(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126040
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】切削工具及び切削インサート
(51)【国際特許分類】
B23B 27/08 20060101AFI20220823BHJP
B23B 27/16 20060101ALI20220823BHJP
B23B 27/04 20060101ALN20220823BHJP
【FI】
B23B27/08 Z
B23B27/16 A
B23B27/04
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023879
(22)【出願日】2021-02-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046AA00
3C046EE01
3C046EE15
(57)【要約】
【課題】2つの切削部を有し、被削材に対しより深く進入することが可能になり、また被削材の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすい切削インサートを提供する。
【解決手段】切削インサート10は、切削工具1の工具本体11に固定される内側面31と、内側面31に対向する外側面30を少なくとも有する本体20と、本体20の長手方向Xの相反する方向に突出する2つの切削部21と、を備える。切削部21は、切削上面40と、切削正面41と、第1の切削側面42及び第2の切削側面43を備えている。切削上面40と切削正面41との稜線に正面切れ刃51がある。本体20を長手方向Xから見た投影視で、2つの切削部21の切削上面40は、互いに向き合う方向に向いており、2つの切削部21の正面切れ刃51a、51bは、第2の切削側面43から第1の切削側面42に近づくにつれて互いに離れるように配置されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートであって、
切削工具の工具本体に固定される内側面と、前記内側面に対向する外側面を少なくとも有し、前記内側面と前記外側面の面方向の一方向に長い本体と、
前記本体の長手方向の相反する方向に突出する2つの切削部と、を備え、
前記各切削部は、略角柱形状を有し、すくい面となる切削上面と、前記切削上面の正面側に位置し、前記切削上面との間で接続稜線を形成する切削正面と、前記切削上面の両側に位置する第1の切削側面及び第2の切削側面とを有し、
前記第2の切削側面は、前記本体の内側面側に配置され、前記第1の切削側面は、前記本体の外側面側に配置され、
前記切削上面と前記切削正面との接続稜線には、正面切れ刃が形成され、
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの切削部の切削上面は、互いに向き合う方向に向いており、前記2つの切削部の正面切れ刃は、第2の切削側面から第1の切削側面に近づくにつれて互いに離れるように配置されている、切削インサート。
【請求項2】
前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃を前記内側面側に延長させて交わる交点が、前記内側面の固定面よりも前記外側面に近い位置にある、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃は、本体の短手方向の中心を通りなおかつ当該短手方向に垂直の厚み方向に延びる仮想中央線を挟んだ両側に配置されている、請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃のうちの第1の正面切れ刃は、前記第1の正面切れ刃を延長した第1の仮想延長線上に、切削工具の工具本体の軸中心があるように配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記第1の仮想延長線上に、前記2つの正面切れ刃のうちの第2の正面切れ刃を延長した第2の仮想延長線と交わる仮想交点を有し、
前記仮想交点は、前記工具本体の軸中心よりも前記第1の正面切れ刃に近い位置にある、請求項4に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記外側面は、一方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向に延設された第1の側面部と、他方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向の延設された第2の側面部と、前記第1の側面部と前記第2の側面部の間に配置され、前記第1の側面部と前記第2の側面部を接続する第3の側面部を有し、
