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  • 特開-アルコール性肝障害抑制用の水素水 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126128
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】アルコール性肝障害抑制用の水素水
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20220823BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220823BHJP
   A61P 25/32 20060101ALI20220823BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P1/16
A61P25/32
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K31/045
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024022
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】591201686
【氏名又は名称】株式会社日本トリム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 太一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC16
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086NA14
4C086ZA75
4C086ZC19
4C086ZC20
4C086ZC37
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA03
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA37
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA75
4C206ZC19
4C206ZC20
4C206ZC37
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】アルコール性肝障害を効果的に抑制することができるとともに、安全性が高く、調製が容易かつ安価であるアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物を提供することを目的とする。
【解決手段】アルコール性肝障害抑制用の水素水混合物は、エタノール溶液と水素水とが混和され、エタノールの濃度が1~4%であり、溶存水素濃度が550~5600ppbである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール溶液と水素水とが混和されたアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物であって、
エタノールの濃度が1~4%であり、溶存水素濃度が550~5600ppbであることを特徴とするアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物。
【請求項2】
前記水素水の前記溶存水素濃度が1100~1300ppbであることを特徴とする請求項1に記載のアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物。
【請求項3】
前記水素水が電解水素水であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物。
【請求項4】
エタノール溶液に水素が溶解したアルコール性肝障害抑制用の水素混合物であって、
エタノールの濃度が1~4%であり、溶存水素濃度が550~5600ppbであることを特徴とするアルコール性肝障害抑制用の水素混合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール性肝障害抑制用の水素水混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコール性肝障害は、様々な障害(例えば、二日酔い等の軽度の障害から、昏睡や幹細胞の壊死等の重度な障害)が報告されており、これらの肝障害を抑制するとの観点から、様々な有効成分を含有するアルコール性肝障害抑制剤が用いられている。
【0003】
このアルコール性肝障害抑制剤としては、例えば、リジンおよびクエン酸を有効成分として含有する抑制剤(例えば、特許文献1参照)、プロリンまたはリジンを含有する予防用組成物(例えば、特許文献2参照)、及びゼラチンまたは可溶性コラーゲンを有効成分とする抑制剤(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-161642号公報
【特許文献2】特開平6―116144号公報
