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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125877
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 5/364 20150101AFI20220822BHJP
   H01Q 13/10 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
H01Q5/364
H01Q13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023702
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174104
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 康一
(72)【発明者】
【氏名】神澤 賢吾
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA03
5J045DA06
5J045EA07
5J045HA06
5J045LA01
5J045LA04
5J045NA03
(57)【要約】
【課題】小型に構成でき複数の周波数帯に対応し得るようにする。
【解決手段】無線通信装置1のアンテナ3は、アンテナ表面3Aにアンテナ素子部31及びグランド部32を形成すると共に、両者の間に第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43を形成した。これによりアンテナ3は、835MHz帯に関して第2スリット42の周囲を共振させ、2GHz帯の電気信号に関して第1スリット41の周囲を共振させることで、何れも定在波アンテナとして機能でき、さらに3.7GHz帯に関して全体として進行波アンテナとして機能できる。かくしてアンテナ3は、比較的小型の薄板状に構成しながら、複数の周波数帯において良好な特性を得ることができる。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に形成され3本以上のアンテナ素子辺を有するアンテナ素子部と、
前記基板表面において前記アンテナ素子部と電気的に切り離され、前記アンテナ素子部の外周のうち一部分と対向し、前記3本以上のアンテナ素子辺とそれぞれ対向する3本以上のグランド辺を有するグランド部と、
前記基板表面において互いに対向する前記アンテナ素子辺及び前記グランド辺の間に形成され、絶縁性を有する3本以上のスリットと
を具え、
第1の前記スリットを形成する第1の前記アンテナ素子辺及び第1の前記グランド辺は、所定の第1共振周波数において共振し、
前記アンテナ素子部の外周を形成する各辺及び前記グランド部の外周を形成する各辺は、所定の進行周波数帯において共振しない
ことを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
第2の前記スリットを形成する第2の前記アンテナ素子辺及び第2の前記グランド辺は、前記第1共振周波数と異なる第2共振周波数において共振する
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
第2の前記アンテナ素子辺は、前記アンテナ素子部の前記外周において第1の前記アンテナ素子辺と隣接し、
前記アンテナ素子部は、第1の前記アンテナ素子辺及び第2の前記アンテナ素子辺が接続する箇所の近傍に、給電点が配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子部は、四辺形状であり、
前記グランド部は、前記アンテナ素子部の外周のうち3辺に相当する前記アンテナ素子辺に対し、3本の前記グランド辺をそれぞれ対向させる
ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ。
【請求項5】
第3の前記アンテナ素子辺は、前記アンテナ素子部の前記外周において第2の前記アンテナ素子辺と隣接し、
前記グランド部は、第2の前記アンテナ素子辺及び第3の前記アンテナ素子辺が接続する箇所の近傍に、第2の前記スリットを延長するスリット延長溝が形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記基板表面の反対面である基板裏面において、前記グランド部を投影した部分を中心に形成され、当該グランド部と電気的に接続された裏面グランド部と
