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  • 特開-細胞遊走能を有する酵母抽出物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125934
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】細胞遊走能を有する酵母抽出物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/99 20170101AFI20220822BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220822BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220822BHJP
   A61K 36/062 20060101ALI20220822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220822BHJP
   A23L 31/15 20160101ALN20220822BHJP
【FI】
A61K8/99
A61P17/00
A61Q19/00
A61K36/062
A61P43/00 107
A23L31/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023783
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄典
(72)【発明者】
【氏名】金田 知美
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD47
4B018MD81
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA031
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC11
4C087CA11
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB22
(57)【要約】
【課題】
本発明はトルラ酵母由来の食物繊維を有効成分として含有する、肌荒れの改善効果に優れた化粧料組成物および医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
正常ヒト線維芽細胞に対して、酵母由来の食物繊維を含む抽出物を処理することで、細胞遊走能が向上し、肌荒れ改善に効果的であることを見出し、本発明を完成させた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母抽出物を含有する肌荒れ改善用組成物
【請求項2】
食物繊維を含有する酵母抽出物を含む肌荒れ改善用組成物
【請求項3】
前記組成物が化粧料組成物または医薬組成物である、請求項1または2記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酵母由来の食物繊維を有効成分として含有する、肌荒れ改善効果に優れた化粧料組成物および医薬組成物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
健康的な肌を保つためや手入れを目的に、化粧水や乳液などの化粧品や外用薬が用いられる。
【0003】
紫外線などの外的要因によって荒れた肌を改善する機能として、細胞遊走能があり例えば合成ペプチドなどが知られている(特許文献1)。
【0004】
化粧品全般においては、近年においては安全性の観点からも合成物ではなく天然由来のものが求められており、例えば細胞分化を訴求効果とするマンネンタケ胞子抽出物などを有効成分として含むもの(特許文献2)やヒアルロニダーゼ阻害を訴求効果とするバラ科植物抽出物を有効成分として含むもの(特許文献3)が知られている。また、メラニン産生抑制を訴求効果とするトルラ酵母由来グルコシルセラミンドなどがある(特許文献4)。
しかしながら、酵母由来のもので肌荒れを改善させるものは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-73469号公報
【特許文献2】特開2020-182415号公報
【特許文献3】国際公開WO2015/178385
【特許文献4】特開2014-088340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は酵母由来の食物繊維を有効成分として含有する、肌荒れ改善効果に優れた化粧料組成物および医薬組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果正常ヒト線維芽細胞に対して、酵母由来の食物繊維を含む抽出物に細胞遊走能を有し、肌荒れ改善に効果があることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は
(1) 酵母抽出物を含有する肌荒れ改善用組成物
(2) 食物繊維を含有する酵母抽出物を含む肌荒れ改善用組成物
(3) 前記組成物が化粧料組成物または医薬組成物である、(1)または(2)記載の組成物
