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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126130
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20220823BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B01D53/32 ZAB
B01D53/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024024
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛佑
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA05
4D002BA06
4D002BA20
4D002CA20
4D002DA27
4D002DA28
4D002DA29
4D002DA70
4D002EA11
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB12
4D002GB20
4D002HA03
(57)【要約】
【課題】省エネルギーおよび小規模設備で効率的に所定のガスを分離・回収することができる電気化学素子を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による電気化学素子は、外周壁と;外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを規定する隔壁と;を有する。複数のセルは、第1のセルと第2のセルとを有し、第1のセルを規定する隔壁の表面に、第1の活物質を含む機能電極が形成され、第2のセル内部に、第2の活物質を含むカウンター電極が配置されている。複数のセルが延びる方向に直交する方向の断面における複数のセルの総面積に対して、第1のセルの総面積は50%を超える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と;
該外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを規定する隔壁と;
を有し、
該複数のセルが、第1のセルと第2のセルとを有し、
該第1のセルを規定する該隔壁の表面に、第1の活物質を含む機能電極が形成され、
該第2のセル内部に、第2の活物質を含むカウンター電極が配置されており、
該複数のセルが延びる方向に直交する方向の断面における該複数のセルの総面積に対して、該第1のセルの総面積が50%を超える、
電気化学素子。
【請求項2】
前記第1のセルおよび前記第2のセルが交互に配列されており、
該セルが延びる方向に直交する方向の断面における該第1のセルの断面積が、該第2のセルの断面積よりも大きい、
請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項3】
前記複数のセルは、前記断面において四角形状を有するセルが格子状に配列されており、
前記第2のセルが、互いに隣接しないようにして配列されている、
請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項4】
前記第1のセルが、互いに隣接するようにして配列されている、請求項3に記載の電気化学素子。
【請求項5】
前記複数のセルは、前記断面において六角形状を有するセルが蜂の巣状に配列されており、
前記第2のセルが、互いに隣接しないようにして配列されている、
請求項1に記載の電気化学素子。
【請求項6】
前記第1のセルが、互いに隣接するようにして配列されている、請求項5に記載の電気化学素子。
【請求項7】
前記機能電極が形成されているセルが、ガス流路を含む、請求項1から6のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項8】
前記機能電極が、前記ガス流路を包囲するようにして前記隔壁に形成されている、請求項7に記載の電気化学素子。
【請求項9】
前記カウンター電極が配置されているセルが、該カウンター電極で充填されている、請求項1から8のいずれかに記載の電気化学素子。
【請求項10】
前記カウンター電極が、導電性の基質と該基質に分散された前記第2の活物質とを含む、請求項9に記載の電気化学素子。
【請求項11】
前記基質が炭素質材料を含む、請求項10に記載の電気化学素子。
【請求項12】
前記カウンター電極がイオン性液体をさらに含む、請求項10または11に記載の電気化学素子。
【請求項13】
前記隔壁にイオン性液体が含浸されており、該イオン性液体が、前記カウンター電極に含まれるイオン性液体と同一である、請求項12に記載の電気化学素子。
【請求項14】
