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特開2022-125921電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法
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  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図1
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図2
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図3A
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図3B
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図3C
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図4
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図5
  • 特開-電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125921
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20220822BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220822BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20220822BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20220822BHJP
   H01G 11/00 20130101ALI20220822BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01G11/42
H01G11/56
H01G11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023764
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 諒
【テーマコード(参考)】
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AB04
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA62
5E078DA11
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA01
5H050EA09
5H050HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】凝集が抑制されている電極材料、このような電極材料を用いた電極及び蓄電素子、並びにこのような電極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】電極材料は、活物質と、固体電解質と、黒鉛とを含有し、上記活物質と上記固体電解質とが複合化している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、固体電解質と、黒鉛とを含有し、
上記活物質と上記固体電解質とが複合化している、電極材料。
【請求項2】
上記活物質が、一次粒子径に対する二次粒子径の比が3以下である二次粒子、又は実質的に凝集していない一次粒子である、請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
上記固体電解質が硫化物固体電解質である、請求項1又は請求項2に記載の電極材料。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極材料を含有する、電極。
【請求項5】
請求項4に記載の電極を備える、蓄電素子。
【請求項6】
黒鉛の存在下で、活物質と固体電解質とを複合化させることを備える、電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記リチウムイオン二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でリチウムイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、リチウムイオン二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタも広く普及している。また、全固体電池等、非水電解質として固体電解質を用いる蓄電素子も開発されている。
【0003】
固体電解質は流動性を有さないため、固体電解質が用いられた蓄電素子の電極は活物質と固体電解質間などに空隙が生じやすい。このような電極中の空隙は、電極の抵抗を増加させる。そこで、抵抗を低くするなどのために、活物質を固体電解質で被覆した複合粒子等が各種開発されている。特許文献1には、コバルト元素、ニッケル元素、及びマンガン元素のうち少なくともいずれか1つを含み且つリチウム元素及び酸素元素をさらに含む活物質粒子の表面が酸化物系固体電解質と硫化物系固体電解質とで被覆された複合活物質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-154407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活物質と固体電解質との複合化に際して、活物質の形状等によっては複合化が困難な場合や、過剰な凝集が生じることがある。複合化された粒子が過剰に凝集している場合、このような複合化された粒子を用いて形成される活物質層にムラができること、活物質層中に空隙が生じやすくなることなどにより、蓄電素子の放電容量、容量維持率、出力等の充放電性能に影響を与えることがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、活物質と固体電解質とが複合化している電極材料であって、凝集が抑制されている電極材料、このような電極材料を用いた電極及び蓄電素子、並びにこのような電極材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る電極材料は、活物質と、固体電解質と、黒鉛とを含有し、上記活物質と上記固体電解質とが複合化している。
