(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126559
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】化合物、エポキシ基含有化合物に対する反応剤、硬化性組成物及び化学反応方法
(51)【国際特許分類】
C07D 249/18 20060101AFI20220823BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220823BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220823BHJP
C07D 263/58 20060101ALI20220823BHJP
C07D 277/68 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
C07D249/18 503
C08K5/29
C08L63/00
C07D263/58 CSP
C07D277/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024715
(22)【出願日】2021-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 明
【テーマコード(参考)】
4C033
4C056
4J002
【Fターム(参考)】
4C033AE08
4C033AE17
4C056AA01
4C056AB01
4C056AC02
4C056AD03
4C056AE02
4C056AF05
4C056CA16
4C056CD01
4J002CD041
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD131
4J002CD141
4J002EU226
4J002FD146
4J002FD156
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GP03
(57)【要約】
【課題】エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して触媒を用いなくとも付加反応を生じ、かつ、その反応後に水酸基を生じない化合物や反応剤及びそれを用いた硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)に例示されるように、含窒素複素環とエステル構造とを備えた化合物やそれを部分構造として備える反応剤を用いる。下記一般式(1)において、Aで表す環(A環)は、含窒素複素環であって、その環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(1)に示す、A環から生じる三本の結合子は、前記特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子であり、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表す化合物。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aで表す環(A環)は、含窒素複素環であって、その環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(1)に示す、A環から生じる三本の結合子は、前記特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子であり、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。)
【請求項2】
下記一般式(2)~(4)のいずれかで表す請求項1記載の化合物。
【化2】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。上記一般式(3)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。上記一般式(4)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。)
【請求項3】
下記一般式(2a)~(4a)で表す請求項1又は2記載の化合物。
【化3】
(上記一般式(2a)中R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(3a)中、R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(4a)中、R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。)
【請求項4】
R3が置換基を有してもよいフェニル基である請求項1~3のいずれか1項記載の化合物。
【請求項5】
下記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えた化合物。
【化4】
(上記一般式(5)中、Aで表す環(A環)は、含窒素複素環であって、その環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(5)に示す、A環から生じる三本の結合子は、前記特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子であり、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。)
【請求項6】
下記一般式(6)~(8)のいずれかで表す部分構造を2以上備えた請求項5記載の化合物。
【化5】
(上記一般式(6)~(8)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。)