前記第1の活物質がアントラキノンを含み、前記第2の活物質がポリビニルフェロセンを含む、請求項1から13のいずれかに記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス混合物から所定のガスを分離・回収する技術の開発が継続的に進められている。特に近年、地球温暖化を軽減するために二酸化炭素(CO)排出量を抑制する必要があり、ガス混合物から二酸化炭素を分離・回収する取り組みがなされている。そのような取り組みの代表例として、二酸化炭素回収・利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CCUS)サイクルが知られている。ここで、二酸化炭素の回収に関しては、例えば、化学吸着法、物理吸着法、深冷分離法、膜分離法、電気化学的回収方法が知られている。しかし、現在、これらの技術はいずれも、二酸化炭素の回収能力が不十分であり、回収に非常に大きなエネルギーが必要であり、かつ、回収に大規模設備が必要とされており、実用化に向けて種々の検討課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-533470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、省エネルギーおよび小規模設備で効率的に所定のガスを分離・回収することができる電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による電気化学素子は、外周壁と;該外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる複数のセルを規定する隔壁と;を有する。該複数のセルは、第1のセルと第2のセルとを有し、該第1のセルを規定する該隔壁の表面に、第1の活物質を含む機能電極が形成され、該第2のセル内部に、第2の活物質を含むカウンター電極が配置されている。該複数のセルが延びる方向に直交する方向の断面における該複数のセルの総面積に対して、該第1のセルの総面積は50%を超える。
1つの実施形態においては、上記第1のセルおよび上記第2のセルは交互に配列されており、該セルが延びる方向に直交する方向の断面における該第1のセルの断面積は、該第2のセルの断面積よりも大きい。
1つの実施形態においては、上記複数のセルは、上記断面において四角形状を有するセルが格子状に配列されており、上記第2のセルは、互いに隣接しないようにして配列されている。この場合、上記第1のセルは、互いに隣接するようにして配列されていてもよい。
1つの実施形態においては、上記複数のセルは、上記断面において六角形状を有するセルが蜂の巣状に配列されており、上記第2のセルは、互いに隣接しないようにして配列されている。この場合、上記第1のセルは、互いに隣接するようにして配列されていてもよい。
1つの実施形態においては、上記機能電極が形成されているセルは、ガス流路を含む。1つの実施形態においては、上記機能電極は、上記ガス流路を包囲するようにして上記隔壁に形成されている。
1つの実施形態においては、上記カウンター電極が配置されているセルは、該カウンター電極で充填されている。
1つの実施形態においては、上記カウンター電極は、導電性の基質と該基質に分散された上記第2の活物質とを含む。1つの実施形態においては、上記基質は炭素質材料を含む。1つの実施形態においては、上記カウンター電極はイオン性液体をさらに含む。
1つの実施形態においては、上記隔壁にイオン性液体が含浸されており、該イオン性液体は、上記カウンター電極に含まれるイオン性液体と同一である。
1つの実施形態においては、上記第1の活物質はアントラキノンを含み、上記第2の活物質はポリビニルフェロセンを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、省エネルギーおよび小規模設備で効率的に所定のガスを分離・回収することができる電気化学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による電気化学素子の概略斜視図である。
図2図1の電気化学素子のセルが延びる方向に平行な方向の概略断面図である。
図3図1および図2の電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図4】本発明の別の実施形態による電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図5】本発明のさらに別の実施形態による電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図6】本発明のさらに別の実施形態による電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図7】本発明のさらに別の実施形態による電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.電気化学素子の全体構成
本発明の実施形態による電気化学素子は、電気化学的プロセスを用いてガス混合物から所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収するものである。
【0010】