前記第1の側面部と前記第2の側面部は、本体の短手方向に沿って外側に凸に湾曲する湾曲面を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記第1の側面部と前記第2の側面部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記湾曲面の中心が互いに一致しない、請求項6に記載の切削インサート。
【請求項8】
前記第3の側面部は、平坦面を有する、請求項6又は7に記載の切削インサート。
【請求項9】
前記第3の側面部には、ねじ穴が開口している、請求項6~8のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項10】
前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、
前記内側面は、前記固定面に対し凹む凹部を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項11】
前記凹部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記切削部の切削上面と略平行な壁面を有する、請求項10に記載の切削インサート。
【請求項12】
前記本体は、本体の短手方向の両端に位置し、前記外側面と前記内側面を接続する側端面をさらに有し、
前記側端面は、前記本体の短手方向の中央側に凹む凹みを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項13】
本体を外側面から見た平面視で、本体の中心を通りなおかつ本体の短手方向に延びる中心線で本体を2分割し、その本体の一方の半体を本体の中心周りに180度回転させたときに他方の半体と一致する、請求項1~12のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の切削インサートと、
前記切削インサートが固定される工具本体と、を有する、切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具及び切削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
被削材を旋削し、被削材の端面に溝入れする切削インサートには、一方向の長い本体を有し、当該本体の長手方向の先端に切削部を有するものが用いられる。この種の切削インサートには、本体の長手方向の両端に2つの切削部を有するものがあり(特許文献1参照)、かかる切削インサートでは、一方の切削部が摩耗した場合にも、他方の切削部を使用することができる。
【0003】
上記切削インサートは、切削工具の工具本体に保持されて使用される。2つの切削部を有する切削インサートでは、使用する一方の切削部が工具本体の先端側に向けられ、使用しないもう一方の切削部側の周辺部分が工具本体に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような切削インサートでは、被削材の端面に溝入れする際に、使用していない切削部や、当該使用していない切削部の周辺部分を保持した工具本体が被削材に干渉しないように、被削材に対し進入できる距離に大きな制限がある。また、被削材の端面の溝や穴の径が小さくなると、使用していない切削部側の周辺部分や工具本体が被削材の溝や穴の壁面に接触してしまうので、溝や穴の径が小さい被削材の加工に十分に対応することができない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、2つの切削部を有する切削インサートにおいて、被削材に対しより深く進入することが可能になり、また被削材の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすい切削インサート及び切削工具を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る切削インサートは、切削工具の工具本体に固定される内側面と、前記内側面に対向する外側面を少なくとも有し、前記内側面と前記外側面の面方向の一方向に長い本体と、前記本体の長手方向の相反する方向に突出する2つの切削部と、を備え、前記各切削部は、略角柱形状を有し、すくい面となる切削上面と、前記切削上面の正面側に位置し、前記切削上面との間で接続稜線を形成する切削正面と、前記切削上面の両側に位置する第1の切削側面及び第2の切削側面とを有し、前記第2の切削側面は、前記本体の内側面側に配置され、前記第1の切削側面は、前記本体の外側面側に配置され、前記切削上面と前記切削正面との接続稜線には、正面切れ刃が形成され、前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの切削部の切削上面は、互いに向き合う方向に向いており、前記2つの切削部の正面切れ刃は、第2の切削側面から第1の切削側面に近づくにつれて互いに離れるように配置されている。
