(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126431
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0281 20160101AFI20220823BHJP
【FI】
C08G75/0281
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024498
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
(72)【発明者】
【氏名】落合 淳一
【テーマコード(参考)】
4J030
【Fターム(参考)】
4J030BA03
4J030BB28
4J030BC08
4J030BD22
4J030BG10
4J030BG27
(57)【要約】
【課題】溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を良好に除去でき、黄色度が低く白色度が高い、好ましい色相の成形品を形成できる精製されたポリアリーレンスルフィドが得られる、精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供すること。
【解決手段】粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又は特定のモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、有機溶媒により洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含む方法により、粗製ポリアリーレンスルフィドを精製する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又はモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、
前記有機溶媒により洗浄された前記粗製ポリアリーレンスルフィドを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含み、
前記モノアルキルベンゼンが、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、及びイソプロピルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記酸性水溶液が、水に溶解した際にヒドロニウムイオンを生成させる化合物を酸性化合物として含む、精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、ベンゼン、及び/又はトルエンを含む、請求項1に記載の精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記酸性化合物が、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、及び塩化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記第1洗浄において、前記有機溶媒による洗浄と、前記有機溶媒からの洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドの分離とを、2回以上繰り返して行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【請求項5】
前記粗製ポリアリーレンスルフィドを、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)前記仕込み混合物を加熱して重合反応を行うことにより、前記粗製ポリアリーレンスルフィドを生成させる重合工程と、
(3)前記重合工程により得られた前記粗製ポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物から、前記粗製ポリアリーレンスルフィドを分離する分離工程と、
を含む方法による製造する、請求項1~4のいずれか1項に記載の精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」とも称する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」とも称する。)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PASは、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
かかるPASは、通常、高温での重合反応を経て製造されるため、種々の不純物等を含んでいる。このため、PASは、重合後に精製されて製品とされることが多い。
【0004】
重合後に得られた粗製PASの精製方法としては、例えば、粗製PASをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)により洗浄する方法(特許文献1を参照。)や、粗製PASをアセトンにより洗浄する方法(特許文献2を参照。)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-74186号公報