に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酵母由来の食物繊維を含む抽出物は、食品として知られている酵母から抽出できるため、比較的容易かつ安価に生産でき、肌荒れ改善等の皮膚の状態を改善する組成物として安全に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の食物繊維を含む抽出物の製造に用いられる酵母は、一般的に用いられている酵母であれば使用することができる。具体的には、パン酵母、ビール酵母(サッカロマイセス・セルビシエ)トルラ酵母(キャンディダ・ユティリス)などを挙げることができる。この中でも、特にトルラ酵母が望ましい。酵母の培養方法も、食品等の産業で一般的に採用される方法で、培養でき、本発明では制限がない。
【0012】
本発明の食物繊維を含有する酵母菌体から抽出することで得られる。酵母菌体としては可溶性エキス成分を分離除去した後の菌体残渣を用いるのが好ましい。可溶性エキス成分の除去方法は、食品等に用いられる酵母エキスの一般的な抽出方法で、可溶性分を除去すればよく、特に制限はなく、本発明では適用できる。通常は、酵母に熱水、アルカリ性溶液、自己消化、機械的破砕、細胞壁溶解酵素、蛋白質分解酵素、リボヌクレアーゼ、またはデアミナーゼのいずれか一つ以上を用いてエキスを抽出し、可溶性成分を除去する。なお、可溶性成分を除去した菌体残渣として、一般に販売されているものを使用することもできる。市販品としては、例えば、三菱商事ライフサイエンス社製の「KR酵母」、「GL酵母」などを用いることもできる。
【0013】
上記の菌体残渣にグルカナーゼを作用することで肌荒れ改善効果のある酵母抽出物を得ることができる。グルカナーゼは特に制限はないが、トルラ酵母を用いる場合は、長瀬ケムテックス製の精製グルカナーゼ製剤「デナチームGEL」が好ましい。例えば、長瀬ケムテックス製のグルカナーゼ製剤「デナチームGEL-L1」の場合、酵母抽出物をpH4~7、望ましくはpH5~6に調整し、25~75℃、望ましくは30~60℃で、酵母菌体重量に対して酵素を0.05~2%、望ましくは0.1~1%添加し、1~30時間、望ましくは10~15時間反応させる。こうして得られる本願発明の酵母抽出物は食物繊維を含有するものであり、食物繊維を5重量%以上、望ましくは15重量%以上、さらに望ましくは50重量%以上含有するものである。
【0014】
本発明の肌荒れ改善における有効成分は酵母抽出物であるため、酵母抽出物をそのまま肌荒れ改善効果のある組成物として使用することもでき、また他の素材との混合物にして使用してもよい。そのまま、食品や医薬品として使用することができる。食品として使用する場合は、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント等として摂取でき、化粧品、塗布剤としても使用できる。
【0015】
また、本発明の組成物は、他の食品素材や医薬品素材、化粧品素材と混合して使用しても良い。例えば、賦形剤、希釈剤となるデキストリン、マルチトール、ソルビトール、デンプンなどである。化粧品や塗布剤等として使用する場合、その形態は特に限定されるものではなく、クリーム状、乳液状、ローション状、軟膏状、ジェル状、スプレー、ムース状、油中水型エマルション、水中油型エマルション、固形状、シート状、パウダー状等々に適用が可能である。
【0016】
本製品を投与量、塗布量は、対象となる皮膚の状態、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0018】
(本願発明の抽出物の製造)
「KR酵母」(三菱商事ライフサイエンス社製)10gを固形分 10%(10g/100 mL)となるように調整した。調整後60℃、pH6.5にて、デナチームGEL―1を0.05gとなるよう添加した。添加後撹拌しながら、3時間反応し、反応後、それぞれを遠心分離し、上清を食物繊維を含有する抽出物として回収した。回収後、噴霧乾燥し、乾燥物を2.5g得た。得られた乾燥物の食物繊維を酵素―HPLC法で測定したところ、51%であった。
【実施例0019】
正常ヒト線維芽細胞を24ウェルプレートに播種(1.5×10cells/well)し、24時間前培養した(5%CO、37℃)。培養液は、10%牛胎児血清を含むMEM-α、nucleosides培地を使用した。その後、スクラッチスティック(AGCテクノグラス製)を用いてウェルの縦方向に幅3mmの亀裂を入れ、PBS(-)でウェルを1回洗浄した後、実施例1で得られた抽出物の終濃度が10,50,100μg/mLとなるように溶解した牛胎児血清を含まないMEM-α、nucleoside培地に交換し、さらに24時間培養した。抽出物は、DMSOの終濃度が0.5%となるように溶解して用いた。
培養後の細胞遊走能は、生細胞をクリスタルバイオレット染色することで評価した。上述のように24時間培養した後、PBS(-)でウェルを1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液を加えて20分間静置した。続いてPBS(-)でウェルを1回洗浄し、0.1%クリスタルバイオレット含有1%酢酸溶液を加えて15分間静置した後、PBS(-)でウェルを2回洗浄し、顕微鏡観察を行った。亀裂部位の同一面積当たりの細胞数を細胞遊走能として評価した。
【比較例1】
【0020】
実施例1で得られた抽出物を用いないこと以外は実施例2と同様に行った。
【0021】
実施例1と比較例1について、亀裂部位の同一面積当たりの細胞数を比較した。実施例1及び比較例1の顕微鏡写真を図2に、比較例1の細胞数を100%とした場合の細胞遊走能を表1に記載した。実施例1では比較例1と比べて濃度依存的に細胞遊走能が向上していたことから、肌荒れの改善に有効であることが分かった。
【0022】
【表1】
図1