【請求項7】
下記一般式(6a)~(8a)のいずれかで表す部分構造を2以上備えた請求項5又は6記載の化合物。
【化6】
(上記一般式(6a)~(8a)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表し、**を付した各結合は、それぞれ独立に、存在しない、又は他の元素への結合を表す。)
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の化合物からなるエポキシ基含有化合物に対する反応剤。
【請求項9】
エポキシ樹脂と、請求項5~7のいずれか1項記載の化合物とを含有する硬化性組成物。
【請求項10】
硬化反応触媒を含まないことを特徴とする請求項9記載の硬化性組成物。
【請求項11】
熱潜在性であり、加熱により硬化することを特徴とする請求項9又は10記載の硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか1項記載の化合物と、エポキシ基含有化合物とを反応させることを特徴とする化学反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、エポキシ基含有化合物に対する反応剤、硬化性組成物及び化学反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂とは、エポキシ基含有化合物と硬化剤との重付加反応を生じて硬化する熱硬化性樹脂であり、塗料、接着剤、基板のソルダーレジスト等に使用されている。これらエポキシ樹脂は、その硬化物が耐熱性、接着性、耐薬品性等の面で優れた特性を示すことから、広く用いられている。
【0003】
エポキシ樹脂は、その硬化の過程で、硬化剤に含まれるアミノ基等がモノマーに含まれるエポキシ基に付加してこれを開環させ、網目状の分子構造を有する架橋体を生じることにより硬化する。こうしたエポキシ基の開環に伴って、エポキシ環に含まれていた酸素原子が水酸基に変換されるので、上記の架橋体はその構造中に水酸基を含むことになる。このため、得られた硬化物は、その構造中に含まれる水酸基の存在に起因して、誘電率が大きくなる、吸湿性を持つ等のデメリットを抱えることになる。
【0004】
このような背景から、非特許文献1では、エポキシ基含有化合物とカルボン酸の活性エステルとの付加反応が提案されている。この反応によれば、エポキシ基が開環した後に水酸基を生じないので、上記の問題を解決することができる。しかしながら、この反応では4級アンモニウム塩等が触媒として必要になるので、この反応系を用いてエポキシ樹脂を構成した場合には、吸湿性をもつ4級アンモニウム塩等の存在により、硬化時に水による副反応を生じたり、硬化物中に4級アンモニウム塩等やその分解物が残留したりするというデメリットを生じることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Nishikubo, A. Kameyama, Prog. Polym. Sci. 1993, 18, 963-995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して触媒を用いなくとも付加反応を生じ、かつ、その反応後に水酸基を生じない化合物や反応剤及びそれを用いた硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記化学式(A)~(C)に示すように、分子内に塩基性窒素を有するカルボン酸エステル化合物がエポキシ基含有化合物に対して自己触媒的に付加反応し、水酸基を生じることなくエポキシ基を開環して付加することを見出した。本発明は、非特許文献1記載の発明のように、活性エステル化合物をエポキシ基含有化合物に作用させるものではあるが、非特許文献1記載の発明では、触媒として窒素含有化合物である4級アンモニウム化合物を必要とするのに対して、本発明では、活性エステル化合物の分子中に含窒素複素環を備えるので、この化合物自体が自己触媒作用を備えるものと考えられる。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、以下のようなものを提供する。なお、下記化学式(A)~(C)に示す化学反応は、説明として示す本発明の一例であり、本発明は、下記化学式(A)~(C)の例に限定されるものではない。
【0008】
【0009】
(1)本発明は、下記一般式(1)で表す化合物である。
【化2】
(上記一般式(1)中、Aで表す環(A環)は、含窒素複素環であって、その環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(1)に示す、A環から生じる三本の結合子は、前記特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子であり、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。)
【0010】
(2)また本発明は、下記一般式(2)~(4)のいずれかで表す(1)項記載の化合物である。
【化3】
(上記一般式(2)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。上記一般式(3)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。上記一般式(4)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R
3は、一価の有機基である。)
【0011】
(3)また本発明は、下記一般式(2a)~(4a)で表す(1)項又は(2)項記載の化合物である。
【化4】
