(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012680
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20220107BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20220107BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B60R19/34
F16F7/00 K
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020114692
(22)【出願日】2020-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】佐田 俊一
【テーマコード(参考)】
3J066
【Fターム(参考)】
3J066AA02
3J066AA23
3J066BA03
3J066BB01
3J066BC01
3J066BD07
3J066BF02
3J066BG05
3J066BG08
(57)【要約】
【課題】オフセット衝突により車両横方向への荷重が作用する場合でも理想的な軸圧潰状態を得る。
【解決手段】衝撃圧縮荷重によって軸圧潰状態に変形する筒体を有し、筒体は、複数の側壁を有する横断面多角形状をなしており、上面となる第1側壁と、下面となる第2側壁と、両側壁を連結する中壁とを備え、第1側壁及び第2側壁の両側部に、筒体の軸方向と交差する方向に沿って凹溝状に屈曲形成してなる複数のトリガー部が筒体の軸方向に相互間隔をおいて形成され、これらトリガー部は、各側壁において幅方向の中心を介して互い違いに、第1側壁と第2側壁とで上下方向に対向するようにほぼ同じ位置に形成されており、車体本体の幅方向内側に配置される第3側壁及び幅方向外側に配置される第4側壁には、これら側壁との接続部側における側部に配置されているトリガー部のいずれかとほぼ同じ位置で並ぶように変形容易部が少なくとも1個形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパーリンフォースと車体本体との間に設けられ、軸方向の衝撃圧縮荷重によって軸圧潰状態に変形する筒体を有する衝撃吸収部材であって、前記筒体は、板状の複数の側壁を有する横断面多角形状をなしており、前記車体本体に取り付けたときに上面となる第1側壁と、下面となる第2側壁と、第1側壁及び第2側壁を連結する中壁とを備え、前記第1側壁及び前記第2側壁の両側部に、前記筒体の軸方向と交差する方向に沿って凹溝状に屈曲形成してなる複数のトリガー部が前記筒体の軸方向に相互間隔をおいて形成され、これらトリガー部は、各側壁において幅方向の中心を介して互い違いに形成されるとともに、前記第1側壁と第2側壁とで上下方向に対向するようにほぼ同じ位置に形成されており、前記第1側壁と第2側壁との間で前記車体本体に取り付けたときに該車体本体の幅方向内側に配置される第3側壁及び幅方向外側に配置される第4側壁には、これら側壁との接続部側における側部に配置されている前記トリガー部のいずれかとほぼ同じ位置で並ぶように変形容易部が少なくとも1個形成されていることを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記変形容易部は貫通孔であることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記筒体は、前記車体本体の前後方向に対して傾斜して取り付けられており、前記筒体における前記バンパーリンフォースへの取付面は、前記バンパーリンフォースに取り付けたときに前記トリガー部が車体本体の幅方向に沿って配置されるように傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記第1側壁及び前記第2側壁の少なくとも一方の側壁におけるいずれかの前記トリガー部の延長上に、該側壁に対する前記中壁の接続端縁を露出させる切欠き部が配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記第3側壁と前記第4側壁との間隔が、前記第1側壁と前記第2側壁との間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記第3側壁の厚さは前記第4側壁の厚さより大きいことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
前記第3側壁の変形容易部は、前記第4側壁の変形容易部よりも変形が容易であることを特徴とする請求項6に記載の衝撃吸収部材。
【請求項8】
前記第3側壁における車体本体への取り付け側端部に、該第3側壁を厚さ方向に凹溝状に屈曲させてなる補強部が前記筒体の長さ方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時等に発生する衝撃エネルギーを吸収して、車体本体への伝達を抑制する衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前部及び後部のバンパーリンフォースと車体本体との間には、衝突時に、大きな衝撃が加わった場合に、自身が変形することにより、車体に伝達される衝撃エネルギーを低減して乗員を保護するクラッシュボックスとも称される衝撃吸収部材が設けられている。
この衝撃吸収部材は、車体フレームよりも軸方向の衝撃圧縮荷重に対する変形荷重が低く設定され、かつ衝突時に連続的な座屈により塑性変形する軸圧潰特性が要求される。
【0003】
