(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126690
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による検出のための垂直配向のプラチナワイヤ・アプタセンサアレイの作成およびパラメータ評価
(51)【国際特許分類】
G01N 27/02 20060101AFI20220823BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220823BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20220823BHJP
【FI】
G01N27/02 D
G01N33/53 D
C12N15/115 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091369
(22)【出願日】2022-06-06
(62)【分割の表示】P 2018516850の分割
【原出願日】2016-10-04
(31)【優先権主張番号】62/237,104
(32)【優先日】2015-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】506147560
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ-オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】クムタ、プラシャント、エヌ
(72)【発明者】
【氏名】パティル、ミタリ、エス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】患者から採取した体液サンプル中において目的の心臓バイオマーカーをインピーダンス測定で検出するex-situバイオセンサを提供する。
【解決手段】バイオセンサは、垂直に配列されたプラチナワイヤのマルチアレイを含み、その上に、目的の心臓バイオマーカーに特異的および選択的に結合するように選択されたアプタマーを有する。バイオセンサは、体液サンプルの一部と接触されて、アプタマーが、体液サンプル中の目的の心臓マーカーと結合する。その結果、電気化学的インピーダンス信号が生成され、それにより、電気化学的インピーダンスの変化が、体液サンプル中の目的の心臓マーカーの存在を示す。バイオセンサは、医療環境および家庭内環境において使用することができるポイントオブケア・オンデマンド・デバイスである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液サンプル中の心臓バイオマーカーの存在を検出するポータブルなハンドヘルド式のデバイスであって、
前記デバイスは試験ストリップを含むものであり、
前記試験ストリップは患者からの体液サンプルと接触すると心臓バイオマーカーと結合することができるアプタマーを含むものであり、
前記試験ストリップは、前記体液サンプルとの接触に基づく視覚的変化を呈するように構成されており、
視覚的変化が有ることが、前記試験ストリップ中の前記アプタマーの、前記患者からの前記体液サンプル中の心臓バイオマーカーとの結合を示し、
前記デバイスはさらに、前記試験ストリップ上の視覚的変化を解釈するための標準チャートを含む、デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記視覚的変化が前記試験ストリップの少なくとも一部の色彩の変化であることを特徴とするデバイス。
【請求項3】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記視覚的変化が前記試験ストリップの少なくとも一部の色彩強度の変化であることを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記体液サンプルが血液サンプルであることを特徴とするデバイス。
【請求項5】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記心臓バイオマーカーが、C反応性タンパク質、クレアチニンキナーゼ、トロポニンT、ミオグロビン、IL-6、IL-18、脳性ナトリウム利尿ペプチドおよびDダイマーのなかから選択されることを特徴とするデバイス。
【請求項6】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記アプタマーが、前記体液サンプル中の複数の心臓バイオマーカーを同時に検出するのに有効であることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項1に記載のデバイスにおいて、
前記標準チャートは前記体液サンプル中の心臓バイオマーカーの量的レベルに相関する前記試験ストリップ上の視覚的変化の程度または強度を含むことを特徴とするデバイス。
【請求項8】
患者の体液サンプル中の心臓バイオマーカーを検出する方法であって、
目的の心臓バイオマーカーと選択的に結合する少なくとも1つのアプタマーを選択するステップと、
前記少なくとも1つのアプタマーを基板と組み合わせることにより、試験ストリップを含むデバイスを形成するステップと、
前記試験ストリップを患者から採取した体液サンプルと接触させるステップと、
前記試験ストリップ基板の表面で視覚的変化が有ること、または前記試験ストリップ基板の表面で視覚的変化が無いことを含む、結果を生成するステップとを含み、
前記デバイスは使用されると、前記試験ストリップ基板の表面で視覚的変化が有ることが、前記体液サンプル中に前記目的の心臓バイオマーカーが存在して前記少なくとも1つのアプタマーと結合したことを示し、前記試験ストリップ基板の表面で視覚的変化が無いことが、前記体液サンプル中に前記少なくとも1つのアプタマーと結合する前記目的の心臓バイオマーカーが存在していないことを示すように構成されており、前記方法はさらに、
前記結果を1つ以上の視覚的変化を示す対応するチャートと比較し相関させることにより、前記結果を評価するステップを含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、
前記評価ステップはさらに、前記対応するチャートを表示された前記結果と相関させることにより、前記体液サンプル中に存在する前記心臓バイオマーカーの量的レベルを判定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、
