(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022125937
(43)【公開日】2022-08-29
(54)【発明の名称】ペリクルおよびペリクルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20220822BHJP
G03F 1/64 20120101ALI20220822BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220822BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20220822BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20220822BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20220822BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20220822BHJP
【FI】
G03F1/62
G03F1/64
C23C14/06 B
C23C16/42
C30B23/06
C30B25/18
C30B29/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023790
(22)【出願日】2021-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110788
【弁理士】
【氏名又は名称】椿 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100124589
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 竜郎
(72)【発明者】
【氏名】奥 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 康大
(72)【発明者】
【氏名】秀 一郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 啓介
【テーマコード(参考)】
2H195
4G077
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
2H195BC33
2H195BC34
2H195BC37
2H195BC38
2H195BC39
4G077AA03
4G077BE08
4G077DA05
4G077DB30
4G077ED06
4G077HA01
4G077TK02
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA56
4K029BC07
4K029CA01
4K029EA01
4K030BA37
4K030CA04
4K030CA12
4K030JA01
4K030LA15
(57)【要約】
【課題】ペリクル膜の割れを抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供する。
【解決手段】ペリクル1は、B(ホウ素)を含有するSi(ケイ素)層113を含むSiボーダー11と、Si層113の表面113a側に形成されたペリクル膜12とを備える。好ましくは、Siボーダー11は貫通孔13を含み、貫通孔13の底面にはペリクル膜12が露出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bを含有するSi層を含むボーダーと、
前記Si層の一方の主面側に形成されたペリクル膜とを備えた、ペリクル。
【請求項2】
前記Si層の抵抗率は、0より大きく0.02Ω・cm以下である、請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記ペリクル膜は、10nm以上50nm以下の厚さを有する、請求項1または2に記載のペリクル。
【請求項4】
前記ペリクル膜は、前記Si層の一方の主面と接触しており、前記Si層の前記一方の主面側にエピタキシャル成長したものである、請求項1~3のいずれかに記載のペリクル。
【請求項5】
前記ペリクル膜と前記Si層とを接着する接着剤膜をさらに備えた、請求項1~3のいずれかに記載のペリクル。
【請求項6】
前記ペリクル膜はSiCよりなる、請求項1~5のいずれかに記載のペリクル。
【請求項7】
前記ボーターは貫通孔を含み、前記貫通孔の底面には前記ペリクル膜が露出する、請求項1~6のいずれかに記載のペリクル。
【請求項8】
Bを含有するSi層を準備する工程と、
前記Si層の一方の主面側にペリクル膜を形成する工程とを備えた、ペリクルの製造方法。
【請求項9】
前記Si層に貫通孔を形成することにより、前記Si層を含むボーダーを作製する工程をさらに備え、
前記貫通孔の底面には前記ペリクル膜が露出する、請求項8に記載のペリクルの製造方法。
【請求項10】
前記ボーダーを作製する工程は、前記Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程を含み、
前記Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液に対して前記Si層および前記ペリクル膜を相対的に動かす、請求項9に記載のペリクルの製造方法。
【請求項11】
前記ボーダーを作製する工程は、前記Si層の他方の主面にSiを底面とする凹部を形成する工程をさらに含み、
前記Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程において、前記凹部の底面に存在するSiをウエットエッチングする、請求項10に記載のペリクルの製造方法。
【請求項12】
前記Si層の抵抗率は、0より大きく0.02Ω・cm以下である、請求項8~11のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【請求項13】
前記ペリクル膜は、10nm以上50nm以下の厚さを有する、請求項8~12のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【請求項14】
