(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126515
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】不織布及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/409 20210101AFI20220823BHJP
D04H 3/013 20120101ALI20220823BHJP
D04H 3/16 20060101ALI20220823BHJP
D04H 1/4258 20120101ALI20220823BHJP
【FI】
H01M2/16 R
D04H3/013
D04H3/16
D04H1/4258
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024636
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】390032230
【氏名又は名称】ニッポン高度紙工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴士
【テーマコード(参考)】
4L047
5H021
【Fターム(参考)】
4L047AA08
4L047AA12
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB03
4L047AB04
4L047CC14
5H021BB07
5H021CC01
5H021CC02
5H021EE12
5H021EE23
5H021HH02
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】緻密で空隙率の高い不織布を提供する。
【解決手段】繊維よりなる複数の環状形状体によって構成されている不織布を構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維よりなる複数の環状形状体によって構成されている不織布。
【請求項2】
繊維よりなる複数の前記環状形状体が、平面視状態において左右上下方向に重なっており、前記環状形状体同士の重なり部分においては、前記環状形状体を構成する繊維同士の小さい方の交差角が30°以上90°以下で交差した状態で重なっている請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
複数の前記環状形状体は、繊維径と、繊維長さとの、少なくともいずれか一方が異なる繊維によって形成された請求項1または請求項2に記載の不織布。
【請求項4】
複数の前記環状形状体は、太くて長い繊維によって形成された環状形状体と、細くて短い繊維によって形成された環状形状体とによって構成された請求項3に記載の不織布。
【請求項5】
前記環状形状体を構成する繊維は、フィブリル化可能な再生セルロース繊維である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
前記不織布の空隙率が70%以上90%以下である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項7】
前記不織布の厚さが3μm以上20μm以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の不織布が、正極と負極間に配置された非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布、及び、該不織布をセパレータとして用いた非水系二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布は、大量生産に適していて安価に製造できるだけでなく、様々な機能を有するため、電池用セパレータやフィルター、衛生材料、包装材など、様々な分野で広く使用されている。特に、均質性に優れる湿式不織布は、アルカリ電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの非水系二次電池の電池用セパレータや、液体・気体をろ過するフィルターに用いられている。
【0003】
リチウムイオン電池は、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラなどの電子デバイスの電源として広く利用されている電池であり、さらに近年では、電気自動車やハイブリッド自動車などの移動体の電源としての利用も始まっている。そして、これら電子デバイスの発達や移動体などへの適用範囲の拡大により、リチウムイオン電池の大容量化・高出力化・長寿命化が求められている。