前記少なくとも1つのアプタマーが1つ以上の心臓バイオマーカーと選択的に結合するものであり、前記試験ストリップ基板は前記体液サンプル中に存在する前記1つ以上の心臓バイオマーカーを同時に検出するのに有効であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記評価ステップはさらに、前記対応するチャートを表示された前記結果と相関させることにより、前記体液サンプル中に存在する前記1つ以上の心臓バイオマーカーの量的レベルを判定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法において、
前記生成ステップは、前記試験ストリップ基板の表面の少なくとも一部での、色彩変化の形態である視覚的変化を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、2015年10月5日に出願された「DEVELOPMENT AND PARAMETER ASSESSMENT FOR VERTICALLY ALIGNED PLATINUM WIRE APTASENSOR ARRAYS FOR IMPEDIMETRIC DETECTION OF CARDIAC BIOMARKERS」と題する米国仮特許出願第62/237,104号の優先権を主張するものであり、その内容は引用により本明細書に援用されるものとする。
【0002】
発明の属する技術分野
本発明は、生物学的サンプル中の心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による検出、並びに、患者の心血管疾患リスクの評価を含む心血管疾患の診断および予後診断を行うためのマルチアレイ垂直配向プラチナワイヤ・アプタセンサ(aptasensors)に関する。より詳細には、本発明は、オンデマンドのポイントオブケアスクリーニング、分析および結果を提供するためのアプタセンサデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
心血管疾患(CVD)は、米国を含む世界中の先進国における主要な死因である。CVDは、心臓および血管の幾つかの医学的状態を包含し、それには、冠状動脈における脂肪沈着の蓄積により心臓への血液供給が妨げられる冠状動脈性心疾患(CHD)が含まれる。放置すると、CVDは最終的に心不全、脳卒中を引き起こし、死に至る可能性もある。米国心臓協会が発表した統計によると、CVDは米国における主要な健康問題と死因であることが示されている。国内で約8560万人が何らかのCVDに苦しんでおり、死の3分の1が心臓病、脳卒中およびその他のCVDに起因し、すべての形態の癌を合わせたよりも多くの命を奪っている。米国だけで見ると、全死亡者数の31.9%がCVDで占められている。世界保健機関の統計によれば、CVDは世界的に主要な死因であり、2012年には約1750万人がCVDで死亡している。CVDによる死亡のほぼ半数は冠状動脈性心疾患のみによってもたらされている。CVDの直接および間接コストは3201億ドル以上に達し、国民医療支出の約17%を占める。残念ながら、CVDの有病率およびコストは何年にもわたって増加し続けることが予測されている。2030年には、CVDの有病率が37.8%から40.5%に上昇し、コストが3500億ドルから8180億ドルに増加すると推定される。
【0004】
医学分野、特にCVD治療分野における著しい進歩にもかかわらず、CVDは先進国において主要な死因のままであり続けている。この統計は、少なくとも部分的には、CVD診断のための標準的な方法の欠如の結果である。この病気は、深刻な合併症が生じるまで、臨床的に無症状である。CVDの診断は、典型的には、胸痛の発症、心電図の結果、血液サンプルの生化学的マーカー検査に続く。これらの診断症状には、付随する欠点が存在する。胸部の痛みはCVDのみに関連するものではなく、心電図の結果は必ずしも信頼できるものではなく、また、血液サンプルの書類作成や臨床検査を行うには、数日の期間が必要であり、重要な時期が過ぎてしまう可能性がある。さらに、磁気共鳴イメージング(MRI)、超高速コンピュータ断層撮影(CT)および冠状動脈や脳血管の血管造影などのイメージング技術は、高価な検査機器を使用するとともに、侵襲的処置を伴う。心臓の拍動サイクルの間に生じる電荷に基づく心電図(ECG)は、その手頃さや可用性により、CVDの診断ツールとして一般に使用されている。しかしながら、ECGが生成する静止画像は、内在するCVD状態の深刻度を必ずしも示すものではなく、50%の感度しか有していない。したがって、標準的な診断方法の欠如および病院検査室における血液サンプル処理のターンオーバーの遅さは、血液中の心臓マーカーを迅速かつ高感度で検出するポイントオブケア診断バイオセンサの重大な必要性を示している。
【0005】
抗体および酵素は、それらの高い親和性および特異性により、バイオセンサにおける検出エレメントとして一般に利用されている。しかしながら、抗体および酵素には、付随する欠点があり、具体的には、保管寿命が比較的短く、in vivoパラメータにより制限を受け、バッチ間で変動が有り、化学的変化または温度変化に対して敏感である。合成アプタマーの使用は(生物学的抗体および酵素と比較すると)、バイオセンサに著しい改善をもたらす。アプタマーは、高い親和性および特異性でそれらの標的に結合するように合成される合成オリゴヌクレオチド配列であり、それにより、バイオセンサに著しい改善をもたらす。アプタマーを合成する合成プロセスは、親和性および特異性を維持しながらも、様々な環境での高い安定性、長い保管寿命および最小限のバッチ間変動などの特性および特徴を保証する。アプタマーベースのバイオセンサは、より容易に医療機器に変換できる安定したシステムを提供することが可能である。さらに、アプタマー中の疎水性コアのサイズが小さいこと、あるいはアプタマー中に疎水性コアが存在しないことによって、抗体において問題となることが知られている凝集を防止することが可能である。
【0006】
CVDの危険性および有病率を診断する目的の2種類の特定バイオマーカーは、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびトロポニン-T(TnT)である。BNPは、心筋細胞の過剰伸長時に心室によって血流中に分泌されるポリペプチドであり、よって心臓負荷の指標となる。TnTは、筋細胞の損傷または死に際して血流中に放出されるタンパク質であり、よって心臓損傷の指標となる。これらの2つの心臓マーカーを検出するためのバイオセンサの調整は、心臓血管の医療コミュニティにとって特に関心が高い。
【0007】
インピーダンス測定デバイスの合成には、導電性物質界面が必要である。物質界面としてのプラチナの使用および選択には、化学的および電気化学的に不活性な貴金属状態、高い導電性および生体適合性など、付随する利点がある。しかしながら、プラチナに付随する欠点もあり、プラチナ界面で行われる殆どのバイオセンサの研究は、依然として抗体および酵素を検出エレメントとして利用しており、プラチナ電極またはナノ粒子を、カーボンナノチューブ/ナノコンポジット、グラフェン、キトサン、シリカ、ポリマーまたは金などのその他の物質界面とともに使用することが多い。プラチナ界面のみを用いたアプタマーベースのバイオセンサを作成することは、当該技術分野では知られていない。