【0008】
本発明の他の一側面に係る電極は、本発明の一側面に係る電極材料を含有する。
【0009】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る電極を備える。
【0010】
本発明の他の一側面に係る電極材料の製造方法は、黒鉛の存在下で、活物質と固体電解質とを複合化させることを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、活物質と固体電解質とが複合化している電極材料であって、凝集が抑制されている電極材料、このような電極材料を用いた電極及び蓄電素子、並びにこのような電極材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子(全固体電池)の模式的断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
図3A図3Aは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察された実施例1の電極材料の画像である。
図3B図3Bは、図3Aの画像視野においてニッケル元素の分布をマッピングした画像である。
図3C図3Cは、図3Aの画像視野において硫黄元素の分布をマッピングした画像である。
図4図4は、実施例1及び比較例1の電極材料を用いた蓄電素子の充放電曲線である。
図5図5は、実施例1及び比較例1の電極材料を用いた蓄電素子のサイクル毎の容量維持率を示すグラフである。
図6図6は、実施例1及び比較例1の電極材料を用いた蓄電素子の複素インピーダンス平面プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、本明細書によって開示される電極材料、電極、蓄電素子、及び電極材料の製造方法の概要について説明する。
【0014】
本発明の一側面に係る電極材料は、活物質と、固体電解質と、黒鉛とを含有し、上記活物質と上記固体電解質とが複合化している。
【0015】
本発明の一側面に係る電極材料は、活物質と固体電解質とが複合化している電極材料であって、凝集が抑制されている。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。活物質と固体電解質とのみを原料としてこれらを複合化させる場合、活物質の表面に付着した固体電解質にさらに別の活物質が付着することなどにより、活物質同士が固体電解質を介して結合することで凝集が生じると考えられる。黒鉛は、結晶が層状構造を有することなどにより、良好な潤滑性を有する。従って、活物質と固体電解質とを複合化させる際に黒鉛を存在させておくことで、黒鉛が潤滑剤となって、活物質同士が固体電解質を介して結合することが抑制される。本発明の一側面に係る電極材料によれば、このような黒鉛の潤滑作用により、凝集が抑制されていると推測される。
【0016】
「活物質」とは、電荷担体イオン(リチウムイオン等)を吸蔵及び放出することができる材料であって、黒鉛以外の材料をいう。
「黒鉛」とは、充放電前の状態又は充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出された状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。「充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出された状態」とは、例えば、炭素材料を含む電極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
「複合化」とは、一粒子内に活物質及び固体電解質が含まれている粒子(活物質と固体電解質との複合粒子)が形成されていることをいう。例えば、活物質の粒子の表面の少なくとも一部に固体電解質が付着し、複合粒子が形成されていることなどが含まれる。複合粒子にはさらに黒鉛が含まれていてもよい。すなわち、活物質及び固体電解質と共に黒鉛の少なくとも一部が複合化していてもよい。また、活物質及び固体電解質の一方を含まない粒子が存在していてもよい。すなわち、複合化していない活物質及び固体電解質が存在していてもよい。
【0017】
上記活物質が、一次粒子径に対する二次粒子径の比が3以下である二次粒子、又は実質的に凝集していない一次粒子(以下、「一次粒子径に対する二次粒子径の比が3以下である二次粒子、又は実質的に凝集していない一次粒子」を総称して「単粒子系粒子」ともいう。)であることが好ましい。単粒子系粒子は、製造工程や充放電において割れが生じにくく、良好な充放電性能が維持できるなどの利点を有する。一方、単粒子系粒子は、表面の平滑性が高いため、従来の方法では固体電解質との複合化が難しく、また、強引に複合化を進めるために長時間の処理、強い強度での処理等をすると凝集が生じやすい。これに対し、本発明の一側面に係る電極材料においては、活物質が単粒子系粒子である場合も、良好に複合化し、且つ凝集が抑制されており、複合化により単粒子系粒子の利点が十分に発揮可能な電極材料として用いることができる。
【0018】
活物質の「一次粒子径」とは、SEMにおいて観察される活物質を構成する任意の50個の一次粒子における各粒子径の平均値である。一次粒子とは、上記SEMでの観察において、外観上に粒界が観測されない粒子である。一次粒子の粒子径は、次のようにして求める。一次粒子の最小外接円の中心を通り最も短い径を短径とし、上記中心を通り短径に直交する径を長径とする。長径と短径との平均値を粒子径とする。最も短い径が2本以上存在する場合、直交する径が最も長いものを短径とする。
活物質の「二次粒子径」とは、JIS-Z-8815(2013年)に準拠し、活物質を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50:メジアン径)である。
「実質的に凝集していない一次粒子」とは、SEMで観察したとき、複数の一次粒子が凝集せずに独立して存在している一次粒子であること、又は、一次粒子と他の一次粒子とが、おおむね直接結合していない状態の一次粒子であることをいう。
【0019】
上記固体電解質が硫化物固体電解質であることが好ましい。このような場合、活物質と固体電解質とが特に良好に複合化し、且つ凝集がより抑制された電極材料となる。
【0020】
