(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126459
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】工作機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/12 20060101AFI20220823BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024544
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA07
3C001KB01
3C001TA03
3C001TA04
3C269AB02
3C269BB03
3C269BB05
3C269EF02
3C269QE17
(57)【要約】
【課題】びびり振動を効果的に抑制するための切込み量と送り速度とを求める。
【解決手段】旋盤の制御装置10は、工具に係る情報を入力する入力部4と、入力部4に入力された情報を用いて、切削加工時の一回転前の加工面と重複する切削領域である再生幅と、ワークへの工具の切込み量と、工具の送り速度との関係を演算する再生幅演算部5と、再生幅演算部5で求めた再生幅と比切削抵抗とに基づいてびびり振動に対する不安定度を演算する不安定度演算部6とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具又はワークを回転させてワークを切削加工する工作機械の制御装置であって、
前記工具に係る情報を入力する入力部と、
前記入力部に入力された情報を用いて、切削加工時の一回転前の加工面と重複する切削領域である再生幅と、ワークへの前記工具の切込み量と、前記工具の送り速度との関係を演算する再生幅演算部と、
前記再生幅演算部で求めた前記再生幅と比切削抵抗とに基づいてびびり振動に対する不安定度を演算する不安定度演算部と、
を備えることを特徴とする工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記不安定度演算部は、前記不安定度を、前記再生幅と前記比切削抵抗との積又は和によって演算することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記不安定度を、前記切込み量及び前記送り速度との関係と共に表示する表示部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記工具の形状情報と前記送り速度とから求める加工面の理論粗さと、前記切込み量と前記送り速度とから求める切削断面積とのうちの少なくとも1つを併せて表示することを特徴とする請求項3に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記切込み量及び前記送り速度に対応した前記不安定度と、前記理論粗さと、前記切削断面積とをグラフ化して表示し、前記グラフ上の所定の位置が選択されると、当該位置に対応した前記切込み量及び前記送り速度を加工プログラムに反映させることを特徴とする請求項4に記載の工作機械の制御装置。
【請求項6】
切削断面積と加工面粗さとの少なくとも一方が入力情報として前記入力部に入力されると、所定の前記不安定度の値以下で、且つ前記入力情報に応じた前記切込み量及び前記送り速度を自動的に加工プログラムに反映させることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械に設けられて切削加工の制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、主軸モータと送り軸モータとの負荷を表示部に表示するロードモニタ機能を備えたものがある。ロードモニタ機能により、オペレータは加工により機械にかかる負荷を確認することができるため、切込み量、送り速度、回転速度を調整することにより、過負荷による発熱や機械停止を回避することができる。
また、振動センサで測定したびびり振動の周波数を解析し、周波数と回転速度情報とを用いて、びびり振動が発生しにくい回転速度を演算し表示部に表示する最適回転速度表示機能を備えたものもある(例えば特許文献1参照)。最適回転速度表示機能により、オペレータは経験が浅くてもびびり振動に対する最適な回転速度を知ることができるため、回転速度を調整することにより容易にびびり振動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最適回転速度表示機能は、びびり振動に対する最適な回転速度を求めることができる。しかしながら、びびり振動に対する最適な切込み量と送り速度とについては求めることができない。
また、びびり振動は、必ずしも加工負荷が大きいほど発生しやすくなるわけではないため、ロードモニタ機能で表示される負荷の値も、びびり振動を抑制するために切込み量、送り速度を調整する際の参考にすることができない。
【0005】
そこで、本開示は、びびり振動を効果的に抑制するための切込み量と送り速度とを求めることができる工作機械の制御装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、工具又はワークを回転させてワークを切削加工する工作機械の制御装置であって、
