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特開2022-126266無機フィラー粉末、熱伝導性高分子組成物、無機フィラー粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126266
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】無機フィラー粉末、熱伝導性高分子組成物、無機フィラー粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/44 20220101AFI20220823BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220823BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C01F7/44 A
C08L101/00
C08K9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024242
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】梛良 積
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AA26
4G076AB06
4G076BA17
4G076BC07
4G076BF06
4G076CA26
4G076DA02
4J002AC031
4J002DE146
4J002FB076
4J002FD016
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性高分子組成物を低コストに得ることが可能な無機フィラー粉末、およびこれを用いた熱伝導性高分子組成物、また、無機フィラー粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造であり、前記無機微粒子による前記無機粒子の表面の被覆率が30%以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造であり、前記無機微粒子による前記無機粒子の表面の被覆率が30%以上であることを特徴とする無機フィラー粉末。
【請求項2】
前記無機粒子および前記無機微粒子は、酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の無機フィラー粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無機フィラー粉末を、樹脂材料、エラストマー材料、およびゴム材料のうち少なくとも一つを含むマトリックス材料に混合してなることを特徴とする熱伝導性高分子組成物。
【請求項4】
前記熱伝導性高分子組成物は、前記マトリックス材料を100質量部に対して、前記無機フィラー粉末を1200質量部以上含むことを特徴とする請求項3に記載の熱伝導性高分子組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の無機フィラー粉末の製造方法であって、
無機原料粉末と溶媒とを混合した原料スラリーを10m/分以上の周速で旋回流動させて前記無機原料粉末を研磨することによって、前記溶媒中に前記無機粒子と前記無機微粒子とが生成された流動体を得る流動研磨工程と、前記流動体から前記溶媒を除去して、前記無機粒子の表面に前記無機微粒子を付着させる乾燥工程と、を有することを特徴とする無機フィラー粉末の製造方法。
【請求項6】
前記無機原料粉末は、電融アルミナ粉末を用いることを特徴とする請求項5に記載の無機フィラー粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性材料として用いられる無機フィラー粉末、熱伝導性高分子組成物、および無機フィラー粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、燃料電池自動車などの進展に伴って、電気部品の大電流化が進んでおり、電気部品から生じる発熱量も増加しつつある。例えば、自動車用のリチウムイオンバッテリは、大電流の電力を長時間連続して出力するために発熱量が多くなり、生じた多量の熱を効率的に外部に放熱する必要がある。このため、リチウムイオンバッテリなど大電流を出力する電気部品の絶縁性が必要な部分における放熱部材として、熱伝導性に優れた熱伝導性高分子組成物を用いることがある。
【0003】
従来、熱伝導性高分子組成物としては、絶縁性や成形性に優れた樹脂などのマトリックス材料に、熱伝導性に優れた無機材料からなる無機フィラー粉末を分散させたものが挙げられる。無機フィラー粉末としては、熱伝導性や比重の点から、酸化アルミニウム(アルミナ:Al)、窒化アルミニウム(AlN)、二酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(SiN)、酸化マグネシウム(MgO)などが一般的に用いられている。
【0004】
熱伝導性高分子組成物の熱伝導率は、無機フィラー粉末の含有率を高めることで向上させることができる。一例として、5W/mK以上の高い熱伝導率の熱伝導性高分子組成物を得るためには、マトリックス材料100質量部に対して、1100質量部以上の無機フィラー粉末を混錬させる必要がある。
【0005】