本発明の他の一側面に係る電極は、本発明の一側面に係る電極材料を含有する。当該電極は、本発明の一側面に係る電極材料を含有するため、当該電極を備える蓄電素子は充放電性能が良好である。
【0021】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、本発明の一側面に係る電極を備える。当該蓄電素子は、本発明の一側面に係る電極材料を含有する電極を備えるため、充放電性能が良好である。
【0022】
本発明の一側面に係る電極材料の製造方法は、黒鉛の存在下で、活物質と固体電解質とを複合化させることを備える。当該製造方法によれば、活物質と固体電解質とが複合化している電極材料であって、凝集が抑制されている電極材料を得ることができる。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る電極材料子及びその製造方法、電極、蓄電素子及びその製造方法、蓄電装置、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0024】
<電極材料>
本発明の一実施形態に係る電極材料は、活物質と、固体電解質と、黒鉛とを含有する。当該電極材料は、蓄電素子用の電極材料であってもよい。当該電極材料は、通常、粒子状である。当該電極材料は、正極に用いられる材料(正極材料)であってもよく、負極に用いられる材料(負極材料)であってもよいが、正極材料であることが好ましい。
【0025】
(活物質)
電極材料が正極材料である場合、活物質は正極活物質である。電極材料が負極材料である場合、活物質は負極活物質である。
【0026】
正極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO、Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0027】
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの少なくとも一種を含むリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましく、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの少なくとも二種を含むリチウム遷移金属複合酸化物がさらに好ましく、ニッケル、コバルト及びマンガンを含むリチウム遷移金属複合酸化物がよりさらに好ましい。このリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO型結晶構造を有することが好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、エネルギー密度を高くすることなどができる。
【0028】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、下記式1で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-α ・・・1
式1中、MeはNi、Co及びMnのうちの少なくとも一種を含む金属(Liを除く)である。0≦α<1である。
【0029】
式1中のMeは、実質的にNi、Co及びMnの三元素から構成されていることが好ましい。但し、Meは、その他の金属が含有されていてもよい。
【0030】
電気容量がより大きくなることなどの観点から、式1で表される化合物における各構成元素の好適な含有量(組成比)は以下の通りである。なお、モル比は、原子数比に等しい。
【0031】
式1中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2、0.3又は0.4がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.9が好ましく、0.8、0.7又は0.6がより好ましい場合もある。
【0032】
式1中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Co/Me)の上限としては、0.7が好ましく、0.5、0.4又は0.3がより好ましい場合もある。
【0033】
式1中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0.05が好ましく、0.1又は0.2がより好ましい場合もある。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.6が好ましく、0.5又は0.4がより好ましい場合もある。
【0034】
式1中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)の上限としては、1.6が好ましく、1.4又は1.2がより好ましい場合もある。
【0035】
なお、リチウム遷移金属複合酸化物の組成比は、次の方法により完全放電状態としたときの組成比をいう。まず、蓄電素子を、0.05Cの放電電流で通常使用時の下限電圧まで定電流放電する。なお、「通常使用時」とは、非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。解体し、正極を取り出し、金属Liを対極とした試験電池を組み立て、正極活物質1gあたり10mAの放電電流で、正極電位が3.0V vs.Li/Liとなるまで定電流放電を行い、正極を完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。ジメチルカーボネートを用いて、取り出した正極に付着した成分(電解質等)を十分に洗浄し、室温にて24時間減圧乾燥後、正極活物質のリチウム遷移金属複合酸化物を採取する。採取したリチウム遷移金属複合酸化物を測定に供する。蓄電素子の解体から測定用のリチウム遷移金属複合酸化物の採取までの作業は露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0036】
好適なリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi3/5Co1/5Mn1/5、LiNi1/2Co1/5Mn3/10、LiNi1/2Co3/10Mn1/5、LiNi8/10Co1/10Mn1/10等を挙げることができる。
【0037】