【特許文献2】特開2016-56232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、粗製PASをNMPにより洗浄する場合、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を良好に除去できる一方で、精製されたPASを用いて、黄色度が低く白色度が高い、好ましい色相の成形品を形成しにくい問題がある。
他方、粗製PASをアセトンにより洗浄する場合、好ましい色相のPASを得やすい一方で、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を除去しにくい問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を良好に除去でき、黄色度が低く白色度が高い、好ましい色相の成形品を形成できる精製されたポリアリーレンスルフィドが得られる、精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又は特定のモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、有機溶媒により洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含む方法により、粗製ポリアリーレンスルフィドを精製することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る精製されたPASの製造方法は、
粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又はモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、
有機溶媒により洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含み、
モノアルキルベンゼンが、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、及びイソプロピルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種であり、
酸性水溶液が、水に溶解した際にヒドロニウムイオンを生成させる化合物を酸性化合物として含む。
【0010】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、有機溶媒が、ベンゼン、及び/又はトルエンを含んでいてもよい。
【0011】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、酸性化合物が、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、及び塩化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0012】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、第1洗浄における有機溶媒の温度が、30℃以上80℃以下であってもよい。
【0013】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、第1洗浄における有機溶媒の使用量が、粗製ポリアリーレンスルフィド中のポリアリーレンスルフィド100質量部に対して、100質量部以上3000質量部以下であってもよい。
【0014】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、第1洗浄において、有機溶媒による洗浄と、有機溶媒からの洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドの分離とを、2回以上繰り返して行ってもよい。
【0015】
本発明に係る精製されたPASの製造方法では、粗製ポリアリーレンスルフィドを、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を行うことにより、粗製ポリアリーレンスルフィドを生成させる重合工程と、
(3)重合工程により得られた粗製ポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物から、粗製ポリアリーレンスルフィドを分離する分離工程と、
を含む方法により製造してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を良好に除去でき、黄色度が低く白色度が高い、好ましい色相の成形品を形成できる精製されたポリアリーレンスルフィドが得られる、精製されたポリアリーレンスルフィドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明にかかる精製されたPASの製造方法の一実施形態について以下に説明する。
本実施形態における精製されたPASの製造方法は、
粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又はモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、
有機溶媒により洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を必須に含む。
以下、第1洗浄、及び第2洗浄と、任意に実施されてよいその他の工程とについて説明する。
【0018】
<第1洗浄>