前記ペリクル膜を形成する工程は、前記Si層の前記一方の主面と接触する前記ペリクル膜をエピタキシャル成長させる工程を含む、請求項8~13のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【請求項15】
前記ペリクル膜を形成する工程は、前記ボーダーと前記ペリクル膜とを接着剤で接着する工程を含む、請求項8~13のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【請求項16】
前記ペリクル膜はSiCよりなる、請求項8~15のいずれかに記載のペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルおよびペリクルの製造方法に関する。より特定的には、ペリクル膜の割れを抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスに用いられるフォトリソグラフィー技術においては、半導体ウエハにレジストを塗布し、塗布したレジストの必要な箇所に対してフォトマスクを用いて露光光を照射することにより、半導体ウエハ上に必要な形状のレジストパターンが作製される。レジストに対して露光光を照射する際には、ペリクルと呼ばれる防塵用のカバーでフォトマスク覆うことにより、フォトマスクへの異物の付着が防止される。ペリクルのペリクル膜としては、露光光の透過性が高く、露光光に対する耐性が高い(高温時の変質や変形が少ない)材料が適しており、Si(ケイ素)などが用いられている。
【0003】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィー技術の微細化に対する要求が高まっている。近年では、露光光としてKrF(フッ化クリプトン)エキシマレーザーを光源とする光(248nm)やArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーを光源とする光(193nm)などを用いることが主流となっている。また、これらの光よりも短波長であるEUV(Extreme Ultra Violet)光(13.5nm)などを用いることも検討されている。
【0004】
KrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーを光源とする場合、ペリクル膜として有機系薄膜が用いられている。しかし、EUV光のように露光光の波長が短くなると、ペリクル膜が露光光から受けるエネルギーは大きくなる。このため、EUV光を用いたフォトリソグラフィーでは、EUV光に対して高い透過率および高い耐性を有する無機系薄膜を用いることが検討されている。この種の無機系薄膜には、Si、SiN(窒化シリコン)、C(炭素)(グラファイト、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボンなど)、およびSiC(炭化ケイ素)などが含まれる。
【0005】
SiCよりなるペリクル膜の製造方法に関する技術は、たとえば下記特許文献1および2などに開示されている。下記特許文献1には、Si基板の表面にSiC膜を形成する工程と、Si基板の裏面の少なくとも一部をウエットエッチングにより除去する工程とを備えた化合物半導体基板の製造方法が開示されている。Si基板の裏面の少なくとも一部を除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi基板およびSiC膜が相対的に動かされる。
【0006】
下記特許文献2には、ペリクル膜と、ペリクル膜を支持する支持材とを備えたペリクルが開示されている。ペリクル膜は、DLC、アモルファスカーボン、グラファイト、または炭化ケイ素などよりなっている。ペリクル枠は、シリコンまたは金属などよりなっている。このペリクルは、基板をエッチングすることで支持材に成形し、基板上にペリクル膜を形成することで製造される。
【0007】
また、非特許文献1には、熱拡散法を用いて高濃度のB(ホウ素)を注入したP+型Si薄膜結晶層の<110>方向のヤング率が、低濃度のBを注入したSi薄膜結晶層の<110>ヤング率よりも26%~28%低いことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-218358号公報
【特許文献2】国際公開第2014/187710号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】XIAOYI DING, et al., "Residual Stress and Mechanical Properties of Boron-doped p +-Silicon Films", Sensors and Actuators, A21-A23 (1990) p.866.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ペリクル膜の透過率を向上するために、ペリクル膜には薄膜化が要求されている。しかし、ペリクル膜を薄膜化した場合にはペリクル膜の機械的強度が低下するため、ペリクル膜に割れが生じやすくなる。SiCは典型的な硬脆材料であるため、ペリクル膜がSiCよりなる場合、特に割れが生じやすくなっていた。
【0011】
なお、ペリクル膜を薄膜化した場合にペリクル膜に割れが生じやすくなる問題は、ペリクル膜がSiCよりなる場合に限られる問題ではなく、任意のペリクル膜で起こる問題である。ペリクル膜を薄膜化した場合にペリクル膜に割れが生じやすくなる問題は、任意の形状を有するボーダー(支持体)から受ける応力に起因する場合がある。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、その目的は、ペリクル膜の割れを抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の局面に従うペリクルは、Bを含有するSi層を含むボーダーと、Si層の一方の主面側に形成されたペリクル膜とを備える。
【0014】
上記ペリクルにおいて好ましくは、Si層の抵抗率は、0より大きく0.02Ω・cm以下である。