【0004】
リチウムイオン電池の構成部材であるセパレータに着目すると、上記のニーズに応えるためには、セパレータの薄膜化、低抵抗化、高保液化が必要となる。つまりは、薄く緻密で、空隙率の高いセパレータが求められており、従来、セパレータとして使用されてきた多孔質フィルムに対して、より空隙率の高い湿式不織布のセパレータが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一方、フィルターは、様々な分野で広く使用されている。フィルターに求められる性能は、高い捕集効率と低い圧力損失である。圧力損失が低いフィルターは、使用時のエネルギーコストが抑えられ、フィルター自体の寿命も長いというメリットがある。これを実現するための一つの手段として、薄く緻密で、空隙率の高い不織布が求められている。
【0006】
つまり、リチウムイオン電池とフィルターのさらなる高性能化のためには、現在実用化されている湿式不織布よりも、緻密で空隙率の高い不織布が必要になるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1で使用されているセパレータは、湿式不織布で構成されている。湿式不織布は、繊維を液中に分散させたスラリーを、ワイヤー上で捕集することで形成する。
【0009】
しかしながら、液中に分散している繊維はスラリーの流れに沿って並びやすいので、特定方向に配向した繊維の割合が増え、その結果、繊維が密な構造をとりやすくなり、空隙率は低下し、低抵抗化、高保液化には限界があった。
【0010】
そこで、本発明は、緻密で空隙率の高い不織布を得ることを目的とするものである。また、本発明は、該不織布を用いた非水系二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者は、上述した繊維の配向に着目し、繊維の配向が少ない不織布の構成について鋭意検討した結果、本願を発明するに至った。
【0012】
本発明の不織布は、構成繊維が環状形状であることを特徴とする不織布である。このような不織布は、繊維の配向が起こり難く、空隙率が高くなり、その結果として、低抵抗化、高保液化を図ることができる。
【0013】
即ち、本発明の第1の発明に係る不織布は、繊維よりなる複数の環状形状体で構成されている不織布である。
【0014】
また、本発明の第2の発明に係る不織布は、繊維よりなる複数の環状形状体が、平面視状態において左右上下方向に重なっており、環状形状体同士の重なり部分においては、環状形状体を構成する繊維同士の小さい方の交差角が30°以上90°以下で交差した状態で重なっている不織布である。
【0015】
本発明の第3の発明に係る不織布は、複数の環状形状体は、繊維径と、繊維長さとの、少なくともいずれか一方が異なる繊維によって形成された不織布である。
【0016】
本発明の第4の発明に係る不織布は、複数の環状形状体は、太くて長い繊維によって形成された環状形状体と細くて短い繊維によって形成された環状形状体によって構成された不織布である。
【0017】
本発明の第5の発明に係る不織布は、環状形状体を構成する繊維は、フィブリル化可能な再生セルロース繊維である不織布である。
【0018】
本発明の第6の発明に係る不織布は、不織布の空隙率が70%以上90%以下であることを特徴とする不織布である。
【0019】
本発明の第7の発明に係る不織布は、不織布の厚さが3μm以上20μm以下であることを特徴とする不織布である。
【0020】
本発明の第8の発明に係る非水系二次電池は、上記第1から第7の発明に係る不織布を正極と負極間に配置した非水系二次電池である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、緻密で空隙率の高い不織布を得ることができる。
したがって、この不織布をセパレータに適用すれば、低抵抗、高保液率の薄いセパレータとなり、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池の高出力化、長寿命化、高容量化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】リチウムイオン二次電池の概略構成図である。
【
図2】
図1のセパレータの一部分を拡大して示した図である。
【
図3】実施例1と比較例1の不織布の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0024】
