(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126312
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】圧延機スピンドルの位置調整システムおよび位置調整方法
(51)【国際特許分類】
B21B 35/14 20060101AFI20220823BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220823BHJP
B21B 38/10 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B21B35/14 B
B21C51/00 N
B21B38/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024318
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴則
(57)【要約】
【課題】ロール組替時にスピンドルとの接続不良を防止することができる技術を提供する。
【解決手段】スピンドルのロール側端面および外周の位置座標を測定する位置座標測定手段と、圧延設備の配置および装置の形状情報、および、測定された位置座標を用いて、スピンドルの位置および姿勢を決定するスピンドル位置決定手段と、スピンドルの位置および姿勢を調整するためのスピンドル位置調整手段と、を有する圧延機スピンドルの位置調整システムである。スピンドルレストに支持されたスピンドルのロール側端面および外周の位置座標を取得し、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報と、取得したスピンドルの位置座標を用いて、所定のスピンドル位置および姿勢にするためのスピンドルレストのライナ厚み調整量を計算し、厚み調整量に基づき、スピンドルを支持するスピンドルレストのライナ厚みを変更する圧延機スピンドルの位置調整方法である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルのロール側端面および外周を含む位置座標を測定する位置座標測定手段と、
圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報、ならびに、測定された位置座標を用いて、スピンドルの位置および姿勢を決定するスピンドル位置決定手段と、
決定されたスピンドルの位置および姿勢に調整するためのスピンドル位置調整手段と、を有する圧延機スピンドルの位置調整システム。
【請求項2】
前記位置座標測定手段は、圧延機ロール側の組替装置を決定する部位を用いて基準軸が選択されることを特徴とする請求項1に記載の圧延機スピンドルの位置調整システム。
【請求項3】
前記位置座標測定手段が、3次元形状を計測可能な計測器であることを特徴とする請求項1または2に記載の圧延機スピンドルの位置調整システム。
【請求項4】
スピンドルレストに支持されたスピンドルのロール側端面および外周を含む位置座標を取得する第一ステップと、
事前に取得した、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報、ならびに、第一ステップで取得したスピンドルの位置座標を用いて、所定のスピンドル位置および姿勢にするためのスピンドルレストのライナ厚み調整量を計算する第二ステップと、
第二ステップで得られた調整量に基づき、スピンドルを支持するスピンドルレストのライナ厚みを変更する第三ステップと、
を有する圧延機スピンドルの位置調整方法。
【請求項5】
前記スピンドルの位置座標を取得するにあたり、圧延機ロール側の組替装置を決定する部位を用いて基準軸を選択することを特徴とする請求項4に記載の圧延機スピンドルの位置調整方法。
【請求項6】
前記スピンドルの位置座標を取得するにあたり、3次元形状を計測可能な計測器を用いることを特徴とする圧延機スピンドルの位置調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機のロールに駆動装置(例えば主機モータ)の駆動力を伝達するスピンドルの位置調整システムおよび位置調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機のロールを交換する時、