【0008】
様々な既存のバイオセンサベースの技術は、主に、蛍光イムノアッセイに基づくものであり、蛍光標識抗体および蛍光アッセイ用のベンチトップアナライザを必要とする。一般的なイムノアッセイには、ラテラルフローデバイス(LFD)および酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)などのメンブレンベースのイムノアッセイが含まれる。これらの試験は、蛍光標識抗体および蛍光レベルを分析する分光光度計の使用に大きく依存する。これらのアッセイは、試験室で一般に行われ、かなりの分析前時間および分析時間を要し、それにより所要時間が増加する。さらに、これらのデバイスの多くは、一般的なグルコース検出器よりも大量の血液を必要とする。
【0009】
一般的に、標準的な診断方法はなく、病院や試験室での血液サンプル処理のターンオーバーは遅いことが多く、さらに、一般的な診断方法は、費用がかかり、時間がかかり、侵襲的であり、患者を医療施設で検査する必要があり、習熟し訓練を受けた人材がその結果を得る必要があり、これらは定期的な検査を促すものではない。このため、良好な結果をもたらす予防的投薬および治療的処置を提供するために、効率的で、早く、使い易く(例えば、ポイントオブケア、オンデマンド)、安価で、迅速で、最小限の侵襲または非侵襲で、正確なインピーダンス測定による検出および複数の心臓マーカーの同時スクリーニングおよび患者のCVDリスクの診断または予後診断のうちの1またはそれ以上を提供することができ、病院またはその他の医療施設の範囲外、例えば患者の家などの家庭内環境で利用することができる、改良されたインピーダンス測定アプタセンサの開発が必要である。
【発明の概要】
【0010】
一態様では、本発明は、患者内の目的の心臓バイオマーカーをインピーダンス測定で検出するためのポータブルex-situシステムを提供する。このシステムは、表面を有する導電性物質界面であって、エポキシ基板と、エポキシ基板内にキャスティングされた垂直配向のプラチナワイヤのマルチアレイとを含む導電性物質界面と、導電性物質界面の表面に付着された生物学的センサ物質とを備える。生物学的センサ物質は、固定化物質と、少なくとも1のアプタマーとを含み、少なくとも1のアプタマーが、固定化物質と相互作用するように選択されるとともに目的の心臓バイオマーカーと結合するように選択される。また、このシステムは、アプタマーと目的の心臓バイオマーカーとの結合によって生成された電気化学的インピーダンス信号から構成されるシグナル媒介因子と、患者から採取した体液サンプルも含み、体液サンプルがアプタマーと接触する。電気化学的インピーダンスの変化は、体液サンプル中に目的の心臓バイオマーカーが存在することを示し、電気化学的インピーダンスの変化がないことは、体液サンプル中に目的の心臓バイオマーカーが存在しないことを示している。
【0011】
プラチナワイヤの一端は、電気化学的インピーダンス信号を変換するための接点として機能し、出力の解釈可能な読み出しを可能にする。
【0012】
体液サンプルは血液サンプルであってもよい。心臓バイオマーカーは、C反応性タンパク質、クレアチニンキナーゼ、トロポニンT、ミオグロビン、IL-6、IL-18、脳性ナトリウム利尿ペプチドおよびDダイマーのなかから選択することができる。
【0013】
アプタマーは、ビオチンとコンジュゲートすることができる。固定化物質は、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンおよびそれらの混合物からなる群のなかから選択することができる。固定化物質は処理物質に加えることができ、処理物質は、垂直配向されたプラチナワイヤのマルチアレイを含む導電性物質界面の表面に付着させることができる。
【0014】
垂直配向されたプラチナワイヤのマルチアレイは、基板の表面上で円形状に配列させることができる。
【0015】
アプタマーは、体液サンプル中の複数の心臓バイオマーカーをインピーダンス測定で同時に検出するのに有効である。
【0016】
別の態様では、本発明は、患者の体液サンプル中の心臓バイオマーカーを検出する方法を含む。この方法は、患者から体液サンプルを採取するステップと;検出デバイスを形成するステップであって、表面を有する導電性物質界面を形成すること、エポキシ基板を提供すること、垂直に配向されたプラチナワイヤのマルチアレイを得ること、並びに、前記エポキシ基板内に前記垂直に配向されたプラチナワイヤのマルチアレイをキャスティングすることを含むステップと;導電性物質界面の表面を研磨するステップと;生物学的センサ物質を形成するステップであって、導電性物質界面の表面に固定化物質を付着すること、目的の心臓バイオマーカーと選択的に結合するアプタマーを選択すること、並びに、アプタマーを固定化物質と相互作用させることを含むステップと;アプタマーを体液サンプルと接触させるステップと;アプタマーが目的の心臓バイオマーカーと結合する結果として電気化学的インピーダンス信号を生成するステップと;電気化学的インピーダンスの変化の有無を評価するステップとを含む。電気化学的インピーダンスの変化が有ることは、体液サンプル中に目的の心臓バイオマーカーが存在することを示し、電気化学的インピーダンスの変化が無いことは、体液サンプル中に目的の心臓バイオマーカーが存在していないことを示している。
【0017】
電気化学的インピーダンス信号は、読み出し値に変換することができる。電気化学的インピーダンス信号は、読み出し値を表示するのに有効なハンドヘルドデバイスのようなポータブルデバイスに接続することができる。
【0018】
検出デバイスは試験ストリップの形態とすることができ、上記方法は、体液サンプルを試験ストリップに接触させるステップと、試験ストリップに対する視覚的変化を評価するステップと、視覚的変化をチャートまたはキーと相関させるステップと、前記相関に基づいて、視覚的変化が、電気化学的インピーダンスの変化の存在および体液サンプル中の心臓バイオマーカーの存在を示しているか否かを判定するステップとを含むことができる。視覚的変化は色彩の変化であってもよい。
【0019】
導電性物質界面の表面の研磨は、約320グリット~約2400グリットの範囲の表面粗さを提供するように行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の更なる理解は、添付の図面と併せて読むことにより、好ましい実施形態の以下の説明から得ることができる。
【
図1】
