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特開2022-126487防カビ剤、防カビ製品、及び防カビ性塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126487
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】防カビ剤、防カビ製品、及び防カビ性塗料
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20220823BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220823BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20220823BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20220823BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20220823BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220823BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01N25/10
A01N25/04
C09D5/14
C09D7/61
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024591
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】狩野 朋未
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】山田 厚
【テーマコード(参考)】
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BA01
4H011BA06
4H011BB18
4H011BC19
4H011DA08
4H011DA15
4H011DF04
4H011DG05
4H011DH02
4J038CG001
4J038HA216
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA05
4J038PB01
4J038PB02
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】環境汚染度が低く、安全性にも優れた防カビ剤、当該防カビ剤を含む防カビ層を備える防カビ製品、及び当該防カビ剤を含む防カビ性塗料を提供すること。
【解決手段】特定の組成を有する希土類フェライト化合物とする。具体的には、下記式(1)で表される、防カビ剤とする。
Ln2xFe2(1-x) (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、防カビ剤:
Ln2xFe2(1-x) (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)。
【請求項2】
前記式(1)中のxは、0.65以上0.85以下の数である、請求項1に記載の防カビ剤。
【請求項3】
前記式(1)中のLnが、ランタンである、請求項1又は2に記載の防カビ剤。
【請求項4】
基体、及び防カビ層を含む、防カビ製品であって、
前記防カビ層は、請求項1~3のいずれか一項に記載の防カビ剤を含む層である、
防カビ製品。
【請求項5】
前記防カビ層は、樹脂を更に含む、請求項4に記載の防カビ製品。
【請求項6】
外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン、及び貯水用又は通水用の槽又は管からなる群より選択される、請求項4又は5に記載の防カビ製品。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の防カビ剤を含む、防カビ性塗料。
【請求項8】
樹脂、及び溶剤を更に含む、請求項7に記載の防カビ性塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防カビ剤、当該防カビ剤を含む防カビ層を備える防カビ製品、及び当該防カビ剤を含む防カビ性塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン、及び貯水用又は通水用の槽又は管等は結露や流水等によって水に晒される環境下にあるため、カビによる汚染が進行する。これに対して、カビの発生及び汚染の進行を防止する目的で、防カビ性を有する製品が求められている。
【0003】
防カビ効果を発現する薬剤としては、フェノール系、有機スズ系、トリアジン系、ハロゲン化スルホニルピリジン系、キャプタン系、有機銅系、クロルナフタリン系、クロロフェニルピリタジン系等の化合物が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、防カビ効果を発現するイオンとして、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン等が知られている。例えば、銀、銅、亜鉛等の金属粉、又はその合金や化合物を、担体に保持させた態様とし、微量のこれら金属イオンを溶出させることで、その毒性を利用する。特許文献2には、カルボキシル基含有ポリマーと金属化合物とから形成されたカルボン酸金属塩が分散された、消臭及び抗菌・抗かび性を有する分散液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-17249号公報