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池や全固体電池に通常用いられる、黒鉛以外の公知の負極活物質の中から適宜選択できる。負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;LiTi12、LiTiO2、TiNb等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の黒鉛以外の炭素材料等が挙げられる。
【0038】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてエックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。
【0039】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0040】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0041】
活物質は、粒子状である。活物質は、単粒子系粒子であることが好ましい。本発明の一実施形態において、活物質はリチウム遷移金属複合酸化物の単粒子系粒子であってもよい。
【0042】
単粒子系粒子の一例として、一次粒子径に対する二次粒子径の比が3以下である二次粒子Aが挙げられる。この一次粒子径に対する二次粒子径の比は、2以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。二次粒子Aの一次粒子径に対する二次粒子径の比が上記上限以下であることにより、割れ等が生じ難い等といった単粒子系粒子の利点を十分に発揮することができる。
【0043】
二次粒子Aの一次粒子径に対する二次粒子径の比の下限は、1であってもよい。なお、一次粒子径の測定方法と二次粒子径の測定方法との違いから、二次粒子Aの一次粒子径に対する二次粒子径の比の下限は、1未満、例えば0.9であってもよい。
【0044】
単粒子系粒子の他の例として、実質的に凝集していない一次粒子B(一つの一次粒子が単独で存在している粒子)が挙げられる。このような一次粒子Bも、割れ等が生じ難いなどといった単粒子系粒子の利点を十分に発揮することができる。二次粒子Aと一次粒子Bは混合されていてもよく、例えば、SEMにおいて観察される任意の50個の活物質の粒子中、一次粒子Bの数が、25個超であることが好ましく、30個以上であることがより好ましく、40個以上であることがさらに好ましい。
【0045】
活物質の一次粒子径としては、例えば0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.5μm以上15μm以下がより好ましく、2μm以上8μm以下がさらに好ましい。活物質の二次粒子径としては、例えば0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.5μm以上15μm以下がより好ましく、2μm以上8μm以下がさらに好ましい。活物質の粒子径(一次粒子径及び二次粒子径)を上記範囲とすることで、電極材料の導電性等が向上する。
【0046】
所定粒子径の単粒子系粒子は、公知の方法により製造することができ、一次粒子径等は製造条件によって制御することができる。また、所定粒子径の単粒子系粒子は、市販品を用いてもよい。活物質の製造工程において、焼成温度を高温にしたり焼成時間を長時間にしたりするなどして、複数の一次粒子を成長させて粒子径を大きくすることが可能である。あるいは、二次粒子を解砕することにより一次粒子とすることが可能である。
【0047】
本発明の他の実施形態において、活物質は、一次粒子径に対する二次粒子径の比が3を超える二次粒子であってもよい。
【0048】
当該電極材料における活物質の含有量としては、70質量%以上99質量%以下が好ましく、80質量%以上98質量%以下がより好ましく、90質量%以上97質量%以下がさらに好ましく、92質量%以上96質量%以下がよりさらに好ましい。当該電極材料における活物質の含有量を上記範囲とすることで、固体電解質と良好に複合化できることなどにより、放電容量、容量維持率、出力等の各種性能をバランスよく発揮することができる。
【0049】
(固体電解質)
固体電解質には従来公知の固体電解質を用いることができる。固体電解質としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、ドライポリマー電解質、ゲルポリマー電解質、疑似固体電解質等を挙げることができ、硫化物固体電解質が好ましい。
【0050】
硫化物固体電解質としては、例えばLiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-P-LiN、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z2n(ただし、m、nは正の数、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(但し、x、yは正の数、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである。)、Li10GeP12等を挙げることができる。硫化物固体電解質として、アルジロダイト型固体電解質を好適に用いることができる。
【0051】
当該電極材料における固体電解質の含有量としては、1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましく、3質量%以上7質量%以下がさらに好ましい。当該電極材料における固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、活物質と良好に複合化できることなどにより、放電容量、容量維持率、出力等の各種性能をバランスよく発揮することができる。
【0052】
当該電極材料における活物質100質量部に対する固体電解質の含有量としては、1質量部以上20質量部以下が好ましく、2質量部以上10質量部以下がより好ましく、3質量部以上7質量部以下がさらに好ましい。当該電極材料における活物質に対する固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、活物質と良好に複合化できることなどにより、放電容量、容量維持率、出力等の各種性能をバランスよく発揮することができる。
【0053】
(黒鉛)
黒鉛は、上述のように、その潤滑作用によって活物質と固体電解質とを複合化させるときの凝集を抑制することができる。また、黒鉛は導電性を有することからも、電極材料の一成分として好ましい。
【0054】