を具えることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナに関し、例えば複数の周波数帯に対応した小型のアンテナに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スマートフォンやタブレット端末等、種々の電子機器に無線通信機能を組み込み、無線を利用して情報を通信する情報通信機器が広く普及している。このような情報通信機器では、無線による通信を行うために、アンテナを搭載する必要がある。
【0003】
またこれらの情報通信機器では、例えばIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11a/b/g/n/ac/axのような無線LAN(Local Area Network)の規格、或いは5G(5th Generation、第5世代移動通信システム)と呼ばれる移動通信の規格に準拠した無線通信機能が搭載されている。これらの規格では、周波数に応じた電波の特性や通信容量、或いは他の用途で使用されている周波数との干渉等の観点から、複数の周波数帯が使用されている。このため情報通信機器では、各周波数に対応するための複数のアンテナが必要となる。
【0004】
一方、多くの場合、情報通信機器においては、携帯性の向上、或いは多様な設置場所への対応等の観点から、小型化が要求される。そこで、例えば複数のパッチアンテナを組み合わせることにより、複数の周波数帯に対応しながら小型に構成されたアンテナが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-056937号公報(図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した情報通信機器では、複数の周波数帯に対応しながら、さらなる小型化が求められる場合がある。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、小型に構成でき複数の周波数帯に対応し得るアンテナを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明のアンテナにおいては、基板表面に形成され3本以上のアンテナ素子辺を有するアンテナ素子部と、基板表面においてアンテナ素子部と電気的に切り離され、アンテナ素子部の外周のうち一部分と対向し、3本以上のアンテナ素子辺とそれぞれ対向する3本以上のグランド辺を有するグランド部と、基板表面において互いに対向するアンテナ素子辺及びグランド辺の間に形成され、絶縁性を有する3本以上のスリットとを設け、第1のスリットを形成する第1のアンテナ素子辺及び第1のグランド辺は、所定の第1共振周波数において共振し、アンテナ素子部の外周を形成する各辺及びグランド部の外周を形成する各辺は、所定の進行周波数帯において共振しないようにした。
【0009】
本発明は、第1のスリットを挟むアンテナ素子辺及びグランド辺を第1共振周波数帯において共振させることにより、定在波アンテナとして機能させることができ、且つアンテナ素子部及びグランド部を含む各部分により、進行周波数帯において進行波アンテナとして機能させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型に構成でき複数の周波数帯に対応し得るアンテナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】無線通信装置の全体構成を示す略線図である。
図2】アンテナの構成を示す略線的断面図である。
図3】アンテナの構成を示す略線的平面図である。
図4】各周波数帯の偶数分波長を示す略線図である。
図5】835MHz帯における電流密度分布のシミュレーション結果を示す略線図である。
図6】2GHz帯における電流密度分布のシミュレーション結果を示す略線図である。
図7】3.7GHz帯における電流密度分布のシミュレーション結果を示す略線図である。
図8】VSWRの測定結果を示す略線図である。
図9】リターンロスの測定結果を示す略線図である。
図10】他の実施の形態によるアンテナの構成を示す略線的平面図である。
図11】他の実施の形態によるアンテナの構成を示す略線的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について、図面を用いて説明する。
【0013】
[1.無線通信装置の構成]
図1に示すように、本実施の形態による無線通信装置1は、メイン基板2及びアンテナ3が接続ケーブル4により接続された構成となっている。この無線通信装置1は、例えばIoT(Internet of Things)ルータと呼ばれる通信機器であり、5Gの規格に準拠した無線通信機能を有し、また種々の電子機器(IoT機器とも呼ばれる)と有線又は無線により接続され、種々の情報を送受信し得るようになっている。
【0014】
