(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126279
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】加熱殺菌用包装袋
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20220823BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220823BHJP
B65D 81/24 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B32B27/00 H
B65D65/40 D
B65D81/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024267
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 茂樹
【テーマコード(参考)】
3E067
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E067AA11
3E067AB01
3E067AB41
3E067AB81
3E067AC01
3E067BA12A
3E067BB15A
3E067BB16A
3E067BB25A
3E067BB26A
3E067CA05
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3E067EA06
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3E086BB74
3E086CA01
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4F100AA20C
4F100AH06B
4F100AH06D
4F100AK01D
4F100AK03E
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4F100EH20E
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4F100GB16
4F100JB09D
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4F100JD03
4F100JD04
4F100JJ03
4F100JK06
4F100JL12E
(57)【要約】
【課題】透明性に優れて内容物が透視可能であり、高いガスバリア性を持ち、しかも、金属探知器に適用可能であるだけでなく、加熱殺菌処理を施した後にも高いガスバリア性を維持し、また、破袋やデラミネーションの生じ難い包装袋を提供する。
【解決手段】本発明に係る加熱殺菌用包装袋は、基材フィルム、プライマー層、酸化珪素蒸着層、ガスバリア被覆層、熱融着層をこの順に積層した積層体から成る。プライマー層は、特定の部分構造を有する繰り返し単位を含有するアクリルポリオール、イソシアネート、及びシランカップリング剤を互いに反応させてなり、ガスバリア被覆層が、2種類のケイ素化合物又はその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子とを有する塗布液を塗布乾燥して形成してなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム、プライマー層、酸化珪素蒸着層、ガスバリア被覆層、熱融着層をこの順に積層した積層体から成る加熱殺菌用包装袋であって、
前記プライマー層が下記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含有するアクリルポリオール、イソシアネート、及びシランカップリング剤を互いに反応させてなり、
前記ガスバリア被覆層が、ケイ素化合物、又は、その加水分解物もしくは縮合体と、水酸基を有する水溶性高分子とを有する塗布液を塗布乾燥して形成してなり、
前記ケイ素化合物が、下記(a)~(b)の2種類を含有し、(a)成分と(b)成分とは、(a)成分をSiO
2に、(b)成分をR
2Si(OH)
3に質量換算した場合、R
2Si(OH)
3の固形分が全固形分に対し1~50質量%であり、かつ、(a)成分をSiO
2に、(b)成分をR
2Si(OH)
3に質量換算した場合、固形分の配合比が質量比でSiO
2/(R
2Si(OH)
3+水溶性高分子)=100/100~100/30の範囲内であることを特徴とする加熱殺菌用包装袋。
【化1】
式(I)中、Q
Aは式中に示されるエステル結合を表し、R
Aは置換基を表し、n1は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表し、**は式中のフェニル基との結合部位を表す。
【化2】
式(II)中、Q
Bは式(I)中のQ
Aで表されるエステル結合以外の連結基又は単結合を表し、R
Bは置換基を表し、n2は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表す。但し、少なくとも1つのR
Bは水酸基を表す。
(a)下記一般式(III)で表されるケイ素化合物又はその加水分解物。
Si(OR
1)
4…(III)
ただし、一般式(III)中、R
1はCH
3,C
2H
5,またはC
2H
4OCH
3を表す。
(b)一般式(IV)で表されるケイ素化合物、又は、その加水分解物もしくは縮合体。
(R
2Si(OR
3)
3)n…(IV)
ただし、一般式(IV)中R
2は有機官能基を表し、R
3はCH
3,C
2H
5,またはC
2H
4OCH
3を表す。また、nは1以上を表す。
【請求項2】
前記アクリルポリオール中の前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位の含有率が、前記アクリルポリオールの全繰り返し単位に対し2モル%以上50モル%以下である、請求項1に記載の熱殺菌用包装袋。
【請求項3】
前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位が、(メタ)アクリレート系モノマー由来の繰り返し単位、(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の繰り返し単位、およびN-置換マレイミド系モノマー由来の繰り返し単位のいずれかである、請求項1又は2に記載の熱殺菌用包装袋。
【請求項4】
前記アクリルポリオールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、炭素数1~5個の直鎖又は分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位、及び/又は、フェノール性水酸基以外の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位を更に含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱殺菌用包装袋。
【請求項5】
前記アクリルポリオールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、オレフィン系繰り返し単位を更に含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱殺菌用包装袋。
