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特開2022-126377金属酸化物含有複合体およびその製造方法、ならびにそれを用いた酸素の発生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126377
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】金属酸化物含有複合体およびその製造方法、ならびにそれを用いた酸素の発生方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/835 20060101AFI20220823BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20220823BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220823BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20220823BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20220823BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20220823BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220823BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20220823BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20220823BHJP
【FI】
B01J23/835 Z
C01B13/02 B
B01J37/08
C01B3/02 H
B01J23/78 Z
C01G51/00 B
C25B1/04
C25B11/077
C25B11/091
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024411
(22)【出願日】2021-02-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)触媒学会第126回触媒討論会、予稿集(Web掲載)による公開 公開日:令和2年9月9日 (2)触媒学会第126回触媒討論会、口頭発表(Web開催)による公開 公開日:令和2年9月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究結果展開事業「低コストアルカリ水電解を目指した複合酸化物超薄膜アノードの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100136696
【弁理士】
【氏名又は名称】時岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】辻 悦司
(72)【発明者】
【氏名】足立 廉
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 学史
(72)【発明者】
【氏名】片田 直伸
【テーマコード(参考)】
4G042
4G048
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G042BA08
4G042BA10
4G048AA03
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD02
4G048AD04
4G048AD06
4G048AD08
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA36C
4G169BB04A
4G169BB05C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC10A
4G169BC12A
4G169BC13A
4G169BC15A
4G169BC16A
4G169BC17A
4G169BC20A
4G169BC21A
4G169BC21B
4G169BC30A
4G169BC31A
4G169BC34A
4G169BC35A
4G169BC38A
4G169BC57A
4G169BC58A
4G169BC61A
4G169BC62A
4G169BC65A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC69A
4G169CB81
4G169DA06
4G169EA08
4G169EB15X
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC23
4G169EC24
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB30
4G169FC02
4G169FC04
4G169FC10
4K011AA04
4K011AA23
4K011AA60
4K011AA65
4K011BA02
4K011BA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BB01
4K021DB22
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】水電解による酸素生成反応の電極の触媒として機能することができる新規な複合体材料を提供する。また、その複合体材料により、水を効果的に電気分解して水素および酸素を発生させる方法、および反応システムを提供する。
【解決手段】本発明の金属酸化物含有複合体は、金属酸化物の薄膜と、前記金属酸化物の薄膜を支持する担体とを含み、前記金属酸化物は、周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される1種以上の金属、および、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属を含む、混合金属の酸化物であって、前記金属酸化物は、ブラウンミラーライト型、ペロブスカイト型、またはスピネル型の結晶構造を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の薄膜と、前記金属酸化物の薄膜を支持する担体とを含み、
前記金属酸化物は、周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される1種以上の金属、および、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属を含む、混合金属の酸化物であって、
前記金属酸化物は、ブラウンミラーライト型、ペロブスカイト型、またはスピネル型の結晶構造を有する、金属酸化物含有複合体。
【請求項2】
前記担体が、周期表で第2族、第3族、第6族、第8族~第14族に分類される金属の酸化物または水酸化物の粒子である、請求項1に記載の金属酸化物含有複合体。
【請求項3】
前記金属酸化物が、下記式(I)で示されるブラウンミラーライト型の結晶構造を有する、請求項1または2に記載の金属酸化物含有複合体。
(I)
[式中、
Aは、Ca、Sr、Ba、および希土類元素金属からなる群から選択され、
およびBは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、Cr、Fe、Co、Mn、Ni、Cu、Zn、AlおよびGaからなる群から選択される。]
【請求項4】
Aが、CaおよびSrからなる群から選択され、BとBが相異なり、各々Fe、CoおよびGaからなる群から選択される、請求項3に記載の金属酸化物含有複合体。
【請求項5】
前記金属酸化物は、CaFeCoO、SrFeCoO、またはSrGaCoOである、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体。
【請求項6】
前記金属酸化物の薄膜の平均膜厚が、5nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体を製造する方法であって、
工程1:金属イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第1液と、水酸化物イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第2液とを、混合する工程、
工程2:前記工程1で得られた混合液に、担体を加える工程、
工程3:前記工程2で得られた混合液に、水溶性有機溶媒を加える工程、
工程4:前記工程3で得られた混合液から、濾過により、担体を含む不溶物を得る工程、および、
工程5:前記工程4で得られた不溶物を焼成する工程、
を含む、金属酸化物含有複合体の製造方法。
【請求項8】
前記工程2において、前記担体および疎水性有機溶媒を含む担体分散液を、前記工程1で得られた混合液に加え、および
前記工程3において、水溶性有機溶媒を加えることにより、油中水型のミセルを開裂させる、請求項7に記載の金属酸化物含有複合体の製造方法。
【請求項9】
前記担体が、PbO、Al、またはZnOの粒子であり、そして、
前記水溶性有機溶媒が、エタノール、メタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上である、
請求項7または8に記載の金属酸化物含有複合体の製造方法。
【請求項10】
水の電気分解における酸素生成のための、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体からなる触媒。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体を用いた、水の電気分解による酸素の発生方法。
