IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 鹿児島大学の特許一覧

特開2022-126237シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット
<>
  • 特開-シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット 図1
  • 特開-シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット 図2
  • 特開-シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット 図3
  • 特開-シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット 図4
  • 特開-シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126237
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220823BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220823BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220823BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/686 Z
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024181
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】山城 康太
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 倫史
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA12
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QQ57
4B063QQ58
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】非侵襲的かつ簡便にシェーグレン症候群を検査できるシェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キットを提供する。
【解決手段】シェーグレン症候群検査装置は、被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する判定部を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する判定部を備える、
シェーグレン症候群検査装置。
【請求項2】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648からなる群から選択される少なくとも1つである、
請求項1に記載のシェーグレン症候群検査装置。
【請求項3】
前記マイクロRNAは、
エクソソームから抽出される、
請求項1又は2に記載のシェーグレン症候群検査装置。
【請求項4】
前記判定部は、
前記マイクロRNAの発現量を基準値と比較することによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のシェーグレン症候群検査装置。
【請求項5】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p及びhsa-miR-1290であって、
前記判定部は、
前記マイクロRNAの発現量及び前記発現量に対応するシェーグレン症候群の罹患の有無を示す情報を、それぞれ説明変数に対応する情報及び目的変数に対応する情報とする教師あり学習で構築されたモデルによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のシェーグレン症候群検査装置。
【請求項6】
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定するための情報を取得する取得ステップを含む、
情報取得方法。
【請求項7】
コンピュータを、
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する判定部として機能させる、
プログラム。
【請求項8】
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を定量する試薬を備える、
シェーグレン症候群検査キット。
【請求項9】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648からなる群から選択される少なくとも1つである、
請求項8に記載のシェーグレン症候群検査キット。
【請求項10】
前記マイクロRNAの発現量を基準値と比較することによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かが判定される、
請求項8又は9に記載のシェーグレン症候群検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