メイン基板2は、回路基板であり、種々の情報処理を行う情報処理回路11や、高周波信号に関する処理を行う高周波回路12等が設けられている。高周波回路12は、情報処理回路11及び接続ケーブル4と接続されており、変調処理や復調処理等を行う。因みに高周波回路12における接続ケーブル4との接続箇所には、例えばSMA(Sub Miniature Type A)等の規格に準拠した同軸コネクタ13が設けられている。
【0015】
例えば高周波回路12は、情報処理回路11から情報が供給されると、この情報に変調処理を施すことにより高周波信号を生成し、これを接続ケーブル4に供給する。また高周波回路12は、例えば接続ケーブル4から高周波信号が供給されると、この高周波信号に復調処理を施すことにより情報を取り出し、これを情報処理回路11に供給する。
【0016】
接続ケーブル4は、例えば同軸ケーブルであり、一方の端部がメイン基板2の高周波回路12と接続され、他方の端部がアンテナ3に接続される。接続ケーブル4の両端には、それぞれの接続先に対応した同軸コネクタが設けられている。
【0017】
[2.アンテナの構成]
次に、アンテナ3の構成について説明する。アンテナ3は、全体として長方形の板状に構成されており、その厚さ方向に関して、電気的な特性が異なる複数の層が積層された構造となっている。このアンテナ3は、例えばNEMA(National Electrical Manufacturers Association)/ANSI(American National Standards Institute)規格のFR-4に準拠したガラスエポキシ基板(すなわちプリント基板)である。
【0018】
具体的にアンテナ3は、図2に模式的な断面図を示すように、中央の基材層20と、表面(以下これをアンテナ表面3A又は基板表面と呼ぶ)側の第1導電層21と、その反対面である裏面(以下これをアンテナ裏面3B又は基板裏面と呼ぶ)側の第2導電層22とにより構成されている。基材層20は、いわゆるガラスエポキシ樹脂であり、ガラス繊維にエポキシ樹脂を含侵させて熱硬化させることにより、板状に構成されている。この基材層20は、電気的な性質として、非導電性若しくは絶縁性を有している。
【0019】
第1導電層21及び第2導電層22は、基材層20のアンテナ表面3A側及びアンテナ裏面3B側にそれぞれ設けられており、導電性を有する金属等の材料(例えば銅)により比較的薄い層状に形成されている。またアンテナ3におけるアンテナ表面3A側、すなわち第1導電層21における所定箇所には、接続ケーブル4(図1)と接続するためのコネクタ25が設けられている。さらにアンテナ3には、基材層20を貫通するビア28が適宜設けられており、第1導電層21の一部と第2導電層22の一部とを電気的に接続している(詳しくは後述する)。
【0020】
図3(A)及び(B)に示すように、アンテナ表面3A及びアンテナ裏面3Bには、第1導電層21及び第2導電層22がそれぞれ部分的に除去されることにより、所定の回路パターンが形成されている。因みに図3(A)は、アンテナ表面3Aを上方から見た状態を表している。一方、図3(B)は、アンテナ裏面3Bを下方から見た状態を左右反転させており、該アンテナ裏面3Bをアンテナ表面3A側から透視した場合に相当する。また図3(A)では、第1導電層21が存在する部分に斜線を付しており、該第1導電層21が存在せずに基材層20が露出している部分を白色(無地)としている。図3(B)も同様である。
【0021】
アンテナ3は、長辺の長さLBXが例えば80~120[mm]程度であり、短辺の長さLBYが例えば30~50[mm]程度となっている。以下では、アンテナ3の長手方向(図2における左右方向)をX方向とも呼び、該アンテナ3の短手方向(図2における上下方向)をY方向とも呼ぶ。
【0022】
アンテナ表面3Aには、大きく分けて、アンテナ素子部31、グランド部32、第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43が設けられている。このうちアンテナ素子部31及びグランド部32は、第1導電層21により構成された部分である。一方、第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43(以下これらをまとめてスリット40とも呼ぶ)は、第1導電層21が局所的に除去されることにより、非導電性の基材層20が露出した部分となっている。
【0023】
アンテナ素子部31は、全体として、アンテナ3の外形よりも一回り小さく、X方向を長手方向とし、Y方向を短手方向とする長方形状に構成されている。このアンテナ素子部31は、アンテナ表面3Aにおいて、X方向に関する中央付近であり、且つY方向に関して上端に当接する位置に配置されている。すなわちアンテナ素子部31は、一方の長辺(図における上辺)がアンテナ3の上辺に重なる一方、双方の短辺がアンテナ3の短辺から離れるように配置されている。
【0024】