【0015】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜は、10nm以上50nm以下の厚さを有する。
【0016】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜は、Si層の一方の主面と接触しており、Si層の一方の主面側にエピタキシャル成長したものである。
【0017】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜とSi層とを接着する接着剤膜をさらに備える。
【0018】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ペリクル膜はSiCよりなる。
【0019】
上記ペリクルにおいて好ましくは、ボーターは貫通孔を含み、貫通孔の底面にはペリクル膜が露出する。
【0020】
本発明の他の局面に従うペリクルの製造方法は、Bを含有するSi層を準備する工程と、Si層の一方の主面側にペリクル膜を形成する工程とを備える。
【0021】
上記製造方法において好ましくは、Si層に貫通孔を形成することにより、Si層を含むボーダーを作製する工程をさらに備え、貫通孔の底面にはペリクル膜が露出する。
【0022】
上記製造方法において好ましくは、ボーダーを作製する工程は、Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程を含み、Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程において、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi層およびペリクル膜を相対的に動かす。
【0023】
上記製造方法において好ましくは、ボーダーを作製する工程は、Si層の他方の主面にSiを底面とする凹部を形成する工程をさらに含み、Si層の一部をウエットエッチングにより除去する工程において、凹部の底面に存在するSiをウエットエッチングする。
【0024】
上記製造方法において好ましくは、Si層の抵抗率は、0より大きく0.02Ω・cm以下である。
【0025】
上記製造方法において好ましくは、ペリクル膜は、10nm以上50nm以下の厚さを有する。
【0026】
上記製造方法において好ましくは、ペリクル膜を形成する工程は、Si層の一方の主面と接触するペリクル膜をエピタキシャル成長させる工程を含む。
【0027】
上記製造方法において好ましくは、ペリクル膜を形成する工程は、ボーダーとペリクル膜とを接着剤で接着する工程を含む。
【0028】
上記製造方法において好ましくは、ペリクル膜はSiCよりなる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ペリクル膜の割れを抑止することのできるペリクルおよびペリクルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の変形例の構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態において、ペリクル膜12の表面12aに対して垂直な方向から見た場合のペリクル1の構成を示す平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
【
図6】
図5に示す工程の変形例の第1の工程を示す断面図である。
【
図7】
図5に示す工程の変形例の第2の工程を示す断面図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第4の工程を示す断面図である。
【
図10】本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第5の工程を示す断面図である。
【
図11】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第1の方法を模式的に示す図である。
【
図12】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第2の方法を模式的に示す図である。
【
図13】本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第3の方法を模式的に示す図である。
【
図14】
図1に示すペリクル1におけるA部拡大図である。
【
図15】本発明の第1の実施の形態の効果を説明する図である。
【
図16】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の構成を示す断面図である。
【
図17】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第1の工程を示す断面図である。
【
図18】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第2の工程を示す断面図である。
【
図19】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第3の工程を示す断面図である。
【
図20】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第4の工程を示す断面図である。
【
図21】本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の製造方法の第5の工程を示す断面図である。
【
図22】本発明の一実施例における試料A~Dの各々の歩留まり率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
【0032】
[第1の実施の形態]
【0033】
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の構成を示す断面図である。なお
図1は、ペリクル膜12の表面12aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0034】