【請求項6】
前記アクリルポリオールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、ハロゲン原子含有繰り返し単位を更に含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱殺菌用包装袋。
【請求項7】
前記(b)成分が下記一般式(V)で表される三量体1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1に記載の加熱殺菌用包装袋。
(NCO-R4Si(OR3)3)3…(V)
ただし、一般式(V)中R4は(CH2)nを表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す。また、nは1以上を表す。
【請求項8】
ガスバリア被覆層と熱融着層とが、ドライラミネーション用接着剤により接着されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の加熱殺菌用包装袋。
【請求項9】
ガスバリア被覆層と熱融着層との間にポリアミドフィルムが積層されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の加熱殺菌用包装袋。
【請求項10】
透明性を有することを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の加熱殺菌用包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明バリアフィルムを使用した包装袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、食品及び医薬品や電子部材等の非食品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制し、内容物の機能や性質を保持するために、包装袋を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これら気体(ガス)を遮断するガスバリア性を備えることが求められている。
【0003】
従来、ガスバリア層としては、ポリビニルアルコールとエチレンビニル共重合体やポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等の樹脂フィルム、これらの樹脂をコーティングしたプラスチックフィルム、あるいはアルミニウム等の金属からなる金属箔やそれら金属蒸着フィルム等が主に用いられてきた。
【0004】
また、ガスバリア性樹脂フィルムとしては、例えば、樹脂からなる基材上に、Si(O-CH3)4等のアルコキシシランと、エポキシシラン等のシランカップリング剤と、ポリビニルアルコールを含む組成物をゾル-ゲル法により重縮合して得られる被覆層を設けた積層フィルムが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この被覆層は、水素結合からなるため、水により膨潤して溶解しやすかった。このため、ボイルやレトルト処理等の過酷な条件下ではガスバリア性が劣化し易かった。
【0005】
一方、金属箔や金属蒸着フィルムは、ガスバリア性に優れるが、包装袋を透視して内容物が確認できないこと、検査の際に金属探知器が使用できないこと、及び廃棄の際に不燃物として処理しなければならないこと等の課題があった。また、ガスバリア性樹脂フィルム、及びガスバリア性樹脂をコーティングしたフィルムは、温湿度依存性が大きく、十分なガスバリア性を維持できない。更に、ガスバリア性樹脂として使用される塩化ビニリデンやポリアクリロニトリル等は、廃棄・焼却の際に有害物質の原料となりうる可能性がある。
【0006】
このようなことから、例えば、特許文献2に、無機化合物からなる蒸着層を第1層とし、金属アルコキシドまたは塩化錫と水溶性高分子とを含む溶液を塗布し、加熱乾燥してなるガスバリア被覆層を第2層として順次積層したガスバリア性包材が提案されている。このガスバリア包材は、高いガスバリア性を示し、かつ耐水性、耐湿性を有すると共に、ある程度の耐熱性は有する。しかしながら、ガスバリア包材の被膜第2層は金属アルコキシド加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子との水素結合からなるため、ボイル及びレトルト殺菌のような処理が必要な包材として使用すると、被膜層が膨潤し、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣化するという問題があった。このような包材は、例えば輸液の一次包装袋などの非常に高いガスバリア性が要求される包材に関しては、多少の劣化でも使用することができない。
【0007】
また、基材へ無機酸化物蒸着層やガスバリア被覆層を積層したガスバリア性包材においては、ボイルやレトルト処理等の過酷な条件下で密着性が不十分である場合、基材と無機酸化物蒸着層の間でデラミネーションが生じ外観不良になったり、そのデラミネーション発生部分でガスバリア性が低下したりして、内容物が変質することが数多くあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2556940号公報
【特許文献2】特許第2790054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、透明性に優れて内容物が透視可能であり、高いガスバリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)を持ち、しかも、金属探知器に適用可能であるだけでなく、ボイル及びレトルト殺菌のような加熱殺菌処理を施した後にも、高いガスバリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)を維持し、また、破袋やデラミネーションが生じ難い包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の一実施態様に係る加熱殺菌用包装袋は、基材フィルム、プライマー層、酸化珪素蒸着層、ガスバリア被覆層、熱融着層をこの順に積層した積層体から成る加熱殺菌用包装袋であって、前記プライマー層が下記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位を含有するアクリルポリオールとイソシアネート及びシランカップリング剤を互いに反応させてなり、前記ガスバリア被覆層が、ケイ素化合物、又は、その加水分解物もしくは縮合体と、水酸基を有する水溶性高分子とを有する塗布液を塗布乾燥して形成してなり、前記ケイ素化合物が、下記(a)~(b)の2種類を含有し、(a)成分と(b)成分とは、(a)成分をSiO
2に、(b)成分をR
2Si(OH)
3に質量換算した場合、R
2Si(OH)
3の固形分が全固形分に対し1~50質量%であり、かつ、(a)成分をSiO
2に、(b)成分をR
2Si(OH)
3に質量換算した場合、固形分の配合比が質量比でSiO
2/(R
2Si(OH)
3+水溶性高分子)=100/100~100/30の範囲内であることを特徴とする。
【化1】
式(I)中、Q
Aは式中に示されるエステル結合を表し、R
Aは置換基を表し、n1は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表し、**は式中のフェニル基との結合部位を表す。
【化2】
式(II)中、Q
Bは式(I)中のQ