黒鉛には従来公知の黒鉛を用いることができる。黒鉛は、球状黒鉛、塊状黒鉛、薄片状黒鉛等のいずれであってもよい。また、黒鉛は、天然黒鉛及び人造黒鉛のいずれであってもよい。これらの中でも、特に優れた潤滑作用を有することなどから、薄片状黒鉛が好ましい。
【0055】
薄片状黒鉛等、黒鉛のアスペクト比の下限としては、2が好ましく、3がより好ましく、5がさらに好ましい。黒鉛のアスペクト比の上限としては、例えば100であってもよく、50であってもよく、30であってもよい。黒鉛のアスペクト比は、以下のようにして測定する。黒鉛を側面視でSEMにより観察する。任意の50個の黒鉛を選び、各黒鉛の短径と長径とを測定する。短径に対する長径の比を求め、この比の50個の平均値をアスペクト比とする。黒鉛の短径及び長径は、上記した活物質の一次粒子径を求めるときの短径及び長径と同様の定義とする。なお、側面視とは、単独で存在する黒鉛を水平面に置いた状態における側面方向視をいう。
【0056】
黒鉛の平均長径(上記50個の黒鉛の長径の平均値)としては、0.1μm以上20μm以下が好ましく、1μm以上10μm以下がより好ましい。黒鉛の平均短径(上記50個の黒鉛の短径の平均値)の下限は、潤滑作用の観点からはグラフェン単層の厚さ、つまり0.35nm程度であってもよい。黒鉛の平均短径は50nm以上2μm以下が好ましい。黒鉛の平均短径が上記範囲であることで、潤滑作用に加えて、割れ耐性が向上する効果も得られる。
【0057】
当該電極材料における黒鉛の含有量としては、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。当該電極材料における黒鉛の含有量を上記下限以上とすることで、十分な潤滑作用が生じ、凝集が十分に抑制された状態で、活物質と固体電解質とが特に効果的に複合化される。一方、当該電極材料における黒鉛の含有量を上記上限以下とすることで、電極材料のエネルギー密度を高めることなどができる。
【0058】
(他の成分等)
当該電極材料は、活物質、固体電解質及び黒鉛以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、導電剤(黒鉛を除く)、バインダ、フィラー等が挙げられる。但し、当該電極材料における活物質、固体電解質及び黒鉛の合計含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0059】
(複合化)
当該電極材料において、活物質と固体電解質とは複合化している。すなわち、活物質と固体電解質とは、複合粒子を形成している。活物質と固体電解質とは、化学的又は物理的に結合していてもよい。本発明の一実施形態において、複合粒子は、核(母材)となる活物質の粒子と、この粒子の表面の少なくとも一部を被覆する固体電解質とを有する。複合粒子は、固体電解質と共に活物質の粒子の表面の少なくとも一部を被覆する黒鉛をさらに有していてもよい。複合粒子は、実質的に活物質と固体電解質とからなる粒子、又は実質的に活物質と固体電解質と黒鉛とからなる粒子であってもよい。当該電極材料中には、複合化していない活物質、固体電解質及び黒鉛が、それぞれ独立して存在していてもよい。
【0060】
複合粒子において、固体電解質は活物質の粒子の表面の少なくとも一部を被覆していればよい。また、固体電解質は、活物質の粒子の表面において皮膜を形成していてもよく、粒子状に点在していてもよい。複合粒子において、固体電解質は、面積基準で活物質の粒子の表面の30%以上を被覆していることが好ましく、50%以上を被覆していることがより好ましい。固体電解質が活物質の粒子の表面を十分に被覆していることにより、電極材料の導電性を高めることなどができる。
【0061】
複合粒子の平均粒子径としては、例えば0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.5μm以上15μm以下がより好ましく、2μm以上10μm以下がさらに好ましい。複合粒子の平均粒子径を上記範囲とすることで、電極材料の導電性等が向上する。複合粒子の平均粒子径は、上記した活物質の二次粒子径と同様の方法で測定されたD50(メジアン径)を意味する。
【0062】
(用途)
当該電極材料は、各種蓄電素子に用いることができるが、中でも全固体蓄電素子に好適に用いることができる。全固体蓄電素子に対して当該電極材料を用いた場合、活物質と固体電解質とが良好な状態で複合化されており、良好な導電性を有するなどといった効果が特に十分に発揮される。当該電極材料は、電解質として固体電解質と電解液とが併用された蓄電素子等にも適用することができる。
【0063】
<電極材料の製造方法>
本発明の一実施形態に係る電極材料の製造方法は、黒鉛の存在下で、活物質と固体電解質とを複合化させることを備える。上記複合化の方法は、例えば、粒子状又は粉末状の活物質、固体電解質及び黒鉛に対して、衝撃、圧縮及び剪断力を加えながら混合する方法が挙げられる。上記複合化の方法は、固体電解質を塑性変形させながら、固体電解質と活物質と黒鉛とを混合する方法であってもよい。このような方法により、黒鉛が潤滑剤として作用しつつ、固体電解質が活物質の粒子の表面に均一性高く付着し、複合化する。
【0064】
上記複合化の処理は、例えば、インペラ(回転ブレード、羽根車等とも称される)を備える装置を用いた処理により行うことができる。上記処理は、具体的には、容器内のインペラを回転させることで、インペラと容器の壁面との間において、活物質、固体電解質及び黒鉛の混合物に対し衝撃、圧縮及び剪断力を加える機械的混練法を用いた処理である。上記処理は、乾式で行ってもよく、湿式で行ってもよいが、乾式で行うことが好ましい。
【0065】
上記処理におけるインペラの回転数は、インペラのサイズ等に応じて適宜調整されるが、例えば1,000rpm以上10,000rpm以下が好ましく、2,000rpm以上、4,000rpm以上、さらには6,000rpm以上がより好ましい。上記処理における処理時間は、例えば0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上20分以下がより好ましく、2分以上10分以下がさらに好ましい。処理は複数回に分けて行ってもよく、この場合、合計の処理時間が上記範囲内であることが好ましい。
【0066】
上記インペラを備える装置を用いた処理を行う前に、予め活物質、固体電解質及び黒鉛を混合しておいてもよい。また、活物質、固体電解質及び黒鉛を、別々にインペラを備える装置に投入してもよい。
【0067】