【請求項12】
アルカリ水の電気分解による、請求項11に記載の酸素の発生方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体を用いた、水の電気分解による水素の発生方法。
【請求項14】
水の電気分解による水素および酸素の発生のための反応システムであって、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属酸化物含有複合体をアノードで使用することを含む、該反応システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解による酸素を発生させるための触媒として機能し得る、金属酸化物を含有する複合体、およびその製造方法、ならびにその複合体を用いた酸素の発生方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンな水素および酸素の製造方法として、水の電解反応(以下、「水電解」とも称する)が注目されている。水の電解反応では、カソードにおいて、水の還元によって水素ガスが発生し、その対極となるアノードにおいて、水の酸化によって酸素ガスが発生する。酸素生成反応は、OER(Oxygen Evolution Reaction)と呼ばれる。
【0003】
水の電気分解では、電解反応に要するエネルギーの理論値(1.23V)よりも過剰に電圧をかけることを要し、これがエネルギーロスを招いている。このエネルギーロスの大部分は、酸素生成反応(OER)を行うアノードでのエネルギーロスであり、このエネルギーロスをできるだけ少なくすることが、水電解による反応システムにおける、効率的な、水素および酸素の製造の実用化の重要な要素の1つとなっている。したがって、エネルギーロスを少なくするために、酸素生成反応を活性化させる触媒の開発が求められる。
【0004】
現在、酸素生成反応を活性化する手段として、発泡ニッケル基板にNiCo酸化物(触媒)を添加した電極が知られている。しかしながら、エネルギーロスは依然として大きく、実用化するには、さらに高活性な触媒が求められる。
【0005】
また、酸素生成反応の活性化のために、カーボン系導電性助剤を添加してアノードの導電性を向上させることも試みられているが、酸化消耗によって電解装置の耐久性が低下しやすくなるといった問題が生じる。そのため、カーボン系導電性助剤の使用を低減または削減することができる酸素生成反応の活性化触媒が求められる。
【0006】
ここで、酸素生成反応の活性化の触媒として、結晶性多元系金属酸化物の利用が考えられる。例えば、特許文献1では、ブラウンミラーライト型の金属酸化物の粒子が、酸素生成反応が起こる空気極の触媒として使用できることが開示されている。そこで、このような金属酸化物粒子を水電解のアノードの触媒として使用することが考えられる。しかしながら、水電解反応では、水中において酸化物の粒子が電極から乖離しやすくなるなど、耐久性の問題が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2015/115592号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、水電解における酸素生成反応の電極での触媒として機能することができる新規な複合体材料を提供することを目的とする。また、本発明は、前記複合体材料によって効果的に水を電気分解して水素および酸素を発生させる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、酸素生成反応の触媒として機能することが可能な複合体材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記に挙げられる実施態様を含むが、これらに限定されるものではない。
[1] 金属酸化物の薄膜と、前記金属酸化物の薄膜を支持する担体とを含み、
前記金属酸化物は、周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される1種以上の金属、および、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属を含む、混合金属の酸化物であって、
前記金属酸化物は、ブラウンミラーライト型、ペロブスカイト型、またはスピネル型の結晶構造を有する、金属酸化物含有複合体。
[2] 前記担体が、周期表で第2族、第3族、第6族、第8族~第14族に分類される金属の酸化物または水酸化物の粒子である、[1]に記載の金属酸化物含有複合体。
[2-1] 前記担体が、等電点がpH7以上の金属酸化物粒子または金属水酸化物粒子である、[1]または[2]のいずれかに記載の金属酸化物含有複合体。
[2-2] 前記担体が、PbO、Al、またはZnOの粒子である、[1]または[2]のいずれかに記載の金属酸化物含有複合体。
[3] 前記金属酸化物が、下記式(I)で示されるブラウンミラーライト型の結晶構造を有する、[1]または[2]のいずれかに記載の金属酸化物含有複合体。
(I)
[式中、
Aは、Ca、Sr、Ba、および希土類元素金属からなる群から選択され、
およびBは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、Cr、Fe、Co、Mn、Ni、Cu、Zn、AlおよびGaからなる群から選択される。]
[4] Aが、CaおよびSrからなる群から選択され、BとBが相異なり、各々Fe、CoおよびGaからなる群から選択される、[3]に記載の金属酸化物含有複合体。
[5] 前記金属酸化物は、CaFeCoO、SrFeCoO、またはSrGaCoOである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体。
[6] 前記金属酸化物の薄膜の平均膜厚が、5nm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体。
[6-1] 金属酸化物含有複合体の総重量100重量%に対し、前記金属酸化物の総含有率が、0.1~30重量%である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体。
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体を製造する方法であって、
工程1:金属イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第1液と、水酸化物イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第2液とを、混合する工程、
工程2:前記工程1で得られた混合液に、担体を加える工程、
工程3:前記工程2で得られた混合液に、水溶性有機溶媒を加える工程、
工程4:前記工程3で得られた混合液から、濾過により、担体を含む不溶物を得る工程、および、
工程5:前記工程4で得られた不溶物を焼成する工程、
を含む、金属酸化物含有複合体の製造方法。
[8] 前記工程2において、前記担体および疎水性有機溶媒を含む担体分散液を、前記工程1で得られた混合液に加え、および
前記工程3において、水溶性有機溶媒を加えることにより、油中水型のミセルを開裂させる、[7]に記載の金属酸化物含有複合体の製造方法。
[9] 前記担体が、PbO、Al、またはZnOの粒子であり、そして、
前記水溶性有機溶媒が、エタノール、メタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上である、
[7]または[8]に記載の金属酸化物含有複合体の製造方法。
[10] 水の電気分解における酸素生成のための、[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体からなる触媒。
[11] [1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体を用いた、水の電気分解による酸素の発生方法。
[12] アルカリ水の電気分解による、[11]に記載の酸素の発生方法。
[12-1] [1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体を含むアノードと、カソードとの間に電圧を印加して、水を電気分解することを含む、[11]に記載の酸素の発生方法。
[12-2] アノードが、金属酸化物含有複合体が電極基材の表面に配置された電極である、[11]に記載の酸素の発生方法。
[13] [1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体を用いた、水の電気分解による水素の発生方法。
[14] 水の電気分解による水素および酸素の発生のための反応システムであって、[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属酸化物含有複合体をアノードで使用することを含む、該反応システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水電解による酸素生成反応の電極の触媒として機能することができる新規な複合体材料を提供することができる。また、本発明によれば、前記複合体材料により効果的に水の電気分解を行って、水素および酸素を発生させる方法、および反応システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、金属酸化物の薄膜または微粒子の形成の概念図を示し、(a)は、薄膜(超薄膜)の形成、(b)は、微粒子(超微粒子)の形成を表す。