第1洗浄では、粗製ポリアリーレンスルフィドを、ベンゼン、及び/又はモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する。
【0019】
〔粗製ポリアリーレンスルフィド〕
粗製ポリアリーレンスルフィドを製造する方法は、特に限定されない。粗製ポリアリーレンスルフィドは、典型的には、
(1)有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する仕込み混合物を調製する仕込み工程と、
(2)仕込み混合物を加熱して重合反応を行うことにより、粗製ポリアリーレンスルフィドを生成させる重合工程と、
(3)重合工程により得られた粗製ポリアリーレンスルフィドを含む反応混合物から、粗製ポリアリーレンスルフィドを分離する分離工程と、
を含む方法により製造される。
【0020】
(有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物)
有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物としては、特に限定されず、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物の各々は、単独で用いてもよいし、所望する化学構造を有するPASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0021】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンがさらにより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0022】
有機極性溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、上記硫黄源1モルに対し、1~30モルが好ましく、3~15モルがより好ましい。
【0023】
硫黄源としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、硫化水素を挙げることができ、アルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物であることが好ましい。硫黄源は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うことができ、計量性、搬送性等のハンドリング性の観点から、水溶液の状態であることが好ましい。アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムが挙げられる。アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムが挙げられる。
【0024】
ジハロ芳香族化合物とは、芳香環に直結した2個の水素原子がハロゲン原子で置換された芳香族化合物を指す。
【0025】
ジハロ芳香族化合物としては、例えば、o-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、p-ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ-ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、ジハロジフェニルケトン等のジハロ芳香族化合物が挙げられる。ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の各原子を指し、ジハロ芳香族化合物における2個以上のハロゲン原子は、同じでも異なっていてもよい。中でも、入手性、反応性等の点で、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、及びこれら両者の混合物が好ましく、p-ジハロベンゼンがより好ましく、p-ジクロロベンゼン(以下、「pDCB」とも称する。)が特に好ましい。
【0026】
ジハロ芳香族化合物の使用量は、硫黄源の仕込み量1モルに対し、好ましくは0.90~1.50モルであり、より好ましくは0.92~1.10モルであり、さらにより好ましくは0.95~1.05モルである。上記使用量が上記範囲内であると、分解反応が生じにくく、安定的な重合反応の実施が容易であり、高分子量ポリマーを生成させやすい。
【0027】
(脱水工程)
脱水工程は、仕込み工程の前に、有機極性溶媒、及び硫黄源を含有する混合物を含む系内から、水を含む留出物の少なくとも一部を系外に排出する工程である。脱水工程に供される混合物は、必要に応じて、アルカリ金属水酸化物を含んでいてもよい。硫黄源とジハロ芳香族化合物との重合反応は、重合反応系に存在する水分量によって促進又は阻害される等の影響を受ける。したがって、上記水分量が重合反応を阻害しないように、重合の前に脱水処理を行うことにより、重合反応系内の水分量を減らすことが好ましい。
【0028】
脱水工程では、不活性ガス雰囲気下での加熱により脱水を行うことが好ましい。脱水工程で脱水されるべき水分とは、脱水工程で仕込んだ各原料が含有する水、水性混合物の水媒体、各原料間の反応により副生する水等である。
【0029】
脱水工程における加熱温度は、300℃以下であれば特に限定されず、好ましくは100~250℃である。加熱時間は、15分~24時間であることが好ましく、30分~10時間であることがより好ましい。
【0030】