【特許文献2】特開平2-288804号公報
【特許文献3】特開2005-272320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、最近では、薬剤形態の防カビ剤や、金属イオンの毒性を利用する防カビ剤は、環境汚染性や安全性が問題視される場合があった。
【0007】
ところで、近年、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防藻剤として、フェライト化合物が提案されている。例えば、特許文献3には、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、及びイットリウム(Y)から選択される希土類元素、鉄、及び酸素を含むオルソフェライトを主成分とする防藻用添加剤、これを用いた防藻性塗料、及び該塗料を基材表面に塗布した防藻製品が開示されている。
【0008】
特許文献3においては、防藻効果を材料の磁性と関連付けて考えており、保磁力が小さく、植物の固有磁場に近い磁力を示す、希土類酸化物:Fe=1:1(モル比)のオルソフェライトが、防藻用添加剤として最も好ましいと説明されている。なお、特許文献3においては、オルソフェライトの防カビ効果については、検討していない。
【0009】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防カビ剤、当該防カビ剤を含む防カビ層を備える防カビ製品、及び当該防カビ剤を含む防カビ性塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、特定の組成を有する希土類フェライトは、環境汚染度が低く、安全性にも優れた防カビ剤となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》
下記式(1)で表される、防カビ剤:
Ln2xFe2(1-x) (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)。
《態様2》
前記式(1)中のxは、0.65以上0.85以下の数である、態様1に記載の防カビ剤。
《態様3》
前記式(1)中のLnが、ランタンである、態様1又は2に記載の防カビ剤。
《態様4》
基体、及び防カビ層を含む、防カビ製品であって、
前記防カビ層は、態様1~3のいずれか一態様に記載の防カビ剤を含む層である、
防カビ製品。
《態様5》
前記防カビ層は、樹脂を更に含む、態様4に記載の防カビ製品。
《態様6》
外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン、及び貯水用又は通水用の槽又は管からなる群より選択される、態様4又は5に記載の防カビ製品。
《態様7》
態様1~3のいずれか一態様に記載の防カビ剤を含む、防カビ性塗料。
《態様8》
樹脂、及び溶剤を更に含む、態様7に記載の防カビ性塗料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、環境汚染度が低く、安全性にも優れた、防カビ剤が提供される。
【0013】
また、本発明の防カビ剤は、その周囲についても、防カビ効果を発現する。すなわち、本発明の防カビ剤が直接接触していない部分にも、防カビ効果を波及させることができる。このため、本発明の防カビ剤を用いた防カビ製品を作製する際に、製品となる物品全体に防カビ剤を存在させなくとも、防カビ効果を発現させることができる。
【0014】
また、本発明の防カビ剤は、水や有機溶剤等への分散性に優れる。このため、様々な媒体に分散させた分散液や塗料等を作製することができる。したがって、本発明の防カビ剤を含む塗料等を、基体となる物品等に塗布して防カビ剤を含む層を形成することにより、これまで防カビ剤が適用できなかった材料や、複雑な形状を有する場所等に、防カビ効果を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
《防カビ剤》
本発明の防カビ剤は、特定の組成を有する希土類フェライト化合物であり、下記式(1)で表される:
Ln2xFe2(1-x) (1)
(式(1)中、Lnは、ランタン、プラセオジム、ネオジム、及びイットリウムからなる群より選択される希土類元素であり、xは、0.45以上1.00未満の数である。)。
【0016】
本発明者らは、希土類フェライトの組成と、その防カビ効果について詳細に検討した。その結果、希土類フェライト中の希土類(Ln):Fe比を、上記の範囲に設定することにより、高い防カビ効果が得られることを見出した。
【0017】
本発明の防カビ剤は、上記式(1)中のxが、0.45以上1.00未満の数である限り、どのような形態であってもよい。例えば、全体が均一な組成である固溶体を形成していてもよいし、LnFeO相とLn相との混合物であってもよいし、均一組成の固溶体とLnFeO相とLn相との混合物であってもよい。また、これら以外の相を含んでいてもよい。
【0018】
