(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126045
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液、導電性高分子膜および電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
C08L 25/18 20060101AFI20220823BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C08L25/18
C08L67/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021023887
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一都
(72)【発明者】
【氏名】藤原 光希
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC121
4J002CF141
4J002DE026
4J002EC047
4J002EC057
4J002EP018
4J002EV208
4J002FD111
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GQ02
4J002HA03
(57)【要約】
【課題】 塗布性に優れた導電性高分子分散液、前記導電性高分子分散液により形成される導電性高分子膜、および前記導電性高分子膜を有する電解コンデンサを提供する。
【解決手段】 本発明の導電性高分子分散液は、ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子と、溶媒とを含み、上記溶媒として、水と、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有することを特徴とするものである。本発明の導電性高分子膜は、本発明の導電性高分子分散液を基材に塗布して得られた塗膜を乾燥して形成されたことを特徴とするものであり、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子膜を電解質として有することを特徴とするものである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子と、溶媒とを含む導電性高分子分散液であって、
上記溶媒として、水と、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有することを特徴とする導電性高分子分散液。
【請求項2】
沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒の含有量が、0.1~30質量%である請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
水酸基を2個以上含む化合物の含有量が、80質量%以下である請求項1または2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
水の含有量が、5~40質量%である請求項1~3のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒として、ジメチルスルホキシド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1~4のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
水酸基を2個以上含む化合物として、多価アルコールを含有する請求項1~5のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールおよびグリセリンよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項6に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
ポリアニオンが、下記(A)、(B)および(C)のうちの少なくとも1種である請求項1~7のいずれかに記載の導電性高分子分散液。
(A)ポリスチレンスルホン酸
(B)スチレンスルホン酸と、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、および不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の非スルホン酸系モノマーとの共重合体
(C)水溶性ポリエステル樹脂
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の導電性高分子分散液を基材に塗布して得られた塗膜を乾燥して形成されたことを特徴とする導電性高分子膜。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性高分子膜を電解質として有することを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布性に優れた導電性高分子分散液、前記導電性高分子分散液により形成される導電性高分子膜、および前記導電性高分子膜を有する電解コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その高い導電性により、例えば、透明電極材料、ホール輸送材料、帯電防止材料、電解コンデンサの電解質(固体電解質)などとして用いられている。
【0003】
この用途における導電性高分子としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体などを化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られたものが用いられている。
【0004】
また、こうした導電性高分子を、例えば電解コンデンサの電解質として利用する方法としては、導電性高分子を溶媒に分散させた分散液中に、コンデンサ素子などの基材を浸漬し、取り出した後に乾燥して溶媒を除去して、前記基材の表面に固体電解質層(導電性高分子膜)を形成する方法が知られている(特許文献1など)。さらに、導電性高分子を溶媒に分散させた分散液は、電解コンデンサの固体電解質層の形成のみならず、導電性パターンや導電性フィルムの形成などにも利用されている(特許文献2など)。
【0005】
上記のような導電性高分子の分散液の溶媒としては、導電性高分子の合成溶媒としても用いられることの多い水が使用される他、導電性高分子を含有する固体電解質層の導電性向上を図るために、エチレングリコールやプロピレングリコール、ジメチルスルホキシドなどの高沸点溶媒が水と共に使用されることもある(上記特許文献1、2)。
【0006】
さらに、導電性高分子分散液の溶媒として、ジオール化合物を使用することも提案されている(特許文献3~5)。例えば特許文献3には、導電性高分子と水とを含有する原料水分散液を、導電性高分子の固形分濃度が特定値となるまで濃縮し、これをジオール化合物と混合して得られた導電性高分子分散液が、スクリーン印刷の印刷適性に優れることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-60980号公報(段落[0034]、[0035]、[0043]、[0044]など)