脱水工程では、水分量が所定の範囲内になるまで脱水する。即ち、脱水工程では、仕込み混合物(後述)における水分量が、硫黄源(以下、「仕込み硫黄源」又は「有効硫黄源」とも称する)1.0モルに対して、好ましくは0.5~2.4モルになるまで脱水することが望ましい。脱水工程で水分量が少なくなり過ぎた場合は、前段重合工程に先立つ仕込み工程において水を添加して所望の水分量に調節すればよい。
【0031】
(仕込み工程)
仕込み工程は、有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物を含有する混合物を調製する工程である。仕込み工程において仕込まれる混合物を、「仕込み混合物」とも称する。
【0032】
脱水工程を行う場合、仕込み混合物における硫黄源の量(以下、「仕込み硫黄源の量」又は「有効硫黄源の量」とも称する。)は、原料として投入した硫黄源のモル量から、脱水工程で揮散した硫化水素のモル量を引くことによって、算出することができる。
【0033】
脱水工程を行う場合、仕込み工程では脱水工程後に系内に残存する混合物に、必要に応じてアルカリ金属水酸化物及び水を添加することが出来る。特に、脱水時に生成した硫化水素の量と脱水時に生成したアルカリ金属水酸化物の量とを考慮したうえで、アルカリ金属水酸化物を添加することが出来る。アルカリ金属水酸化物としては、PASの製造において通常用いられるものを用いることができる。アルカリ金属水酸化物は、単独で用いてもよいし、PASの製造が可能である組み合わせであれば、2種類以上を混合して用いてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。なお、アルカリ金属水酸化物のモル数は、仕込み工程で必要に応じて添加するアルカリ金属水酸化物のモル数、並びに、脱水工程を行う場合には、脱水工程において必要に応じて添加したアルカリ金属水酸化物のモル数、及び、脱水工程において硫化水素の生成に伴い生成するアルカリ金属水酸化物のモル数に基づいて算出される。硫黄源がアルカリ金属硫化物を含む場合には、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数は、アルカリ金属硫化物のモル数を含めて算出するものとする。硫黄源に硫化水素を使用する場合には、生成するアルカリ金属硫化物のモル数を含めて、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数を算出するものとする。ただし、他の目的で添加されるアルカリ金属水酸化物のモル数、例えば、後述する相分離剤として有機カルボン酸金属塩を有機カルボン酸とアルカリ金属水酸化物との組み合わせの態様で使用する場合には、中和等の反応で消費したアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。さらに、何らかの理由で、無機酸及び有機酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸が使用される場合等は、上記少なくとも1種の酸を中和するに必要なアルカリ金属水酸化物のモル数は、硫黄源(仕込み硫黄源)1モル当たりのアルカリ金属水酸化物のモル数に含めないものとする。
【0034】
仕込み混合物において、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物の各々の使用量は、例えば、硫黄源の仕込み量1モルに対し、有機極性溶媒及びジハロ芳香族化合物に関する上記説明中で示す範囲に設定される。
【0035】
(重合工程)
重合工程では、仕込み混合物を加熱して重合反応を行うことにより、粗製PASを生成させる。
より高分子量のPASを得るために、重合反応は2段階以上に分けて行われるのが好ましい。具体的には、前段重合工程と、相分離剤の存在下で重合反応を継続する後段合工程とに分けて重合反応が行われるのが好ましい。相分離剤は、前段重合工程と後段重合工程との間に設けられる相分離剤添加工程において反応混合物に加えられる。
前段重合工程は、仕込み混合物中を加熱して重合反応を開始させ、プレポリマーを生成させる工程である。前段重合工程では、有機極性溶媒中で硫黄源と、ジハロ芳香族化合物とを重合させてPASのプレポリマーを生成させる。なお、前段重合工程及び後段重合工程において加熱される混合物と、相分離剤添加工程において相分離剤が添加される混合物と、相分離剤添加工程において相分離した混合物とを、「反応混合物」と称する。
【0036】
前段重合工程において、ジハロ芳香族化合物の転化率は、好ましくは50~98モル%、より好ましくは60~97モル%、さらに好ましくは65~96モル%、特に好ましくは70~95モル%である。ジハロ芳香族化合物の転化率は、反応混合物中に残存するジハロ芳香族化合物の量をガスクロマトグラフィにより求め、その残存量とジハロ芳香族化合物の仕込み量と硫黄源の仕込み量に基づいて算出することができる。
【0037】
前段重合工程に続く後段重合工程においては、前記プレポリマーの重合度が上昇する。
【0038】
相分離剤としては、水が好ましく用いられる。水以外の好ましい相分離剤としては、例えば、有機カルボン酸金属塩(例えば、酢酸ナトリウムのような脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩や、芳香族カルボン酸のアルカリ土類金属塩等)、有機スルホン酸金属塩、アルカリ金属ハライド、アルカリ土類金属ハライド、リン酸アルカリ金属塩、アルコール類、及び無極性溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。なお、相分離剤として使用される上記の塩類は、対応する酸と塩基を別々に添加する態様であっても差しつかえない。