本発明の不織布は、緻密で空隙率の高い不織布を得ることを目的として、繊維よりなる複数の環状形状体で構成されている。
また、本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の不織布を、正極と負極間に配置して構成されている。
【0025】
本発明における「環状形状体」とは、環状体(toroidなど)を基本構成とするが、完全な環状でなくてもよく、開環しているもの(C字形状)も含み、また、環の形状は、円形に限らず、楕円形や円形から変形した形状なども含む。つまり、構成する繊維の始点と終点とを結ぶ距離が、繊維を直線状に伸ばした繊維長に比して、所定の割合未満(例えば、64%未満)であるものを、「環状形状体」という。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る不織布をセパレータとして用いた、非水系二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池の概略構成図を示す。
図1は、リチウムイオン二次電池の一部を展開した斜視図となっている。
【0027】
図1において、ケース1は、上面が開口した箱型であり、例えば、鉄材で構成されている。このケース1内には電池素子2があり、電池素子2は、帯状の正極3と帯状の負極4が帯状のセパレータ5を介して捲回された構造となっている。
【0028】
本実施形態では、電池素子2がリチウムイオン二次電池であるので、電池素子2は、正極3と負極4の少なくとも一方にリチウムイオンを含む構造となっている。また、この電池素子2には、電解液が保持されている。
そして、ケース1の上面の開口部には、樹脂などの絶縁体で構成されたフタ6が装着されている。このフタ6には、安全弁7と正極端子8が設けられている。
【0029】
安全弁7は、ケース1内の圧力が所定値以上に上昇した際に開放し、ケース1内の圧力をケース1外に排出するものである。
また、正極端子8は、リチウムイオン二次電池の+端子となり、この正極端子8と正極3は、ケース1内において、電気的、機械的に接続されている。
さらに、ケース1内において、負極4とケース1の内面は、電気的、機械的に接続され、ケース1がリチウムイオン二次電池としての-端子となる。
【0030】
本実施形態で用いたセパレータ5は、長い帯状となっている。
図2は、
図1のセパレータ5の一部分を拡大して示した図である。そして、
図2の右の図は、セパレータ5の一部分を拡大して、平面視状態としている。また、
図2の左の図は、
図2の右の図の破線で囲った領域を拡大して示した図である。
【0031】
本実施形態のセパレータの特徴は、
図2に示すように、繊維よりなる複数の環状形状体9,10で構成されている不織布である。この構成により、繊維の配向が起こり難くなり、繊維が密な構造をとらなくなるので、緻密で空隙率の高い不織布が得られる。
【0032】
さらに、複数の環状形状体9,10が、
図2に示す平面視状態において、左右上下方向に重なっており、環状形状体同士の重なり部分においては、環状形状体を構成する繊維同士の小さい方の交差角が30°以上90°以下で交差した状態で重なっていることが好ましい。この構成とすれば、環状形状体9,10同士の重なり部分が少なくなり、緻密でより空隙率の高い不織布が得られる。
図2では、左の図のθ
1,θ
2などの繊維同士の小さい方の交差角が、30°以上90°以下で交差した状態で重なっている。そして、左の図の交差角θ
1,θ
2は、70°~80°程度であり、30°以上90°以下を満たしている。
もし交差角が30°以下であれば、環状形状体同士の重なり部分が増え、空隙率が小さくなってしまう。
【0033】
このような構成の不織布は、繊維を含んだスラリーを基材に噴霧することによって得られる。噴霧により、スラリーは微細な液滴となる。この時、液滴の直径より長い繊維は、液滴の形に沿って丸く変形、すなわち環状形状をとった状態で対象に付着する。噴霧後は、これを乾燥し、基材から剥がせば良い。
【0034】
また、
図1では、不織布から成るセパレータ5は、電極(正極3及び負極4)と別々の構成となっているが、正極3、あるいは負極4、もしくはそれらの両方3,4に、スラリーを噴霧し、直接電極上に不織布を形成しても良い。同様に、フィルターとして使用する場合も、粗いフィルターなどの上に不織布を直接形成しても良い。
【0035】
環状形状体となる繊維の長さは、噴霧によって形成される液滴の直径による。液滴の直径は、噴霧方式、スラリーの粘度などによって左右されるが、おそらく5μmより小さくすることは困難であろう。また、長すぎる繊維は噴霧時にスピット(粗大粒子)の原因となるので、繊維の長さは1500μm以下が好ましい。つまり、環状形状体となる繊維の長さは、5μm以上、1500μm以下が妥当である。