シェーグレン症候群(以下“SS”ともいう)は、腺組織の破壊により涙液又は唾液の産生低下を来たし、眼又は口腔の乾燥症状を呈する自己免疫疾患である。SSは難治性の疾患で、国の指定難病に含まれている。SSの主な治療法は、眼又は口腔の乾燥症状に応じた処置及び投薬等の対症療法である。
【0003】
現在、国内で主に使われているSSの診断基準の中には、生検病理組織検査及び採血等の侵襲的な検査、並びに唾液腺造影及びシンチグラフィー等の煩雑な検査が含まれる。さらに、SSは、複数の検査を施行しなければ診断できないため、患者の負担が大きい。日本のみならず、米国及び欧州の診断基準にも、生検病理組織検査及び採血等の侵襲的な検査が含まれている。
【0004】
特許文献1には、健常者と比較してSS患者の小唾液腺において有意に増加又は減少しているマイクロRNAの発現レベルを用いて、SSを診断する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-522508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、下唇から切除された小唾液腺の組織におけるマイクロRNAの発現量の増減が検討されている。下唇から小唾液腺を切除するため、特許文献1に開示された方法が侵襲的な検査であることに変わりはない。特許文献1では、唾液中のエクソソームに含まれるマイクロRNAが検討されているが、クエン酸で舌を刺激したうえで、耳下腺採取器等を用いる煩雑な方法で唾液が採取されている。また、エクソソームに含まれるマイクロRNAに関しては、健常者と比較してSS患者の小唾液腺において有意に増加又は減少しているマイクロRNAは同定されていない。
【0007】
SSにおける非侵襲的な検査法は、未だに実用化されていない。疾患の進行及び病勢を簡便に評価するためにも、非侵襲的かつ簡便なSSの検査法の確立が求められている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、非侵襲的かつ簡便にシェーグレン症候群を検査できるシェーグレン症候群検査装置、情報取得方法、プログラム及びシェーグレン症候群検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係るシェーグレン症候群検査装置は、
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する判定部を備える。
【0010】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648からなる群から選択される少なくとも1つである、
こととしてもよい。
【0011】
前記マイクロRNAは、
エクソソームから抽出される、
こととしてもよい。
【0012】
前記判定部は、
前記マイクロRNAの発現量を基準値と比較することによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0013】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p及びhsa-miR-1290であって、
前記判定部は、
前記マイクロRNAの発現量及び前記発現量に対応するシェーグレン症候群の罹患の有無を示す情報を、それぞれ説明変数に対応する情報及び目的変数に対応する情報とする教師あり学習で構築されたモデルによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する、
こととしてもよい。
【0014】
本発明の第2の観点に係る情報取得方法は、
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定するための情報を取得する取得ステップを含む。
【0015】
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量に基づいて、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かを判定する判定部として機能させる。
【0016】
本発明の第4の観点に係るシェーグレン症候群検査キットは、
被験者の含嗽液中のhsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p、hsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pからなる群から選択される少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を定量する試薬を備える。
【0017】
前記マイクロRNAは、
hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648からなる群から選択される少なくとも1つである、
こととしてもよい。
【0018】
前記マイクロRNAの発現量を基準値と比較することによって、前記被験者がシェーグレン症候群に罹患しているか否かが判定される、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非侵襲的かつ簡便にシェーグレン症候群を検査できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は本発明の実施の形態に係るSS検査装置のハードウエア構成を示すブロック図である。(B)はSS検査装置の機能を示すブロック図である。