当該電極材料の製造方法の原料として用いられる活物質、固体電解質及び黒鉛の具体例及び好適例は、本発明の一実施形態に係る電極材料の各成分として説明した活物質、固体電解質及び黒鉛の具体例及び好適例と同様である。活物質、固体電解質及び黒鉛の具体的及び好適な混合量も、上記した電極材料における各成分の含有量と同様である。
【0068】
<電極>
本発明の一実施形態に係る電極は、本発明の一実施形態に係る電極材料を含有する。当該電極は、蓄電素子用の電極であってもよい。当該電極は、基材と、当該基材に直接又は中間層を介して配される活物質層とを有する。当該電極は、正極であってもよく、負極であってもよいが、正極であることが好ましい。
【0069】
(基材)
基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。
【0070】
当該電極が正極である場合の基材(正極基材)の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0071】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材及び後述する負極基材の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0072】
当該電極が負極である場合の基材(負極基材)の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0073】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0074】
(中間層)
中間層は、基材と活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで基材と活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0075】
(活物質層)
活物質層は、本発明の一実施形態に係る電極材料を含む。活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。活物質層は、電極材料等を含む合剤(正極合剤又は負極合剤)から形成されたものであってもよい。
【0076】
活物質層における電極材料の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上98質量%以下がより好ましく、70質量%以上95質量%以下がさらに好ましく、75質量%以上90質量%以下がよりさらに好ましい。電極材料の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0077】
活物質層における活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上95質量%以下がより好ましく、65質量%以上90質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上85質量%以下がよりさらに好ましい。活物質の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子の高エネルギー密度化、導電性、製造性等が好適化される。
【0078】
固体電解質としては、電極材料の一成分として説明したものと同様のものを用いることができ、硫化物固体電解質が好ましい。
【0079】
活物質層が固体電解質を含有する場合、固体電解質の含有量としては、1質量%以上40質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。固体電解質の含有量を上記範囲とすることで、蓄電素子の電気容量を大きくすることができる。なお、この活物質層における固体電解質の含有量には、電極材料を形成する固体電解質の含有量は含まれないものとする。本発明の一実施形態に係る電極を非水電解液蓄電素子に適用する場合などにおいては、活物質層には固体電解質は含有されていなくてもよい。
【0080】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性等の観点から、カーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0081】
活物質層における導電剤の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。なお、この活物質層における導電剤の含有量には、電極材料を形成する黒鉛の含有量は含まれないものとする。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子のエネルギー密度、導電性等を高めることができる。
【0082】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0083】
活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、電極材料等を安定して保持することができる。
【0084】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。本発明の一実施形態において、活物質層における増粘剤の含有量は、1質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、実質的に増粘剤が含有されていなくてもよい。
【0085】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。本発明の一実施形態において、活物質層におけるフィラーの含有量は、1質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、実質的にフィラーが含有されていなくてもよい。
【0086】
活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を電極材料、固体電解質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0087】
活物質層の平均厚さとしては、10μm以上1,000μm以下が好ましく、30μm以上500μm以下がより好ましい。活物質層の平均厚さを上記下限以上とすることで、高いエネルギー密度を有する蓄電素子を得ることができる。活物質層の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子の小型化を図ることなどができる。活物質層の平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。また、基材の両面に活物質層が設けられている場合、片面の活物質層の厚さの平均値を活物質層の平均厚さとする。後述する隔離層の平均厚さも同様である。