(上記一般式(2a)中R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(3a)中、R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(4a)中、R
3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。)
【0012】
(4)また本発明は、R3が置換基を有してもよいフェニル基である(1)項~(3)項のいずれか1項記載の化合物である。
【0013】
(5)本発明は、下記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えた化合物でもある。
【化5】
(上記一般式(5)中、Aで表す環(A環)は、含窒素複素環であって、その環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(5)に示す、A環から生じる三本の結合子は、前記特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子であり、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。)
【0014】
(6)また本発明は、下記一般式(6)~(8)のいずれかで表す部分構造を2以上備えた(5)項記載の化合物である。
【化6】
(上記一般式(6)~(8)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。)
【0015】
(7)また本発明は、下記一般式(6a)~(8a)のいずれかで表す部分構造を2以上備えた(5)項又は(6)項記載の化合物である。
【化7】
(上記一般式(6a)~(8a)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表し、**を付した各結合は、それぞれ独立に、存在しない、又は他の元素への結合を表す。)
【0016】
(8)本発明は、上記(1)項~(7)項のいずれか1項記載の化合物からなるエポキシ基含有化合物に対する反応剤でもある。
【0017】
(9)本発明は、エポキシ樹脂と、上記(5)項~(7)項のいずれか1項記載の化合物とを含有する硬化性組成物でもある。
【0018】
(10)また本発明は、硬化反応触媒を含まないことを特徴とする(9)記載の硬化性組成物である。
【0019】
(11)また本発明は、加熱により硬化することを特徴とする(9)項又は(10)項記載の硬化性組成物である。
【0020】
(12)本発明は、上記(1)項~(7)項のいずれか1項記載の化合物と、エポキシ基含有化合物とを反応させることを特徴とする化学反応方法でもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して触媒を用いなくとも付加反応を生じ、かつ、その反応後に水酸基を生じない化合物や反応剤及びそれを用いた硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の化合物の第一実施形態及び第二実施形態、本発明のエポキシ基含有化合物に対する反応剤の一実施形態、本発明の硬化性組成物の一実施形態並びに本発明の化学反応方法の一実施態様のそれぞれについて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
[化合物の第一実施形態]
まずは、本発明の化合物の第一実施形態について説明する。本実施形態の化合物は、下記一般式(1)で表す化合物であり、エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して、触媒を用いなくともこれを開環して付加することができ、かつ、反応後の付加体において水酸基を生じない特徴を備える。
【0024】
【0025】
上記一般式(1)中、Aで表す環(これをA環と呼ぶ。)は、含窒素複素環である。そして、A環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(1)に示す、A環から生じる三本の結合子は、特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子である。つまり、上記の反応を生じさせるために、A環には、環を構成するための結合子以外の結合子を持たないフリーの窒素原子か、環を構成するための結合子に加えてN-CH3のようにアルキル基の結合した窒素原子が一つ必要なので、そのことを表すのが上記の説明である。このような特定窒素原子が自己触媒作用を生じるために必要となる。A環を構成する元素として窒素原子が一つしか含まれない場合には、A環から生じる三本の結合子は、当該窒素原子でない原子から生じることになる。そして、A環を構成する元素として窒素原子が二つ以上含まれる場合には、フリーの窒素原子又はアルキル基の結合した窒素原子が一つ残ることを条件として、A環から生じる三本の結合子のいずれか又は全てが窒素原子から生じることを許容する。なお、上記のように、特定窒素原子には、アルキル基が結合してもよく、この場合当該アルキル基の炭素原子は6以下であることが好ましい。特定窒素原子がフリーの場合には、環を構成するために特定窒素原子から生じる二つの結合子のいずれかが二重結合となる。A環の大きさとしては、5員環~8員環程度を挙げることができるが、これらの中でも5員環を好ましく挙げることができる。また、含窒素複素環であるA環は、窒素原子に加えて、酸素原子や硫黄原子等のような他のヘテロ原子を含んでもよい。
【0026】