Aで表されるエステル結合以外の連結基又は単結合を表し、R
Bは置換基を表し、n2は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表す。但し、少なくとも1つのR
Bは水酸基を表す。
(a)下記一般式(III)で表されるケイ素化合物又はその加水分解物。
Si(OR
1)
4…(III)
ただし、一般式(III)中、R
1はCH
3,C
2H
5,またはC
2H
4OCH
3を表す。
(b)一般式(IV)で表されるケイ素化合物、又は、その加水分解物もしくは縮合体。
(R
2Si(OR
3)
3)n…(IV)
ただし、一般式(IV)中R
2は有機官能基を表し、R
3はCH
3,C
2H
5,またはC
2H
4OCH
3を表す。また、nは1以上を表す。
【0011】
前記アクリルポリオール中の前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位の含有率が、前記アクリルポリオールの全繰り返し単位に対し2モル%以上50モル%以下であることが好ましい。
【0012】
また、前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位は、(メタ)アクリレート系モノマー由来の繰り返し単位、(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の繰り返し単位、およびN-置換マレイミド系モノマー由来の繰り返し単位のいずれかであってもよい。
【0013】
また、前記アクリルポリオールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、炭素数1~5個の直鎖又は分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位、及び/又は、フェノール性水酸基以外の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位を更に含有してもよい。
【0014】
また、前記アクリルポリールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、オレフィン系繰り返し単位を更に含有してもよい。
【0015】
また、前記アクリルポリールが前記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位に加え、ハロゲン原子含有繰り返し単位を更に含有してもよい。
【0016】
また、前記(b)成分が下記一般式(V)で表される三量体1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることが好ましい。
(NCO-R4Si(OR3)3)3…(V)
ただし、一般式(V)中R4は(CH2)nを表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す。また、nは1以上を表す
【0017】
また、ガスバリア被覆層と熱融着層とが、ドライラミネーション用接着剤により接着されていてもよい。
【0018】
また、ガスバリア被覆層と熱融着層との間にポリアミドフィルムが積層されていてもよい。
【0019】
また、上記の加熱殺菌用包装袋は、透明性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
このため、本発明によれば、透明性に優れ、高いガスバリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)を持ち、しかも、金属探知器に適用可能であるばかりでなく、加熱殺菌処理の後にも、高いガスバリア性(酸素バリア性及び水蒸気バリア性)を有し、破袋やデラミネーションの生じ難い包装袋を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の包装袋を構成する包装材料の例を示す断面説明図。
【
図2】本発明の包装袋を構成する包装材料の別の例を示す断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の包装袋は、
図1に示すように、基材フィルム1、プライマー層2、酸化珪素蒸着層3、ガスバリア被覆層4、熱融着層5をこの順に積層した積層体から成るものである。ガスバリア被覆層4と熱融着層5とは、ドライラミネーション用接着剤から形成された接着剤層ad1で接着することができる。
【0023】
また、本発明に係る積層体は、
図2に示すように、ガスバリア被覆層4と熱融着層5との間にポリアミドフィルム6が積層されていてもよい。ガスバリア被覆層4とポリアミドフィルム6、ポリアミドフィルム6と熱融着層5とは、それぞれ、ドライラミネーション用接着剤から形成された接着剤層ad2,ad3で接着することができる。
【0024】
次に、本発明の積層体を構成する基材フィルム1及び各層2~6の材質を、各層の形成方法と併せて説明する。
【0025】
本発明に使用される基材フィルム1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、6,6-ナイロン等のポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等のエンプラフィルム等があげられる。この基材フィルム1は、延伸、未延伸のどちらでも良く、また機械強度や寸法安定性を有するものが良い。特に、これらの中で二軸方向に任意に延伸されたフィルムが好ましく用いられる。更に、包装材料に使用する場合、価格面、防湿性、充填適性、風合い、及び廃棄性を考慮すると、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルムが好ましいが、中でもポリエステルフィルムがより好ましい。なお、この基材フィルム1は、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤を添加したものであってもよい。
【0026】
基材フィルム1の厚さは特に制限を受けるものでないが、包装材料としての適性、および加工性を考慮すると、実用的には3~200μmが好ましく、より好ましくは6~30μmである。
【0027】
また、密着性を良くするために、基材フィルム1の表面に、前処理としてコロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理などを施すことができる。更に、基材の表面に薬品処理、及び溶剤処理等を施すことができる。特に、プラズマ処理は基材表面と次に積層させるプライマー層2との密着を強固にするため好ましい。
【0028】
次に、プライマー層2に使用されるアクリルポリオールは、下記一般式(I)または(II)で表される部分構造を有する繰り返し単位(以下において、「繰り返し単位(A)」という。)を含有する。
【化3】
【0029】
式(I)中、QAは式中に示されるエステル結合を表し、RAは置換基を表し、n1は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表し、**は式中のフェニル基との結合部位を表す。
【0030】