【0039】
相分離剤の使用量は、用いる化合物の種類によって異なるが、有機極性溶媒1kgに対し、0.01~20モルの範囲内でよい。相分離剤として使用される水の量は、硫黄源1モル当たり0.1~5モルが好ましく、2~4モルがより好ましい。また、相分離剤として水を添加した場合の反応系内の水分量は、有機極性溶媒1kg当たり、4モル超過20モル以下でよく、4.1~14モルでもよく、4.2~10モルでもよい。
【0040】
後段重合工程において、アルカリ金属水酸化物の量は、硫黄源1モルに対し、好ましくは1.00~1.10モル、より好ましくは1.01~1.08モル、さらにより好ましくは1.02~1.07モルである。アルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内であると、得られるPASの分子量がより上昇しやすく、より高分子量のPASをより得やすい。後段重合工程では、前段重合工程後の反応混合物中に存在するアルカリ金属水酸化物の量に基づき、最終的なアルカリ金属水酸化物の量が上記範囲内となるように、該反応混合物にアルカリ金属水酸化物が添加されるのが好ましい。
【0041】
前段重合工程、及び後段重合工程では、重合反応の効率等の観点から、温度170~300℃の加熱下で重合反応を行うことが好ましい。前段重合工程、及び後段重合工程における重合温度は、180~280℃の範囲であることが、副反応及び分解反応を抑制する上でより好ましい。特に、前段重合工程では、重合反応の効率等の観点から、温度170~270℃の加熱下で重合反応を開始させ、ジハロ芳香族化合物の転化率が50%モル以上のプレポリマーを生成させることが好ましい。前段重合工程における重合温度は、180~265℃の範囲から選択することが、副反応及び分解反応を抑制する上で好ましい。
【0042】
前段重合工程、及び後段重合工程における重合反応は、バッチ式で行ってもよいし、連続的に行ってもよい。例えば、少なくとも、有機極性溶媒、硫黄源、及びジハロ芳香族化合物の供給と、有機極性溶媒中での硫黄源とジハロ芳香族化合物との反応によるPASの生成と、PASを含む反応混合物の回収と、を同時並行で行うことにより、重合反応を連続的に行うことができる。
【0043】
(冷却工程)
冷却工程は、重合工程後に、反応混合物を冷却する工程である。冷却工程における具体的な操作は、例えば、特許第6062924号公報に記載の通りである。
【0044】
(分離工程)
分離工程は、冷却された反応混合物から粗製PASを分離する工程である。分離工程では、例えば、スクリーンを用いる篩分や遠心分離機による遠心分離等を用いて、固液分離を行う。
【0045】
以上説明したような方法により製造される粗製PASが、第1洗浄において有機溶媒により洗浄される。粗製PASは、反応混合物から回収された後に乾燥されていてもよい。また、粗製PASは、反応に用いた溶媒で濡れていてもよい。
【0046】
<有機溶媒>
第1洗浄では、上記の粗製PASを、有機溶媒により洗浄する。有機溶媒は、ベンゼン、及び/又はモノアルキルベンゼンを必須に含む。
有機溶媒中の、ベンゼン及び/又はモノアルキルベンゼンの含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。有機溶媒中のベンゼン及び/又はモノアルキルベンゼンの含有量は、第1洗浄において使用される有機溶媒の総質量に対して、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量が最も好ましい。
ベンゼン及び/又はモノアルキルベンゼンとともに使用され得る有機溶媒としては、所望する効果が阻害されない限りにおいて特に限定されない。
【0047】
有機溶媒として使用されるモノアルキルベンゼンは、トルエン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、及びイソプロピルベンゼンからなる群より選択される少なくとも1種である。
有機溶媒としては、精製効果が高く、洗浄後の乾燥が容易である点等から、ベンゼン、及び/又はトルエンが好ましい。
【0048】
有機溶媒による洗浄は、連続式で行われてもバッチ式で行われてもよく、バッチ式が好ましい。
第1洗浄において、有機溶媒による洗浄と、有機溶媒からの洗浄された粗製ポリアリーレンスルフィドの分離とは、2回以上繰り返して行われてもよい。繰り返し数は、特に限定されず、例えば、2回以上5回以下が好ましく、2回又は3回がより好ましい。
繰り返し洗浄を行うことにより、良好に精製されたPASを得やすい。
有機溶媒による洗浄が複数回繰り返して行われる場合、各回の洗浄に用いられる有機溶媒は、同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
第1洗浄における有機溶媒の使用量は、所望する効果が損なわれない限りにおいて特に限定されない。
第1洗浄における有機溶媒の使用量は、粗製PAS中のPAS100質量部に対して、100質量部以上3000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、特に好ましいのは500質量部以上1000質量部以下である。