図2図2は、製造例1~3、比較製造例1で製造した粉末(金属酸化物含有複合体)のHRTEM像を示し、(a)は製造例1、(b)は製造例2、(c)は製造例3、(d)は比較製造例1、を表す。
図3図3は、電極例1、電極例1A、比較電極例1A、および対照電極(触媒なし)の場合を比較した、サイクリックボルタンメトリーの結果(単回掃引)を示すチャートである。
図4図4は、電極例1、電極例1A、および比較電極例2の場合を比較した、サイクリックボルタンメトリーの結果(単回掃引)を示すチャートである。
図5図5は、電極例1のサイクリックボルタンメトリーの結果(サイクル試験)を示すチャートである。
図6図6は、比較電極例2のサイクリックボルタンメトリーの結果(サイクル試験)を示すチャートである。
図7図7は、サイクリックボルタンメトリーから得た、1.8Vにおける、電極例1および比較電極例2のサイクル回数と電流密度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の金属酸化物含有複合体は、金属酸化物の薄膜と、前記金属酸化物の薄膜を支持する担体とを含んでいる。前記金属酸化物は、周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される1種以上の金属、および、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属を含む、混合金属の酸化物である(本明細書中、薄膜を構成する金属酸化物を「薄膜の金属酸化物」と称し、特に断りのない限り、「金属酸化物」は「薄膜の金属酸化物」を意味する)。前記金属酸化物は、ブラウンミラーライト型、ペロブスカイト型、またはスピネル型の結晶構造を有する。金属酸化物含有複合体は、担体と、その担体の表面上に存在する金属酸化物の薄膜とにより構成される複合体である。
【0013】
薄膜の金属酸化物は、混合金属の酸化物であり、すなわち、2種以上(例えば、2種、3種、4種または5種)の金属を含む。それにより、2種類以上の金属元素を含む多元系酸化物となり、触媒作用を容易に高めることができる。多元系酸化物は、元素の組み合わせが多彩であり、触媒設計によって高活性な触媒を得ることが可能である。多元系酸化物では、2種類、3種類または4種類の金属の金属酸化物が好ましい。その場合、2種類、3種類または4種類の金属によって、効率よく触媒活性を高めることが可能になる。
【0014】
上記の金属酸化物含有複合体において、周期表で第6族~第13族に分類される金属としては、具体的には、例えば、第6族では、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、第7族では、Mn(マンガン)、Re(レニウム)、第8族では、Fe(鉄)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)、第9族では、Co(コバルト)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、第10族では、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Pt(白金)、第11族では、Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、第12族では、Zn(亜鉛)、Cd(カドミウム)、Hg(水銀)、第13族では、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Tl(タリウム)、が挙げられる。金属酸化物含有複合体では、これらの金属の酸化物が用いられる。これらの金属を含有する金属酸化物含有複合体は、本明細書中に記載する水の電気分解による酸素生成反応において、触媒活性を高めることができる(実施例参照)。なお、金属酸化物とは、金属元素と酸素元素により構成される化合物を意味する。
【0015】
周期表で第6族~第13族に分類される金属は、1種でもよいし、2種以上でもよい。好ましくは、金属酸化物含有複合体は、周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される2種以上(例えば、2種または3種)の金属を含む。
【0016】
上記の周期表で第6族~第13族に分類される金属として、これに限定されるものではないが、Cr、Fe、Co、Mn、Ni、Cu、Zn、AlおよびGaが好ましい。これらの金属では良好な薄膜が得られ、触媒の作用を高めることができる。これらのうち、Fe、Co、Mn、AlおよびGaがより好ましい。また、例えば、Cr、Fe、Co、Mn、Ni、Cu、Zn、AlおよびGaからなる群から選択される2種以上(例えば、2種または3種)の金属を含んでもよい。具体的には、2種の金属の場合、Coと他の金属との組み合わせが挙げられ、例えば、FeとCoの組み合わせ、GaとCoの組み合わせなどが挙げられる。
【0017】
薄膜の金属酸化物は、また、前記金属(周期表で第6族~第13族に分類される金属)とは別に、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属も含んでいる。希土類元素金属としては、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、が挙げられる。上記の金属としては、Ca、Sr、Ba、およびMgが好ましく、CaおよびSrがより好ましい。
【0018】
金属酸化物は、好ましくは、下記式(I)で示されるブラウンミラーライト型の結晶構造を有する。
(I)
[式中、
Aは、Ca、Sr、Ba、および希土類元素金属からなる群から選択され、
およびBは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ独立して、Cr、Fe、Co、Mn、Ni、Cu、Zn、AlおよびGaからなる群から選択される。]。
【0019】
ブラウンミラーライト型の結晶構造によって、良好な薄膜を得ることができ、触媒作用を高めることができる。ここで、式(I)におけるAが、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される金属に対応し、BおよびBが、周期表で第6族~第13族に分類される金属に対応する。
【0020】
式(I)において、Aが、互いに同一であって、CaおよびSrからなる群から選択され、BとBが異なっていることがより好ましい。その場合、さらに良好な薄膜が得られ得る。BおよびBは、それぞれ独立して、Fe、Co、Mn、Cu、Zn、AlおよびGaからなる群から選択されることが好ましく、Fe、CoおよびGaからなる群から選択されることがより好ましい。
【0021】
上記式(I)に対応する金属酸化物としては、これに限定されるものではないが、例えば、CaFeCoO、SrFeCoO、SrGaCoO、SrCo、CeCoなどを挙げることができる。特に、CaFeCoO、SrFeCoO、またはSrGaCoOが好ましく、CaFeCoOがより好ましい。
【0022】
他の実施態様において、薄膜の金属酸化物は、ABOの式(以下「式(II)」と称する)で示されるペロブスカイト型の結晶構造を有するものであってもよい。ここで、式(II)において、AおよびBは、式(I)と同じ意味を有する。また、さらに他の実施態様において、金属酸化物は、A3-xの式(以下「式(III)と称する)で示されるスピネル型の結晶構造を有するものであってもよい。ここで、式(III)において、AおよびBは、式(I)と同じ意味を有し、xは、0≦x≦3である。
【0023】
金属酸化物の結晶構造における、ブラウンミラーライト型、ペロブスカイト型、およびスピネル型については、例えば、Antipov,E.V.,Abakumov,A.M.,Istomin,S.Y. (2008)Target-Aimed Synthesis of Anion-Deficient Perovskites.Inorganic Chemistry: 47: 8543-8552.;Suntivich,J.,May,K.J.,Gasteiger,H.A.,Goodenough,J.B.,Shao-Horn,Y.(2011)A Pervskite Oxide Optimized for Oxygen Evolution Catalysis from Molecular Orbital Principles,Science: 334: 1383.;Essene, E.J., Peacor, D.R. (1983) Crystal chemistry and petrology of coexisting galaxite and jacobsite and other spinel solutions and solvi. American Mineralogist: 68: 449-455.に記載されている。
【0024】
上記の金属酸化物含有複合体では、金属酸化物が薄膜の状態であり、金属酸化物の薄膜が担体に担持されている。ここで、担持とは、基材として機能する担体の上に、担持される物質が固定されている状態のことを意味する。担持は、膜状の金属酸化物が、担体の表面に付着している状態であり得る。例えば、金属酸化物が、担体上に、層となっているような状態であり得る。ここで、金属酸化物含有複合体において、金属酸化物の薄膜は、担体表面の全体に形成されていてもよいし、担体表面の一部に形成されていてもよい。好ましくは、金属酸化物の薄膜は、担体表面を覆うように形成され得る。薄膜状の金属酸化物は、非共有結合によって担体に担持され得る。その場合、共有結合を介しないで、金属酸化物の薄膜が担体の表面に固定される。
【0025】