前記工具に係る情報を入力する入力部と、
前記入力部に入力された情報を用いて、切削加工時の一回転前の加工面と重複する切削領域である再生幅と、ワークへの前記工具の切込み量と、前記工具の送り速度との関係を演算する再生幅演算部と、
前記再生幅演算部で求めた前記再生幅と比切削抵抗とに基づいてびびり振動に対する不安定度を演算する不安定度演算部と、を備えることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記不安定度演算部は、前記不安定度を、前記再生幅と前記比切削抵抗との積又は和によって演算することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記不安定度を、前記切込み量及び前記送り速度との関係と共に表示する表示部を備えることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記表示部は、前記工具の形状情報と前記送り速度とから求める加工面の理論粗さと、前記切込み量と前記送り速度とから求める切削断面積とのうちの少なくとも1つを併せて表示することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記表示部は、前記切込み量及び前記送り速度に対応した前記不安定度と、前記理論粗さと、前記切削断面積とをグラフ化して表示し、前記グラフ上の所定の位置が選択されると、当該位置に対応した前記切込み量及び前記送り速度を加工プログラムに反映させることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、切削断面積と加工面粗さとの少なくとも一方が入力情報として前記入力部に入力されると、所定の前記不安定度の値以下で、且つ前記入力情報に応じた前記切込み量及び前記送り速度を自動的に加工プログラムに反映させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、工具の切込み量及び送り速度からびびり振動に対する不安定度が演算されるので、得られた不安定度に基づいてびびり振動を効果的に抑制するための切込み量及び送り速度を選択することができる。
特に、不安定度を、再生幅と比切削抵抗との積又は和によって演算する別の態様によれば、不安定度が簡単に得られる。
不安定度を、切込み量及び送り速度との関係と共に表示する表示部を備える別の態様によれば、上記効果に加えて、オペレータは、不安定度が低い切込み量と送り速度とを容易に最適値に調整することができ、容易にびびり振動を抑制することができる。
表示部が、工具の形状情報と送り速度とから求める加工面の理論粗さと、切込み量と送り速度とから求める切削断面積とを併せて表示する別の態様によれば、上記効果に加えて、切込み量及び送り速度を変更した後の理論粗さと切削断面積とがわかりやすくなる。よって、品質と加工能率の維持および改善も行いやすくなる。
表示部が、切込み量及び送り速度に対応した不安定度と、理論粗さと、切削断面積とをグラフ化して表示し、グラフ上の所定の位置が選択されると、当該位置に対応した切込み量及び送り速度を加工プログラムに反映させる別の態様によれば、上記効果に加えて、びびり振動が発生しにくい切込み量と送り速度との選択が容易に行える。
切削断面積と加工面粗さとの少なくとも一方が入力情報として入力部に入力されると、所定の不安定度の値以下で、且つ入力情報に応じた切込み量及び送り速度を自動的に加工プログラムに反映させる別の態様によれば、上記効果に加えて、びびり振動が発生しにくい切込み量と送り速度とで自動的に切削加工が行われ、加工能率が向上すると共に、オペレータの入力作業も軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】背分力方向の比切削抵抗と切込み量と送り速度との関係を表す模式図である。
【
図3】再生幅と切込み量と送り速度との関係を表す模式図である。
【
図5】不安定度演算部が演算したびびり振動に対する不安定度の表示の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、工作機械の一例である旋盤Mにおける外周切削の模式図である。ここでは、周知の機械構成によって、回転するワーク1に工具2を主軸の径方向に切り込み、主軸方向に送ることでワーク1の外径を円筒形状に加工する様子を表している。
図1において、aは切込み量、fは送り速度、Rは工具2のノーズ、bは切削幅、b
dは再生幅(一回転前の加工面と重複する切削領域)である。
図1に示すように、再生幅b
dは、切込み量a、送り速度f、ノーズRを用いて幾何学的に求めることができる。
図2は、背分力方向(ワーク1の半径方向)の比切削抵抗K
rと、切込み量aと、送り速度fとの関係を表す模式図である。
図2に示すように、比切削抵抗K
rは、切込み量aが小さいほど、また、送り速度fが小さいほど大きくなる。
図3は、再生幅b
dと、切込み量aと、送り速度fとの関係を表す模式図である。なお、ノーズRは、工具2の諸元の一つであり、オペレータが加工条件を調整する際には既知であるためここでは変数としない。
図3に示すように、再生幅b
dは、切込み量aが大きいほど大きくなり、送り速度fが小さいほど大きくなる。
【0010】
