(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126778
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】ポリマー及びテルビナフィンから形成されるナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20220823BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220823BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220823BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220823BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220823BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220823BHJP
【FI】
A61K31/137
A61P31/10
A61K47/10
A61K47/34
A61K9/08
A61K9/12
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022100251
(22)【出願日】2022-06-22
(62)【分割の表示】P 2019572203の分割
【原出願日】2018-06-28
(31)【優先権主張番号】1710491.0
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】515285475
【氏名又は名称】ブルーベリー セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】リッデン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】リッデン クリスティン キャロライン
(72)【発明者】
【氏名】クック デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】クック ジュリー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】爪真菌症及び/又は足白癬の処置に使用するための組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、このナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、当該組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される組成物を提供する。本発明は、当該組成物と、予め規定された量の当該組成物を使用者の足の足指及び/又は指趾間部及び/又は前面に分配するための液体分配装置との組み合わせも提供する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪真菌症及び/又は足白癬の処置に使用するための組成物であって、前記組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、前記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、前記組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される組成物。
【請求項2】
感染領域への前記テルビナフィンの1日用量が約10μg~約40μgの範囲である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
感染領域への前記テルビナフィンの1日用量が約15μg~約35μgの範囲である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
感染領域への前記テルビナフィンの1日用量が約20μg~約30μgの範囲である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
感染領域への前記テルビナフィンの1日用量が約25μgである請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
スプレー塗布によって投与される請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記1日用量が1回以上のスプレー塗布を用いて投与される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記1日用量が8回までのスプレー塗布を含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記1日用量が5回までのスプレー塗布を含む請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記スプレーが、足又は手の指及び/又は指趾間部及び/又は前面を被覆するのに有効である請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
(a)約0.005%w/w~約1%w/wの範囲の量で存在するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(b)ナノ粒子を形成することができるポリマー及びテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩であって、前記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、前記ポリマーは、約0.015%w/w~約3%w/wの範囲の量で存在するポリマー及びテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(c)約30%w/w未満のアルコール、並びに
(d)最大約90%w/wの水
を含む請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
(a)約0.025%w/w~約0.2%w/wの範囲の量で存在するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(b)約0.75%w/w~約0.6%w/wの範囲の量で存在するポリマー、
(c)約20%w/w~約29%w/wの範囲の量で存在するアルコール、及び
(d)約70%w/w約90%w/wの範囲の量で存在する水
を含む請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
(a)約0.1%w/wのテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(b)約0.3%w/wのポリマー、
(c)約20%w/wのアルコール、及び
(d)最大約79.6%w/wの水
を含む請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ポリマーが、直鎖状及び/若しくは分枝状若しくは環状のポリモノグアニド/ポリグアニジン、ポリビグアニド、これらの類似体又は誘導体を含む請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記ポリマーが、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記アルコールがエタノールを含む請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
緩衝液、賦形剤、結合剤、油、水、乳化剤、グリセリン、酸化防止剤、防腐剤、香料及び尿素、のうちの1以上をさらに含む請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
他の成分を実質的に含まない請求項1から請求項16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1から請求項6及び請求項10から請求項18のいずれか一項に記載の組成物と、予め規定された量の前記組成物を使用者の足の足指及び/又は指趾間部及び/又は前面に分配するための液体分配装置との組み合わせであって、前記装置は、前記組成物を収容する容器、前記容器から前記組成物を放出するためのノズル、並びに予め規定された量の前記組成物を前記容器から引き出してそれを前記ノズルを介して放出し、これにより前記組成物を使用者の足の足指及び/又は指趾間部及び/又は前面に向けて霧化するための使用者により操作可能なポンプ作用機構を備える組み合わせ。
【請求項20】
前記装置が、予め規定された量の前記組成物が分配される際に通る定量弁をさらに含む請求項19に記載の装置。
【請求項21】
予め規定された量の前記組成物が、最大約200μlを含む請求項19又は請求項20に記載の装置。
【請求項22】
予め規定された量の前記組成物が、最大約150μlを含む請求項21に記載の装置。
【請求項23】
予め規定された量の前記組成物が最大約100μlを含む請求項22に記載の装置。
【請求項24】
予め規定された量の前記組成物が約100μlを含む請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記装置が、前記使用者が前記感染領域に対して前記装置の前記ノズルを置くべき正しい距離を示すための距離表示装置をさらに備え、かつ/又は距離表示装置と関係づけられている請求項19から請求項24のいずれか一項に記載の装置。
【請求項26】
使用の際に、前記装置の前記ノズルが前記感染領域の約5cm~15cmの範囲に置かれるとき、前記装置の前記ノズルが、必要とされる用量のすべてを最大約5回の吸い上げで分配することができる請求項19から請求項24のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
使用の際に、前記装置の前記ノズルが前記感染領域の約10cmに置かれるとき、前記装置の前記ノズルが、必要とされる用量のすべてを約5回の吸い上げで分配することができる請求項19から請求項24のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー及びテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む組成物(並びにこのような組成物の製造方法)に関する。このような組成物は、限定はされないが、爪及び/又は皮膚の真菌症の処置に特に好適である。
【背景技術】
【0002】
真菌症は、ヒト及び動物の両方においてますます一般的になっているが、このような感染症の処置は、抗真菌性組成物の毒性、これらの組成物の溶解性の低さ、及び従来の医薬品処方物を使用して到達するのが困難であると判明しうるいくつかの感染症の離れた場所のため、未だ問題が残っている。