RAにより表される置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素数1~5のアルキル基)、シクロアルキル基(例えば、炭素数3~6のシクロアルキル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基又はエトキシ基)、水酸基、アセチル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、ハロゲン原子等が挙げられる。n1は、上記の通り1~5の整数を表し、1~3の整数であってもよい。n1が2以上の整数の場合、複数存在するRAは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0031】
【0032】
式(II)中、QBは式(I)中のQAで表されるエステル結合以外の連結基又は単結合を表し、RBは置換基を表し、n2は1~5の整数を表し、*は前記繰り返し単位の残部との結合部位を表す。但し、少なくとも1つのRBは水酸基を表す。
【0033】
QBは、上記の通り、QAで表されるエステル結合以外の連結基又は単結合を表し、QAで表されるエステル結合以外の連結基としては、例えば、-CONR-(Rは、水素原子、又はアルキル基を表す。)、アルキレン基(例えば、炭素数1~4のアルキレン基)、ウレタン結合、エーテル結合、*-O-CO-**で表されるエステル結合(**は式(II)中のフェニル基との結合部位を表す。)等が挙げられる。
【0034】
RBにより表される置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、炭素数1~5のアルキル基)、シクロアルキル基(例えば、炭素数3~6のシクロアルキル基)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)、水酸基、アセチル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基、ハロゲン原子等が挙げられる。但し、上記の通り、少なくとも1つのRBは水酸基を表す。
【0035】
n2は、上記の通り1~5の整数を表し、あるいは1~3の整数であってもよい。n2が2以上の整数の場合、複数存在するRBは同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
繰り返し単位(A)は、上述した一般式(I)または(II)で表される部分構造を有するものであればよいが、例えば、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する繰り返し単位であってよく、(メタ)アクリルアミド系モノマーに由来する繰り返し単位であってよく、N-置換マレイミド系モノマーに由来する繰り返し単位であってよく、またはスチレン系モノマーに由来する繰り返し単位であってよい。
【0037】
繰り返し単位(A)が(メタ)アクリレート系モノマー由来の繰り返し単位であるとき、(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、4-メトキシフェニル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、2,6-ジ-tert-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシフェニル(メタ)アクリレート、2-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート,3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-4-tert-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、2,4-ジ-メチル-6-tert-ブチルフェニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
繰り返し単位(A)が(メタ)アクリルアミド系モノマー由来の繰り返し単位であるとき、(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、N-(4-ヒドロキシフェニル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0039】
繰り返し単位(A)がN-置換マレイミド系モノマー由来の繰り返し単位であるとき、N-置換マレイミド系モノマーとしては、例えば、4-ヒドロキシフェニルマレイミド、3-ヒドロキシフェニルマレイミド等が挙げられる。
【0040】
繰り返し単位(A)がスチレン系モノマー由来の繰り返し単位であるとき、スチレン系モノマーとしては、α-メチル-p-ヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0041】
本実施形態において、アクリルポリオールは、繰り返し単位(A)とは異なる1種又は2種以上の繰り返し単位をさらに含有する2元又は3元以上の共重合体であることが好ましい。この場合において、アクリルポリオール中の繰り返し単位(A)の含有率は、アクリルポリオール中の全繰り返し単位に対し、2モル%以上50モル%の範囲であることが好ましい。アクリルポリオール中の繰り返し単位(A)の含有率が2モル%以上の場合、プライマー層の熱劣化をより効果的に抑制することができる。
【0042】
また、アクリルポリオール中の繰り返し単位(A)の含有率が50モル%以下の場合、プライマー層の熱劣化の抑制効果を維持しつつ、加熱時の黄変の発生や、クラックを抑制することができる。同様の観点から、アクリルポリオール中の繰り返し単位(A)の含有率は、2モル%以上30モル%以下であってよく、あるいは2モル%以上20モル%以下であってよい。
【0043】
本実施形態において、アクリルポリオールが共重合体である場合に含有し得る、繰り返し単位(A)とは異なる繰り返し単位(以下において、「共重合成分」という。)としては、例えば、(メタ)アクリレート系繰り返し単位、オレフィン系繰り返し単位、ハロゲン原子含有繰り返し単位、スチレン系繰り返し単位、酢酸ビニル系繰り返し単位、ビニルアルコール系繰り返し単位等が挙げられる。
【0044】
共重合成分である(メタ)アクリレート系繰り返し単位としては、例えば、直鎖または分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系モノマー由来の繰り返し単位、水酸基(フェノール性水酸基を除く)を側鎖に有する(メタ)アクリレート系モノマー由来の繰り返し単位等が挙げられる。
【0045】
直鎖または分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等のモノマー由来成分が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上併用してもよい。上記の中でも炭素数が1以上4以下の直鎖または分岐アルキル基を側鎖に有する(メタ)アクリレート系繰り返し単位を好適に用いることができる。
【0046】
フェノール性水酸基以外の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系繰り返し単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等のモノマー由来成分が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
共重合成分であるオレフィン系繰り返し単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン等のオレフィン系モノマー由来成分が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