図1を参照して、本実施の形態におけるペリクル1(ペリクルの一例)は、Siボーダー(支持体)11(ボーダーの一例)と、ペリクル膜12(ペリクル膜の一例)とを備えている。
【0035】
Siボーダー11は、貫通孔13(貫通孔の一例)を取り囲む環状の平面形状を有している。Siボーダー11は、表面11aと、裏面11bと、側面11cとを含んでいる。Siボーダー11とはSi層113を含むボーダーである。
図1において、Siボーダー11はSi層113よりなっている。Siボーダー11の表面11aにはSiの(100)面が露出している。Siボーダー11の表面11aには、Si層113の(111)面やSiの(110)面が露出していてもよい。
【0036】
Si層113は、Bを含有している。Si層113中のBの濃度は、BがSi結晶中に析出しない程度にできるだけ高い濃度であることが好ましい。Si層113中のBの作用により、Si層113はP型の導電型を有している。また、Si層113中のBの作用により、Si層113は0より大きく0.02Ω・cm以下、好ましくは0.005Ω・cm以下の抵抗率を有している。
【0037】
ペリクル膜12は、SiCよりなっており、Si層113の表面113aに形成されている。ペリクル膜12は、Siボーダー11によって支持されている。ペリクル膜12は、表面12aと、裏面12bと、側面12cとを含んでいる。ペリクル膜12の裏面12bの中央部は、貫通孔13の底部に露出している。ペリクル膜12は、Siボーダー11の裏面11bには形成されておらず、Siボーダー11の裏面11bは露出している。
【0038】
ペリクル膜12は、10nm以上10μm以下の厚さwを有している。厚さwは、好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、最も好ましくは50nm以下である。ペリクル膜12の厚さwが薄くなるほど、ペリクル膜12の透過率が向上する一方、ペリクル膜12の機械的強度は低下する。
【0039】
本実施の形態におけるペリクル膜12は、Si層113の表面113a(ボーダー11の表面11a)側にエピタキシャル成長されたものである。言い換えれば、少なくともSi層113の表面113aと接触する部分のペリクル膜12中のSiC結晶の構造は、Si層113中のSi結晶の影響を受けており、バルクのSiC結晶の構造から変化している。ペリクル膜12は、Si層113の表面113aと接触している。
【0040】
ペリクル膜12は、単結晶3C-SiC、多結晶3C-SiC、またはアモルファスSiCなどよりなっている。特に、ペリクル膜12がSi層113の表面にエピタキシャル成長されたものである場合、一般的に、ペリクル膜12は通常、3C-SiCよりなっている。
【0041】
なお、ボーダーは、Si層を含んでいればよく、SiO2(酸化ケイ素)膜やSiN膜(窒化ケイ素)などの他の材質よりなる膜をさらに含んでいてもよい。またボーダーは、サファイア基板と、サファイア基板上に形成されたSi層とを含むものであってもよい。
【0042】
図2は、本発明の第1の実施の形態におけるペリクル1の変形例の構成を示す断面図である。なお
図2は、ペリクル膜12の表面12aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0043】
図2を参照して、本変形例においては、Siボーダー11としてSOI(Silicon On Insulator)基板よりなるものが用いられている。本変形例のSiボーダー11は、Si基板111と、SiO
2膜112と、Si層113とを含むボーダーである。
【0044】
SiO2膜112は、Si基板111の表面に形成されている。Si層113は、SiO2膜112の表面に形成されている。Si層113の厚さは、5nm以上100μm以下であることが好ましい。
【0045】
本変形例におけるペリクル膜12も、Si層113の表面113a(ボーダー11の表面11a)にエピタキシャル成長されたものである。言い換えれば、少なくともSi層113の表面113aと接触する部分のペリクル膜12中のSiC結晶の構造は、Si層113中のSi結晶の影響を受けており、バルクのSiC結晶の構造から変化している。ペリクル膜12は、Si層113の表面113aと接触している。
【0046】
以降の説明においては、ボーダーがSi層113よりなるSiボーダー11である例について説明する。しかし、ボーダーは変形例のようなSOI基板よりSiボーダー11などに置き換えられて理解されてもよい。
【0047】
図3は、本発明の第1の実施の形態において、ペリクル膜12の表面12aに対して垂直な方向から見た場合のペリクル1の構成を示す平面図である。
図3では、Siボーダー11の形状を示す目的で、Siボーダー11は点線で示されているが、実際にはSiボーダー11は直接には見えない。
【0048】
図3を参照して、Siボーダー11、ペリクル膜12、および貫通孔13の各々は、任意の平面形状を有している。ペリクル膜12はその外周部を環状のSiボーダー11によって支持されている。これにより、ペリクル膜12の機械的強度がSiボーダー11によって補強されている。Siボーダー11、ペリクル膜12、および貫通孔13の各々は、たとえば
図3(a)に示すように、円の平面形状を有していてもよいし、
図3(b)に示すように、矩形の平面形状を有していてもよい。
図3(b)では、Siボーダー11は四角環状の平面形状を有している。さらに
図3(c)に示すように、Siボーダー11およびペリクル膜12の各々は円の平面形状を有しており、貫通孔13は矩形の平面形状を有していてもよい。貫通孔13の大きさは任意であり、ペリクル1に要求される機械的強度などに応じて決定されてもよい。
【0049】
次に、本実施の形態におけるペリクル1の製造方法について、
図4~
図10を用いて説明する。
【0050】
図4を参照して、たとえば円板状の(貫通孔13が形成されていない)Si基板113を準備する。Si基板113は
図1のSi層113の元となる基板であり、Bを含有している。
【0051】