上記の金属酸化物含有複合体においては、金属酸化物の薄膜の平均膜厚は、例えば20nm以下または10nm以下であってよいが、特に、金属酸化物の薄膜の平均膜厚が5nm以下であることが好ましい。平均膜厚が5nm以下になることによって、触媒として作用する金属酸化物を効率よく担持し、触媒の作用点を増加させることができるため、優れた触媒作用を奏することが可能になる。また、平均膜厚が5nm以下(例えば、4.5nm以下、4.0nm以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない)になることで、電極を構築した際に、触媒の損失が生じにくい、安定した触媒を得ることができる。金属酸化物の薄膜の平均膜厚は、例えば、0.5nm以上であってよく、1nm以上であることが好ましい。例えば、平均膜厚は、0.5nm以上、5nm以下;0.5nm以上、4.5nm以下;0.5nm以上、4.0nm以下;1.0nm以上、5nm以下;1.0nm以上、4.5nm以下;1.0nm以上、4.0nm以下、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
金属酸化物の薄膜の平均膜厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)、特に、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)の観察によって測定することができる。上記の金属酸化物含有複合体では、金属酸化物の薄膜が担体により固定されているが、TEMによれば、金属酸化物の薄膜を確認することができる。例えば、TEMにより金属酸化物含有複合体の表面を観測し、任意に選択した所定箇所(例えば50個、100個、200個、または300個)の金属酸化物含有複合体の表面の金属酸化物の層の厚みを計測し、その平均値を算出することで、金属酸化物の薄膜の平均膜厚を求めることができる。金属酸化物の薄膜の膜厚の最大値は、特に限定されるものではないが、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。また、金属酸化物の薄膜の膜厚の最小値は、特に限定されるものではないが、0.5nm以上であることが好ましい。金属酸化物の薄膜と担体との境界は、例えば、HRTEMの観察により確認することができる。具体的には、金属酸化物の薄膜と担体との境界は線となって表れる。また、金属酸化物の薄膜は結晶構造を有しており、結晶構造の分析から境界を決定することができる。
【0027】
ここで、金属酸化物が薄膜状となることで、著しく触媒活性が向上することが見出された(後述の実施例参照)。すなわち、金属酸化物が微粒子状で担体に担持された複合体と、金属酸化物が薄膜となって担体に担持された複合体とを比較した場合、薄膜となった金属酸化物では、触媒活性の向上が確認された。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
【0028】
上記の金属酸化物含有複合体は、金属酸化物を担持する担体を有する。担体としては、限定されるものではないが、粒子であることが好ましく、特に、周期表で第2族、第3族、第6族、第8族~第14族に分類される金属の酸化物または水酸化物の粒子であることが好ましい。ここで、本明細書中、担体を構成する金属酸化物を「担体の金属酸化物」、および担体を構成する金属水酸化物を「担体の金属水酸化物」とそれぞれ称する。第2族の金属としては、Be(ベリリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、およびBa(バリウム)などが挙げられ、第3族の金属としては、Sc(スカンジウム)およびY(イットリウム)、ならびにランタノイドおよびアクチノイドの金属などが挙げられる。また、第6族、第8族~第13族の金属としては、上記の周期表で第6族~第13族に分類される金属において例示した金属が挙げられる。また、第14族の金属としては、Ge(ゲルマニウム)、Sn(スズ)、Pb(鉛)が挙げられる。これらの金属から選択される金属の金属酸化物粒子または金属水酸化物粒子が担体となり得る。
【0029】
担体は、等電点がpH7以上の金属酸化物粒子または金属水酸化物粒子であることが好ましい。担体の粒子の等電点がpH7以上となることで、後述するように、金属酸化物含有複合体の製造の際に、担体粒子の表面の電荷(ゼータ電位)が、薄膜の金属酸化物の前駆体の電荷(ゼータ電位)と、正負が逆になることができ、担体表面に薄膜を形成しやすくすることができる。等電点がpH7以上の金属酸化物としては、これに限定されるものではないが、例えば、PbO、Al、ZnO、MgO、BeO、La、NiO、CuO、Y、Fe、FeO、HgO、Cr、CdO、PuO、およびThO、などが挙げられる。また、等電点がpH7以上の金属水酸化物としては、Al(OH)、Mg(OH)、Mn(OH)、Co(OH)、Cu(OH)、およびCd(OH)、などが挙げられる。等電点およびゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定することができる。この測定は、例えば、溶媒をエタノールとし、室温(例えば15~25℃)で、ゼータ電位測定装置を用いて行うことができる。
【0030】
担体は、PbO、Al、またはZnOの粒子であることが好ましい。これらの担体を用いることにより、金属酸化物の薄膜を容易に得ることができる。担体は、PbOであることがより好ましい。
【0031】
ある1実施態様によれば、本発明の金属酸化物含有複合体は、
金属酸化物の薄膜と、前記金属酸化物の薄膜を支持する担体とを含み、
前記金属酸化物は、CaFeCoO、SrFeCoO、またはSrGaCoOから選ばれる金属酸化物であり、そして、
前記担体は、PbO、Al、またはZnOから選ばれる金属酸化物の粒子である。
【0032】
担体は、粒子径が20~1,000nmであることが好ましい。粒子径がこの範囲になることにより、金属酸化物の薄膜を効果的に配置することができる。担体の粒子径は、30~500nmであることがより好ましく、50~300nmであることがさらに好ましい。担体は粒子であり得る。そのため、上記の金属酸化物含有複合体は、金属酸化物の薄膜を表面に担持した担体の粒子(特に、金属酸化物粒子または金属水酸化物粒子)により構成される複合体であり得る。ここで、薄膜を構成する金属酸化物と、担体を構成する金属酸化物とは、通常、異なるものであるが、同じものであってもよい。
【0033】
上記の金属酸化物含有複合体では、金属酸化物含有複合体の総重量100重量%に対し、金属酸化物(すなわち、薄膜の金属酸化物)の総含有率が、0.1~30重量%であることが好ましい。薄膜の金属酸化物の含有率がこの範囲になることにより、優れた触媒作用を奏することがより可能になる。この含有率は、金属酸化物含有複合体における金属酸化物の担持率(重量%)となる。金属酸化物含有複合体における金属酸化物の総含有率は、0.5~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。
【0034】
上記の金属酸化物含有複合体は、例えば、CaFeCoO/PbO、CaFeCoO/Al、CaFeCoO/ZnO、SrFeCoO/PbO、SrFeCoO/Al、SrFeCoO/ZnO、SrGaCoO/PbO、SrGaCoO/Al、SrGaCoO/ZnO、などであり得る。なお、触媒の表記において、[/」は金属酸化物が担体に担持されていることを示しており、例えば、CaFeCoO/PbOは、CaFeCoOがPbOの担体に担持されている金属酸化物含有複合体であることを意味する。
【0035】
金属酸化物含有複合体の製造方法について、説明する。
金属酸化物含有複合体の製造においては、〔工程1〕金属イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第1液と、水酸化物イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含み、油中水型のミセルを含むエマルジョンである第2液とを、混合する工程、〔工程2〕前記工程1で得られた混合液に、担体を加える工程、〔工程3〕前記工程2で得られた混合液に、水溶性有機溶媒を加える工程、〔工程4〕前記工程3で得られた混合液から、濾過により、担体を含む不溶物を得る工程、および、〔工程5〕前記工程4で得られた不溶物を焼成する工程、を含んでいる。
【0036】
第1液(逆ミセル第1液:RM-A)は、金属イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含む。第1液は、油中水型(W/O型)のミセル、すなわち、逆ミセルを含むエマルジョンである。逆ミセルでは、金属イオンを含む水相が界面活性剤に取り囲まれたミセルを形成し、このミセルが、疎水性有機溶媒中に存在する構造となる。第1液は、いわば、逆エマルジョンの状態である。
【0037】
金属イオンは、薄膜の金属酸化物の金属源となる金属のイオンである。したがって、金属イオンは、金属酸化物含有複合体に含まれる薄膜の金属酸化物を構成する金属に対応する。周期表で第6族~第13族に分類される金属から選択される1種以上の金属の金属イオンとしては、例えば、CrであればCr3+、FeであればFe3+、CoであればCo3+、MnであればMn3+、NiであればNi3+、CuであればCu2+、ZnであればZn2+、AlであればAl3+、GaであればGa3+、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、Ca、Sr、Ba、Mg、および希土類元素金属からなる群から選択される1種以上の金属の金属イオンとしては、例えば、CaであればCa2+、SrであればSr2+、BaであればBa2+、MgであればMg2+、希土類元素金属であればその2価または3価の陽イオンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。金属イオンは、水に安定に存在し得る。そのため、逆ミセルにおいて、水相に安定に金属イオンが存在することができる。