【特許文献2】特開2014-152320号公報(段落[0042]~[0044]など)
【特許文献3】特開2019-104858号公報
【特許文献4】特開2019-116537号公報
【特許文献5】特開2020-7470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、導電性高分子分散液の塗布性については、例えばより良好な特性の導電性高分子膜を形成できるようにする観点から、さらなる改善が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗布性に優れた導電性高分子分散液、前記導電性高分子分散液により形成される導電性高分子膜、および前記導電性高分子膜を有する電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得た本発明の導電性高分子分散液は、ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子と、溶媒とを含み、上記溶媒として、水と、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の導電性高分子膜は、本発明の導電性高分子分散液を基材に塗布して得られた塗膜を乾燥して形成されたことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子膜を電解質とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布性に優れた導電性高分子分散液、前記導電性高分子分散液により形成される導電性高分子膜、および前記導電性高分子膜を有する電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の導電性高分子分散液は、ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子と、溶媒とを含み、溶媒として、水と、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有するものである。
【0015】
本発明の導電性高分子分散液は、溶媒である水酸基を2個以上含む化合物と沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒との作用によって、塗布性に優れており、多数の基材などに塗布する操作を繰り返し行っても、かすれやにじみが生じ難く、良好な性状の塗膜を形成できる。
【0016】
そして、本発明の導電性高分子分散液を用いて形成される本発明の導電性高分子膜は、抵抗値が低く、良好な特性を有するものとなる。さらに、本発明の導電性高分子膜を電解質とする本発明の電解コンデンサもまた、良好な特性を有するものとなる。
【0017】
本発明の導電性高分子分散液に係るπ共役系導電性高分子(以下、単に「導電性高分子」という場合がある)としては、例えば、チオフェンまたはその誘導体、ピロールまたはその誘導体、アニリンまたはその誘導体などのモノマーを重合してなるものが挙げられる。なお、例えば本発明の導電性高分子分散液を用いて導電性高分子膜を得る場合には、チオフェンまたはその誘導体を重合してなる導電性高分子を使用することが好ましい。これは、チオフェンまたはその誘導体を重合して得られる導電性高分子が、他のモノマーを重合して得られる導電性高分子に比べて導電性および耐熱性に優れているためである。
【0018】
チオフェンまたはその誘導体におけるチオフェンの誘導体としては、例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェンや、上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられ、そのアルキル基やアルコキシ基の炭素数としては、1以上であることが好ましく、また、16以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。
【0019】
上記の3,4-エチレンジオキシチオフェンをアルキル基で修飾したアルキル化エチレンジオキシチオフェンについて詳しく説明すると、上記3,4-エチレンジオキシチオフェンやアルキル化エチレンジオキシチオフェンは、下記の一般式(1)で表される化合物に該当する。
【0020】
【0021】
一般式(1)中、R1は水素または炭素数1~10のアルキル基である。
【0022】
そして、上記一般式(1)中のR1が水素の化合物が3,4-エチレンジオキシチオフェンであり、これをIUPAC名称で表示すると、「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2,3-Dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、この化合物は、IUPAC名称で表示されるよりも、一般名称の「3,4-エチレンジオキシチオフェン」で表示されることが多いので、本明細書では、この「2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を「3,4-エチレンジオキシチオフェン」と表示している。そして、上記一般式(1)中のR1がアルキル基の場合、このアルキル基としては、炭素数が1~10のものが好ましく、特に炭素数が1~4のものが好ましい。つまり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が特に好ましく、それらを具体的に例示すると、一般式(1)中のR1がメチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-メチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Methyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、以下、これを簡略化して「メチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。一般式(1)の中のR1がエチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Ethyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「エチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。
【0023】