【0008】
上記態様によれば、2つの切削部を有する切削インサートにおいて、被削材に対しより深く進入することが可能になり、また被削材の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすくなる。
【0009】
上記態様において、前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃を前記内側面側に延長させて交わる交点が、前記内側面の固定面よりも前記外側面に近い位置にあるようにしてもよい。
【0010】
上記態様において、前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃は、本体の短手方向の中心を通りなおかつ当該短手方向に垂直の厚み方向に延びる仮想中央線を挟んだ両側に配置されているようにしてもよい。
【0011】
上記態様において、前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃のうちの第1の正面切れ刃は、前記第1の正面切れ刃を延長した第1の仮想延長線上に、切削工具の工具本体の軸中心があるように配置されているようにしてもよい。
【0012】
上記態様において、前記本体を長手方向から見た投影視で、前記第1の仮想延長線上に、前記2つの正面切れ刃のうちの第2の正面切れ刃を延長した第2の仮想延長線と交わる仮想交点を有し、前記仮想交点は、前記工具本体の軸中心よりも前記第1の正面切れ刃に近い位置にあるようにしてもよい。
【0013】
上記態様において、前記外側面は、一方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向に延設された第1の側面部と、他方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向の延設された第2の側面部と、前記第1の側面部と前記第2の側面部の間に配置され、前記第1の側面部と前記第2の側面部を接続する第3の側面部を有し、前記第1の側面部と前記第2の側面部は、本体の短手方向に沿って外側に凸に湾曲する湾曲面を有するようにしてもよい。
【0014】
上記態様において、前記第1の側面部と前記第2の側面部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記湾曲面の中心が互いに一致しないようにしてもよい。
【0015】
上記態様において、前記第3の側面部は、平坦面を有するようにしてもよい。
【0016】
上記態様において、前記第3の側面部には、ねじ穴が開口しているようにしてもよい。
【0017】
上記態様において、前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、前記内側面は、前記固定面に対し凹む凹部を有するようにしてもよい。
【0018】
上記態様において、前記凹部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記切削部の切削上面と略平行な壁面を有するようにしてもよい。
【0019】
上記態様において、前記本体は、本体の短手方向の両端に位置し、前記外側面と前記内側面を接続する側端面をさらに有し、前記側端面は、前記本体の短手方向の中央側に凹む凹みを有するようにしてもよい。
【0020】
上記態様において、前記本体を外側面から見た平面視で、前記本体の中心を通りなおかつ本体の短手方向に延びる中心線で本体を2分割し、その本体の一方の半体を本体の中心周りに180度回転させたときに他方の半体と一致するようにしてもよい。
【0021】
本発明の一態様に係る切削工具は、上記切削インサートと、前記切削インサートが固定される工具本体と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態に係る切削工具の一例を示す斜視図である。
【
図3】切削インサートを外面側から見た切削インサートの斜視図である。
【
図4】切削インサートを内面側から見た切削インサートの斜視図である。
【
図5】切削インサートを長手方向から見た切削インサートの平面図である。
【
図6】切削インサートを外面側から見た切削インサートの平面図である。
【
図7】工具本体に取り付けられた切削インサートを、長手方向(回転軸方向)から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態に係る切削工具1の一例を示す斜視図であり、
図2は、切削工具1の分解図である。切削工具1は、例えば刃先交換式の旋削用の工具である。切削工具1は、切削インサート10と、切削インサート10が固定される工具本体(保持具)11を備えている。切削インサート10は、螺子12によって工具本体11に固定される。