有機溶媒による洗浄が複数回繰り返して行われる場合、有機溶媒の使用量は、複数回の洗浄で使用された有機溶媒の使用量の総量である。
【0050】
第1洗浄における有機溶媒の温度は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。有機溶媒の温度は、使用する有機溶媒の沸点等を勘案して適宜定められる精製効果が良好である点で、有機溶媒の温度は、30℃以上80℃以下が好ましく、30℃以上60℃以下がより好ましい。
なお、耐圧容器を用いることにより、有機溶媒の沸点以上の温度で、第1洗浄を行うこともできる。
有機溶媒としてトルエンを用いる場合、トルエンの沸点と洗浄効果とを勘案して、有機溶媒の温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、30℃以上60℃以下がより好ましい。
また、洗浄効果に優れる点では、有機溶媒の温度が、粗製PASのガラス転移温度Tg以上であるのも好ましい。例えば、粗製PASが、ガラス転移温度が90℃であるPPSである場合、粗製PPSを、90℃以上、有機溶媒の沸点以下の温度で洗浄するのも好ましい。
有機溶媒による洗浄が複数回繰り返して行われる場合、各回の洗浄に用いられる有機溶媒の温度は、同一であっても異なっていてもよい。
【0051】
粗製PASを有機溶媒により洗浄する方法は、粗製PASと有機溶媒とを接触させることができる方法であれば特に限定されない。
典型的には、洗浄槽に、粗製PASと、有機溶媒とを仕込んだ後、粗製PAS及び有機溶媒からなるスラリーを撹拌することにより、第1洗浄が行われる。
【0052】
有機溶媒により洗浄された後の粗製PASは、例えば、スクリーンを用いる篩分や遠心分離機による遠心分離等を用いて、有機溶媒から分離される。
有機溶媒から分離された粗製PASは、必要に応じて、水で洗浄されてもよい。水による洗浄は2回以上、好ましくは2回以上5回以下、繰り返して行われてもよい。
洗浄に用いる水の量は、特に限定されないが、第1洗浄で使用される有機溶媒の量と同様の量が好ましい。
有機溶媒から分離された粗製PASは、有機溶媒に濡れた状態、水に濡れた状態、又は乾燥された状態で第2洗浄に供される。
【0053】
<第2洗浄>
第2洗浄では、有機溶媒により洗浄された粗製PASを、酸性水溶液により洗浄する。
酸性水溶液が、水に溶解した際にヒドロニウムイオンを生成させる化合物を酸性化合物として含む。
酸性化合物は、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、ギ酸、及び塩化アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
これらの酸性化合物の中では、良好な精製効果を得やすく、取り扱いが容易であることから酢酸が好ましい。
【0054】
酸性水溶液の使用量は、粗製PAS中のPAS100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下が好ましく、150質量部以上1500質量部以下がより好ましく、200質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。特に好ましいのは500質量部以上1000質量部以下である。
酸性水溶液による洗浄も、1回のみ行われてもよく、2回以上繰り返し行われてもよい。酸性水溶液による洗浄が、2回以上行われる場合、上記の酸性水溶液の使用量は、第2洗浄で使用される酸性水溶液の総量である。
【0055】
酸性水溶液における酸性化合物の濃度は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。酸性水溶液における酸性化合物の濃度は、精製効果の点で、0.1質量%以上5質量%以下が好ましく、0.15質量%以上1質量%以下がより好ましい。
【0056】
酸性水溶液の温度は特に限定されない。酸性水溶液の温度は、洗浄に用いる装置の防食の点等から、典型的には0℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
【0057】
粗製PASを酸性水溶液により洗浄する方法は、粗製PASと有機溶媒とを接触させることができる方法であれば特に限定されない。
典型的には、洗浄槽に、粗製PASと、酸性水溶液とを仕込んだ後、粗製PAS及び有酸性水溶液からなるスラリーを撹拌することにより、第2洗浄が行われる。
【0058】
酸性水溶液により洗浄された後の精製されたPASは、例えば、スクリーンを用いる篩分や遠心分離機による遠心分離等を用いて、有機溶媒から分離される。
酸性水溶液から分離された精製されたPASは、乾燥してそのまま製品とされ得る。酸性水溶液から分離された精製されたPASは、PASに付着する微量の不純物と酸とを除去するため、通常、水で洗浄される。水による洗浄は2回以上、好ましくは2回以上5回以下、繰り返して行われてもよい。
洗浄に用いる水の量は、特に限定されないが、第1洗浄で使用される有機溶媒の量と同様の量が好ましい。
水洗された精製されたPASは、乾燥された後、製品とされる。
【0059】
<精製されたPAS>
精製されたPASは、黄色度が低く白色度が高い好ましい色調を示し、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を少量しか含まない。
【0060】