図1は、本発明の1つの実施形態による電気化学素子の概略斜視図であり;図2は、図1の電気化学素子のセルが延びる方向に平行な方向の概略断面図であり;図3は、図1および図2の電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。図示例の電気化学素子100は、外周壁10と;外周壁10の内側に配設され、第1端面20aから第2端面20bまで延びる複数のセル30、30、・・・を規定する隔壁40と;を有する。複数のセル30、30、・・・は、第1のセル30aと第2のセル30bとを有する。第1のセル30aを規定する隔壁40の表面には、第1の活物質を含む機能電極50が形成されている。第2のセル内部30bには、カウンター電極60が配置されている。本発明の実施形態においては、セル30、30、・・・が延びる方向に直交する方向の断面におけるセルの断面積の総面積を100%とした場合に、第1のセル30aの断面積の合計は当該総面積に対して50%を超える。このような構成であれば、所定流量のガス混合物(実質的には、分離・回収すべきガス)と機能電極との接触面積を非常に大きくすることができる。その結果、きわめて高効率で所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することができる。さらに、小規模設備で効率的に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することが可能となり、かつ、当該ガスの分離・回収に必要とされるエネルギーを大幅に削減することができる。本明細書において「セルが延びる方向に直交する方向の断面におけるセルの断面積の総面積」とは、セルが隔壁40のみで規定される部分におけるセルの断面積の総面積と意味する。すなわち、セルが隔壁40と外周壁10とで規定される周縁部のセルの断面積は含まない。例えば、電気化学素子が円柱状(断面が円形)である場合には、総面積は、断面の円に内接する最大の四角形の総面積である。また例えば、電気化学素子がガスの入口側と出口側で断面積が異なる場合(例えば、電気化学素子が円錐台状である場合)、総面積は入口、中央および出口の少なくとも3カ所の総面積の平均である。以下、第1のセル30aの断面積の合計を「機能電極セル断面積」と称し、セルが延びる方向に直交する方向の断面におけるセルの断面積の総面積を「セル総面積」と称する場合がある。
【0011】
図1図3に示すガス分離用電気化学素子においては、第1のセルおよび上記第2のセルは交互に配列されている。セルが延びる方向に直交する方向の断面における第1のセル30aの断面積は、第2のセル30bの断面積よりも大きい。このような構成であれば、機能電極セル断面積をセル総面積に対して50%を超えるようにすることができる。例えば、第1のセル30aの断面積(実質的には、断面形状)と第2のセル30bの断面積(実質的には、断面形状)とを適切に設定することにより、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合を所望の範囲に調整することができる。例えば、第1のセル30aの断面積を第2のセル30bの断面積の150%~500%に設定することにより、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合を60%~83%とすることができる。図示例においては、外周壁10と接する部分を除いて、断面形状が八角形の第1のセル30aと断面形状が四角形の第2のセル30bとが交互に配列されている。この構成において第1のセルの断面形状を正八角形とし、第2のセルの断面形状を第1のセルと同じ辺の長さを有する正方形とすると、第1のセルの断面積は第2のセルの断面積の約480%となり、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合は約83%となる。当該割合を大きくすることにより、機能電極と接触するガス流量を大きくすることができる。その結果、非常に優れたガス分離・回収効率を実現することができる。セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合は、カウンター電極が機能し得る数(割合)で第2のセルが確保されている限りにおいて、所望のガス分離・回収効率、設備の規模の許容範囲、ガス分離・回収に必要とされるエネルギーの許容範囲等に応じて適切に設定され得る。セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合の上限は、例えば85%であり得る。
【0012】
第1のセル30aのセルが延びる方向に直交する方向の断面における中央部(すなわち、機能電極50が形成されていない部分)には、ガス流路70が形成されている。機能電極50は、図示例のように隔壁40の全面に(すなわち、ガス流路70を包囲するようにして)形成されてもよく、隔壁の表面の一部に形成されてもよい。ガスの分離・回収効率を考慮すると、機能電極50は隔壁40の全面に形成されていることが好ましい。第2のセル30bの内部には、上記のとおりカウンター電極60が配置されている。カウンター電極60は第2の活物質を含む。第2のセル30bは、代表的には、カウンター電極60で充填されている。
【0013】