図8に示すスピンドルカップリング6とロールネック7とを連結するに際しては、スピンドルカップリング6の上下・左右(水平)方向の位置精度および上下・左右の傾き精度が重要である。そこでこれらの精度を確保するため、従来、スピンドルキャリア10とスピンドルレスト100の両者のライナの厚み変更を行ってスピンドル1A、1Bのレベル調整を行っていた。
【0003】
スピンドルキャリア10は、
図8、
図9に示すとおり、上下スピンドル1A、1Bのスピンドル胴部2を昇降可能に軸支するスピンドル軸支材11A、11Bを備え、油圧シリンダ18、33のピストンロッド19、34を伸縮させることで、揺動レバー14および揺動レバー27を介してスピンドル軸支材11A、11Bをそれぞれ昇降させ、スピンドルのレベル調整を行うようにされている。このスピンドル軸支材11Aの両側部下面と左右の揺動レバー14の内端部との間にはライナ150が、また、スピンドル軸支材11Bの下部中央と揺動レバー27の内端部との間には上部と同様にライナ150が取り付けられている。
【0004】
スピンドルレスト100は、
図8、
図10に示すとおり、上下スピンドル1A、1Bのスピンドルカップリング6を昇降可能に支持するレストフレーム152を備え、油圧シリンダ153のピストンロッドを伸縮させることにより、レストフレーム152の上部内面両側と下部内面両側にそれぞれ設けたレストアーム110R、110Lとレストアーム120R、120Lでスピンドルカップリング6を昇降させ、スピンドルのレベル調整を行うようにされている。このレストアーム110R、110Lとレストアーム120R、120Lには、スピンドルカップリング6と接触するライナ130が取り付けられている。
【0005】
従来のスピンドルのレベル調整は、具体的に次のようにして行っていた。
A:スピンドルキャリア10によるスピンドルのレベル調整
(A1)まず、スピンドル軸支材11A、11Bを油圧シリンダ18、33で上昇させてそのレベル(軸芯位置)を、金尺等を用い、手作業で測定する。
(A2)該測定後にスピンドル軸支材11A、11Bを油圧シリンダ18、23によって下降させ、油圧・電源の2重切りを行う。
(A3)次いで、測定レベル値に応じてライナ150の厚み変更・取り替えを行う。
(A4)その後、油圧・電源の2重切りを解除し、スピンドル軸支材11A、11Bを油圧シリンダ18、23で再上昇させて、A1と同様に、そのレベル(軸芯位置)を測定する。
この測定レベル値が正常(許容値以内)であれば、スピンドルキャリア10のレベル調整は終了し、一方、異常であれば、スピンドルキャリアでの上記A2~A4の作業を繰り返し行う。
B:スピンドルレスト100によるスピンドルのレベル調整
油圧シリンダ153により上記Aと同様にしてレストフレーム152を昇降させ、測定レベル値(軸芯位置)に応じて、ライナ130の厚み変更を行いスピンドルのレベル調整を行う。
【0006】
ところで、このような従来のスピンドルのレベル調整においては、A、B2回の測定レベル値が正常になるまでライナの厚み変更を繰り返し行うため、レベル調整に長時間を要するという欠点があった。また、異なる厚みのライナの予備を多く持たなければならないという欠点があった。
【0007】
これらの欠点を解決し、ライナの厚み変更によらずにスピンドルのレベル調整を行う装置として、たとえば、特許文献1には、スピンドルが所定レベルに達した時にスピンドルキャリア10のスピンドル軸支材11A、11Bに当接してそれ以上の上昇を規制し、これにより該スピンドルを所定レベルに位置決めする当接部材を備え、該当接部材にスピンドル軸支材11A、11Bを当接させた状態で当接位置を調整可能にしたレベル調整装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、簡単な操作で短時間に高精度なスピンドルのレベル調整を行うことができるスピンドルのレベル調整装置およびレベル調整方法が開示されている。具体的には、駆動源からロール80A、80Bに動力を伝達する上下スピンドル1A、1Bを昇降自在に支持するレストフレーム152(
図1、2)を備え、そのレストフレーム152の上部内面両側と下部内面両側にそれぞれ上下スピンドルのスピンドルカップリング6とユニバーサルジョイント3の下部両側面を受けるレストアーム110R、L、120R、Lを設けることで、スピンドルキャリア10をレベル調整に用いなくても、上下スピンドル1A、1Bの上下・左右方向の位置および傾きを調整できるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09-66307号公報