上記一般式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基である。このような有機基として、炭素数12以下のアルキル基、アルキルオキシ基等が挙げられる。また、R1及びR2は、互いに連結して環構造を形成してもよい。このような環構造としては、ヘテロ原子を有してもよく縮合環であってもよい脂肪環又は芳香環が挙げられる。これらの中でも、芳香環が好ましく挙げられ、ベンゼン環がより好ましく挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)において、R3は、一価の有機基である。なお、本明細書における「有機基」とは、少なくとも1の炭素原子を含むものであり、これに加えて炭素原子以外の各種の原子を含むものであってもよい。特に限定されないが、R3としては、ヘテロ原子や置換基を備えてもよい炭素数1~10のアルキル基、ハロアルキル基若しくはシクロアルキル基、ヘテロ原子や置換基を備えてもよいアリール基等が挙げられる。なお、「置換基を備えてもよい」との表現における置換基の一例としては、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキルオキシ基等を挙げることができる。また、左記のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、チエニル基等が挙げられ、既に述べたように、これらのアリール基には置換基が結合してもよい。また、一価の有機基であるR3は、その構造中に一般式(1)における「R3を除いた部分」を1乃至複数含むものであってもよい。これらの中でも、R3として置換基を有してもよいフェニル基を好ましく挙げることができるが、特に限定されない。
【0028】
上記一般式(1)で表す化合物の好ましい例として、下記一般式(2)~(4)のいずれかで表す化合物を挙げることができる。
【0029】
【0030】
上記一般式(2)~(4)で表す化合物は、いずれも上記一般式(1)におけるA環部分をトリアゾール環、オキサゾール環又はチアゾール環で特定したものになる。上記一般式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R3は、一価の有機基である。上記一般式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R3は、一価の有機基である。上記一般式(4)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基又は一価の有機基であるか、互いに連結して環構造を形成し、R3は、一価の有機基である。これら、一般式(2)~(4)におけるR1、R2及びR3については、上記一般式(1)におけるものと同じなので、ここでの説明を省略する。
【0031】
上記一般式(2)~(4)で表す化合物の好ましい例として、下記一般式(2a)~(4a)のいずれかで表す化合物を挙げることができる。
【0032】
【0033】
上記一般式(2a)~(4a)で表す化合物は、いずれも上記一般式(2)~(4)におけるR1及びR2が互いに連結して芳香環を形成することを特定したものになる。上記一般式(2a)中、R3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(3a)中、R3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。上記一般式(4a)中、R3は、一価の有機基であり、Arは、芳香環である。
【0034】
上記一般式(2a)~(4a)において、Arで表す芳香環は、置換基を備えてもよく、縮合環であってもよく、またヘテロ原子を含む複素芳香環であってもよい。このような芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環が好ましく挙げられるが、特に限定されない。これら一般式(2a)~(4a)におけるR3については、上記一般式(1)におけるものと同じなので、ここでの説明を省略する。
【0035】
既に説明した通り、一般式(1)で表す化合物は、エポキシ基含有化合物のエポキシ基を自己触媒的に開環しこれに付加する。この反応の機構は必ずしも明らかでないが、下記化学反応式にて、一般式(1)で表す化合物としてベンゾトリアゾリルベンゾエート(BAB)を挙げて、これがエポキシ基含有化合物に付加してβ-付加体を形成する場合において予想される2通りの反応機構を示す。なお、β-付加体でなくα-付加体が形成される場合、中間体1における窒素原子の非共有電子対は、Rの結合する炭素原子を攻撃することになる。また、下記の反応機構では、一般式(1)で表す化合物としてトリアゾール環を備えたものを例示したが、この化学反応では含窒素複素環における窒素原子の存在が重要なのであり、トリアゾール環に限らず、他の含窒素複素環含有化合物でも同様の化学反応を生じることになる。
【0036】
【0037】
【0038】
上記化学反応式に示すように、上記一般式(1)で表す本発明の化合物は、エポキシ基含有化合物のエポキシ基を開環して付加した際に、エポキシ基に含まれていた酸素原子がエステルを形成するので、アミン類を反応させた場合と異なって水酸基を生成させない。このため、本発明の化合物は、エポキシ基含有化合物に対する新規で有用な反応剤ということができる。
【0039】
[化合物の第二実施形態]
次に、本発明の化合物の第二実施形態について説明する。既に説明した第一実施形態の化合物にて、エポキシ基含有化合物のエポキシ基を開環してこれに付加するために必要な構造として、含窒素複素環部分とそれに結合したエステル構造部分を挙げることができる。本実施形態の化合物は、この必要な構造を2以上備えたものである。この化合物は、エポキシ基と反応して結合を生じさせる部位(すなわち下記一般式(5)で表す部分構造)を2以上備えることになるので、エポキシ化合物を架橋することができ、例えばエポキシ樹脂に対する架橋剤として用いることができる。このような化合物としては、例えば、下記一般式(5)で表す部分構造を2個以上備えた比較的低分子量の化合物でもよいし、ポリマーの側鎖に下記一般式(5)で表す部分構造を備える等の方法により、下記一般式(5)で表す部分構造を複数個備えた高分子化合物であってもよい。
