(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126132
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】全固体塩化物イオン電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20220823BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220823BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220823BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220823BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220823BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220823BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/13
H01M10/058
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024029
(22)【出願日】2021-02-18
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度~31年度、文部科学省・科学技術試験研究委託事業「実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】南 浩成
(72)【発明者】
【氏名】泉 博章
(72)【発明者】
【氏名】坂本 遼
(72)【発明者】
【氏名】白井 暢明
(72)【発明者】
【氏名】猪石 篤
(72)【発明者】
【氏名】岡田 重人
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL11
5H029AM11
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB11
5H050DA02
(57)【要約】
【課題】 サイクル特性が向上された充放電可能な全固体塩化物イオン電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の全固体塩化物イオン電池10は、正極層13と、負極層11と、正極層と負極層との間に配置された固体電解質層12とを備え、固体電解質層12はPb
1-XM
XCl
2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物を含む。この化合物は、PbCl
2とMClとを含有する混合物にメカニカルミリング処理を施すことにより得られる。正極材料と負極材料との間に、この化合物を固体電解質として配置した状態で押圧することで、固体塩化物イオン電池を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体塩化物イオン電池であって、
前記固体電解質層が、Pb1-XMXCl2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物を含む全固体塩化物イオン電池。
【請求項2】
前記式中のXが0.01≦X≦0.03を満たす数である請求項1に記載の全固体塩化物イオン電池。
【請求項3】
前記正極層の前記固体電解質層とは反対側に、保護層を更に備え、この保護層が、Pb1-XMXCl2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物と、導電剤とを含む請求項1又は2に記載の全固体塩化物イオン電池。
【請求項4】
PbCl2とMCl(Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素である)とを含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、固体電解質を得る工程と、
正極材料と、負極材料との間に、前記固体電解質を配置した状態で押圧する工程であって、正極層と負極層と前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体塩化物イオン電池を得る、工程と
を含む全固体塩化物イオン電池の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質の一部と金属塩化物を含む正極活物質とを含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、前記正極材料として電極合材を得る工程を更に含む、請求項4に記載の全固体塩化物イオン電池の製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質の別の一部と導電剤とを含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、保護材料を得る工程を更に含み、