【特許文献2】特開2001-300612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術には、未だ解決すべき以下のような問題があった。
特許文献1に記載されているスピンドルのレベル調整装置は、スピンドルキャリア10とスピンドルレスト100の2箇所において、レベル調整を行うためにレベルの調整が難しく、このためレベル調整に長時間を要するという問題があった。
【0011】
特許文献2に記載されているスピンドルのレベル調整装置および方法においては、必要調整量の把握の為に必要となるスピンドルのロール接続部の角度・位置を精度よく測定すること自体が難しいという問題があった。また、圧延機側のロール80A、80Bの組替時の停止位置精度の低下により、ロールとスピンドルの組替位置の整合をとることが難しくなるという問題があった。
【0012】
本発明は上述した問題を有利に解決すべくなされたもので、ロール組替時にスピンドルとの接続不良を防止することができる圧延機スピンドルの位置調整システムおよび位置調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムは、スピンドルのロール側端面および外周を含む位置座標を測定する位置座標測定手段と、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報、ならびに、測定された位置座標を用いて、スピンドルの位置および姿勢を決定するスピンドル位置決定手段と、決定されたスピンドルの位置および姿勢に調整するためのスピンドル位置調整手段と、を有する。
【0014】
なお、本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムについては、
(a)前記位置座標測定手段は、圧延機ロール側の組替装置を決定する部位を用いて基準軸が選択されること、
(b)前記位置座標測定手段が、3次元形状を計測可能な計測器であること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0015】
上記課題を解決し、上記の目的を実現するため開発した本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整方法は、スピンドルレストに支持されたスピンドルのロール側端面および外周を含む位置座標を取得する第一ステップと、事前に取得した、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報、ならびに、第一ステップで取得したスピンドルの位置座標を用いて、所定のスピンドル位置および姿勢にするためのスピンドルレストのライナ厚み調整量を計算する第二ステップと、第二ステップで得られた調整量に基づき、スピンドルを支持するスピンドルレストのライナ厚みを変更する第三ステップと、を有する。
【0016】
なお、本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整方法については、
(c)前記スピンドルの位置座標を取得するにあたり、圧延機ロール側の組替装置を決定する部位を用いて基準軸を選択すること、
(d)前記スピンドルの位置座標を取得するにあたり、3次元形状を計測可能な計測器を用いること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムによれば、スピンドルの位置座標測定手段と、スピンドル位置決定手段と、スピンドル位置調整手段と、を有するので、スピンドルの位置調整を精度よく実施でき、ロール組替時にスピンドルとの接続不良を防止することができる。
【0018】
本発明にかかる圧延機スピンドルの位置調整方法によれば、スピンドルレストに支持されたスピンドルのロール側端面および外周を含む位置座標を取得する第一ステップと、事前に取得した、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報と、第一ステップで取得したスピンドルの位置座標を用いて、所定のスピンドル位置および姿勢にするためのスピンドルレストのライナ厚み調整量を計算する第二ステップと、第二ステップで得られた調整量に基づき、スピンドルを支持するスピンドルレストのライナ厚みを変更する第三ステップと、を有するので、スピンドルの位置調整を精度よく実施でき、ロール組替時にスピンドルとの接続不良を防止することができる。