説明の都合上、以下では、アンテナ素子部31の上辺を非対向アンテナ素子辺SA0と呼ぶ。また以下では、アンテナ素子部31の左辺、下辺及び右辺をそれぞれ第1アンテナ素子辺SA1、第2アンテナ素子辺SA2及び第3アンテナ素子辺SA3と呼ぶ。
【0025】
またアンテナ素子部31の左下側、すなわち第1アンテナ素子辺SA1及び第2アンテナ素子辺SA2が接続される箇所の近傍には、該第1アンテナ素子辺SA1よりも左方向に突出したアンテナ素子突出部31Pが形成されている。このアンテナ素子突出部31Pは、コネクタ25(図2)の内部導体部分、すなわち接続ケーブル4(図1)の内部導体(いわゆる芯線)と接続される部分に対し、電気的に接続されている。換言すれば、アンテナ3では、アンテナ素子突出部31Pの左端近傍が給電点となっている。
【0026】
グランド部32は、全体として、その外形がアンテナ表面3Aの外形と概ね一致するような長方形状であるものの、上辺における中央付近の2/3程度の範囲が下方へ大きく長方形状に窪むことにより、グランド中央凹部32Dが形成されている。このグランド中央凹部32D内には、該グランド部32との間にある程度の間隔を隔てるようにして、上述したアンテナ素子部31が配置されている。
【0027】
換言すれば、グランド部32は、アンテナ表面3Aのうちアンテナ素子部31及びその近傍を除いた残りの部分を占めている。また他の観点から見れば、アンテナ表面3Aでは、アンテナ素子部31の左側から下側を経て右側に至る広い範囲において、該アンテナ素子部31との間にある程度の間隔を隔てながら、該アンテナ素子部31の周囲を囲むようにして、グランド部32が設けられている。
【0028】
グランド中央凹部32Dの左辺である第1グランド辺SG1は、第1スリット41を挟んでアンテナ素子部31の第1アンテナ素子辺SA1と対向しており、且つ該第1アンテナ素子辺SA1とほぼ平行となっている。
【0029】
グランド中央凹部32Dの下辺である第2グランド辺SG2は、第2スリット42を挟んでアンテナ素子部31の第2アンテナ素子辺SA2と対向しており、且つ該第2アンテナ素子辺SA2とほぼ平行となっている。
【0030】
グランド中央凹部32Dの右辺である第3グランド辺SG3は、第3スリット43を挟んで第3アンテナ素子辺SA3と対向しており、且つ該第3アンテナ素子辺SA3とほぼ平行となっている。
【0031】
また第1グランド辺SG1の下端近傍、すなわち第2グランド辺SG2の左端よりもやや上側には、アンテナ素子突出部31Pとの間に間隔を空けるようにして、グランド左下凹部32DLが形成されている。因みにグランド部32は、このグランド左下凹部32DLの近傍において、コネクタ25(図2)の外部導体部分、すなわち接続ケーブル4の外部導体(いわゆるシールド)と接続される部分に対し、電気的に接続されている。
【0032】
さらに第3グランド辺SG3の下端近傍、すなわち第2グランド辺SG2の右端には、第3グランド辺SG3よりも右側へ突出するようにして、グランド右下凹部32DRが形成されている。換言すれば、第2スリット42は、第3スリット43との接続箇所からさらに右方向へ延長されたような、すなわち第3グランド辺SG3よりも右側へ進行し、グランド右下凹部32DRをグランド部32内にやや食い込ませたような形状となっている。説明の都合上、以下ではグランド右下凹部32DRをスリット延長溝とも呼ぶ。
【0033】
アンテナ裏面3B(図3(B))には、第2導電層22(図2)の一部が除去されることにより、裏面グランド部34が形成されている。裏面グランド部34は、アンテナ表面3Aのグランド部32をアンテナ裏面3Bに投影したような範囲に設けられており、図中に黒点により示すビア28により、該グランド部32と電気的に接続されている。
【0034】
ところでアンテナ3は、835MHz帯(814~960[MHz])、2GHz帯(1710~2170[MHz])、及び3.7GHz帯(3.6~4.9[GHz])といった3種類の周波数帯の電波に対応し得るように設計されている。説明の都合上、以下では、835MHz帯及び2GHz帯をそれぞれ第1共振周波数帯及び第2共振周波数帯とも呼ぶ。また以下では、3.7GHz帯を進行周波数帯とも呼ぶ。
【0035】
図4は、835MHz帯、2GHz帯及び3.7GHz帯それぞれにおける波長を記号λにより表記し、λ/2、λ/4及びλ/6(以下これらを偶数分波長と呼ぶ)の値を表形式にまとめたものである。
【0036】
アンテナ表面3A(図3(A))において、アンテナ素子部31におけるX方向に沿った長辺の長さLAX、すなわち第2アンテナ素子辺SA2の長さは、835MHz帯のλ/6よりもやや短くなっている。ただし、この長さLAXにアンテナ素子突出部31PにおけるX方向の長さを加えた値は、835MHz帯のλ/6に近い値となっている。また、グランド部32における第2グランド辺SG2の長さは、835MHz帯のλ/6とほぼ同等であり、厳密には僅かに短い値となっている。