図2図1に示すSS検査装置による判定処理のフローチャートを示す図である。
図3】SS群及び健常者(HC)群の各マイクロRNAの相対的な発現量を示す図である。(A)はhsa-let-7b-5pの発現量を示す図である。(B)はhsa-miR-1290の発現量を示す図である。(C)はhsa-miR-34a-5pの発現量を示す図である。(D)はhsa-miR-3648の発現量を示す図である。
図4】マイクロRNAの発現量に基づくSSの判定精度を示す図である。(A)はhsa-let-7b-5pの発現量に基づく判定の受診者動作特性(ROC)曲線を示す図である。(B)はhsa-miR-1290の発現量に基づく判定のROC曲線を示す図である。(C)はhsa-miR-34a-5pの発現量に基づく判定のROC曲線を示す図である。(D)はhsa-miR-3648の発現量に基づく判定のROC曲線を示す図である。
図5】マイクロRNAの発現量に係る指標に基づくSSの判定精度を示す図である。(A)はSS群及びHC群の指標を示す図である。(B)は指標に基づく判定のROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0022】
本実施の形態に係るSS検査装置100について図1を参照して説明する。SS検査装置100は、被験者の生体試料から取得されるデータを解析して被験者がSSに罹患しているか否かを判定するための装置である。図1(A)に示すように、SS検査装置100は、記憶部10、RAM(Random Access Memory)20、入力装置30、表示装置40及びCPU(Central Processing Unit)50が、バス60で通信可能に接続された構成を有する。
【0023】
記憶部10は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)及びフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部10は、各種データ及びソフトウェアプログラムの他、SS判定プログラム11を記憶している。
【0024】
RAM20はCPU50のメインメモリとして機能し、CPU50によるSS判定プログラム11の実行に際し、SS判定プログラム11がRAM20に展開される。RAM20には、入力装置30から入力されたデータが一時的に記憶される。
【0025】
入力装置30は、使用者がSS検査装置100にデータを入力するためのハードウエアである。入力装置30は、被験者から採取される試料としての含嗽液におけるマイクロRNAの発現量を示すデータをCPU50に入力する。CPU50は、入力されたマイクロRNAの発現量を示すデータを記憶部10に記憶させる。
【0026】
含嗽液は、うがい液ともいい、被験者が一定量の液体で口腔内をすすいだ後に口外に出される液体をいう。うがいは、喉を洗浄するうがいであってもよいが、好ましくは、うがいは主に口を洗浄するうがいである。含嗽液には、被験者において分泌された唾液及び剥離した口腔内の細胞を含む。含嗽液であれば、非侵襲的に採取可能である。また、含嗽液を用いることで、口腔の乾燥症状(ドライマウス)で唾液が少ないSS患者又はSSの疑いがある被験者でも簡便に検体の採取が可能となる。
【0027】
マイクロRNAの発現量を示すデータは、含嗽液におけるマイクロRNAの発現量の値である。マイクロRNAの発現量の値は発現量の定量方法に応じて選択できるが、例えば、マイクロRNAの濃度の値でもよいし、内因性コントロールのマイクロRNAの発現量に対する相対的な発現量を示す数値であってもよい。以下では、被験者の含嗽液におけるマイクロRNAの発現量を示すデータを“発現量データ”ともいう。
【0028】
マイクロRNAは、pri-マイクロRNA、pre-マイクロRNA及び成熟マイクロRNAを含む。マイクロRNAは、エクソソームから抽出されてもよい。エクソソーム内部には、タンパク質やマイクロRNAを含む核酸等の情報伝達物質が含まれている。細胞から分泌されたエクソソームは、血流等を介して別の細胞に取り込まれ、情報伝達物質を当該別の細胞に送り込む。情報伝達物質を取り込んだ細胞は情報伝達物質に反応して細胞の形質を変化させる。このため、エクソソームに含まれるマイクロRNAは、SSの発症及び進展等に関与すると考えられる。
【0029】
エクソソームは、超遠心法、ポリマー沈殿法、親和性を利用した分離法、及びサイズ排除クロマトグラフィーによる精製等の公知の方法で単離される。単離したエクソソームからRNAを抽出し、マイクロRNAの発現量を測定すればよい。
【0030】
マイクロRNAの発現量は公知の方法で測定される。マイクロRNAの発現量の測定方法としては、例えば、ノーザンブロッティング、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、リアルタイムPCR法及びマイクロアレイ法が挙げられる。マイクロRNAの発現量の測定では、含嗽液から全RNAを抽出し、全RNAからcDNAを合成し、リアルタイムPCRでマイクロRNAを定量してもよい。全RNAの抽出、cDNAの合成及びリアルタイムPCRによるマイクロRNAの定量は、市販のキットでも行うことができる。
【0031】
表示装置40は、CPU50によるSSの罹患に関する判定の結果を出力するためのディスプレイである。CPU50は、記憶部10に記憶されたSS判定プログラム11をRAM20に読み出して、SS判定プログラム11を実行することにより、以下に説明する機能を実現する。
【0032】