図5を参照して、次に、Si基板113の裏面113bの中央部RG1のSiを除去する。中央部RG1のSiの除去は、Si基板113の中央部RG1のSiを機械的に研削することにより行われてもよい。また、中央部RG1のSiの除去は、Si基板113の裏面113bにおける中央部RG1を除く領域にフォトレジストを形成し、形成したフォトレジストをマスクとして中央部RG1のSiをエッチングすることにより行われてもよい。
【0052】
また、Siのウエットエッチングに用いられる薬液に対するマスクの耐性を高める場合には、中央部RG1のSiの除去は次の方法により行われてもよい。
【0053】
図6を参照して、Si基板113の裏面113b全面に、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜よりなるマスク層14を形成する。続いてマスク層14の裏面に、必要な形状にパターニングしたフォトレジスト15を形成する。
【0054】
図7を参照して、次に、フォトレジスト15をマスクとしてマスク層14をウエットエッチングによりパターニングする。これにより、マスク層14の外周部のみが残される。マスク層14がシリコン酸化膜よりなる場合、マスク層14のウエットエッチングの薬液としてはフッ酸溶液などが用いられる。マスク層14がシリコン窒化膜よりなる場合、マスク層14のウエットエッチングの薬液としてはリン酸溶液などが用いられる。続いて、パターニングされたマスク層14をマスクとして、混酸などの薬液を用いて中央部RG1のSiをウエットエッチングにより除去する。その後、フォトレジスト15およびマスク層14を除去する。なお、フォトレジスト15は、Siのウエットエッチングの前に除去されてもよい。
【0055】
なお、
図4に示す工程において、Si基板113の裏面113bにマスク層14が予め形成された基板を準備することにより、
図6に示すマスク層14を形成する工程が省略されてもよい。また、マスク層14としては、シリコン酸化膜およびシリコン酸化膜以外の酸化膜または窒化膜が用いられてもよい。
【0056】
図8を参照して、中央部RG1のSiが除去された結果、Si基板113の裏面113bには凹部16が形成される。凹部16はSi基板113を貫通しない程度の深さを有しており、凹部16の底面はSi基板113のSiにより構成されている。凹部16の存在により、Si基板113の中央部の厚さ(
図8中縦方向の長さ)は、Si基板113の外周部の厚さよりも薄くなる。
【0057】
図9を参照して、凹部16を形成した後で、Si基板113の表面113aにペリクル膜12を形成する。具体的には、Si基板113の表面113aと接触するペリクル膜12をエピタキシャル成長させる。ペリクル膜12は、たとえば、Si基板113の表面113aを炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法などを用いて成膜される。また、ペリクル膜12は、Si基板113の表面113aにMBE法またはCVD法などを用いて成膜されてもよい。さらに、ペリクル膜12は、Si基板113の表面113aを炭化することのみによって形成されてもよい。なお、上述のペリクル膜12の形成の際には、Si基板113の側面113cにもペリクル膜12のSiC膜が形成されてもよい。
【0058】
図10を参照して、続いて、Si基板113における凹部16の底面RG2に存在する部分をウエットエッチングにより除去する。このウエットエッチングの際には、底面RG2のSiとともにSi基板113の裏面113bの外周部(凹部16を取り囲む部分)RG3のSiも除去される。ウエットエッチングを採用することで、Si基板113を除去する際にペリクル膜12へ与えるダメージを抑止することができる。
【0059】
底面RG2のSiが除去された結果、凹部16は貫通孔13となる。Si基板113は、貫通孔13を含むSiボーダー11に成形される。貫通孔13の底面にはペリクル膜12の裏面12bが露出する。以上の工程により、
図1に示すペリクル1が完成する。
【0060】
底面RG2のSiのウエットエッチングは、ウエットエッチングに用いる薬液に対してSi基板113およびペリクル膜12を相対的に動かすことにより行われる。Si基板113およびペリクル膜12を動かすことには、Si基板113およびペリクル膜12の位置を変えずにSi基板113およびペリクル膜12を回転させることと、Si基板113およびペリクル膜12の位置を変える(言い換えれば、Si基板113およびペリクル膜12を移動させる)ことと、Si基板113およびペリクル膜12の位置を変えながらSi基板113およびペリクル膜12を回転させることなどが含まれる。Siのウエットエッチングに用いる薬液としては、たとえばフッ酸および硝酸を含む混酸や、水酸化カリウム(KOH)水溶液などが用いられる。
【0061】
Siのウエットエッチングの薬液として、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ溶液を用いた場合、ペリクル膜12中に低密度で存在するピンホールを通じてペリクル膜12までもがエッチングされることがある。ペリクル膜12がエッチングされることを抑止し、ペリクル膜12の品質を良好にするためには、Siのウエットエッチングの薬液として上述の混酸を用いることが好ましい。
【0062】
Siのウエットエッチングの際にSi基板113およびペリクル膜12を動かす方向は任意である。しかし、Si基板113およびペリクル膜12を動かしている間に薬液から受ける圧力によりペリクル膜12が破損する事態を回避するためには、以下の第1~第3の方法のように、ペリクル膜12の表面12aに対して平行な平面(
図11~
図13中の平面PL)内の方向にSi基板113およびペリクル膜12を動かすことが好ましい。
【0063】
図11~
図13は、本発明の第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第1~第3の方法を模式的に示す図である。なお、
図11~
図13の説明では、Siのウエットエッチング直前の構造を中間体2と記している。本実施の形態では、
図9の工程を経た直後の構造が中間体2に相当し、後述する第2の実施の形態では、
図20の工程を経た直後の構造が中間体2に相当する。
【0064】