前記押圧する工程において、前記保護材料、前記正極材料、前記固体電解質、および前記負極材料の順に配置した状態で押圧して、保護層、前記正極層、前記固体電解質層、および前記負極層の順に積層された全固体塩化物イオン電池を得る、請求項4又は5に記載の全固体塩化物イオン電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体塩化物イオン電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、Li+をキャリアとして用いる電池であり、高電圧が特徴である。一方で、F-等のハロゲン化物イオンをキャリアとして用いるハロゲン化物イオン電池は、理論的には、現行のリチウムイオン電池よりも1.5~3倍のエネルギー密度を持つと言われており、ポストリチウムイオン電池の有力な候補として期待されている。その中でも、資源量豊富な塩化物を用いた塩化物イオン電池は、コストパフォーマンスに優れるという利点も兼ね備えている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、正極にBiCl3、非水系電解質に1M[OMIM]Cl in [BMIM]BF4、負極にLiを用いた塩化物イオン電池の充放電プロファイルが報告されている([OMIM]Clは1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムクロリドの略称で、[BMIM]BF4は、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラートの略称である)。理論容量は255mAh/gであり、初回容量は約180mAh/gであったことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】X. Zhao, S. Ren, M. Bruns, and M. Fichtner, “Chloride ion battery: A new member in the rechargeable battery family”, J. Power Sources, 2014, 245, pp.706-711.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された充放電プロファイルによれば、この非水系の塩化物イオン電池では、3サイクル目で初回可逆容量の約50%まで低下してしまっている。これは、塩化物イオン電池の電極材料に用いられる金属塩化物は、イオン結合性のため、基本的に極性溶媒に対する溶解性が高く、サイクル特性に乏しいという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、サイクル特性が向上された充放電可能な全固体塩化物イオン電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体塩化物イオン電池であって、前記固体電解質層は、Pb1-XMXCl2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物を含むものである。
【0008】
また、本発明は、別の態様として、全固体塩化物イオン電池の製造方法であって、PbCl2とMCl(Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素である)とを含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、固体電解質を得る工程と、正極材料と、負極材料との間に、前記固体電解質を配置した状態で押圧する工程であって、正極層と負極層と前記正極層と前記負極層との間に配置された固体電解質層とを備える全固体塩化物イオン電池を得る、工程とを含む。
【発明の効果】
【0009】
このように本発明によれば、PbCl2にMClをドープしたPb1-XMXCl2-Xで表される化合物を、固体電解質に採用し、全固体塩化物イオン電池として構成することで、サイクル特性が向上された充放電可能な全固体塩化物イオン電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る全固体塩化物イオン電池の一実施の形態を模式的に示す断面である。
【
図2】本発明に係る全固体塩化物イオン電池の製造方法の一実施の形態の一部を示すフロー図である。
【
図3】本発明に係る全固体塩化物イオン電池に用いる固体電解質の例と、参照化合物とのXRDパターンである。
【
図4】交流インピーダンス試験で使用したHSセルを模式的に示す分解斜視図である。
【
図5】
図4のHSセルに挿入した試料を模式的に示す断面図である。
【
図6】交流インピーダンス試験の結果を示すグラフである。
【
図7】充放電試験に用いたPEEKセルを模式的に示す分解斜視図である。
【
図8】実施例の全固体塩化物イオン電池の充放電曲線を示すグラフである。
【
図9】実施例の全固体塩化物イオン電池および参考例の非水系の塩化物イオン電池のサイクル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る全固体塩化物イオン電池およびその製造方法の一実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