【0037】
さらにアンテナ表面3Aにおいて、アンテナ素子部31におけるY方向に沿った長辺の長さLAY、すなわち第1アンテナ素子辺SA1の長さは、2GHz帯のλ/6よりも僅かに短くなっている。また、グランド部32における第1グランド辺SG1の長さ、すなわちグランド中央凹部32Dの左辺におけるグランド左下凹部32DLを除いた部分の長さは、2GHz帯のλ/6とほぼ同等であり、厳密には僅かに短い値となっている。
【0038】
一方、アンテナ表面3Aにおいて、第1アンテナ素子辺SA1、第2アンテナ素子辺SA2及び第3アンテナ素子辺SA3の長さ、並びに第1グランド辺SG1、第2グランド辺SG2及び第3グランド辺SG3の長さは、3.7GHz帯におけるλ/2、λ/4及びλ/6の何れとも異なる値となっている。
【0039】
また、第1スリット41のスリット間隔である長さLS1及び第2スリット42のスリット間隔である長さLS2は、互いにほぼ同等の長さとなっている。一方、第3スリット43のスリット間隔である長さLS3は、長さLS1及びLS2よりもやや大きく(長く)なっている。
【0040】
[3.アンテナの特性]
次に、アンテナ3の特性について説明する。まず、アンテナ3に835MHz帯の電気信号を供給した場合における電流密度分布のシミュレーション結果を図5に示す。この図5では、色の濃さが電流密度の高さを表しており、黒色に近い部分において電流密度が高く、白色に近い部分おいて電流密度が低いことを表している。
【0041】
この図5から、アンテナ3は、835MHz帯の電気信号に関し、第2スリット42を挟んだ第2アンテナ素子辺SA2及び第2グランド辺SG2の近傍に、比較的大きい電流が分布していることが分かる。このことは、アンテナ3が、第2スリット42の近傍、すなわち第2アンテナ素子辺SA2及び第2グランド辺SG2の近傍において、835MHz帯の電気信号や電磁波に対して共振することを表している。
【0042】
次に、アンテナ3に2GHz帯の電気信号を供給した場合における電流密度分布のシミュレーション結果を図6に示す。この図6では、図5と同様に、色の濃さが電流密度の高さを表している。
【0043】
この図6から、アンテナ3は、2GHz帯の電気信号に関し、第1スリット41を挟んだ第1アンテナ素子辺SA1及び第1グランド辺SG1の近傍に、比較的大きい電流が分布していることが分かる。このことは、アンテナ3が、第1スリット41の近傍、すなわち第1アンテナ素子辺SA1及び第1グランド辺SG1の近傍において、2GHz帯の電気信号や電磁波に対して共振することを表している。
【0044】
今度は、アンテナ3に3.7GHz帯の電気信号を供給した場合における電流密度分布のシミュレーション結果を図7に示す。この図7では、図5及び図6と同様に、色の濃さが電流密度の高さを表している。
【0045】
この図7から、アンテナ3は、3.7GHz帯の電気信号に関し、アンテナ素子部31を囲む各辺、並びにグランド部32を囲む各辺の何れにおいても、1つの辺の範囲内において電流密度が高い部分と低い部分とがある程度の周期性を持って分布しており、電流密度が一様に高い辺が存在しない。このことは、アンテナ3が、3.7GHz帯の電気信号に対して共振しないことを表している。
【0046】
次に、所定の測定装置を用いて、アンテナ3のVSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)を測定した結果を図8に示す。図8は、横軸が周波数を表しており、縦軸がVSWRを表している。この図8では、VSWRの値が小さいほど、アンテナとしての性能が良好であることを表している。
【0047】
図8において、835MHz帯に関するVSWRの値は、814[MHz]で値2.04、960[MHz]で値2.10であり、814~960[MHz]の範囲内で概ね値2以下となっている。
【0048】
また図8において、2GHz帯に関するVSWRの値は、1710[MHz]で値1.09、2170[MHz]で値1.30であり、1710~2170[MHz]の範囲内で概ね2以下となっている。
【0049】
さらに図8において、3.7GHz帯に関するVSWRの値は、3.6[GHz]で値1.99、4.9[GHz]で値1.80であり、3.6~4.9[GHz]の範囲内で概ね2以下である。
【0050】
このようにアンテナ3は、835MHz帯、2GHz帯及び3.7GHz帯の何れにおいても、VSWRの値が概ね値2以下であり、これらの周波数帯においてアンテナとしての性質が良好であることが判明した。
【0051】
次に、所定の測定装置を用いて、アンテナ3のリターンロス(反射損失)を測定した結果を図9に示す。この図9では、リターンロスの値が小さいほど、アンテナとしての性能が良好であることを表している。
