(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125904
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】クラウドサービス評価装置及びクラウドサービス評価方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20220822BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023737
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長原 健一
(72)【発明者】
【氏名】若杉 一幸
(72)【発明者】
【氏名】酒井 渉
(72)【発明者】
【氏名】土坂 祐太郎
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC11
(57)【要約】
【課題】稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを適切に評価する。
【解決手段】クラウドサービス評価装置は、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスについて、予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な処理時間をそれぞれ算出し、評価値を求めることにより、クラウドサービスの評価を行う。予測モデルは、複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価装置であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデルをそれぞれ取得するための予測モデル取得部と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出するための処理時間算出部と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える、クラウドサービス評価装置。
【請求項2】
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記評価値を比較することにより前記少なくとも1つのクラウドサービスを選択するための選択部を更に備える、請求項1に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項3】
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記評価値を比較可能な態様で表示するための表示部を更に備える、請求項1又は2に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項4】
前記複数のクラウドサービスは、前記稼働状態に応じて利用料金が設定されており、
前記評価値算出部は、前記利用料金に基づいて前記処理時間を確保するために必要な料金として前記評価値を算出する、請求項1から3のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項5】
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記説明変数及び前記目的関数の教師データを用いて前記予測モデルをそれぞれ作成するための予測モデル作成部を更に備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項6】
前記処理時間算出部は、前記複数のクラウドサービスの各々で規定される制約条件を満たすように前記タスクを分割した複数のサブタスクに分割した場合、前記予測モデルを用いて、前記サブタスクの各々について算出したサブ処理時間を合計することにより、前記処理時間を求める、請求項1から5のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項7】
前記タスクは、データ分析に関するスクリプトである、請求項1から6のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項8】
前記処理時間は、クラウドサービスを起動するためのサービス起動時間、前記タスクに関するファイルをダウンロード/アップロードするためのダウンロード/アップロード時間、前記タスクの演算処理を実行するための実行時間、及び、前記クラウドサービスを終了するためのクロージング時間を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項9】
前記予測モデルを用いた演算は、前記複数のクラウドサービスから独立したローカル環境で実施される、請求項1から8のいずれか一項に記載のクラウドサービス評価装置。
【請求項10】
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価方法であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデルをそれぞれ取得する工程と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出する工程と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出する工程と、