【0003】
アンホテリシンB、ハマイシン、フィリピン及びニスタチン等の広範囲の抗真菌薬は、1960年代に見出された。しかし、毒性のため、ハマイシン及びニスタチンだけが局所的に使用され、アンホテリシンBは全身的に使用される。抗真菌治療におけるブレークスルーは、アゾール類、とりわけケトコナゾールの導入であった。現在使用されている抗真菌薬の主要クラスは、ポリエン類、アゾール類、アリルアミン類、リポペプチド類、及びピリミジン類である。しかしながら、ポリエン類は哺乳類細胞にとって毒性がある。アゾール類は、局所的には十分に容認されるが全身的に与えられると副作用を有し、かつアゾール類に対する耐性の報告がいくつか存在する。フルシトシンは、使用される最も一般的なピリミジンである。フルシトシンは優れた組織浸透を有する一方で、フルシトシンに対する耐性が急速に発達し、胃腸への副作用を生じる可能性がある。リポペプチド類は低毒性を呈し、有効性を試験するためにいくつかの臨床試験がまだ進行中である。
【0004】
真菌は真核生物であり、細胞内標的が、もし乱されれば、宿主細胞も損傷しうるため、新しい抗真菌薬の開発は制約される。真菌症の増加及び抗真菌薬の使用の増加は、真菌に耐性の発生をもたらした。真菌性疾患は免疫不全患者の罹患率及び死亡率の増加を引き起こしているため、抗真菌薬耐性が与える臨床的影響は大きい。
【0005】
新しく見出された薬物のうちのおよそ40%が、水溶性の問題のため適切に送達できず不首尾に終わると推定されている。薬物の局所送達の場合、皮膚のバリア特性のため、薬物の必要とされる用量を達成するために透過促進剤を必要とすることが多い。
【0006】
爪真菌症(より一般的には爪の真菌感染として知られる)は、爪が肥厚すること、変色すること、外観を損ねること、及び割れることを引き起こす。処置しなければ、その爪は、爪が靴の内部を圧迫し、圧力、刺激作用及び痛みを引き起こすほどに非常に厚くなる可能性がある。とりわけ糖尿病患者、末梢血管疾患の患者及び免疫不全患者では、さらなる合併症のリスクがある。爪の真菌感染は、心理学的問題及び社会問題を引き起こす可能性がある。爪の真菌感染の発生率は、年齢と共に増加し、60歳以上の人々の約30%という罹患率を有し、欧州ではかなりの発生率であり、アジアではさらに高いレベルにある。爪の真菌感染は、1以上の足の爪及び/又は指の爪に影響を及ぼす可能性があり、未処置のまま放置すると爪を完全に破壊する可能性がある。
【0007】
爪の真菌感染に対する現在の処置は、6~12ヵ月間の週に1~2回の局所用爪ラッカー/ペイント(アモロルフィン等)、及び/又は経口抗真菌薬(テルビナフィン又はイトラコナゾール等)である。経口抗真菌薬は、消化器不調等の重篤な副作用を有する可能性があり、さらには肝臓不全を生じる可能性がある。再発は、一般に症例の25~50%で報告されており、多くの患者は、予測される副作用及び処置時間の長さに起因して処置過程を完遂しようとせず、疾患がより悪性になったときだけ処置が始まることが多い。現在の経口処置又は局所処置は、効果を出すのに6~12ヵ月かかることがある。経口処置は、足指に到達するために全身循環を飽和させる必要があり、用量の増加は、胃腸内及び肝臓での合併症のリスクを高める。局所処置は、肥厚した爪に浸透するには効果的ではなく、この点でも高い投薬を必要とする。
【0008】
水虫(このほか、足の白癬、足白癬又はモカシン足として知られる)は、一般にトリコフィトン属(白癬菌属、Trichophyton属)の真菌(最も一般的にはトリコフィトン・ルブルム(T.rubrum)又はトリコフィトン・メンタグロフィテス(T.mentagrophytes))によって引き起こされる皮膚の真菌症である。水虫の原因となる種々の寄生性の真菌は、爪真菌症及び股部白癬等の他の皮膚感染症も引き起こしうる。爪の真菌感染とは異なるものの、水虫も処置の遵守及び継続期間に関する問題を抱える。
【0009】
国際公開第2015/044669号パンフレットは、ナノ粒子を形成することができるポリマーと抗真菌剤とを含む真菌症の処置のための局所組成物(及びこのような組成物の製造方法)を開示する。国際公開第2017/006112号パンフレットは、ポリマー及びテルビナフィンから形成されるナノ粒子を含む抗真菌性組成物であって、このナノ粒子が、0.5~5nmの範囲及び/又は150~250nmの範囲の粒子を含む抗真菌性組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2015/044669号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/006112号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、現在の抗真菌性処置に関連する上記の問題のうちの1以上に対処することである。本発明の1つの目的は、局所的な抗真菌性処置を提供することである。本発明の別の目的は、爪及び/又は真皮を通る抗真菌剤のより良好な浸透を可能にする処置を提供することである。本発明が、爪真菌症及び足白癬の両方に対処するための単一処置として使用することができ、また簡単に適用できて高い治療アドヒアランスを生じ、低再発率を有することができれば、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、爪真菌症及び/又は足白癬の処置に使用するための組成物であって、当該組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、当該組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される組成物が提供される。
【0013】
本発明のさらなる代替の第1の態様によれば、医薬として使用するための、爪真菌症及び/又は足白癬の処置に使用するための組成物であって、当該組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、当該組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される組成物が提供される。
【0014】
本発明のなおさらなる代替の第1の態様によれば、爪真菌症及び/又は足白癬の処置のための組成物の使用であって、上記組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、上記組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される使用が提供される。
【0015】
本発明のさらに別のさらなる代替の第1の態様によれば、爪真菌症及び/又は足白癬の処置のための医薬の製造のための組成物の使用であって、上記組成物は、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含み、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、上記組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量を与えるように局所投与される使用が提供される。
【0016】
本発明のさらに別のさらなる代替の第1の態様によれば、必要とする患者に、ナノ粒子を形成することができるポリマーと、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩とを含む組成物を局所投与することによる爪真菌症及び/又は足白癬の処置方法であって、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、上記組成物は、感染領域への約5μg~約50μgの範囲のテルビナフィンの1日用量で投与される方法が提供される。
【0017】
好ましくは、感染領域への上記テルビナフィンの1日用量は、約10μg~約40μgの範囲である。より好ましくは、感染領域へのテルビナフィンの1日用量は、約15μg~約35μgの範囲である。より好ましくは、感染領域へのテルビナフィンの1日用量は、約20μg~約30μgの範囲である。さらにより好ましくは、感染領域へのテルビナフィンの1日用量は、約20μg~約30μgの範囲である。最も好ましくは、感染領域へのテルビナフィンの1日用量は、約25μgである。
【0018】
用語「1日用量」は、爪真菌症及び/又は足白癬に罹患している個体又は動物の足、手又は肢の指及び/又は指趾間部及び/又は前面の感染領域に局所的に与えられる(塗布される)テルビナフィンの量を意味することが意図されている。個体又は動物の複数の領域が感染している可能性があり、それゆえ当該組成物の別々の用量を必要とする可能性があるということが想定される。
【0019】
この1日用量は、好ましくは、患部が洗浄され又は浸漬されて乾燥された後、朝に施用される。好ましくは、その患部は、最大約8時間は、再度洗浄又は浸漬されない。この1日用量は、朝又は夜に与えられてもよい。
【0020】
当該組成物は、スプレーによって投与されてもよい。爪真菌症及び/又は足白癬に罹患している患者の足又は手又は感染した肢の指及び/又は指趾間部及び/又は前面の実質的に完全な被覆を得るために、1日用量を算出する目的で、当該組成物のスプレーのおよそ50%が患者に塗布されることになり、当該組成物のスプレーのおよそ50%は無駄になり、罹患した肢が置かれている床又は表面を覆うことになると見積もられた。それゆえ、テルビナフィンの1日用量は約25μgであることが最も好ましいものの、当該組成物を感染領域に塗布する場合には、噴霧される用量の中に含有される全用量は、およそ50%の損失を考慮して、所望の用量の2倍の用量であることになる。それゆえ、好ましくは、当該組成物がスプレーによって投与される場合、感染領域に向かって噴霧されるテルビナフィンの量は約20μg~約80μgの範囲ということになる。より好ましくは、当該組成物がスプレーによって投与される場合、感染領域に向かって噴霧されるテルビナフィンの量は約30μg~約70μgの範囲である。さらにより好ましくは、当該組成物がスプレーによって投与される場合、感染領域に向かって噴霧されるテルビナフィンの量は約40μg~約60μgの範囲である。最も好ましくは、当該組成物がスプレーによって投与される場合、感染領域に向かって噴霧されるテルビナフィンの量は約50μgである。
【0021】
当該組成物は、スプレー塗布によって投与されてもよい。1日用量は、1回以上のスプレー塗布を使用して投与されてもよい。1日用量は、最大約10回のスプレー塗布を含んでもよい。あるいは、1日用量は、最大約8回のスプレー塗布を含んでもよい。好ましくは、1日用量は、最大約7回のスプレー塗布を含んでもよい。最も好ましくは、1日用量は、最大約5回のスプレー塗布を含む。スプレー装置により投与されるとき、複数回投与は、単回投与よりも、有利なことに被覆の領域を大きくすることが示されている。
【0022】