一般式(1)の中のR1がプロピル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-プロピル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Propyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「プロピル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、一般式(1)の中のR1がブチル基の化合物は、IUPAC名称で表示すると、「2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン(2-Butyl-2,3-dihydro-thieno〔3,4-b〕〔1,4〕dioxine)」であるが、本明細書では、これを簡略化して「ブチル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。また、「2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン」を、本明細書では、簡略化して「アルキル化エチレンジオキシチオフェン」と表示する。そして、それらのアルキル化エチレンジオキシチオフェンの中でも、メチル化エチレンジオキシチオフェン、エチル化エチレンジオキシチオフェン、プロピル化エチレンジオキシチオフェン、ブチル化エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
【0024】
また、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とアルキル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-アルキル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)とは混合して用いることもできるが、その場合の混合比は、モル比で、0.05:1~1:0.1であることが好ましく、0.1:1~1:0.1であることがより好ましく、0.2:1~1:0.2であることがさらに好ましく、0.3:1~1:0.3であることが特に好ましい。
【0025】
ポリアニオンとしては、例えば、下記(A)、(B)または(C)が好ましいものとして挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0026】
(A)ポリスチレンスルホン酸。
【0027】
(B)スチレンスルホン酸と、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、および不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物よりなる群から選択される少なくとも1種の非スルホン酸系モノマーとの共重合体。
【0028】
(C)水溶性ポリエステル樹脂。
【0029】
(A)のポリスチレンスルホン酸としては、その重量平均分子量が10,000~1,000,000のものが好ましい。
【0030】
(B)の共重合体のモノマーとなるアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ジフェニルブチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸スルホヘキシルナトリウム、アクリル酸グリシジル、アクリル酸メチルグリシジル、アクリル酸ヒドロキシアルキル(アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチルなど)などが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸ヒドロキシメチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシブチルなどのアルキル基の炭素数が1~4のアクリル酸ヒドロキシアルキルが、スチレンスルホン酸と共重合体化したときのドーパントとしての特性上から好ましい。また、アクリル酸グリシジルやアクリル酸メチルグリシジルのようにグリシジル基を含有するものは、グリシジル基が開環することによりヒドロキシル基を含有する構造になることから、グリシジル基を有するものも、アクリル酸ヒドロキシアルキルと同様にスチレンスルホン酸と共重合体化したときのドーパントとしての特性上から好ましい。
【0031】
(B)成分の共重合体のモノマーとなるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルブチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸スルホヘキシルナトリウム、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル、メタクリル酸ヒドロキシアルキル(メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシステアリルなど)、メタクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、メタクリル酸メトキシヒドロキシプロピル、メタクリル酸エトキシヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジヒドロキシブチルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸ヒドロキシメチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ヒドロキシブチルなどのアルキル基の炭素数が1~4のメタクリル酸ヒドロキシアルキルが、スチレンスルホン酸と共重合体化したときのドーパントとしての特性上から好ましい。また、メタクリル酸グリシジルやメタクリル酸メチルグリシジルのようにグリシジル基を含有するものは、グリシジル基が開環することによりヒドロキシル基を含有する構造になることから、グリシジル基を有するものも、メタクリル酸ヒドロキシアルキルと同様にスチレンスルホン酸と共重合体化したときのドーパントとしての特性上から好ましい。
【0032】
(B)成分の共重合体のモノマーとなる不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシラン、p-スチリルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランなどの不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物やそれらの加水分解物が挙げられる。この不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物の加水分解物とは、例えば、不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物が上記3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの場合は、メトキシ基が加水分解されてヒドロキシル基になった構造である3-メタクリロキシトリヒドロキシシランになるか、またはシラン同士が縮合してオリゴマーを形成し、その反応に利用されていないメトキシ基がヒドロキシル基になった構造を有する化合物になる。そして、この不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどが、スチレンスルホン酸と共重合体化したときのドーパントとしての特性上から好ましい。
【0033】