【特許文献3】特開平6-247876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記従来のアルコール性肝障害抑制剤においては、有効成分の抽出や合成を行う必要があるため、抑制剤の製造が複雑になるとともに、コストアップになるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、アルコール性肝障害を効果的に抑制することができるとともに、安全性が高く、調製が容易かつ安価であるアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物は、エタノール溶液と水素水とが混和され、エタノールの濃度が1~4%であり、溶存水素濃度が550~5600ppbであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全性が高く、調製が容易かつ安価であり、さらにアルコール性肝障害を効果的に抑制することができるアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る電解水素水を生成する電解水生成装置の構成を模式的に示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の水素水混合物は、エタノール溶液と水素水とが混和され、エタノールの濃度が1~4%であり、溶存水素濃度が550~5600ppbであるアルコール性肝障害抑制用の水素水混合物である。
【0011】
より具体的には、本発明の水素水混合物を用いて、ヒト肝臓癌由来のモデル細胞(HepG2)を処理したところ、水素を含有しない浄水を用いて処理した場合(細胞生存率50%)に比し、550~5600ppbの範囲の溶存水素濃度の全範囲において、細胞生存率が向上し、肝細胞死を抑制できることが確認された。
【0012】
これは、本発明の水素水混合物中の溶存水素は、エタノールからアルデヒドの産生を行う酵素であるADH(アルコール脱水素酵素)の活性を低下させため、肝臓におけるエタノールの分解によるアルデヒドの生成が抑制されて、アルデヒドの細胞毒性に起因する細胞の損傷(ミトコンドリア損傷やDNA損傷)が低下するため、アルコール性肝障害が抑制されるものと考えられる。
【0013】
また、本発明の水素水混合物中の溶存水素は、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)の活性を向上させるため、アルデヒドの代謝(アルデヒドの酸化による酢酸への分解)が促進されて、アルデヒドの細胞毒性に起因する細胞の損傷(ミトコンドリア損傷やDNA損傷)が低下するため、アルコール性肝障害が抑制されるものと考えられる。
【0014】
なお、水素水混合物におけるエタノールの濃度が1%未満の場合は、エタノールの濃度が低すぎるため、上述のアルコール性肝障害の抑制効果が十分に得られない場合がある。
【0015】
また、水素水における溶存水素濃度が550ppb未満の場合は、上述のアルコール性肝障害を抑制する効果が低下する場合がある。
【0016】
なお、上述のアルコール性肝障害を抑制する効果を向上させるとの観点から、水素水における溶存水素濃度が1100~1300ppbであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の電解水素水としては、例えば、水に対して電気分解処理を行うことにより生成した電解水素水を使用することができる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る電解水素水を生成する電解水生成装置の構成を模式的に示した構成図である。
【0019】
電解水生成装置1は、電解槽3,4を複数備えており、図1では、一対の電解槽3,4を備えた電解水生成装置1が示されている。なお、電解水生成装置1は、3以上の電解槽3,4を備えていてもよい。
【0020】
電解槽3,4は、直列に接続されており、電解槽3は、電解槽4に対して上流側に設けられている。
【0021】
電解槽3は、水を電気分解するための電解室30と、電解室30内で互いに対向して配置された第1給電体31及び第2給電体32と、電解室30を第1給電体31側の第1極室30Aと第2給電体32側の第2極室30Bとに区分する隔膜33とを有する。
【0022】
第1給電体31及び第2給電体32の一方は陽極給電体として適用され、他方は陰極給電体として適用される。電解室30の第1極室30A及び第2極室30Bの両方に水が供給され、第1給電体31及び第2給電体32に直流電圧が印加されることにより、電解室30内で水の電気分解が生ずる。
【0023】
上流側の電解室30の隔膜33には、例えば、スルホン酸基を有するフッ素系樹脂からなる固体高分子膜が用いられている。隔膜33の両面には、白金からなるめっき層が形成
されている。一方、第1給電体31及び第2給電体32には、例えば、チタニウム等からなるエクスパンドメタル等の網状金属の表面に白金のめっき層が形成されたものが適用されている。このような網状の第1給電体31及び第2給電体32は、隔膜33を挟持しながら、隔膜33の表面に水を行き渡らせることができ、電解室30内での電気分解を促進する。
【0024】
隔膜33のめっき層と、第1給電体31及び第2給電体32は当接し、電気的に接続されている。隔膜33は、電気分解で生じたイオンを通過させ、隔膜33を介して第1給電体31と第2給電体32とが電気的に接続される。固体高分子材料からなる隔膜33が適用される電解室30では、電解水素水のpH値が上昇することなく(すなわち、電解室30内の水が中性に維持されつつ)、電気分解が進行する。
【0025】