共重合成分であるハロゲン原子含有繰り返し単位としては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のモノマー由来成分が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
共重合成分であるスチレン系繰り返し単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー由来成分が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、および、グラフト共重合体のいずれの構造を有していてもよい。共重合体の構造がランダム共重合体であれば、製造工程が容易である。そのため、ランダム共重合体は、他の共重合体よりも好ましい。
【0051】
共重合体を得るための重合方法には、ラジカル重合を用いることができる。ラジカル重合は、工業的な生産が容易である点で好ましい。ラジカル重合は、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、および、懸濁重合法などであってよい。ラジカル重合には、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いることによって、共重合体における分子量の制御が容易である。
【0052】
ラジカル重合では、上述したモノマーを重合溶剤によって希釈した後に、重合開始剤を加えてモノマーの重合を行ってもよい。
【0053】
重合溶剤は、例えば、エステル系溶剤、アルコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、アミド系溶剤、および、アルコール系溶剤などであってよい。エステル系溶剤は、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、乳酸メチル、および、乳酸エチルなどであってよい。アルコールエーテル系溶剤は、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、および、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどであってよい。ケトン系溶剤は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、および、シクロヘキサノンなどであってよい。芳香族系溶剤は、例えば、ベンゼン、トルエン、および、キシレンなどであってよい。アミド系溶剤は、例えば、ホルムアミド、および、ジメチルホルムアミドなどであってよい。アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、および、2-メチル-2-ブタノールなどであってよい。なお、上述した重合、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
ラジカル重合において、重合溶剤を使用する量は特に限定されないが、モノマーの合計を100質量部に設定する場合に、重合溶剤の使用量は、1質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
【0055】
ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物およびアゾ化合物などであってよい。過酸化物は、例えば、ベンゾイルペルオキシド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、および、ジ-t-ブチルパーオキシドなどであってよい。アゾ化合物は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスアミジノプロパン塩、アゾビスシアノバレリックアシッド(塩)、および、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などであってよい。
【0056】
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマーの合計を100質量部に設定した場合に、0.0001質量部以上20質量部以下であることが好ましく、0.001質量部以上15質量部以下であることがより好ましく、0.005質量部以上10質量部以下であることがさらに好ましい。ラジカル重合開始剤は、モノマーおよび重合溶剤に対して、重合開始前に添加されてもよいし、重合反応系中に滴下されてもよい。ラジカル重合開始剤をモノマーおよび重合溶剤に対して重合反応系中に滴下することは、重合による発熱を抑制することができる点で好ましい。
【0057】
ラジカル重合の反応温度は、ラジカル重合開始剤および重合溶剤の種類によって適宜選択される。反応温度は、製造上の容易性、および、反応制御性の観点から、60℃以上110℃以下であることが好ましい。
【0058】
次に、プライマー層2に使用されるイソシアネートは、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するものであればよい。例えば、モノマー系イソシアネートとして、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)などの脂肪族系イソシアネート、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族系イソシアネートなどを用いてもよい。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体又は誘導体も用いてもよい。該重合体又は誘導体としては、例えば、3量体のヌレート型、1,1,1-トリメチロールプロパンなどと反応させたアダクト型、ビウレットと反応させたビウレット型などが挙げられる。イソシアネート化合物としては、上記のモノマー系イソシアネート、その重合体、誘導体等のなかから任意に選択してよく、1種を単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0059】
次に、プライマー層2に使用されるシランカップリング剤は、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するもの、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するもの、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基を有するものなどが挙げられる。また、シランカップリング剤としては1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0060】
プライマー層2の厚みは、一般的には乾燥後の厚さで、0.005~5μmの範囲になるようにコーティングする事が望ましく、より好ましくは0.01~1μmである。0.01μm未満の場合は塗工技術の点から均一な塗膜が得られ難く、逆に1μmを越える場合は不経済となる傾向がある。
【0061】
次に、酸化珪素蒸着層3は、例えば、真空蒸着法を利用して形成することができる。緻密性やプライマー層2に対する密着性を向上させるため、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着してもよい。また、酸素ガスを吹き込みつつ蒸着を行う反応蒸着法を使用することによって、形成される酸化珪素蒸着層3の透明性を一層高めることができる。