【0038】
金属イオンは、カウンターとなるアニオンを有し得て、金属塩として存在し得る。第1液の水相には、金属イオンとカウンターアニオンとで構成される金属塩の水溶液が好ましく用いられる。金属塩としては、金属ハロゲン化物(例えば、金属塩化物)、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属炭酸塩、および金属酢酸塩などが挙げられる。金属塩の具体例としては、Crでは、CrCl、CrCl、Cr(NO、Cr(SO、Cr(CHCOO)などが挙げられ、Feでは、Fe(NO、FeSO、Fe(SO、FeCl、FeCl、Fe(CHCOO)などが挙げられ、Coでは、Co(NO、CoSO、CoCl、Co(CHCOO)などが挙げられ、Mnでは、Mn(NO、MnSO、MnCl、Mn(CHCOO)などが挙げられ、Niでは、Ni(NO、NiSO、NiCl、Ni(CHCOO)などが挙げられ、Cuでは、Cu(NO、CuSO、CuCl、Cu(CHCOO)、CuClなどが挙げられ、Znでは、Zn(NO、ZnSO、ZnCl、Zn(CHCOO)などが挙げられ、Alでは、Al(NO、AlCl、Al(SO、Al(CHCOO)などが挙げられ、Gaでは、GaCl、Ga(NO、Ga(CHCOO)、Ga(SOなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、金属塩の具体例としては、Caでは、Ca(NO、Ca(CHCOO)、CaClなどが挙げられ、Srでは、Sr(NO、Sr(CHCOO)、SrClなどが挙げられ、Baでは、Ba(NO、Ba(CHCOO)、BaClなどが挙げられ、Mgでは、Mg(NO、MgSO、Mg(CHCOO)、MgClなどが挙げられ、希土類元素金属では、その硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩または塩化物などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0039】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも用いることが可能である。この中でも、非イオン性界面活性剤、およびアニオン性界面活性剤が好ましく、非イオン性界面活性剤がより好ましい。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、エトキシ基が複数個連続して結合したエーテル型の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルがより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの具体例としては、下記の構造式で示される、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。なお、式中、nは1以上の整数である。nは、2~10が好ましく、3~8がより好ましい。
【化1】
【0041】
例えば、n=6のポリオキシエチレン(6)ノニルフェニルエーテル(下記の構造式)では、良好に、逆ミセル第1液を得ることができる。また、n=5の場合も、良好に逆ミセル第1液を得ることができる。なお、n=6の化合物は、NP-6と称され、n=5の化合物は、NP-5と称される。
【化2】
【0042】
疎水性有機溶媒としては、水と混和せず、逆ミセルを形成し得る、各種の有機溶媒を使用することができる。疎水性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系の溶媒が挙げられる。具体的には、疎水性有機溶媒として、シクロヘキサン、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。疎水性有機溶媒として、特に、シクロヘキサンが好ましい。
【0043】
第1液は、例えば、金属酸化物の最終的な組成および担持量を考慮した所望量の金属塩を水に溶解し、界面活性剤と疎水性有機溶媒を加えて、混合することにより、調製することができる。このとき、金属塩の水溶液は、金属イオンの濃度が、限定されるものではないが、例えば、0.01~1mol/Lになるように調製することができる。また、疎水性有機溶媒の、水に対する量(有機溶媒/水)は、限定されるものではないが、例えば、重量比で、5~100:1にすることができる。また、界面活性剤の、疎水性有機溶媒に対する量(界面活性剤/有機溶媒)は、限定されるものではないが、例えば、重量比で、0.01~1:1にすることができる。
【0044】
第2液(逆ミセル第2液:RM-B)は、水酸化物イオン、界面活性剤、水、および疎水性有機溶媒を含む。第2液は、油中水型(W/O型)のミセル、すなわち、逆ミセルを含むエマルジョンである。逆ミセルでは、水酸化物イオン(OH)を含む水相が、界面活性剤に取り囲まれたミセルを形成し、このミセルが、疎水性有機溶媒中に存在する構造となる。第2液は、いわば、逆エマルジョンの状態である。
【0045】
水酸化物イオンは、金属酸化物の前駆体となる金属水酸化物を形成すための水酸化物源となり得る。水酸化物イオンは、カウンターとなるカチオンを有し得て、塩として存在し得る。第2液の水相には、水酸化物イオンとカウンターカチオンとで構成される塩の水溶液が好ましく用いられる。塩としては、有機塩を好ましく用いることができ、例えば、第4級アルキルアンモニウム塩が挙げられる。有機塩の具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム([(CHN][OH])が挙げられる。なお、水酸化物イオンは、厳密には、水の解離(2HO→H+OH)によってもわずかに生成し得るが、第2液においては、水酸化物の塩を水に溶解させたときのように、単なる水の解離よりも大きい量で水酸化物イオンを含んでいる。
【0046】
第2液の界面活性剤は、第1液で例示したものと同様のものを用いることができる。第2液の界面活性剤は、第1液の界面活性剤と、同じであっても、異なっていてもよいが、金属酸化物薄膜を形成する観点から、同じであることが好ましい。第2液の界面活性剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤が挙げられ、エトキシ基が複数個連続して結合したエーテル型の界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルがより好ましく、具体例として、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルが挙げられる。
【0047】
第2液の疎水性有機溶媒は、第1液で例示したものと同様のものを用いることができる。第2液の疎水性有機溶媒は、第1液の疎水性有機溶媒と、同じであっても、異なっていてもよいが、金属酸化物薄膜を形成する観点から、同じであることが好ましい。第2液の疎水性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系の溶媒が挙げられ、具体例として、シクロヘキサンが挙げられる。
【0048】
第2液は、例えば、水酸化物となった有機塩を水に溶解し、界面活性剤と疎水性有機溶媒を加えて、混合することにより、調製することができる。このとき、有機塩の水溶液は、限定されるものではないが、有機塩の濃度が、例えば、0.1~30重量%になるように調製することができる。また、疎水性有機溶媒の、水に対する量(有機溶媒/水)は、限定されるものではないが、例えば、重量比で、5~100:1にすることができる。また、界面活性剤の、疎水性有機溶媒に対する量(界面活性剤/有機溶媒)は、限定されるものではないが、例えば、重量比で、0.01~1:1にすることができる。
【0049】
第1液および第2液では、それぞれ、水相となる水溶液に、界面活性剤と、油相となる疎水性有機溶媒とを加えることで、疎水性有機溶媒が外相(連続相)、水が内相(分散相)となった逆ミセルが形成される。なお、ミセル(O/W型)が形成されるか、または逆ミセル(W/O型)が形成されるかは、界面活性剤および疎水性有機溶媒の種類および量などに依存し得るが、第1液および第2液の製造においては、逆ミセルが形成されるように、界面活性剤と疎水性有機溶媒が設定される。例えば、水と、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと、シクロヘキサンとの組み合わせでは、逆ミセルが容易に形成され得る。
【0050】
上記のようにして調製された第1液および第2液を混合し、混合液(逆ミセル液:RM-AB)を形成する(工程1に対応)。混合液は、エマルジョンが均一になるように撹拌することが好ましい。混合液とすることで、逆ミセルが混じりあい、ミセル径の小さい逆ミセルを形成しやすくなる。さらに、混合液に超音波処理を施すことが好ましい。超音波処理によって、第1液中の逆ミセルと第2液中の逆ミセルとを確実に混じりあわせることができる。また、超音波処理を行うと、逆ミセルのミセル径をより小さくすることができ、薄膜状の金属酸化物をより得やすくすることができる。ここで、第1液と第2液との混合により、逆ミセル内の水相が混じりあうことで、混合液の逆ミセルは、金属イオンのカウンターとなるアニオンとして、水酸化物イオンが存在することになる。いわば、水相に、金属酸化物の前駆体となる、金属水酸化物の水溶液が形成され得る。なお、逆ミセルの液を2つ調製し、その後、混合しているのは、金属酸化物の前駆体となる逆ミセルをより小さくするためである。2液を混合することで、逆ミセルを当初から1液で調製する場合よりも、金属イオンと水酸化物イオンとを含む微細な逆ミセルを形成することが容易になる。