しかし一方で、マトリックス材料に対して無機フィラー粉末の含有率を高めると、得られる熱伝導性高分子組成物の硬さも高くなり、流動性や成形性が低下するという課題があった。このため、例えば、特許文献1や特許文献2では、無機フィラー粉末として球状アルミナ粒子を用いることで、無機フィラー粉末の含有率を高めても硬さが低く抑えられ、かつ混練が容易な高分子組成物が開示されている。また、特許文献3には、γ-アルミナ粒子をαアルミナ粒子の表層に形成したアルミナフィラーが開示されている。更に、特許文献4には、樹脂の成型金型の摩耗を低減することを目的として、樹脂に低硬度の無機粉末を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4361997号公報
【特許文献2】特開2012-121742号公報
【特許文献3】特公平6-51778号公報
【特許文献4】特開2011-16962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示された樹脂組成物に用いる球状アルミナ粒子は製造工程が複雑であり、製造コストが高いという課題があった。
また、特許文献3に開示されたγ-アルミナ粒子をαアルミナ粒子の表層に形成する方法も、高温で加熱する工程が必要であるため、製造コストが高いという課題があった。
更に、特許文献4に開示された方法では、低硬度の無機粉末を高硬度の無機粉末に多量に添加すると樹脂の流動性が低下するという課題があった。
【0008】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性高分子組成物を低コストに得ることが可能な無機フィラー粉末、およびこれを用いた熱伝導性高分子組成物、また、無機フィラー粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明の無機フィラー粉末は、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造であり、前記無機微粒子による前記無機粒子の表面の被覆率が30%以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の一部が、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆された構造にすることで、従来の球状アルミナ粒子を用いた場合と比較して、低コストで、マトリックス材料と混錬した際に高い熱伝導率をもつ無機フィラー粉末を実現できる。そして、本発明の無機フィラー粉末をマトリックス材料に混合すれば、柔軟で形状追従性に優れた熱伝導性高分子組成物を得ることができる。
【0011】
また、本発明では、前記無機粒子および前記無機微粒子は、酸化アルミニウムを含んでいてもよい。
【0012】
本発明の熱伝導性高分子組成物は、前記各項に記載の無機フィラー粉末を、樹脂材料、エラストマー材料、およびゴム材料のうち少なくとも一つを含むマトリックス材料に混合してなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明では、前記熱伝導性高分子組成物は、前記マトリックス材料を100質量部に対して、前記無機フィラー粉末を1200質量部以上含んでいてもよい。
【0014】
本発明の無機フィラー粉末の製造方法は、前記各項に記載の無機フィラー粉末の製造方法であって、無機原料粉末と溶媒とを混合した原料スラリーを10m/分以上の周速で旋回流動させて前記無機原料粉末を研磨することによって、前記溶媒中に前記無機粒子と前記無機微粒子とが生成された流動体を得る流動研磨工程と、前記流動体から前記溶媒を除去して、前記無機粒子の表面に前記無機微粒子を付着させる乾燥工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明では、前記無機原料粉末は、電融アルミナ粉末を用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性高分子組成物を低コストに得ることが可能な無機フィラー粉末、およびこれを用いた熱伝導性高分子組成物、また、無機フィラー粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の無機フィラー粉末を示す電子顕微鏡写真(10000倍)である。
図2】無機フィラー粉末の1つの粒子を示す拡大模式図である。
図3】無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真の任意の矩形領域をトリミングして二値化した画像である。
図4】本実施形態の熱伝導性高分子組成物を示す拡大模式図である。
図5】検証例1で用いた無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(研磨時間3分)である。
図6】検証例1で用いた無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(研磨時間30分)である。
図7】検証例1で用いた無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(研磨時間45分)である。
図8】検証例1で用いた無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(研磨時間60分)である。