式(1)中のxは、0.50以上、0.55以上、0.60以上、0.65以上、0.70以上、又は0.75以上であってもよく、0.90以下、0.85以下、0.80以下、0.75以下、0.70以下、0.65以下、又は0.60以下であってもよい。
【0019】
上記式(1)中のxは、典型的には、例えば、0.50以上0.90以下の数であってよく、更には、0.65以上0.85以下であってよく、特には、0.70以上0.80以下の数でであってよい。
【0020】
式(1)中の希土類(Ln)は、防カビ性及びコストの観点から、特に、ランタンであってよく、したがって本発明の防カビ剤は、ランタンフェライトであってよい。
【0021】
<防カビ剤の製造方法>
本発明の防カビ剤の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、希土類源と鉄源とを所定の割合で含有する混合物に、適当な応力を印加して粉砕混合した後、焼成することにより、製造されてよい。ここで印加される応力としては、例えば、摩擦力、せん断力、ずり応力、衝撃力等であってよい。希土類源と鉄源との混合物に、このような応力を印加する方法としては、例えば、ボールミル中で湿式粉砕する方法等が挙げられる。
【0022】
希土類源としては、例えば、所望の希土類元素の酸化物を使用してよい他、バストネサイト、モナザイト、ゼノタイム等を使用してよい。
【0023】
希土類元素としては、得られる希土類フェライトの優れた防カビ性、及びコストの観点から、ランタンを用いることが好ましい。中でも、Laを用いれば、効果が高く、比較的コストが安価なランタンフェライトを製造することができる。
【0024】
鉄源としては、FeO、Fe、Fe等の酸化物;FeOOH、フェリヒドライト、シュベルマンライト等のオキシ酸化物;Fe(OH)、Fe(OH)等の水酸化物;等を使用してよい。
【0025】
これらの中で、鉄源としてFeOOHを用いれば、Fe等と比較して反応性が高いため、低温での焼成が可能となり、また、Fe等と比較して粒経の小さい防カビ剤を製造することができる。
【0026】
希土類源と鉄源との混合物の粉砕混合を、湿式粉砕にて実施する場合には、液状媒体として、例えば、水、アルコール等を使用してよい。希土類源と鉄源との混合物を粉砕混合した後は、必要に応じて、加熱乾燥等の適宜の方法によって液状媒体を除去し、その後に焼成を実施してもよい。
【0027】
焼成温度は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。例えば、700℃以上、800℃以上、900℃以上、又は1,000℃以上、かつ、例えば、1,300℃以下、1,200℃以下、1,100℃以下、又は1,000℃以下の温度において、実施してよい。
【0028】
焼成時間についても、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、6時間以上、8時間以上、12時間以上、又は15時間以上、かつ、72時間以下、48時間以下、36時間以下、24時間以下、18時間以下、又は15時間以下の時間で、実施してよい。
【0029】
焼成時の周囲雰囲気は、酸化性雰囲気であってよく、例えば、空気中で焼成してよい。
【0030】
焼成後、必要に応じて、適宜の方法で粉砕、分級等を行うことにより、本発明の防カビ剤を得ることができる。
【0031】
<防カビ剤の使用量>
本発明の防カビ剤の使用形態は、特に限定されるものではないが、例えば、粉末状態、含侵状態、塗膜状態にて使用することが可能である。
【0032】
防カビ剤の使用形態が粉末状態である場合には、防カビ効果を十分に発現させるためには、1g以上の防カビ剤を使用することが好ましい。
【0033】
防カビ剤の使用形態が含浸状態である場合には、例えば、0.06gの紙に0.01~0.5gの防カビ剤を含浸させることが好ましい。
【0034】
防カビ剤の使用形態が塗膜状態であり、防カビ剤を含む塗料として使用する場合には、例えば、塗料の全固形分において防カビ剤を30質量%以上含有させることが好ましい。
【0035】
《防カビ製品》
また別の本発明は、本発明の防カビ剤を含む防カビ層を備える防カビ製品である。具体的には、基体、及び防カビ層を含み、防カビ層は、本発明の防カビ剤を含む層である、防カビ製品である。
【0036】
<基体>
本発明の防カビ製品における基体は、防カビ性を付与すべきあらゆる物品であってよい。あらゆる材料からなる、あらゆる形状を有する物品であって、防カビ性が求められるあらゆる物品であってよい。
【0037】
<防カビ層>
本発明の防カビ製品における防カビ層は、本発明の防カビ剤を含む層であれば、特に限定されるものではない。例えば、本発明の防カビ剤の粉末を樹脂等にブレンドして、押出コーティング等により作製した層であってもよいし、後記する本発明の防カビ性塗料の硬化物であってよい。
【0038】
防カビ層には、本発明の防カビ剤以外に、任意の成分が含まれていてもよい。任意の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂、結着剤、防カビ以外の機能を発現させるための添加剤等が挙げられる。
【0039】
防カビ層の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、1μm以上1mm以下程度であってよい。
【0040】