ガス分離用電気化学素子におけるセル構成の変形例を、図4図7を参照して説明する。図4に示す例においては、外周壁10と接する部分を除いて、断面形状が四角形(例えば、正方形)のセル30、30、・・・が格子状に配列されている。第2のセル30bは、互いに隣接しないようにして配列されている。この場合、第1のセル30aは、互いに隣接して配列されていてもよい。本明細書において「互いに隣接しない」とは、2つのセルが、それぞれのセルを規定する隔壁の各辺も頂点も共有しないことをいう。図4に示す例においては、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合は75%となる。その結果、さらに優れたガス分離・回収効率を実現することができる。例えば、セル30aとセル30bとが交互に(すなわち、市松パターンで)配列されている場合に比べて、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合は1.5倍となり、ガスの分離・回収効率も1.5倍となり得る。セル30aおよびセル30bの配列パターンは、図1図3に示す例の場合と同様に、カウンター電極が機能し得る数(割合)で第2のセルが確保されている限りにおいて、所望のガス分離・回収効率、設備の規模の許容範囲、ガス分離・回収に必要とされるエネルギーの許容範囲等に応じて適切に設定され得る。この場合、第1のセル30aは、代表的には、少なくとも1つの第2のセル30bと隔壁40を共有し得る。例えば、第2のセル30bは、図6に示すようにして配列されていてもよい。
【0014】
図5に示す例においては、外周壁10と接する部分を除いて、断面形状が六角形(例えば、正六角形)のセル30、30、・・・が蜂の巣状に配列されている。第2のセル30bは、互いに隣接しないようにして配列されている。この場合、第1のセル30aは、互いに隣接して配列されていてもよい。図5に示す例においては、セル総面積に対する機能電極セル断面積の割合は約86%となる。その結果、さらに優れたガス分離・回収効率を実現することができる。セル30aおよびセル30bの配列パターンは、図1図4に示す例の場合と同様に、カウンター電極が機能し得る数(割合)で第2のセルが確保されている限りにおいて、所望のガス分離・回収効率、設備の規模の許容範囲、ガス分離・回収に必要とされるエネルギーの許容範囲等に応じて適切に設定され得る。この場合、第1のセル30aは、代表的には、少なくとも1つの第2のセル30bと隔壁40を共有し得る。例えば、第2のセル30bは、図7に示すようにして配列されていてもよい。
【0015】
電気化学素子の形状は目的に応じて適切に設計され得る。図示例の電気化学素子100は円柱状(セルの延びる方向に直交する方向の断面形状が円形)であるが、電気化学素子は、断面形状が例えば楕円形または多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、八角形)の柱状であってもよい。電気化学素子の長さは、目的に応じて適切に設定され得る。電気化学素子の長さは、例えば5mm~500mmであり得る。電気化学素子の直径は、目的に応じて適切に設定され得る。電気化学素子の直径は、例えば20mm~500mmであり得る。なお、電気化学素子の断面形状が円形でない場合には、電気化学素子の断面形状(例えば、多角形)に内接する最大内接円の直径を電気化学素子の直径とすることができる。電気化学素子のアスペクト比(直径:長さ)は、例えば1:12以下であり、また例えば1:5以下であり、また例えば1:1以下である。アスペクト比がこのような範囲であれば、集電抵抗を適切な範囲とすることができる。
【0016】
電気化学素子の動作の概要について説明する。例えば、分離・回収すべきガスが二酸化炭素であり、機能電極50の第1の活物質がアントラキノンを含み、カウンター電極60の第2の活物質がポリビニルフェロセンを含む場合について説明する。機能電極のアントラキノンは、充電モード(機能電極が負極)において還元され得る。
【0017】
ここで、電気化学素子のガス流路70に二酸化炭素を含むガス混合物を流すと、機能電極50の還元状態のアントラキノンと二酸化炭素との間で以下の反応(1)が起こり、二酸化炭素がアントラキノンに捕捉される。このようにして、二酸化炭素を回収することができる。
【化1】
【0018】
このとき、カウンター電極60のポリビニルフェロセンは酸化され得る。すなわち、ポリビニルフェロセンは、充電モードにおいて、アントラキノンの還元の電子源として機能することができる。
【0019】
また、機能電極50のアントラキノンは、放電モード(機能電極が正極)において酸化され得る。
【0020】
ここで、機能電極50において二酸化炭素を捕捉したアントラキノンが酸化されると、以下の反応(2)が起こり、アントラキノンに捕捉されていた二酸化炭素は、アントラキノンとの結合が解かれる。このようにして、二酸化炭素を機能電極50からガス流路70に放出することができる。
【化2】
【0021】
このとき、カウンター電極60のポリビニルフェロセンは還元され得る。すなわち、ポリビニルフェロセンは、放電モードにおいて、アントラキノンの酸化の際の電子の受け手として機能することができる。