精製されたPASの黄色度は13.5以下が好ましく、10.5以下がより好ましい。精製されたPASの白色度は70以上が好ましく、85以上がより好ましい。溶融圧縮されたプレスプレートとしての精製されたPASの黄色度は、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下が特に好ましい。プレスプレートとしての精製されたPASの白色度は、70以上が好ましく、80以上がより好ましく、85以上が特に好ましい。
精製されたPASの黄色度が低く白色度が高いことで,色調に優れた成形品を得ることが出来ることに加えて、成形品の調色が容易である。精製されたPASの黄色度が高く白色度が低いことで、成形品の色調が褐色であったり、成形品に色ムラが生じたりすることに加え、成形品の調色が困難である。
精製されたPASの色調は以下の方法により測定される。
【0061】
(色調測定方法)
粒状のPASの色調について、粒状のPASを圧縮したタブレットを試料として用いて測定される。
タブレットは、粒状のPASを、圧縮成型機を用いて室温にて、5MPaの圧力で圧縮して得られる。圧縮成型機としては、例えば、新藤金属工業所製のAYSR-5を用いることができる。
【0062】
また、粒状のPASを溶融圧縮したプレスシートは、下記の方法により得られる。まず、粒状のPASを、圧縮成型機を用いて、320℃、5MPaの条件で1分30秒間圧縮する。次いで、シート状のPASを室温にて8MPaの条件下で徐冷する。徐冷された、PASの非晶化シートに、120℃、60分の条件でのアニール処理を施すことにより、結晶化したPASのプレスシートが得られる。このようにして得られたプレスシートを、色調測定用の試料として用いる。
【0063】
得られた試料を用いて、色彩色差計により、標準光C、反射光測定法にて試料の色調を測定する。色調の測定の際には、測定前に、標準白色板による校正を行う。
各試料について、3回の測定を行って得られる、x値、及びy値からx軸とy軸方向の交点の色度、Y値から反射率を求めることで黄色度(イエローインデックス:YI)を算出する。また、L値(明度)、a値(赤緑度)、及びb値(青黄度)から白色度(ホワイトインデックス:WH)を算出する。
色彩色差計としては、例えば、ミノルタ社製のCR-200を用いることができる。
【0064】
精製されたPASの不純物の含有量は、抽出溶媒としてソックスレー抽出法により測定することができる。
(不純物含有量測定方法)
具体的には、PAS3gと、抽出溶媒としてのクロロホルム150mLとを用いて、抽出温度170℃、煮沸時間60分、洗浄時間90分の条件でソックスレー抽出を行う。ソックスレー抽出装置としては、例えば、ソクサーム・マルチスタット(Gerhardt社製)を用いることができる。
上記の方法で得られた抽出液を、60℃で60分間真空乾燥させ、乾燥後に残渣として得られる抽出物の質量M(g)を測定する。Mの値から、下記式に基づいてPASの不純物含有量を算出する。
不純物含有量(質量%)=M/3×100
【0065】
精製されたPASにおける、ソックスレー抽出法によりクロロホルムで抽出される低分子量の不純物の含有量は、不純物を含むPASの質量全体に対して、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が特に好ましい。
精製されたPASにおける低分子量の不純物の含有量は、少ないほど好ましいが、通常1.0質量%以上1.5質量%以下程度である。低分子量の不純物の含有量が多すぎると、精製されたPASの溶融粘度が低下したり、成形品の物性が低下したりする。
【0066】
本実施形態におけるPASの製造方法において、PASは、特に限定されず、PPSであることが好ましい。
【0067】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0068】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。
【0069】
[実施例1]
(脱水工程)
20リットルのオートクレーブに、NMP5,998g、水硫化ナトリウム水溶液(NaSH:純度62.20質量%)2,003g、及び水酸化ナトリウム(NaOH:純度73.22質量%)1,072gを仕込んだ。該オートクレーブ内を窒素ガスで置換後、約4時間かけて、撹拌機により回転数250rpmで撹拌しながら、徐々に200℃まで昇温し、水(H2O)895g、NMP805g、及び硫化水素(H2S)15gを留出させた。
【0070】
(仕込み工程)
脱水工程後、オートクレーブの内容物を150℃まで冷却し、pDCB3,235g、NMP3,328g、水酸化ナトリウム8g、及び水93gをオートクレーブ内に加えて第1重合工程に供する混合物を調製した。
【0071】
(前段重合工程)
仕込み工程で調製された混合物を撹拌しながら、220℃から260℃まで1.5時間かけて昇温させて第1重合工程を行った。缶内のNMP/仕込み硫黄源(以下、「仕込みS」と略記する。)の比率(g/モル)は391、pDCB/仕込みS(モル/モル)は1.010、H2O/仕込みS(モル/モル)は1.50であった。第1重合工程でのpDCBの転化率は、92%であった。
【0072】
(相分離剤添加工程)
第1重合工程終了後、撹拌機の回転数を400rpmに上げ、オートクレーブの内容物を撹拌しながらイオン交換水444g、水酸化ナトリウム58gを圧入した。H2O/S(モル/モル)は2.63であった。
【0073】
(後段重合工程)