図1(B)は、CPU50が実現する機能を示すブロック図である。SS判定プログラム11は、CPU50に判定部1及び出力部2として機能させる。
【0033】
判定部1は、被験者の含嗽液中のマイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かを判定する。具体的に“SSに罹患している”とは、SS診断基準、例えば日本の厚生省改訂診断基準、アメリカヨーロッパ改訂診断基準、シェーグレン国際登録ネットワーク診断基準又はアメリカリウマチ学会シェーグレン症候群分類基準等の基準を満たしSSと診断される状態をいう。
【0034】
下記実施例に示すように、所定のmiRNAの含嗽液中での発現量は、健常者と比較してSSの患者で増加又は減少している。このようなマイクロRNAは、例えば、表1に示される。なお、マイクロRNAを示すIDはマイクロRNAのデータベースであるmiRBaseにおける識別情報を示す。
【0035】
【表1】
【0036】
SS患者と健常者とで比較した場合、hsa-miR-640、hsa-miR-3124-5p及びhsa-miR-3200-5p、hsa-miR-5100は、健常者よりもSS患者での発現量が低い。SS患者において健常者よりも発現量が低いこれらのマイクロRNAを低下マイクロRNA群とする。
【0037】
一方、SS患者と健常者とで比較した場合、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-512-3p、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-3648、hsa-miR-371b-5p、hsa-miR-29b-2-5p及びhsa-miR-4787-5pは健常者よりもSS患者での発現量が高い。SS患者において健常者よりも発現量が高いこれらのマイクロRNAを亢進マイクロRNA群とする。
【0038】
判定部1は、亢進マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を基準値と比較する。判定部1は、亢進マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量が基準値より高い場合に被験者がSSに罹患していると判定し、亢進マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量が基準値より低い場合に被験者がSSに罹患していないと判定する。また、判定部1は、低下マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量を基準値と比較する。判定部1は、低下マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量が基準値より高い場合に被験者がSSに罹患していないと判定し、低下マイクロRNA群に含まれる少なくとも1つのマイクロRNAの発現量が基準値より低い場合に被験者がSSに罹患していると判定する。ここでの基準値は、例えば、健常者における当該マイクロRNAの発現量の平均値又は中央値である。
【0039】
好ましくは、判定部1は、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648の少なくとも1つの発現量を基準値と比較する。判定部1は、hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290、hsa-miR-34a-5p及びhsa-miR-3648の少なくとも1つの発現量が基準値より高い場合に被験者がSSに罹患していると判定し、発現量が基準値より低い場合に被験者がSSに罹患していないと判定する。
【0040】
判定部1は、複数のマイクロRNAの発現量を組み合わせて、被験者がSSに罹患しているか否かを判定してもよい。例えば、判定部1は、hsa-let-7b-5pの発現量が第1の基準値より高く、かつhsa-miR-1290の発現量が第2の基準値より高い場合に被験者がSSに罹患していると判定してもよい。
【0041】
判定部1は、マイクロRNAの発現量と基準値との比較だけではなく、1つ以上のマイクロRNAの発現量から算出される指標に基づいて被験者がSSに罹患しているか否かを判定してもよい。例えば、判定部1は、公知のデータマイニングの手法を用いて構築されたモデルから得られる指標に基づいて、マイクロRNAの発現量から被験者がSSに罹患しているか否かを判定してもよい。好ましくは、当該モデルは教師あり学習で構築されたモデルである。
【0042】
教師あり学習とは、説明変数とそれに付随する目的変数との組み合わせの集合を学習用データとして、学習用データに対するフィッティングを行うことにより学習を行う機械学習の一手法である。フィッティングは、学習用データに含まれる説明変数の特徴量を抽出して目的変数ごとの特徴量を選んだり、その目的変数に属するデータの特徴を抽出したり、目的変数を識別する判断基準を生成したりすることで行う。フィッティングによって、入力された説明変数からその説明変数に対応するべき目的変数を出力するモデルが構築される。モデルによって、学習用データに含まれない説明変数に対応する目的変数を出力することができる。
【0043】