スプレーは、爪真菌症及び/又は足白癬を処置できるように、足、手又は肢の感染領域、指及び/又は指趾間部及び/又は前面の全体を覆うのに効果的である必要がある。
【0023】
当該組成物は、
a)約1:2~約1:4の範囲の、ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比、及び
b)最大約30%(v/v)(体積/体積)のアルコール
を含んでもよい。
【0024】
上記ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアニド(PHMG)、ポリエチレンビグアニド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアニド(PTMB)又はポリエチレンヘキサメチレンビグアニド(PEHMB)のうちの1以上を含んでもよい。
【0025】
従って、上記ポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリヘキサメチレンモノグアニド(PHMG)、ポリエチレンビグアニド(PEB)、ポリテトラメチレンビグアニド(PTMB)、ポリエチレンヘキサメチレンビグアニド(PEHMB)、ポリメチレンビグアニド(PMB)、ポリ(アリルビグアニジノ-co-アリルアミン)、ポリ(N-ビニルビグアニド)、ポリアリルビグアニドのうちの1以上の均一又は不均一な混合物を含んでもよい。
【0026】
最も好ましいポリマーは、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む。
【0027】
用語「テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩」は、もともと商標名Lamisil(登録商標)で販売された合成のアリルアミン抗真菌薬であるテルビナフィン塩酸塩に関連する薬学的に活性な物質を意味することが意図されている。この用語は、テルビナフィン塩酸塩の薬学的なバリエーション、誘導体、代替の塩、例えば薬学的に許容できる形態の無毒な有機又は無機の酸若しくは塩基の付加塩も包含することが意図されている。
【0028】
テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約5~約1000μg/ml(約5μg/ml以上約1000μg/ml以下)の範囲の量で処方物中に存在してもよい。好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約5~約600μg/mlの範囲で処方物中に存在してもよい。より好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約25~約200μg/mlの範囲の処方物中に存在することになる。さらにより好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約50~約150μg/mlの範囲で処方物中に存在することになる。最も好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約100μg/mlで処方物中に存在することになる。
【0029】
上記ポリマーは、約15~約3000μg/mlの範囲の量で処方物中に存在してもよい。好ましくは、上記ポリマーは、約15~約1800μg/mlの範囲で処方物中に存在する。より好ましくは、上記ポリマーは、約75~約600μg/mlの範囲で処方物中に存在することになる。さらにより好ましくは、上記ポリマーは、約150~約450μg/mlの範囲で処方物中に存在することになる。最も好ましくは、上記ポリマーは、約300μg/mlで処方物中に存在することになる。上記ポリマーは、好ましくはPHMBを含むことになる。
【0030】
上記アルコールは、約5%~約29%又は約5%~約30%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在してもよい。より好ましくは、上記アルコールは、約10%~約29%又は約10%~約30%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在することになる。さらにより好ましくは、上記アルコールは、約20%~約29%又は約20%~約30%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在することになる。なおより好ましくは、上記アルコールは、最大約25%又は23%(v/v)の量で処方物中に存在することになる。最も好ましくは、上記アルコールは、最大約20%(v/v)の量で処方物の中に存在する。
【0031】
このアルコールは、好ましくはエタノールを含むことになろうが、このアルコールは、(単独で、又は組み合わせて)メタノール又はプロパノール等の他のアルコールを含んでもよい。
【0032】
当該組成物は、水も含んでよい。この水は、好ましくは蒸留水である。この水は、約70%~約95%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在してもよい。好ましくは、上記水は、約70%~約90%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在することになる。より好ましくは、上記水は、約70%~約80%(v/v)の範囲の量で処方物中に存在することになる。なおより好ましくは、上記水は、約77%(v/v)超の量で処方物中に存在することになる。最も好ましくは、上記水は、最大約90%(v/v)、最大約80%(v/v)又は最大約79.6%(v/v)の量で処方物中に存在する。
【0033】
テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約0.005%w/w(重量/重量)~約1.0%w/wの範囲の量で存在してもよい。好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約0.005%w/w~約0.6%w/wの範囲で存在してもよい。より好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約0.025%w/w~約0.2%w/wの範囲で存在することになる。さらにより好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約0.05%w/w~約0.15%w/wの範囲で存在することになる。最も好ましくは、テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩は、約0.1%w/wで存在することになる。
【0034】
上記ポリマーは、約0.15%w/w~約3%w/wの範囲の量で存在してもよい。好ましくは、上記ポリマーは、約0.15%w/w~約1.8%w/wの範囲で存在する。より好ましくは、上記ポリマーは、約0.75%w/w~約0.6%w/wの範囲で存在することになる。さらにより好ましくは、上記ポリマーは、約0.15%w/w~約0.45%w/wの範囲で存在することになる。最も好ましくは、上記ポリマーは、約0.3%w/wで存在することになる。上記ポリマーは、好ましくはPHMBを含むことになる。
【0035】
上記アルコールは、約5%w/w~約29%w/wの範囲の量で存在してもよい。好ましくは、上記アルコールは、約10%w/w~約29%w/wの範囲の量で存在するであろう。より好ましくは、上記アルコールは、約20%w/w~約29%w/wの範囲の量で存在するであろう。なおより好ましくは、上記アルコールは、最大約29%w/w、より好ましくは最大約25%、さらにより好ましくは最大約23%w/wの量で存在することになり、最も好ましくは、上記アルコールは、最大約20%w/wの量で存在する。
【0036】
上記アルコールは、好ましくはエタノールを含むことになろうが、このアルコールは、(単独で、又は組み合わせて)メタノール又はプロパノール等の他のアルコールを含んでもよい。
【0037】
当該組成物は、水も含んでよい。この水は、好ましくは蒸留水である。この水は、約70%w/w~約95%w/wの範囲の量で存在してもよい。好ましくは、上記水は、約70%w/w約90%w/wの範囲の量で存在するであろう。より好ましくは、上記水は、約70%w/w~約80%w/wの範囲の量で存在するであろう。なおより好ましくは、上記水は、最大約70%w/w、より好ましくは最大約77%w/wの量で存在するであろう。最も好ましくは、上記アルコールは、最大約90%w/w、最大約80%w/w又は最大79.6%w/wの量で存在する。
【0038】
好ましくは、当該組成物は、
(a)約0.005%w/w~約1%w/wの範囲の量で存在するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩;
(b)テルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩及びナノ粒子を形成することができるポリマーであって、上記ナノ粒子は、テルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩を用いて、及び/又はテルビナフィン若しくはその誘導体若しくは塩の存在下で形成され、上記ポリマーは、約0.015%w/w~約3%w/wの範囲の量で存在するポリマー、
(c)約30%w/w未満のアルコール、及び
(d)最大約90%w/wの水
を含む。
【0039】
より好ましくは、当該組成物は、
(a)約0.025%w/w~約0.2%w/wの範囲の量で存在するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(b)約0.75%w/w~約0.6%w/wの範囲の量で存在するポリマー、
(c)約20%w/w~約29%w/wの範囲の量で存在するアルコール、及び
(d)約70%w/w 約90%w/wの範囲の量で存在する水
を含む。
【0040】
さらにより好ましくは、当該組成物は、
(a)約0.1%w/wのテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩、
(b)約0.3%w/wのポリマー、
(c)約20%w/wのアルコール、及び
(d)最大約79.6%w/wの水
を含む。
【0041】
ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比は、約1:3±0.75であってよい。好ましくは、ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比は、約1:3±0.5であろう。より好ましくは、ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比は、約1:3±0.25であろう。さらにより好ましくは、ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比は、約1:3±0.1であろう。最も好ましくは、ポリマーに対するテルビナフィン、又はその誘導体若しくは塩の比は約1:3であろう。