電解室30内で水が電気分解されることにより、水素ガス及び酸素ガスが発生する。例えば、第1給電体31が陽極給電体として適用される場合、第1極室30Aでは、酸素ガスが発生し、酸素ガスが溶け込んだ電解酸素水が生成される。一方、第2極室30Bでは、水素ガスが発生し、水素ガスが溶け込んだ電解水素水が生成される。また、第1給電体31が陰極給電体として適用される場合、第1極室30Aでは、水素ガスが発生し、水素ガスが溶け込んだ電解水素水が生成される。一方、第2極室30Bでは、酸素ガスが発生し、酸素ガスが溶け込んだ電解酸素水が生成される。
【0026】
電解槽4は、水を電気分解するための電解室40内に、互いに対向して配置された第1給電体41及び第2給電体42と、電解室40を第1給電体41側の第1極室40Aと、第2給電体42側の第2極室40Bとに区分する隔膜43とを有する。
【0027】
第1給電体41及び第2給電体42の一方は陽極給電体として適用され、他方は陰極給電体として適用される。電解室40の第1極室40A及び第2極室40Bの両方に水が供給され、第1給電体41及び第2給電体42に直流電圧が印加されることにより、電解室40内で水の電気分解が生ずる。
【0028】
隔膜43は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)親水膜によって構成されている。隔膜43を挟んで対向配置される第1給電体41及び第2給電体42には、例えば、チタニウム等の金属板が適用される。第1給電体41及び第2給電体42は、隔膜43から離隔する位置に配されている。
【0029】
上記構成の電解槽4では、電解水素水のpH値が上昇しながら、すなわち陰極室内の水のアルカリ強度が高まりつつ、電気分解が進行する。
【0030】
第1給電体41が陽極給電体として適用される場合、第1極室40Aでは、酸素ガスが発生し、酸素ガスが溶け込んだ電解酸素水が生成される。一方、第2極室40Bでは、水素ガスが発生し、水素ガスが溶け込んだ電解水素水が生成される。第1給電体41が陰極給電体として適用される場合、第1極室40Aでは、水素ガスが発生し、水素ガスが溶け込んだ電解水素水が生成される。一方、第2極室40Bでは、酸素ガスが発生し、酸素ガスが溶け込んだ電解酸素水が生成される。
【0031】
電解水生成装置1は、電解室30及び40に電気分解される水を供給するための給水路20と、電解室30及び40から電解水を吐出するための吐水路61及び62とを有している。
【0032】
電解水生成装置1には、給水路20から原水が供給される。原水には、一般的には水道水が利用されるが、その他、例えば、井戸水、地下水等を用いることができる。電解水生
成装置1が飲用の電解水素水の生成に用いられる場合等では、原水を浄化する浄水カートリッジ等が給水路20に適宜設けられる。
【0033】
給水路20は、給水路21及び給水路22に分岐されている。給水路21は、第1極室30Aの下段部に接続されている。給水路22は、第2極室30Bの下端部に接続されている。給水路20に流入した水は、給水路21及び22を通過して、第1極室30A、第2極室30Bに流れ込む。
【0034】
また、給水路21,22の経路中には、流量調整弁23が設けられており、この流量調整弁23は、給水路21,22を流れる水の量を調整する。そして、流量調整弁23によって第1極室30A及び第2極室30Bに流れ込む水の量が調整される。
【0035】
吐水路61は、第1極室40Aの上端部に接続されており、これにより、第1極室40Aから流出した水は、吐水路61に流れ込む。また、吐水路62は、第2極室40Bの上端部に接続されており、これにより、第2極室40Bから流出した水は、吐水路62に流れ込む。
【0036】
また、第1極室40A及び第2極室40Bと吐水路61,62との間には、流路切替弁63が設けられており、この流路切替弁63は、第1極室40A及び第2極室40Bと吐水路61,62との接続を選択的に切り替える。
【0037】
給電体31、32及び給電体41、42に供給される電解電流は、制御部(図示せず)によって制御される。制御部は、給電体31、32及び給電体41、42等の各部の制御を司る。制御部は、例えば、各種の演算処理、情報処理等を実行するCPU(Central Processing Unit)及びCPUの動作を司るプログラム及び各種の情報を記憶するメモリ等を有している。制御部は、例えば、第1給電体31、41及び第2給電体32、42の極性を制御する。
【0038】
また、第1給電体31、41及び第2給電体32、42の極性を相互に変更することにより、電解水素水又は電解酸素水のうち所望の電解水が吐水路61から吐水され、不要な電解水が吐水路62から排出されうる。また、第1給電体31、41及び第2給電体32、42が陽極給電体又は陰極給電体として機能する時間を均一化して、電解室30及び電解室40でのスケールの付着を抑制できる。
【0039】
なお、電解室30の第1極室30Aと電解室40の第1極室40Aとは、第1水路51によって直列に連通されている。また、電解室30の第2極室30Bと電解室40の第2極室40Bとは、第2水路52によって直列に連通されている。
【0040】
なお、上述の実施形態においては、エタノール溶液と水素水とを混和した水素水混合物を使用する構成としたが、例えば、エタノール溶液に、直接、水素ガスを接触させることにより、エタノール溶液に水素を溶解させた水素混合物を使用してもよい。
【0041】
より具体的には、例えば、水素ガスが供給されるスリーブと、スリーブの内部に配置され、複数の孔が形成された中空糸とを備える膜モジュールを使用して、中空糸に形成された孔を介して、バブリングにより、エタノール溶液に水素ガスを、直接、接触させて、エタノール溶液に水素が溶解した水素混合物を生成する方法を採用することができる。