【0025】
図3は、切削インサート10を外面側から見た切削インサート10の斜視図であり、
図4は、切削インサート10を内面側から見た切削インサート10の斜視図である。
図5は、切削インサート10を長手方向Xから見た切削インサート10の平面図である。
図6は、切削インサート10を外面側から見た切削インサート10の平面図である。本明細書において、長手方向Xは、
図6のように切削インサート10を外側面から見て、切削インサート10の重心(中心)を通り、切削インサート10を短手方向(
図6の上下方向)Yに二等分割する中央線Aが向く方向とする。
【0026】
図1乃至
図4に示すように切削インサート10は、例えば一方向に長く、略平行四辺形で板状の本体20を有している。切削インサート10は、本体20の長手方向Xの相反する方向に突出する2つの切削部21を備えている。
【0027】
本体20は、互いに対向する外側面30及び内側面31と、本体20の短手方向(長手方向Xに直角で、なおかつ後述の固定面80に沿った方向(
図5の紙面上下方向))Yの両側に配置され、外側面30と内側面31を接続する側端面32と、外側面30から内側面31に向けて厚み方向(長手方向Xと短手方向Yの両方に直角の方向(
図5の紙面左右方向))Zに貫通するねじ穴33を有している。2つの切削部21は、本体20の長手方向Xの両端に設けられている。
【0028】
図3に示すように切削部21は、略角柱形状、例えば四角柱形状を有している。切削部21は、すくい面となる切削上面40と、切削上面40の正面側(先端側)に位置する切削正面41と、切削上面40の厚み方向Zの両側に位置する第1の切削側面42及び第2の切削側面43と、底面44を有している。
【0029】
切削上面40は、略方形状を有し、側端面32に滑らかに連続している。
図3及び
図5に示すように切削上面40は、外側面30側に位置する第1の切削側面42に近づく(厚み方向Zの外側方向Z2にいく)につれて底面44に近づくように厚み方向Zに対し傾斜している。
【0030】
切削正面41は、略方形状、例えば略台形形状を有し、切削上面40の正面側に接続されている。切削正面41と切削上面40の接続部分には、接続稜線50が形成され、この接続稜線50が正面切れ刃51を構成している。正面切れ刃51は、切削上面40と同様に厚み方向Zに対し傾斜している。なお、切削正面41と切削上面40とがなす角度は、例えば90度以下である。
【0031】
第1の切削側面42は、切削正面41の外側面30側に位置し、切削上面40と切削正面41に接続されている。第1の切削側面42は、切削上面40から離れるにつれて次第に内側面31に近づく(厚み方向Zの内側方向Z1に向かう)ように、短手方向Yに対し傾斜している。
【0032】
第2の切削側面43は、切削正面41の内側面31側に位置し、切削上面40と切削正面41に接続されている。第2の切削側面43は、切削上面40から離れるにつれて次第に外側面30から離れる(厚み方向Zの内側方向Z1に向かう)ように、短手方向Yに対し傾斜している。
【0033】
図3及び
図6に示すように本体20の外側面30は、一方の切削部21の第1の切削側面42を含み長手方向Xに延設された第1の側面部70と、他方の切削部21の第1の切削側面42を含み長手方向Xの延設された第2の側面部71と、第1の側面部70と第2の側面部71の間に配置され、第1の側面部70と第2の側面部71を接続する第3の側面部72を有している。
【0034】
第1の側面部70、第2の側面部71及び第3の側面部72は、
図6に示す厚み方向Zから見た平面視で、それぞれが長手方向Xに長い略長方形状を有し、短手方向Yに並べて接続されている。
【0035】
第1の側面部70と第2の側面部71は、本体20の短手方向Yに沿って外側に凸に湾曲する湾曲形状を有している。
図5に示すように第1の側面部70と第2の側面部71は、長手方向Xの平面視で、同じ曲率を有する湾曲面を有するが、湾曲面の円弧中心P1、P2が一致しない。
【0036】
図3、
図5及び
図6に示すように第3の側面部72は、例えば平坦形状を有している。ねじ穴33は、この第3の側面部72に主に開口している。
【0037】
図4に示すように内側面31は、切削インサート10を切削工具1の工具本体11に固定するための平坦な固定面80と、固定面80に対し凹む凹部81を有している。
【0038】
固定面80は、多角形状を有し、本体20の長手方向Xの中央に形成されている。固定面80は、ねじ穴33の中心軸Tに対し垂直な面である。固定面80は、その外周縁の一部に、例えば短手方向Yに対し傾斜する傾斜辺90を有している。傾斜辺90は、ねじ穴33を挟んだ両側に設けられている。
【0039】
凹部81は、固定面80を挟んだ長手方向Xの両側に設けられている。凹部81は、固定面80の傾斜辺90に向かって立設する第1の壁面100と、第1の壁面100に連続し、短手方向Yに向いた第2の壁面101を有している。例えば第2の壁面101は、