を備える、クラウドサービス評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クラウドサービス評価装置及びクラウドサービス評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばインターネットのようなネットワーク通信を介して、利用者がサーバ等のITリソースを利用可能なクラウドサービスが知られている。この種のクラウドサービスで取り扱われるITリソースはハードウェアからソフトウェアまで多岐にわたり、近年では膨大な数のクラウドサービスが提供されている。クラウドサービスの利用者は、自身がクラウドサービスで処理しようとするタスクに応じてクラウドサービスを選択する必要があるが、このような膨大な数のクラウドサービスから適したものを選択することは容易ではない。
【0003】
このような課題を解決するための一手法として、例えば特許文献1がある。特許文献1では、利用者が利用可能な複数のクラウドサービスの性能指標と、利用者がクラウドサービスに対して要求する要求性能とを比較することにより、利用者に適したクラウドサービスを選択可能なクラウドサービス選択装置が開示されている。この装置では、性能指標と要求指標とを比較して算出される性能指標に対して、利用者ポリシーに基づく重み付けを行うことで、利用者が意図するクラウドサービスを効率的に選択できるとされている(例えば、利用者ポリシーとして料金を設定することで、低コストなクラウドサービスの効率的な選択が可能とされている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来型のクラウドサービスでは、クラウドサービスの稼働状態に関わらず、利用者との契約によって規定されるサービス期間に応じた課金設定がなされる。この場合、サービス期間は、クラウドサービスが実際に稼働する期間に対して少なからずマージンを含んで設定され、特にサービス期間における稼働頻度が少ない利用態様では無駄なコストが発生しやすい。その一方で、クラウドサービスの稼働状態/非稼働状態を切り替え可能であり、サービス期間のうち稼働状態にある間には課金がなされるが、非稼働状態の間はほとんど課金がなされない、いわゆるサーバレス型のクラウドサービスがある。このようなサーバレス型のクラウドサービスでは、実質的にクラウドサービスが稼働状態にある間だけ課金されるため、稼働頻度が低いサービスでは、利用者にとって大きなコスト的メリットがある。
【0006】
上記特許文献1では、前述の従来型のクラウドサービスを前提としており、サーバレス型のクラウドサービスに適用することができない。例えば、サーバレス型のクラウドサービスでは、クラウドサービスを非稼働状態から稼働状態に切り替えた際に、従来型のクラウドサービスには存在しないサービス起動時間等が必要であり、上記特許文献1では、このようなサーバレス型のクラウドサービスに特有な点が考慮されていない。またサーバレス型のクラウドサービスでは、稼働状態にある期間(処理時間)に応じた課金設定がなされるため、従来型のクラウドサービスとは課金条件が異なっており、上記特許文献1では適切なクラウドサービスの評価が困難である。
【0007】
本開示に係る少なくとも一実施形態は上述の事情に鑑みなされたものであり、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを適切に評価可能なクラウドサービス評価装置及びクラウドサービス評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る少なくとも一実施形態に係るクラウドサービス評価装置は、上記課題を解決するために、
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価装置であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデルをそれぞれ取得するための予測モデル取得部と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出するための処理時間算出部と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出するための評価値算出部と、
を備える。
【0009】
本開示に係る少なくとも一実施形態に係るクラウドサービス評価方法は、上記課題を解決するために、
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価方法であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデルをそれぞれ取得する工程と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出する工程と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る少なくとも一実施形態によれば、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを適切に評価可能なクラウドサービス評価装置及びクラウドサービス評価方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係るクラウドサービス評価装置の全体構成図である。