【0042】
上記ナノ粒子は、2つの直径が異なる種として形成された粒子を含んでもよい。これは、0.5~5nmの範囲の第1種及び50~350nmの範囲の第2種を含んでもよい。
【0043】
第2種に対する第1種の相対量は、互いにほぼ等しくてもよく、又は1つの種が当該組成物内でより多量の種であってもよい。
【0044】
好ましくは、上記第1種の中の粒子は、0.5~3nmの範囲である。より好ましくは、上記第1種の中の粒子は、0.5~2.5nmの範囲である。最も好ましくは、上記第1種の中の粒子は、0.5~2nmの範囲である。好ましくは、上記第2種の中の粒子は、75~325nmの範囲である。より好ましくは、上記第2種の中の粒子は、100~300nmの範囲である。最も好ましくは、上記第2種の中の粒子は、150~200nm又は215nmの範囲である。
【0045】
好ましくは、上記第1種の中の粒子の平均径は、0.5~1.5nmの範囲であろう。より好ましくは、上記第1種の中の粒子の平均径は、0.6~1.4nmの範囲であろう。さらにより好ましくは、上記第1種の中の粒子の平均径は、0.7~1.2nmの範囲であろう。最も好ましくは、上記第1種の中の粒子の平均径は、約0.9nmの領域にある。
【0046】
好ましくは、上記第2種の粒子の平均径は、50~350nmの範囲であろう。より好ましくは、上記第2種の粒子の平均径は、100~300nmの範囲であろう。さらにより好ましくは、上記第2種の粒子の平均径は、150~200nmの範囲であろう。最も好ましくは、上記第2種の粒子の平均径は、約160~約176nmの領域であろう。
【0047】
好ましくは、上記第2種の粒子の平均モード径は、150~225nmの範囲であろう。より好ましくは、上記第2種の粒子の平均モード径は、155~220nmの範囲であろう。さらにより好ましくは、上記第2種の粒子の平均モード径は、160~215nmの範囲であろう。最も好ましくは、上記第2種の粒子の平均モード径は、約164~約211nmの領域にあろう。
【0048】
当該組成物は、以下の成分、すなわち緩衝液、賦形剤、結合剤、油、溶媒、水、乳化剤、グリセリン、酸化防止剤、防腐剤及び香料、又は医薬、及び特に局所用クリーム及び軟膏剤で通常見出されるいずれかの他の成分のうちの1以上をさらに含んでもよいということは、当業者には明らかであろう。さらには、当該組成物は、ペースト又は懸濁液等のいくつかの形態であってもよいであろう。あるいは、及びより好ましくは、当該組成物は、他の成分を実質的に含まない。
【0049】
遠心分離法、電気泳動法、クロマトグラフィー法又は濾過法等のいくつかの技法が、必要とされるサイズ範囲のナノ粒子を選択するように、上記混合物をさらに処理するために用いられてもよい。ナノ粒子のサイズ/直径の測定は、好ましくは動的光散乱分析を使用して行われる。
【0050】
本発明のさらなる態様では、本願明細書中に上記された組成物の局所送達のためのスプレー装置が提供される。
【0051】
本発明のさらなる態様では、ポンプディスペンサー等のスプレー装置を使用することによる、本願明細書中に上記された組成物の局所投与方法が提供される。当該組成物は、目的領域から約0~30cmの距離でポンプディスペンサーから噴霧(スプレー)されてもよい。好ましくは、当該組成物は、目的領域から約5~25cmの距離でポンプディスペンサーから噴霧されてもよい。最も好ましくは、当該組成物は、目的領域から約5~15cmの距離でポンプディスペンサーから噴霧されてもよい。有利なことに、5~15cmのスプレー距離が、目的領域の完全被覆及び周囲領域への噴霧された用量の50%未満の損失をもたらすことが示されている。
【0052】
本発明の別の態様によれば、本明細書中に上記された組成物と、予め規定された量の当該組成物を感染領域(足指及び/又は手又は感染した肢の指、及び/又は指趾間部及び/又は前面等)に分配するための液体分配装置との組み合わせであって、上記装置は、当該組成物を収容する容器、この容器から当該組成物を放出(吐出)するためのノズル、及び予め規定された量の当該組成物を容器から引き出してそれをノズルを介して放出し、これにより当該組成物を感染領域に向けて霧化するための使用者により操作可能なポンプ作用機構を備える組み合わせが提供される。
【0053】
上記装置は、予め規定された量の当該組成物が分配される際に通る定量弁をさらに含んでもよい。予め規定された量の当該組成物が最大約200μlを含むことが好ましい。より好ましくは、予め規定された量の当該組成物は最大約150μlを含む。最も好ましくは、予め規定された量の当該組成物は、最大約100μl又は約100μlを含む。
【0054】
上記装置は、使用者が感染領域(足又は手又は肢の使用者の指及び/若しくは指趾間部及び/又は前面等)に対して上記装置のノズルを置くべき正しい距離を示すための距離表示装置若しくは距離測定装置をさらに含んでもよく、かつ/又は距離表示装置若しくは距離測定装置と関係づけられてもよい。
【0055】
使用の際には、上記装置のノズルが足の足指及び/又は指趾間部及び/又は前面の約5cm~15cmの範囲に置かれるとき、上記装置のノズルは、必要とされる用量のすべてを最大約5回の吸い上げで分配することができる。好ましくは、使用の際には、上記装置のノズルが感染領域(足又は手又は肢の指及び/又は指趾間部及び/又は前面等)の約10cmに置かれるとき、上記装置のノズルは、必要とされる用量のすべてを約5回の吸い上げで分配することができる。
【0056】
本発明の実施形態は、これより、例としてのみ示す以下の実験及び添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1は、BB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)及びテルビナフィンのみを用いた爪浸漬実験の結果を示すグラフである。この実験では、健康な爪切片由来の3mmヒトの爪ディスクが等価濃度の有効成分(0.1、1及び10mg/ml)のBB2603及びテルビナフィン溶液に懸濁された。洗浄し乾燥された爪が5M NaOHに溶解され、テルビナフィンのレベルが定量LC-MS/MSにより決定された。
【
図2A】
図2Aは、0.25mg/ml PHMB、0.05mg/ml FITC標識PHMB(蛍光標識PHMBの1:5の添加)及び0.1mg/ml テルビナフィンの溶液に32℃で24時間浸漬された、健康なヒトのボランティア由来の爪切片の凍結切片にした組織学試料の写真である(スケールバーはおよそ100μmである)。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aと同様にして浸漬された、健康なヒトのボランティア由来の爪切片の凍結切片にした組織学試料の写真である。爪断面全体(左手側のスケールバーはおよそ100μmである)及び爪のみの中央領域(右手側のスケールバーはおよそ20μmである)の2つの画像が提示されている。爪構造自体の中へ少なくとも20μm浸透する爪の縁のまわりで染色が明らかに見られる。
【
図3】
図3は、BB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)又はテルビナフィン溶液で処置された健康なヒトの爪試料へのテルビナフィンの浸透を示す散布図である。テルビナフィンの濃度は、BB2603又は0.1mg/mlテルビナフィン溶液で処置された健康なヒトの爪由来のエタノール洗浄液中においてLC-MS/MSにより決定された。個々の試料がプロットされている。(ダイヤモンド形状マーカー)すべてのテルビナフィン試料(n=4)は検出限界未満(<0.1ng/ml)であった。この2つの試料セットは、テルビナフィン溶液で処置された爪を通過するテルビナフィンの濃度が0.1ng/ml(LC-MS/MS検出の限界)であると仮定して、対応のない独立2群のパラメトリックなスチューデントのT検定を使用して比較された。この検定についてのp値は0.04であった。
【
図4】
図4は、BB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)又はテルビナフィン溶液で処置された爪と会合するテルビナフィンのレベルを示す散布図である。テルビナフィンの濃度は、BB2603又は0.1mg/mlテルビナフィン溶液で処置された健康なヒトの爪由来の溶解した爪試料中においてLC-MSにより決定された。個々の試料がプロットされている。この2つの試料セットは、対応のない独立2群のパラメトリックなスチューデントのT検定を使用して比較された。この検定についてのp値は0.02であった。
【
図5】
図5Aは、ヒトの爪へのBB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)の複数回用量添加からのフランツ(Franz)セルデータの概要を示す散布図であり、ここでは、複数回の少用量のBB2603で処置された健康なヒトの爪由来のエタノール洗浄液中のテルビナフィンの濃度(LC-MS/MSにより決定された)が調べられた。
図5Bは、ヒトの爪へのBB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)の複数回用量添加からのフランツセルデータの概要を示す散布図であり、ここでは、複数回の少用量のBB2603で処置された健康なヒトの爪からの溶解した爪試料中のテルビナフィンの濃度(LC-MS/MSにより決定された)が調べられた。
【
図6】
図6A~
図6Eは、30℃で4日間のインキュベーション後のトリコフィトン・メンタグロフィテス(Trychophyton mentagrophytes)を有する酵母エキスペプトンデキストロース(YEPD)寒天板の写真画像である。各プレートは、トリコフィトン・メンタグロフィテス菌叢の中心に置かれた10mmの無菌ペーパーディスクを有していた。再蒸留水又は様々な濃度のテルビナフィン溶液の40μlが各ペーパーディスク上にスポッティングされた。使用されたテルビナフィン溶液の濃度は、0μg/ml(対照、
図6A)、0.06μg/ml(
図6B)、0.6μg/ml(
図6C)、6.00μg/ml(
図6D)及び60.0μg/ml(
図6E)であった。
【
図7A】
図7A及び
図7Bは、トリコフィトン・メンタグロフィテスに対する健康なヒトの爪を通過するBB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)及びテルビナフィン試料の有効性を評価するYEPDプレートの写真画像である。トリコフィトン・メンタグロフィテスの菌叢が50μg/mlクロラムフェニコールを添加したYEPD寒天板に広げられた。健康なヒトの爪の0.1mg/mlテルビナフィン(
図7A)又はBB2603(
図7B)のいずれかによる7日間の処置後のフランツセル収集チャンバーからの水性試料が、10mmペーパーディスク上にスポッティングされた。このディスクはトリコフィトンプレートの中央に置かれ、これはその後、真菌を増殖させるため30℃で5日間インキュベーションされた。BB2603処置された爪からのテルビナフィンの抗真菌活性は、ディスクの周りのクリアランスのゾーンとして見られる。