SSの罹患を判定する場合、学習用データにおける説明変数は1つ以上のマイクロRNAの発現量データであって、目的変数は当該発現量データが示すマイクロRNAの発現量に対応するSSに罹患しているか否かを示す情報である。例えば、健常者の含漱液中における2つのマイクロRNAの各発現量がE1及びE2とすると、説明変数“E1,E2”に、SSに罹患していないことを示す情報である目的変数“0”が対応付けられる。一方、SS患者の含漱液中における同じ2つのマイクロRNAの各発現量がE3及びE4とすると、説明変数“E3及びE4”に、SSに罹患していることを示す情報である目的変数“1”が対応付けられる。好ましくは、学習用データは、複数のマイクロRNAの発現量データと当該発現量に対応するSSに罹患しているか否かを示す情報との組み合わせの集合である。
【0044】
教師あり学習の方法には、公知の任意の方法を採用すればよい。教師あり学習の方法としては、例えば、判別分析、正準判別分析、線形分類、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、サポートベクターマシーン、決定木、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、パーセプトロン及びk近傍法等が挙げられる。
【0045】
ロジスティック回帰分析では、目的変数を確率p、説明変数をxとするとモデルとして次の式が用いられる。なお、式1において、このaはxに対する偏回帰係数である。偏回帰係数は、学習用データを用いて公知の方法、例えば、最小二乗法又は最尤法で求めることができる。
p=1/{1+exp(-(a+a+・・・+a+b))} (式1)
【0046】
構築されたモデルは、記憶部10に記憶されている。判定部1は、被験者のマイクロRNAの発現量を、記憶部10に記憶されたモデルに入力することで、被験者がSSに罹患しているか否かを示す情報を出力として得る。例えば、被験者がSSに罹患しているか否かを示す情報は、被験者がSSに罹患していることを示す情報又は被験者がSSに罹患していないことを示す情報である。
【0047】
判定部1は、被験者がSSに罹患しているか否かを示す情報を出力部2に入力する。出力部2は、判定部1によって入力されたSSに罹患しているか否かを示す情報を表示装置40に表示する。
【0048】
続いて、SS検査装置100による判定処理を図2に示すフローチャートを参照して説明する。なお、当該フローチャートでは、判定部1は、ロジスティック回帰分析で構築されたモデルを用いて、SS検査装置100に入力された複数のマイクロRNAの発現量データから被験者がSSに罹患しているか否かを判定する。モデルは、目的変数“1”及び“0”を、それぞれSSに罹患していることを示す情報及びSSに罹患していないことを示す情報として構築されたものとする。また、当該モデルは、あらかじめ記憶部10に記憶されているものとする。
【0049】
判定部1は、使用者によって被験者のマイクロRNAの発現量データが入力装置30を介して入力されるのを待つ(ステップS1;No)。被験者のマイクロRNAの発現量データが入力されると(ステップS1;Yes)、判定部1は、記憶部10を参照し、モデルのxに各発現量を代入してpを算出する(ステップS2)。続いて、判定部1は、基準値0.5とpとを比較し、被験者がSSに罹患しているか否かを判定する(ステップS3)。pが基準値以上の場合(ステップS3;Yes)、出力部2は、被験者がSSに罹患していることを示す情報を、表示装置40を介して表示する(ステップS4)。一方、pが基準値未満の場合(ステップS3;No)、出力部2は、被験者がSSに罹患していないことを示す情報を、表示装置40を介して表示する(ステップS5)。そして、判定部1は判定処理を終了する。
【0050】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るSS検査装置100は、被験者の含嗽液中の、SSの罹患に関連するマイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かを判定する。含嗽液を用いることで、非侵襲的かつ簡便にSSを検査できる。含嗽液は、安価に、何度も繰り返し採取できる。さらに、含嗽液は専門家でなくても容易に採取できることも利点である。本実施の形態に係るマイクロRNAの発現量を用いた判定によれば、下記実施例に示すように、被験者のSSへの罹患を高い精度で判定することができる。
【0051】
また、SS検査装置100は、エクソソームから抽出されるマイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かを判定してもよいこととした。含嗽液中のエクソソームに含まれるマイクロRNAには、SSの発症又は罹患に関連するマイクロRNAが多く含まれると考えられるため、SSの発症又は罹患にほとんど影響しないマイクロRNAの検出による判定精度の低下を抑えることができる。
【0052】
また、含嗽液は簡便に取得できるため、迅速にSSを判定することができる。含嗽液の採取は非侵襲であるため、被験者の含嗽液中のマイクロRNAを任意のタイミングで定量することができる。これにより、SSの進行及び病勢を随時評価することができる。また、SS検査装置100は、SSの進行及び病勢を簡便に監視できる検査ツールとなりうる。
【0053】
なお、判定部1は、マイクロRNAの発現量の値に対して任意の値を加減乗除した値で判定してもよく、発現量を公知の変換方法、例えば、指数変換、対数変換、角変換、平方根変換、プロビット変換、逆数変換、Box-Cox変換又はべき乗変換等で変換した値で判定してもよい。判定部1は、マイクロRNAの発現量の値を被験者の性別又は年齢別に重み付けをして変換して得られる値で判定してもよい。また、判定部1は、第1のマイクロRNAの発現量と第1のマイクロRNAとは異なる第2のマイクロRNAの発現量との比を基準値等と比較して判定してもよい。