【0040】
また、本実施形態の化合物は、上記一般式(1)で表す本発明の化合物と同様に、エポキシ基含有化合物のエポキシ基を開環してこれに付加するための部位として含窒素複素環部分とそれに結合したエステル構造部分とを備えるので、エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して、触媒を用いなくともこれを開環して付加することができ、かつ、反応後の付加体において水酸基を生じない特徴を備える。
【0041】
【0042】
上記一般式(5)中、Aで表す環(これをA環と呼ぶ。)は、含窒素複素環である。そして、A環に含まれる一の窒素原子を特定窒素原子と呼ぶとき、上記一般式(5)に示す、A環から生じる三本の結合子は、特定窒素原子ではないA環構成元素からの結合子である。このことは、上記一般式(1)における説明で述べた通りなので、ここでの説明を省略する。また、上記一般式(1)における場合と同様に、特定窒素原子には、アルキル基が結合してもよく、この場合当該アルキル基の炭素原子は6以下であることが好ましい。特定窒素原子がフリーの場合には、環を構成するために特定窒素原子から生じる二つの結合子のいずれかが二重結合となる。A環の大きさとしては、5員環~8員環程度を挙げることができるが、これらの中でも5員環を好ましく挙げることができる。また、含窒素複素環であるA環は、窒素原子に加えて、酸素原子や硫黄原子等のような他のヘテロ原子を含んでもよい。
【0043】
上記一般式(5)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。既に述べたように、本発明の反応剤において、エポキシ基に対する反応性を付与するのは含窒素複素環であるA環とそれに結合するエステル構造なので、その他の部分、すなわち*を付した各結合子が結合する先の部分構造は、どのような構造であってもよい。本実施形態の化合物は、上記一般式(5)で表す構造を2以上備えるので、エポキシ樹脂における架橋剤(すなわち硬化剤)として機能することになる。既に述べたように、本発明の化合物は、エポキシ基を開環しこれに付加した後に水酸基を生じない。したがって、本実施形態の化合物をエポキシ樹脂における硬化剤として用いれば水酸基を含まない硬化物が得られ、それは、水酸基を含む硬化物と異なって、誘電性や吸湿性の抑制されたものになる。本実施形態の化合物としては、通常のアミン系硬化剤程度の分子量を備えた低分子化合物であってもよいし、上記一般式(5)で表す構造を複数の側鎖に備えた高分子化合物であってもよい。
【0044】
一般式(5)を部分構造をとして備えた化合物がエポキシ基と反応する場合の反応態様は、上記一般式(1)で表す化合物の場合と同様なので、ここでの説明を省略する。
【0045】
上記一般式(5)を部分構造として備えた化合物の好ましい例として、下記一般式(6)~(8)のいずれかを部分構造として備えたエステル化合物を挙げることができる。
【0046】
【0047】
上記一般式(6)~(8)で表す部分構造は、いずれも上記一般式(5)におけるA環部分をトリアゾール環、オキサゾール環又はチアゾール環で特定したものになる。上記一般式(6)~(8)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表す。このことについては、上記一般式(5)におけるものと同じなので、ここでの説明を省略する。
【0048】
上記一般式(6)~(8)のいずれかを部分構造として備えた化合物の好ましい例として、下記一般式(6a)~(8a)のいずれかを部分構造として備えた化合物を挙げることができる。
【0049】
【0050】
上記一般式(6a)~(8a)で表す部分構造は、いずれも上記一般式(6)~(8)において含窒素複素環に結合した2本の結合子が芳香環を構成する原子に結合することを特定したものである。上記一般式(6a)~(8a)において、*を付した各結合は、それぞれ独立に、他の元素への結合を表し、**を付した各結合は、それぞれ独立に、存在しない、又は他の元素への結合を表す。
【0051】
[エポキシ基含有化合物に対する反応剤]
上記第一実施形態の化合物や第二実施形態の化合物からなる、エポキシ基含有化合物に対する反応剤もまた本発明の一つである。これらの化合物は、エポキシ基含有化合物のエポキシ基を開環してこれに付加するための部位として含窒素複素環部分とそれに結合したエステル構造部分とを備えるので、エポキシ基含有化合物のエポキシ基に対して、触媒を用いなくともこれを開環して付加することができ、かつ、反応後の付加体において水酸基を生じない特徴を備える。したがって、これらの化合物は、エポキシ基含有化合物に対する良好な反応剤となる。本発明のエポキシ基含有化合物に対する反応剤は、こうした本発明の化合物の特徴を利用したものである。これらのことについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【0052】
なお、本発明のエポキシ基含有化合物に対する反応剤は、室温付近では殆ど反応せず、加熱によりエポキシ基への付加反応を示す特性を備える。このため、本発明のエポキシ基含有化合物に対する反応剤は、エポキシ樹脂を用いた熱潜在性の硬化性組成物用途に好ましく用いられる。
【0053】
[硬化性組成物]
次に、本発明の硬化性組成物について説明する。既に説明した通り、上記一般式(5)を部分構造として備えた化合物は、エポキシ基含有化合物に対する反応剤となる。そして、この反応剤は、エポキシ基含有化合物におけるエポキシ基を無触媒で開環しこれに付加する。このため、上記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えるものは、エポキシ樹脂に対する硬化剤として有用である。本発明の硬化性組成物は、この点に注目したものであり、エポキシ樹脂と、上記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えた化合物(すなわち、上記第二実施形態の化合物)とを含むことを特徴とする。