(B)の共重合体における、スチレンスルホン酸と、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の非スルホン酸系モノマーとの比率としては、質量比で、1:0.01~0.1:1であることが好ましい。
【0034】
そして、上記スチレンスルホン酸と、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよび不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物またはその加水分解物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の非スルホン酸系モノマーとの共重合体は、その分子量が、重量平均分子量で5,000~500,000程度のものが、水溶性およびドーパントとしての特性上から好ましく、重量平均分子量で40,000~200,000程度のものがより好ましい。
【0035】
(C)の水溶性ポリエステルとしては、スルホン化ポリエステルなどが挙げられる。
【0036】
導電性高分子分散液は、溶媒として、水と、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有する。
【0037】
水酸基を2個以上含む化合物としては、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、ブタンジオール、グリセリンなどの多価アルコールなどが挙げられ、導電性高分子分散液は、これらのうちの1種のみを含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0038】
導電性高分子分散液が溶媒として含有する非プロトン性極性溶媒は、沸点が100℃以上であり、これにより、導電性高分子分散液を塗布して塗膜を形成する際の溶媒の揮発を抑制できることにより、分散液の流動性を長時間にわたって維持できるため、分散液を繰り返し使用して塗膜を形成する際にも良好な塗布性を確保することが可能となる。
【0039】
沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO、沸点:189℃)、N-メチルホルムアミド(MF、沸点:180~185℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、沸点:153℃)、N-メチルアセトアミド(MAc、沸点:205℃)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc、沸点:165℃)などが挙げられ、導電性高分子分散液は、これらのうちの1種のみを含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0040】
導電性高分子分散液において、導電性高分子分散液全量中の各溶媒の含有量は、より良好な塗布性を長時間にわたって確保する観点から、以下の通りであることが望ましい。
【0041】
導電性高分子分散液全量中の、水酸基を2個以上含む化合物の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、また、40質量%以上であることが好ましい。
【0042】
導電性高分子分散液全量中の、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
導電性高分子分散液全量中の水の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
導電性高分子分散液においては、溶媒以外の成分は、ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子のみであってもよく、必要に応じて、さらにポリビニルアルコール樹脂やエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの樹脂成分などを含有していてもよい。なお、導電性高分子分散液全量中の、ポリアニオンによってドーピングされてなるπ共役系導電性高分子の含有量は、例えば、1~10質量%であることが好ましい。
【0045】
導電性高分子分散液は、例えば、ドーパントとなるポリアニオンを含有する水性液(水または水と水混和性溶媒との混合物)中で、酸化重合によって導電性高分子を合成することで、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子が、水を含む水性液中に分散した水分散体を製造し、この水分散体に、水酸基を2個以上含む化合物および沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒を加えることで、得ることができる。
【0046】
導電性高分子の合成に使用する上記水性液を構成する水混和性溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、アセトニトリルなどが挙げられ、これらの水混和性溶剤の水との混合割合は、水性液全体中の50質量%以下であることが好ましい。
【0047】
導電性高分子を合成するにあたっての酸化重合は、化学酸化重合、電解酸化重合のいずれも採用することができる。
【0048】
化学酸化重合を行うにあたっての酸化剤としては、例えば、過硫酸塩が用いられるが、その過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸カルシウム、過硫酸バリウムなどが用いられる。
【0049】
化学酸化重合において、その重合時の条件は、特に限定されることはないが、化学酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、10℃~30℃がより好ましく、また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。
【0050】
電解酸化重合は、定電流でも定電圧でも行い得るが、例えば、定電流で電解酸化重合を行う場合、電流値としては、0.05mA/cm2~10mA/cm2が好ましく、0.2mA/cm2~4mA/cm2がより好ましく、定電圧で電解酸化重合を行う場合は、電圧としては、0.5V~10Vが好ましく、1.5V~5Vがより好ましい。電解酸化重合時の温度としては、5℃~95℃が好ましく、特に10℃~30℃が好ましい。また、重合時間としては、1時間~72時間が好ましく、8時間~24時間がより好ましい。なお、電解酸化重合にあたっては、触媒として硫酸第一鉄または硫酸第二鉄を添加してもよい。
【0051】
上記のようにして得られる導電性高分子(ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子)は、重合直後、水中または水性液中に分散した状態で得られ、酸化剤としての過硫酸塩や触媒として用いた硫酸鉄塩やその分解物などを含んでいる。そこで、その不純物を含んでいる導電性高分子の水分散体を超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザーや遊星ボールミルなどの分散機にかけて不純物を分散させた後、カチオン交換樹脂で金属成分を除去することが好ましい。このときの動的光散乱法により測定した導電性高分子の粒径としては、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、また、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。その後、エタノール沈殿法、限外濾過法、陰イオン交換樹脂などにより、酸化剤や触媒の分解により生成したものを除去することが好ましい。