【0042】
そして、この場合も、エタノールの濃度を1~4%に設定するとともに、溶存水素濃度を550~5600ppbに設定することにより、上述の水素水混合物と同様の効果を得ることが可能になる。
【実施例0043】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを発明の範囲から除外するものではない。
【0044】
<電解水素水の製造>
電解水生成装置(日本トリム社製、商品名:TRIMION GRACE)を用いて、温度が22℃、流速が1.5L/minの条件で、溶存水素濃度の異なるレベル1~4の電解水素水を得るとともに、マイクロカーボンによってろ過された浄水を得た。
【0045】
次に、上記各レベルの電解水素水のpH、及び溶存水素濃度の測定を行った。なお、pHの測定にはpHメータ(HORIBA社製、商品名:LAQUA act D-71を用いて行い、溶存水素濃度の測定は、溶存水素計DH-35A(東亜DKK社製)を用いて行った。
【0046】
レベル1:800ppb、pH7
レベル2:860ppb、pH8
レベル3:1120ppb、pH9
レベル4:1320ppb、pH10
【0047】
<電解水素水の処理用培地(電解水素水培地)の作製>
粉体より調整した5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、上述の浄水または各レベルの電解水素水で5倍に希釈し、電解水素水の処理用培地(すなわち、20%の5×DMEMと、80%の電解水素水または浄水を混和した水素水混合物である処理用培地)として用いた。
【0048】
従って、各レベルの電解水素水培地における溶存水素濃度は、以下の通りである。
【0049】
レベル1:800ppb×4/5=640ppb
レベル2:860ppb×4/5=688ppb
レベル3:1120ppb×4/5=896ppb
レベル4:1320ppb×4/5=1056ppb
【0050】
<細胞の培養>
ヒト肝癌由来細胞であるHepG2細胞株を理研バイオリソース研究センター(RIKEN BRC)より入手し、10%のFetal Bovine Serum(FBS)(Sigma-Aldrich、F7524)、および1%のペニシリン-ストレプトマイシン(富士フイルム和光純薬社製、商品名:168-23191)を含むDMEMにて37℃、5%COの条件下で培養した。
【0051】
<肝臓細胞に対するエタノール毒性の評価>
HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、0~8%のエタノールで24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、以下の式(1)を使用して、エタノール処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0052】
[数1]
細胞生存率=(各エタノール濃度の生細胞数/エタノール濃度が0%の場合の生細胞数)×100 (1)
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、エタノール濃度の増加とともに、細胞生存率が減少しており、エタノールは肝臓細胞に対して毒性を有することが分かる。
【0055】
<エタノール毒性に対する電解水素水の作用に関する評価>
HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、レベル1~4の電解水素水培地、4%のエタノールを含有する浄水、及び4%のエタノールを含有するレベル1~4の電解水素水培地で24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、以下の式(2)を使用して、エタノール処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表2、表3に示す。
【0056】
[数2]
細胞生存率=(エタノール処理群の生細胞数/エタノール未処理群の生細胞数)×100 (2)
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すように、4%のエタノールを含有するレベル1~4の電解水素水培地で処理した場合は、4%のエタノールを含有する浄水(電解水素水を含まないもの)で処理した場合に比し、細胞生存率が向上しており、レベル1~4の電解水素水は、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【0060】
<エタノール濃度に対する電解水素水の作用に関する評価>
HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、0~8%のエタノールを含有する浄水、及び0~8%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地で24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(
トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、以下の式(3)を使用して、エタノール処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表4、表5に示す。