【0054】
なお、CPU50は、上記モデルを構築するモデル構築部として機能してもよい。モデル構築部は、記憶部10に記憶された学習用データを用いた教師あり学習によってモデルを構築する。より詳細には、モデル構築部は、1つ以上のマイクロRNAの発現量及び当該発現量に対応するSSに罹患しているか否かを示す情報をそれぞれ説明変数及び目的変数とした学習用データを用いて教師あり学習を実行する。モデル構築部は、構築したモデルを記憶部10に記憶させる。これにより、判定部1は、被験者のマイクロRNAの発現量を、記憶部10に記憶されたモデルに入力することで、被験者がSSに罹患しているか否かを判定する。
【0055】
なお、年齢、性別、喫煙習慣及び飲酒習慣等の因子によるマイクロRNAの発現量の差を考慮して、判定部1は、被験者に関するこれら因子の影響を補正したマイクロRNAの発現量に基づいて、SSに罹患しているか否かを判定してもよい。
【0056】
なお、SS検査装置100は、通信インターフェイスを備え、ネットワークに接続されてもよい。判定部1は、当該ネットワークに接続する外部の装置等から通信手段を介して送信された発現量データを受信し、被験者がSSに罹患しているか否かを判定してもよい。さらに出力部2は、通信インターフェイスを介して被験者がSSに罹患しているか否かを示す情報等を外部の装置に送信してもよい。
【0057】
また、別の実施の形態では、被験者がSSに罹患しているか否かを判定するためのデータを得るために、当該被験者の含漱液中の上記マイクロRNAを検出する検出ステップを含む方法が提供される。
【0058】
また、他の実施の形態ではSSの検査に有用な情報取得方法が提供される。情報取得方法は、被験者の含嗽液中の上記マイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かを判定するための情報を取得する取得ステップを含む。他の実施の形態では、取得ステップと、取得ステップで取得した情報に基づいて、SS治療薬を被験者に投与する投与ステップと、を含むSS治療方法が提供される。さらに別の実施の形態では、被験者の含嗽液中の上記マイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かを診断する診断ステップを含む、SS診断方法が提供される。
【0059】
また、他の実施の形態ではSS検査方法が提供される。SS検査方法は、被験者の含嗽液中の上記マイクロRNAの発現量に基づいて、被験者がSSに罹患しているか否かの判定を補助する補助ステップを含む。
【0060】
なお、別の実施の形態では、SS検査キットが提供される。SS検査キットは、被験者の含嗽液中の上記マイクロRNAの発現量を定量する試薬を備える。好適には、当該試薬は、マイクロRNAをリアルタイムPCRで定量するためのプライマー及びプローブである。プライマーは、上記マイクロRNAをPCR産物の塩基配列中に含むように設計されたものであれば特に限定されない。
【0061】
プライマー及びプローブの塩基配列としては、上記マイクロRNAをコードするcDNAの全体の塩基配列若しくは部分配列、又は当該全体の塩基配列若しくは部分配列に相補的な塩基配列が挙げられる。
【0062】
プローブは、PCR産物とハイブリダイゼーションするものである。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば、プローブが、塩基配列が相補的な核酸とはハイブリダイズするが、相補的ではない塩基配列の核酸にはハイブリダイズしないストリンジェントな条件である。ストリンジェントな条件は、例えば、モレキュラークローニング・ア・ラボラトリーマニュアル第3版(2001年)等に基づき適宜決定でき、例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、65℃で保温、である。プライマー及びプローブは、例えば、市販の自動核酸合成機を用いて化学的に合成することができる。
【0063】
プローブは、蛍光物質等で標識されていてもよい。標識として、シアン、フルオレサミン、ローダミン、Cy3、Cy5、FITC(fluorescein isothiocyanate)及びTRITC等の蛍光標識を用いることができる。SS検査キットは、内在性コントロールとするマイクロRNAに対するプライマー及びプローブを備えてもよく、さらには緩衝液、マイクロRNAの定量に使用するその他の試薬を備えてもよい。
【0064】
SS検査装置100で用いられるSS判定プログラム11及び各種ソフトウェアプログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、光磁気ディスク(Magneto-Optical Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカード及びHDD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布することが可能である。そして、SS判定プログラム11及び各種ソフトウェアプログラムを特定の又は汎用のコンピュータにインストールすることによって、当該コンピュータをSS検査装置100として機能させることが可能である。また、SS判定プログラム11及び各種ソフトウェアプログラムをインターネット上の他のサーバが有する記憶装置に格納しておき、当該サーバからSS判定プログラム11及び各種ソフトウェアプログラムがダウンロードされるようにしてもよい。