【0062】
酸化珪素蒸着層3は、ガスバリア性と共にその柔軟性を考慮して、その厚みを決定すること望ましい。酸化珪素蒸着層3の厚みが薄過ぎると、ガスバリア層としての機能を十分に果たすことが困難になる。一方、酸化珪素蒸着層3の厚みが厚過ぎると、残留応力により柔軟性を維持できず、成膜後の外的要因によって亀裂が生じるおそれがある。5~300nmの範囲の厚さの酸化珪素蒸着層3は、十分なガスバリア性と柔軟性とを備えている。好ましくは10~300nmである。
【0063】
次に、ガスバリア被覆層4は、次の(a)成分を主成分とし、そのガスバリア性を維持したまま柔軟性を向上するために水溶性高分子を加え、さらに耐水性を向上させるために(b)成分を加えて塗布液とし、この塗布液を塗布して被膜を形成し、加熱乾燥することにより、(a)成分及び(b)成分を加水分解して形成したものである。なお、(a)成分及び(b)成分の加水分解を制御するために一般的に知られている触媒、塩化錫やアセチルアセトナートなどを添加しても問題ない。また、インキ、接着剤との密着性、濡れ性、収縮によるクラック発生防止を考慮して、イソシアネート化合物、コロイダルシリカやスメクタイトなどの粘土鉱物や、安定化剤、着色剤、粘度調整剤などの公知の添加剤などを、ガスバリア性や耐水性を阻害しない範囲で塗布液に添加する事ができる。
(a)下記一般式(III)で表されるケイ素化合物又はその加水分解物。
Si(OR1)4…(III)
ただし、一般式(III)中、R1はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す。
(b)一般式(IV)で表されるケイ素化合物、又は、その加水分解物もしくはその縮合体。
(R2Si(OR3)3)n…(IV)
ただし、一般式(IV)中、R2は有機官能基を表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す。また、nは1以上を表す。
【0064】
(a)成分はガスバリア被覆層4の主成分であり、上記一般式(III)で表される化合物である。例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが例示できる。
【0065】
また、水溶性高分子は、(a)成分を主成分とするガスバリア被覆層4に、そのガスバリア性を維持したまま柔軟性を向上させるもので、例えば、ポリビニルアルコール、でんぷん、セルロース類が好ましく使用できる。特にポリビニルアルコール(以下PVA)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れる。なぜならPVAはモノマー単位中に最も多く水酸基を含む高分子であるため、加水分解後の金属アルコキシドの水酸基と非常に強固な水素結合を形成する。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含む。PVAの分子量は重合度が300~数千まで多種あるが、どの分子量のものを用いても効果に問題はない。しかし一般的にケン化度が高く、また重合度が高い高分子量のPVAは耐水性が高いため好ましい。
【0066】
次に、(b)成分はガスバリア被覆層4の耐水性を向上させるもので、上記一般式(IV)で表されるケイ素化合物又はその加水分解物である。
【0067】
(b)成分としては、その有機官能基R2が、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、及びイソシアネート基等の非水性官能基である化合物が使用できる。非水官能基は、官能基が疎水性であるため、耐水性はさらに向上する。
【0068】
しかしながら、有機官能基(R2)がウレイド基の場合は、その化合物に特有の臭気があり、また、イソシアネート基の場合は、反応性が高く、ポットライフが短いという欠点がある。
【0069】
また、有機官能基R2として3-グリシドキシプロピル基あるいは2-(3,4エポキシシクロヘキシル)基を有する化合物を使用すると、これらの有機官能基は、加水分解により、一般式(III)のSi(OR1)4及び水溶性高分子と水素結合を形成するために、バリアの孔になり難く、ガスバリア性を損なうことなく耐水性を向上することができる。しかしながら、このようなエポキシ系シラン化合物の一部は、変異原性を有する場合がある。また、有機官能基(R2)が、ビニル及びメタクリロキシの場合、製造過程で紫外線または電子線等の照射が必要となり設備及び工程の増加によりコスト高を招く傾向がある。
【0070】
一方、(b)成分として、下記一般式(V)で表される三量体1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを使用する場合には、これらの欠点がなく、耐水性を向上して、しかも、ガスバリア性の低下も防ぐことができる。
(NCO-R4Si(OR3)3)3…(V)
(但し、一般式(V)中、R4は(CH2)nを表し、R3はCH3,C2H5,またはC2H4OCH3を表す。また、nは1以上を表す)。
【0071】
すなわち、この1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートは、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの縮合体であり、縮合によって、イソシアヌレート部には化学的反応性はなくなるけれども、ヌレート部の極性により、縮合前の3-イソシアネートプロピルアルコキシシランと同様の性能を示すことが知られている。よって、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートを添加することにより、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの添加と同様に、ガスバリア被覆層4が水による膨潤することを防ぎ、耐水性を向上させることができる。また、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランは、反応性が高く、液安定性が低いのに対し、ヌレート部はその極性により水溶性ではないが、水系液中に分散しやすく、液粘度を安定に保つことができ、その耐水性性能は3-イソシアネートプロピルアルコキシシランと同等である。さらに、ヌレート部は耐水性があるのみでなく、その極性によりSi(OR1)4と、水酸基を有する水溶性高分子はバリアの孔になりにくく、ガスバリア性の低下を防ぐことができる。
【0072】
なお、1,3,5-トリス(3-トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートは、3-イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱縮合により製造されるものもあり、原料の3-イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。さらに好ましくは、1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである。メトキシ基は、加水分解速度が早く、また、プロピル基を含むものは比較的安価に入手し得ることから、1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートは実用上有利である。
【0073】