【0052】
図9において、835MHz帯に関するリターンロスの値は、814[MHz]で-9.29[dB]、960[MHz]で-8.99[dB]であり、814~960[MHz]の範囲内で概ね-9[dB]以下となっている。
【0053】
また図9において、2GHz帯に関するリターンロスの値は、1710[MHz]で-27.01[dB]、2170[MHz]で-17.70[dB]であり、1710~2170[MHz]の範囲内で概ね-9[dB]以下となっている。
【0054】
さらに図9において、3.7GHz帯に関するリターンロスの値は、3.6[GHz]で-9.57[dB]、4.9[GHz]で-10.87[dB]であり、3.6~4.9[GHz]の範囲内で概ね-9[dB]以下である。
【0055】
このようにアンテナ3は、835MHz帯、2GHz帯及び3.7GHz帯の何れにおいても、リターンロスの値が概ね-9[dB]以下であり、これらの周波数帯においてアンテナとしての性質が良好であることが判明した。
【0056】
[4.効果等]
以上の構成において、本実施の形態による無線通信装置1のアンテナ3は、アンテナ表面3Aの第1導電層21における一部を除去し、アンテナ素子部31及びグランド部32を形成すると共に、両者の間に第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43を形成した(図2及び図3(A))。またアンテナ3は、アンテナ裏面3Bの第2導電層22における一部を除去し、裏面グランド部34を形成した(図2及び図3(B))。
【0057】
アンテナ3は、第2スリット42の両側に位置する第2アンテナ素子辺SA2及び第2グランド辺SG2の長さを、何れも835MHz帯のλ/6に近い値とした。またアンテナ3は、第1スリット41の両側に位置する第1アンテナ素子辺SA1及び第1グランド辺SG1の長さを、何れも2GHz帯のλ/6に近い値とした(図3及び図4)。
【0058】
このためアンテナ3は、835MHz帯の電気信号に関し、第2アンテナ素子辺SA2及び第2グランド辺SG2の近傍において、電流密度を高めて共振させること、すなわち第2スリット42の周囲を定在波アンテナとして機能させることができる(図5)。これは、アンテナ3が、835MHz帯において、VSWRが概ね値2以下であり、またリターンロスが概ね-9[dB]以下であることにも表れている(図8及び図9)。
【0059】
またアンテナ3は、2GHz帯の電気信号に関し、第1アンテナ素子辺SA1及び第1グランド辺SG1の近傍において、電流密度を高めて共振させること、すなわち第1スリット41の周囲を定在波アンテナとして機能させることができる(図6)。これは、アンテナ3に関し、2GHz帯において、VSWRが概ね値2以下であり、またリターンロスが概ね-9[dB]以下であることにも表れている(図8及び図9)。
【0060】
さらにアンテナ3は、アンテナ素子部31における各辺の長さ、及びグランド部32における各辺の長さを、3.7GHz帯におけるλ/2、λ/4及びλ/6の何れとも異なる値とした。このためアンテナ3は、3.7GHz帯の電気信号に関し、特定の部分を共振させることが無い。しかしながらアンテナ3は、アンテナ素子部31及びグランド部32における各辺に沿って電流密度の高い部分を周期的に出現させ、全体として進行波アンテナとして機能することができる(図7)。これは、アンテナ3に関し、3.7GHz帯において、VSWRが概ね値2以下であり、またリターンロスが概ね-9[dB]以下であることにも表れている(図8及び図9)。
【0061】
このようにアンテナ3は、835MHz帯及び2GHz帯といった異なる2つの周波数帯に関してそれぞれ定在波アンテナとして機能でき、これに加えて両周波数帯と異なる3.7GHz帯において進行波アンテナとして機能できる。
【0062】
すなわちアンテナ3は、特許文献1に示した構成のアンテナと比較して、全体として小型且つ薄板状に構成しながら、異なる3つの周波数帯において、それぞれ良好な特性を得ることができる。
【0063】
ところで、共振アンテナ及び進行波アンテナを組み合わせた構成のアンテナとして、特許文献2に記載されているような構成のアンテナが知られている。
【0064】
【特許文献2】米国特許第09257747号公報(図1等)
【0065】
特許文献2のアンテナは、ビバルディ-モノポールアンテナとも呼ばれており、棒状のモノポールアンテナでなり定在波アンテナとして機能する部分と、スロット幅が徐々に拡大していくテーパースロット構造でなり進行波アンテナとして機能する部分とを有している。
【0066】