【0019】
また、圧延機ロール側の組替位置(上下左右)を決定する部位から基準軸を作成し、スピンドルの組替停止位置を測定評価するようにすれば、ロール側の組替位置精度も加味したスピンドルの停止位置調整が可能となるので好ましい。
【0020】
また、レーザートラッカーなどの3次元形状を計測可能な計測器を用いてスピンドルのレベル調整必要量を定量把握するようにすれば、調整前のスピンドル停止位置の測定精度不良に伴う再調整の発生リスクがより小さくなるので好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムに用いるスピンドルのレベル調整装置の側面図である。
【
図2】上記実施形態にかかるY1-Y1矢視断面図であって、スピンドルレストの概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムのブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる圧延機スピンドルの位置調整方法のフロー図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる圧延機スピンドルの位置調整方法の実施の要領を示す基準軸作成要領図である。
【
図6】上記実施形態にかかるスピンドルのレベル調整方法の実施の要領を示すスピンドル測定要領図である。
【
図7】上記実施形態にかかる測定結果概念図であって、(a)は、スピンドルカップリングのロール側端面の軸芯座標を表し、(b)は、ロール側クロスピンの芯座標を表す。
【
図8】従来のスピンドルのレベル調整を示す側面図である。
【
図9】
図8のX-X矢視断面図であって、スピンドルキャリアの概略図である。
【
図10】
図8のY2-Y2矢視断面図であって、従来のスピンドルレストを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態にかかる圧延機スピンドルの位置調整システムS30のブロック図である。本実施形態の圧延機スピンドルの位置調整システムS30は、スピンドル位置座標測定手段S31とスピンドル位置決定手段S33とスピンドル位置調整手段S34とを有する。
【0024】
スピンドル位置座標測定手段S31は、3次元形状を計測可能な計測器が好ましい。たとえば、レーザートラッカーや立体視できるカメラを用いた画像解析装置が挙げられる。測定する座標は、直交座標の基準軸が、圧延機ロール側の組替装置を決定する部位を用いて選択されることが好ましい。たとえば、組替レールの上面をXY面とし、上下ロールの軸芯を通り、XY面に垂直なZ軸をとることができる。
【0025】
スピンドル位置座標測定手段S31は、上記基準軸を設定したうえで、ロール組替時にスピンドル1A、1Bのロール側端面および必要な外周の位置座標を取得する。
【0026】
スピンドル位置決定手段S33は、たとえば、コンピュータで構成され、事前に圧延設備の配置情報、圧延機の組替ロールの形状情報、スピンドルの各部位の形状情報を含むデータベース(S32)から取得したり、随時上位コンピュータと通信して必要な情報を入手したり、できるように構成する必要がある。スピンドル位置決定手段S33は、これら圧延設備の配置およびスピンドルを含む装置の形状情報と、上記で測定した現在のスピンドルの位置座標とを用いて、目標とするスピンドルの位置および座標に調整するスピンドル位置の変更量を決定する。たとえば、スピンドルのロール側端面の軸芯位置をロール軸芯に合わせるためのスピンドルレストの各ライナ厚みの変更量を計算する。
【0027】
スピンドル位置調整手段S34は、計算されたスピンドル位置の変更量に合わせて、スピンドルの位置および姿勢を調整する。
図1および2にスピンドル位置調整手段S34の一例としてのスピンドルレスト100の概要を示す。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に用いるスピンドル位置調整手段の一部断面を含む側面図であり、
図2は
図1のY1-Y1矢視断面図である。