【0065】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0066】
(対象)
被験者は2019年から2020年に鹿児島大学病院口腔顎顔面センター口腔外科を受診したSS患者とHCとした。SS群は、厚生省改訂診断基準(1999)、アメリカヨーロッパ改訂診断基準(2002)、シェーグレン国際登録ネットワーク診断基準(2012)、及びアメリカリウマチ学会シェーグレン症候群分類基準(2016)の基準の少なくとも2つ以上を満たし一次性SSと診断できる24名を対象とした。コントロール群としてのHC群は、鹿児島大学病院口腔顎顔面センター口腔外科を受診中の健常者24名を対象とした。健常者は、口腔乾燥症状がなく、悪性疾患、炎症性疾患及び自己免疫疾患を有していなかった。
【0067】
(検体採取)
検体採取は午前9~12時の間に行った。採取当日の被験者に発熱及び感冒症状はなく、被験者は全身的に健康な状態であった。被験者は、採取の30分前から食事、飲水、喫煙及び歯磨きを行っていない。被験者が椅子に座った状態で滅菌精製水10mLを口に含み、1分間含嗽し、全量を専用の容器に吐き出して含嗽液を採取した。採取した含嗽液を速やかに冷凍庫に入れ、解析まで-80℃で保管した。
【0068】
(エクソソームの単離)
1.5mLの含嗽液より、超遠心法のプロトコールに従って150μLのエクソソームペレットを作製した。まず1.5mLの検体を300×g、4℃で10分間遠心分離を行い、上澄みを採取し、1.5mLチューブに移した。次に2000×g、4℃で10分間遠心分離を行い、上澄みを採取し1.5mLチューブに移した。その後、10000×g、4℃で30分間遠心分離し、上澄みを2.2mLの超遠心用チューブ(Beckman Instruments社製)に移した。チューブをバケットにセットし、チューブ内のサンプルが規定量に達するようにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え、調整を行った。バケットをスイングローターにセットし、100000×g、4℃で70分間遠心分離を行い、上澄みを2mm残してそれ以外を除去した。チューブにPBSを加え沈殿しているエクソソームを洗浄し、再度バケットをスイングローターにセットし、100000×g、4℃で70分間遠心分離を行った。上澄みを除去し、少量のPBSを加えて150μLのエクソソームペレットを作製した。単離したエクソソームを、ナノトラッキング法及びウェスタンブロッティングにて確認した。
【0069】
(RNA抽出)
製品説明書のプロトコールに従い、miRNeasy Serum/Plasma Mini Kit(Qiagen社製)を用いて、150μLのエクソソームペレットからtotalRNA(smallRNAを含む)を単離した。単離したRNAを、マイクロRNAマイクロアレイ及びリアルタイムPCR(RT-PCR)に直接使用した。
【0070】
(マイクロアレイ)
マイクロRNAマイクロアレイを実行して、ランダムに選択されたSS群の10人とHC群の10人から、プールされた含嗽液中の発現量が異なるマイクロRNAを特定した。「RNA単離」のセクションに記載されているプロトコール通りに単離したRNAを、3D-Gene マイクロRNAラベリングキット(Tray Industries社製)によって標識した。標識されたRNAを、3D-Gene マイクロRNAアレイプラットフォーム(2565 マイクロRNA、ver.21、東レ社製)にハイブリダイズさせた。プローブのアノテーション及びオリゴヌクレオチド配列は、miRBaseマイクロRNAデータベース(http://www.mirbase.org/)に準拠した。
【0071】
厳密に洗浄した後、蛍光シグナルを3D-Gene Scanner(東レ社製)でスキャンし、3D-Gene Extractionソフトウェア(東レ社製)を使用して分析した。各スポットの生データは、すべてのブランクスポットの信号強度によって決定されたバックグラウンド信号の平均強度を95%の信頼区間で置き換えることによって正規化した。バックグラウンド信号強度の2標準偏差を超える信号強度のスポットの測定を有効とみなした。マイクロアレイ実験を通して有効なスポットの信号強度を比較することにより、マイクロRNAの相対的な発現レベルを計算した。データは、シグナル強度の中央値が25に調整されるように、アレイごとにグローバルに正規化した。相対的なハイブリダイゼーション強度とバックグラウンドハイブリダイゼーション値を算出した。SS群の結果をHC群の結果と比較し、有意な差を>2.0倍又は<0.5倍と定義した。
【0072】
(リアルタイムPCR)
マイクロRNAマイクロアレイの結果、SS群とHC群との間で有意に発現量に差があったマイクロRNAは302種類であった。302種類から過去の報告及びプライマーの入手可否を参考に表1に示す12種類を候補マイクロRNAとして選択した。12種の候補マイクロRNAの発現量を、メーカーのプロトコールに従い次のように測定した。
【0073】
TaqMan(商標) マイクロRNAAssaysとTaqMan(商標) UniversalPCRMaster Mix II(Applied Biosystems社製)を使用し(表2参照)、リアルタイムPCRにてSS群24人とHC群24人それぞれの含嗽液におけるエクソソーム由来の候補マイクロRNAの発現を比較した。