【0088】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子として、以下、全固体電池を具体例に挙げて説明する。図1の蓄電素子10は、全固体電池であり、正極1と負極2とが隔離層3を介して配置された二次電池である。正極1は、正極基材4及び正極活物質層5を有し、正極基材4が正極1の最外層となる。負極2は、負極基材7及び負極活物質層6を有し、負極基材7が負極2の最外層となる。図1に示す蓄電素子10においては、負極基材7上に、負極活物質層6、隔離層3、正極活物質層5及び正極基材4がこの順で積層されている。蓄電素子10における正極1及び負極2の少なくとも一方が、本発明の一実施形態に係る電極である。
【0089】
(正極)
正極1は、正極基材4と、この正極基材4に直接又は中間層を介して配される正極活物質層5とを備える。本発明の一実施形態において、正極1には、上記した本発明の一実施形態に係る電極が用いられる。この場合、正極1の正極基材4及び正極活物質層5の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る電極に備わる基材(正極基材)及び活物質層(正極活物質層)として上記した通りである。
【0090】
本発明の他の実施形態として、負極2に本発明の一実施形態に係る電極が用いられている場合、正極1は従来公知の正極であってもよい。このような正極1としては、活物質又は活物質と固体電解質との複合粒子として従来公知のものが用いられたこと以外は、上記した本発明の一実施形態に係る電極(正極)と同様の正極が挙げられる。
【0091】
(負極)
負極2は、負極基材7と、この負極基材7に直接又は中間層を介して配される負極活物質層6とを備える。本発明の一実施形態において、負極2には、上記した本発明の一実施形態に係る電極が用いられる。この場合、負極2の負極基材7及び負極活物質層6の具体的形態及び好適形態は、本発明の一実施形態に係る電極に備わる基材(負極基材)及び活物質層(負極活物質層)として上記した通りである。
【0092】
本発明の他の実施形態として、正極1に本発明の一実施形態に係る電極が用いられている場合、負極2は従来公知の負極であってもよい。このような負極2としては、活物質又は活物質と固体電解質との複合粒子として従来公知のものが用いられたこと以外は、上記した本発明の一実施形態に係る電極(負極)と同様の負極が挙げられる。また、他の実施形態において、負極活物質層6は、実質的に金属Li又はLi合金のみからなる層であってもよい。この場合、負極活物質層6におけるリチウムの含有量は、90質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。この場合、負極活物質層6は、金属Li箔又はLi合金箔であってもよい。
【0093】
(隔離層)
隔離層3は、通常、固体電解質を含有する。隔離層3に含有される固体電解質としては、上記した従来公知の固体電解質を用いることができ、硫化物固体電解質が好ましい。隔離層3における固体電解質の含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量以上%がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましく、実質的に100質量%であることがよりさらに好ましいこともある。
【0094】
隔離層3には、固体電解質の他、酸化物、ハロゲン化合物、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分が含有されていてもよい。バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、活物質層中の成分として例示した材料から選択できる。また、隔離層3には、機械的強度を高めるなどのために、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が配置されていてもよい。
【0095】
隔離層3の平均厚さとしては、1μm以上200μm以下が好ましく、3μm以上100μm以下がより好ましい。隔離層3の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極1と負極2とを確実性高く絶縁することが可能となる。隔離層3の平均厚さを上記上限以下とすることで、蓄電素子10のエネルギー密度を高めることが可能となる。
【0096】
<蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、従来公知の方法により製造することができる。上記した全固体電池である蓄電素子10の場合、例えば(1)正極合剤を用意すること、(2)隔離層用材料を用意すること、(3)負極合剤を用意すること、及び(4)正極、隔離層及び負極を積層することを備える。
【0097】
(1)正極合剤用意工程
本工程では、通常、正極活物質層を形成するための正極合剤が作製される。正極合剤の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、正極合剤の材料のメカニカルミリング処理、正極合剤の材料の圧縮成形等が挙げられる。
【0098】
(2)隔離層用材料用意工程
本工程では、通常、隔離層を形成するための材料が作製される。隔離層用材料は、通常、固体電解質である。隔離層用材料としての固体電解質は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、所定の材料をメカニカルミリング法により処理して得ることができる。溶融急冷法により所定の材料を溶融温度以上に加熱して所定の比率で溶融混合し、急冷することにより隔離層用材料を作製してもよい。その他の隔離層用材料の合成方法としては、例えば減圧封入して焼成する固相法、溶解析出などの液相法、気相法(PLD)、メカニカルミリング後にアルゴン雰囲気下で焼成することなどが挙げられる。
【0099】
(3)負極合剤用意工程
本工程では、通常、負極活物質層を形成するための負極合剤が作製される。負極合剤の具体的作製方法は、正極合剤と同様である。
【0100】
(4)積層工程