図1は、本発明の特定の実施形態において、3種類の研磨グリットに曝された直径の異なるプラチナワイヤからなるプラチナ電極について、Ptワイヤ対電極およびAgワイヤ参照電極を用いて実施されたサイクリックボルタモグラムおよび電気化学的インピーダンス分光法(EIS)試験のナイキスト解析を示している。
【
図2】
図2は、本発明の特定の実施形態において、研磨5μmおよび直径0.5mmのプラチナ作用電極、Agワイヤ参照電極およびPtワイヤ対電極を用いて、10mMのPBS中の5mMの(Fe(CN
6)
3-/4-)において実施されたEIS試験のナイキスト解析を示している。
【
図3】
図3は、本発明の特定の実施形態において、プラチナワイヤの異なる直径で3種類の研磨グリットのプラチナベースのアプタセンサについての、濃度の関数としての電荷移動抵抗の平均変化率および標準誤差を表した検量線を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、例えば、アテローム性動脈硬化症および/または心臓組織の炎症および/または心筋梗塞および/または心臓機能不全の発症を知らせる、血液などの体液中に存在する少なくとも1の心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による検出およびスクリーニング、または複数の心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による同時検出およびスクリーニングのためのマルチアレイのインピーダンス測定による垂直配向プラチナ・アプタセンサに関する。より具体的には、本発明は、例えば定量的に、抗体のアプタセンサへの結合時に生じるインピーダンス変化を測定することにより、最小量の血液、例えば数滴の血液中に存在する心臓バイオマーカーの濃度を電気化学的に検出する電気化学的アッセイを含む。さらに、本発明は、対象とする標的分析物に特異的および選択的に結合するアプタセンサを合成し、合成したアプタセンサを利用して患者の筋細胞の負荷および損傷を検出および診断する方法を含む。
【0022】
アプタセンサは、1またはそれ以上の心臓バイオマーカーのインピーダンス検出のために患者から採取した体液サンプルを利用するin-vitro(ex-situ)デバイスである。インピーダンスの変化は、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を用いて測定され、この分光法は、解釈可能な読み出し値に変換される、抗原へのアプタマーの結合から生じる電気化学的インピーダンスの変化を可能にする高感度のラベルフリー技術である。すなわち、アプタセンサは、抗原に結合した後に起きるインピーダンス変化を測定することによって、最小量の血液中に存在する心臓バイオマーカーの濃度を電気化学的に検出する。
【0023】
本明細書および特許請求の範囲で使用される「a」、「an」および「the」の単数形は、文脈中にそうでないことの明示がない限りは、複数の指示対象を含み得る。
【0024】
一般に、本発明において、アプタマーは、対象流体サンプル中に特定の検体/バイオマーカーが存在するか否かを検出するために利用される生物学的検出(検知)物質の一形態である。本明細書で使用される「アプタマー」という用語は、目的の標的化合物または分子(例えば、検体)に対する特異的かつ選択的な結合親和性を有し、目的の標的化合物または分子と複合体を形成することができるオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチド鎖を指している。複合体形成は、標的に付随し得るその他の物質がアプタマーと複合体を形成しないという意味で標的特異的である。複合体形成および親和性は程度の問題であると認識されているが、この文脈では、「標的特異的」は、アプタマーが、混入物質に結合するよりも遥かに高い親和性で標的に結合することを意味する。本明細書中で使用される「結合」という用語は、目的の標的化合物または分子とアプタマーとの間の相互作用または複合体形成を指している。目的の標的化合物または分子に対する特異的結合アッセイにおいてアプタマーを用いることにより、アプタマーを診断に使用することができる。
【0025】
本明細書中で使用される「バイオマーカー」は、生物において生じる疾患状態の指標または正常または病理学的過程の指標となる、天然に存在する化合物または合成化合物を指している。本明細書で使用される「検体」という用語は、分析手順において測定することができる、化学物質および生物学的物質を含む任意の物質を指す。本明細書で使用される「体液」という用語は、患者から得られた分子の混合物を指している。体液は、呼気、全血、血漿、尿、精液、唾液、リンパ液、髄膜液、羊水、腺液、喀痰、糞便、汗、粘液および脳脊髄液を含むが、これらに限定されるものではない。体液には、組織および生検標本のような均質化した固体材料を含む、上記溶液または混合物すべての試験的に分離した画分も含まれる。本発明によれば、バイオマーカーおよび/または検体は、それに限定されるものではないが、微量の血液などの体液中で検出可能である。
【0026】
「アレイ」は、意図的に作成された分子の集合体である。アレイ中の分子は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
本発明のシステム(例えば、バイオセンサ)および方法は、少なくとも1の生物学的センサ物質および少なくとも1のシグナル媒介因子を含むことができ、1または複数の生物学的センサ物質および1または複数のシグナル媒介因子は協働して、血液などの体液中の目的の標的化合物を検出、シグナル媒介および/または定量する手段を提供する。生物学的センサ物質は、標的検体/バイオマーカー分子(のみ)と特異的かつ選択的に相互作用および結合する能力によって選択される。本発明によれば、生物学的センサ物質は、導電性物質界面の表面に付着される。生物学的センサ物質は、導電性物質界面の表面の機能化によって導入することができる。生物学的センサ物質は、導電性物質界面に直接的に付着させることができ、或いはそれに限定されるものではないないが、タンパク質などのリンカー分子を用いて間接的に付着させることができる。導電性物質は、エポキシ基板内にキャスティングされた垂直配向のプラチナワイヤのマルチアレイである。生物学的センサ物質はアプタマーの形態である。例えば、アプタマー結合タンパク質は、導電性物質界面の表面上に固定化することができる。アプタマーは、シグナル媒介因子、例えば、電気化学的インピーダンス信号にコンジュゲートすることができる。シグナル媒介因子は、予め選択された条件下で、例えば、目的の検体/バイオマーカーにアプタマーが結合した後に検出可能である。本発明によれば、シグナル媒介は、アプタマーが目的の検体/バイオマーカーと結合したときの、インピーダンスの変化に関連する。プラチナワイヤの一端は、電気化学的インピーダンス信号を解釈可能な読み出し値に変換するための接点を提供する。