図4は、本開示の制御装置10の構成の一例を示す。ここでの制御装置10は、旋盤MのNC装置に構成される。制御装置10は、記憶部3と、入力部4と、再生幅演算部5と、不安定度演算部6と、表示部7とを備えている。
記憶部3には、入力部4からオペレータが入力するワーク1の材質情報と、ノーズRなどの工具形状情報と、
図2に示すような、予め実験等で求めた比切削抵抗K
rと、切込み量aと、送り速度fとの関係とが保管されている。
再生幅演算部5は、記憶部3に保管された情報を読み込み、工具形状を基にした再生幅b
dの演算を行い、
図3に示すような、再生幅b
dと、切込み量aと、送り速度fとの関係を演算する。
不安定度演算部6は、これから加工を行うワーク1の材質に対応した比切削抵抗K
rと、再生幅演算部5が演算した再生幅b
dとを乗算したものを、びびり振動に対する不安定度として算出する。
【0011】
図5は、不安定度演算部6が演算したびびり振動に対する不安定度の表示の模式図であり、横軸に切込み量aをとり、縦軸の第1軸に送り速度fをとり、縦軸の第2軸にノーズRと送り速度fから求める加工面の理論粗さをとり、比切削抵抗K
rと再生幅b
dとの積を不安定度としてカラーマップで示す。また、切込み量aと送り速度fとから求める切削断面積を等高線を用いて示す。不安定度のカラーマップは、色が濃くなるに連れて大きくなり、上限が最大、下限が0であることを示している。表示部7は、
図5に示すようなグラフ表示を行う。
よって、オペレータは、表示部7に表示される不安定度に基づいて、適切な切込み量aと送り速度fとを、グラフ上で位置を選択するか、或いは数値を直接入力するかすることで入力部4から入力する。すると、制御装置10は、入力された切込み量aと送り速度fとを加工プログラムに反映して加工を行う。
【0012】
以上のように、上記形態の旋盤Mの制御装置10は、工具2に係る情報を入力する入力部4と、入力部4に入力された情報を用いて、切削加工時の一回転前の加工面と重複する切削領域である再生幅bdと、ワーク1への工具2の切込み量aと、工具2の送り速度fとの関係を演算する再生幅演算部5と、再生幅演算部5で求めた再生幅bdと比切削抵抗Krとに基づいてびびり振動に対する不安定度を演算する不安定度演算部6と、を備えている。
この構成によれば、工具2の切込み量a及び送り速度fからびびり振動に対する不安定度が演算されるので、得られた不安定度に基づいてびびり振動を効果的に抑制するための切込み量a及び送り速度fを選択することができる。
【0013】
特に、不安定度を、切込み量a及び送り速度fとの関係と共に表示する表示部7を備えるので、オペレータは、不安定度が低い(びびり振動が発生しにくい)切込み量aと送り速度fとを容易に最適値に調整することができ、容易にびびり振動を抑制することができる。
また、表示部7が、工具2の形状情報と送り速度fとから求める加工面の理論粗さと、切込み量aと送り速度fとから求める切削断面積とを併せて表示するので、切込み量a及び送り速度fを変更した後の理論粗さと切削断面積とがわかりやすくなる。よって、品質と加工能率の維持および改善も行いやすくなる。
さらに、表示部7は、切込み量a及び送り速度fに対応した不安定度と、理論粗さと、切削断面積とをグラフ化して表示し、グラフ上の所定の位置が選択されると、当該位置に対応した切込み量a及び送り速度fを加工プログラムに反映させるので、びびり振動が発生しにくい切込み量aと送り速度fとの選択が容易に行える。
【0014】
以下、本開示の変更例について説明する。
上記形態では、再生幅と比切削抵抗との積を不安定度としているが、再生幅と比切削抵抗との和を不安定度としてもよい。このように再生幅と比切削抵抗との積又は和によって求めれば、不安定度が簡単に得られる。但し、不安定度は、再生幅と比切削抵抗とを含む別の計算式により演算してもよい。
上記形態では、表示部に、加工面の理論粗さと切削断面積との双方を表示しているが、何れか一方のみでもよいし、双方を表示しなくてもよい。不安定度は、切込み量及び送り速度と共に表示せず、不安定度のみを表示してもよい。
表示部でのグラフ表示において、カラーマップの範囲(上限と下限)は、任意に設定可能である。色も、マス目による段階的な表示に限らず、グラデーションのように連続的に変化させてもよい。勿論上記形態以外のグラフ形式も採用できる。
【0015】
上記形態では、表示部に表示したグラフ上でオペレータが切込み量及び送り速度を選択することで加工プログラムに反映される構成となっているが、オペレータによる設定を契機とするものに限らず、加工負荷等により決まる切削断面積と、必要な加工面粗さとの少なくとも一方を入力部に入力すると、所定の不安定度の値以下で、且つ当該入力情報に応じた切込み量と送り速度とを自動的に決定して加工プログラムに反映させるようにしてもよい。このようにすれば、びびり振動が発生しにくい切込み量と送り速度とで自動的に切削加工が行われ、加工能率が向上すると共に、オペレータの入力作業も軽減される。
その他、本発明は、旋盤以外の工作機械にも適用可能である。
【符号の説明】
【0016】
1・・ワーク、2・・工具、3・・記憶部、4・・入力部、5・・再生幅演算部、6・・不安定度演算部、7・・表示部、M・・旋盤、a・・切込み量、f・・送り速度、R・・ノーズ、b・・切削幅、bd・・再生幅、Kr・・比切削抵抗。