【0022】
以上のように、機能電極(および必然的にカウンター電極)の極性を入れ替えることにより、電気化学素子(実質的には、機能電極)は、二酸化炭素を回収(捕捉、吸着)および放出することができる。特に、充電モードにおける還元状態のアントラキノンを利用することにより、ガス混合物から二酸化炭素を分離・回収(捕捉)することができる。例えば、工場や火力発電所の排ガスは10%程度の二酸化炭素を含むところ、そのような排ガスと同様の構成のガス混合物を、本発明の実施形態による電気化学素子を通過させることにより、二酸化炭素濃度を0.1%以下まで低減することができる。
【0023】
以下、電気化学素子の構成要素について具体的に説明する。
【0024】
B.外周壁および隔壁
外周壁10および隔壁40は、代表的には、絶縁性セラミックスを含む多孔体で構成されている。絶縁性セラミックスは、代表的には、炭化珪素および珪素(以下、炭化珪素-珪素複合材と称する場合がある)を含有する。セラミックスは、炭化珪素および珪素を合計で例えば90質量%以上、また例えば95質量%以上含有する。このような構成であれば、外周壁および隔壁の400℃における体積抵抗率を十分に高くすることができ、電子伝導性に起因するリーク電流を抑えることができる。したがって、機能電極50およびカウンター電極60の全体にわたって所望の電気化学反応のみを良好に行うことができる。セラミックスには、炭化珪素-珪素複合材以外の物質が含まれていてもよい。このような物質としては、例えばストロンチウムが挙げられる。
【0025】
炭化珪素-珪素複合材は、代表的には、骨材としての炭化珪素粒子と、炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素と、を含む。炭化珪素-珪素複合材は、例えば、複数の炭化珪素粒子が炭化珪素粒子間に細孔(空隙部)を形成するようにして珪素により結合されている。すなわち、炭化珪素-珪素複合材を含む隔壁30および外周壁40は、例えば多孔体であり得る。
【0026】
1つの実施形態においては、隔壁30および外周壁40の空隙部には、イオン性液体が含浸されている。このような構成であれば、隔壁および外周壁(特に、隔壁)が、機能電極とカウンター電極との間のセパレーターとして良好に機能し得る。さらに、イオン性液体が含浸されることにより、電子伝導性を抑え、所望の電気化学反応のみを効率的に行うことができる。イオン性液体としては、目的、電気化学素子の構成等に応じて任意の適切なイオン性液体を用いることができる。イオン性液体は、代表的には、アニオン成分とカチオン成分とを含み得る。イオン性液体のアニオン成分としては、例えば、ハロゲン化物、硫酸、スルホン酸、炭酸、重炭酸、リン酸、硝酸、塩酸、酢酸、PF 、BF 、トリフレート、ノナフレート、ビス(トリフリル)アミド、トリフルオロ酢酸、ヘプタフルオロブタン酸、ハロアルミネート、トリアゾリド、アミノ酸誘導体(例えば窒素上のプロトンが除去されているプロリン)が挙げられる。イオン性液体のカチオン成分としては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム、チアゾリウム、ピラゾリウム、ピペリジニウム、トリアゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、グアナジニウム、ジアルキルモルホリニウムが挙げられる。イオン性液体は、例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩([Bmim][BF)であり得る。分離・回収するガス種が二酸化炭素である場合は、電位窓の関係から水が電気分解する場合があるので、非水系イオン性液体を用いることが好ましい。
【0027】
炭化珪素-珪素複合材における珪素の含有比率は、好ましくは10質量%~40質量%であり、より好ましくは15質量%~35質量%である。珪素の含有比率が小さすぎると、外周壁および隔壁の強度が不十分となる場合がある。珪素の含有比率が大きすぎると、外周壁および隔壁の焼成時に形状を保持できない場合がある。
【0028】
炭化珪素粒子の平均粒子径は、好ましくは3μm~50μmであり、より好ましくは3μm~40μmであり、さらに好ましくは10μm~35μmである。炭化珪素粒子の平均粒子径がこのような範囲であれば、外周壁および隔壁の体積抵抗率を上記のような適切な範囲とすることができる。炭化珪素粒子の平均粒子径が大きすぎると、外周壁および隔壁を成形する際に、成形用の口金に原料が詰まってしまう場合がある。炭化珪素粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折法により測定され得る。
【0029】
外周壁10および隔壁40の平均細孔径は、好ましくは2μm~20μmであり、より好ましくは10μm~20μmである。外周壁および隔壁の平均細孔径がこのような範囲であれば、イオン性液体を良好に含浸させることができる。平均細孔径が大きすぎると、カウンター電極または機能電極中の炭素質材料が隔壁内部に流出する場合があり、その結果、内部短絡が発生する場合がある。平均細孔径は、例えば水銀ポロシメータにより測定され得る。