図9】検証例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の無機フィラー粉末、およびこれを用いた熱伝導性高分子組成物、また、無機フィラー粉末の製造方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0019】
(無機フィラー粉末)
無機フィラー粉末は、マトリックス材料と混合して熱伝導性高分子組成物を得るための熱伝導性材料である。本発明の一実施形態の無機フィラー粉末は、性状が微粉末状の酸化アルミニウム(アルミナ:Al)である。
【0020】
熱伝導性高分子組成物のフィラーとしてアルミナを用いたのは、アルミナの熱伝導率が30W/m・K程度と比較的高いためである。
なお、無機フィラー粉末としては、本実施形態のアルミナ以外にも、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(SiN)、二酸化ケイ素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)などの熱伝導性の無機材料粉末を用いることができる。
【0021】
本実施形態の無機フィラー粉末は、電融アルミナ粉末(無機原料粉末)を研磨することによって得られるものであって、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造である。
【0022】
図1は、本実施形態の無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(10000倍)である。また、図2は、無機フィラー粉末の1つの粒子を示す拡大模式図である。図1図2に示すように、本実施形態の無機フィラー粉末は、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の一部が、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆された構造となっている。無機フィラー粉末を構成する無機微粒子は、無機粒子の表面に付着(固着)している。
なお、以下の説明においては、無機粒子と言った場合には粒径が1μm以上のアルミナ粒子を意味し、無機微粒子と言った場合には、粒径が10nm以上、0.1μm未満のアルミナ粒子を意味するものとする。
【0023】
このような無機フィラー粉末を構成する無機微粒子による無機粒子の表面の被覆率は30%以上とされる。
ここでいう被覆率は、任意の範囲の無機フィラー粉末を平面視した時に、無機粒子の表面積(平面)に対して、無機微粒子の表面積(平面)の割合(%)を示している。こうした被覆率の測定の一例としては、図3に示すように、無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真(例えば、倍率が1万倍~10万倍程度)の任意の矩形領域をトリミングして二値化した画像を用意する。こうした画像は、無機粒子が露出している部分が黒色で示され、無機微粒子で覆われた部分が白色で示されている。そして、トリミングした矩形領域の面積(無機粒子の表面積)に対して、白色領域が占める面積(無機微粒子で覆われた面積)を画像処理によって算出することにより、被覆率(%)を得ることができる。
【0024】
以上のような本実施形態の無機フィラー粉末は、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の一部が、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆された構造にすることで、従来の球状アルミナ粒子を用いた場合と比較して、低コストで、マトリックス材料と混錬した際に高い熱伝導率をもつ無機フィラー粉末を実現できる。そして、本実施形態の無機フィラー粉末をマトリックス材料に混合すれば、柔軟で形状追従性に優れた熱伝導性高分子組成物を得ることができる。
【0025】
(熱伝導性高分子組成物)
図4は、本実施形態の熱伝導性高分子組成物を示す拡大模式図である。
本実施形態の熱伝導性高分子組成物は、マトリックス材料中に本実施形態の無機フィラー粉末を分散させたものからなり、例えば、マトリックス材料100質量部に対して、本実施形態の無機フィラー粉末を1200質量部以上混合させたペースト状のものであればよい。例えば、樹脂100質量部に対して、本実施形態の無機フィラー粉末1200質量部~7000質量部を混合させることによって、本実施形態の熱伝導性高分子組成物が得られる。
【0026】
無機フィラー粉末を混合させるマトリックス材料は、樹脂材料、エラストマー材料、およびゴム材料のうち少なくとも一つを含むものであればよい。
マトリックス材料のうち、樹脂材料としては、特に限定されるものではなく、公知の樹脂材料を用いることができる。具体的には、炭化水素系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等、キシレンホルムアルデヒド樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等を挙げることができる。
【0027】
マトリックス材料のうち、エラストマー材料としては、特に限定されるものではなく、公知のエラストマー材料を用いることができる。具体的には、ポリスチレン系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を挙げることができる。
【0028】