本実施の形態の全固体塩化物イオン電池10は、
図1に示すように、正極層13と、負極層11と、正極層と負極層との間に配置された固体電解質層12とを備える。固体電解質層12は、Pb
1-XM
XCl
2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物を含む。また、任意に、正極層の外側、すなわち、固体電解質層とは反対側に、保護層14を更に備えてもよい。各層について、詳細に説明する。
【0013】
固体電解質層12は、固体電解質としてPb1-XMXCl2-Xで表される化合物を含み、これは塩化鉛(PbCl2)にアルカリ金属の塩化物(MCl)がドープされたものである。固体電解質としてPbCl2を用いることで、正極層13の正極活物質(BiCl3など)の溶出を抑制しつつ、更にこれにMClをドープしたことにより、全固体塩化物イオン電池10のサイクル特性を向上させることができる。これは、推測であるが、MClのドープによって、PbCl2の結晶構造のCl-サイトに空孔が形成され、Cl-のイオン伝導度が向上したため、サイクル特性が向上したと考えられる。
【0014】
ドープに用いるアルカリ金属の塩化物(MCl)は、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)の各塩化物またはこれら塩化物の組み合わせであれば、上記の通りにPbCl2の結晶構造のCl-サイトに空孔が形成され、Cl-のイオン伝導度を向上させることができる。MClのドープ量を表す上記式中のXは、例えば、0.01≦X≦0.1を満たす数が好ましく、0.01≦X≦0.03を満たす数がより好ましい。
【0015】
固体電解質層12は、固体電解質粒子を加圧成形することにより得られる圧粉体であることが好ましい。固体電解質粒子は、焼結されたものではなく、また塩化物であることから可塑性に優れた柔らかい材料であり、加圧成形することにより粒子間が互いに密着するとともに、隣接する正極層13及び負極層11とも密着することができる。
【0016】
固体電解質層12の厚さは1μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。一方、固体電解質層12の厚さは、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。
【0017】
正極層13は、少なくとも正極活物質を含有する電極合材を含む。正極活物質としては、金属塩化物が好ましく、例えば、塩化ビスマス(BiCl3)、塩化ガリウム(GaCl3)、塩化インジウム(InCl3)などの貧金属の塩化物、塩化銅(CuCl)、塩化銀(AgCl)などの貴金属の塩化物、塩化ニッケル(NiCl2)、塩化コバルト(CoCl2)、塩化鉄(FeCl2)の鉄族元素の塩化物、その他、塩化バナジウム(VCl3)が挙げられる。
【0018】
正極層13の電極合材は、一般にはイオン伝導性を示さないため、固体電解質を含んでもよい。正極層13の電極合材に用いる固体電解質としては、固体電解質層12と同様に、Pb1-XMXCl2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物が好ましい。その他、固体電解質として、例えば、SnCl2や、SrCl2、BaCl2などを用いてもよい。
【0019】
正極層13の電極合材における固体電解質の割合は、正極活物質100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましい。一方、電極合材における固体電解質の割合は、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0020】
正極層13の電極合材は、一般に電子伝導性を有さないため、導電剤を含んでもよい。導電剤としては、例えば、炭素材料や金属化合物などを用いてもよい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック(例えばアセチレンブラックや、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなど)や、グラファイト粉末、繊維状炭素材料などが挙げられる。金属化合物としては、例えば、電子伝導性を有する金属、金属合金、金属酸化物が挙げられる。
【0021】
正極層13の電極合材における導電剤の割合は、炭素材料の場合、正極活物質100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。一方、電極合材における導電剤の割合は、100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0022】
正極層13は、電極合材粒子を加圧成形することにより得られる圧粉体であることが好ましい。電極合材粒子は、焼結されたものではなく、また、塩化物を含むことから可塑性に優れた柔らかい材料であり、加圧成形することにより粒子間が互いに密着するとともに、隣接する固体電解質層12とも密着することができる。
【0023】