【0030】
外周壁10および隔壁40の気孔率は、好ましくは15%~60%であり、より好ましくは30%~45%である。気孔率が小さすぎると、外周壁および隔壁の焼成時の変形が大きくなってしまう場合がある。気孔率が大きすぎると、外周壁および隔壁の強度が不十分となる場合がある。気孔率は、例えば水銀ポロシメータにより測定され得る。
【0031】
隔壁40の厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。隔壁40の厚みは、例えば50μm~1.0mmであり、また例えば70μm~600μmであり得る。隔壁の厚みがこのような範囲であれば、電気化学素子の機械的強度を十分なものとすることができ、かつ、開口面積(断面におけるセルの総面積)を十分なものとすることができ、ガスの分離・回収効率を顕著に向上させることができる。
【0032】
隔壁40の密度は、目的に応じて適切に設定され得る。隔壁40の密度は、例えば0.5g/cm~5.0g/cmであり得る。隔壁の密度がこのような範囲であれば、電気化学素子を軽量化することができ、かつ、機械的強度を十分なものとすることができる。密度は、例えばアルキメデス法により測定され得る。
【0033】
外周壁10の厚みは、1つの実施形態においては、隔壁40の厚みより大きい。このような構成であれば、外力による外周壁の破壊、割れ、クラック等を抑制することができる。外周壁10の厚みは、例えば0.1mm~5mmであり、また例えば0.3mm~2mmであり得る。
【0034】
セル30、30、・・・は、セルの延びる方向に直交する方向において、任意の適切な断面形状を有する。セルの断面形状および配列パターンについては、上記A項で説明したとおりである。
【0035】
セルの延びる方向に直交する方向におけるセル密度(すなわち、単位面積当たりのセル30、30、・・・の数)は、目的に応じて適切に設定され得る。セル密度は、例えば4セル/cm~320セル/cmであり得る。セル密度がこのような範囲であれば、所定流量のガス混合物(実質的には、分離・回収すべきガス)と機能電極との接触面積を非常に大きくすることができる。その結果、きわめて高効率で所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することができる。例えば、機能電極とカウンター電極とをセパレーターを介して対向させた平板状のガス分離素子の実装密度が0.2m/L程度であるのに対し、例えば図3のような構成であれば4m/L程度(約20倍)の実装密度を確保することができる。その結果、小規模設備で効率的に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することが可能となり、かつ、当該ガスの分離・回収に必要とされるエネルギーを大幅に削減することができる。さらに、このような実装密度を確保することにより、大気中からの二酸化炭素の分離・回収(Direct Air Capture:DAC)が可能となり得る。
【0036】
C.機能電極
機能電極は、上記のとおり、第1の活物質を含み、所定のガス(例えば、二酸化炭素)を回収および放出するよう構成されている。第1の活物質としては、代表的には、アントラキノンが挙げられる。アントラキノンは、上記A項で説明した電気化学反応により、二酸化炭素を回収(捕捉、吸着)および放出することができる。アントラキノンは、ポリアントラキノン(すなわち、重合体)であってもよい。ポリアントラキノンとしては、例えば、下記式(I)で表されるポリ(1,4-アントラキノン)、ポリ(1,5-アントラキノン)、ポリ(1,8-アントラキノン)、ポリ(2,6-アントラキノン)が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。
【化3】
【0037】
第1の活物質は、所定のガス(例えば、二酸化炭素)を回収および放出(特に、回収)することができる限りにおいて、アントラキノン以外の任意の適切な物質を用いることができる。このような物質としては、例えば、テトラクロロヒドロキノン(TCHQ)、ヒドロキノン(HQ)、ジメトキシベンゾキノン(DMBQ)、ナフトキノン(NQ)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ジヒドロキシベンゾキノン(DHBQ)、およびこれらのポリマーが挙げられる。
【0038】