図11を参照して、第1の方法は、スピンエッチングによりSiを除去する方法である。第1の方法では、Si基板113の裏面113bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、矢印AR1で示すように、裏面113bと直交する方向に延在する回転軸を中心として固定台HPを回転させる。このようにして、中間体2の位置を変えずに中間体2を回転させた状態で、ウエットエッチングに用いる薬液MA(エッチング液)をSi基板113の裏面113bに注入する。固定台HPの回転数は、たとえば500~1500rpm程度に設定される。
【0065】
図12を参照して、第2の方法では、複数の中間体2を立てた状態で固定台HPに固定する。そして、反応容器CSの内部に充填された薬液MAに複数の中間体2を浸漬し、ペリクル膜12の表面12aに対して平行な平面PL内で、矢印AR2で示すように中間体2の位置を変えながら中間体2および固定台HPを回転させる。
【0066】
図13を参照して、第3の方法では、Si基板113の裏面113bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、反応容器CSの内部に充填された薬液MAに中間体2を浸漬し、ペリクル膜12の表面12aに対して平行な平面PL内で、矢印AR3で示すように中間体2および固定台HPを直線上で往復移動させる。
【0067】
図14は、
図1に示すペリクル1におけるA部拡大図である。なお、
図14では、Si基板113の幅の変化量を実際のものよりも強調して示している。
【0068】
図14を参照して、フッ酸および硝酸を含む混酸は、Siを等方的にエッチングする作用を有している。このため、フッ酸および硝酸を含む混酸を薬液として用いてSiのウエットエッチングした場合には、その痕跡として、Si基板113の幅d(Si基板113の内周面と外周面との距離)は、ペリクル膜12から離れるに従って(ペリクル膜12からSi基板113の裏面113bに向かって)減少している。
【0069】
なお、本実施の形態の製造方法の変形例として、Si基板113の表面113aにペリクル膜12を形成した後で、Si基板113に凹部16を形成してもよい。
【0070】
また、凹部16を形成せずにSiのウエットエッチングのみにより貫通孔13を形成してもよい。
【0071】
また、Si基板113の表面113aにペリクル膜12をエピタキシャル成長させる代わりに、Si基板113とバルクのSiC基板とを接合した後、SiC基板を薄膜化することによりペリクル膜12を形成してもよい。
【0072】
また、ペリクル膜12は、Si基板113の表面113a側に形成されていればよく、ペリクル膜12とSi基板113との間に任意の膜が形成されていてもよい。
【0073】
また、ペリクル膜12の表面12aにグラフェン膜などのSiC以外の材料よりなる膜が形成されてもよい。
【0074】
次に、本実施の形態の効果について説明する。
【0075】
図15は、本発明の第1の実施の形態の効果を説明する図である。なお、
図15では、ボーダー11の変形が実際の場合よりも強調されている。
【0076】
図15(a)を参照して、ペリクル1において、ペリクル膜12はSiボーダー11から引張応力F1を受けており、Siボーダー11は、ペリクル膜12から圧縮応力F2を受けている。ペリクル膜12は引張応力F1により、弛みがない状態とされている。本願発明者らは、従来のペリクル膜12がSiボーダー11から受ける引張応力F1(約300MPa)が大きすぎることが、ペリクル膜12の割れの原因となっていることを見出した。
【0077】
図15(b)を参照して、本願発明者らは、Si層中のB濃度の増加ともにSi層のヤング率が低下する点(非特許文献1参照)に着目した。本実施の形態によれば、Si層113がBを含有しているため、Si層113がBを含有していない場合と比較してSi層113のヤング率が低下し、Siボーダー11は圧縮応力F2を受けて変形しやすくなる。その結果、ペリクル膜12はSiボーダー11から受ける引張応力F1が緩和され、ペリクル膜12の割れを抑止することができる。
【0078】
また、SiCの熱膨張係数はSiの熱膨張係数よりも大きい。このため、ペリクル1の温度が変化した場合には、Siボーダー11およびペリクル膜12の各々が膨張または圧縮し、引張応力F1の大きさが変動する。本願発明者らは、引張応力F1がペリクル1の温度変化によって変動することも、ペリクル膜12の割れの原因となっていることを見出した。
【0079】
本実施の形態では、Si層113がBを含有しているため、Siボーダー11は圧縮応力F2を受けて変形しやすくなる。その結果、ペリクル1の温度変化による引張応力F1の大きさの変動は、Si層113の変形によって緩和され、ペリクル膜12の割れを抑止することができる。
【0080】
また
図15(a)を参照して、ペリクル膜12をSi層113の表面113aにエピタキシャル成長させた場合には、下地層であるSi層113のSi結晶はペリクル膜12中のSiC結晶に対してSi結晶と整合させる力である引張応力F1を加える。これは、SiCの格子定数がSiの格子定数よりも小さいことに起因している。
【0081】
図15(b)を参照して、本実施の形態によれば、Si層113のヤング率が低下するため、Si層113のSi結晶がペリクル膜12中のSiC結晶に対して加える引張応力F1の大きさが小さくなる。その結果、ペリクル膜12の割れを抑止することができる。
【0082】
さらに、Si層113のウエットエッチングの際に、ウエットエッチングの薬液に対してSi基板113およびペリクル膜12を相対的に動かすことにより、Si基板113のウエットエッチング中にペリクル膜12にクラックが入ったり、Si基板113からペリクル膜12が剥がれたりする事態を抑止することができ、ペリクル1におけるペリクル膜12の薄膜化を図ることができる。
【0083】
本願発明者は、ペリクル1の製造時に、Si基板113のウエットエッチング中(Si基板113の薬液への浸漬中)にSi基板113にクラックが入ったり、Si基板113からペリクル膜12が剥がれたりすることがあることに気がついた。そして本願発明者らは、この原因は、Si基板113の反応面(Si基板113の裏面113bにおける薬液と反応する部分の面)に局所的に反応後の薬液が滞留し、それによってSiのエッチング速度が不均一になり、Si基板113の反応面に荒れを生じさせるためであることを見出した。また本願発明者は、ウエットエッチングの薬液として混酸を用いた場合には、薬液とSiとの反応によって発生する大きな泡がSi基板113の反応面に局所的に滞留し、この泡がSi基板113の反応面の薬液との反応を局所的に妨げ、Si基板113の反応面に荒れを生じさせることを見出した。