【0061】
[数3]
細胞生存率=(各エタノール濃度の生細胞数/エタノール濃度が0%の場合の生細胞数)×100 (3)
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
表5に示すように、1~4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地で処理した場合は、1~4%のエタノールを含有する浄水(電解水素水を含まないもの)で処理した場合に比し、細胞生存率が向上しており、レベル4の電解水素水は、1~4%のエタノールを含有する場合に、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有し、特に、2~4%のエタノールを含有する場合に、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を飛躍的に軽減する効果を有することが分かる。
【0065】
<エタノール毒性に対する溶存水素の作用に関する評価>
HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、レベル4の電解水素水培地、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、緩衝液(HEPES)によりpH調整(中和)したレベル4の電解水素水培地(pH)、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)、及びこれらの水または培地の各々に4%のエタノールを含有させたもので24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、上記の式(2)を使用して、エタノール処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表6、表7に示す。
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】
【0068】
表7に示すように、4%のエタノールを含有し、2回のオートクレーブ処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)で処理した場合は、4%のエタノールを含有する浄水(電解水素水を含まないもの)で処理した場合と同程度の細胞生存率となり、オートクレーブ処理により溶存水素が除去された電解水素水は、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有しないことが分かる。すなわち、電解水素水中の水素が、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【0069】
また、4%のエタノールを含有し、緩衝液(HEPES)によりpH調整(中和)したレベル4の電解水素水培地(pH)で処理した場合は、4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地で処理した場合と同程度の細胞生存率となり、電解水素水のpH調整の影響はないことが分かる。
【0070】
また、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地で処理した場合は、4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地で処理した場合と同程度の細胞生存率となり、電解処理により生成した水素水でない場合であっても、電解水素水と同様に、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【0071】
<細胞培養液中のエタノール濃度に対する水素水の作用に関する評価>
HepG2細胞を2.0×10cells/6well plateで播種し、24時間前培養後、4%のエタノールを含有する浄水、4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地、4%のエタノールを含有し、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、及び4%のエタノールを含有し、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)で24時間処理した。
【0072】
その後、培養上清において、QuantiChromTM Ethanol Assay Kitを用いてエタノール濃度[%]を測定した。以上の結果を表8に示す。
【0073】
【表8】
【0074】
表8に示すように、レベル4の電解水素水培地、及び水素水培地で処理した場合は、浄水及び2回のオートクレーブ処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)で処理した場合に比し、細胞培養液中のエタノール濃度が高いことが分かる。
【0075】
これは、レベル4の電解水素水培地、及び水素水培地中の溶存水素が、ADH(アルコ
ール脱水素酵素)の活性を低下させ、エタノールの代謝(エタノールの酸化によるアルデヒドの生成)が抑制されたためであると考えられる。
【0076】
<細胞中のアルデヒド濃度に対する水素水の作用に関する評価>