防カビ層を、防カビ性塗料等によって作製する場合には、その塗工量は、単位面積当たりの溶剤除去後の乾燥質量として、例えば、5g/m以上、10g/m以上、15g/m以上、20g/m以上、又は25g/m以上であってよく、例えば、200g/m以下、150g/m以下、120g/m以下、100g/m以下、80g/m以下、又は70g/m以下であってよい。
【0041】
<その他の構成>
本発明の防カビ製品は、基体、及び防カビ層を必須の構成として含んでいればよく、その他の構成を含んでいてもよい。その他の構成としては、例えば、その他の層が挙げられ、その他の層は、基体の外側、基体と防カビ層の間、防カビ層の外側のいずれであってもよい。
【0042】
その他の層としては、例えば、基体に形成するプライマー層が挙げられる。プライマー層上に防カビ層を形成することで、密着性を向上させることができる。
【0043】
また、防カビ層の外側に、更に樹脂等を積層して被覆することで、長期使用による防カビ剤の脱落や漏出による、防カビ効果の低下を抑制してもよい。
【0044】
更に、防カビ層の外側に、色相顔料層等を積層することで、防カビ製品の色デザインの自由度を増加させてもよく、また、他の機能性層を積層したり複合化したりして、防カビ以外の性能を備えさせてもよい。
【0045】
<用途>
本発明の防カビ製品は、特に限定されるものではないが、例えば、外壁、内壁、建材、エアフィルター、パッキン、及び貯水用又は通水用の槽又は管等であってよい。
【0046】
《防カビ性塗料》
また別の本発明は、本発明の防カビ剤を含む防カビ性塗料である。防カビ性塗料は、本発明の防カビ剤の他に、樹脂及び溶剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0047】
<樹脂>
本発明の防カビ性塗料に任意に含まれる樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等であってよい。
【0048】
<溶剤>
本発明の防カビ性塗料に含まれる溶剤は、特に限定されるものではなく、例えば、水、アルコール、ケトン、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステル等から選択されてもよい。
【0049】
<防カビ剤の含有量>
本発明の防カビ性塗料における防カビ剤の含有量は、高い防カビ性能を発現する観点から、該塗料中の樹脂と防カビ剤との合計に対する防カビ剤の割合として、例えば1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上、特に好ましくは20質量%以上、とりわけ好ましくは30質量%以上であってもよく、良好な塗布性を得る観点から、例えば80質量%以下、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、とりわけ好ましくは30質量%以下又は20質量%以下であってもよい。
【0050】
<防カビ性塗料の製造方法>
本発明の防カビ性塗料の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、市販の合成樹脂塗料と、本発明の防カビ剤とを、所定の割合で混合することにより、調製されてよい。
【0051】
<用途>
本発明の防カビ性塗料は、上記した本発明の防カビ製品における防カビ層の形成に用いることができる。また、例えば、目地材(タイル、コンリート、煉瓦等の隙間の充填材)、シーリング材、コーキング材、接着剤等として用いてもよい。
【実施例0052】
《実施例1》
<ランタンフェライトの合成>
粉砕メディアとして10mmΦのアルミナ球を使用するボールミル中に、0.4モル部のLa、0.2モル部のFeOOH、及び水を仕込み、5時間粉砕混合した。得られた粉砕物を、300℃にて15時間乾燥した後、回転式粉砕機で解砕した。得られた解砕物を、1,000℃にて15時間焼成した後、ハンマーミルで粉砕することにより、La:Fe=80:20(モル比)のランタンフェライト(式La1.6Fe0.4)を得た。
【0053】
<評価>
(粉末状態での防カビ効果の評価)
JIS Z2911:2018のカビ抵抗性試験を模した試験を実施し、粉末状態での防カビ効果を評価した。具体的には、滅菌シャーレ中の寒天培地に、上記で得られたランタンフェライト粉末1gを配置し、粉末上に0.01wt%のカビ懸濁液200μLを滴下して、粉末及び粉末の周囲に均一に回し広げた。シャーレの蓋を被せた状態で室温環境にて保管し、所定の時間が経過した後のカビの生育状態を、目視にて評価した。
【0054】
寒天培地は、精製水1000mLに培養用高品質寒天(伊那食品工業製、BA-70)10gと、グラニュー糖30gとを加温溶解し、滅菌シャーレに注ぎ入れて室温で固化させることで作製した。
【0055】
粉末状態での防カビ効果の評価に用いた0.01wt%カビ懸濁液は、市販の木材を多湿環境下で保管して自然にカビを育成させ、育成したカビを0.001g採取して、10mLの精製水に撹拌混合することで作製した。
【0056】
粉末状態での防カビ効果は、10日後と45日後のカビの生育状態を、以下の評価基準で、目視にて評価した。評価結果を表1に示す。
◎:培地上にカビの発生がほとんど無い
〇:培地上にカビは発生しているが、阻止帯が1cm幅以上ある
△:培地上にカビが発生しており、阻止帯が1cm以下である
×:培地上にカビが発生しており、阻止帯が無い
【0057】
《実施例2~4、比較例2》