【0054】
本発明の硬化性組成物は、エポキシ基含有化合物であるエポキシ樹脂と上記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えた化合物とを含んでなる。上記一般式(5)で表す部分構造を2以上備えた化合物については、既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。なお、本発明の硬化性組成物は、硬化反応触媒を必要としないので、硬化物における不純物となり、硬化物の吸湿性を高める硬化反応触媒を含まないことが好ましい。なお、本発明の硬化性組成物は熱硬化性であり、その硬化温度としては80~150℃程度を例示することができるが特に限定されない。
【0055】
エポキシ樹脂としては、これまで硬化性組成物の分野で用いられてきたものを特に制限なく挙げることができる。このようなエポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明の硬化性組成物は、硬化に際してエポキシ基の開環に伴う水酸基の生成を抑制できるので、低誘電率や吸湿性が小さい等の優れた特性を備えた硬化物を与える。そのため、本発明の硬化性組成物は、接着剤、電子回路基板、ソルダーレジスト等の分野で好ましく用いることができる。また、既に述べたように、この硬化性組成物で用いられる、エポキシ基含有化合物に対する反応剤は、室温では殆ど反応せず、加熱によりエポキシ基への付加反応を示す特性を備える。このため、本発明の硬化性組成物は、室温付近では硬化せずに保管することができ、加熱により硬化する熱潜在性を備える。
【0057】
[化学反応方法]
上記本発明の化合物とエポキシ基含有化合物とを反応させることを特徴とする化学反応方法もまた、本発明の一つである。これについては既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例0058】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されることはない。
【0059】
【0060】
300mLの三つ口フラスコに、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)4.63g(34.3mmol)を加え、アルゴン気流下でdry-テトラヒドロフラン(THF)100mL及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)4.92mL(33.0mmol)を加えた。食塩を加えた氷浴中で系内を-15℃に冷却し、これに塩化ベンゾイル(BC)4.84g(34.5mmol)のdry-THF溶液(30mL)を滴下し、系内を-15℃以下に保ったまま5時間撹拌した。反応液を氷水700mLに注ぎ入れて10分間撹拌した後、吸引濾過により固体を回収し、減圧乾燥を行った。これを50℃のヘキサン750mLに溶解させた後、室温で静置して再結晶を行った。析出した固体を吸引濾過により回収し、白色板状結晶の化合物1を得た(収量7.11g、収率87%)。
【0061】
生成物の物性データは次の通りである。
融点 78.1-78.3℃
FT-IR(KBr,cm-1):3066(νC-H,芳香族),1777(νC=O),1597(νC-C,芳香族),1490(νN=N),1230(νC-O),1085(νC-N),984(νN-O),705(δC-H,芳香族).
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):8.30(d,J=7.5Hz,2.00H,Hc),8.12(d,J=8.0Hz,0.98H,Hd),7.79(t,J=7.5Hz,1.02H,Ha),7.63(t,J=8.0Hz,2.05H,Hb),7.57(t,J=7.5Hz,1.04H,He),7.49-7.44(m,2.04H,Hf,Hg).
【0062】
【0063】
【0064】
300mLの三つ口フラスコに、2-ベンズオキサゾリノン(BO)4.46g(33.0mmol)を加え、アルゴン気流下でdry-THF110mL及びDBU4.93g(32.4mmol)を加えた。食塩を加えた氷浴中で系内を-10℃に冷却し、これに塩化ベンゾイル(BC)4.47g(31.8mmol)のdry-THF溶液(20mL)を滴下し、系内を-10℃以下に保ったまま4.5時間撹拌した。反応液を氷水700mLに注ぎ入れて10分間撹拌した後、吸引濾過により固体を回収し、減圧乾燥を行った。これをクロロホルム153mLに溶解させた後、ヘキサン58mLを加え、室温で静置して再結晶を行った。析出した固体を吸引濾過により回収し、白色板状結晶の化合物2を得た(収量5.48g、収率75%)。
【0065】
生成物の物性データは次の通りである。
融点 138.2-139.0℃
FT-IR(KBr,cm-1):3053(νC-H,芳香族),1699(νC=O),1600(νC-C,芳香族),1312(νC-O),1480(νC-C),1141(νC-O,複素環),756(δC-H,芳香族).
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):7.86(t,J=5.0Hz,0.97H,Hb),7.81(d,J=7.5Hz,1.92H,Hc),7.65(t,J=7.5Hz,0.99H,Ha),7.51(t,J=8.0Hz,2.00H,He,Hf),7.30-7.26(m,3.32H,Hd,Hg).