【0036】
不織布を構成する繊維としては、繊維径と、繊維長さとの、少なくともいずれか一方が異なる繊維によって形成されている方が好適である。繊維の繊維径、繊維長が異なれば、形成される環状形状体の大きさも異なる。その結果、大きな環状形状体の間隙を塞ぐように小さな環状形状体がウェブを形成するため、単一の繊維と比べて、より緻密で空隙率の高い不織布を形成することができる。
【0037】
上記の構成をさらに説明すると、例えば、
図2では、太くて長い繊維よりなる環状形状体9と、細くて短い繊維よりなる環状形状体10とによって、セパレータが形成されている。本実施形態においては、太い繊維とは、例えば1μm以上の繊維径をもつ繊維を示し、細い繊維とは、例えば1μmよりも小さい繊維径をもつ繊維を示す。
【0038】
図2に示すように、太い繊維は、細い繊維よりも長さが長くなっている。このため、太い繊維よりなる環状形状体9の直径は、細い繊維よりなる環状形状体10の直径よりも大きくなっている。この構成とすれば、太くて長い繊維によって形成された環状形状体9が強度を維持し、細くて短い繊維によって形成された環状形状体10が緻密なウェブを形成するので、緻密さと高い空隙率を維持しつつ、不織布の機械強度を高めることができる。
【0039】
また、太い繊維よりなる環状形状体9の本数より、細い繊維よりなる環状形状体10の本数が、多くなっている。このような構成とした場合、細い繊維よりなる環状形状体10の数が多くなっているので、セパレータとしての緻密性を高めることができる。
【0040】
また、本実施形態において特徴的なのは、細い繊維よりなる環状形状体10だけでなく、太い繊維よりなる環状形状体9が混在した状態としているので、セパレータ5としての機械強度を高めることができ、この結果として、リチウムイオン電池用セパレータとして極めて好適なものとなるのである。
【0041】
このような繊維としては、叩解により繊維径・繊維長の分布を調節できる、フィブリル化可能な再生セルロース繊維が好適である。叩解された繊維スラリーには、太く長い繊維から細く短い繊維まで、様々な繊維径、繊維長の繊維が含まれる。叩解により繊維径・繊維長の分布を調節できるので、緻密さと高い空隙率を維持しつつ、機械強度を高めた不織布を容易に得ることができる。
もちろん、フィブリル化可能な他の繊維を使用することもできるし、求められる緻密さによっては、長さの揃ったカット繊維を用いることもできる。あるいは、太さや長さの異なる繊維を2種以上混合して用いても良いし、カット繊維とフィブリル化可能な繊維を混合して用いても良い。
【0042】
繊維を叩解する手段は、シングルディスクリファイナー(SDR)やダブルディスクリファイナー(DDR)、ビーター、ホモミキサーなど、既存の手段を用いることができる。また、水中対向衝突法やウォータージェット法も選択可能である。叩解の程度は、目的とする不織布の孔径に応じて、調節すれば良い。
【0043】
スラリーの噴霧方法は、圧縮気体を利用した二流体ノズル(エアスプレー)や加圧ノズル(エアレススプレー)、静電スプレー、回転円盤によるロータリーアトマイザ、などを用いることができる。これらのうちでは、液滴の径を小さくできるので、二流体ノズルが好ましい。
噴霧するスラリーの濃度は、噴霧方式、条件によって、調整可能である。また、必要に応じて、スラリーに粘剤や分散剤、消泡剤、結着剤などの添加剤を加えても良い。
【0044】
不織布の空隙率は、70%以上90%以下が好ましい。この構成とすれば、低抵抗、高保液、低圧力損失な不織布となり、非水系電池用セパレータやフィルターに好適な不織布となる。
空隙率が低いと、本発明の意義が薄れる。空隙率が高すぎると、強度や遮蔽性の面で不具合が発生する可能性がある。
【0045】
不織布の厚さは、3μm以上20μm以下が好ましい。この構成とすれば、低抵抗、低圧力損失な不織布となり、非水系電池用セパレータやフィルターに好適な不織布となる。
薄すぎると、遮蔽性の確保が難しくなり、厚すぎると、抵抗が高くなる。
【0046】
そして、複数の環状形状体によって構成された、本発明に係る不織布が、正極と負極間に配置された非水系二次電池を構成することにより、大容量、高出力、長寿命な非水系電池が得られる。
【0047】
以下、本発明に係る不織布及び、該不織布をセパレータとして備えた非水系二次電池の具体的な実施例、比較例について、詳細に説明する。
【0048】