図1において、符号1A、1Bは上下のスピンドルであり、上下スピンドル1A、1Bは共に、スピンドル胴体2と、スピンドル胴体2の左右両端に設けられたユニバーサルジョイント3、4とを備えている。上下スピンドル1A、1Bの図面で右側のユニバーサルジョイント4は、フランジヨーク40A、40Bを介してピニオンスタンド5に連結されている。一方、左側のユニバーサルジョイント3はスピンドルカップリング6を介して上下ロール80A、80Bのロールネック7に連結されている。そして、図示しない駆動源からピニオンスタンド5に伝達された動力が上下スピンドル1A、1Bを介してロールチョック8によって回転自在に支持された上下ロール80A、80Bに伝達される。
【0029】
なお、符号9は圧延機のハウジングである。また符号100はスピンドル位置調整手段としてのスピンドルレストであり、10はスピンドルキャリアである。スピンドルキャリア10は、
図9に示したものとすることができる。次に、本実施形態のスピンドルレスト100について、
図1、
図2を用いて説明する。本実施形態のスピンドルレスト100は、スピンドルキャリア10が配置されたスピンドル胴部2よりロール80A、80B側に配置され、レストフレーム152を上昇させて、上下のスピンドルカップリング6A、6Bおよび上下のユニバーサルジョイント3A、3Bの両方を支持するように構成してある。
【0030】
スピンドルレスト100は、
図2に示すように、U字状のレストフレーム152と、ピストンロッド154を有する油圧シリンダ153とを備えている。レストフレーム152はスピンドルカップリング6A、6Bの位置で、スピンドルカップリング6A、6Bとユニバーサルジョイント3A、3Bを内部に挿入した状態で上端部が油圧シリンダ153のピストンロッド154に連結されている。油圧シリンダ153はピストンロッド154を下方に向けて配置されており、ピストンロッド154の伸縮により、レストフレーム152が昇降するように構成されている。
【0031】
レストフレーム152の上部内面両側には、
図1、
図2に示すように、上スピンドル1Aのスピンドルカップリング6Aおよびユニバーサルジョイント3Aの両方の下部両側面に沿うレストアーム110R、110Lが設けてある。また、レストフレーム152の下部内面両側には、下スピンドル1Bのスピンドルカップリング6Bおよびユニバーサルジョイント3Bの両方の下部両側面に沿うレストアーム120R、120Lが設けてある。この上部のレストアーム110R、110Lと下部のレストアーム120R、120Lのスピンドル軸方向両端部には、それぞれスピンドルカップリング6A、6Bの下部両側面と接触するライナ130と、ユニバーサルジョイント3A、3Bの下部両側面と接触するライナ140が取り付けられている。
【0032】
このため、本実施形態のスピンドル位置調整手段S34においては、レストフレーム152に設けられた上部のレストアーム110R、110Lと下部のレストアームレストアーム120R、120Lにより、上下スピンドル1A、1Bのスピンドルカップリング6A,6Bおよびユニバーサルジョイント3A、3Bがそれぞれライナ130、140を介して支持されるので、スピンドルキャリア10をレベル調整には用いなくても、上下スピンドル1A、1Bの上下・左右方向の位置および傾きを規制できる。
【0033】
また、本実施形態のスピンドルレスト100には、
図1、
図2に示すように、固定フレーム155の水平梁156の下部にウェッジ式間隔調整器210を設けるのが好ましい。
【0034】
このウェッジ式間隔調整器210は、
図2に示すように、レストフレーム152のピストンロッド154との連結部近くの上部外面両側に外側に向かって突設された上限ストッパ200が上昇して所定レベルに達した時にそれ以上の上昇を規制し、上下スピンドル1A、1Bを所定レベルに位置決めするものである。ハンドルを回すことによりウェッジを水平方向に前後させ、水平梁156の下部と上限ストッパ200との間隔を調整できるように構成されている。
【0035】
そこで、このウェッジ式間隔調整器210を用いることによって、レストフレーム152を油圧シリンダ153で昇降させ、レベル測定値に応じてウェッジ式間隔調整器210のハンドルを回すことにより間隔を調整し、上下スピンドル1A、1Bのレベルを容易に調整できる。
【0036】
次に、本実施形態の圧延機スピンドルの位置調整システムS30を用いた圧延機スピンドルの位置調整方法の一例を、
図4に示すフロー図に基づいて説明する。
【0037】
まず、第一ステップでは、スピンドルレスト100に支持されたスピンドル1A、1Bのロール側端面および必要な外周部の位置座標を取得する。この位置座標を特定するために基準原点および基準軸を設定する(S41)。