HepG2細胞を1.0×10cells/10-cm dishで播種し、24時間前培養後、4%のエタノールを含有する浄水、4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地、4%のエタノールを含有し、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、及び4%のエタノールを含有し溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)で24時間処理した。
【0077】
その後、培養細胞のLysis bfでの溶解上清において、EnzyChromTMAcetaldehyde Assay Kitを用いて、1.0×10cells中のアセトアルデヒド濃度[nmol]を測定した。以上の結果を表9に示す。
【0078】
【表9】
【0079】
表9に示すように、レベル4の電解水素水培地、及び水素水培地で処理した場合は、浄水及び2回のオートクレーブ処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)で処理した場合に比し、細胞中のアルデヒド濃度が低いことが分かる。
【0080】
これは、レベル4の電解水素水培地、及び水素水培地中の溶存水素が、ALDH(アルデヒド脱水素酵素)の活性を向上させ、アルデヒドの代謝(アルデヒドの酸化による酢酸への分解)が促進されたためであると考えられる。
【0081】
<ADH(アルコール脱水素酵素)に対する溶存水素の作用に関する評価>
HepG2細胞を2.0×10cells/6well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、レベル4の電解水素水培地、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)、及びこれらの水または培地の各々に4%のエタノールを含有させたもので24時間処理した。
【0082】
その後、Alcohol Dehydrogenase Activity Colorimetric Assay Kitを用いて、1.0×10cells中のADH活性[μU]を測定した。以上の結果を表10に示す。
【0083】
【表10】
【0084】
表10に示すように、4%のエタノールを含有するレベル4の電解水素水培地で処理した場合は、エタノールを含有しないレベル4の電解水素水培地で処理した場合に比し、ADHの活性が低下していることが分かる。また同様に、4%のエタノールを含有する水素水培地で処理した場合は、エタノールを含有しない水素水培地で処理した場合に比し、ADHの活性が低下していることが分かる。
【0085】
<ALDH(アルデヒド脱水素酵素)に対する溶存水素の作用に関する評価>
HepG2細胞を2.0×10cells/6well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、レベル4の電解水素水培地、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)、及びこれらの水または培地の各々に4%のエタノールを含有させたもので24時間処理した。
【0086】
その後、Aldehyde Dehydrogenase Activity Colorimetric Assay Kitを用いて、1.0×10cells中のALDH活性[μU]を測定した。以上の結果を表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
表11に示すように、エタノールの含有の有無に関係なく、レベル4の電解水素水培地で処理した場合は、浄水で処理した場合に比し、ALDHの活性が向上していることが分かる。また同様に、エタノールの含有の有無に関係なく、水素水培地で処理した場合は、浄水で処理した場合に比し、ALDHの活性が向上していることが分かる。
【0089】
<アルデヒド毒性に対する溶存水素の作用に関する評価>
HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、レベル4の電解水素水培地、2回のオートクレーブ(AC)処理を行ったレベル4の電解水素水培地(AC)、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、溶存水素濃度が1300ppbの水素水で5倍に希釈したもの)、及びこれらの水または培地の各々に1mMのアセトアルデヒドを含有させたもので24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、以下の式(4)を使用して、アルデヒド処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表12、表13に示す。
【0090】
[数4]
細胞生存率=(アルデヒド処理群の生細胞数/アルデヒド未処理群の生細胞数)×100 (4)
【0091】
【表12】
【0092】
【表13】
【0093】
表13に示すように、1mMのアルデヒドを含有するレベル4の電解水素水培地で処理した場合は、1mMのアルデヒドを含有する浄水で処理した場合に比し、細胞生存率が向上しており、レベル4の電解水素水は、肝臓細胞に対するアルデヒドの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【0094】
また、同様に、1mMのアルデヒドを含有する水素水培地で処理した場合は、1mMのアルデヒドを含有する浄水で処理した場合に比し、細胞生存率が向上しており、水素水は、肝臓細胞に対するアルデヒドの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【0095】