【0052】
このようにして得られる導電性高分子の水分散体に、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを添加して、本発明の導電性高分子分散液を得る。また、必要に応じて、水酸基を2個以上含む化合物と、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを添加した後に、濃縮によって導電性高分子分散液中の水の含有量を調整してもよい。
【0053】
そして、上記のようにして得られる本発明の導電性高分子分散液を、例えば、ロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、スピンコーターなどの各種コーターを用いた塗工、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷などによる印刷、浸漬、吹付などの方法で基材に塗布して塗膜を形成し、これを乾燥することで、本発明の導電性高分子膜を得ることができる。本発明の導電性高分子分散液は、特に印刷時の塗布性と繰り返しの印刷適性に優れ、良好な性状の塗膜を形成可能であることから、これを乾燥して得られる本発明の導電性高分子膜は、良好な性状で、例えば優れた導電性を有するものとなる。
【0054】
なお、後述する実施例2-1~2-19の導電性高分子膜と、比較例2-2~2-5の導電性高分子膜との特性(表面抵抗値)の比較から分かるように、本発明の導電性高分子膜は、例えば沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒を含有しない導電性高分子分散液から形成される導電性高分子膜とは特性が明らかに相違しており、両者の間には、何某かの構造が相違すると推測される。しかしながら、現時点では、上記両者の導電性高分子膜の構造上の相違を特定することが困難であるため、本発明の導電性高分子膜においては、上記の通り、製造プロセスによって特定する。
【0055】
本発明の導電性高分子膜は、電解コンデンサの電解質として使用することができる。すなわち、本発明の電解コンデンサは、本発明の導電性高分子膜を電解質として有するものである。本発明の導電性高分子膜は、上記の通り良好な性状で、優れた導電性を有していることから、これを電解質とする本発明の電解コンデンサは、優れた特性を有するものとなる。
【0056】
電解コンデンサには、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどがあり、そのアルミニウム電解コンデンサの中にも、巻回型アルミニウム電解コンデンサと積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサとがある。
【0057】
例えば巻回型アルミニウム電解コンデンサのコンデンサ素子としては、アルミニウム箔の表面をエッチング処理した後、化成処理して誘電体層を形成した陽極にリード端子を取り付け、また、アルミニウム箔からなる陰極にリード端子を取り付け、それらのリード端子付き陽極と陰極とをセパレータを介して巻回して作製したものを使用することが好ましい。
【0058】
そして、上記コンデンサ素子を用いての巻回型アルミニウム電解コンデンサの製造は、例えば、次のように行われる。
【0059】
上記コンデンサ素子の表面に、本発明の導電性高分子分散液を塗布し乾燥して、本発明の導電性高分子膜からなる固体電解質層を形成し、その固体電解質層を有するコンデンサ素子を外装材で外装して、巻回型アルミニウム電解コンデンサを製造する。
【0060】
巻回型アルミニウム電解コンデンサ以外の電解コンデンサ、例えば、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどの製造にあたっては、コンデンサ素子としてアルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属の多孔体からなる陽極と、それらの弁金属の酸化被膜からなる誘電体層を有するものを用い、そのコンデンサ素子の表面に、本発明の導電性高分子分散液を塗布し乾燥して、本発明の導電性高分子膜からなる固体電解質層を形成した後、カーボンペースト、銀ペーストを付け、乾燥してから外装することによって、積層型もしくは平板型アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサなどを製造できる。
【0061】
なお、導電性高分子分散液の印刷に先立って、コンデンサ素子の表面で、いわゆる「その場重合」によって直接導電性高分子を合成して固体電解質層の一部となる下地層を形成してから、この下地層の表面に導電性高分子分散液を塗布し乾燥して、上記下地層と導電性高分子分散液由来の部分とを含む固体電解質層を形成してもよい。例えば、導電性高分子分散液中の導電性高分子(粒子)を十分に侵入させ難いほど、コンデンサ素子の孔が微細な場合には、「その場重合」によって孔を導電性高分子である程度埋めておいてから、導電性高分子分散液を用いて固体電解質層を形成することで、より優れた特性の電解コンデンサを得ることが可能となる。コンデンサ素子の表面での「その場重合」は、導電性高分子分散液を調製するための導電性高分子の合成と同じ材料(モノマー、ドーパント、溶媒、酸化剤など)を使用し、例えば10~300℃で、1~180分間の条件で実施することができる。
【0062】
本発明の電解コンデンサは、従来から知られている電解コンデンサと同じ用途に適用することができる。また、本発明の導電性高分子膜は本発明の電解コンデンサの電解質などに利用でき、本発明の導電性高分子分散液は本発明の導電性高分子膜を形成できる。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0064】
<ポリアニオンの製造例>
(製造例1:ポリスチレンスルホン酸の製造)
2Lの攪拌機付きセパラブルフラスコに1Lの純水を入れ、そこにスチレンスルホン酸ナトリウム:222.7g(スチレンスルホン酸として199g)を添加して溶解させた。そして、得られた溶液に酸化剤として過硫酸アンモニウム:1gを添加して、重合反応を12時間行った。
【0065】
その後、重合反応を経た反応液にカチオン交換樹脂〔オルガノ社製、アンバーライト120B(商品名)〕:100gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返すことで液中のカチオン成分をすべて除去して、ポリスチレンスルホン酸を水に溶解した状態で得た。
【0066】
得られたポリスチレンスルホン酸について、ゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを用いて分析を行った結果、デキストランを標品として見積もった上記ポリスチレンスルホン酸の重量平均分子量は、90,000であった。
【0067】
(製造例2:スチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの共重合体の製造)