【0084】
ペリクル膜12が比較的厚い場合には、ペリクル膜12自体の機械的強度が高いため、Si基板113の反応面の荒れはペリクル膜12に対してそれほど悪影響を及ぼさない。しかし、ペリクル膜12が比較的薄い場合(たとえば厚さが10μm以下の場合、具体的には薄膜(厚さが数μm程度)である場合や極薄膜(厚さが100nmオーダー以下)である場合には、Si基板113の反応面の荒れはペリクル膜12に対して悪影響を及ぼす。すなわち、Si基板113の反応面の荒れによってペリクル膜12に不均一な応力が加わり、Siエッチング中にペリクル膜12にクラックが入ったりペリクル膜12がSi基板113から剥がれたりする事態を招く。
【0085】
そこで、本実施の形態では、Si基板113のウエットエッチングの際に、ウエットエッチングの薬液に対してSi基板113およびペリクル膜12を相対的に動かすことにより、Si基板113の反応面に局所的に反応後の薬液や泡が滞留することを抑止し、Si基板113の反応面の荒れを抑止することができる。その結果、ペリクル膜12に不均一な応力が加わることを抑止することができ、ペリクル膜12の薄膜化を図ることができる。
【0086】
特に、Siのウエットエッチングの方法として、スピンエッチングによりSiを除去する方法(
図11に示す第1の方法)を採用した場合には、ウエットエッチング中にペリクル膜12が薬液に曝されるのは、凹部16の底部にペリクル膜12の裏面12bが露出している間だけである。また、ウエットエッチング中にペリクル膜12の表面12aは薬液に曝されることはない。このため、薬液によるペリクル膜12のダメージを最小限に留めることができる。
【0087】
また、Siのウエットエッチングの薬液として混酸を用いることにより、薬液によるペリクル膜12のダメージを抑止することができる。その結果、ペリクル膜12の歩留まりを向上することができ、ペリクル膜12を大面積で形成することができる。
【0088】
[第2の実施の形態]
【0089】
図16は、本発明の第2の実施の形態におけるペリクル1の構成を示す断面図である。なお、
図16は、ペリクル膜12の表面12aに対して垂直な平面で切った場合の断面図である。
【0090】
図16を参照して、本実施の形態におけるペリクル1は、接着剤膜17(接着剤膜の一例)をさらに備えている点において、第1の実施の形態のペリクルと異なっている。
【0091】
接着剤膜17は、Siボーダー11とペリクル膜12との間に設けられており、Siボーダー11とペリクル膜12とを接着している。接着剤膜17は任意の材料よりなっており、たとえばアクリル樹脂接着剤、エポキシ樹脂接着剤、ポリイミド樹脂接着剤、シリコーン樹脂接着剤、無機系接着剤、両面粘着テープ、シリコーン樹脂粘着剤、アクリル系粘着剤、またはポリオレフィン系粘着剤などよりなっている。
【0092】
次に、本実施の形態におけるペリクル1の製造方法について、
図17~
図21を用いて説明する。
【0093】
図17を参照して、たとえば円板状のSi基板(犠牲基板)21を準備する。Si基板21の裏面21aには(111)面が露出している。Si基板21の裏面21aには(100)面や(110)面が露出していてもよい。
【0094】
図18を参照して、次に、Si基板21の裏面21aにペリクル膜12を形成する。ペリクル膜12は、たとえば、Si基板21の裏面21aを炭化することで得られたSiCよりなる下地層上に、MBE法、またはCVD法などを用いて成膜される。またペリクル膜12は、Si基板21の裏面21aを炭化することのみによって形成されてもよい。さらに、ペリクル膜12は、Si基板21の裏面21aにMBE法またはCVD法などを用いて成膜されてもよい。
【0095】
なお、ペリクル膜12の下地となる基板としては任意のものを用いることができるが、上層となるペリクル膜12の結晶性や後工程での除去の容易性などを考慮して決定されることが好ましい。具体的には、ペリクル膜12の下地となる基板として、Si基板21の代わりに石英基板などが用いられてもよい。
【0096】
図19を参照して、次に、たとえば円板状の(貫通孔13が形成されていない)Si基板113を準備する。Si基板113はBを含有している。Si基板113には、熱拡散法またはイオン注入法などの方法によってBが注入されている。
【0097】
そして、Si基板113に貫通孔13を形成することにより、Si基板113よりなるいSiボーダー11を作製する。Siボーダー11は、貫通孔13を取り囲む環状の平面形状を有している。貫通孔13の形成方法は任意であり、機械的な研削やエッチングなどの方法が用いられてもよい。
【0098】
図20を参照して、次に、接着剤を用いてペリクル膜12の裏面12bとSiボーダー11とを接着する。ペリクル膜12の裏面12bは、ペリクル膜12におけるSi基板21が存在する側の主面(表面12a)とは反対側の主面である。ペリクル膜12とSiボーダー11との間には接着剤膜17が形成される。その結果、Si基板21と、ペリクル膜12と、Siボーダー11と、接着剤膜17とを含む中間体2が得られる。
【0099】
図21を参照して、続いて、中間体2からSi基板21を除去する。これにより、ペリクル膜12の表面12a全体が露出する。Si基板21を除去する際には、始めにSiの除去速度が比較的速い方法(たとえば機械研磨など)でSiを除去することにより、Si基板21の厚さを任意の厚さまで減少させ、続いてSiの除去速度が比較的遅い方法(たとえばウエットエッチングなど)でSiを除去することにより、Si基板21を完全に除去することが好ましい。以上の工程により、
図16に示すペリクル1が完成する。
【0100】
Siのウエットエッチングは、薬液に対して中間体2を相対的に動かすことにより行われることが好ましい。Siのウエットエッチングは、第1の実施の形態におけるSiのウエットエッチングの第1~第3の方法(