【0051】
逆ミセルの混合液の調製後、この混合液に担体を加える(工程2に対応)。担体の添加は、好ましくは、あらかじめ疎水性有機溶媒に担体を加えて担体の分散液を調製し、この担体分散液を混合液に加えることにより行われる。疎水性有機溶媒の担体分散液とすることで、逆ミセル液の外相に担体を存在させることができ、金属酸化物を担持する複合体を容易に形成することが可能になる。さらに、担体添加後の混合液に超音波処理を施すことが好ましい。超音波処理によって、より厚みの薄い金属酸化物の薄膜を担体に担持させやすくすることができる。疎水性有機溶媒としては、上記の第1液および/または第2液に使用した疎水性有機溶媒を用いることが好ましい。疎水性有機溶媒が第1液および第2液のものと同じであれば、逆ミセルの分散系がより安定化しやすくなる。担体としては、上記で述べた担体(例えば、周期表で第2族、第3族、第6族、第8族~第14族に分類される金属の酸化物または水酸化物の粒子)を用いることができ、好ましくは、PbO、Al、またはZnOの粒子を用いることができる。担体分散液の疎水性有機溶媒としては、例えば、炭化水素系の溶媒が挙げられ、具体例として、シクロヘキサンが挙げられる。
【0052】
担体の添加の後、担体を含む混合液に、水溶性有機溶媒を加える(工程3に対応)。水溶性有機溶媒の添加により、逆ミセルを開裂させることができ、金属を担体表面に配置させやすくすることができる。水溶性有機溶媒の量は、逆ミセルを開裂させるのに十分な量であることが好ましい。例えば、混合液の体積の0.1~10倍量の体積の水溶性有機溶媒を加えることができる。さらに、水溶性有機溶媒添加後の混合液に超音波処理を施すことが好ましい。超音波処理によって、金属酸化物の薄膜をより担体に担持させやすくすることができる。水溶性有機溶媒は、水と混和する溶媒であるが、上記の疎水性有機溶媒とも混和する溶媒であることが好ましい。それにより、逆ミセルを容易に開裂させることができる。また、水溶性有機溶媒は、揮発性の有機溶媒であることが好ましい。揮発性の有機溶媒であると、溶媒の除去が容易になる。水溶性有機溶媒としては、低級アルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどを挙げることができる。特に、水溶性有機溶媒は、エタノール、メタノール、およびイソプロパノールから選択される1種以上であることが好ましい。
【0053】
水溶性有機溶媒の添加後、混合液から、濾過により、担体を含む不溶物を得る(工程4に対応)。本明細書において、不溶物とは、液に溶解しない物(不溶解性の物)を意味する。不溶物は、担体に金属酸化物(薄膜の金属酸化物)の前駆体が付着した粒子を含んでいると考えられる。金属酸化物の前駆体は、限定されるものではないが、金属塩であると推測され、さらに金属水酸化物を含んでいると推測される。混合液を濾過すると、不溶物が濾物(残渣)として得られる。なお、不溶物は、例えば、遠心分離により、不溶物を沈殿させ、上澄み液をデカンテーションで取り除くことにより、得ることもできるが、好ましくは、濾過により得る。濾過により、担体に付着しない余分な金属酸化物前駆体を除去することができ、触媒の作用を向上することができる。濾過は、吸引濾過であってもよいし、加圧濾過であってもよいし、自然濾過であってもよい。濾過においては、濾過後、洗浄液で濾物を洗浄してもよい。洗浄液としては、水、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール)などの水溶性有機溶媒が挙げられる。得られた不溶物は、少量の有機溶媒により分散させて、この分散液を移すことによって、焼成容器(例えば焼成皿)に移すことができる。焼成容器に移された不溶物は、液体(溶媒)と混合されたウェットな状態であるため、焼成前に、乾燥することが好ましい。例えば、100℃以上の温度で乾燥すると、水分が蒸発するため、乾燥が容易となる。乾燥温度は、例えば、150℃以下であってよい。
【0054】
最後に、不溶物の焼成を行う(工程5に対応)。焼成は、焼成容器に移された上記の不溶物を焼成することにより行うことができる。これにより、担体に付着した金属塩が酸化されて、金属酸化物となり、この金属酸化物が担体に固定されて、金属酸化物の薄膜が担体に担持された金属酸化物含有複合体が形成され得る。焼成は、大気中で行うことが好ましい。大気中で焼成することにより、簡便に焼成を行うことができ、金属酸化物を容易に形成することができる。もちろん、焼成は、不活性ガス(例えば窒素)の雰囲気下で行ってもよい。なお、焼成により、金属酸化物以外の成分(例えば金属イオンの対となっていたアニオンなど)は、分解、蒸発などして、消失する。
【0055】
焼成温度は、200℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、400℃以上がさらに好ましい。また、焼成温度は、900℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましく、700℃以下がさらに好ましい。焼成時間は、限定されるものではないが、例えば、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上がさらに好ましい。また、焼成時間は、10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
【0056】
以上のような工程を経ることにより、上記の金属酸化物含有複合体を製造することができる。もちろん、金属酸化物含有複合体の製造方法は、これに限定されるものではない。
【0057】
上記の金属酸化物含有複合体の製造方法によって、金属酸化物の薄膜が担体上に担持されるメカニズムについて説明する。ただし、メカニズムは、反応の考えられ得る機構の一例であり、本態様の製造方法は、このメカニズムに限定されるものではない。
【0058】
図1に、金属酸化物の薄膜(超薄膜)または微粒子(超微粒子)の形成の概念図を示す。図1(a)は、本発明による製造方法によって、担体上に金属酸化物の超薄膜が形成される様子を表している。図1(b)は、比較製造方法として、担体上に金属酸化物の超微粒子が形成される様子を表している。
【0059】
まず、上記で述べたように、第1液と第2液では、逆ミセル中に、それぞれ、金属イオンと、水酸化物イオンとが含まれている。そして、逆ミセルの第1液と第2液とを混合することで、混合液の逆ミセルの水相内で、第1液に含まれていた金属の組成比の金属水酸化物で構成される金属酸化物前駆体が形成される。このとき、逆ミセルの平均粒子径は、外周の界面活性剤を含めて5nm以下にまでなっている可能性があり、さらに、内部の水相は1nm以下の微細な空間(場所)になっている可能性があり、その微細な空間で前記の前駆体が形成され得る。その後、担体が加えられると、金属酸化物前駆体は、担体の表面に集まる。このとき、担体の表面の電荷と、金属酸化物前駆体の電荷との正負が逆になる場合、担体と金属酸化物前駆体(逆ミセル)とが電気的に引き合って、担体の表面に金属酸化物前駆体が層状に存在しやすくなる(図1(a))。例えば、前駆体が負に帯電している場合、担体が正に帯電していると、図1(a)に示すように、前駆体は、担体の表面に一様に配置されやすくなる。正の帯電は、等電点がpH7以上の担体で得ることができる。一方、図1(b)に示すように、担体が負に帯電していると、前駆体と担体の電荷の正負が同じために、前駆体は、担体表面に一様に配置されにくくなる。例えば、前駆体が担体上で積み重なって粒状に付着する。そして、図1(a)および(b)のように、前駆体が付着した担体を含む液に、エタノールなどの水溶性有機溶媒を加えることで逆ミセルが開裂し、逆ミセルの金属酸化物前駆体が、担体表面に付着する。このとき、図1(a)のように層状に前駆体が存在する場合、膜状に前駆体が担体に付着する。そして、焼成によって、前駆体の金属酸化物が担体上で結晶化し、平均膜厚が5nm以下程度の薄膜(超薄膜)が、結晶構造を有する金属酸化物として、担体上に形成される。一方、図1(b)のように前駆体が層状に存在しない場合、前駆体が微粒子状に付着し、焼成後には微粒子(超微粒子)の形態となって、金属酸化物が形成される。このように、金属酸化物の薄膜の形成は、担体の特性(特に等電点)に依存し得るものである。なお、担体が金属酸化物または金属水酸化物であると、金属酸化物前駆体と、担体との相互作用(例えば水素結合などが考えられ得る)によって、焼成の際に前駆体の粒子が拡散したり凝集したりすることが抑制され、より厚みの薄い金属酸化物の薄膜が形成しやすくなるのではないかと考えられる。
【0060】
上記の金属酸化物含有複合体を用いた水の電気分解による水素および酸素の発生方法について説明する。
本明細書では、上記の金属酸化物含有複合体を含むアノードと、カソードとの間に電圧を印加して、水を電気分解することを含む、酸素の発生方法が、開示される。また、本明細書では、上記の金属酸化物含有複合体からなる、水の電気分解における酸素生成のための触媒が開示される。また、本明細書では、水の電気分解による水素および酸素の発生のための反応システムであって、上記の金属酸化物含有複合体をアノードで使用することを含む、該反応システム、が開示される。金属酸化物含有複合体は、触媒として機能する複合体材料となる。金属酸化物含有複合体は、上記で説明したものが好ましい。
【0061】
水の電解反応では、アノードにおいて、水の酸化によって酸素が発生し、その対極となるカソードにおいて、水の還元によって水素が発生する。
水の電気分解の化学反応式を下記に示す。
アノード: 2HO → O + 4H + 4e
カソード: 2H + 2e → H
――――――――――――――――――――――――――――――――――