このポリアニオンの製造例では、スチレンスルホン酸と不飽和炭化水素含有アルコキシシラン化合物である3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの、比率が質量比で9:1の共重合体の製造について説明する。なお、以下の製造例などにおいても、共重合体の組成の表示にあたっては、使用開始時のモノマーの質量比で表示する。
【0068】
2Lの攪拌機付セパラブルフラスコに1Lの純水を入れ、そこにスチレンスルホン酸ナトリウム:212.7g(スチレンスルホン酸として190g)と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン:10gとを添加して溶解させた。そして、得られた溶液に酸化剤として過硫酸アンモニウム:1gを添加して、スチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの重合反応を12時間行った。
【0069】
その後、重合反応を経た反応液にカチオン交換樹脂〔オルガノ社製、アンバーライト120B(商品名)〕:100gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返すことで液中のカチオン成分をすべて除去して、スチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの共重合体を水に溶解した状態で得た。
【0070】
得られたスチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの共重合体について、GPCカラムを用いたHPLCシステムを用いて分析を行った結果、デキストランを標品として見積もった上記共重合体の重量平均分子量は、80,000であった。
【0071】
<導電性高分子の水分散体の製造例>
(製造例1)
この導電性高分子の水分散体の製造例1では、ポリアニオンの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸をドーパントとして導電性高分子の水分散体を製造した。
【0072】
上記ポリアニオンの製造例1で得たポリスチレンスルホン酸の4質量%水溶液:600gを内容積:1Lのステンレス鋼製容器に入れ、そこに触媒として硫酸第一鉄・7水和物:0.3gを添加して溶解させた。その中に3,4-エチレンジオキシチオフェン:4mLをゆっくり滴下した。上記容器内の反応液をステンレス鋼製の攪拌バネで攪拌し、容器に陽極を取り付け、攪拌バネに陰極を取り付け、1mA/cm2の定電流で18時間電解酸化重合して、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子を合成した。
【0073】
電解酸化重合後の反応液を水で4倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー〔日本精機社製、US-T300(商品名)〕で30分間分散処理を行った。その後、反応液中にカチオン交換樹脂〔オルガノ社製、アンバーライト120B(商品名)〕100gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中のカチオン成分をすべて除去した。
【0074】
上記処理後の液を孔径1μmのフィルターに通し、その通過液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製、Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で処理して、液中の遊離の低分子成分を除去した。この処理後の液を水で希釈することでポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度を調整して、上記導電性高分子の濃度が2.0質量%の導電性高分子の水分散体(1)を得た。
【0075】
(製造例2)
この製造例2では、ポリアニオンの製造例2で得たスチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの質量比が9:1の共重合体をドーパントとして、導電性高分子の水分散体を製造した。
【0076】
すなわち、使用するポリアニオンの水溶液を、ポリアニオンの製造例2で得たスチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの共重合体の4質量%水溶液:600gに変更した以外は製造例1と同様にして、ポリアニオンであるスチレンスルホン酸と3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとの共重合体によってドーピングされた導電性高分子の濃度が2.0質量%の導電性高分子の水分散体(2)を得た。
【0077】
(製造例3)
ポリアニオンとして、スルホン化ポリエステル〔互応化学工業社製、プラスコートZ-561(商品名)、数平均分子量27,000〕の水溶液:600gを内容積:1Lのステンレス鋼製容器に入れ、硫酸第一鉄・7水和物:0.5gを添加し、その中に3,4-エチレンジオキシチオフェン:4mLをゆっくり滴下した。上記容器内の反応液をステンレス鋼製の攪拌翼で攪拌し、容器に陽極を取り付け、攪拌翼の付け根に陰極を取り付け、1mA/cm2の定電流で18時間電解酸化重合して、ポリアニオンであるスルホン化ポリエステルによってドーピングされた導電性高分子を合成した。なお、上記電解酸化重合にあたってのドーパントとなるスルホン化ポリエステルと重合性モノマーの3,4-エチレンジオキシチオフェンとの比率は、質量比で、スルホン化ポリエステル:3,4-エチレンジオキシチオフェン=1:0.2とした。
【0078】
電解酸化重合後の反応液を水で6倍に希釈した後、超音波ホモジナイザー〔日本精機社製、US-T300(商品名)〕で30分間分散処理を行った。その後、反応液中にカチオン交換樹脂〔オルガノ社製、アンバーライト120B(商品名)〕:100gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、次いで、東洋濾紙社製の濾紙No.131で濾過し、このカチオン交換樹脂による処理と濾過を3回繰り返して、液中の鉄イオンなどのカチオン成分をすべて除去した。
【0079】
上記処理後の液を孔径1μmのフィルターに通し、その通過液を限外濾過装置〔ザルトリウス社製、Vivaflow200(商品名)、分子量分画5万〕で処理して、液中の遊離の低分子成分を除去した。この処理後の液を水で希釈することでポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度を調整して、上記導電性高分子の濃度が5.0質量%の導電性高分子の水分散体(3)を得た。
【0080】
<導電性高分子分散液>
(実施例1-1)
導電性高分子の水分散体(1):300gに、溶媒としてプロピレングリコール:60gおよびジメチルスルホキシド:20gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、エバポレーターを用いて水を減圧除去して、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0081】