図5に示すように本体20を長手方向Xから見た平面視で、切削部21の切削上面40に略平行に形成されている。なお、「略平行」は、切削上面40の長手方向Xへのすくい角などによる変動を考慮せず、切削上面40と第2の壁面101がおよそ平行であればよい。
【0040】
図3及び
図6に示すように側端面32は、本体20の短手方向Yの両側の外側面に面している。側端面32は、長手方向Xに向かって延設され、滑らかな曲面形状を有している。側端面32は、一方の切削部21の切削上面40から連続し、他の切削部21の底面44まで延びている。側端面32は、凹部81付近で、本体20の短手方向Yの中央側(他の側端面32側)に凹む凹み(切り欠き)110を有している。よって、例えば側端面32は、一方の切削部21の底面44から、長手方向Xに略平行に進み、凹み110で凹んで、その後長手方向Xに略平行に進み、他方の切削部21の切削上面40に近づくと、他の側端面32側に近づくように大きく凹んでいる。
【0041】
本体20は、
図6に示すように本体20を外側面30から見た平面視で、本体20の長手方向X及び短手方向Yの中心Oをとおり短手方向Yに延びる中心軸Cで本体20を2分割し、その本体20の一方の半体20aを本体20の中心Oの周りに180度回転させたときに他方の半体20bと一致するように構成されている。
【0042】
図7に示す本体20を長手方向Xから見た投影視で、2つの切削部21の切削上面40は、短手方向Yに向いており互いに向き合っている。2つの正面切れ刃51は、
図7に示す本体20を長手方向Xから見た投影視で、第2の切削側面43から第1の切削側面42に近づくにつれて互いに離れる。なお、
図7は、切削インサート10を工具本体11に取り付け、長手方向X(工具本体11の中心軸Gに沿った方向)から見た図であり、切削時に、紙面手前側の切削部21が使用されるものとなり、奥側の切削部21が使用されないものとなる。奥側の未使用の切削部21の切削上面40や正面切れ刃51bは、実際には一部しか見えていないため、
図7では、切削上面40や正面切れ刃51bを投影(透視)した位置を点線で示している。「投影視」とは、本体20の手前側の切削部21や奥側の切削部21を長手方向Xから投影して見ることである。
【0043】
2つの正面切れ刃51は、本体20を長手方向Xから見た投影視で、本体20の短手方向Yの中心Oを通りなおかつ当該短手方向Yに垂直の厚み方向Zに延びる仮想中央線L1(本実施の形態では、中心軸Tと一致する。)を挟んだ両側に位置する。2つの正面切れ刃51は、仮想中央線L1に対する角度α1が同じになるように配置されている。
【0044】
さらに、2つの正面切れ刃51のうちの使用される第1の正面切れ刃51aは、工具本体11よりも外側に外側端部F3を有している。第1の正面切れ刃51aは、本体20を長手方向Xから見た投影視で、第1の正面切れ刃51aを延長した第1の仮想延長線L2上に工具本体11の中心軸(軸中心)Gがあるように構成されている。
【0045】
また、本体20を長手方向Xから見た投影視で、第1の仮想延長線L2上に、未使用の第2の正面切れ刃51bを延長した第2の仮想延長線L3と交わる仮想交点F1があり、仮想交点F1は、軸中心Gと第1の正面切れ刃51aとの間に位置している。仮想交点F1は、厚み方向Zにおいて内側面31の固定面80よりも外側面30に近い位置にある。この結果、第2の正面切れ刃51bの外側端部F2は、第1の正面切れ刃51aの外側端部F3を通る軸中心G周りの円Qよりも内側に位置する。円Qは、この切削工具1が加工できる最小加工径ともなる。なお、本体20を長手方向Xから見た平面視で、外側面30も円Qよりも内側に位置する。
【0046】
図1及び
図2に示すように工具本体11は、中心軸G方向に長い円筒形状を有し、その先端側面に切削インサート10を固定する固定部130を備えている。
【0047】
固定部130は、切削インサート10の形状に合った窪み形状を有し、切削インサート10の一方の切削部21を工具本体11の先端から突出させた状態で切削インサート10をはめ込むことができるように構成されている。
【0048】
図8及び
図9に示すように固定部130は、切削インサート10の内側面31にある固定面80が当接する平坦な本体固定面140を有している。本体固定面140は、固定部130の窪み形状の底面に、固定面80と同形状に形成されている。本体固定面140の中央には、ねじ穴141が形成されている。固定部130は、切削インサート10の内側面31の2つの凹部81にはめ込み可能な2つの凸部142が形成されている。凸部142は、凹部81の第2の壁面101に平行な支持面143を有している。支持面143は、工具本体11の中心軸G周りの周方向Hに向いている。
【0049】