【
図2】一実施形態に係るクラウドサービス評価方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図2のステップS11における処理時間の算出例である。
【
図4】サーバレス型のクラウドサービスにおける処理時間の内訳を示す図である。
【
図5】
図2のステップS14における表示例である。
【
図6】
図1の予測モデル作成部による予測モデルの作成方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図6のステップS21で用意される教師データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。例えば、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
少なくとも一実施形態に係るクラウドサービス評価装置は、複数のクラウドサービスを評価対象とする。これらのクラウドサービスは、稼働状態/非稼働状態が切り替え可能なサーバレス型のクラウドサービスである。稼働状態/非稼働状態は、例えば利用者の選択によって任意に切替可能である。
【0014】
このようなサーバレス型のクラウドサービスでは、稼働状態に応じて利用料金が設定され、非稼働状態にある間はほとんど課金がなされない。以下の実施形態では、クラウドサービスを利用して処理するタスクとして、データ分析に関するスクリプトが用いられる。これらのスクリプトには、データ分析に関する種々のスクリプトが含まれ、例えば、データ分析における演算処理、データ可視化、ファイルのダウンロード/アップロード等が含まれる。例えば、電力需要予測システムでは、過去の電力実績ファイルをダウンロードし、将来の電力需要量を演算し、演算結果をファイルアップロードする。また演算結果の確認時には、演算結果のファイルをダウンロードし、データ可視化処理を行い、ユーザインターフェースに表示する。クラウドサービスを利用してこのようなデータ分析に関するスクリプトを処理する場合、クラウドサービスの稼働頻度が比較的少なくなるため、サーバレス型のクラウドサービスを利用することで課金額を効果的に抑えることができ、利用者にとって大きなコスト的メリットがある。
【0015】
図1は一実施形態に係るクラウドサービス評価装置100の全体構成図である。クラウドサービス評価装置100は、サーバレス型クラウドサービスである上述のクラウドサービスを評価することにより、利用可能な複数のクラウドサービスの候補の中から利用者に適した少なくとも1つのクラウドサービスを選択するための支援を行うことができる。このようなクラウドサービス評価装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。尚、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。具体的には、クラウドサービス評価装置100は、
図1に示すように、予測モデル取得部102と、処理時間算出部104と、評価値算出部106と、選択部108と、表示部110とを備える。
【0016】
尚、クラウドサービス評価装置100は、評価対象であるクラウドサービスから独立したローカル環境にあるサーバ等で構成される。そのため、実際に評価対象となるクラウドサービスを利用することなく、多数のクラウドサービスについて簡易的に評価を行うことができる。
【0017】
予測モデル取得部102は、クラウドサービスの評価に用いられる予測モデルMを取得するための構成である。予測モデルMは、評価対象であるクラウドサービスごとに用意され、所定のタスクをクラウドサービスで処理する場合に必要な処理時間を予測するためのモデルである。
【0018】
これらの予測モデルMは、クラウドサービス評価装置100が備える記憶部112に予め記憶される。予測モデル取得部102は記憶部112にアクセスすることにより予測モデルMを取得する。記憶部112は、例えばハードディスクやデータベース等の記憶装置によって構成される。
図1では、記憶部112は、クラウドサービス評価装置100に内蔵された内部記憶媒体として示されているが、クラウドサービス評価装置100に外付けされた外部記憶媒体であってもよい。
【0019】
処理時間算出部104は、予測モデル取得部102で取得された予測モデルMを用いて、クラウドサービスごとに、所定のタスクを処理するために必要な処理時間をそれぞれ算出するための構成である。処理時間算出部104は、予測モデルMに対して、利用者が処理を希望する所定のタスク(クラウドサービスを用いて処理予定のタスク)を入力することにより、当該タスクを処理するために必要な処理時間を算出する。これにより処理時間算出部104では、実際にクラウドサービスを利用することなく、各クラウドサービスを利用した場合に想定される処理時間を予測できる。
【0020】