【0028】
特定の実施形態において、本発明は、バイオセンシング面のための導電性物質界面およびプラットフォームとしてプラチナワイヤを利用する。固定化された生物学的センサはプラットフォームに付着される。固定化された生物学的センサは、アプタマー、例えば、ビオチン化アプタマーと、固定化物質とを含む。さらに、シグナル媒介因子は電気化学的インピーダンス信号を含む。アプタセンサは、体液、それに限定されるものではないが、主に血液において、心血管疾患(CVD)を予測する様々な心臓マーカーを検出して、CVDに対する患者のリスク状態を判定するように調整される。体液のサンプルは、例えば、数滴(例えば、約1-5滴)の血液など、微量であってもよく、判定は、例えば、数分~5分程度の比較的短い時間で得ることができる。心臓マーカーは、C反応性タンパク質、クレアチニンキナーゼ、トロポニンT、ミオグロビン、IL-6、IL-18、脳性ナトリウム利尿ペプチドおよびDダイマーを含むことができる。脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は筋細胞負荷の指標であり、トロポニンT(TnT)は筋細胞損傷の指標である。これに対して、CVDを検出するための既知のシステムは、磁気共鳴イメージング(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、心電図(ECG)および冠状動脈や脳血管の血管造影のような侵襲的技術を含む。血液検査に焦点を当てたシステムでは、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)およびラテラルフローデバイス(LFD)を用いることができる。これらの分析および検出デバイスは、高価な機器、適切な分析のために非常に習熟し訓練を受けた人材、付随するリスクおよび膨大な処理時間を伴い、その時間には、アッセイの期間などの分析時間と、書類作成、サンプルの描画、サンプルのラベリングおよび膨大な準備時間を伴う分析前時間とが含まれる。本発明に係るマルチアレイ・アプタセンサは、ポータブル式のポイントオブケア・オンデマンドデバイスを提供し、このデバイスは、高価な機器や高度な訓練を受けた専門家が存在しない状況においても、例えば数分の短い期間で、患者のベッドサイドで血液中の心臓マーカーのレベルを評価するために利用することができる。これらのアプタセンサの使用は、多くの技能や訓練を必要としないため、簡素で容易な検出方法を提示する。
【0029】
さらに、既知のインピーダンス測定デバイスは、抗体および酵素を検出エレメントとして利用し、プラチナが、カーボンナノチューブ/ナノコンポジット、グラフェン、キトサン、シリカ、ポリマーまたは金などのその他の物質界面とともに使用される。これとは対照的に、本発明に係るマルチアレイ・アプタセンサは、物質界面としてプラチナのみを利用する。
【0030】
本発明に係るマルチアレイ・アプタセンサの合成には、適切なリンカーおよびタンパク質を使用して、心臓マーカーに特異的なアプタマーをプラチナワイヤの表面に固定化することが含まれる。プラチナワイヤのアレイ、例えば垂直に配向されたものは、例えば円形の形状またはパターンで、エポキシモールドに埋め込まれ、エポキシモールドの表面が、表面露出のために、例えば約50nmまで研磨される。その後、表面を、アミノチオールのようなチオールベースの化合物で処理することができ、そのような化合物には、システインおよび/またはグルタルアルデヒドが含まれるが、それらに限定されるものではない。その上には、アビジンなどの固定化物質が吸着される。1またはそれ以上のアプタマーは、ビオチンとコンジュゲートされる。上述した心臓マーカーのためのビオチン化アプタマーは、固定化物質と相互作用して、バイオセンシング面を形成する。処理物質および固定化物質の適用、並びに、ビオチン化アプタマーの相互作用は、バイオセンシング面を作り出すために、順次行うことができる。前述したように、アプタマーは、指定された抗原に対して高度に特異的なオリゴヌクレオチド配列であるという点で、抗体と類似している。しかしながら、抗体とは異なり、アプタマーは変性および再生することができる。すなわち、アプタセンサは特定の溶媒の存在下で再生することができ、よって(商業的に知られているグルコースセンサにおけるような)1回の検出ではなく、潜在的に連続的な使用のための再使用可能な再生式センサを提供することができる。したがって、アプタマーは、長期保存が可能でより強力であり、より重要なことには、1回限りの単回使用アッセイではなく、アプタマーを再使用可能にすることができる。
【0031】
センシングエレメント上の標的マーカーの化学的相互作用により生じるセンシングエレメントの出力の変化を測定するために、電気化学的センサを使用することができる。本発明においては、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)が、作成の様々な段階でアプタセンサの表面を特性評価するために利用される技術、例えばセンサエージェントである。EISは、抗原へのアプタマーの結合に起因する電気化学的インピーダンスの変化を可能にする、非常に感度が高くラベルフリーの技術である。電気化学的インピーダンスは、読み出し値に変換することができる。このため、アプタセンサは、抗原がアプタセンサに結合する際に生じるインピーダンス変化を測定することによって、最小量の血液中に存在する心臓バイオマーカーの濃度を電気化学的に検出することができる。心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による検出は数分以内で行うことができ、その目的のためにアプタセンサを複数回再使用することができる。
【0032】
本発明によれば、垂直に配向された修飾プラチナワイヤベースのアプタセンサが、心臓マーカーのインピーダンス測定による検出のために提供される。アプタセンサは、エポキシ内に直立プラチナワイヤをキャスティングすることによって合成される。ワイヤは、様々な構成およびパターンでキャスティングすることができる。特定の実施形態では、ワイヤは円形パターンでキャスティングされる。ワイヤの直径は変えることができ、約0.25mm~約1.0mmの範囲とすることができる。特定の実施形態では、直径が約0.25mm、約0.5mmまたは約1.0mmである。
【0033】
ワイヤの一方の端部はエポキシ中にキャスティングされ、他方の端部には、固定化されたアプタマーが取り付けられる。すなわち、ワイヤは機能化および電気的接続を確立するために利用される。
【0034】