機能電極は、基質をさらに含んでいてもよい。ここで「基質」とは、電極(層)を賦形し、その形状を維持する成分をいう。さらに、基質は、第1の活物質を担持し得る。基質は、代表的には導電性である。基質としては、例えば、炭素質材料が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、カーボンナノチューブ(例えば、単壁カーボンナノチューブ、多壁カーボンナノチューブ)、カーボンブラック、KetjenBlack、カーボンブラックSuper P、またはグラフェンが挙げられる。基質としてこのような炭素質材料を用いることにより、電子移動を容易に行うことができるので、第1の活物質の酸化還元反応を良好に行うことができる。例えば第1の活物質としてアントラキノンまたはポリアントラキノンを用いる場合、基質の平均細孔径は、好ましくは2nm~50nmであり、より好ましくは2nm~20nmであり、さらに好ましくは3nm~10nmである。平均細孔径が小さすぎると、第1の活物質を内部に担持することができない場合がある。平均細孔径が大きすぎると、機能電極作動中に第1の活物質が脱落する場合がある。基質の平均細孔径は、第1の活物質に応じて変化し得る。例えば第1の活物質としてナフトキノンを用いる場合には、平均細孔径は、上記の2/3程度のサイズが好ましい。なお、平均細孔径は、例えば窒素ガス吸着法におけるBJH解析を用いて算出することができる。
【0039】
機能電極における第1の活物質の含有量は、機能電極の全体質量に対して、例えば10質量%~70質量%であり得、また例えば20質量%~50質量%であり得る。第1の活物質の含有量がこのような範囲であれば、良好なガス回収・放出性能を実現することができる。
【0040】
機能電極の厚みは、例えば20μm~300μmであり得、また例えば100μm~200μmであり得る。機能電極の厚みがこのような範囲であれば、良好なガス回収・放出性能を維持しつつ、所望のガス流路を確保することができる。
【0041】
機能電極は、例えば、第1の活物質と基質と結着用バインダーとを含む機能電極形成材料を隔壁表面に乾式減圧塗布および熱処理することにより形成され得る。
【0042】
D.カウンター電極
カウンター電極は、上記のとおり、第1の活物質の還元の電子源として機能することができ、かつ、第1の活物質の酸化の際の電子の受け手として機能することができる。すなわち、カウンター電極は、機能電極が良好に機能するための補助的な役割を果たす。カウンター電極は、上記のとおり、第2の活物質を含む。第2の活物質としては、機能電極との間で電子の授受が良好に機能し得る限りにおいて任意の適切な物質が用いられ得る。第2の活物質としては、例えば、ポリビニルフェロセン、ポリ(3-(4-フルオロフェニル)チオフェン)等が挙げられる。
【0043】
カウンター電極は、基質をさらに含んでいてもよい。基質については、機能電極に関して上記C項で説明したとおりである。1つの実施形態においては、カウンター電極は、基質に分散された第2の活物質を含む。第2の活物質が基質に分散されていることにより、
電極内での優れた電子伝導性を実現できる。
【0044】
カウンター電極は、イオン性液体をさらに含んでいてもよい。カウンター電極がイオン性液体を含むことにより、カウンター電極を立体的に機能させることができ、電子の授受の容量を増大させることができる。イオン性液体については、外周壁および隔壁に関して上記B項で説明したとおりである。1つの実施形態においては、カウンター電極に含まれるイオン性液体は、外周壁および隔壁(特に、隔壁)に含まれるイオン性液体と同一である。このような構成であれば、電気化学素子の製造が簡便・容易であり、機能電極の電気化学反応に対する悪影響が防止され得る。
【0045】
カウンター電極は、上記のとおりセル30b内部に配置され、代表的にはセル30bを充填している。セル30bがカウンター電極で充填されることにより、長期間にわたって電解液(イオン性液体)を機能電極に供給し続けることができる。
【0046】
カウンター電極における第2の活物質の含有量は、カウンター電極の全体質量に対して、例えば10質量%~90質量%であり得、また例えば30質量%~70質量%であり得る。第2の活物質の含有量がこのような範囲であれば、電解液(イオン性液体)の使用量を低減できるとともに、カウンター電極内の第2の活物質を有効的に活用することができる。
【0047】
カウンター電極にイオン性液体が含有される場合、その含有量は、カウンター電極の全体質量に対して、例えば10質量%~90質量%であり得、また例えば30質量%~70質量%であり得る。イオン性液体の含有量がこのような範囲であれば、長期間にわたって電解液(イオン性液体)を機能電極に供給し続けることができる。
【0048】
カウンター電極は、例えば、第2の活物質と基質と好ましくはイオン性液体と必要に応じて溶媒または分散媒とを含むカウンター電極形成材料をセル内に配置することにより(代表的には、セルを充填することにより)形成され得る。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の実施形態による電気化学素子は、ガス混合物からの所定ガスの分離・回収に好適に用いられ得、特に、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)サイクルに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0050】
10 外周壁
20a 第1端面
20b 第2端面
30 セル
30a 第1のセル
30b 第2のセル
40 隔壁
50 機能電極
60 カウンター電極
70 ガス流路
100 電気化学素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7