マトリックス材料のうち、ゴム材料としては、特に限定されるものではなく、公知のゴム材料を用いることができる。具体的には、天然ゴム、合成ゴムのいずれでもよく、例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。
【0029】
本実施形態の熱伝導性高分子組成物は、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)と樹脂とを混合した従来の熱伝導性高分子組成物と比較して、同一の配合比率において、硬さが40%以上低下している。こうした硬さの低下、即ち、柔らかくなることによって、本実施形態の熱伝導性高分子組成物は流動性が高められる。
【0030】
これにより、本実施形態の熱伝導性高分子組成物は、充填部分での形状追従性を向上させることができ、適用する伝熱対象物に隙間なく密着して効率よく伝熱させることができる。また、原料アルミナ粒子(電融アルミナ粒子)と樹脂とを混合した従来の熱伝導性高分子組成物と比較して、同程度の硬さとした場合は、より多くの無機フィラー粉末を混合することができるため、本実施形態の熱伝導性高分子組成物は、従来の原料アルミナ粒子を用いた熱伝導性高分子組成物と比較して、熱伝導性を向上させることができる。
【0031】
(無機フィラー粉末の製造方法)
本実施形態の無機フィラー粉末を製造する際には、まず、無機原料粉末を用意する。本実施形態では、無機原料粉末として、粒子状の電融アルミナを用いた。無機原料粉末として、電気アーク炉内でのボーキサイトの還元融解等によって製造される粒子状の電融アルミナを用いたのは、粒子径が大きくブロードな粒度分布を有すること、および樹脂等のマトリックス材料に高い充填率で混合することが可能であり、熱伝導性高分子組成物の熱伝導性を高めることができるためである。
電融アルミナとしては、市販の電融アルミナ粉末が利用できる。原料の電融アルミナ粉末は、例えば、篩目サイズ100μmの篩を通過した電融アルミナ粉末を使用する。
【0032】
次に、この電融アルミナ粉末(無機原料粉末)と、溶媒とを混合した原料スラリーを10m/分以上の周速で旋回流動させ、電融アルミナ粉末どうしを衝突させて研磨する(流動研磨工程)。これにより、溶媒中に無機粒子と無機微粒子とが生成された流動体を生成する。
【0033】
こうした無機原料粉末である電融アルミナ粉末をスラリー化させる溶媒としては、アルミナを溶解しない安定した液体、例えば水を用いる。本実施形態では、溶媒としてイオン交換水を用いている。溶媒として水を用いた場合の電融アルミナ粉末の濃度は、例えば、70質量%~80質量%程度にすればよい。
【0034】
こうした電融アルミナ粉末と水とをスラリー化(原料スラリー)して研磨する手段としては、例えば、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)が挙げられる。この乳化・分散装置は、水冷されるステータ内で攪拌ローターが高速回転する。ステータと攪拌ローターとの隙間に上述した電融アルミナ粉末と水とが導入されると、攪拌ローターの回転によって電融アルミナ粉末が水に対して均質に分散した原料スラリー(分散液)となり、この原料スラリー中で電融アルミナ粉末の粒子どうしが衝突することによって自己研磨される。
【0035】
ローターの回転速度は、10m/sec以上の周速に設定される。これにより、原料スラリーは10m/sec以上の周速で旋回流動され、電融アルミナ粉末を効率的に研磨して、溶媒中に粒径が1μm以上の無機粒子と、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子とを生成することができる。
【0036】
これは、電融アルミナ粉末の粒子どうしの衝突研磨によって、電融アルミナ粉末の粒子の尖った角部が削り取られて無機粒子が生成されるとともに、削り取られた角部が無機微粒子になるものと考えられる。
【0037】
また、こうした粒子研磨工程での電融アルミナ粉末(無機原料粉末)の研磨時間は、3分以上60分以下の範囲で行えばよい。研磨時間が3分未満では、無機微粒子が充分に生成されない懸念がある。また、長時間研磨を行うと、アルミナ粒子が破砕されて粒子が細かくなりすぎて、無機粒子が少なくなりすぎる懸念がある。粒子が細かくなりすぎた場合、樹脂との混錬時に粘度が高くなりすぎ成形性が悪くなったり、十分な量の無機フィラー粉末がマトリックス材料に混合できずに熱伝導度が充分に向上しなかったりするおそれがある。
【0038】
乳化・分散装置には、電融アルミナ粉末と水とを個別に2液で供給しても、予め混合したスラリーで供給してもよい。
【0039】
なお、電融アルミナ粉末と水とをスラリー化して研磨する手段としては、他にもビースミルやボールミルなども挙げられるが、粉砕効果が大きすぎることやビーズやボールなどのメディアの混入による品質の低下の懸念がある。
【0040】
次に、粒子研磨工程で得られた、溶媒内で無機粒子と無機微粒子とが生成された流動体から溶媒を除去することで、無機粒子の表面に無機微粒子を付着させた無機フィラー粉末を生成する(乾燥工程)。
【0041】
この乾燥工程では、例えば、加熱式乾燥機を用いて、例えば80℃~100℃程度で流動体を加熱することで、流動体から溶媒を蒸発させるとともに、この溶媒の蒸発過程で無機粒子の表面に無機微粒子を付着(固着)させる。
これにより、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造であり、無機微粒子による無機粒子の表面の被覆率が30%以上の無機フィラー粉末が得られる。
【0042】