【
図7B】
図7A及び
図7Bは、トリコフィトン・メンタグロフィテスに対する健康なヒトの爪を通過するBB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)及びテルビナフィン試料の有効性を評価するYEPDプレートの写真画像である。トリコフィトン・メンタグロフィテスの菌叢が50μg/mlクロラムフェニコールを添加したYEPD寒天板に広げられた。健康なヒトの爪の0.1mg/mlテルビナフィン(
図7A)又はBB2603(
図7B)のいずれかによる7日間の処置後のフランツセル収集チャンバーからの水性試料が、10mmペーパーディスク上にスポッティングされた。このディスクはトリコフィトンプレートの中央に置かれ、これはその後、真菌を増殖させるため30℃で5日間インキュベーションされた。BB2603処置された爪からのテルビナフィンの抗真菌活性は、ディスクの周りのクリアランスのゾーンとして見られる。
【
図8】
図8は、BB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)の複数回投与で処置された爪からのエタノール洗浄液中のテルビナフィン濃度を示す散布図である。複数回の少用量のBB2603で処置された健康なヒトの爪由来のエタノール洗浄液中のテルビナフィンの濃度(LC-MS/MSにより決定された)は20%(v/v)エタノール(左手側)又は30%(v/v)エタノール(右手側)のいずれかであった。
【
図9】
図9は、BB2603(テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子)の複数回投与で処置された爪からの溶解した爪中のテルビナフィン濃度を示す散布図である。複数回の少用量のBB2603で処置された健康なヒトの爪由来の溶解した爪中のテルビナフィンの濃度(LC-MS/MSにより決定された)は、20%(v/v)エタノール(左手側)又は30%(v/v)エタノール(右手側)のいずれかであった。
【
図10A-10B】
図10A~
図10Eは、スポットスプレー試験からの青色食用色素スポットの画像であり、ここでは、噴霧は、紙のシートから5cm(
図10A)、10cm(
図10B)、15cm(
図10C)、20cm(
図10D)及び25cm(10E)の距離で行われた。画像はすべて同じスケールで示されている。スケールバーは1cmである。
【
図10C-10E】
図10A~
図10Eは、スポットスプレー試験からの青色食用色素スポットの画像であり、ここでは、噴霧は、紙のシートから5cm(
図10A)、10cm(
図10B)、15cm(
図10C)、20cm(
図10D)及び25cm(10E)の距離で行われた。画像はすべて同じスケールで示されている。スケールバーは1cmである。
【
図11】
図11は、スポットスプレー試験からの可視染料被覆(n=2)の合計面積の直径及び100%染料被覆を示す面積の直径を示す、紙のシートからのスプレーの距離に対してプロットされた折れ線グラフである。
【
図12】
図12は、紙のシートから10cmの距離で噴霧し、5回の繰り返しスプレー吸い上げを行うことにより実施された青色食用色素を用いたスポットスプレー試験からのスポットの画像である。この画像は原寸に比例していない。合計可視被覆及び100%被覆の直径が測定された。それが画像上に示されている。
【
図13】
図13A及び
図13Bは、10cmの距離から5回の染料スプレーで処置された足テンプレート(
図13A)及び下にあった紙(
図17B)の画像である。100%染料被覆の領域は、両方の画像上で線により示されている。100%染料被覆に対応する紙の面積は切り出され、その紙は、被覆の相対面積を評価する方法として秤量された。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下の実験の目的は、爪真菌症及び/又は足白癬の処置に使用するためのテルビナフィン及びカチオン性ポリマーポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む配合物の有望さ、有効性及び投薬を調べることであった。
【0059】
テルビナフィン及びPHMBを用いるナノ粒子形成
実験は、最初に、テルビナフィン及びPHMBのナノ粒子を形成するために行った。これらのテルビナフィン及びPHMBのナノ粒子は、初期実験全体にわたってBB2603と表した。
【0060】
BB2603ナノ粒子は、0.1mg/ml、1mg/ml又は10mg/mlに等価な最終テルビナフィン濃度に、30%(v/v)エタノール中でテルビナフィン.HClとPHMBとを組み合わせることにより最初に形成された。ナノ粒子形成は、Nanosight LM10 Zetasizer機器(Malvern Instruments)で常法により確認した。対照テルビナフィン溶液は、0.1mg/ml、1mg/ml又は10mg/mlの最終濃度にテルビナフィン.HCLを30%(v/v)エタノールに溶解することにより作製した。
【0061】
30%エタノール中のテルビナフィンとPHMBとの最初の配合物は、形成されたナノ粒子の数を顕著に増加させることが示され、テルビナフィンのみを30%エタノール中で用いて形成した粒子よりもより単分散のナノ粒子の形成を生じた。結果は、PHMBが、後続する一定範囲の潜在的な真菌症の処置のための局所用医薬の調製において使用することができる、抗真菌薬を有する単分散のナノ粒子を形成するために使用することができるということを示した。
【0062】
ナノ粒子の分析
0.1mg/mlテルビナフィンの等価濃度のBB2603の溶液では、大量(典型的には5~10x108ナノ粒子/ml)の170~210nmの範囲の直径を有する単分散粒子が観察された。より高濃度のBB2603(それぞれ1mg/ml及び10mg/mlのテルビナフィンの等価濃度)も、初期爪浸漬実験(後述するとおり)において使用するために製造したが、これらは単分散性を失っていることを示し、これは、より大きいナノ粒子凝集体の形成(データは示さず)を可能にするより高いポリマー濃度に起因すると考えられた。
【0063】
最後に、30%(v/v)エタノール中のBB2603の溶液の長期安定性が、170日の期間にわたって溶液中のナノ粒子を測定することにより評価された。Nanosight LM10を使用して分析を実施し、そのため、BB2603ナノ粒子のより大きい直径の集団のみを考慮した。この分析は、溶液中の粒子の数の初期のいくらかの減少及び粒子のモード径のいくらかのばらつきにもかかわらず、BB2603ナノ粒子は、周囲光条件下、室温で少なくとも5ヵ月間、実質的に安定であることを実証した。
【0064】
爪浸漬実験
健康なヒトの爪の試料を、ddH2O中、30℃で2時間、事前インキュベーションした。次いで3mmディスクを、3mm生検パンチを使用して上記切片から切り出した。この爪ディスクを1.5mlチューブ中で250μlの試験溶液の中に入れ、0.5%(v/v)CO2の加湿培養器の中で、32℃で24時間インキュベーションした。爪試料を取り出し、大量のddH2Oの中で洗浄し、爪の上に薬物溶液があればそれを除去した。この爪をきれいなティッシュを使用して乾燥し、次いで秤量した。秤量した爪を200μlの5M NaOHに37℃で1時間溶解させた。溶解後、200μlのメタノールを試料に加え、試料中にテルビナフィンがあればそれが溶液中に残ることを確実にした。溶解した爪試料溶液の中のテルビナフィンの量を、定量LC-MS/MS質量分析を使用して分析した。
【0065】
定量的質量分析(MS)を使用して、試料中のテルビナフィンを検出し定量した。分析に提出する前に試料識別子を隠した。分析は、Waters Xevo TQ-S Mass Spectrometerと組み合わせたWaters Acquity I-Class UPLCクロマトグラフィーシステムを使用する、タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いる高速液体クロマトグラフィーを使用した。テルビナフィンのレベルは、0.1~10ng/mlテルビナフィンの標準曲線の薬物標品に対して定量した。試料を適切に希釈し、標準曲線の範囲内に入ることを確実にした。0.1ng/mlテルビナフィン未満の試料は、この分析については検出限界未満であった。爪試料中のテルビナフィンの濃度は爪の全量に対して規格化し、「ngテルビナフィン/爪のmg」として表した。
【0066】
初期の研究は、ヒトの爪の3mmディスクを異なる配合物及び試験溶液の中でインキュベーションした単純な爪「浸漬」実験を使用することに焦点を当てた。これらの実験は、テルビナフィンが爪と会合しているか否かを検出できるだけであり、爪浸透の直接的な根拠を与えなかった。しかしながら、それらの実験は実施するには技術的に単純であり、比較的高スループットであり、一定範囲の異なる配合物を評価することを可能にした。
【0067】
テルビナフィンの単純溶液中のテルビナフィンは、ヒトの爪試料と会合することが示された。爪と会合したテルビナフィンの量は、0.1mg~1mg/mlの間では濃度依存的であったが、より高濃度の10mg/mlではさらなる増加を何ら示さなかった。これは、1mg/ml超では、爪ディスクは、その爪ディスクと会合することができるテルビナフィンの量についての上限に到達したということを示しているであろう。
【0068】
0.1mg/mlテルビナフィンまでの等価濃度では、BB2603とテルビナフィンの溶液との間で有意差は見られず、これら両方は溶解した爪試料中の同等の濃度の薬物をもたらした。テルビナフィンについて観察したとおり、0.1mg/ml及び1mg/mlに等価のテルビナフィン濃度のBB2603の間でも薬物会合の増加があったが、10mg/mlではさらなる増加はなかった。ここでも、1mg/ml超で、BB2603は、24時間で爪ディスクに浸漬できる薬物の量の限界に到達したことを示唆する。しかしながら、テルビナフィンで処置した爪と比べて、BB2603で処置した爪と会合できる薬物の最大量ははるかに高かった(1.3~2.5倍)。この増加は、接近できる爪表面又は爪材料全体の相違には起因しなかった。というのも、すべての試験は、実質的に同じ表面積を有する3mm爪ディスクに対して実施しており、試料間で10%未満しか異ならない重量を有していたからである。それゆえ、これらの実験は、BB2603はヒトの爪と会合できるテルビナフィンの最大量を増加させるということを示唆しており、このことは、上記配合物は組織への薬物送達を増強しているということを示した。
【0069】
この爪浸漬実験は、BB2603が爪への薬物送達を増強するということを示唆したが、爪への増加した薬物浸透と爪への増加した薬物結合とを区別することはできなかった。それゆえ、組織へのナノ粒子浸透の直接的な根拠を得ようとするために、0.1mg/ml BB2603配合物を組織学的研究に進めることを決めた。この濃度は、最もロバストで一貫性のあるナノ粒子配合物を生成し、これまでに論じたように、より高濃度のBB2603は、ナノ粒子の形成においてはるかに大きくばらつくため、選んだ。