図11~
図13)のいずれかの方法で行われることが好ましい。但し、ウエットエッチングの対象はSi基板113ではなくSi基板21である。このため、第1の方法(
図11)を用いる場合には、Si基板21の表面21bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、中間体2の位置を変えずに中間体2を回転させた状態で、薬液MAをSi基板21の表面21bに注入する。また、第3の方法(
図13)を用いる場合にも、Si基板21の表面21bが上を向くように中間体2を固定台HPに固定する。そして、中間体2および固定台HPを直線上で往復移動させる。
【0101】
上述以外のペリクル1の構成および製造方法は、第1の実施の形態のペリクルの構成および製造方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。
【0102】
次に、本実施の形態の効果について説明する。
【0103】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、
図15(b)に示すように、Si層113がBを含有しているため、Siボーダー11は圧縮応力F2を受けて変形しやすくなる。その結果、ペリクル膜12はSiボーダー11から受ける引張応力F1が緩和され、ペリクル膜12の割れを抑止することができる。
【0104】
また、本実施の形態によれば、ペリクル膜12を形成した後にSi基板21を完全に除去するので、Si基板21の一部をエッチングするための工程(フォトレジストやハードマスクをパターニングする工程や除去する工程など)を省略することができる、その結果、製造工程の簡素化を図ることができ、ペリクルの製造コストを低減することができる。また、ペリクル膜12はSiボーダー11によって支持されるので、ペリクル膜12の機械的強度を確保しつつペリクル膜12を薄膜化することができる。
【0105】
また、ウエットエッチングの薬液に対して中間体2を相対的に動かすことにより、Si基板21をウエットエッチングすることにより、Si基板21のウエットエッチング中にペリクル膜12にクラックが入ったり、Si基板21からペリクル膜12が剥がれたりする事態を抑止することができ、ペリクル1におけるペリクル膜12の薄膜化を図ることができる。
【0106】
[実施例]
【0107】
本願発明者らは、Bを含有するSi層をボーダーが含むことによる、ペリクル膜の機械的強度の向上の効果を確認した。具体的には、以下の試料A~Dを作製し、試料A~Dの各々の歩留まり率を調べた。
【0108】
試料A(本発明例):第1の実施の形態に示す製造方法を用いて、
図1に示すペリクルを作製した。Si層として、Si層の抵抗率が0より大きく0.005Ω・cm以下の範囲となるように、B濃度を調整したものを使用した。
【0109】
試料B(本発明例):Si層として、Si層の抵抗率が0.005Ω・cmより大きく0.02Ω・cm以下の範囲となるように、B濃度を調整したものを使用した。これ以外は、試料Aと同様の製造方法でペリクル1を作製した。
【0110】
試料C(本発明例):Si層として、Si層の抵抗率が1Ω・cm以上100Ω・cm以下の範囲となるように、B濃度を調整したものを使用した。これ以外は、試料Aと同様の製造方法でペリクル1を作製した。
【0111】
試料D(比較例):Si層として、Si層にBをドープしていないものを使用した。これ以外は、これ以外は、試料Aと同様の製造方法でペリクル1を作製した。
【0112】
図22は、本発明の一実施例における試料A~Dの各々の歩留まり率を示す図である。
【0113】
図22を参照して、試料Aの歩留まり率は100%であり、試料Bの歩留まり率は63%であり、試料Cの歩留まり率は30%であり、試料Dの歩留まり率は15%であった。また、歩留まり率の低下の原因の大部分は、Si層のウエットエッチングによりSi層に貫通孔を形成する最中(
図10に示す工程中)にペリクル膜が破損することであった。
【0114】
これらの結果は、Siボーダー中のB濃度上昇に伴い、Siボーダーからかかるペリクル膜への応力が緩和し、ペリクル膜の破損が抑制されることを示唆している。
【0115】
[その他]
【0116】
ペリクル膜は、Si、SiN、またはC(グラファイト、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、またはアモルファスカーボンなど)などの、SiC以外の材料よりなっていてもよい。但し、SiCよりなるペリクル膜は、ペリクル膜の露光光の透過性および露光光に対する耐性を向上しつつ、ペリクル膜を薄膜化した場合のペリクル膜の割れを抑止することができるため、ペリクル膜として特に好ましい。また、ボーダーの形状は任意である。
【0117】
上述の実施の形態、変形例、および実施例の構成および製造方法は、適宜組み合わせることが可能である。たとえば第2の実施の形態のペリクル1の平面形状が
図3に示すものであってもよい。
【0118】
上述の実施の形態、変形例、および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 ペリクル(ペリクルの一例)
2 中間体
11 Si(ケイ素)ボーダー(ボーダーの一例)
11a Siボーダーの表面
11b Siボーダーの裏面
11c Siボーダーの側面
12 ペリクル膜(ペリクル膜の一例)
12a ペリクル膜の表面
12b ペリクル膜の裏面
12c ペリクル膜の側面
13 Siボーダーの貫通孔(貫通孔の一例)
14 マスク層
15 フォトレジスト
16 Si基板の凹部
17 接着剤膜(接着剤膜の一例)
21 Si基板
21a Si基板の裏面
21b Si基板の表面
111 Si基板
112 SiO2(酸化ケイ素)膜
113 Si層またはSi基板(Si層の一例)
113a Si層またはSi基板の表面
113b Si層またはSi基板の裏面
113c Si層またはSi基板の側面
CS 反応容器
F1,F3 引張応力
F2 圧縮応力
HP 固定台
MA 薬液
PL ペリクル膜の表面に対して平行な平面
RG1 Si基板の裏面の中央部
RG2 Si基板の凹部の底面
RG3 Si基板の裏面の外周部