(実施例1-2)
導電性高分子の水分散体を、導電性高分子の水分散体(2)に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0082】
(実施例1-3)
導電性高分子の水分散体を、導電性高分子の水分散液(3):240gに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が12質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0083】
(実施例1-4)
導電性高分子の水分散体を、導電性高分子の水分散体(1):60gと導電性高分子の水分散体(3):216gとを混合したものに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が12質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0084】
(実施例1-5)
導電性高分子の水分散体を、導電性高分子の水分散体(2):60gと導電性高分子の水分散体(3):216gとを混合したものに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が12質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0085】
(実施例1-6)
プロピレングリコールの量を79.9gとし、ジメチルスルホキシドの量を0.1gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0086】
(実施例1-7)
プロピレングリコールの量を50gとし、ジメチルスルホキシドの量を30gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0087】
(実施例1-8)
プロピレングリコールの量を40gとし、ジメチルスルホキシドの量を50gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0088】
(実施例1-9)
プロピレングリコールの量を79gとし、ジメチルスルホキシドの量を1gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0089】
(実施例1-10)
プロピレングリコールの量を90gとし、ジメチルスルホキシドの量を1gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0090】
(実施例1-11)
プロピレングリコールの量を34gとし、ジメチルスルホキシドの量を10gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0091】
(実施例1-12)
プロピレングリコールの量を44gとし、ジメチルスルホキシドの量を10gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0092】
(実施例1-13)
プロピレングリコールの量を79gとし、ジメチルスルホキシドの量を10gとした以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0093】
(実施例1-14)
プロピレングリコールに代えてエチレングリコールを使用した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0094】
(実施例1-15)
プロピレングリコールに代えてグリセリンを使用した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0095】
(実施例1-16)
ジメチルスルホキシドに代えてN-メチルホルムアミドを使用した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0096】
(実施例1-17)
ジメチルスルホキシドに代えてN,N-ジメチルホルムアミドを使用した以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0097】
(比較例1-1)
プロピレングリコールおよびジメチルスルホキシドを添加しなかった以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0098】
(比較例1-2)
プロピレングリコールの量を80gとし、ジメチルスルホキシドを添加しなかった以外は、実施例1-1と同様にして、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0099】
(比較例1-3)
導電性高分子の水分散体(1):300gに、溶媒としてプロピレングリコール:60gおよびアセトニトリル(沸点82℃):20gを添加して攪拌機で1時間攪拌し、エバポレーターを用いて水を減圧除去した。このとき、水と共にアセトニトリルが留出するため、5回に分けてアセトニトリルを20gずつ継ぎ足しながら水を除去することで、ポリアニオンによってドーピングされた導電性高分子の濃度が6質量%の導電性高分子分散液を得た。
【0100】
(比較例1-4)
プロピレングリコールに代えてイソプロピルアルコール(IPA)を添加した以外は実施例1-1と同様の手順で処理を進めたが、水を減圧除去する際に導電性高分子が凝集して分散液が得られなかった。このため、この比較例1-4については、後述する導電性高分子膜の作製は行わなかった。
【0101】
実施例および比較例の導電性高分子分散液の組成を表1に示す。表1に記載の「導電性高分子」は、ポリアニオンによってドーピングされたものである。また、表1における「分散液の状態」の「分散」とは、液中で導電性高分子が良好に分散していることを意味しており、「凝集」とは、液中で導電性高分子が凝集していることを意味している。
【0102】
【0103】
<導電性高分子膜>
(実施例2-1)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム〔東洋紡製「コスモシャインA-4360」(商品名)〕上に実施例1の導電性高分子分散液をスクリーン印刷(400メッシュのスクリーン版を使用)で塗布し、150℃で30分間乾燥して、導電性高分子膜を得た。
【0104】
上記の印刷は連続で20回実施し、乾燥して得られた20枚の導電性高分子膜について、かすれやホールが発生している枚数を目視で確認した。
【0105】
また、かすれやホールが生じていなかった導電性高分子膜について、三菱化学アナリテック社製のロレスタ-GP〔MCP-T610型、直列4探針プローブ(ASP)〕を用いて、室温(25℃)で表面抵抗値を測定し、測定した全ての膜の値の平均値を求めた。
【0106】
(実施例2-2~2-17および比較例2-1~2-3)
導電性高分子分散液を、実施例1-2~1-17または比較例1-1~1-3の導電性高分子分散液に変更した以外は、実施例2-1と同様にして導電性高分子膜を作製し、各20枚中の、かすれやホールが発生している枚数を確認すると共に、かすれやホールが生じていなかったものについて、実施例2-1と同様にして表面抵抗値を測定し、測定した全ての膜の値の平均値を求めた。
【0107】
(実施例2-18および比較例2-4)