【0070】
組織学的研究
1%(w/w)「添加」のFITCに結合したNanocin(商標)(PHMBからなるナノ粒子ベースの送達プラットフォームであり、Tecrea Ltd、The London Bioscience Innovation Center、2 Royal College Street、London、NW1 0NH、UKから市販されている)を含む0.1mg/mlテルビナフィンの等価濃度でBB2603の配合物を作製した。この標識BB2603を上記の爪浸漬実験で使用した。洗浄し乾燥した爪を、次に組織学的分析に送った。組織学的検査及び蛍光顕微鏡法を爪の凍結切片に対して実施した。
【0071】
FITC標識BB2603を用いた組織学的研究からの例示的な画像を
図6A及び
図6Bに示す。強い蛍光が爪の縁のまわりで観察され、爪の表面に結合するBB2603と整合する。加えて、本発明者らは、染色が表面から爪の中へと浸透していることも観察した。染色のレベルはばらついたが、本発明者らは、爪構造自体の中の深部で蛍光を検出することができた(特に
図6Aに示すとおり)。
【0072】
このデータは、BB2603ナノ粒子がヒトの爪に中に浸透していることを非常に示唆するが、観察した染色が遊離のFITC-Nanocin(商標)に起因したにすぎないという可能性を排除する必要がある。それゆえ、これらの組織学的実験からフランツセルを使用することに進み、ヒトの爪試料にわたる薬物通過を直接測定することを決めた。
【0073】
フランツセル爪浸透研究
爪切片を30℃で水に一晩浸漬し、手早く乾燥した。3mm直径のパンチを使用して爪切片のディスク生検試料を採取した。各爪ディスクをフランツセルに加え、セルの上側チャンバーを取り付けた。40μlの以下の配合物を上側チャンバーに加えた:0.3mg/ml PHMB+0.1mg/mlテルビナフィン;又は10mg/mlテルビナフィン。フランツセルの下側の収集チャンバーを水(およそ600μl)で満たし、試料チャンバーの底面にある孔もddH2Oで満たし、気泡が爪の下に形成するのを防いだ。上側の試料チャンバーを注意深く収集チャンバーの中に入れ、気泡を導入しないことを確実にした。収集チャンバーからの過剰の液体をこの時点で放出し、最終体積の液体を500μlの下側チャンバーを残した。Parafilm(登録商標)を使用して、上側チャンバーと下側チャンバーとの間の接合部を包み、液体のエバポレーションを防いだ。
【0074】
単回投与(連続曝露)実験については、40μlの関連する試験試料(BB2603又はテルビナフィン対照)を、小さいピペット先端部を使用して上側の試料チャンバーに加え、爪/液体の界面に気泡を導入しないことを確実にした。上側チャンバーを密封して、エバポレーションを制限した。複数回投与実験については、5μlの試料を、小さいピペット先端部を使用して7日間毎日、上側の試料チャンバーへ、爪の上へ直接加え、爪/液体界面に気泡が導入されないことを確実にした。チャンバーを開いたままにし、試料が揮発するようにした。フランツセを、0.5%(v/v)CO2の加湿培養器の中で、32℃でインキュベーションした。
【0075】
このフランツセルのインキュベーションの後、試料チャンバー及びカラーアセンブリを注意深く取り除き、液体のすべてを下側の収集チャンバー及びカラーの底面にある孔から取り出した。試料チャンバー及びカラーアセンブリを反転し、次いで爪の下側を5×20μlのエタノールで優しく洗浄し、爪の下側と会合する薬物があればその薬物を除去した。合わされたエタノール洗浄液を分析のために保持した(100μl全量)。この洗浄液は、爪を通過したと思われるあらゆるテルビナフィンを捕捉することが意図されていた。下側の収集チャンバー又は爪の下側のエタノール洗浄液のいずれかで見つかったテルビナフィンは、爪を通過した薬物を表していた。
【0076】
上記フランツセルからの爪ディスクも、以下のとおりテルビナフィンの存在について分析した。残りの試験試料を上側の試料チャンバーから取り出して捨て、試料チャンバーの中に残っているあらゆる残留試験溶液を除去するために、試料チャンバーを100μlのddH2Oで5回洗浄し、各洗浄液を捨てた。次に、試料チャンバー及びカラーを分解し、爪試料を取り出した。爪を大量のddH2Oに浸漬することにより洗浄し、きれいなティッシュを使用して乾燥し、秤量した。次に、秤量した爪を200μlの5M NaOHに37℃で1時間溶解させた。溶解後、200μlのメタノールを、この試料に加え、試料中にテルビナフィンがあればそれが溶液中に残ることを確実にした。
【0077】
図3~
図5Bは、ヒトの爪試料にわたる薬物通過のフランツセル分析からのデータをまとめる。溶解した爪試料及び爪の下側のエタノール洗浄液から存在するデータだけが提供されている。というのも、これらの観察が、試料間で最もロバストであることが明らかになったからである。しかしながら、BB2603で処置した爪の下側チャンバーの中のテルビナフィンを、時には非常に高いレベル(>0.6μg/ml)で検出することは常に可能であった。この分析は、BB2603で処置した試料において爪を通過するテルビナフィンの量の控えめな見方を表すと考えられる。
【0078】
単回投与(定常曝露)実験
40μlのBB2603溶液(0.1mg/mlテルビナフィンに相当)又は30%(v/v)エタノール中のテルビナフィン(0.1mg/ml)を、健康なヒトの爪試料を含有するフランツセルの試料チャンバーに加えた。次に、このセルを32℃で7日間インキュベーションした。試料は、各実験の継続期間のあいだ爪上側表面と接触したまま留まった。7日後、爪の下側からの試料(エタノール洗浄液)を集め、LC-MS/MSにより分析した。7日目の爪試料を洗浄し、これまでに記載したように5M NaOHを使用して溶解した。集めたすべての試料を、Waters Xevo TQ-S Mass Spectrometerと組み合わせたWaters Acquity I-Class UPLCクロマトグラフィーシステムで、タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いる高速液体クロマトグラフィーを使用してテルビナフィンの存在について分析した。テルビナフィンのレベルは、薬物標品に対して定量した。これらの分析における検出限界は0.1ng/mlであった。
【0079】
図3及び4に示すように、BB2603で処置した試料は、健康なヒトの爪試料へのテルビナフィンの浸透を一貫して実証した。テルビナフィンは、1日のインキュベーションという早々から、収集チャンバー溶液及び爪の下側のエタノール洗浄液の両方において検出することができた。7日間BB2603で処置した爪の下側由来のエタノール洗浄液の分析により、BB2603による爪を通る旺盛な薬物送達が明らかとなった(
図3に示すとおり)。送達量は試料間でばらつき、これは、おそらくは爪試料の自然なばらつきによるものであるが、すべての場合において送達量は、菌学的死滅用量を達成するために必要な送達量よりも大きいと予測された。
【0080】
対照的に、テルビナフィン溶液は爪に浸透せず、BB2603と等価な薬物濃度(0.1mg/ml)を使用するすべての実験において、爪を通過するテルビナフィンの量は、LC-MS/MSにおける検出限界(<0.1ng/ml)未満であった(
図3に図示するとおり)。テルビナフィンが0.1ng/mlの濃度まで浸透したと仮定することにより、統計的検定を上記データに適用して、BB2603の結果が単純なテルビナフィン溶液の結果とは有意に異なるということを明らかにすることができた。この分析で算出された0.04というp値は有意性の過小評価である。というのも、単純なテルビナフィンで処置した試料におけるできるだけ高い濃度のテルビナフィンを仮定したからである。
【0081】
フランツセルからの溶解した爪試料テルビナフィンの量を、7日目にも測定した(
図4に示すとおり)。これは、爪自体の中にあるいずれかの薬物、すなわち爪に浸透したが他方側に到達しなかった薬物と共に、(5M NaOHを用いた溶解の前に洗い流されなかった)爪の上面に結合した薬物の量を表す。本発明者らは、テルビナフィン単独と比べて、BB2603で処置した爪と会合する有意により大きい量のテルビナフィンを知得した(およそ2倍の中央値(メジアン)の差、p=0.02)。これは、BB2603が爪の中への(爪を通る)テルビナフィンの送達を増大させるという考えと再び整合する。
【0082】
複数回投与実験
上記単回投与実験では、試験溶液は、インキュベーション期間全体にわたって爪の上側表面と常に接触したままであった。これは、薬物が感染した爪に毎日塗布され、次いで放置して乾かされると思われる患者の塗布の現実を必ずしも反映していない。それゆえ、この状況を再現しようとして、5μlのBB2603をフランツセル中で爪に毎日加える実験を実施した。この少量は、爪ディスク表面を覆うのに十分であったが、次の添加までに揮発し、これにより、患者がBB2603を毎日の局所的処置として塗布することがより厳密に模倣される。爪の下側のエタノール洗浄液及び爪自体からの試料を集め、上記のようにして、テルビナフィンの存在についてLC-MS/MSにより分析した。
【0083】
この複数回投与実験では、爪自体に付随してかなりの量のテルビナフィンを検出した(
図5A及び
図5Bに図示するとおり)。これは、BB2603を用いた単回投与(定常曝露)実験において観察したレベル(
図4に示すとおり)とさほど異ならないレベルにあり、ここでも単回投与実験からのテルビナフィン対照よりも高かった。爪の下側からのエタノール洗浄液の中のかなりの量のテルビナフィンも検出され、これは、この実験において上記薬物も爪を通過したことを示した。単回投与(定常曝露)実験と比べて、爪を通って送達された薬物のレベルは、複数回投与実験においてはるかに低かった。これは、BB2603による処置が長期であるほど爪を通るテルビナフィンの送達が大きいという考えと整合する。
【0084】
トリコフィトン・メンタグロフィテス抗真菌性アッセイ
これまでの実験は、BB2603が爪を通ってテルビナフィンを送達することを明瞭に示したが、爪を通るこの薬物の通過が、有効性の喪失につながる化学変性を引き起こさないということを確認する必要があった。それゆえ、トリコフィトン・メンタグロフィテスの菌叢を使用する抗真菌性アッセイを実施した。
【0085】
トリコフィトン・メンタグロフィテスは、爪真菌症と関連する主要病原体に関係する実験(室)用真菌種であり(例えばWade Fosterら、J.American Acad.Dermatology. 2004.50(5).748-752頁を参照)、そのため、この種に対する有効性は、トリコフィトン・ルブルム(T.rubum)等の病原性のトリコフィトン種(下記表1)に対する有効性に言い換えられると予想した。
【0086】
【0087】