なお、本実施形態における粒径は、メジアン径(中央径)、即ち頻度の累積が50%になる平均粒子径D50である。こうした平均粒子径D50の測定は、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置(MT3300EXII:マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて行った。
【0043】
(熱伝導性高分子組成物の製造方法)
本実施形態の熱伝導性高分子組成物の製造方法は、上述した本実施形態の無機フィラー粉末をマトリックス材料に混練する。無機フィラー粉末をマトリックス材料、例えば樹脂に混錬するには、例えば、自転・公転式のミキサー(練太郎:株式会社シンキー製)を用いることができる。
【0044】
本実施形態の熱伝導性高分子組成物は、マトリックス材料中に本実施形態の無機フィラー粉末を含むものからなる。例えば、マトリックス材料100質量部に対して、本実施形態の無機フィラー粉末を1200質量部~7000質量部加え、ミキサーによって混練することによって、本実施形態の熱伝導性高分子組成物を製造することができる。
【0045】
この時、無機フィラー粉末は、粒径が1μm以上の無機粒子の表面の少なくとも一部を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した構造のため、原料アルミナ粒子をそのままアルミナフィラーとして用いた場合と比較して、得られる熱伝導性高分子組成物の硬さあるいは粘度を同程度にしたまま、無機フィラー粉末の充填量を多くすることができる。これにより、熱伝導率の大きい熱伝導性高分子組成物を得ることができる。
【0046】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0047】
以下、本発明の効果を検証した検証結果を示す。
無機原料粉末として、電融アルミナ粉末V325F(平均粒子径D50=11.1μm:日本軽金属株式会社製)を用いた。イオン交換水で電融アルミナ粉末を濃度72質量%のスラリーとし、乳化・分散装置(アスペックディスパーサーZERO 広島メタル&マシナリー株式会社製)を用い、攪拌ローターの周速を32m/sないし35m/s、時間を3分、30分、45分、60分にそれぞれ設定し、電融アルミナ粉末の研磨処理を行い、流動体を得た。
次に、加熱炉を用いて流動体を90℃に加熱して、溶媒である水を蒸発させ、残留物を乳鉢で粉砕することにより無機フィラー粉末を得た。
【0048】
そして、得られた無機フィラー粉末と、マトリックス材料としてブタジエン系ポリマー(R-45HT:出光興産株式会社製)とを、自転・公転式のミキサー(あわとり練太郎:株式会社シンキー製)を用いて混錬して熱伝導性高分子組成物を得た。
この時、マトリックス材料を100質量部に対して無機フィラー粉末を1400質量部加えた。
【0049】
(検証例1)
上述したそれぞれの研磨時間で得られた無機フィラー粉末の電子顕微鏡写真を撮影した。研磨時間3分の場合を図5、研磨時間30分の場合を図6、研磨時間45分の場合を図7、研磨時間60分の場合を図8にそれぞれ示す。
なお、図5図8に示すそれぞれの写真において、黒い背景部分は1つの無機粒子の表面の一部が拡大されたものであり、この背景部分の上に表示されている0.1μm未満の多数の粒子が無機微粒子である。
【0050】
そして、これら図5図8のそれぞれの電子顕微鏡写真において、任意の矩形領域(0.5μm×0.5μm)をそれぞれ3か所(視野1~3)設定し、図3に示すような二値化処理を行った後、無機粒子の無機微粒子による被覆率(%)を算出した。この被覆率の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1によれば、研磨を行う時間が長くなるほど被覆率が高まることが確認された。無機原料粉末である電融アルミナ粉末を溶媒に拡散させた原料スラリーを10m/分以上の周速で旋回流動させて無機原料粉末を研磨することによって、粒径が1μm以上の無機粒子の表面を、粒径が10nm以上、0.1μm未満の無機微粒子で被覆した無機フィラー粉末を生成できることが確認された。
【0053】
(検証例2)
次に、研磨時間3分の無機フィラー粉末(平均被覆率21.4%)、研磨時間30分の無機フィラー粉末(平均被覆率30.1%)、研磨時間45分の無機フィラー粉末(平均被覆率56.2%)、研磨時間60分の無機フィラー粉末(平均被覆率90.9%)、および研磨を行わない原料である電融アルミナ粉末(平均被覆率14.5%)を用いたそれぞれの熱伝導性高分子組成物の硬さを測定した。
硬さの測定:デュロメータ(アスカーゴム硬さ計A型:高分子計器株式会社)
【0054】
そして、原料である電融アルミナ粉末を用いた熱伝導性高分子組成物の硬さに対して、研磨時間を変えたそれぞれの無機フィラー粉末を用いた熱伝導性高分子組成物の硬さの改善率(%)を測定した。
硬さ改善率(%)=無機フィラー粉末を用いた熱伝導性高分子組成物の硬さ/電融アルミナ粉末を用いた熱伝導性高分子組成物の硬さ×100
この結果を図9にグラフで示す。
【0055】
図9に示す結果によれば、無機粒子に対する無機微粒子の平均被覆率が30%以上の無機フィラー粉末を用いて熱伝導性高分子組成物を製造することによって、研磨処理を行わない電融アルミナ粉末を用いた従来の熱伝導性高分子組成物よりも、硬さが40%以上柔らかくなり、大幅に柔軟性を高められることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9