評価値算出部106は、クラウドサービスごとに、処理時間算出部104で算出された処理時間に基づいて評価値を算出するための構成である。本実施形態では、評価対象であるクラウドサービスは稼働状態/非稼働状態を切替可能なサーバレス型のクラウドサービスであり、稼働状態に応じて利用料金が設定されるため、評価値として、処理時間に対応する利用料金がクラウドサービスごとに算出される。すなわち各クラウドサービスにおいて予測される処理時間に基づいて、各クラウドサービスを利用した場合に想定される利用料金が評価値として算出される。
【0021】
選択部108は、評価値算出部106で算出された評価値に基づいて、少なくとも1つのクラウドサービスを選択するための構成である。選択部108では、評価値に基づいたクラウドサービスの選択が行われることで、利用者に適したクラウドサービスが効率的に選択される。
【0022】
また選択部108では、利用者がどのような観点からクラウドサービスを選択するかを規定する利用者ポリシーを予め設定することで、利用者ポリシーに基づいたクラウドサービスの選択が行われるように構成されてもよい。例えば、利用者ポリシーとして極力安価な利用料金を設定した場合、評価値として算出された利用金額を比較した結果、最も安価な利用料金が想定されるクラウドサービスを効率的に選択できる。また利用者ポリシーとして、利用料金の上限金額(予算)を設定した場合、上限金額を満たす利用料金が想定される少なくとも1つのクラウドサービスを効率的に抽出することもできる。また選択部108で選択されるクラウドサービスの数は、単数であってもよいし、複数であってもよい。
【0023】
表示部110は、複数のクラウドサービスの各々について、評価値算出部106で算出された評価値を比較可能な態様で表示するための構成である。具体的には、表示部110は評価結果を表示可能なディスプレイ等で構成される。表示部110では、クラウドサービスごとに評価値が表示されることで、当該表示を介して利用者に評価値を認識させ、利用者によるクラウドサービスの選択を支援することができる。
【0024】
続いて上記構成を有するクラウドサービス評価装置100によって実施されるクラウドサービス評価方法について説明する。
図2は一実施形態に係るクラウドサービス評価方法を示すフローチャートである。
【0025】
まず予測モデル取得部102は、記憶部112にアクセスすることにより、記憶部112に予め記憶された予測モデルMを取得する(ステップS10)。続いて処理時間算出部104は、予測モデル取得部102で取得された予測モデルMを用いて、各クラウドサービスについて、所定のタスクを処理するために必要な処理時間をそれぞれ算出する(ステップS11)。予測モデルMは、クラウドサービスの実行環境を示すパラメータを含む説明変数と処理時間を含む目的変数との相関を示すモデルであり、ステップS11では、予測モデルMに対して所定のタスクを入力することにより、対応する処理時間が算出される。
【0026】
ここで
図3は
図2のステップS11における処理時間の算出例であり、
図4はサーバレス型のクラウドサービスにおける処理時間の内訳を示す図である。
図3の例では、説明変数として、所定のタスクに関する分析タスク内容(データ量(例えばファイルダウンロード量やファイルアップロード量など)、コードサイズ、コンテナサイズ)、分析タスク実行環境(メモリ量、CPUコア数、CPU周波数)、ローカルでのタスク処理時間(分析時間)が入力され、それに対応する目的変数として、クラウドでの処理時間(デプロイ時間、ダウンロード時間、分析時間、アップロード時間、クロージング時間)が、クラウドサービスごとに算出される。ここで処理時間は、クラウドサービスにおける実行時間であり、
図4に示すように、デプロイ時間、ファイルダウンロード時間、分析時間、ファイルアップロード時間、クロージング時間を含んで構成される。
【0027】
続いて評価値算出部106は、各クラウドサービスについて、ステップS11で算出された処理時間に基づく評価値を算出する(ステップS12)。本実施形態では、評価対象である複数のクラウドサービスは、稼働状態/非稼働状態が切り替え可能なサーバレスサーバであって、且つ、稼働状態に応じて利用料金が設定される。すなわちクラウドサービスが非稼働状態にある間はほとんど利用料金がかからず、稼働状態の長さに応じて利用料金が設定される。評価値算出部106は、このようなクラウドサービスの設定を前提として、評価値として、ステップS11で算出された処理時間に対応する利用料金を算出する。このように、所定のタスクを処理するために必要になる利用料金を評価値として算出することで、クラウドサービスの評価をコスト的観点から行うことができる。
【0028】
尚、評価値算出部106には、評価値として利用料金を算出するために必要な情報として、クラウドサービスごとの単価、上限の情報等が入力される。例えば、単価には、クラウドサービスにおけるCPU利用料金、メモリ利用料金、ストレージ利用料金、ネットワーク利用料金、呼び出し回数等が含まれる。
【0029】
続いて選択部108は、ステップS12で算出された評価値に基づいて、少なくとも1つのクラウドサービスを選択する(ステップS13)。ステップS13におけるクラウドサービスの選択は、ステップS12で算出された評価値をクラウドサービスごとに比較することにより行われる。これにより、利用者に適したクラウドサービスが効率的に選択される。
【0030】