固定部130は、窪み形状の中心軸G周りの周方向Hの両側面に、切削インサート10の側端面32の凹み110に嵌る2つの突起部150を有している。突起部150は、凹み110の波型に対応する波型形状を有し、固定部130の中心軸G周りの周方向Hの中央側に向けて突出している。さらに固定部130は、使用されない切削部21を収容する収容部151を有している。収容部151は、固定部130の後部に形成されている。
【0050】
図1に示すように切削インサート10は、本体20の長手方向Xを工具本体11の中心軸G方向に向け、一方の使用される切削部21を工具本体11の前方に向けた状態で工具本体11の固定部130にはめ込まれる。このとき、切削インサート10の内側面31の固定面80が工具本体11の本体固定面140に当接し、凹部81が凸部142に、凹み110が突起部150に、他方の使用されない切削部21が収容部151にはめ込まれる。2つの切削部21のどちらの切削部21を使用してもよく、どちらの切削部21を使用しても、切削インサート10を工具本体11に取り付けたときに同じ外観になる。
【0051】
螺子12がねじ穴33とねじ穴141に通されて、切削インサート10が工具本体11に固定される。
【0052】
そして、切削工具1は、例えば被削材の端面に溝入れを行う際に使用される。このとき、
図10に示すように被削材200を中心軸である回転軸R周りに回転させ、切削工具1の工具本体11を被削材200の端面201に対し前進させ、切削インサート10の一方の切削部21を垂直方向から端面201に入れ、正面切れ刃51によって被削材200の端面201に円状の溝や、円筒状の穴を形成する。このときの被削材200の溝の外周壁面(内径面)は、切削部21の正面切れ刃51の外側端部F3によって形成される。
【0053】
本実施の形態によれば、
図7に示したように本体20を長手方向Xから見た投影視で、切削インサート10の2つの切削部21の切削上面40は、互いに向き合う方向に向いており、そのうえで、2つの切削部21の正面切れ刃51a、51bが、第2の切削側面43から第1の切削側面42に近づくにつれて互いに離れるように配置されている。これにより、使用される第1の正面切れ刃51aを延長した第1の仮想延長線L2と、使用されない第2の正面切れ刃51bを延長した第2の仮想延長線L3とが交わる仮想交点F1の位置を、第1の正面切れ刃51aに近づけることができる。これにより、中心軸Gを中心とし第1の正面切れ刃51aの外側端部F3を通る円Qと、仮想交点F1を中心とし第2の正面切れ刃51bの外側端部F2と第1の正面切れ刃51aの外側端部F3を通る円Q1との軌跡のずれが大きくなり、その結果、第2の正面切れ刃51bの外側端部F2が、円Qに対しより内側に位置することになる。これにより、一方の切削部21の使用時に他方の切削部21が被削材200の溝や穴の内壁面に干渉しないため、被削材200に対しより深く進入することが可能になる。また上記第2の正面切れ刃51bの外側端部F2が、円Qに対しより内側に位置する関係が保たれる限り、被削材200の溝や穴に対する加工径を小さくすることができるので、被削材200の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすくなる。
【0054】
図7に示すように本体20を長手方向Xから見た投影視で、2つの正面切れ刃51を内側面31側に延長させて交わる仮想交点F1が、内側面31の固定面80よりも外側面30に近い位置にある。この場合、仮想交点F1の位置が、第1の正面切れ刃51aに確実に近づくため、第2の正面切れ刃51bの外側端部F2が、円Qに対しより内側に位置することになる。よって、被削材200に対しより深く進入することが可能になり、また被削材200の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすくなる。
【0055】
本体20を長手方向Xから見た投影視で、2つの正面切れ刃51は、厚み方向Zに延びる仮想中央線L1を挟んだ両側に配置されている。これにより、
図7に示すように例えば仮想中央線L1と固定面81が直交する際に、第1の仮想延長線L2より下の領域において、切削インサート10の体積(断面積)を小さく抑え、工具本体11が切削インサート10を保持する部分の体積を大きくすることができる。従って、正面切れ刃51aに切削負荷がかかる際に、切削インサート10を保持する工具本体11のたわみを低減することができ、この結果加工精度を向上することができる。
【0056】
本体20を長手方向Xから見た投影視で、2つの正面切れ刃51のうちの第1の正面切れ刃51aは、第1の正面切れ刃51aを延長した第1の仮想延長線L2上に、切削工具1の工具本体11の軸中心Gがあるように配置されている。これにより、使用される切削部21の第1の正面切れ刃51aよりも下に位置するインサート断面積が大きくなり、この結果、切削時にかかる負荷に対する切削インサート10の強度が向上する。また、加工される溝の幅が正面切れ刃51aの長さとほぼ一致するため、加工精度を向上することができる。