本工程では、例えば、正極基材及び正極活物質層を有する正極、隔離層、並びに負極基材及び負極活物質層を有する負極が積層される。本工程では、正極、隔離層及び負極をこの順に順次形成してもよいし、この逆であってもよく、各層の形成の順序は特に問わない。上記正極は、例えば正極基材及び正極合剤を加圧成型することにより形成され、上記隔離層は、隔離層用材料を加圧成型することにより形成され、上記負極は、負極基材及び負極合剤を加圧成型することにより形成される。正極基材、正極合剤、隔離層材料、負極合剤及び負極基材を一度に加圧成型することにより、正極、隔離層及び負極が積層されてもよい。正極及び負極をそれぞれ予め成形し、隔離層と加圧成型して積層してもよい。
【0101】
<蓄電装置>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0102】
図2に、電気的に接続された二以上の蓄電素子10が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子10を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子10の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0103】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0104】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な全固体電池の場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。例えば、本発明に係る蓄電素子については、正極、隔離層及び負極以外のその他の層を備えていてもよい。正極、隔離層及び負極の各構造も上記した構造に限定されるものではない。また、本発明に係る蓄電素子は、各層のうちの1つ又は複数に液体を含むものであってもよい。本発明に係る蓄電素子は、正極と負極とがセパレータを介して積層され、電解質として非水電解液が用いられた非水電解液蓄電素子等であってもよい。
【0105】
<実施例>
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
[実施例1]
(電極材料の作製)
正極活物質であるLiNi3/5Co1/5Mn1/5の単粒子系粒子(実質的に凝集していない一次粒子;二次粒子径(D50)4.9μm)と、硫化物固体電解質であるアルジロダイト型固体電解質と、薄片状黒鉛(長径3μm)とを95:4:1の質量比で、乳鉢により混合した。インペラを備える装置であるホソカワミクロン製の「ノビルタMINI」を用い、上記混合物を複合化処理した。回転数7,000rpmで2分間の処理を2回行い、実施例1の電極材料を得た。
得られた実施例1の電極材料(複合粒子)のSEM画像を図3Aに示す。また、エネルギー分散型エックス線分析(EDX)により、図3AのSEM画像視野においてニッケル元素の分布をマッピングした画像を図3Bに、硫黄元素の分布をマッピングした画像を図3Cに示す。図3Bにおいては、白色部分がニッケル元素が存在している箇所であり、図3Cにおいては、白色部分が硫黄元素が存在している箇所である。ニッケルは正極活物質を構成する元素であり、硫黄は固体電解質を構成する元素である。図3A及び3Bに示されるように、実施例1の電極材料は、正極活物質の粒子表面の全面にわたり固体電解質が付着し、複合化していることがわかる。
【0107】
用いた原料と質量比を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1から3の各電極材料を得た。
【0108】
【表1】
【0109】
得られた実施例1及び比較例1から3の電極材料をSEMで観察したところ、黒鉛を用いなかった比較例1、及び黒鉛に替えて他の炭素材料を用いた比較例2、3の各電極材料は、いずれも過剰な凝集が生じていた。これに対し、実施例1の電極材料は、凝集が抑制されていた。黒鉛を用いることで、活物質と固体電解質が凝集を抑制しつつ、効果的に複合化されることがわかる。
【0110】
(蓄電素子の作製)
実施例1又は比較例1の電極材料を用い、以下の要領で蓄電素子(全固体電池)を作製した。
実施例1又は比較例1の電極材料と、固体電解質であるアルジロダイト型固体電解質と、導電剤であるアセチレンブラックと、バインダであるスチレンブタジエンゴム(SBR)とを80:16:2:2の質量比で混合し、正極合剤を調製した。また、隔離層用材料として、固体電解質であるアルジロダイト型固体電解質を準備した。上記正極合剤、正極基材としてのアルミニウム箔、隔離層用材料、及び負極基材としてのSUS316L、負極として負極基材に貼り合わせた金属リチウム箔を用い、正極、隔離層及び負極の三層構造からなる蓄電素子(試験セル)を作製した。
得られた各蓄電素子に対して、50℃の下、以下の要領で充放電試験を行った。0.1Cの電流で充電終止電圧4.35Vとして定電流定電圧充電を行った。充電の終了条件は、電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、0.1Cの電流で放電終止電圧2.85Vとして定電流放電を行った。その後、10分間の休止期間を設けた。この充電及び放電を実施例1の電極材料を用いた蓄電素子においては7サイクル、比較例1の電極材料を用いた蓄電素子においては16サイクル行った。得られた4サイクル目までの充放電曲線を図4に、サイクル毎の容量維持率を示すグラフを図5に示す。また、各蓄電素子について、各サイクル充電後休止中に、振幅10mV、周波数範囲10から10-2Hzで交流インピーダンス測定を行った。測定温度は50℃とした。得られた複素インピーダンス平面プロットを図6に示す。
【0111】
図4、5に示されるように、実施例1の電極材料を用いた蓄電素子は、放電容量が大きく、容量維持率も高い。また、図6に示されるように実施例1の電極材料を用いた蓄電素子は、抵抗も低い。これらの結果は、実施例1の電極材料においては、活物質と固体電解質とが均一性高く複合化しており且つ凝集が抑制されていることによると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される蓄電素子、及びこれに備わる電極などに適用できる。
【符号の説明】
【0113】
1 正極
2 負極
3 隔離層
4 正極基材
5 正極活物質層
6 負極活物質層
7 負極基材
10 蓄電素子(全固体電池)
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6