続いて表示部110は、複数のクラウドサービスの各々について、ステップS12で算出された評価値を比較可能な態様で表示する(ステップS14)。このように表示部110にクラウドサービスごとに評価値を表示することで、利用者による評価値に基づいたクラウドサービスの比較を支援することができる。
【0031】
ここで
図5は
図2のステップS14における表示例である。
図5では、ステップS12で評価値として算出された料金がクラウドサービスごとに示されている。これにより、各クラウドサービスを利用した場合に想定される料金の予測結果が対比可能な態様で表示されることにより、利用者は的確なクラウドサービスの選定が可能となる。
【0032】
尚、本実施形態ではステップS13及びS14の両方を実施する場合を例示したが、ステップS13又はS14のいずれか一方のみを実施してもよい。また本実施形態ではステップS13の後にステップS14を実施する場合を例示したが、ステップS13の前にステップS14を実施してもよいし、ステップS13及びS14を同時に実施してもよい。
【0033】
記憶部112に記憶される予測モデルMは、クラウドサービス評価装置100によって作成されてもよい。この場合、クラウドサービス評価装置100は、
図1に示すように、予測モデル作成部114を更に備える。予測モデル作成部114は予測モデルMを作成するための構成である。予測モデル作成部114によって作成された予測モデルMは記憶部112に記憶されることで、前述のようにクラウドサービスの評価演算に用いられる。
【0034】
ここで予測モデル作成部114による予測モデルMの作成方法について詳細に説明する。
図6は
図1の予測モデル作成部114による予測モデルの作成方法を示すフローチャートである。
【0035】
まず予測モデル作成部114は、いくつかの分析スクリプトサンプルを用意する(ステップS20)。これらの分析スクリプトサンプルは、ケーススタディによって予測モデルMを作成するための教師データ(学習データ)を作成するためのサンプルスクリプトである。
【0036】
続いて予測モデル作成部114は、ステップS20で用意した分析スクリプトサンプルを用いて、予測モデルMを作成するために必要な教師データを用意する(ステップS21)。ステップS21では、分析スクリプトサンプルを所定のクラウドサービスを利用して処理する場合についてケーススタディを行い、予測モデルMにおける説明変数と目的変数をそれぞれ計測し、その計測結果を教師データとする。
【0037】
ここで
図7は
図6のステップS21で用意される教師データの一例である。この例では、クラウドサービスのリソースであるCPUコア数に対する分析スクリプトサンプルの処理時間及び最大メモリ消費量が計測されており、CPUコア数が増加するに従って処理時間が減少し、最大メモリ消費量が増加する傾向が示されている。
【0038】
尚、ステップS11で用意される教師データは、実際に活用されている又は将来的に開発される各種分析スクリプトに適用性を有する必要があるため、データ量やライブラリ等を各種試行したデータとする必要がある。またCPUコア数を変えた場合の適用性を評価するために、並列計算に対応したスクリプトでもある必要がある。そのため、例えばKaggle等で公開されている分析スクリプトの中から、並列計算に対応しており、且つ、データサイズやライブラリ、アルゴリズムを各種試せる複数種類を用意することが好ましい。
【0039】
続いて予測モデル作成部114は、ステップS21で用意された教師データを用いて予測モデルMを作成する(ステップS22)。このように予測モデル作成部114では、説明変数及び目的関数の相関を予め教師データとして用意しておき、教師データを用いた学習によって、評価対象となるクラウドサービスに対応する予測モデルMを好適に構築できる。クラウドサービス評価装置100では、このように構築された予測モデルを用いることで、実際にクラウドサービスを利用することなく、複数のクラウドサービスを評価することが可能となる。
【0040】
上述の実施形態では、クラウドサービス評価装置100は、処理対象となるタスクを分割せずに処理する場合を前提とした評価を行うが、以下のように、タスクを分割する可能性を考慮した評価を行なってもよい。例えば、クラウドサービスでは、一回の実行において処理可能な処理量や処理時間が制限される場合があるため、処理対象となるタスクを、これらの制約条件を満たすように幾つかのサブタスクに分割して処理することが望ましい場合がある。
【0041】
図8は
図2の変形例を示すフローチャートである。この変形例では、クラウドサービス評価装置100は、まず処理対象であるタスクについてローカルで処理時間を計測することにより、タスクに含まれる主要関数を推定する(ステップS30)。以下の説明では、理解しやすいように、ここでは当該タスクに、3つの主要関数が含まれており、それぞれに対応する3つのサブタスク(前処理タスク、学習タスク、予測タスク)に分割可能な場合について述べる。
【0042】
続いてクラウドサービス評価装置100は、ステップS30で推定された主要関数に基づいて、タスクに含まれるサブタスクの組み合わせをリストアップする(ステップS31)。前述の例の場合、当該リストには、タスクをサブタスクに分割しない第1パターンと、タスクを前処理タスクの後だけで分割する(前処理タスクと、学習タスク+予測タスクとに分割する)第2パターンと、タスクを学習タスクの後だけで分割する(前処理タスク+学習タスクと、予測タスクとに分割する)第3パターンと、タスクを各サブタスクに分割する(前処理タスクと、学習タスクと、予測タスクとに分割する)第4パターンとがリストアップされる。