イオン交換水の圧入後、265℃まで昇温し、2.5時間反応させて第2重合工程を行った。
【0074】
(冷却工程)
重合終了後、冷却を開始し、265℃から230℃まで60分かけて冷却し、その後、速やかに室温まで冷却を行った。
【0075】
(第1洗浄)
冷却工程終了後、153gのPPSを含有する重合反応液をサンプリングした。サンプリングした重合反応液を目開き100メッシュのスクリーンを通過させて、粒状の粗製PPSを得た。得られた粗製PPS粒子を、765gのトルエンと混合した。50℃に加熱下トルエン中で粗製PPSを15分間撹拌して洗浄を行った後、目開き100メッシュのスクリーンを用いて、トルエンで洗浄された粗製PPSを回収した。トルエンを用いるこの洗浄操作を3回繰り返した後、目開き100メッシュのスクリーン用いてトルエンで洗浄された粗製PPSを回収した。回収された粗製PPSを、20℃のイオン交換水865g中で、室温にて15分間撹拌して洗浄した。洗浄後の粗製PPSを、目開き100メッシュのスクリーン用いて回収した。
【0076】
(第2洗浄)
第1洗浄で回収された粗製PPS粒子を、イオン交換水635.5gと酢酸1.56gとからなる濃度0.18質量%の酢酸水溶液中に加えた。粗製PPS粒子を、20℃の酢酸水溶液中で15分間撹拌して洗浄した。酢酸水溶液中の精製されたPPS粒子を、目開き100メッシュのスクリーン用いて回収した。回収された精製されたPPS粒子を、635.5gの20℃のイオン交換水中で15分間撹拌した後に、目開き100メッシュのスクリーン用いて精製されたPPS粒子を回収した。この水洗操作を4回繰り返した後、目開き100メッシュのスクリーン用いて精製されたPPS粒子を回収した。
回収された精製されたPPS粒子を、120℃で4時間乾燥させて、乾燥した精製されたPPS粒子を得た。
【0077】
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0078】
色調については、色彩色差計(ミノルタ社製、CR-200)を用いて前述の方法に従って測定した。ソックスレー抽出量(不純物含有量)については、ソックスレー抽出装置として、ソクサーム・マルチスタット(Gerhardt社製)を用いて前述の方法に従って測定した。
【0079】
〔実施例2〕
第1洗浄で用いる有機溶媒を、トルエンからベンゼンに変更することの他は、実施例1と同様にして、精製されたPPS粒子を得た。
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0080】
〔比較例1〕
第1洗浄で用いる有機溶媒を、トルエンからアセトンに変更することの他は、実施例1と同様にして、精製されたPPS粒子を得た。
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0081】
〔比較例2〕
第1洗浄で用いる有機溶媒を、トルエンからNMPに変更することの他は、実施例1と同様にして、精製されたPPS粒子を得た。
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0082】
〔比較例3〕
第1洗浄で用いる有機溶媒を、トルエンからクロロベンゼンに変更することの他は、実施例1と同様にして、精製されたPPS粒子を得た。
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0083】
〔比較例4〕
第2洗浄を行わないことの他は、実施例1と同様にして、精製されたPPS粒子を得た。
得られた精製されたPPS粒子を試料として用いて、下記の方法に従って、レジン色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、プレート色調(YI(黄色度)、WH(白色度))と、ソックスレー抽出量とを測定した。これらの測定値を表1に記す。
【0084】
【0085】
実施例1、及び実施例2によれば、粗製PPSを、ベンゼン、及び/又は前述の所定のモノアルキルベンゼンを含む有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、有機溶媒により洗浄された粗製PPSを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含む方法で精製されたPPSが、樹脂としても溶融加工された成形品としても、黄色度が低く白色度が高い好ましい色調を示し、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物を少量しか含まないことが分かる。
【0086】
比較例1~比較例3によれば、粗製PPSを、有機溶媒により洗浄する第1洗浄と、有機溶媒により洗浄された粗製PPSを、酸性水溶液により洗浄する第2洗浄と、を含む方法で粗製PPSを精製しても、有機溶媒がベンゼン、及び前述の所定のモノアルキルベンゼンのいずれも含まない場合、溶融加工された成形品の好ましい色調と、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物の含有量の低さとの両立が困難であることが分かる。
【0087】
比較例4によれば、粗製PPSをトルエンで洗浄しても、トルエンでの洗浄後に酸性水溶液による洗浄を行わない場合、溶融加工された成形品の好ましい色調と、溶融加工時の成形品の物性のばらつきや分解ガスの発生の原因となる不純物の含有量の低さとの両立が困難であることが分かる。