まず、本発明の実施の形態に係る不織布を作製して、各特性を調べた。各特性の測定は、以下の条件及び方法で行った。
【0049】
〔厚さ〕
不織布の厚さは、「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 5.1 厚さ」に規定された、「5.1.1 測定器及び測定方法 a) 外側マイクロメータを用いる場合」のマイクロメータを用いて、「5.1.3 紙を折り重ねて厚さを測る場合」の10枚に折り重ねる方法で、測定した。なお、後述の実施例4については、電極と不織布の一体物と電極の厚さをそれぞれ測定し、それらの差分から不織布の厚さを求めた。
【0050】
〔坪量〕
「JIS C 2300-2 『電気用セルロース紙-第2部:試験方法』 6 坪量」に規定された方法で、不織布の坪量を測定した。なお、後述の実施例4については、電極と不織布の一体物と電極の坪量をそれぞれ測定し、それらの差分から不織布の坪量を求めた。
【0051】
〔空隙率〕
不織布の空隙率は、以下の計算式を用いて算出した。
空隙率(%)=100-(W/ρ)/T×100 (式1)
ここで、Wとして不織布の坪量(g/m2)を用いて、ρとして繊維の密度(g/cm3)を用いて、Tとして不織布の厚さ(μm)を用いて、空隙率を計算した。
上記の計算式は、配合した繊維の材質が1種類の場合の計算式であるが、仮に、配合した繊維の材質が複数ある場合は、(W/ρ)の部分を、各繊維の配合量と密度を勘案したものに変更すればよい。例えば、配合した繊維の材質が2種類ある場合は、計算式が以下のようになる。
(W/ρ)=(W×R1/100/ρ1+W×R2/100/ρ2) (式2)
ここで、Wは不織布の坪量(g/m2)となり、R1,R2は各繊維の配合率(%)となり、ρ1,ρ2は各繊維の密度(g/cm3)となる。
【0052】
次に、得られた不織布をセパレータとして用いたリチウムイオン二次電池を作製し、各特性を調べた。電池の作製と各特性の測定を以下のように行った。
【0053】
〔リチウムイオン電池の作製方法〕
正極材として、リチウムイオン二次電池用のコバルト酸リチウム電極を用い、負極材として、グラファイト電極を用い、セパレータと共に巻回し、リチウムイオン二次電池素子巻を得た。その素子巻を有底円筒状のケース内に収納し、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウムを溶解した電解液を注入し、プレス機で封口した。このようにして、定格電圧3.7V、定格容量3000mAh、直径18mm、高さ65mmのリチウムイオン二次電池を作製した。なお、後述の実施例4のみ、定格容量3300mAhのリチウムイオン二次電池を作製した。これは、セパレータを薄くしたことで、ケースにより多くの活物質を収めることができるようになったためである。
【0054】
〔高率放電特性〕
リチウムイオン二次電池の高率放電特性は、「JIS C 8715-1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム-第一部:性能要求事項』」に規定された、「6.3.3高率放電性能」に従い、20ItAにおける放電容量の定格容量に対する割合を測定した。
【0055】
〔交流内部抵抗〕
リチウムイオン二次電池の交流内部抵抗は、「JIS C 8715-1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム-第一部:性能要求事項』」に規定された、「6.5.2交流内部抵抗」に従い測定した。
【0056】
〔充放電サイクル耐久性〕
リチウムイオン二次電池の充放電サイクル耐久性は、「JIS C 8715-1 『産業用リチウム二次電池の単電池及び電池システム-第一部:性能要求事項』」に規定された、「6.6.1充放電サイクル耐久性」に従い、測定した。なお、充放電電流値は1.0ItAとした。
【0057】
(実施例1)
フィブリル化可能な再生セルロース繊維を、DDRとホモミキサーにて叩解したスラリーを濃度1%に調製した。そして、このスラリーを、塗装用のエアスプレーガンを用いて、空気圧0.3MPaで基材のPETフィルム上に噴霧し、これを80℃のオーブンで乾燥させた後、基材から剥がすことで、坪量4.5g/m2、厚さ15μm、空隙率80.0%の不織布を得た。そして、この不織布をセパレータとして用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、電池特性を測定した。
【0058】
(比較例1)