【0043】
続いて処理時間算出部104はステップS31でリストアップされた各パターンについて処理時間を算出し(ステップS32)、評価値算出部106は各パターンについてステップS32で算出された処理時間に基づいて評価値を算出する(ステップS33)。これにより、上記の例であれば、タスクをサブタスクに分割すべきか、サブタスクに分割する場合にはどのような分割パターンが適切か、を考慮して、パターンごとに評価値が算出される。特に、タスクが幾つかの要素に分割されているパターンでは、各要素について算出された評価値の合計が当該パターンにおける評価値として算出される。
【0044】
このように算出された評価値に基づいて、選択部108では、クラウドサービスの選択に加えて、処理対象となるタスクの分割パターンの選択を行う(ステップS34)。これにより、各クラウドサービスにおける制約条件を満たしながら、利用者にとって好ましいタスクの分割パターンと利用すべきクラウドサービスの選択を行うことができる。例えば、利用者ポリシーとしてコストを重視する場合には、タスクをどのように分割して、どのクラウドサービスを選択すべきかが提示される。
【0045】
尚、ステップS34では各クラウドサービスについて分割パターンごとに評価値を表示することで、利用者の選択の支援を行なってもよい。
【0046】
以上説明したように上述の各実施形態によれば、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスにおいて、予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な処理時間を算出し、当該処理時間に基づく評価値が求められる。クラウドサービスの利用者は、このような評価値に基づいてクラウドサービスを評価することで、実際にクラウドサービスを利用することなく、ローカル環境において、適切なクラウドサービスの選択が可能となる。
【0047】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0049】
(1)一態様に係るクラウドサービス評価装置は、
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価装置(例えば上記実施形態のクラウドサービス評価装置100)であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデル(例えば上記実施形態の予測モデルM)をそれぞれ取得するための予測モデル取得部(例えば上記実施形態の予測モデル取得部102)と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出するための処理時間算出部(例えば上記実施形態の処理時間算出部104)と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出するための評価値算出部(例えば上記実施形態の評価値算出部106)と、
を備える。
【0050】
上記(1)の態様によれば、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスにおいて、予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な処理時間を算出し、当該処理時間に基づく評価値が求められる。クラウドサービスの利用者は、このような評価値に基づいてクラウドサービスを評価することで、実際にクラウドサービスを利用することなく、ローカル環境において、適切なクラウドサービスの選択が可能となる。
【0051】
(2)他の態様では、上記(1)の態様において、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記評価値を比較することにより前記少なくとも1つのクラウドサービスを選択するための選択部(例えば上記実施形態の選択部108)を更に備える。
【0052】
上記(2)の態様によれば、評価値に基づいたクラウドサービスの選択が行われることで、利用者に適したクラウドサービスを効率的に選択できる。
【0053】
(3)他の態様では、上記(1)又は(2)の態様において、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記評価値を比較可能な態様で表示するための表示部(例えば上記実施形態の表示部110)を更に備える。
【0054】
上記(3)の態様によれば、表示部にクラウドサービスごとに評価値を表示することで、利用者による評価値に基づいたクラウドサービスの比較を支援することができる。
【0055】
(4)他の態様では、上記(1)から(3)のいずれか一態様において、
前記複数のクラウドサービスは、前記稼働状態に応じて利用料金が設定されており、
前記評価値算出部は、前記利用料金に基づいて前記処理時間を確保するために必要な料金として前記評価値を算出する。
【0056】