全反応 : 2HO → O + 2H
【0062】
本態様では、上記の金属酸化物含有複合体は電極の触媒として機能し得る。すなわち、電極の基材に触媒が加えられることで、電極が活性化する(より低い電圧での水電解反応が可能になる)。電極は、好ましくは、アノードが、金属酸化物含有複合体が電極基材の表面に配置された電極である。電極基材としては、通常、電極として使用することができるものを用いることができ、これに限定されるものではないが、例えば、グラッシーカーボン、白金、銅、銀、金、ニッケル、およびパラジウムなどの電極が挙げられる。電極基材は、例えば、板状であっても、棒状であってもよい。電極基材に配置される金属酸化物含有複合体の量は、これに限定されるものではないが、例えば、電極基材の表面1cmあたりに薄膜の金属酸化物が0.05~10mgとなる量であることが好ましい。
【0063】
金属酸化物含有複合体を含むアノードは、例えば、金属酸化物含有複合体を含む分散液を電極基材(例えば、グラッシーカーボン電極)に塗布し、乾燥することによって得ることができる。金属酸化物含有複合体の分散液は、触媒インクと称せられる。分散液の溶媒としては、これに限定されるものではないが、低級アルコールを用いることができ、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、およびイソプロパノールなどが挙げられる。分散液(触媒インク)には、高分子電解質が加えられてもよい。それにより、電気的特性が向上し得る。高分子電解質としては、例えば、ナフィオンを挙げることができる。高分子電解質(例えば、ナフィオン)は、酸性質の場合、アルカリにより、中和されることが好ましい。中和により、薄膜の金属酸化物が酸によって溶解されるのを抑制することができる。分散液(触媒インク)には、さらに、カーボン系導電性助剤が加えられてもよい。カーボン系導電性助剤が添加されると、アノードの導電性が向上し得る。カーボン系導電性助剤としては、例えば、アセチレンカーボンブラックなどが挙げられる。あるいは、カーボン系導電性助剤は加えられなくてもよい。カーボン系導電性助剤は、酸化消耗によって電解装置の耐久性が低下しやすくなるといった問題があるが、上記の金属酸化物含有複合体は、触媒活性が高く、カーボン系導電性助剤の使用を低減または削減することができる。
【0064】
カソードとしては、通常の電極材料を用いることができ、これに限定されるものではないが、例えば、白金、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、およびグラッシーカーボンなどの電極が挙げられる。カソードの電極は、例えば、板状であっても、棒状であってもよい。
【0065】
上記の水の電気分解では、アノードが作用極、カソードが対極となる。水の電気分解にあたっては、参照電極を設けてもよい。参照電極を設けることにより、作用極であるアノードの電気特性を用意に確認することができる。参照電極としては、Hg/HgO、などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0066】
水の電気分解に用いる水は、電解質を含む水が好ましく、例えば、アルカリ水を用いることができる。アルカリ水の電気分解によって、水素および酸素を効率よく発生させることができる。具体的には、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物などを精製水に溶解した電解水を用いることができる。電解質の濃度は、例えば、0.1~10mol dm-3の範囲とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0067】
上記のような構成により、水の電気分解装置を作製し、アノードと、カソードとの間に電圧を印加して、水を電気分解することができる。水の電気分解によって、カソードにおいて水素が発生するとともに、アノードにおいて酸素が発生する。カソードで発生した水素、およびアノードで発生した酸素は、クリーンなエネルギーとして使用することが可能である。
【0068】
ここで、水の電気分解では、酸素生成反応(OER)を行うアノードでのエネルギーロスをできるだけ少なくすること重要である。上記の金属酸化物含有複合体の触媒では、より低い電圧での水の電気分解が可能になり、アノードでのエネルギーロスを効果的に低減させることができる(実施例参照)。また、上記の金属酸化物含有複合体の触媒は、複数回の電圧の印加がされた場合も、触媒作用が低下しにくく、耐久性に優れている(実施例参照)。
【0069】
また、水電解の水素製造の実用化にはシステムコストの大幅な低減が求められる。しかしながら、従来、酸素生成反応を活性化する手段として、発泡ニッケル基板にNiCo酸化物(触媒)を添加した電極が中心となっており、価格の高いニッケルとコバルトの使用量が多くなるため、コストが高くなっている。それに対し、本発明では、例えば、CaFeCoOの薄膜の金属酸化物含有複合体を用いた場合、ニッケルを使用せず、コバルトの使用量を抑えた触媒を得ることも可能であり、水電解および水素製造のコストを低減させることができる。
【0070】
本明細書では、上記の金属酸化物含有複合体について、水を電気分解して酸素を発生させる例を示したが、金属酸化物含有複合体からなる触媒は、これ以外の反応に使用されてもよい。金属酸化物含有複合体は、他の反応(酸化反応や還元反応など)の触媒材料として用いられてもよい。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0072】
触媒(金属酸化物含有複合体)の調製
製造例1:CaFeCoO/PbO(担持率10重量%)
Ca(NO・4HO、Fe(NO・9HO、およびCo(NO・6HOを、モル比がCa:Fe:Co=2:1:1になるようにイオン交換水に溶解し、Ca(NO・4HOの濃度が0.2mol/Lとなるように、金属の硝酸塩の水溶液を調製した。この溶液0.5mLと、界面活性剤としてポリオキシエチレン(6)ノニルフェニルエーテル(NP-6、第一工業製薬(株))4.5g、溶媒としてシクロヘキサン9.0gを三角フラスコに入れ、10℃の水浴下、500rpmで30分間撹拌し、第1液となる逆ミセル溶液(RM-A)を調製した。
また、別の三角フラスコに10%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(TMAHaq)1.5mL、ポリオキシエチレン(6)ノニルフェニルエーテル(NP-6)13.5g、およびシクロヘキサン27.0gを加え、10℃の水浴下、500rpmで30分間撹拌し、第2液となる逆ミセル溶液(RM-B)を調製した。
次に、第1液(RM-A)と第2液(RM-B)を混合し、10℃の水浴下、500rpmで1時間撹拌し、逆ミセルを有する混合液(RM-AB)を調製した。続いて、混合液(RM-AB)を45kHzで15分間超音波処理した。
一方、シクロヘキサン50.0gに、担体としてPbO粒子0.1237g(担持率10重量%相当)を加え、45kHzで10分間超音波処理し、PbO/シクロヘキサン分散溶液を調製した。
混合液(RM-AB)に、上記のPbO/シクロヘキサン分散溶液を加えて混合した。その後、エタノール200mLを加え、室温、550rpmで1時間撹拌した。このとき、過剰量のエタノールによって、逆ミセルが開裂されたものと考えられる。得られた溶液を逆ミセル開裂溶液と称する。
逆ミセル開裂溶液について桐山ロートを用いて濾過した。得られた濾物を100mLのイオン交換水で3回洗浄した後、焼成皿に移した。その後、電気炉を用いて110℃で2時間乾燥し、次いで、600℃で5時間焼成(昇温速度:10℃/min)し、製造例1の触媒粉末を得た。
【0073】
製造例1A:CaFeCoO/PbO(担持率10重量%)(遠心分離)
製造例1と同様にして、逆ミセル開裂溶液を調製した。逆ミセル開裂溶液について4000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み溶液を捨て、残った沈殿物に少量のエタノールを加えて、沈殿物を焼成皿に移した。その後、電気炉を用いて110℃で2時間乾燥し、次いで、600℃で5時間焼成(昇温速度:10℃/min)し、製造例1Aの触媒粉末を得た。
【0074】
製造例2:CaFeCoO/Al(担持率10重量%)
製造例1において、担体として、PbO粒子0.1237gに代えて、Al粒子0.1237g(担持率10重量%相当)の担体を使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、製造例2の触媒粉末を得た。
【0075】
製造例3:CaFeCoO/ZnO(担持率10重量%)
製造例1において、担体として、PbO粒子0.1237gに代えて、ZnO粒子0.1237g(担持率10重量%相当)の担体を使用したこと以外は、製造例1と同様の方法で、製造例3の触媒粉末を得た。
【0076】
比較製造例1:CaFeCoO/TiO(担持率10重量%)(微粒子)
製造例1と同様にして、混合液(RM-AB)を調製した。
また、シクロヘキサン50.0gに、TiO粒子0.1237g(担持率10重量%相当)を加え、45kHzで10分間超音波処理し、TiO/シクロヘキサン分散溶液を調製した。
混合液(RM-AB)に、上記のTiO/シクロヘキサン分散溶液を加えて混合した。その後、エタノール200mLを加え、室温、550rpmで1時間撹拌した。得られた溶液(逆ミセル開裂溶液)について桐山ロートを用いて濾過した。得られた濾物を100mLのイオン交換水で3回洗浄した後、焼成皿に移した。その後、電気炉を用いて110℃で2時間乾燥し、次いで、600℃で5時間焼成(昇温速度:10℃/min)し、比較製造例1の触媒粉末を得た。
【0077】