<エタノール毒性に対する水素水の作用に関する評価>
水素水生成キット(日本トリム社製、商品名:TRIM SEVEN WATER)を用いて7000ppbの水素水を生成した。次に、浄水に5秒浸したキット付属の水素発生剤をキット付属の専用カプセルに入れた後、浄水で満たしたキット付属のペットボトルに入れて密栓し、5分静置した。その後、そのペットボトルを30秒間振盪させた後、4℃にて24時間、静置した。そして、そのペットボトルを30秒間振盪し、7000ppbの水素水を得た。なお、1300ppbの水素水は、7000ppbの水素水を浄水で希釈することにより得た。
【0096】
次に、HepG2細胞を5.0×10cells/24well plateで播種し、24時間前培養後、浄水、溶存水素濃度が1040ppbである水素水培地、溶存水素濃度が5600ppbである水素水培地(上述の5×ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を、上述の溶存水素濃度が1300ppbまたは7000ppbの水素水で5倍に希釈したもの)、及びこれらの水または培地の各々に4%エタノールを含有させたもので24時間処理した。その後、トリプシンを用いて細胞を剥離・懸濁し、トリパンブルー(富士フイルム和光純薬社製、商品名:207-17081)による染色法(トリパンブルー法)を用いて生細胞数を計測し、上記の式(2)を使用して、エタノール処理におけるHepG2細胞の細胞生存率を算出した。以上の結果を表14、表15に示す。
【0097】
【表14】
【0098】
【表15】
【0099】
表15に示すように、4%のエタノールを含有する1040ppbの電解水素水培地、及び4%のエタノールを含有する5600ppbの電解水素水培地で処理した場合は、4%のエタノールを含有する浄水(水素水を含まないもの)で処理した場合に比し、細胞生存率が向上しており、肝臓細胞に対するエタノールの毒性を軽減する効果を有することが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1 電解水生成装置
3 電解槽
4 電解槽
20~22 給水路
30 電解室
30A 第1極室
30B 第2極室
31 第1給電体
32 第2給電体
33 隔膜
40 電解室
40A 第1極室
40B 第2極室
41 第1給電体
42 第2給電体
43 隔膜
61 吐水路
62 吐水路
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-06-07
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、アルコール性肝障害抑制用の水素水に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、アルコール性肝障害を効果的に抑制することができるとともに、安全性が高く、調製が容易かつ安価であるアルコール性肝障害抑制用の水素水を提供することを目的とする。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のアルコール性肝障害抑制用の水素水は、エタノールと混和されるアルコール性肝障害抑制用の水素水であって、溶存水素濃度が640~5600ppbであり、エタノールと混和した場合の水素水におけるエタノールの濃度が1~4%であることを特徴とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明によれば、安全性が高く、調製が容易かつ安価であり、さらにアルコール性肝障害を効果的に抑制することができるアルコール性肝障害抑制用の水素水を提供することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール混和されアルコール性肝障害抑制用の水素水であって、
存水素濃度が640~5600ppbであり、
前記エタノールと混和した場合の前記水素水におけるエタノールの濃度が1~4%であることを特徴とするアルコール性肝障害抑制用の水素
【請求項2】
記溶存水素濃度が1100~1300ppbであることを特徴とする請求項1に記載のアルコール性肝障害抑制用の水素
【請求項3】
解水素水であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルコール性肝障害抑制用の水素
【請求項4】
溶存水素濃度が640~5600ppbであるアルコール性肝障害抑制用の水素水を、該水素水におけるエタノールの濃度が1~4%となるように、エタノールと混和することを特徴とするエタノールの処理方法。
【手続補正書】
【提出日】2021-12-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールと混和されるアルコール性肝障害抑制用の水素水であって、
溶存水素濃度が640~896ppbであり、
前記エタノールと混和した場合の前記水素水におけるエタノールの濃度が1~4%であることを特徴とするアルコール性肝障害抑制用の水素水。
【請求項2】
電解水素水であることを特徴とする請求項1に記載のアルコール性肝障害抑制用の水素水。
【請求項3】
溶存水素濃度が640~896ppbであるアルコール性肝障害抑制用の水素水を、該水素水におけるエタノールの濃度が1~4%となるように、エタノールと混和することを特徴とするエタノールの処理方法。