表1に示す組成比とした以外は、実施例1と同様にしてランタンフェライトを合成した。得られたランタンフェライトについて、実施例1と同様にして、防カビ効果を評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
《比較例1》
ランタンフェライトを配置することなく、寒天培地に0.01wt%カビ懸濁液を撒いた以外は、実施例1と同様にして、防カビ効果を評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~4、及び比較例2より、Laのモル比率の高い防カビ剤(ランタンフェライト)は、防カビ効果が高い傾向があることが判る。なお、Feのモル比率が高い比較例2のランタンフェライトでは、防カビ効果が見られなかったため、LaとFeとを適切な組成比としなければ、防カビ効果が発現しないことが判る。
【0061】
また、Laのモル比率が60%以上である実施例1~3では、1cm幅以上の阻止帯が確認できており、ランタンフェライトが直接接していない箇所においても、十分な防カビ効果が存在することを確認できた。
【0062】
《実施例5~8、比較例5》
実施例1と同様にして、表2に示す組成比のランタンフェライトを合成した。
【0063】
<評価>
(含侵状態での防カビ効果の評価)
JIS Z2911:2018のカビ抵抗性試験を模した試験を実施し、含侵状態での防カビ効果を評価した。具体的には、滅菌シャーレに純水を染み込ませたろ紙を敷き、0.01wt%カビ懸濁糖液を下半分にスプレー塗布した評価サンプルを、ろ紙上に配置した。シャーレの蓋を被せた状態で室温環境にて保管し、所定の時間が経過した後のカビの生育状態を、目視にて評価した。
【0064】
評価サンプルは、得られたランタンフェライトを、表2に示す使用量となるように、0.06gの紙に含浸させることで、作製した。
【0065】
含侵状態での防カビ効果の評価に用いた0.01wt%カビ懸濁糖液は、市販の食パンを多湿環境下で放置して自然にカビを育成させ、育成したカビを0.001g採取して、10mLの3%グラニュー糖水溶液に撹拌混合することで作製した。
【0066】
含侵状態での防カビ効果は、10日後と45日後のカビの生育状態を、上記の粉末状態での防カビ効果と同一の評価基準で、目視にて評価した。評価結果を表2に示す。
【0067】
《比較例3》
ランタンフェライトが含侵された評価サンプルを配置することなく、ろ紙のみに0.01wt%カビ懸濁糖液を撒いた以外は、実施例5と同様にして、防カビ効果を評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
《比較例4》
ランタンフェライトの原料である酸化ランタン(La)を焼成したものを用いた以外は、実施例5と同様にして、防カビ効果を評価した。評価結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例5~8、及び比較例5より、Laのモル比率の高い防カビ剤(ランタンフェライト)は、防カビ効果が高い傾向があることが判る。
【0071】
また、実施例5~8の防カビ剤(ランタンフェライト)は、ランタンフェライトの原料を焼成したものを用いた比較例4と比較して、防カビ効果が高い傾向があった。
【0072】
ランタンフェライトの原料を焼成したものを用いた比較例4は、経時で防カビ効果が消失していくことから、含浸状態で防カビ剤(ランタンフェライト)を使用する場合には、少量の使用であっても防カビ効果の持続性が高いといえる。
【0073】
《実施例9~20》
実施例1と同様にして、表3に示す組成比のランタンフェライトを合成した。
【0074】
<評価>
(塗膜状態での防カビ効果の評価)
得られたランタンフェライトを、表3に記載の濃度にて、市販の水性アクリル塗料に混合することで、評価用塗料を作製した。木材(MDF)に、作製した評価用塗料をローラー塗工し、室温で1日乾燥させて塗膜を形成した。形成した塗膜について、滅菌シャーレに純水を染み込ませたろ紙を敷き、上記と同様にして作製した0.01wt%カビ懸濁糖液をスプレー塗布した評価サンプルを、ろ紙上に配置した。シャーレの蓋を被せた状態で室温環境にて保管し、所定の時間が経過した後のカビの生育状態を、目視にて評価した。
【0075】
塗膜状態での防カビ効果は、7日後と21日後のカビの生育状態を、以下の評価基準で、目視にて評価した。評価結果を表3に示す。
◎:評価サンプル上にカビ発生が全く無い
〇:評価サンプル上でのカビ発生面積が1割未満
△:評価サンプル上でのカビ発生面積が1割以上4割未満
×:評価サンプル上でのカビ発生面積が4割以上
【0076】
《比較例6》
ランタンフェライトを混合せず、市販の水性アクリル塗料を用いて、実施例9と同様にして塗膜を形成した。得られた塗膜について、実施例9と同様にして、防カビ効果を評価した。評価結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
実施例9~20より、防カビ剤(ランタンフェライト)が樹脂と混合された塗膜状態でも、防カビ効果が確認された。また、実施例9~20より、Laのモル比率の高い防カビ剤(ランタンフェライト)は、防カビ効果が高い傾向があることが判る。
【0079】
また、塗料に混合するランタンフェライト材料の濃度としては、30%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましいことが判る。