【0057】
図7に示すように本体20を長手方向Xから見た投影視で、第1の仮想延長線L2上に、2つの正面切れ刃51のうちの第2の正面切れ刃51bを延長した第2の仮想延長線L3と交わる仮想交点F1を有し、仮想交点F1は、工具本体11の軸中心Gよりも第1の正面切れ刃51aに近い位置にある。この場合、仮想交点F1の位置が、第1の正面切れ刃51aに確実に近づくため、第2の正面切れ刃51bの外側端部F2が、円Qに対しより内側に位置することになる。よって、被削材200に対しより深く進入することが可能になり、また被削材200の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすくなる。
【0058】
外側面30は、第1の側面部70と、第2の側面部71と、第3の側面部72を有し、第1の側面部70と第2の側面部71は、本体20の短手方向Yに沿って外側に凸に湾曲する湾曲面を有する。これにより、切削インサート10の外側面30(2つの切削部21の外側面側)に適切な逃げ面が形成される。
【0059】
第1の側面部70と第2の側面部71は、
図5に示すように本体20を長手方向Xから見た平面視で、湾曲面の円弧中心P1、P2が互いに一致しない。これにより、外側面30に適切な逃げ面が形成されるとともに、被削材200の溝や穴に対する加工径を小さくすることができる。
【0060】
第3の側面部72が平坦面を有するので、第1の側面部70と第2の側面部71を適切につなぎ、第1の側面部70と第2の側面部71の距離を確保し、この結果、第1の側面部70と第2の側面部71の湾曲面の円弧中心P1、P2の位置を好適にずらすことができる。
【0061】
第3の側面部72には、ねじ穴33が開口している。これにより、ねじ穴33が、螺子12の頭部を収納しつつ、かつ厚み方向Zに長くなり過ぎないので、切りくずなどが入り込むことを防止することができる。
【0062】
内側面31は、固定面80に対し凹む凹部81を有する。これにより、切削インサート10の凹部81と凸部142が嵌合し、切削インサート10と工具本体11との固定を強化することができる。
【0063】
凹部81は、本体20を長手方向Xから見た平面視で、切削部21の切削上面40と略平行な第2の壁面101を有するので、切削インサート10の内側面31に被削材200の回転方向Rに向いた面ができる。この結果、切削時に生じる負荷に対する、切削インサート10の工具本体11に対する固定強度を向上させることができる。
【0064】
本体20は、本体20の短手方向Yの両端に位置し、外側面30と内側面31を接続する側端面32を有し、側端面32は、本体20の短手方向Yの中央側に凹む凹み110を有する。これにより、切削インサート10の凹み110と工具本体11の突起部150を嵌合させることができるので、切削時に生じる負荷により切削インサート10が工具本体11に対して回転することを防止することができる。
【0065】
図6に示すように本体20を外側面30から見た平面視で、本体20の中心Oを通りなおかつ本体20の短手方向Yに延びる中心軸Cで本体20を2分割し、その本体20の一方の半体20aを本体20の中心Cの周りに180度回転させたときに他方の半体20bと一致する。このため、工具本体11に対し2つの切削部21のうちのどちらの切削部21を先端に向けて取り付けても切削工具1が同じ構造になり、2つの切削部21を好適に使用することができる。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば切削インサート10や工具本体11の構造や形状は上記実施の形態のものに限られない。例えば切削部21の形状は、上記実施の形態の四角柱や直方体形状に限られない。例えば切削インサート10の外側面30は、湾曲してなくてもよい。また、切削インサート10の凹部81や凹み110はなくてもよい。本発明は、旋削用の工具のみならず転削用の工具に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、2つの切削部を有する切削インサートにおいて、被削材に対しより深く進入することが可能になり、また被削材の溝や穴の径が小さい加工にも対応しやすい切削インサートを提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 切削工具
10 切削インサート
11 工具本体
20 本体
21 切削部
30 外側面
31 内側面
40 切削上面
41 切削正面
42 第1の切削側面
43 第2の切削側面
51 正面切れ刃
51a 第1の正面切れ刃
51b 第2の正面切れ刃
X 長手方向
Y 短手方向
Z 厚み方向
【手続補正書】