得られたプラチナ電極は、これに限定されるものではないが、炭化ケイ素(SiC)のような研磨媒体を用いて、様々な異なるグリットに研磨され、心臓バイオマーカーに特異的なアプタマーを表面に結合するように機能化される。表面粗さは変えることができ、例えば、研磨グリットのサイズは、約320グリット(例えば、約50μm)から約2400グリット(例えば、約50nm)の範囲とすることができる。特定の実施形態において、グリットサイズは、約320グリット、約1200グリット(例えば、約5μm)または約2400グリットである。なお、理想的なワイヤ直径および研磨グリットを決定するために、心臓バイオマーカーの様々な臨床的に関連する濃度に対してインピーダンス測定デバイスを試験できることが予期および理解される。
【0035】
本発明の特定の実施形態では、アプタセンサが、約1200グリット(例えば、5μm)のサイズに研磨された直径0.5mmのワイヤを利用する。
【0036】
電気化学的インピーダンス分光法(EIS)は、1またはそれ以上の心臓バイオマーカーのインピーダンス測定による検出の一方法として利用することができる。
【0037】
インピーダンス測定によるバイオセンサは、既知のCVDのバイオセンサと比較して、高感度、低コスト、迅速な分析および小型化が可能、およびラベルフリーであるという特徴および利点の1またはそれ以上を提供し、それによりバイオセンサ作成の複雑さを大幅に低減する。
【0038】
プラチナワイヤを機能化するための様々な従来のメカニズム、例えば、それに限定されるものではないが、結合物質をその上に吸着することを含む、アプタマーをそれに付着させるためのメカニズムが存在する。結合物質は、特定のアプタマーに結合するその能力に基づいて選択される。適切な結合物質の非限定的な例には、アビジン、ストレプトアビジンおよびニュートラアビジンが含まれる。特定の実施形態では、ニュートラアビジンが好ましい。さらに、アビジンに結合するアプタマーは、標的バイオマーカーと相互作用するその能力に基づいて選択される。適切なアプタマーの非限定的な例には、それに限定されるものではないが、本明細書に記載のもの、例えば、BNPおよびTnTのような心臓バイオマーカーのために特に選択されたビオチン化アプタマーが含まれる。すなわち、アビジンがプラチナワイヤの表面に固定化され、このアビジンにビオチン化アプタマーが結合する。
【0039】
ビオチン化のプロセスは、一般に、ビオチンをタンパク質、核酸またはその他の分子に共有結合させることを含む。ビオチンはアビジンと高親和性で結合することが知られている。アプタマーは、従来のプロセスおよび装置を用いて化学的または酵素的にビオチン化することができる。
【0040】
特定の実施形態では、プラチナワイヤのマルチアレイをエポキシ基板内に埋め込み、エポキシ基板の表面を研磨し、エポキシ基板の表面上のワイヤをアビジンで処理し、続いてビオチン化アプタマーで処理する。ビオチン化アプタマーは、ビオチン化タンパク質を含むことができる。特定の実施形態では、ビオチン化アプタマーが、心臓バイオマーカーと相互作用するその能力に基づいて選択される。すなわち、BNPおよびTnTアプタマーは、BNPおよびTnTバイオマーカーと相互作用するようにそれぞれ選択することができる。これらの心臓バイオマーカーは、例えば、筋細胞の伸張または損傷または死の結果として、体液、例えば血液中に放出される。
【0041】
本発明に従って作成されたバイオセンサは、ex-situバイオセンサとして機能することができる。ハンドヘルドデバイスのようなポータブル(例えば、ポイントオブケア、オンデマンド)デバイスを作成することができる。バイオセンサとともに用いることができるハンドヘルドデバイスを製造するための当該技術分野において知られた様々なメカニズムが存在し、それらは本発明のバイオセンサとともに使用するのに適している。特定の実施形態では、電気化学的インピーダンス信号が読み出し値に変換され、読み出し値がハンドヘルドデバイスに表示される。ハンドヘルドデバイスは、電子デバイスとすることができる。代替的には、ハンドヘルドデバイスは、例えば、当該技術分野で知られている従来のグルコースセンサと同様の試験ストリップを含むことができる。通常、試験ストリップに表示される結果を解釈するために使用される、対応する標準チャートまたはキーが存在する。これらの実施形態では、体液サンプル、例えば数滴を試験ストリップに与えることにより、あるいは体液サンプル中に試験ストリップを浸漬する/浸すことにより、試験ストリップが患者の体液サンプルと接触される。その後、試験ストリップは、サンプルとの接触に基づく、色彩の変化などの目に見える変化があるか否かを判定するために、視覚的に観察または検査される。色彩の変化などの視覚的変化の単なる存在が、電気化学的インピーダンスの変化、すなわち体液サンプル中の心臓バイオマーカーと試験ストリップ中のアプタマーの結合を示し、よって目的の心臓バイオマーカーのサンプル中における存在を示す。さらに、対応するキーまたはチャートは変化の程度または変化の強度を含むことができる。試験ストリップ上の視覚的変化の程度または強度は、電気化学的変化の特定の量および対応するサンプル中の目的の心臓バイオマーカーのレベルに相関する。同様に、試験ストリップに視覚的変化がないことは、患者の体液サンプル中に目的の心臓バイオマーカーが存在しないことを示す。
【0042】
例えば、本発明の特定の実施形態によれば、体液サンプル、例えば血液が、患者から採取または除去される。さらに、サンプルは、患者が採取または除去することができる。サンプルの少なくとも一部は、一定時間、例えば、数秒または数分間、試験ストリップ上に置かれ、試験ストリップの少なくとも一部分の色彩の変化が、試験ストリップ、すなわちバイオセンサと、サンプル中の心臓バイオマーカーとの相互作用に基づいて、視覚的に観察される。サンプル中の心臓バイオマーカー、例えばBNPおよび/またはTnTのレベルを判定するために、特定の色彩および/または色彩変化の強度が、キーと比較されてマッチングされる。バイオセンサの視覚的変化に基づいて、心臓バイオマーカーの存在の有無または具体的な濃度が効率良く正確に測定される。応答時間は数分または数秒であり、その結果は、医療従事者、検査機器および医療施設を必要とせずに、患者が家庭内環境で得ることができる。
【0043】
このため、本発明に係るインピーダンス測定によるバイオセンサは、例えば、ベッドサイド、救急車内、あるいは診察中においても、心臓バイオマーカーの検出に有用なスクリーニングデバイスとして、すなわちCVDの診断に有用なスクリーニングデバイスとして使用することができる理想的なポータブル診断技術、例えば、ポイントオブケア・オンデマンド診断技術である。
【0044】
さらに、本発明によれば、(i)再使用可能なアプタマーに基づく電気化学的アッセイ、(ii)単一の環境での複数の心臓バイオマーカーの検出、(iii)ハンドヘルドモデル変換に修正可能、といった特性を示すインピーダンス測定バイオセンサが提供される。