【0074】
まず、各マイクロRNAに対する特異的RTプライマーを含む逆転写酵素をチューブ内で混合した。次にRTの条件を設定し(プレートを16℃で30分間、42℃で30分間、及び85℃で5分間インキュベートし、その後は4℃で保持)、それぞれ反応させた。RT反応の生成物は、使用するまで-20℃で保存した。PCRサイクリング条件は、95℃で10分間を1サイクル、続いて95℃で15秒間と60℃で60秒間とを45サイクルとした。Ct値は、MxPro Mx3000Pver.4.0ソフトウェア(Agilent Technologies社製)によって計算されたバックグラウンドをベースとした閾値で決定した。マイクロRNAの統一された内因性コントロールがないため、本研究ではhsa-mi24とhsa-miR-155-5pを選択した。hsa-miR-24は内因性コントロールとしての報告があり、hsa-miR-155-5pはマイクロRNAマイクロアレイにてSS群とHC群の間で発現量の変化を示さなかったものである。
【0075】
【表2】
【0076】
また、リアルタイムPCRによって内因性コントロールマイクロRNAの発現レベルを分析し、hsa-miR-24とhsa-miR-155-5pの平均値を内因性コントロールとして選択した。各検体における標的マイクロRNAの発現量(コントロールと比較した相対的発現量)を、以下の式を使用した2-ddCt法(CT=サイクル閾値)にて評価した。
ddCT SS patient=CT patient-CT Mean value of(hsa-miR-24 and hsa-miR-155-5p)-dCT healthy control
dCT healthy control=Mean value of[CT healthy control-CT Mean value of(hsa-miR-24 and hsa-miR-155-5p)]
【0077】
(統計分析)
SS群とHC群との間で、候補マイクロRNAのリアルタイムPCRで定量した相対的発現量をt検定で比較した。発現量がHC群と比較して有意に増加していた各マイクロRNAについて、発現量の適切なカットオフ値を取得するために、ROC曲線分析によって評価した。
【0078】
ROC曲線分析によって得られたカットオフ値を用いてSS群とHC群それぞれの標本を2分割し、フィッシャー検定を用いて、候補マイクロRNAの発現量に加え、年齢及び性別を変数として、変数と疾患との関連を評価した。より正確にSSを検出するために、ロジスティック回帰分析を使用して組み合わせ分析を実行した。
【0079】
すべての検定は事前にShapiro-Wilk検定で2群のデータが正規分布に従うかどうかを確認し、正規分布する場合はLeven検定で等分散性を確認した後に、適切な検定を適用した。上記の統計分析は、SPSSソフトウェアバージョン26を用いて実施した。すべての検定の有意水準はp=0.05とした。
【0080】
(結果)
リアルタイムPCRの結果、図3に示すように、SS群におけるhsa-let-7b-5p(A)、hsa-miR-1290(B)、hsa-miR-34a-5p(C)及びhsa-miR-3648(D)の発現量がHC群と比較して有意に増加していた。
【0081】
ROC曲線分析の結果を図4に示す。hsa-let-7b-5p、hsa-miR-1290及びhsa-miR-34a-5pの3種類のマイクロRNAにおいてAUCが0.7を超えた。
【0082】
統計分析により、表3に示すhsa-miR-1290及びhsa-let-7b-5pの組み合わせが特定された。得られた回帰式を用いて、個々の検体のSSインデックスを算出した。
【0083】
【表3】
【0084】
Mann-Whittney U検定で、SS群とHC群のSSインデックスの差を評価したところ、図5(A)に示すように統計的に有意であった。SSインデックスの判定性能をROC曲線で評価したところ、図5(B)に示すようにAUCが0.856で、統計的に有意であった。
【0085】
図5(B)に示すROC曲線にて求めたカットオフ値を判定指標にしたところ、表4に示すように、感度:91.7%、特異度:83.3%、陽性的中率:84.6%、陰性的中率:90.9%となり、高い判定精度を示した。
【0086】
【表4】
【0087】
SSの診断では、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、リウマトイド因子及び抗核抗体といった様々な自己抗体が使用されている。これら自己抗体に関して報告されたSS罹患の判定における感度、特異度、陽性的中率及び陰性的中率(Manuel Ramos-Casals et al.,2002年;81:281)と本実施例に係るSSインデックスとの比較を次の表5に示す。SSインデックスによる判定は、自己抗体と同等以上の精度であった。
【0088】
【表5】
【0089】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、シェーグレン症候群の検査、診断及び治療に好適である。
【符号の説明】
【0091】
1 判定部、2 出力部、10 記憶部、11 SS判定プログラム、20 RAM、30 入力装置、40 表示装置、50 CPU、60 バス、100 SS検査装置
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022126237000001.app