トリコフィトン・メンタグロフィテスの1つのコロニーをストックプレートから採取し、5mlのYEPD(酵母エキス、ペプトン、デキストロース)培地中で、30℃で48時間成長させた。無菌のスワブを得られた培養液に漬け、次いでそれを、クロラムフェニコール(50μg/ml)を添加したYEPD寒天板にトリコフィトン・メンタグロフィテスの菌叢を広げるために使用した。フランツセルからの試料は無菌ではなく、通常のYEPDプレートで細菌の増殖を示したため、クロラムフェニコールを含めた。10mmの無菌ペーパーディスクを試験溶液に浸漬し、過剰の液体を取り除き、ディスクをこのトリコフィトン・メンタグロフィテス菌叢の上に置いた。プレートを反転し、30℃で5日間インキュベーションした。
【0088】
実施した最初の実験は、ペーパーディスクアッセイにおいて、トリコフィトン・メンタグロフィテスに対するテルビナフィンについてのおよそのMIC(最小阻害剤濃度)を確立することであった。これを行うために、ddH
2O中のテルビナフィン.HClの1:10希釈系列を60μg/mlから0.06μg/mlまで生成した。次に、10mmの無菌ペーパーディスクをこの種々の希釈物の中に浸漬し、これらをトリコフィトン・メンタグロフィテスの菌叢の上に置いた。5日間のインキュベーションの後、クリアランス(菌の増殖なし)のゾーンを、この種に対する抗真菌活性を有するテルビナフィンの濃度を有するディスクの周りで観察した(
図6に示すとおり)。このアッセイにおけるテルビナフィンについてのMICは0.6μg/mlであり、この濃度に満たない範囲では、明確なクリアランスのゾーンは観察されなかった。このアッセイにおけるMICは、トリコフィトン・メンタグロフィテスに対してテルビナフィンについてこれまでに報告されたMIC(6ng/ml)よりも100倍超高い(上記表1を参照して)ことに注目した。報告した数字は、液体MICアッセイに確かに由来したものであり、液体MICアッセイはより高感度であることが知られており、このためこのペーパーディスクアッセイは、薬物有効性の実質的により厳格な試験を表していた。
【0089】
このアッセイは、BB2603で処置した試料における爪を通過するテルビナフィンがまだその抗真菌効力を保持するか否かという疑問に対処するためにも使用した。これを行うために、0.6μg/ml超のテルビナフィンを含有することを定量LC-MS/MS分析が実証したフランツセル実験のうちの1つからの水相の試料を使用して、トリコフィトン・メンタグロフィテス菌叢アッセイを実施した(
図7A~
図7B)。この試料についてのMIC実験及び定量的MS結果と整合して、BB2603に関しては明確なクリアランスのゾーンは見ることができたが、テルビナフィン対照試料に関しては効果がなかった。従って、BB2603で処置した健康なヒトの爪を通過するテルビナフィンは、その効力を保持しており、まだトリコフィトン・メンタグロフィテスを死滅させることができた。
【0090】
爪真菌症におけるBB2603の潜在的有効性
BB2603に関する目的は、全身薬物曝露に関連する安全性の問題を有しないと思われたテルビナフィンの局所用配合物と経口のこのテルビナフィンの性能とを匹敵させることであった。テルビナフィン溶液と比べて、BB2603は、健康なヒトの爪を通る薬物の送達を有意に増大させることが示された。重要な疑問は、BB2603投薬により成し遂げられる量が爪真菌症の処置において有効であると予測されるか否かである。この疑問に対処するために、上記フランツセル実験で観察したテルビナフィンの濃度を、経口テルビナフィンで処置した患者の爪において報告されたテルビナフィンの濃度(Leyden、J.Am.Acad.Dermatol. 1998.38:S42-7)と比較した。
【0091】
経口投薬のあと、テルビナフィンは、7日間の処置後に0.1μg/gの爪中の濃度に到達し、3週間後に約0.25μg/gへと上昇し、18ヵ月後に0.55μg/gへと上昇する(Leyden、1998)。これらのレベルのすべては、爪真菌症に関連する一定範囲の重要な真菌種のMIC(表1)よりも高く、従って、これらの患者で爪の真菌感染を処置することにおける薬物有効性を説明する。
【0092】
BB2603は、溶解した爪においてこのレベルを大きく超え(
図4及び
図5A~
図5B)、7日後に爪中でおよそ1mg/gの薬物(経口投薬よりも10000倍高い)に等しいメジアン濃度を達成するように見える。しかしながら、より低いが、テルビナフィン単独も溶解した爪に会合する薬物の有意なレベル(およそ0.5mg/gのメジアン濃度)を示したが、(これらの実験で使用したよりもはるかに高い用量の)局所テルビナフィンを用いた臨床試験は、爪真菌症の処置において有効性を示すことができなかった(Elewskiら、Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology. 2013,27(3),287-294頁)。
【0093】
テルビナフィン溶液で処置した爪に関連してかなりの量の薬物が見つかるが、本発明者らの試料のいずれにおいても顕著な量のテルビナフィンが爪を通過するとは測定されなかった(
図7)。そこでこれらの試料に対しては、本発明者らは、非常に多くの数のこの薬物が爪の上側表面に結合しているか、又は組織の中あまり深くまでは浸透していないと結論した。
【0094】
テルビナフィンで処置した試料とは対照的に、テルビナフィンは、BB2603で処置した爪の下側で常に検出され、これは、この薬物が爪に入り爪を通過したに違いないということを示す。従って、BB2603で処置した試料由来の溶解した爪におけるテルビナフィンの測定値は、上側表面に会合する薬物だけでなく組織の全体深さにわたって存在する薬物も表す。
【0095】
BB2603処置された爪において、上側(の処置した)表面で濃度がより高く、爪の底に向かって薬物の最低濃度が見られるという、この薬物の非対称分布が確証される可能性が非常に高い。このため、爪の下部におけるテルビナフィンの濃度を推定した。というのも、これが本発明者らの試料における薬物の最低濃度であると思われたからである。これを行うために、爪の下側(エタノール洗浄液中)で見つかる薬物のレベルは、爪ディスクにおける上記爪の下側のすぐ上の爪中の濃度と等価であると仮定した。爪の3mm直径ディスクをフランツセル実験では使用したが、爪の1.5mm直径の円だけが上側チャンバー及び下側チャンバーの中で溶液と接触している(爪の残部は、チャンバー自体とシールを形成する)。これは、爪の底部のエタノール洗浄液の中のテルビナフィンが爪のおよそ1.8mm2の表面積に由来するということを意味する。爪の下部におけるおよその濃度を算出するために、爪のこの部分が0.1mmの深さを有すると仮定した。全体では、爪は約0.5mmの厚さであり、そのためこの0.1mmは、爪ディスクの全体の約5分の1を表す。従って、爪ディスクの下部の体積は0.18mm3であり、0.18μlに等しい。爪の下部におけるテルビナフィンの濃度を算出するために、爪のこの体積がエタノール洗浄液で見つかるテルビナフィンと等量のテルビナフィンを含有すると仮定した。
【0096】
複数回投与実験において爪の下側で見つかったテルビナフィンのメジアン濃度は0.4ng/mlであったが(
図5A~5B)、これは、試料中の0.04ngの合計テルビナフィンに等しい。これから、爪の最下部におけるテルビナフィンの濃度は、それゆえ220ng/ml(0.04ng/0.18μl)であると推定した。最後に、健康なヒトの爪の密度は1.34g/mlであり(Baraldiら 2015,Pharm.Res. 32(5),1626-33)、そのため爪の最下部におけるテルビナフィンの濃度は、およそ0.165μg/g(0.22μg/ml/1.34g/ml)に等しい。
【0097】
この算出から、複数回用量実験で、BB2603は、経口投薬によって7日後に到達するテルビナフィンの濃度よりも大きいテルビナフィンの量を爪の最下部に送達した(0.1μg/gと比べて0.165μg/g)ということがわかる。薬物のこのレベルは、爪真菌症に関連する最低感度の真菌種を死滅させるために必要なレベル(0.06μg/ml超、表1参照)よりも2~3倍高い。処置表面により近い爪の部分については、本発明者らは、濃度ははるかに高いと予測した。これらの数字は、上記複数回用量実験からの最も控えめなデータに基づいている。単回投与実験については、エタノール洗浄液で見つかったテルビナフィンのメジアン濃度は185ng/mlであり(
図3)、下部における薬物の予測される等価な爪濃度は8μg/mlであることになり、経口投薬によって成し遂げられ抗真菌効力のために必要な濃度を大きく超える。
【0098】
要約すれば、BB2603の7日間の局所塗布は、単純なテルビナフィン溶液よりも、テルビナフィンと健康なヒトの爪とのはるかに大きい会合を促す。さらには、BB2603は、テルビナフィンが爪を通って広く浸透することを可能にし、爪の薬物レベルのこの上昇が、少なくとも一部は、組織への薬物浸透の増大に起因するということを示す。BB2603塗布から最も遠位の爪の部分でさえ、等価な経口投薬によってもたらされる薬物濃度を超える薬物濃度を達成すると予測される。このレベルは、関係する真菌種のMICよりも高く、それゆえ爪真菌症の処置において有効である可能性が高い。
【0099】
経口テルビナフィンは、現在、爪真菌症の処置についての至適基準(ゴールドスタンダード)であり、最短の処置時間で最高の治癒率を有する(3~6ヵ月の投薬後に>80%の治癒)。しかしながら、この疾患の処置におけるその使用は、その安全性プロファイルによって、及びテルビナフィンが重大な薬物-薬物相互作用を有するという事実によって制限されている。非常に多くのこれらの問題は、ほぼ確実に、経口投薬(例えば肝臓毒性学、CNS効果)及びその後の高い全身薬物曝露に起因する。他の局所的な爪真菌症処置は、長い処置レジメン(最長18ヵ月の処置)を必要とし、低い治癒率(20~40%)を有し、高い割合(>50%)の疾患再発を示す(Halmy,K. J.Am.Acad.Dermatol,2005. 52(3):126-126、ScherらJ Am Ac Dermatol. 2007;56(6):939-944)。テルビナフィンの有効な局所用配合物を製造することは、爪真菌症の処置に対する非常に魅力的なアプローチである。というのも、そのような局所用配合物は、最も証明された臨床的有効性を有する上記薬物を採用し、全身暴露に関連する安全性の問題を取り除くからである。これを達成することは困難であることは明らかになっており、局所用テルビナフィン溶液を用いるこれまでの多くの試みは爪真菌症の処置における有意な有効性を何ら実証できなかった。
【0100】
上記のとおり、局所塗布のためのBB2603の中に存在するテルビナフィンの量は、現在の経口用量のために必要と思われる量よりもはるかに少ない。現在の全身処置なら、典型的には、7日にわたって毎日250mg用量の経口テルビナフィンを用いることになる。少量のBB2603を爪試料に7日間、毎日局所塗布した(毎日の患者の塗布を模倣した)後に、経口用量について報告されたレベルよりも高い、爪中のテルビナフィンのレベルが成し遂げられた。爪で見られた薬物レベルは、爪真菌症に関連するすべての関係する真菌種に対して有効性を示すために必要とされると思われるレベル(表1)よりもはるかに高い。これらの実験から1つの考えを言えば、経口処置のための1.75gテルビナフィンと比べて、平均的な爪(100mm2)を処置するために必要とされたと思われるBB2603の用量は1週間で約200μgであったと思われ、すなわち8750倍少ない用量であると思われた。