【0045】
本発明に係るポイントオブケア・ハンドヘルド・アプタセンサは、患者が自身の心臓バイオマーカーを頻繁に検出および測定することを可能にし、よって個人のCVDリスクを評価し、様々なライフスタイルの変化がそのリスクをどのように低減できるのかをモニタリングすることを可能にする。さらに、アプタセンサは、安価であり、例えば、現在市販されている血液ベースのグルコースバイオセンサの価格と同程度である。さらに、グルコースバイオセンサおよび心臓バイオマーカー検査のための既存の保険法を、費用の全額または一部還付のために、アプタセンサに容易に適用することができる。このため、患者は、手頃に、日常的にかつ迅速に自身の心臓バイオマーカーを検出および測定することができる。
【0046】
緊急治療室の環境では、ターンアラウンドタイムの最小化が実現され、それによりリソースのより効率的な分配と患者のより効果的なケアの提供が可能になる。例えば、診断時間を短縮することにより、入院決定に必要な時間を短縮することができ、よって患者に対する迅速なケアの管理を確実にすることができる。さらに、診断時間を短縮することにより、比較的軽度の状態の患者に、より高価で不必要なリソースが割り当てられないようにすることもできる。
【0047】
特定の実施形態では、患者の電子カルテへのバイオマーカーレベルの無線送信を可能にするために、無線チップでアプタセンサを調整することができる。それにより、必要な書類仕事の量を減らし、医師がバイオマーカーのレベルの傾向を直接観察して、不安定な患者のCVDの状況を早期に検出することを可能にする。全体的な健康管理システムの環境では、アプタマーによって、最終的にはイムノアッセイのための抗体をアプタマーに置き換えることが可能になる。
【0048】
なお、本明細書に記載の実施形態および以下に示す実施例は、例示のみを目的としており、その観点から、様々な修正または変更が当業者に示唆されているが、それらは本出願の主旨または範囲内に含まれることを理解されたい。
【実施例0049】
本発明では、心臓マーカーBNPおよびTnTを検出するためのインピーダンス測定による垂直配向プラチナワイヤベースのアプタセンサを作成し、パラメータ(具体的には、ワイヤの直径および表面研磨)の評価を行った。様々な直径の直立したプラチナワイヤをエポキシ中にキャスティングして、一方の端部を機能化に利用し、他方の端部を電気的接続の確立に使用した。得られたプラチナ電極を種々の異なるグリットに研磨し、機能化してBNPおよびTnTに特異的なアプタマーをその表面に結合させ、BNPおよびTnTの種々の臨床的に関連する濃度について試験し、バイオセンサおよび医療デバイス作成に理想的なパラメータ(ワイヤ直径および研磨グリット)を決定した。
【0050】
1.実施例
3種類の表面研磨(50μm、5μm、50nm)および3種類のプラチナワイヤ直径(0.25mm、0.5mm、1.0mm)を特徴付け、機能化した後、臨床的に関連する濃度のBNPおよびTnTについて試験し、精度や感度を損なうことなくBNPとTnTを検出するのにどのパラメータが最適であったのかを評価した。垂直に配向されたプラチナワイヤアレイの理想的なパラメータは、5μmに研磨された直径0.5mmのワイヤであることが分かった。すなわち、作成されたプラチナアプタセンサの実現可能性、およびアプタセンサに必要な理想的なパラメーターが実証された。
【0051】
2.試験手順
2.1.試薬
フェロシアン化カリウムおよびフェリシアン化カリウムはFisher Scientific社から購入し、システアミンはAcros Organics社から購入し、グルタルアルデヒドはSigma-Aldrich社から購入し、アビジンはThermo-Fisher Scientific社から購入し、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびトロポニンT(TnT)ビオチン化アプタマーは、OTC Biotech社から購入し、脳ナトリウム利尿ペプチド抗原はABDSerotec社から購入し、トロポニンT抗原はLeeBio社から購入した。すべての水溶液を、Lonza社から購入したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはMillipore脱イオン水(18MΩcm-1)の何れかにおいて調製した。
【0052】
2.2.電極の準備
非導電性エポキシ樹脂ディスク(Buehler社)に、垂直に配向したプラチナワイヤ(直径0.25mm、直径0.5mm、直径1.0mm、金属基準で99.9%、Alfa Aesar社)を円形のパターンでキャスティングし、320グリットの炭化ケイ素紙(Allied High Tech Products社)で50μmに、1200グリッドで5μmに、2400グリッドで50nmにそれぞれ研磨した。電気化学的特性評価および機能化の前に、得られたディスクを脱イオン水、続いて95%EtOH中でそれぞれ5分間、超音波処理した。
【0053】
2.3.電気化学的特性評価
参照電極として銀ワイヤ、対電極としてプラチナワイヤを用いて、10mMPBS中の5mMフェロ/フェリシアン化カリウム酸化還元対(Fe(CN6)3-/4-)の電解質溶液において、GamryシリーズGポテンシオスタットを使用してすべての電気化学的特性評価を行った。電極の特性評価のために、サイクリックボルタンメトリー(CV)試験および電気化学的インピーダンス分光法(EIS)試験の両方を行い、機能化および抗原結合評価のために、各ステップの後にEIS試験を行った。走査速度100mV/sで、-0.4V~0.6Vの電位範囲にわたってCV試験を行い、AC振幅電圧10mVrmsで、300,000Hz~0.01Hzの周波数範囲にわたってEIS試験を行った。Z-view(Scribner Associates社)を使用して、得られたナイキスト線図を分析し、電荷移動抵抗値を求めた。
【0054】
2.4.電極の機能化
プラチナ電極を、脱イオン水中で調製した10mg/mLのシステアミンにより、室温で1時間処理した後、表面チオール化およびカルボキシル化のために、室温で1時間、水中において25%のグルタルアルデヒドにより処理した。その後、表面を、10mMのPBS中で調製した1mg/mLのニュートラアビジンにより室温で2時間処理し、続いてビオチン化アプタマーとともにインキュベートした(室温で2時間)。その後、電極を使用時までPBS中に4℃で保存した。
【0055】
2.5.抗原試験
BNPおよびTnTの両方について、それぞれ心血管疾患の低リスクから高リスクの臨床範囲内の4種類の濃度で調製した。BNP-アプタマーバイオセンサを、0.2ng/mL、0.6ng/mL、1.0ng/mL、2.0ng/mLのBNPで順次処理し、TnT-アプタマーバイオセンサを0.005ng/mL、0.01ng/mL、0.02ng/mL、0.04ng/mLのTnTで順次処理し、それにより、将来のバイオセンサ試験のための検量線を作成した。検量線の作成のために、各抗原のインキュベート後にEIS測定を行った。