次に、(a)成分と(b)成分とは、(a)成分をSiO2に、(b)成分をR2Si(OH)3に質量換算した場合、R2Si(OH)3の固形分が全固形分((a)成分及び(b)成分の合計)の対し1~50質量%であることが好ましい。この範囲であれば、ガスバリア被覆層4は、ボイル及びレトルト殺菌処理のような過酷な処理にも劣化しない耐水性の高いガスバリア性が得られる。1質量%未満であると耐水性効果が低くなる傾向があり、50質量%を超えると、官能基がガスバリア被覆層の孔となるために、ガスバリア性が低下する傾向がある。ボイル、レトルト殺菌処理に必要な耐水性と、高いガスバリア性をより良好にするためには、より好ましくは、上記固形分は全固形分に対し5~30質量%である。
【0074】
また、(a)成分をSiO2に、(b)成分をR2Si(OH)3に質量換算した場合、固形分の配合比が質量比でSiO2/(R2Si(OH)3+水溶性高分子)=100/100~100/30の範囲内であれば、ボイル及びレトルト殺菌処理に必要な耐水性と高いガスバリア性はもちろん、包装材料として考えた場合の被膜柔軟性によるフレキシブル性が十分付与され好ましい。
【0075】
これら3成分の混合の順序は任意であってよい。どの順番で混合しても効果は発現する。(a)成分や(b)成分が塗布液中で分散せずに油滴状に存在するような場合は、上述のように加水分解を行い、微分散させることが好ましい。特に(a)成分と(b)成分を別々に加水分解してから水溶性高分子に添加することが、SiO2の微分散およびSi(OR1)4の加水分解効率の観点から望ましい。
【0076】
乾燥後のガスバリア被覆層4の厚みは特に限定しないが、厚みが50μm以上を越えるとクラックが生じ易くなる可能性があるため、0.01~50μmとすることが望ましい。
【0077】
ガスバリア被覆層4の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。
【0078】
塗布膜の乾燥法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射などガスバリア被覆層に熱をかけて、水分子を飛ばす方法であれば、これらのいずれでも、またこれらを2つ以上組み合わせてもかまわない。この乾燥により(a)成分及び(b)成分が加水分解して、ガスバリア性のガスバリア被覆層4を形成することができる。
【0079】
熱融着層5としては、例えば、無延伸ポリオレフィンフィルムを使用することができる。その厚みは5~300μmでよい。好ましくは10~100μmである。
【0080】
この熱融着層5とガスバリア被覆層4とはドライラミネーション用接着剤ad1により接着することができる。接着剤ad1は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート、その他のコーティング方法で塗布できる。また、その塗布量は0.1~5.0g・m2(乾燥状態)程度が好ましい。
【0081】
次に、ポリアミドフィルム6は、包装袋の耐ピンホール性と耐衝撃性を向上させるもので、例えば、6-ナイロン、6,6-ナイロン、MXDナイロン等を使用することができる。二軸延伸したポリアミドフィルムが望ましく、その厚みは5~100μmでよい。好ましくは10~50μmである。このポリアミドフィルム6とガスバリア被覆層4とは、ドライラミネーション用接着剤ad2により接着することができる。また、ポリアミドフィルム6と熱融着層5は、ドライラミネーション用接着剤ad3により接着することができる。
【0082】
本発明によれば、金属アルコキシドとしてケイ素化合物を使用し、これと水酸基を有する水溶性高分子とを反応させることにより、ガスバリア被覆層は十分に不溶化される。
【0083】
すなわち、ケイ素化合物は加水分解後に縮合し、セラミック膜を形成する。しかしケイ素酸化物は硬く、さらに縮合時の体積縮小による歪みによりクラックが入りやすいため、フィルム上に薄く透明で均一な縮合体被膜を形成することは非常に困難である。そこで、高分子を添加することによってセラミック膜に柔軟性を付与しクラックを防止して造膜することができる。しかし高分子の添加は目視では均一でも、微視的には金属酸化物と高分子部分とに分離していることが多く、バリアの孔になりやすく、このため、ガスバリア性が低下する。なお、ここで、バリアの孔とは、膜の中で緻密なネットワークを作らず気体の透過を容易にする部分をいう。
【0084】
高分子として水酸基をもつ水溶性高分子を使用することにより、高分子の水酸基と金属アルコキシドの加水分解物の水酸基との強い水素結合を利用して、金属酸化物が縮合に際し高分子との間にうまく分散して、柔軟性を維持しながら、しかも、セラミックに近い高いガスバリア性を発現することができる。
【0085】
ただし、この場合にも、ケイ素化合物と水溶性高分子とからなるガスバリア被覆層は、水素結合からなるため、水により膨潤して溶解する。
【0086】
そこで、ケイ素化合物として、前記(a)成分と(b)成分とを反応させることにより、ガスバリア被覆層の膨潤を防ぎ、耐水性を著しく向上させる。すなわち、前記(b)成分は加水分解により、一般式(a)成分及び水溶性高分子と水素結合を形成するため、バリアの孔になり難く、また一方で、有機官能基はネットワークをつくることで、水溶性高分子が、その水素結合に水が付加することにより膨潤することを防ぎ、耐水性を著しく向上させる。このため、前記(a)成分~(b)成分及び水溶性高分子を反応させて得られたガスバリア被覆層4は、優れたガスバリア性と柔軟性に加えて、レトルトやボイル等の加熱殺菌処理に耐える耐水性を有するのである。
【0087】
また、これに加えて、基材フィルム上に、前記ガスバリア被覆層を前記酸化珪素蒸着層と組み合わせて設けることにより、さらに高いガスバリア性が得られる。さらに、基材フィルムと酸化珪素蒸着層との間に一般式(I)または(II)で表される部分構造を有するアクリルポリオールからなるプライマー層を有するため、ボイル殺菌処理及びレトルト殺菌処理後も、酸素透過率、及びラミネート強度等の劣化が見られず、さらに、蒸着層が基材フィルムから剥離することがほとんどない。
【実施例0088】
(実施例1)
厚さ12μmのポリエステルフィルムを基材フィルム1とし、この基材フィルム1に、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート由来の部分構造を20モル%含有するアクリルポリオール、イソシアネートとしてTDI系硬化剤、シランカップリング剤としてγ-イソシアネートプロピルトリメトキシシランを含む塗布液を塗布して、加熱乾燥して、厚さ1μmのプライマー層2を形成した。次に、このプライマー層2の上に、酸化珪素を蒸着して、厚さ200nmの酸化珪素蒸着層3を形成した。次に、この酸化珪素蒸着層3の上に、テトラメトキシシラン、1,3,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、PVAを含む塗布液を塗布し、加熱により、乾燥と共に珪素化合物を縮合させて厚さ1μmのガスバリア被覆層4を形成した。以下、このフィルムを、後述する比較例のフィルムと区別するため、「珪素系ガスバリアフィルム」と呼ぶ。
【0089】
次に、この珪素系ガスバリアフィルムに、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、熱融着層5として厚さ70μmのポリオレフィン系無延伸共押出フィルム(三井化学東セロ(株)製、商品名:RXC22)と貼り合せて積層体を製造した。そして、この積層体を互いに重ね合わせ、周囲をヒートシールして、長さ125mm、幅95mmの加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0090】