【0101】
健康なヒトの爪は、薬物浸透のはるかにより厳格な試験である。Baraldiらによる最近の刊行物(Baraldiら、2015)は、爪は爪真菌症においてはより厚いが、爪は著しく完全性を喪失するということを明らかにし、これは、爪が水溶液にとってはるかにより浸透性である(3~4倍大きい)ということを意味した。従って、本発明者らは、BB2603が罹患した組織においてさらにより良好な薬物浸透特性を示すと予想した。
【0102】
20%(v/v)エタノール対30%(v/v)エタノールでのBB2603の比較
BB2603を用いる上記のすべての実験は、30%(v/v)エタノールの溶液中で行った。最初の配合物研究は、30%(v/v)エタノールが最大数のBB2603ナノ粒子を生成するが、他方で10%(v/v)以下のエタノールの溶液での実験は粒子数のかなりの低下を示すということを明らかにした。30%(v/v)エタノールは局所的な真菌感染の処置に使用するために許容できる溶液であるが、より低いエタノール含有量がなお有効性を維持するか否かを知るために異なる%(v/v)エタノールを評価した。それゆえ、20%(v/v)エタノール中のBB2603の配合物に注目することを決めた。
【0103】
BB2603の配合物を上記のとおりに作製したが、30%(v/v)エタノールの代わりに20%(v/v)エタノールを使用した。NanoSight LM10での分析により、30%(v/v)エタノールと比べて、BB2603の粒子数又は粒子分布のいずれにおいても20%(v/v)配合物で検出可能な差がないことが示された。それゆえ、20%(v/v)エタノール中のBB2603配合物を用いたいくつかの複数回用量フランツセル実験を実施した。というのも、それらは、患者が使用すると思われる毎日の局所的な投薬の種類を最も模倣しており、それゆえ爪真菌症における薬物処置の有効性をモデル化する際に最も意味があったからである。
【0104】
5μlの20%(v/v)エタノール中のBB2603の毎日の添加により一週間処置した爪の下側のエタノール洗浄液で見られるテルビナフィンの量を、本文に記載したようにLC-MS/MSにより分析した(
図8に図示されるとおり)。これらは、洗浄液における0.5ng/mlという平均値で、爪を通過するテルビナフィンの一貫したレベルを明らかにした。これらのデータは、20%(v/v)エタノール中のBB2603で処置した爪を通過するテルビナフィンの量においてわずかにより高い傾向を示し、これは、爪を通して薬物を送達することにおいて20%(v/v)中のBB2603がより有効であるということを示唆する。これと整合して、20%(v/v)エタノール中のBB2603で処置した溶解した爪中のテルビナフィンの量は、30%(v/v)エタノール中のBB2603で処置した溶解した爪の場合よりも3倍高かった(
図9に示されるとおり)。
【0105】
合わせると、これらの結果は、20%(v/v)エタノール中のBB2603の配合物を使用することは、フランツセル複数回用量(毎日添加)実験において、ヒトの爪の中への及びヒトの爪を通るテルビナフィンの送達をさらに増大させるということを実証した。実質的により高い量の薬物が爪と会合していることが判明し、爪を通過するテルビナフィンの量もより多い。算出により、BB2603のこの配合物で処置した爪の下部における薬物のメジアン量は0.21μg/gであろうと示され、この値は、経口投薬後7日目に爪において成し遂げられる値の2倍であり、爪真菌症における関係する真菌種を死滅させるために必要な値の十分上にある。この結果は、Baraldiら(Baraldiら、2015)の、水溶液中の化合物が、50%(v/v)エタノール溶液中の化合物と比べて、健康な爪及び罹患した爪の両方においてより高いレベルの浸透度を有するという観察と整合する。
【0106】
要約すれば、BB2603の溶液におけるエタノール濃度を30%から20%(v/v)へと低下させることは、ナノ粒子形成に対して検出可能な影響を与えないが、興味深いことに、20%(v/v)エタノール中のBB2603の配合物は、爪真菌症の処置における薬物の毎日塗布を模倣するフランツセル実験において、健康なヒトの爪の中への及び健康なヒトの爪を通るテルビナフィン送達特性の向上を明らかにした。
【0107】
爪真菌症医薬の配合物
上記の実験に鑑み、以下の配合物は爪真菌症のための局所用医薬として有効であろうと想定される。
【0108】
【0109】
他の配合物も有効な局所用医薬を提供する可能性がある。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
本発明に係る配合物を下記配合Fに従って調製し、BB2603と表した。
【0115】
【0116】
配合Fの配合物をスプレーボトルに入れた。次に、この配合物を、爪真菌症(ある場合には、さらに足白癬)に罹患している患者の足指に1~2週間にわたって定期的に噴霧することにより試験を行った。この処置は上首尾であることが判明し、爪真菌症(及び足白癬)に罹患している患者を成功裏かつ迅速に、あとの再発もなく治療した。
【0117】
用法・用量
足指及び指趾間部の完全被覆を与えるための足からの最適のスプレー距離を特定するために実験を行った。本発明に係る配合物は、上記のように、配合Fに従って調製した(BB2603)。
【0118】
BB2603のスプレー塗布後に患者が受けるであろうと思われる全体の局所用量を推定した。患者は、処置あたりスプレーの5回の吸い上げを用いるであろうと仮定した。各吸い上げは、100μlのBB2603を送達するため、5回の吸い上げからの全塗布量は500μlである。
【0119】
上記ポンプの基本的なスプレー特性を、青色食用色素の溶液を使用して評価した。400μlの青色食用色素を20mlの20%v/vエタノールに希釈し、清浄なスプレーボトルに移した。噴霧ノズルからあらゆる空気を除去するために、スプレーを5回汲み出すことによりこのスプレーを準備した。次に、染料スポットを形成するために、この染料スプレーを白紙のシートへ1回スプレーした。紙から5cm、10cm、15cm、20cm及び25cmの距離で噴霧を実施し、これにより異なる直径のスポット範囲を生じた(
図10A~
図10E)。
【0120】
図10A~
図10Eからわかるように、各スポットは、実質的に3つのゾーンを有している。中心部には、多量の染料付着量を有するゾーンがあり、このゾーンを取り囲んで100%染料被覆(白紙は見えない)のゾーンがあり、この外側に染料被覆のより拡散したゾーンがある。
【0121】
理想的には、BB2603による局所処置は、足指の爪又は近接する皮膚のいずれかのあらゆる目に見えない真菌症がこの薬物で処置されることを確実にするために、感染領域及び周囲組織(足指及び指趾間部)の100%被覆を達成する必要がある。このため、処置のためのスプレー距離を最適化する際に主に考慮すべきことは、100%被覆のゾーンの直径である。各スポットを分析するために、100%被覆のゾーンの直径を、スポット全体(見える染料の縁)の直径と共に測定した。これらを、
図15に示すように、紙からのスプレーの距離に対してグラフにプロットした。これは、スポット全体の幅とスプレー距離との間のおよそ直線関係を明らかにした(
図11)。しかしながら、スプレー距離が15cmよりも大きいと、100%染料被覆の面積は減少した。
【0122】
このスポット試験に基づき、5~15cmのスプレー距離が100%被覆のゾーンの最大直径をもたらした。この距離が15cmを超えると、見える染料の合計面積は増加するものの、1回の塗布からの100%被覆の面積は減少した(
図11)。
【0123】
10cmの距離から紙に5回噴霧することにより、染料被覆の面積に対する複数回塗布の効果を評価した(
図12)。これは、10cmの直径及びおよそ78cm
2の面積を有するスポットまで100%染料被覆が増加することを明らかにした。10cmの足幅(足指にわたる)を仮定して、これは、足指の先端から足首側へ7cm超の領域を被覆するのに十分なはずであり、これは、足指及び指趾間部を被覆するのに十分すぎる。
【0124】
このように、5~15cmのスプレー距離が、このスプレー装置からのBB2603による患者処置にとって最適であろうと思われる。
【0125】
足テンプレート実験
スプレー試験から、上記スプレーボトルからのBB2603のスプレー塗布の最適の距離は5~15cmである。複数回塗布試験(
図12)は、これが、スポットの面積に基づき患者の足指、指趾間部及び足前部にわたる100%薬物被覆をもたらすのに十分であるはずであるということを示した。これを確かめるため、及びおよその全用量を算出するために、患者は、足テンプレートを使用する一連の実験を受けることになり、その実験を行った。
【0126】
協力者の足(男性、英国サイズ10)の周囲に線を引くことにより足テンプレートを紙から構築した。この紙テンプレートを切断し、次いで白紙のシートの上に置いた。染料を、紙の「足」の前上方10cmの距離から5回噴霧し、すべての「足指」が処置されることを確保した。染料は、足テンプレート及び下にあった紙の両方で見られた(
図13A及び
図13B)。染料が乾いた後、足及び下にあった紙の両方からの100%染料被覆の領域の周囲に線を引き、切断し、秤量した。「足」上の薬物用量の百分率を以下のようにして算出した。
【数1】
【0127】
見たところ、10cmの距離からの5回のスプレーが足テンプレート全体にわたる100%被覆を与えるのに十分であるということは明らかであった。100%染料被覆の領域を秤量することにより、被覆のおよその面積を比較し、足で局所的に受けられた用量の割合を見積もることが可能であった。データを表2にまとめる。
【0128】
【0129】
この実験に基づいて、10cmのスプレー距離からBB2603を自身の足に噴霧する患者は、全体の塗布量の約50%を局所的に受けることになると推定した。
【0130】
要約すれば、これらの実験は、5~15cmの距離でスプレーボトルから5回の「吸い上げ」を使用するBB2603のスプレー処置が足の足指、指趾間部及び前面の100%被覆を与えるのに十分なはずであるということを示す。足テンプレート実験から、そのような塗布により、患者は噴霧された容量の約50%の局所用量を受けることになろうと推定される。5回の「吸い上げ」については、これは、250μlの局所用量又はテルビナフィンの25μgの全用量に等価であることになろう。
【0131】
上記の実施形態は、特許請求の範囲によって与えられる保護の範囲を限定することを意図されておらず、むしろ本発明が実施されてもよい態様の例を説明することを意図されている。
【外国語明細書】