【0056】
3.結果と考察
3.1 電極パラメータの特性評価
垂直に配向されたプラチナワイヤ電極の3枚のディスク-直径0.25mm、直径0.5mm、直径1.0mmのプラチナワイヤ電極-を用意し、各ディスクを50μm、5μm、50nmのグリットまで研磨した。すなわち、合計9個のパラメータについて、特徴付け、機能化、抗原検出の試験を行った。9個の可能性のあるパラメータに対する裸のプラチナ電極の電気化学的特性評価は(
図1に示すように)、直径の増加が(
図1のa-cに示すように)電極を通る電流通路を増加させ、よって(
図1のd-fに示すように)電荷移動抵抗を減少させることを実証した。電極の直径が増加するに連れて、ピーク電流が集まる傾向があるが、これは研磨が電流通路に与える影響がより少ないことを証明している。しかしながら、50μmの研磨された電極は常に最も高いピーク電流を有するのに対して、5μmは常に最も低いピーク電流を有していた。50μmの研磨された電極は最も低い電荷移動抵抗を有し、5μmの研磨された電極は最も高い電荷移動抵抗を有していた。研磨それぞれの電荷移動抵抗の範囲は減少したが、研磨間、特に50μmと5μmとの間には実質的な差異があった。これにより、サイクリックボルタンメトリーのような既知の技術と比較して、非常に感度の高い技術としてEISが確立された。
【0057】
3.2 バイオセンサの機能化および抗原検出
試験のいずれの段階でもEIS特性評価から得られたすべての電荷移動抵抗は、
図2aに示す等価回路に適合しており、同図は、2つのCPE(Constant Phase Element)成分とともに、直列の溶液抵抗(フェロ/フェリシアン化物電解質による)を示し、各CPE成分が抵抗成分と平行になっている。CPE成分は、電極の電解質への曝露を示す電気化学的な二重の層の結果であり、それにより2つの平行な電荷の層、すなわち、表面上の化学的相互作用から生じる表面電荷である第1の層と、表面電荷に引き付けられているが表面電荷に緩く結合されているイオンである(拡散層として知られている)第2の層とが形成された。各CPE-R
ct回路は、内層または外層として示されており、内層はナイキスト線図の半円形部分であり、外層はナイキスト線図の第二部分であり、これはプロットの更なる外挿で第二の半円形を示すものとなる。内層は目的の化学的相互作用を示す一方、外層はイオンと電極/バイオセンサのその他の電荷層との可能性のある相互作用を示している。
図2bは、センサエレメント(アプタマー)をプラチナ電極表面に結合させるのに必要な複数の化学的相互作用を実証している。システアミン、グルタルアルデヒド、アビジンおよびアプタマーを順次加え、続いて(緩衝液として機能するとともに、抗原検出試験のための0.00ng/mLの基準値として機能する)PBS中に保存した。各成分がバイオセンシング表面に添加されるに連れて、電荷移動が増加し(
図2b)、アビジン結合が、システアミン、グルタルアルデヒドおよびアプタマーと比較して相対的にサイズが大きいことに起因して、前の層からの電荷移動抵抗の最大変化を示した。バイオセンサの準備が整ってから、BNP(
図2c)およびTnT(
図2d)の4種類の臨床的に関連する濃度について、バイオセンサを抗原検出について試験した。抗原濃度が増加するに連れて、電荷移動抵抗が増加した。これは、バイオセンサの表面上のアプタマーに結合する抗原が増加するに連れてインピーダンスが増加すること、それにより、濃度を電気化学的に電荷移動抵抗値として定量化できることを示している。
【0058】
3.3 バイオセンサパラメータの検量線の直線性および再現性
EISによりBNPおよびTnT抗原検出の両方について9個のパラメータのすべてを電気化学的に試験した後、BNP(
図3a-c)およびTnT(
図3d-f)の両方の各パラメータについて検量線を決定するために、各抗原の電荷移動抵抗値とベースライン電荷移動抵抗値との間の変化率を計算し、それを濃度に対してプロットした。これらの臨床的に関連するレベルにおける飽和は、これらの重要な濃度でのバイオセンサの感度の欠如を示している。しかしながら、直線性は、重要な濃度範囲内の検出に、場合によってはその範囲外の検出にもバイオセンサが成功することを示している。標準誤差(n=3)は、各パラメータで各濃度について計算され、より小さい標準誤差が精度および再現性を示し、より大きな標準誤差が電極間の不一致を示している。したがって、BNPとTnTの両方について優れた直線性と精度を示したパラメータが理想的なパラメータであると考えられる。直径0.25mmでは、BNP(
図3a)については1つのパラメータ(50nm)を除いてすべて飽和し、TnT(
図3d)についてはすべてのパラメータが飽和する。直径0.5mmでは、BNPについては50μmおよび5μmの両方とも直線性を示したが、濃度と電荷移動抵抗の変化率との間の相関は、5μm(R
2=0.98)よりも、50μm(R
2=0.89)の方が小さかった。TnT(
図3e)においては5μmを除く全てのパラメータが飽和し、5μmの検量線は優れた相関(R
2=0.98)を有していた。直径1.0mmでは、BNP(
図3c)およびTnT(
図3f)の両方についてすべてのパラメータが飽和した。したがって、理想的なパラメータは、5μmに研磨された0.5mmのワイヤであることが見出された。このパラメータは、表面が粗いほど(50μm)表面積が大きくなるため滑らかな表面(50nm)よりもタンパク質の付着が良好となる傾向があるが、表面が粗いほどタンパク質変性もより大きくなる可能性がある(Rechendorff 2006、Dolatshahi-Pirouz 2008)という事実から、理想的である可能性がある。したがって、これら2つのスペクトル間にある表面が、理想的(5μm)であろう。同じ妥協点をワイヤの直径にも拡張することができ、より小さい直径(0.25mm)は結合面積を減少させる一方、より大きい直径(1.0mm)は結合面積を大きくするが、表面上の不一致または欠陥を示す可能性も高くなる(Nishida 1992、Van Noort 2013)。したがって、中間の直径(0.5mm)が理想的であった。
【0059】
4.結論
要約すると、単純化した直立プラチナワイヤベースのマルチアレイのインピーダンス測定バイオセンサは、筋細胞負荷(BNP)および筋細胞損傷(TnT)を示す指標を検出するのに有効であった。この単純化した設計はラベリングを必要とせず、費用対効果が高く、また、その後に縮小および小型化されても、高価で複雑な機器を必要としない。効果的かつ一貫した検出を達成するのに理想的なパラメータは、5μmに研磨された0.5mmのプラチナワイヤであることが見出された。