導電性高分子分散液を、実施例1-1または比較例1-1の導電性高分子分散液に変更し、基材をアルミニウムエッチド箔に変更した以外は、実施例2-1と同様にして導電性高分子膜を作製した。各20枚中の、かすれやホールが発生している枚数を確認すると共に、かすれやホールが生じていなかったものについて、実施例2-1と同様にして表面抵抗値を測定し、測定した全ての膜の値の平均値を求めた。
【0108】
(実施例2-19および比較例2-5)
導電性高分子分散液を、実施例1-1または比較例1-1の導電性高分子分散液に変更し、基材をアルミニウムエッチド箔に変更し、導電性高分子分散液の基材への塗布方法を、基材を導電性高分子分散液に浸漬してから引き上げる方法に変更した以外は、実施例2-1と同様にして導電性高分子膜を作製した。各20枚中の、かすれやホールが発生している枚数を確認すると共に、かすれやホールが生じていなかったものについて、実施例2-1と同様にして表面抵抗値を測定し、測定した全ての膜の値の平均値を求めた。
【0109】
上記の評価結果を表2に示す。表2に記載の「表面抵抗値」は、測定した全ての膜の値の平均値であり、「表面抵抗値」の欄の「―」は、測定ができなかったことを意味している。
【0110】
【0111】
表2に示す通り、水酸基を2個以上含む化合物と沸点100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有する実施例1-1~1-17の導電性高分子分散液を用いて形成した実施例2-1~2-17の導電性高分子膜では、かすれやホールが発生した枚数が少なかった。なお、実施例1-1~1-17の導電性高分子分散液では、かすれやホールが発生することなく、14回以上連続でスクリーン印刷または浸漬による塗布が可能であった。
【0112】
これに対し、水酸基を2個以上含有する化合物と沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含まない比較例1-1の導電性高分子分散液は、PETフィルムにスクリーン印刷できず、アルミニウムエッチド箔では連続印刷3回目以降、連続浸漬5回目以降でかすれやホールが確認された。また、水酸基を2個以上含む化合物を含有する一方で、沸点100℃以上の非プロトン性極性溶媒を含まない比較例1-2および比較例1-3の導電性高分子分散液は、それぞれ連続印刷7回目以降、4回目以降でかすれが確認された。
【0113】
また、かすれやホールが発生しなかった導電性高分子膜の表面抵抗値の平均値は、水酸基を2個以上含む化合物に加えて、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒を含有する実施例1-1~1-17の導電性高分子分散液を用いて形成した実施例2-1~2-19の導電性高分子膜の方が、水酸基を2個以上含有する化合物と沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含まない比較例1-1や、沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒を含有しない比較例1-2、1-3の導電性高分子分散液を用いて形成した比較例2-2~2-5の導電性高分子膜よりも低く、良好な導電性を有していた。これは、比較例2-2~2-5の導電性高分子膜において、目視ではかすれやホールが生じていなくても、スクリーン印刷や浸漬によって形成した塗膜(導電性高分子分散液の塗膜)に斑があったためであると推測される。
【0114】
<タンタル電解コンデンサ>
(実施例3-1)
タンタル焼結体を、濃度が0.1質量%のリン酸水溶液に浸漬した状態で、35Vの電圧を印加することによって化成処理を行うことで、タンタル焼結体の表面にタンタルの酸化被膜からなる誘電体層を形成して、設定ESRが20mΩ以下、設定静電容量が30μF以上、定格電圧が12V、設定漏れ電流が10μA以下のコンデンサ素子を作製した。
【0115】
上記コンデンサ素子を、濃度が35質量%の3,4-エチレンジオキシチオフェンのエタノール溶液に浸漬し、1分後に取り出し、5分間放置した。その後、あらかじめ用意しておいた濃度が50質量%のフェノールスルホン酸ブチルアミン水溶液(pH5)と濃度が30質量%の過硫酸アンモニウム水溶液とを質量比1:1で混合した混合物からなる酸化剤兼ドーパント溶液中に浸漬し、30秒後に取り出し、室温で30分間放置した後、50℃で10分間加熱して、重合を行った。重合後、水中に上記コンデンサ素子を浸漬し、30分間放置した後、取り出して70℃で30分間乾燥した。この操作を6回繰り返して、コンデンサ素子上に導電性高分子からなる固体電解質の下地層を形成した。
【0116】
上記のようにして、いわゆる「その場重合」による導電性高分子からなる固体電解質の下地層を形成したコンデンサ素子20個を、実施例1-1の導電性高分子分散液に浸漬してから引き上げることにより、コンデンサ素子に上記導電性高分子分散液を塗布し、150℃で30分間乾燥して固体電解質層を形成した。形成後の固体電解質層のかすれおよびホールの有無を目視で確認し、これらが生じていなかった素子のみについて、カーボンペースト、銀ペーストで上記固体電解質層を覆ってタンタル電解コンデンサを作製した。
【0117】
(比較例3-1)
導電性高分子分散液を、比較例1-1の導電性高分子分散液に変更した以外は、実施例3-1と同様にしてタンタル電解コンデンサを作製した。
【0118】
実施例および比較例のタンタル電解コンデンサについて、下記の各評価を行った。
【0119】
等価直列抵抗(ESR):
各タンタル電解コンデンサのESRを、HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用いて、25℃の条件下で、100kHzで測定した。
【0120】
静電容量(Cap):
各タンタル電解コンデンサのCapを、HEWLETT PACKARD社製のLCRメーター(4284A)を用い、25℃の条件下で、120Hzで測定した。
【0121】
漏れ電流(LC):
各タンタル電解コンデンサに、25℃で25Vの定格電圧を60秒間印加した後、デジタルオシロスコープを用いてLCを測定した。このLCの測定値が50μA以上のものは、導電性高分子分散液の塗布時の塗り斑が原因で、導電性高分子膜に局所的に薄い箇所が生じたためにLC不良が発生していると判断できる。
【0122】
これらの評価結果を表3に示す。
【0123】
【0124】
表3に示す通り、水酸基を2個以上含む化合物と沸点100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含有する実施例1-1の導電性高分子分散液を用いて形成した固体電解質層を有する実施例3-1のタンタル電解コンデンサは、固体電解質層にかすれやホールが発生せず、ESRが低く、Capが大きく、LCが抑えられており、優れた特性を有していた。
【0125】
一方、水酸基を2個以上含有する化合物と沸点が100℃以上の非プロトン性極性溶媒とを含まない比較例1-1の導電性高分子分散液を用いた比較例3-1のタンタル電解コンデンサの場合、PETフィルムやアルミニウムエッチド箔に塗布した場合と同様に均一な塗膜を得ることができず、導電性高分子分散液の塗り斑が原因と考えられるLC不良が発生した。