比較製造例1A:CaFeCoO/TiO(担持率10重量%)(微粒子)
比較製造例1と同様の方法で、逆ミセル開裂溶液を得た。この逆ミセル開裂溶液について4000rpmで15分間遠心分離を行い、上澄み溶液を捨て、残った沈殿物に少量のエタノールを加えて、沈殿物を焼成皿に移した。その後、電気炉を用いて110℃で2時間乾燥し、次いで、600℃で5時間焼成(昇温速度:10℃/min)し、比較製造例1Aの触媒粉末を得た。
【0078】
ゼータ電位の測定
試料として、PbO、Al、ZnO、またはTiOの粒子をエタノールに分散した分散液、および、CaFeCoO前駆体(製造例1の、Ca、FeおよびCoを含んだ逆ミセルを含有する混合液(RM-AB)にエタノールを加えて逆ミセルを開裂させたもの)を含有する分散液、を使用した。
上記の各試料を電気泳動光散乱法(ELS)により、ゼータ電位測定装置「Malvern Panalytical, Zetasizer Nano-ZS」を用いて、ゼータ電位を測定した。エタノール分散液における粘度は1.1280とし、測定温度は室温、平衡時間(equilibration time)は2分とした。測定は複数回行って(1セット約20回の測定を10セット行う)、平均値を求めた。
表1に、ゼータ電位および等電点の測定結果を示す。
【表1】
表1から、AlおよびZnOの粒子は、正に帯電し、TiOの粒子は、負に帯電していることが分かり、また、CaFeCoO前駆体(粒子)は、負に帯電していることが分かる。なお、PbOの粒子は、沈殿発生のためにゼータ電位を測定できなかったが、等電点の値から、正に帯電していると予想される。
【0079】
高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)による観察
図2(a)~(e)に、製造例1~3、比較製造例1で製造した粉末(金属酸化物含有複合体)のHRTEM像を示す。画像では、構造が理解しやすいよう、金属酸化物の薄膜または粒子(一部)の外縁に破線を記入している。また、「CFCO」はCaFeCoOを意味する。図2(a)~(c)に示すように、PbO、Al、ZnOの担体では担体を覆うようにブラウンミラーライト(BM)型結晶の格子縞を有するCaFeCoOのナノ薄膜が形成されたことが確認された。結晶構造は、制限視野電子回折(SAD)によって確認された。図2には、金属酸化物薄膜および担体の結晶構造の面間隔に帰属する格子縞の幅を記入している。例えば、図2(a)では、CaFeCoOのd=0.21mm(126)、および、PbOのd=0.20mm(022)、が記載されている。薄膜の厚みは、HRTEM像から、5nm以下であった。一方、図2(d)に示すように、TiOの担体では5~10nm程度のCaFeCoOの微粒子が凝集していた。
上記のゼータ電位よりCaFeCoO前駆体は溶液中で負に帯電しており、正に帯電しているAl、ZnO、およびPbOなどの担体では静電相互作用により担体表面に前駆体が密に集まり、担持され、薄膜となったと考えられる(図1(a)参照)。一方、TiOでは、担体が負に帯電しているため、前駆体が電気的に反発して密に集まらず、CaFeCoOの微粒子が形成されたものと考えられる(図1(b)参照)。
【0080】
電極の作製
電極例1
まず、以下のように、ナフィオンの中和を行った。ナフィオンの中和は、金属酸化物含有複合体からなる触媒が酸性質(酸性度の高いナフィオン)によって溶解する可能性があるため、中和してそれを防ぐために行うものである。バイアル瓶に5%ナフィオン分散溶液4mL、および0.1mol dm-3 のNaOH水溶液2mLを加え、45kHzで20分間超音波処理した。これにより、ナフィオンが中和された。
製造例1で得た触媒(金属酸化物含有複合体)50mg、および上記で得たナフィオン分散溶液0.3mLを、エタノール4.7mLに加え、45kHzで30分間超音波処理した。これにより、触媒およびナフィオンを含む触媒インクを調製した。
上記の触媒インク14μLを10回に分けて、グラッシーカーボン電極(直径:3mm)に滴下し、滴下ごとに常温で2~3分乾燥させ、触媒インクを塗布した。最終的にCaFeCoOが約0.2mg/cmの割合となって触媒が塗布された電極(作用極)を作製した。
【0081】
電極例1A
製造例1で得た触媒(金属酸化物含有複合体;CaFeCoO薄膜/PbO:濾過)の代わりに、製造例1Aで得た触媒(CaFeCoO薄膜/PbO:遠心分離)を使用したこと以外は、電極例1と同様にして、電極例1Aを製造した。
【0082】
比較電極例1A
製造例1で得た触媒(金属酸化物含有複合体;CaFeCoO薄膜/PbO:濾過)の代わりに、比較製造例1Aで得た触媒(CaFeCoO微粒子/TiO:遠心分離)を使用したこと以外は、電極例1と同様にして、比較電極例1Aを製造した。
【0083】
比較電極例2
比較電極例2の作製のため、以下のように、CaFeCoO粒子(公知の触媒)を国際公開WO2015/115592A1の方法に従って製造した。原料として、Ca(NO・4HO、Fe(NO・9HO、Co(NO・6HO、クエン酸(CA)を用いて、Ca:Fe:Co:CA=2:1:1:4の比率(モル比)で混合し、得られた混合物16gと100gの水とを混合して水溶液を得た。得られた水溶液を約70℃に加熱、溶媒の除去、及びゲル化を行った。これを空気中、450℃で1時間仮焼成し、前駆体を合成した。次にこの前駆体を大気中、600℃で6時間焼成した。これにより、CaFeCoO粒子(粒子径:約20~50nm)(触媒)を得た。
上記によって得たCaFeCoO粒子5mg、電極例1で記載の中和したナフィオン分散溶液0.3mLを、エタノール4.7mLに加え、45kHzで30分間超音波処理した。これにより、触媒およびナフィオンを含む触媒インクを調製した。
上記の触媒インク14μLを10回に分けて、グラッシーカーボン電極(直径:3mm)に滴下し、滴下ごとに常温で2~3分乾燥させ、触媒インクを塗布した。最終的にCaFeCoOが約0.2mg/cmの割合となって触媒(CaFeCoO粒子)が塗布された電極(作用極)を作製した。
【0084】
水の電気分解:サイクリックボルタンメトリー(CV)測定
上記の電極例1、電極例1A、比較電極例1A、および比較電極例2で作製した電極のいずれかを作用極(アノード)とし、白金板(1.5cm×1.5cm)を対極(カソード)とし、Hg/HgO/ 4mol dm-3 KOH水溶液を参照電極とした三電極式セル(ポテンショスタット)を組み立てた。電解液は、4mol dm-3 KOH水溶液とした。また、対照として、触媒を塗布していないグラッシーカーボン電極をアノードに用いたポテンショスタットも作製した。
上記のポテンショスタットを用い、まず電圧をかけずに電解液を10分間撹拌した後、掃引速度50mV/s、掃引範囲0.276~0.876V vs.Hg/HgO/ 4mol dm-3 KOH水溶液、サイクル数3×nサイクルで、電圧をかけてサイクリックボルタンメトリー(CV)を測定した。サイクル数は、3×nサイクルで測定し、各3回のうちの2回目の測定結果を用いた。なお、以下のCVの結果において、電圧は、測定に用いた参照電極であるHg/HgO/ 4mol dm-3 KOH水溶液基準の値を可逆水素電極(RHE)基準に換算しており、vs.RHEで表した。
【0085】
図3に、電極例1、電極例1A、比較電極例1A、および対照電極(触媒なし)、のサイクリックボルタンメトリー(単回掃引;3回掃引の2回目)の結果を示す。電極例1A(CaFeCoO薄膜/PbO:遠心分離)は、比較電極例1A(CaFeCoO微粒子/TiO:遠心分離)よりも、過電圧が小さく、電流密度も高かった。また、電極例1(CaFeCoO薄膜/PbO:濾過)は、電極例1A(CaFeCoO薄膜/PbO:遠心分離)と比較して、さらに活性が向上した。これは、ナノ薄膜となることで微粒子と比べてCaFeCoOと水の界面が多くなり、反応サイトが多くなったから、および、濾過により余分な前駆体を除去することで膜厚がさらに薄くなり、ナノ薄膜の電気伝導性が向上したから、と推測される。
【0086】
図4に、電極例1、電極例1A、および比較電極例2のサイクリックボルタンメトリー(単回掃引;3回掃引の2回目)の結果を示す。電極例1A(CaFeCoO薄膜/PbO:遠心分離)では、約1.7V以上で活性が比較電極例2(CaFeCoO粒子)に比べて活性が低くなるが、電極例1(CaFeCoO薄膜/PbO:濾過)では、約1.7V以上でも、比較電極例2と同等の高活性を維持した。
【0087】
図5に、電極例1のサイクリックボルタンメトリーの結果(サイクル試験)を示す。図6に、比較電極例2のサイクリックボルタンメトリーの結果(サイクル試験)を示す。図7は、図5および図6の結果から、1.8Vにおける、電極例1および比較電極例2のサイクル回数と電流密度の関係を示したグラフである。図5~7に示すように、比較電極例2は、サイクル回数が増加するにつれて、電流密度の値が、電極例1に比べて減少するのが速い。具体的には、1.8Vにおいて、電極例1は、101サイクルにおいても約110mA cm-2を維持しているのに対し、比較電極例1は、101サイクルにおいて約60mA cm-2に低下している。これは、比較電極例2は、電気分解時に、CaFeCoO粒子が電極から脱落し、導通不良が発生するからではないかと推測される。一方、電極例1は、触媒(CaFeCoO薄膜/PbO)が脱落しにくくなり、耐久性が向上したものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、水電解反応の電極の触媒として機能することができる金属酸化物含有複合体を提供し、この金属酸化物含有複合体により効果的に水の電気分解を行って水素および酸素を発生させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7