正極層13の厚さは、1μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。一方、正極層13の厚さは、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。
【0024】
負極層11は、少なくとも負極活物質を含む。負極活物質としては、正極活物質よりも低い電位を有する活物質が用いられる。このような活物質としては、例えば、鉛(Pb)やスズ(Sn)などの金属単体、合金、その酸化物、およびその塩化物が挙げられる。
【0025】
負極層11は、負極活物質粒子を加圧成形することにより得られる圧粉体であってもよいし、負極活物質の箔または板であってもよい。負極層11の厚さは、1μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。一方、負極層11の厚さは、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。
【0026】
保護層14は、任意に設けることができる層であり、保護層14によって集電体と電極合材の接触を防ぎ、両者の反応を抑制するため、サイクル特性を更に向上させることができる。保護層14は、固体電解質と導電剤とを含有する保護材料を含むことが好ましい。保護材料に用いる固体電解質としては、固体電解質層12と同様に、Pb1-XMXCl2-X(式中、Mは、Na、K及びRbから成る群から選ばれた一以上のアルカリ金属元素であり、Xは、0<X<1を満たす数である)で表される化合物が好ましい。その他、固体電解質として、例えば、SnCl2や、SrCl2、BaCl2などを用いてもよい。また、保護材料に用いる導電剤としては、正極層13の電極合材と同様の炭素材料および金属化合物を用いてもよい。
【0027】
保護層14は、保護材料粒子を加圧成形することにより得られる圧粉体であることが好ましい。保護層14は電池の充放電容量に関与しないため、その厚さは薄い方が好ましく、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。厚さの下限は、特に限定されないが、例えば、1μm以上が好ましい。
【0028】
このような構成の全固体塩化物イオン電池10によれば、固体電解質層12の固体電解質に、Pb1-XMXCl2-Xで表される化合物を用いたことから、正極層13のBiCl3などの正極活物質の固体電解質層12への溶出を抑制することができるともに、固体電解質層12のイオン伝導度を向上し、全固体塩化物イオン電池10のサイクル特性を向上することができる。
【0029】
次に、本実施の形態の全固体塩化物イオン電池の製造方法について説明する。本方法は、
図2に示すように、固体電解質の2つの原料21a、21bとして、例えば、PbCl
2とKClとを混合し、この混合物にメカニカルミリング処理を施して固体電解質23を得る第1のメカニカルミリング工程22と、正極材料と、負極材料との間に、固体電解質23を配置した状態で押圧して全固体塩化物イオン電池を得る押圧工程(図示省略)とを含む。
【0030】
本方法は、任意に、固体電解質23と導電剤24とを混合し、この混合物にメカニカルミリング処理を施して、固体電解質が導電剤でコートされた導電性コート材26を得る第2のメカニカルミリング工程25を更に含んでもよい。導電性コート材26は、保護層を形成するための保護材料として使用でき、押圧工程において、保護材料、正極材料、固体電解質、および負極材料の順に配置した状態で押圧することで、全固体塩化物イオン電池を得る。
【0031】
また、本方法は、任意に、導電性コート材26と正極活物質27とを混合し、この混合物にメカニカルミリング処理を施して電極合材29を得る第3のメカニカルミリング工程28を更に含んでもよい。電極合材29は、押圧工程において、正極材料として用いる。上記の各工程について、詳細に説明する。
【0032】
第1のメカニカルミリング工程22では、先ず、固体電解質としてPb
1-XM
XCl
2-Xで表される化合物を得るために、その原料となるPbCl
2とMClを、所望する組成となるように混合する。すなわち、mol比で、PbCl
2:MClが1-X:Xとなるように混合する。そして、PbCl
2とMClの各粉末の混合物にメカニカルミリング処理を施すことで、Pb
1-XM
XCl
2-Xで表される化合物の粉末を得ることができる。Xは、0<X<1を満たす数であり、例えば、
図2に示すように、MClとしてKClを用い、X=0.02とする場合、PbCl
2とKClを0.98:0.02のmol比で混合することで、Pb
0.98K
0.02Cl
1.98の固体電解質23を得ることができる。
【0033】
メカニカルミリング処理としては、例えば、ボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を用いることができる。メカニカルミリング処理の回転数および処理時間は、原料のPbCl2とMClの各粉末が、Pb1-XMXCl2-Xで表される化合物の粉末となるまで行えばよく、例えば、回転数は400~600rpmで、処理時間は3~12時間である。メカニカルミリング処理は、乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。