一方、本実施の形態によるアンテナ3は、第1スリット41の両側部分及び第2スリット42の両側部分において、すなわちモノポールアンテナとは異なる構造の部分において共振させ、定在波アンテナとして機能させている。またアンテナ3は、スロット幅が徐々に拡大するようなテーパースロット構造を有しておらず、図7に示したように、アンテナ素子部31及びグランド部32を含む全体が進行波アンテナとして機能している。
【0067】
このことから、アンテナ3は、周知のビバルディ-モノポールアンテナとは全く異なる動作原理により、複数の周波数帯において、定在波アンテナ及び進行波アンテナとして機能していると考えられる。
【0068】
以上の構成によれば、本実施の形態による無線通信装置1のアンテナ3は、アンテナ表面3Aにアンテナ素子部31及びグランド部32を形成すると共に、両者の間に第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43を形成した。これによりアンテナ3は、835MHz帯に関して第2スリット42の周囲を共振させ、2GHz帯の電気信号に関して第1スリット41の周囲を共振させることで、何れも定在波アンテナとして機能でき、さらに3.7GHz帯に関して全体として進行波アンテナとして機能できる。かくしてアンテナ3は、比較的小型の薄板状に構成しながら、複数の周波数帯において良好な特性を得ることができる。
【0069】
[5.他の実施の形態]
なお上述した実施の形態においては、アンテナ素子部31を長方形状とし、第1スリット41及び第3スリット43をほぼY方向に沿った構成とし、且つ第2スリット42をほぼX方向に沿った構成とする場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、例えば第3スリット43をY方向に対して所定角度傾斜させることによりアンテナ素子部31を台形状とする等、該アンテナ素子部31を種々の四辺形状としても良い。或いは、アンテナ素子部31を六角形状や八角形状等のような種々の多角形状としても良い。さらにこれらの場合、少なくとも一部の辺を直線状では無く曲線状としても良い。何れの場合においても、アンテナ素子部31を囲む辺の一部がスリットを挟んでグランド部32と対向しており、残りの辺が該グランド部32と対向しない構成であれば良い。
【0070】
また上述した実施の形態においては、グランド部32のグランド中央凹部32Dにおける右下部分に、グランド右下凹部32DRを形成する場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、例えばグランド右下凹部32DRを省略し、第2スリット42の右端と第3スリット43の左端とを接続させるようにしても良い。
【0071】
さらに上述した実施の形態においては、アンテナ素子部31における第1アンテナ素子辺SA1及び第2アンテナ素子辺SA2が接続される箇所の近傍にアンテナ素子突出部31Pを設け、その左端近傍をアンテナ3の給電点とする場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、他の箇所に給電点を設けても良い。特に、グランド部32の領域内に給電点を設ける場合、グランド左下凹部32DLのように凹んだ部分と、アンテナ素子突出部31Pのようにアンテナ素子部31から突出した部分とを設ければ良い。
【0072】
さらに上述した実施の形態においては、第1スリット41のスリット間隔である長さLS1と第2スリット42のスリット間隔である長さLS2とを、互いにほぼ同等の長さとする場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、例えば長さLS1と長さLS2とを互いに相違させても良い。
【0073】
さらに上述した実施の形態においては、第3スリット43のスリット間隔である長さLS3を、長さLS1及び長さLS2よりも大きく(長く)する場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、長さLS3を、長さLS1及び長さLS2と同等としても良く、或いは長さLS1及び長さLS2よりも小さく(短く)しても良い。
【0074】
さらに上述した実施の形態においては、第3アンテナ素子辺SA3の長さと第3グランド辺SG3の長さとをほぼ同等とし、アンテナ素子部31の上辺(すなわち非対向アンテナ素子辺SA0)とグランド部32における右側の上辺とをX方向に沿った一直線上に配置する場合について述べた(図3)。しかし本発明はこれに限らず、例えば第3グランド辺SG3の長さを第3アンテナ素子辺SA3の長さよりも短くし、アンテナ素子部31の上辺とグランド部32における右側の上辺とを、Y方向にずれた状態となるように配置しても良い。
【0075】