図5に本実施形態で用いる基準軸作成要領図を示す。
【0038】
図5に示すように、ロールチョック車輪330の接触面となる組替レールの上面を基準面とする。基準面内のロール軸(スピンドル軸)に倣う方向をX軸とし、X軸に直交する方向に基準軸300として、たとえばY軸を設定する。上下のロールチョック8A、8Bの左右方向を拘束する圧延機付帯ライナ340の振分けからロール組替位置基準の左右方向の基準軸310として、たとえばZ軸を設定する。
図5では、圧延機付帯ライナ340の左右の内側中央に基準軸310が設定されている。基準軸310は、上下ロール80A、80Bのそれぞれ軸芯と重なるように設定される。これらの基準軸300、310はロール側基準にて作成した座標基準となる。ロール軸方向の原点Oとして、たとえば、ハウジング9のロール側端の位置と置くことができ、ロール軸方向をたとえばX軸に設定する。この基準軸300、310については、後述する設備配置情報や装置の形状情報に基づいて、算出してもよいし、後述する3次元形状を計測可能な計測器を用いて、必要部位を計測して設定してもよい。
【0039】
つぎに、レーザートラッカーなどの3次元形状を計測可能な計測器を用いて、スピンドルカップリング6A、6Bの端面位置および傾きを測定する(S42)。
図6にこの測定の概念を示す。たとえば、スピンドルカップリング6のロール側端面350の複数個所の位置座標を、基準軸300、310および原点Oに基づき、たとえばXYZ座標として、測定する。具体的には、レーザートラッカーのターゲットをスピンドルカップリング6のロール側端面に接触させることにより、測定面350の位置座標を特定することができる。
【0040】
3次元形状を計測可能な計測器としては、遠隔測定可能なレーザートラッカーや複数カメラを用いた画像解析装置が挙げられる。特に、ターゲットをレーザー測距計で計測するレーザートラッカーが好ましい。レーザートラッカーに用いるターゲットとして、球状が好ましく、ターゲットの大きさは、直径10~100mmとすることが好ましい。また、直径25~60mmとすることがより好ましく、直径35~43mmとすることがさらに好ましい。なお、ターゲットは、リフレクターともいい、たとえば、前記した直径のボールを用いる。そして、位置座標を測定する対象物に接触させてターゲットを動かし、ターゲットにレーザー光を照射することにより、ターゲットから反射されたレーザー光がその光路をたどり、レーザートラッカーの発光位置に戻る。そうして、ターゲットであるリフレクターの3次元座標の計測を行う。スピンドルカップリング6は周辺設備との取合が狭隘であるため測定簡便性において利点がある。距離精度も0.07mm/10m程度とすることが好ましい。
【0041】
第二ステップとして、事前に取得した、圧延機を含む圧延設備の配置および装置の形状情報と、第一ステップで取得したスピンドルの位置座標を用いて、所定のスピンドル位置および姿勢にするためのスピンドルレストのライナ厚み調整量を計算する。たとえば、スピンドルカップリング6の外周の測定結果から、スピンドルカップリング6端面の軸芯360の座標を計算することができる(S43)。また、スピンドル各部の既知の形状情報を用いて、スピンドルカップリング6とユニバーサルジョイント3の中間に位置するクロスピンの芯座標370が算出できる。軸芯座標の算出には、たとえば、3次元CAD(computer aided design)システムを用いることができる。
【0042】
さらに、ピニオンスタンド5側のクロスピンの芯座標390は、通常固定されていて変化しないので、既知の座標を用いる。この芯座標390を算出したロール側クロスピンの芯座標370と組み合わせて、既知の形状情報から、ユニバーサルジョイント3のスピンドルレスト支持位置の芯座標381、382が算出できる。
【0043】
そして、スピンドルレスト支持位置の芯座標381、382の現在位置と目標位置のずれ量が許容値の範囲内にあるか判定する(S44)。このずれ量が許容値以内であれば、ロールとスピンドルの組付け(S47)に移る。ずれ量が許容値を超えていれば、スピンドルレストの各ライナ130、140の必要厚み量を算出する(S45)。この必要厚み量は、現在使用しているライナ厚みの調整量としてもよい。ロール(低硬さ側)とスピンドル(高硬さ側)との篏合部にショア硬度差が10±5となるように設けた摺動設計においては、たとえば、15,000t/日の生産能力を有する熱間圧延の設備の仕上圧延機の場合、上記許容値は、基準軸300方向で芯座標360が±3mm程度、基準軸310方向で芯座標360がロールに対し-5±3mm程度、芯座標370がロールに対し±3mm程度とすることができる。この範囲内であれば、設備損傷なく、ロールの組替を自動で行うことができる。また、上記ショア硬度差のセンタ値が10よりも小さい場合は、上記許容値は±3mmより小さくすることが好ましい。