フィブリル化可能な再生セルロース繊維をDDRにて叩解し、長網抄紙することで、坪量7.4g/m2、厚さ14.0μm、空隙率64.8%の不織布を得た。そして、この不織布をセパレータとして用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、電池特性を測定した。
【0059】
(実施例2)
ホモミキサーでの処理時間を実施例1より長くした以外は、実施例1と同様の方法で、坪量5.7g/m2、厚さ14.5μm、空隙率73.8%の不織布を得た。そして、この不織布をセパレータとして用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、電池特性を測定した。
【0060】
(実施例3)
ホモミキサーでの処理時間を実施例1より短くした以外は、実施例1と同様の方法で、坪量2.8g/m2、厚さ14.5μm、空隙率87.1%の不織布を得た。そして、この不織布をセパレータとして用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、電池特性を測定した。
【0061】
(比較例2)
ホモミキサーでの処理時間を実施例3より短くした以外は、実施例1と同様の方法で、坪量1.5g/m2、厚さ14.0μm、空隙率92.9%の不織布を得た。そして、この不織布をセパレータとして用いて、リチウムイオン二次電池を作製したが、ショートが発生し、電池として機能しなかった。
【0062】
(実施例4)
スラリーの噴霧量を実施例1より少なくし、負極上に直接噴霧した以外は、実施例1と同様の方法で、坪量2.0g/m2、厚さ6.5μm、空隙率79.5%の不織布セパレータを負極上に直接形成した。そして、得られた負極とセパレータの一体物を用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、電池特性を測定した。なお、セパレータを薄くすることができたので、ケース内により多くの活物質を収めることができるようになり、電池の定格容量を3300mAhに増やすことができた。
【0063】
各実施例、各比較例の不織布の特性と、それらをセパレータとして使用したリチウムイオン電池の特性の一覧を、表1に示す。
また、実施例1と比較例1の不織布の電子顕微鏡写真を、
図3に示す。
【0064】
【0065】
図3に示した、実施例1と比較例1の不織布を比較することにより、以下に述べることが分かった。
実施例1(本発明)の不織布は、繊維が環状形状を取っており、配向は見られず、それら環状形状体同士の重なり部分においては、環状形状体を構成する繊維同士の小さい方の交差角が30°以上90°以下で交差した状態で重なっており、高空隙な形態をとっている。
これに対して、比較例1(従来)の不織布は、写真の上下方向に配向した繊維が目立ち、繊維同士が密着し、隙間を塞いでいる部分が目立つ。
この差異が空隙率に影響しており、実施例1の不織布の空隙率は80%と、比較例1の不織布の空隙率64.8%より大きな値となっている。本発明の構成の不織布とすることで、空隙率の高い不織布となることが分かる。
【0066】
表1の実施例1~実施例3と比較例1~比較例2の結果より、本発明の空隙率の高い不織布をセパレータに用いることで、高率放電特性、交流内部抵抗、充放電サイクル耐久性に優れた、リチウムイオン二次電池が実現できることが分かる。そして、空隙率の範囲は、70%以上、90%以下が好ましいことが分かる。空隙率が70%より低くなると、従来の不織布との差が小さくなり、本発明の意義が薄れるし、空隙率が90%より高くなると、遮蔽性が維持できない。
【0067】
実施例4より、セパレータの厚さを6.5μmと薄くすることができ、またセパレータの厚さを薄くすることで、リチウムイオン二次電池の大容量化が図れることが分かる。
なお、セパレータの厚さは、前述したように、3μm以上とすることが好ましい。厚さの上限については、あえて実施例を挙げて説明することはしないが、20μm以下が好ましい。厚さが20μmを超えると、抵抗が高くなる。
【0068】
以上説明した通り、本発明によれば、緻密で空隙率の高い不織布を得ることができ、この不織布をセパレータに適用すれば、低抵抗、高保液率の薄いセパレータとなり、リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池の高出力化、長寿命化、高容量化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ケース、2 電池素子、3 正極、4 負極、5 セパレータ、6 フタ、7 安全弁、8 正極端子、9 (太い繊維よりなる)環状形状体、10 (細い繊維よりなる)環状形状体