュレーション装置
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20220822BHJP
【FI】
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023697
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】西川 善紀
(57)【要約】
【課題】レイトレース法による電波伝搬シミュレーションの予測結果を改善できるようにする。
【解決手段】本例の電波伝搬シミュレーション装置は、受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、共通の学習用データに基づいて、複数の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により複数の学習モデルを生成し、これら複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価し、最も性能の良い学習モデルを選択し、電波伝搬シミュレーション部40に提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レイトレース法による電波伝搬シミュレーション用の学習モデルを生成する電波伝搬シミュレーションモデル生成方法において、
受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、共通の学習用データに基づいて、複数の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により複数の学習モデルを生成するステップと、
前記複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価して、最も性能の良い学習モデルを選択するステップを有することを特徴とする電波伝搬シミュレーションモデル生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電波伝搬シミュレーションモデル生成方法において、
前記複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価する前に、各学習モデルのハイパーパラメータの最適化を行うことを特徴と電波伝搬シミュレーションモデル生成方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電波伝搬シミュレーションモデル生成方法において、
前記機械学習の前処理として、前記学習用データの特徴量同士の相関を演算し、基準以上の相関を持つ特徴量の組み合わせについて、片方の特徴量の削除、又は、これら特徴量の合成を行うことを特徴とする電波伝搬シミュレーションモデル生成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電波伝搬シミュレーションモデル生成方法において、
前記機械学習の前処理として、学習用データの各特徴量に対し、平均が0、分散が1となるように正規化を行うことを特徴とする電波伝搬シミュレーションモデル生成方法。
【請求項5】
レイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行う電波伝搬シミュレーション装置において、
受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、共通の学習用データに基づいて、複数の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により複数の学習モデルを生成し、
前記複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価して、最も性能の良い学習モデルを選択し、
前記選択した学習モデルを用いて、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行うことを特徴とする電波伝搬シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波伝搬シミュレーションの結果を無線通信に利用することが行われている。例えば、特許文献1には、複数の短波通信システムに対し、電波伝搬シミュレーションの結果、通信実績情報および通信局の位置の外部からの情報を基にそれぞれの短波通信システムに対する最適な通信拠点を予測する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電波伝搬シミュレーションツールでは、レイトレース法により電波の伝搬を物理法則に従ってシミュレートしており、高い精度の予測が可能である。しかしながら、レイトレース法によるシミュレートは現実空間のモデリングが必要であり、建造物や地形などを細部まで完璧に表現することは困難である。このため、電波伝搬の予測値には、ある程度の誤差がどうしても生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションの予測結果を改善できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記目的を達成するために、電波伝搬シミュレーション用の学習モデルを以下の方法により生成するようにした。
すなわち、レイトレース法による電波伝搬シミュレーション用の学習モデルを生成する電波伝搬シミュレーションモデル生成方法において、受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、共通の学習用データに基づいて、複数の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により複数の学習モデルを生成するステップと、複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価して、最も性能の良い学習モデルを選択するステップとを有することを特徴とする。
【0007】
ここで、複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価する前に、各学習モデルのハイパーパラメータの最適化を行うようにしてもよい。
【0008】
また、機械学習の前処理として、学習用データの特徴量同士の相関を演算し、基準以上の相関を持つ特徴量の組み合わせについて、片方の特徴量の削除、又は、これら特徴量の合成を行うようにしてもよい。
【0009】
また、機械学習の前処理として、学習用データの各特徴量に対し、平均が0、分散が1となるように正規化を行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションの予測結果を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置の構成例を示す図である。
【
図2】電波伝搬シミュレーション用の学習モデルの生成に用いる学習用データにおける特徴量(説明変数)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る電波伝搬シミュレーション装置の構成例を示してある。本例の電波伝搬シミュレーション装置は、レイトレース法により電波の伝搬をシミュレートする際に使用する学習モデルを生成し、生成した学習モデルを用いて電波伝搬シミュレーションを行う。
図1に示す電波伝搬シミュレーション装置は、学習用データ記憶部10と、前処理部20と、学習モデル構築部30と、電波伝搬シミュレーション部40とを備えている。