【0044】
第三ステップとして、得られた各ライナ130、140の必要厚み量に基づき、スピンドルレスト100の各ライナ130、140の厚みを調整する(S46)。その際、本実施形態の圧延機スピンドルの位置調整方法においては、
図9に示すスピンドルキャリア10のシリンダ18、33の油圧回路の切換弁を操作して、無効にしている。
【0045】
スピンドルレストの各ライナの厚みを調整したのち、第一ステップのスピンドル端面や外周の座標取得(S42)段階に戻り、操作を繰り返すこともできる。
【0046】
そして、最後にロールとスピンドルを組み付ける(S47)。すなわち、スピンドルの位置調整を終了し、スピンドルカップリング6とロールネック7を連結する。ロール80A、80Bを回転させて圧延を行うに当たり、スピンドルキャリア10のシリンダ18、33の油圧回路の切換弁を操作して有効にし、スピンドルキャリア10のスピンドル軸支材11A、11Bでスピンドルを軸支するようにしている。このため、安定圧延が可能となる。
【0047】
なお、本実施形態のスピンドル位置調整手段は、圧延を行うに当たり、レストフレーム152に連結しているピストンロッド154を下げて、スピンドルレスト100がスピンドルカップリング6およびユニバーサルジョイント3と非接触になるようにしてある。このように、本実施形態のスピンドル位置調整手段では、レストフレーム152の上部内面両側と下部内面両側にそれぞれ上下スピンド1A、1Bのスピンドルカップリング6A、6Bとユニバーサルジョイント3A、3Bの下部両側面を受けるレストアームを設けたので、レベル調整がスピンドルレスト100の1箇所だけで行えるため、簡単に短時間で行える。
【0048】
図7(a)、(b)に上記圧延機スピンドルの位置調整方法でスピンドルの位置を調整した後の各軸芯位置の測定結果を概念図で示す。
図7(a)は、上下スピンドルカップリング6A、6Bのロール側端面の軸芯位置測定結果を示し、
図7(b)は、上下スピンドルカップリング6A、6Bのロール側クロスピンの芯座標算出結果を示す。上下スピンドルカップリング6A、6Bのロール側端面の軸芯位置座標360A、360B、および、ロール側クロスピンの芯座標370A、370Bのいずれも基準軸310上にある。つまり、目標位置とのずれが許容値以内となっている。
【0049】
この実施形態においては、従来方法の課題であった人手測定に伴う測定精度誤差や、ロール側の停止位置をきめる設備の変形や摩耗による位置精度低化の影響が最小となる。加えて、ロール側とスピンドルカップリング側の芯合わせに必要なスピンドルレストの各ライナ130、140の調整量が明確に算出可能である。そのため、測定調整作業を繰返すことなく、短時間のライン停止にてロール組替時のスピンドル位置調整を完了させることができる。
【符号の説明】
【0050】
1A 上スピンドル
1B 下スピンドル
2 スピンドル胴部
3、3A、3B ロール側ユニバーサルジョイント
4 駆動側ユニバーサルジョイント
5 ピニオンスタンド
6、6A、6B スピンドルカップリング
7、7A、7B ロールネック
8、8A、8B ロールチョック
9 ハウジング
10 スピンドルキャリア
40A、40B フランジヨーク
80A、80B ロール
100 スピンドルレスト
110R、110L、120R、120L レストアーム
130、140、150 ライナ
152 レストフレーム
155 固定フレーム
156 固定フレームの部材
200 上限ストッパ
210 ウェッジ式間隔調整器
300 組替レール天面レベル芯
310 ロール左右芯
320 組替レール
330 ロールチョック車輪
340 ロールチョック拘束ライナ
350 カップリングの端面(測定面)
360、360A、360B 軸芯(カップリング端面)
370、370A、370B 軸芯(ロール側クロスピン部)
381、382 軸芯(スピンドルレスト支持部)
390 軸芯(ピニオンスタンド側クロスピン部)