(実施例2)
実施例1に対し、アクリルポリオールとして、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート由来の部分構造に替えてフェニルメタクリレート由来の部分構造を有する化合物を使用した以外は実施例1と同様の方法で珪素系ガスバリアフィルムおよび加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0091】
(実施例3)
実施例1に対し、アクリルポリオールとして、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート由来の部分構造に替えて4-ヒドロキシフェニルメタクリルアミド由来の部分構造を有する化合物を使用した以外は実施例1と同様の方法で珪素系ガスバリアフィルムおよび加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0092】
(実施例4)
実施例1の珪素系ガスバリアフィルムに、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、厚さ15μmのポリアミドフィルム(興人(株)製、商品名ボニールW)と貼り合わせ、さらに、このポリアミドフィルムの上に、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、熱融着層5として厚さ70μmのポリオレフィン系無延伸共押出フィルム(三井化学東セロ(株)製、商品名:RXC22)と貼り合せて積層体を製造した。そして、この積層体を互いに重ね合わせ、周囲をヒートシールして、長さ125mm、幅95mmの加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0093】
(比較例1)
実施例1に対し、アクリルポリオールとして、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート由来の部分構造に替えてスチレン由来の部分構造を有する化合物を使用した以外は実施例1と同様の方法で珪素系ガスバリアフィルムおよび加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0094】
(比較例2)
実施例1に対し、アクリルポリオールとして、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート由来の部分構造に替えてヒドロキシエチルメタクリレート由来の部分構造を有する化合物を使用した以外は実施例1と同様の方法で珪素系ガスバリアフィルムおよび加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0095】
(比較例3)
実施例1に対し、プライマー層2の上に、酸化アルミニウムを蒸着して、厚さ200nmの酸化アルミニウム蒸着層を形成した。次に、この酸化アルミニウム蒸着層の上に、金属アルコキシドと水酸基を有する水溶性高分子とを含む塗布液を塗布し、加熱により、乾燥と共に金属アルコキシドを縮合させて厚さ1μmのガスバリア被覆層4を形成した。以下、このフィルムを、「アルミ系ガスバリアフィルム」と呼ぶ。
【0096】
次に、このアルミ系ガスバリアフィルムに、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、熱融着層5として厚さ70μmのポリオレフィン系無延伸共押出フィルム(三井化学東セロ(株)製、商品名:RXC22)と貼り合せて積層体を製造した。そして、この積層体を互いに重ね合わせ、周囲をヒートシールして、長さ125mm、幅95mmの加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0097】
(比較例4)
前記アルミ系ガスバリアフィルムに、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、厚さ15μmのポリアミドフィルム(興人(株)製、商品名ボニールW)と貼り合わせ、さらに、このポリアミドフィルムの上に、ドライラミネーション機を用いて接着剤(三井化学(株)製ドライラミネーション用接着剤、商品名:A525)を塗工し、熱融着層5として厚さ70μmのポリオレフィン系無延伸共押出フィルム(三井化学東セロ(株)製、商品名:RXC22)と貼り合せて積層体を製造した。そして、この積層体を互いに重ね合わせ、周囲をヒートシールして、長さ125mm、幅95mmの加熱殺菌用三方袋を製造した。
【0098】
(評価)
実施例1~4、比較例1~4の加熱殺菌用三方袋に50mlの純水を封入し、レトルト処理装置((株)日阪製作所製、商品名:RCS-40RTG.N)を使用して、温度130℃、時間30分の条件でレトルト殺菌した。
【0099】
そして、以下のように、レトルト殺菌前後の酸素バリア性、水蒸気バリア性を評価した。また、レトルト殺菌後の破袋強度について、耐圧試験及び落下試験によって評価した。さらに、基材と無機蒸着層の密着性については、レトルト殺菌後のデラミネーションの有無を目視で評価した。これらの結果を表1に示す。
【0100】
酸素バリア性は、温度30℃、湿度70%RHの条件で、JIS K7126に準拠してモコン法で酸素透過度を測定することによって評価した。また、水蒸気バリア性は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、JIS K7129に準拠してモコン法で酸素透過度を測定することによって評価した。いずれも数値が低い方がバリア性に優れていることを意味する。
【0101】
耐圧試験は、レトルト殺菌後の三方袋に80kgの加重をかけて1分間保持し、破袋した袋の数を数えた。落下試験は、レトルト殺菌後の三方袋を5℃の冷蔵庫で24時間保存した後、80cmの高さから、コンクリート床面に対して三方袋の平面部が当たるように2回落下させて、破袋した袋の数を数えた。いずれの試験もサンプル数5個であり、表中「0/5」は一つの破袋もなかったことを意味している。
【0102】
デラミネーション発生状況の観察は、レトルト殺菌処理後、パウチのシール部を180°折り曲げて行った。そして、目視観察の結果、無機酸化物蒸着層が基材フィルムからデラミネーションしたと認められた場合は×、デラミネーションが認められなかった場合は○で表した。
【0103】
【0104】
表1の結果から分かるように、耐圧試験、落下試験の点では、実施例1~4、比較例1~4の間で優位な相違はない。いずれも優れた破袋強度を有している。また、レトルト殺菌前後の酸素バリア性についても、これら実施例1~4、比較例1~4の間で優位な相違はない。
【0105】
一方、水蒸気バリア性については、比較例3~4の三方袋はレトルト殺菌後に大きく低下しているのに対して、実施例1~4、比較例1~2の三方袋では、レトルト殺菌後にも高いバリア性が維持されている。
【0106】
また、デラミネーションの評価においては、比較例1~2において、基材フィルムと無機酸化物蒸着層間の剥離が観察された。
【0107】
これらの結果から、本発明に係る包装袋は、レトルト殺菌の前後で優れた破袋強度、酸素バリア性を維持しながら、しかも、レトルト殺菌後の水蒸気バリア性を大きく改善し、基材と無機蒸着層の密着性が良好であることがわかる。