さらに上述した実施の形態においては、図3(A)及び(B)に示したように、アンテナ表面3Aにおいて第3スリット43よりも右側の部分を、グランド部32が比較的広くなるように形成し、グランド右下凹部32DRをX方向にやや長く形成し、アンテナ裏面3Bにおいて裏面グランド部34をこれと対応するように形成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、例えば図3(A)及び(B)と対応する図10(A)及び(B)に示すように、アンテナ表面203Aにおいて第3スリット43よりも右側の部分を、グランド部232がやや狭くなり、グランド左下凹部232DLをやや短くするように形成し、アンテナ裏面203Bにおいて裏面グランド部234をこれと対応するように形成しても良い。或いは、例えば図3(A)及び(B)と対応する図11(A)及び(B)に示すように、アンテナ表面303Aにおいて第3スリット43よりも右側の部分を、グランド部332がさらに狭くなり、グランド右下凹部332DRをさらに短くするように形成し、アンテナ裏面303Bにおいて裏面グランド部334をこれと対応するように形成しても良い。
【0076】
さらに上述した実施の形態においては、アンテナ裏面3Bにグランド部32を投影したような形状の裏面グランド部34を設け、該裏面グランド部34とグランド部32とをビア28により電気的に接続させる場合について述べた(図2及び図3)。しかし本発明はこれに限らず、例えば裏面グランド部34をグランド部32とは異なる種々の形状としても良く、或いは該裏面グランド部34とグランド部32とを電気的に分離しても良く、さらには該裏面グランド部34を省略しても良い。
【0077】
さらに上述した実施の形態においては、835MHz帯及び2GHz帯といった2つの周波数帯において、それぞれアンテナ3を共振させる場合、すなわち定在波アンテナとして機能させる場合について述べた(図5及び図6)。しかし本発明はこれに限らず、例えば何れか一方の周波数帯のみにおいてアンテナ3を共振させ、定在波アンテナとして機能させても良い。具体的には、例えば第2アンテナ素子辺SA2及び第2グランド辺SG2の長さを、835MHz帯のλ/6やλ/4等から外れた値とすることにより、該835MHz帯において共振しないようにすれば良い。
【0078】
さらに上述した実施の形態においては、アンテナ3を835MHz帯及び2GHz帯において共振させて定在波アンテナとして機能させ、3.7GHz帯において共振させること無く進行波アンテナとして機能させる場合について述べた(図5図7)。しかし本発明はこれに限らず、アンテナ3を他の種々の周波数帯において定在波アンテナとして機能させ、且つ他の種々の周波数帯において進行波アンテナとして機能させるようにしてもよい。
【0079】
さらに上述した実施の形態においては、アンテナ3をNEMA/ANSI規格のFR-4に準拠したガラスエポキシ基板により構成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、他の種々の基板によりアンテナ3を構成しても良い。
【0080】
さらに本発明は、上述した各実施の形態及び他の実施の形態に限定されるものではない。すなわち本発明は、上述した各実施の形態と上述した他の実施の形態の一部又は全部を任意に組み合わせた実施の形態や、一部を抽出した実施の形態にもその適用範囲が及ぶものである。
【0081】
さらに上述した実施の形態においては、アンテナ素子部としてのアンテナ素子部31と、グランド部としてのグランド部32と、スリットとしての第1スリット41、第2スリット42及び第3スリット43とによってアンテナとしてのアンテナ3を構成する場合について述べた。しかし本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなるアンテナ素子部と、グランド部と、スリットとによってアンテナを構成しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、例えば5G等の通信規格に対応した無線通信機器のアンテナで利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1……無線通信装置、3……アンテナ、3A……アンテナ表面、3B……アンテナ裏面、4……接続ケーブル、20……基材層、21……第1導電層、22……第2導電層、31……アンテナ素子部、31P……アンテナ素子突出部、32……グランド部、32D……グランド中央凹部、32DL……グランド左下凹部、32DR……グランド右下凹部、34……裏面グランド部、41……第1スリット、42……第2スリット、43……第3スリット、SA0……非対向アンテナ素子辺、SA1……第1アンテナ素子辺、SA2……第2アンテナ素子辺、SA3……第3アンテナ素子辺、SG1……第1グランド辺、SG2……第2グランド辺、SG3……第3グランド辺。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11