【0034】
第2のメカニカルミリング工程25では、先ず、固体電解質23と導電剤24とを混合する。固体電解質23は、
図2に示すように、第1のメカニカルミリング工程22で得られた固体電解質23が好ましいが、本発明はこれに限定されず、その他、固体電解質として、SnCl
2や、SrCl
2、BaCl
2などを用いてもよい。導電剤24の具体例、および固体電解質23と導電剤24の配合割合は、上記の正極層の説明において記載していることから、ここでの説明は省略する。
【0035】
そして、固体電解質23と導電剤24を含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、導電性コート材26を得る。導電性コート材26は、固体電解質粒子の表面が導電剤でコートされた粒子の集まりである。例えば、
図2に示すように、固体電解質23としてPb
0.98K
0.02Cl
1.98、導電剤24としてカーボンブラック(C)を用いた場合、導電性コート材26として、Pb
0.98K
0.02Cl
1.98粒子の表面がカーボンコートされた粒子の集まりを得ることができ、本明細書ではPb
0.98K
0.02Cl
1.98/Cと表す。
【0036】
メカニカルミリング処理に用いる装置は、第1のメカニカルミリング工程と同様である。メカニカルミリング処理の回転数および処理時間は、固体電解質粒子の表面が導電剤で覆われるまで行えばよく、例えば、回転数は400~600rpmで、処理時間は3~12時間である。メカニカルミリング処理は、乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。
【0037】
第3のメカニカルミリング工程28では、先ず、導電性コート材26と正極活物質27とを混合する。導電性コート材26は、
図2に示すように、第2のメカニカルミリング工程25で得られた導電性コート材26が好ましいが、本発明はこれに限定されず、その他の固体電解質の粒子にその他の導電剤をコートされた粒子の集まりを用いてもよい。導電性コート材26と正極活物質27の配合割合は、導電性コート材26中の固体電解質の質量と正極活物質との質量との割合で決まる。固体電解質と正極活物質との割合、および正極活物質の具体例は、上記の正極層の説明において記載していることから、ここでの説明は省略する。
【0038】
そして、導電性コート材26と正極活物質27を含有する混合物にメカニカルミリング処理を施して、電極合材29を得る。電極合材29は、導電性コート材と正極活物質との混合物である。例えば、
図2に示すように、導電性コート材26としてPb
0.98K
0.02Cl
1.98/C、正極活物質27として塩化ビスマス(BiCl
3)を用いた場合、得られる電極合材29は、本明細書ではBiCl
3/Pb
0.98K
0.02Cl
1.98/Cと表す。
【0039】
メカニカルミリング処理に用いる装置は、第1のメカニカルミリング工程と同様である。メカニカルミリング処理の回転数および処理時間は、導電性コート材と正極活物質との混合物が得られるまで行えばよく、例えば、回転数は100~400rpmで、処理時間は3~12時間である。メカニカルミリング処理は、乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。
【0040】
押圧工程(図示省略)では、上記により得られた正極合材29および固体電解質23、並びに負極材料の順に配置した状態で押圧することで、正極層、固体電解質層、および負極層を順に備えた全固体塩化物イオン電池を形成することができる。負極材料としては、負極活物質を用いることができる。負極活物質については、上記の負極層の説明において記載していることから、ここでの説明は省略する。また、保護層を更に備えた全固体塩化物イオン電池を形成するためには、上記により得られた導電性コート材26、正極合材29および固体電解質23、並びに負極材料の順に配置した状態で押圧すればよい。
【0041】
押圧時の圧力は、上記により得られた固体電解質23の粒子が塑性変形を起こし、緻密な固体電解質層を形成することができる圧力であればよく、例えば、255~510MPaが好ましい。押圧時の温度は、常温でよい。焼成などの加熱処理は不要である。
【0042】
このような工程の全固体塩化物イオン電池の製造方法によれば、電池を構成する固体電解質層、正極層、および任意の保護層の各材料である固体電解質23、電極合材29、および導電性コート材を効率的に得ることができるとともに、電池の構成材料を加圧成形するという容易な製造工程で、可逆的な充放電が可能な全固体塩化物イオン電池を得ることができる。また、焼成の必要がないことから、副反応による高抵抗化を回避することもできる。
【実施例0043】
[1.固体電解質]
メノウ乳鉢でPbCl
2とKClを、mol比で0.99:0.01、0.98:0.02、0.97:0.03の3種類の割合で混合し、それぞれ混合物に遊星型ボールミル(Fritch社製、Premium line P-7)で600rpm、12時間のメカニカルミリング処理を行った。得られた各サンプルについて、X線回折(XRD)測定装置(Rigaku社製、品番:Miniflex600)を用いて、XRDパターンを得た。また、比較のためにPbCl