【0066】
【0067】
【0068】
300mLの三つ口フラスコに、3H-ベンゾチアゾール-2-オン(BT)5.01g(33.1mmol)を加え、アルゴン気流下でdry-THF100mL及びDBU5.45g(35.8mmol)を加えた。食塩を加えた氷浴中で系内を-7℃に冷却し、これに塩化ベンゾイル(BC)4.80g(34.1mmol)のdry-THF溶液(30mL)を滴下し、系内を-7℃以下に保ったまま4.5時間撹拌した。反応液を氷水700mLに注ぎ入れて10分間撹拌した後、吸引濾過により固体を回収し、減圧乾燥を行った。これをヘキサン430mLに溶解させた後、室温で静置して再結晶を行った。析出した固体を吸引濾過により回収し、白色板状結晶の化合物3を得た(収量3.70g、収率44%)。
【0069】
生成物の物性データは次の通りである。
融点 91.2-92.0℃
FT-IR(KBr,cm-1):3062(νC-H,芳香族),1685(νC=O),1464(νC-C,環伸縮振動),1154(νC-O-C,逆対称伸縮振動),751(δC-H,芳香族面外変角振動).
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):7.88(d,J=7.5Hz,1.96H,Hc),7.65(t,J=7.5Hz,1.00H,Ha),7.58(d,J=8.0Hz,1.35H,Hd),7.51(d,J=8.0Hz,1.96H,Hb),7.46(d,J=8.0Hz,0.95H,Hg),7.33(t,J=7.5Hz,1.00H,Hf),7.27(t,J=7.5Hz,1.57H,He).
【0070】
【0071】
・化合物1とグリシジルフェニルエーテル(GPE)との溶媒中における反応
二つ口フラスコに化合物1を0.479g(2.00mmol)、グリシジルフェニルエーテル(GPE)0.300g(2.00mmol)及びN-メチルピロリドン2.7mL(1.5mol/L)を加え、アルゴン気流下にした後、撹拌しながらオイルバスを用いて150℃に加熱した。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応追跡を行い、GPEのスポットが消失した5時間後の時点で加熱を停止した。反応溶液をサンプル瓶に移し、水を20mL加えて1時間撹拌した後にデカンテーションを行い、得られた濃褐色粘性液体を室温で減圧乾燥して、化合物1とGPEとの反応粗生成物を得た(粗収率78.7%)。
【0072】
・化合物1とグリシジルフェニルエーテル(GPE)との無溶媒条件における反応
【化22】
【0073】
上記のように、化合物1とGPEとを溶媒中で反応させることにより、化合物1とGPEとの付加体である粗生成物を得た。ところで、化合物1がGPEへ付加するとき、GPEのエポキシ基に含まれる2個の炭素原子のうちのいずれかに付加することで、α付加体(AD-1(α))とβ付加体(AD-1(β))が生成し得る。そこで、化合物1をGPEに無溶媒条件で付加させ、α付加体とβ付加体とをそれぞれ単離することを試みた。
二つ口フラスコに化合物1を1.23g(5.14mmol)及びGPE0.771g(5.14mmol)を加え、窒素気流下にした後、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応追跡を行い、GPEのスポットが消失した5時間後の時点で加熱を停止することで、化合物1とGPEとの反応粗生成物を得た(粗収量1.86g、粗収率93%)。得られた粗生成物に対してシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=1/9→1/4)を行うことで、α付加体であるAD-1(α)(収率14%)とβ付加体であるAD-1(β)(収率26%)を得た。
【0074】
得られたAD-1(α)の物性データは次の通りである。
FT-IR(KBr,cm-1):3063(νC-H,芳香族),2953(νC-H,アルキル),1722(νC=O),1599(νC-C),1495(νC-N),1451(νN=N),1269(νC-O),1110(νC-O-C),712(δC-H).
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):7.98(d,J=8.5Hz,1.00H,Hl),7.92(d,J=7.5Hz,1.99H,Hm),7.59(m,3.09H,Ho,Hi,Hj),7.42(t,J=7.5Hz,2.05H,Hn),7.37(t,J=8.0Hz,1.09H,Hk),7.31(t,J=8.5Hz,2.01H,Hb),7.01(t,J=7.5Hz,1.01H,Ha),6.94(d,J=7.5Hz,1.98H,Hc),5.78(m,1.01H,Hf),4.94(m,2.00H,Hg,Hh),4.28(m,2.03H,Hd,He).