【0013】
本例の電波伝搬シミュレーション装置は、メモリやプロセッサなどのハードウェア資源を備えており、ハードディスクやフラッシュメモリ等のデータ記憶装置に記憶されているプログラムをメインメモリ上に読み出してプロセッサにより実行することで、各機能ブロック10~40を実現するように構成されている。なお、各機能ブロック10~40は、このようなソフトウェアにより実現する構成に限定されず、専用ハードウェアにより実現してもよい。
【0014】
学習用データ記憶部10は、電波伝搬シミュレーション用の学習モデルを生成するための学習用データを記憶する。学習用データは、教師データとして、測定器などを使用して各地点で収集した受信電力の実測値を含む。学習用データはまた、特徴量(説明変数)として、事前に行ったシミュレーションで得られた受信電力の予測値やその予測に用いたパラメータなどを含む。
【0015】
図2には、学習用データにおける特徴量(説明変数)の一例を示してある。
図2の例では、説明変数として、市販のシミュレーションツール等を用いて事前に行ったシミュレーションで得られた受信電力の予測値、基地局と移動局の間に存在する建物数、平面上における基地局と移動局の間の直線距離、基地局と移動局の間の標高差、アンテナから放出する電波の放射角度(V:垂直方向、H:水平方向)、アンテナの放射角度におけるゲインなどが含まれている。
【0016】
前処理部20は、学習用データ記憶部10に記憶されている学習用データを機械学習の入力データとして使用するための前処理を行う。前処理部20は、特徴量合成・削除部21と、正規化部22とを有する。本例の前処理部20は、特徴量合成・削除部21、正規化部22の順に前処理を行うが、逆の順序で前処理を行ってもよい。
【0017】
特徴量合成・削除部21は、学習用データに含まれる特徴量同士の相関を観察し、互いに強い相関を持つ特徴量の組み合わせ(例えば、相関係数の絶対値が閾値以上となる特徴量の組み合わせ)について、片方の特徴量の削除、又は、PCA(Principal Component Analysis;主成分分析)による特徴量の合成を行う。正規化部22は、学習用データに含まれる各特徴量のスケールを揃えるために、各特徴量の平均が0、分散が1となるように正規化(標準化)を行う。
【0018】
学習モデル構築部30は、前処理部20にて前処理が施された学習用データを使用して、電波伝搬シミュレーション用の学習モデルを構築する。学習モデル構築部30は、複数の学習部31と、ハイパーパラメータ最適化部32と、性能評価部33と、モデル選択部34とを有する。本例の学習モデル構築部30は、4つの学習部31-1~31-4を有しているが、より少ない又はより多い学習部を有してもよい。
【0019】
学習部31-1~31-4は、それぞれ、前処理された共通の学習用データに基づいて、互いに異なる機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により学習モデルを生成する。例えば、第1学習部31-1はRandom Forestによる機械学習を行い、第2学習部31-2はXGBoostによる機械学習を行い、第3学習部31-3はLasso回帰による機械学習を行い、第4学習部31-4はRidge回帰による機械学習を行う。これらの機械学習アルゴリズムは、いずれも回帰タスクに適用可能であり、且つ、特徴量の重要度を評価して特徴量選択を自動で行うことができる。
【0020】
ハイパーパラメータ最適化部32は、学習部31-1~31-4にて生成された複数の学習モデルについて、それぞれのハイパーパラメータの最適化を行う。ハイパーパラメータは、各々の学習モデルが独自に有する調整可能なパラメータである。ハイパーパラメータの最適化には、例えば、グリッドサーチを使用することができる。
【0021】
性能評価部33は、ハイパーパラメータ最適化部32にてハイパーパラメータの最適化が行われた複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価する。学習モデルの性能評価は、例えば、学習用データのうちの機械学習に使用しなかったデータを用いて行われる。
【0022】
モデル選択部34は、性能評価部33による評価結果に基づいて、最も性能の良い学習モデルを選択する。モデル選択部34により選択された学習モデルは、電波伝搬シミュレーション部40に提供される。
【0023】
電波伝搬シミュレーション部40は、学習モデル構築部30から提供された学習モデルを用いて、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行う。
【0024】
以上のように、本例の電波伝搬シミュレーション装置は、受信電力の実測値を教師データとして含むと共に事前シミュレーションで得られた受信電力の予測値及びその予測に用いたパラメータを特徴量として含む、共通の学習用データに基づいて、複数の機械学習アルゴリズムを用いた機械学習により複数の学習モデルを生成し、これら複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価し、最も性能の良い学習モデルを選択し、電波伝搬シミュレーション部40に提供するように構成されている。従って、最も性能の良い学習モデルを使用してレイトレース法による電波伝搬シミュレーションを行うことができるので、電波伝搬シミュレーションの予測結果を改善することが可能である。
【0025】
また、本例の電波伝搬シミュレーション装置では、複数の学習モデルのそれぞれの性能を評価する前に、各学習モデルのハイパーパラメータの最適化を行うように構成されている。従って、生成した複数の学習モデルを最適化した状態で、各学習モデルの性能を評価することができる。
【0026】
また、本例の電波伝搬シミュレーション装置では、機械学習の前処理として、学習用データの特徴量同士の相関を演算し、基準以上の相関を持つ特徴量の組み合わせについて、片方の特徴量の削除、又は、これら特徴量の合成を行うように構成されている。従って、機械学習に用いる特徴量の数を削減できるので、機械学習の処理負担を軽減することができる。
【0027】
また、本例の電波伝搬シミュレーション装置では、機械学習の前処理として、学習用データの各特徴量に対し、平均が0、分散が1となるように正規化を行うようにしてもよい。従って、機械学習に用いる各特徴量のスケールを揃えることができるので、機械学習の処理負担を軽減することができる。
【0028】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記のような構成に限定されるものではなく、上記以外の構成により実現してもよい。例えば、本例では、1台の電波伝搬シミュレーション装置が、学習用データ記憶部10と、前処理部20と、学習モデル構築部30と、電波伝搬シミュレーション部40とを備えているが、これらの機能を複数台の装置に分散して設けてもよい。
【0029】
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0030】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、レイトレース法による電波伝搬シミュレーションに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
10:学習用データ記憶部、 20:前処理部、 21:特徴量合成・削除部、 22:正規化部、 30:学習モデル構築部、 31-1~31-4:学習部、 32:ハイパーパラメータ最適化部、 33:性能評価部、 34:モデル選択部、40:電波伝搬シミュレーション部