2のみのXRDパターンも得た。その結果を
図3に示す。
【0044】
また、得られた各サンプルについて、
図4に示すHSセル(宝泉社製)を用いて、交流インピーダンス試験を行った。HSセル40は、
図4に示すように、フランジ付きセル容器41、試料セル50、シリンダ状ガイド42、フランジ付きセル蓋43、および押圧部材44を順に重ね合わせて、4組のボルト46とナット47でフランジ付きセル容器41とフランジ付きセル蓋43とを固定して電池評価試験用のセルとするものである。試料セル50は、
図5に示すように、先ず、上記サンプルを510MPaで一軸加圧成型することにより直径10mmのペレット52に調製し、このペレット52の両面にPtスパッタを施してPt層51a、51bを形成したものを用いた。そして、25~160℃の温度範囲で、交流インピーダンス試験を行った。また、比較のため、PbCl
2についても同様に試料セルを作製して試験を行った。その結果を
図6に示す。
【0045】
図3に示すXRDパターンにより結晶構造を同定した。XRDパターンの分析結果から、PbCl
2にKClをドープしたPb
1-XM
XCl
2-X(X=0.01、0.02、0.03)は、KClのドープ量によらず、ボールミルの前後で結晶構造が変化しないことがわかった。
【0046】
また、
図6に示すアレニウスプロットから、PbCl
2は、KClをドープしていないものと比べて、KClをドープしたものはCl
-イオン伝導度が2~3桁向上することが明らかになった。特に、KClを2mol%ドープしたPbCl
2が最も高いCl
-イオン伝導度を示し、160oCで2.28×10
-4S/cmであった。これはKClのドープによりPbCl
2の結晶構造においてCl
-サイトに空孔が形成され、Cl
-のイオン伝導度が向上したためと考えられる。
【0047】
[2.全固体塩化物イオン電池]
上記により得られたサンプルを固体電解質として使用して全固体塩化物イオン電池を作製するとともに、充放電試験を行った。
【0048】
先ず、PbCl2にKClを2mol%ドープしたサンプル(Pb0.98M0.02Cl1.98)にアセチレンブラックを5:1の質量比で混合した。そして、この混合物に遊星型ボールミルで600rpm、12時間のメカニカルミリング処理を施し、カーボンコート材(Pb0.98M0.02Cl1.98/C)を得た。更に、これにBiCl3を2:1の質量比で混合した。そして、この混合物に遊星型ボールミルで150rpm、12時間のメカニカルミリング処理を行い、電極合材(BiCl3/Pb0.98M0.02Cl1.98/C)を作製した。
【0049】
固体電解質に上記のPbCl2にKClを2mol%ドープしたサンプルを170mg用い、保護材料に、上記のカーボンコート材を30mg用い、正極材料に上記の電極合材を30mg用い、負極材料にPb板を用いた。なお、負極のPbは正極である電極合材の質量に対して過剰量仕込んだ。そして、保護材料、正極材料、固体電解質、および負極材料の順に配置し、常温、510MPaの圧力で押圧して、保護層、正極層、固体電解質層および負極層が順に積層された直径10mmのコイン状の全固体セルを得た。
【0050】
このようにして得られた全固体セルを、
図7示すPEEKセル(MTI Japan社製)を用いて、充放電試験を行った。PEEKセル70は、
図7に示すように、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の負極側プレート71、全固体セル10’、シリンダ状ガイド72、およびPEEK製の正極側プレート73を順に重ね合わせて電池評価試験用のセルとするものである。全固体セル10’は、
図1に示すように、保護層14、正極層13、固体電解質層12および負極層11が順に積層されたものである。そして、グローブボックス内で、160℃、0.1mA/cm
2の条件で充放電試験を行った。その結果を
図8、
図9に示す。
【0051】
図8は、全固体セルの充放電プロファイルを示す。
図8に示すように、初回放電と充電容量は、それぞれ187mAh/gと158mAh/gであった。これらは、それぞれ約2.2電子反応と1.9電子反応に相当する。
【0052】
図9は、全固体セル(実施例)のサイクル特性を示す。
図9に示すように、全固体セルは比較的に良好なサイクル特性を示し、30サイクル目でも初回可逆容量の85%程度に維持されていることがわかった。比較のため、正極にBiCl
3、負極にLi、電解液として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートを溶媒とする1Mの1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムクロリドのイオン液体を用いた非水系セルの充放電試験の結果(非特許文献1)を、参考例として
図9に併せて示した。
図9に示すように、この非水系セルでは、3サイクル目で初回可逆容量の約50%まで低下することが報告されており、本発明の全固体塩化物イオン電池では、サイクル特性が大幅に向上することが明らかになった。