【0075】
【0076】
得られたAD-1(β)の物性データは次の通りである。
FT-IR(KBr,cm-1):3063(νC-H,芳香族),2953(νC-H,アルキル),1722(νC=O),1599(νC-C),1495(νC-N),1451(νN=N),1269(νC-O),1110(νC-O-C),712(δC-H).
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ(ppm):7.98(d,J=8.5Hz,3.00H,Hl,Ho),7.63(t,J=7.5Hz,1.06H,Hm),7.49(m,1.06H,Hi),7.42(m,3.05H,Hn,Hj),7.35(3.09H,Hk,Hb),7.01(t,J=8.5Hz,1.06H,Ha),6.98(d,J=7.5Hz,2.03H,Hc),5.85(m,0.95H,Hf),5.05(m,1.94H,Hg,Hh),4.50(m,2.01H,Hd,He).
【0077】
【0078】
また、得られたAD-1(α)及びAD-1(β)のそれぞれについて、ESI-TOF-MS測定を行った。その結果、いずれのサンプルについても、m/z=412.21のピークが観察された。これは、AD-1(α)やAD-1(β)のナトリウムイオン(Na+)付加体に相当するピークであることから、上記の手順で得た付加体がAD-1(α)及びAD-1(β)で示す構造を備えることが支持された。
【0079】
上記物性データから、含窒素複素環とエステル部位とを備えた化合物1は、エポキシ基含有化合物であるGPEと無触媒条件で反応し、その反応物には水酸基が含まれないことがわかった。
【0080】
・化合物1とGPEとの無溶媒条件における反応の1H-NMRによる追跡
上記の通り、化合物1とGPEとの無溶媒条件における反応で、AD-1(α)及びAD-1(β)の2種類の付加体が得られ、それらの1H-NMRにおけるシグナルを確認した。そこで、無溶媒条件における反応温度を90℃、100℃又は110℃としたときの1H-NMRにより算出した収率をそれぞれ求めた。
二つ口フラスコに化合物1を1.23g(5.14mmol)及びGPE0.771g(5.14mmol)を加え、窒素気流下にした後、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱し、1時間毎にサンプリングを行って1H-NMRにより反応を追跡した。9時間後にGPEのシグナルが消失したことを確認したところで加熱を停止し、AD-1(α)及びAD-1(β)についての1H-NMRシグナルをもとにそれぞれの収率を計算した。同様の手順で、反応温度を100℃又は110℃に変化させた場合のAD-1(α)及びAD-1(β)それぞれの収率を計算した。その結果を表1に示す。
【0081】
【0082】
1H-NMRによる解析では、90℃以上で付加体の収率が70%以上となり、100℃以上ではこれが85%以上となることがわかった。また、AD-1(α)とAD-1(β)の比率は、反応温度によらずほぼ36:64だった。
【0083】
・化合物2とGPEとの反応
二つ口フラスコに化合物2を0.456g(2.00mmol)、GPE0.300g(2.00mmol)及びN-メチルピロリドン2.7mL(1.5mol/L)を加え、アルゴン気流下にした後、撹拌子ながらオイルバスを用いて150℃に加熱した。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応追跡を行い、GPEのスポットが消失した5時間後の時点で加熱を停止した。反応溶液をサンプル瓶に移し、水を20mL加えて1時間撹拌した後にデカンテーションを行い、得られた濃褐色粘性液体を室温で減圧乾燥して、化合物2とGPEとの反応組成生物を得た(粗収率69.8%)。
【0084】
・化合物3とGPEとの反応
二つ口フラスコに化合物3を0.510g(2.00mmol)、GPE0.300g(2.00mmol)及びN-メチルピロリドン2.7mL(1.5mol/L)を加え、アルゴン気流下にした後、撹拌子ながらオイルバスを用いて150℃に加熱した。薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応追跡を行い、GPEのスポットが消失した22時間後の時点で加熱を停止した。反応溶液をサンプル瓶に移し、水を20mL加えて1時間撹拌した後にデカンテーションを行い、得られた濃褐色粘性液体を室温で減圧乾燥して、化合物3とGPEとの反応組成生物を得た(粗収率77.8%)。
【0085】
化合物1と同様に、化合物2及び3についてもGPEとの反応生成物を得た。以上のことから、本発明の化合物は、エポキシ基含有化合物に対する良好な反応剤となることが示された。