【提出日】2021-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートであって、
切削工具の工具本体に固定される内側面と、前記内側面に対向する外側面を少なくとも有し、前記内側面と前記外側面の面方向の一方向に長い本体と、
前記本体の長手方向の相反する方向に突出する2つの切削部と、を備え、
前記各切削部は、略角柱形状を有し、すくい面となる切削上面と、前記切削上面の正面側に位置し、前記切削上面との間で接続稜線を形成する切削正面と、前記切削上面の両側に位置する第1の切削側面及び第2の切削側面とを有し、
前記第2の切削側面は、前記本体の内側面側に配置され、前記第1の切削側面は、前記本体の外側面側に配置され、
前記切削上面と前記切削正面との接続稜線には、正面切れ刃が形成され、
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの切削部の切削上面は、互いに向き合う方向に向いており、前記2つの切削部の正面切れ刃は、第2の切削側面から第1の切削側面に近づくにつれて互いに離れるように配置され、
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃は、互いに交差しておらず、なおかつ本体の短手方向の中心を通りなおかつ当該短手方向に垂直の厚み方向に延びる仮想中央線を挟んだ両側に配置されている、切削インサート。
【請求項2】
前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃を前記内側面側に延長させて交わる交点が、前記内側面の固定面よりも前記外側面に近い位置にある、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記2つの正面切れ刃のうちの第1の正面切れ刃は、前記第1の正面切れ刃を延長した第1の仮想延長線が、切削工具の円筒形状の工具本体の軸中心を通るように形成されている、請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記本体を長手方向から見た投影視で、前記第1の仮想延長線上に、前記2つの正面切れ刃のうちの第2の正面切れ刃を延長した第2の仮想延長線と交わる仮想交点を有し、
前記仮想交点は、前記工具本体の軸中心よりも前記第1の正面切れ刃に近い位置にある、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記外側面は、一方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向に延設された第1の側面部と、他方の切削部の第1の切削側面を含み長手方向の延設された第2の側面部と、前記第1の側面部と前記第2の側面部の間に配置され、前記第1の側面部と前記第2の側面部を接続する第3の側面部を有し、
前記第1の側面部と前記第2の側面部は、本体の短手方向に沿って外側に凸に湾曲する湾曲面を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記第1の側面部と前記第2の側面部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記湾曲面の中心が互いに一致しない、請求項5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記第3の側面部は、平坦面を有する、請求項5又は6に記載の切削インサート。
【請求項8】
前記第3の側面部には、ねじ穴が開口している、請求項5~7のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項9】
前記内側面は、切削工具の工具本体に固定するための固定面を有し、
前記内側面は、前記固定面に対し凹む凹部を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項10】
前記凹部は、前記本体を長手方向から見た平面視で、前記切削部の切削上面と略平行な壁面を有する、請求項9に記載の切削インサート。
【請求項11】
前記本体は、本体の短手方向の両端に位置し、前記外側面と前記内側面を接続する側端面をさらに有し、
前記側端面は、前記本体の短手方向の中央側に凹む凹みを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項12】
本体を外側面から見た平面視で、本体の中心を通りなおかつ本体の短手方向に延びる中心線で本体を2分割し、その本体の一方の半体を本体の中心周りに180度回転させたときに他方の半体と一致する、請求項1~11のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の切削インサートと、
前記切削インサートが固定される工具本体と、を有する、切削工具。