上記(4)の態様によれば、所定のタスクを処理するために必要になる料金を評価値として算出することで、クラウドサービスの評価をコスト的観点から行うことができる。
【0057】
(5)他の態様では、上記(1)から(4)のいずれか一態様において、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記説明変数及び前記目的関数の教師データを用いて前記予測モデルをそれぞれ作成するための予測モデル作成部(例えば上記実施形態の予測モデル作成部114)を更に備える。
【0058】
上記(5)の態様によれば、説明変数及び目的関数の相関を予め教師データとして用意しておき、教師データを用いた学習によって、評価対象となるクラウドサービスに対応する予測モデルを好適に構築できる。このように構築された予測モデルを用いることで、実際にクラウドサービスを利用することなく、複数のクラウドサービスを評価することが可能となる。
【0059】
(6)他の態様では、上記(1)から(5)のいずれか一態様において、
前記処理時間算出部は、前記複数のクラウドサービスの各々で規定される制約条件を満たすように前記タスクを分割した複数のサブタスクに分割した場合、前記予測モデルを用いて、前記サブタスクの各々について算出したサブ処理時間を合計することにより、前記処理時間を求める。
【0060】
上記(6)の態様によれば、各クラウドサービスにおける制約条件を満たすためにタスクを複数のサブタスクに分割する必要がある場合、予測モデルを用いてサブタスクごとにサブ処理時間を算出した結果を合計することで、クラウドサービスごとの処理時間が算出される。このように算出された処理時間に基づいて評価を行うことで、利用者に対して適したタスクの分割パターンと利用すべきクラウドサービスの選択を好適に支援できる。
【0061】
(7)他の態様では、上記(1)から(6)のいずれか一態様において、
前記タスクは、データ分析に関するスクリプトである。
【0062】
上記(7)の態様によれば、クラウドサービスを利用してデータ分析に関するスクリプトを処理する場合、クラウドサービスの稼働頻度が比較的少なくなるが、上記のように各クラウドサービスを評価することで、利用者にとってメリットがあるクラウドサービスを適切に選択することが可能となる。
【0063】
(8)他の態様では、上記(1)から(7)のいずれか一態様において、
前記処理時間は、クラウドサービスを起動するためのサービス起動時間、前記タスクに関するファイルをダウンロード/アップロードするためのダウンロード/アップロード時間、前記タスクの演算処理を実行するための実行時間、及び、前記クラウドサービスを終了するためのクロージング時間を含む。
【0064】
上記(8)の態様によれば、評価値を求めるために算出される処理時間がこれらの要素から構成される。上述のクラウドサービス評価装置は、評価対象であるクラウドサービスで処理されるタスクが、低頻度かつ高負荷な場合に特に有効である。例えば、処理時間のうちサービス起動時間及びクロージング時間が短い場合は処理全体で見たときのオーバーヘッドの影響が小さく、またデータのダウンロード及びアップロード時間が短い場合はデータのクラウドサービス間のIN/OUTにかかる処理全体で見た時のオーバーヘッドの影響が小さいため、特に有効である。
【0065】
(9)他の態様では、上記(1)から(8)のいずれか一態様において、
前記予測モデルを用いた演算は、前記複数のクラウドサービスから独立したローカル環境で実施される。
【0066】
上記(9)の態様によれば、実際に評価対象となるクラウドサービスを利用することなく、多数のクラウドサービスについて簡易的に評価を行うことができる。
【0067】
(10)一態様に係るクラウドサービス評価方法は、
稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスを評価するためのクラウドサービス評価方法であって、
前記複数のクラウドサービスの各々について、実行環境を示すパラメータを含む説明変数と、サンプルタスクを処理するための処理時間を含む目的変数との相関を示す予測モデルをそれぞれ取得する工程(例えば上記実施形態のステップS10)と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な前記処理時間をそれぞれ算出する工程(例えば上記実施形態のステップS11)と、
前記複数のクラウドサービスの各々について、前記処理時間に基づく評価値を算出する工程(例えば上記実施形態のステップS12)と、
を備える。
【0068】
上記(10)の態様によれば、稼働/非稼働状態を選択可能な複数のクラウドサービスにおいて、予測モデルを用いて所定のタスクを処理するために必要な処理時間を算出し、当該処理時間に基づく評価値が求められる。クラウドサービスの利用者は、このような評価値に基づいてクラウドサービスを評価することで、実際にクラウドサービスを利用することなく、ローカル環境において、適切なクラウドサービスの選択が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
100 クラウドサービス評価装置
102 予測モデル取得部
104 処理時間算出部
106 評価値算出部
108 選択部
110 表示部
112 記憶部
114 予測モデル作成部
M 予測モデル