このような衝撃吸収部材として例えば特許文献1に記載のものがある。この衝撃吸収部材は、全体として四角形等の筒状形状を有しており、その側壁の一部を凸状または凹状に変形させてなるトリガー部が設けられ、衝突時にトリガー部を起点に変形し始めるように構成されている。この場合、第1トリガー部を備えた第1側壁と、この第1トリガー部よりも車体側に配置される第2トリガー部を備えた第2側壁と、第1トリガー部の近傍で貫通穴を有する第3側壁とを有し、第1側壁と第2側壁との間に、奇数枚の側壁が存在している。そして、衝突時には、まず第1トリガー部が変形する。その際、貫通穴により第1トリガー部近傍位置の剛性が低減されているため、変形開始時のピーク荷重を低減させることができ、また、第1トリガー部と第2トリガー部との間に奇数枚の側壁が存在していることにより、第2トリガー部が変形する際の荷重の急激な低下が抑制されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の衝突要件では、車体の中心よりずれた状態で衝突するオフセット衝突において、従来に比べてラップ量(衝突相手方との車幅方向のオーバーラップ量)の小さい状態での衝突性能要求がある。ラップ量が小さい場合、バンパーリンフォースの端部付近は衝突面が車幅方向に対して傾斜しているため、衝突時の荷重は車両前後方向だけでなく車両横方向にも大きく作用する。このため、特許文献1記載の筒状形状の衝撃吸収部材では、ラップ量が小さいオフセット衝突時に、車両横方向の荷重に対して衝撃吸収部材(クラッシュボックス)が倒れてしまうおそれがある。
衝撃吸収部材を倒さずに衝撃を吸収するためには、衝撃吸収部材の幅を大きくする必要があるが、衝撃吸収部材の断面外形寸法のアスペクト比が大きくなると、理想的な軸圧潰特性を得ることが難しくなる。
このため、軸圧潰特性を損なうことなく、車両横方向への荷重に対する強度を高めることが望まれている。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、オフセット衝突により車両横方向への荷重が作用する場合でも理想的な軸圧潰状態を得ることができる衝撃吸収部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の衝撃吸収部材は、バンパーリンフォースと車体本体との間に設けられ、軸方向の衝撃圧縮荷重によって軸圧潰状態に変形する筒体を有する衝撃吸収部材であって、前記筒体は、板状の複数の側壁を有する横断面多角形状をなしており、前記車体本体に取り付けたときに上面となる第1側壁と、下面となる第2側壁と、第1側壁及び第2側壁を連結する中壁とを備え、前記第1側壁及び前記第2側壁の両側部に、前記筒体の軸方向と交差する方向に沿って凹溝状に屈曲形成してなる複数のトリガー部が前記筒体の軸方向に相互間隔をおいて形成され、これらトリガー部は、各側壁において幅方向の中心を介して互い違いに形成されるとともに、前記第1側壁と第2側壁とで上下方向に対向するようにほぼ同じ位置に形成されており、前記第1側壁と第2側壁との間で前記車体本体に取り付けたときに該車体本体の幅方向内側に配置される第3側壁及び幅方向外側に配置される第4側壁には、これら側壁との接続部側における側部に配置されている前記トリガー部のいずれかとほぼ同じ位置で並ぶように変形容易部が少なくとも1個形成されている。
【0008】
車体本体の上下面に配置される第1側壁及び第2側壁に設けられた複数のトリガー部により衝突時の軸圧潰状態が促され、オフセット衝突による横荷重に対しては、中壁、第3側壁及び第4側壁により倒れない強度が維持される。この場合、第1側壁と第2側壁との間に中壁を設けたので、第1側壁及び第2側壁を幅広に(第3側壁と第4側壁との間隔を大きく)形成しても、これら第1側壁及び第2側壁において中壁により仕切られる各辺の長さを第3側壁及び第4側壁とほぼ等しく形成することが可能で、所望の軸方向強度(座屈強度)を有する。また、第3側壁及び第4側壁には変形容易部が形成されているので、軸圧潰を阻害することは少ない。
このように、この衝撃吸収部材は、各要素の相乗的作用により、理想的な軸圧潰特性を有する。
【0009】
この衝撃吸収部材において、前記変形容易部は貫通孔であるとよい。変形容易部は、衝突荷重によって容易に変形できる形状のものであればよいが、貫通孔とすることにより形成も容易である。
【0010】
この衝撃吸収部材において、前記筒体は、前記車体本体の前後方向に対して傾斜して取り付けられており、前記筒体における前記バンパーリンフォースへの取付面は、前記バンパーリンフォースに取り付けたときに前記トリガー部が車体本体の幅方向に沿って配置されるように傾斜しているとよい。
【0011】
バンパーリンフォースの両端部は車体本体に向けて傾斜しており、その傾斜に合わせて傾斜させた取付面によってバンパーリンフォームに取り付けることにより、トリガー部を車体本体の幅方向に沿って配置でき、衝突時の軸圧潰特性を有効に発揮することができる。
【0012】
この衝撃吸収部材において、前記第1側壁及び前記第2側壁の少なくとも一方の側壁におけるいずれかの前記トリガー部の延長上に、該側壁に対する前記中壁の接続端縁を露出させる切欠き部が配置されているとよい。
【0013】
この切欠き部が形成されている部分でトリガー部が起点となって変形し始め、他のトリガー部に連鎖しながら圧潰する。したがって、この切欠き部を適切に配置することにより、より理想的な軸圧潰特性を発揮させることができる。
【0014】
この衝撃吸収部材において、前記第3側壁と前記第4側壁との間隔が、前記第1側壁と前記第2側壁との間隔よりも大きいとよい。車体本体に取り付けたときに上下方向寸法より左右方向寸法が大きくなり、オフセット衝突による横荷重に対して倒れてしまうことを防止し、軸圧潰特性を有効に発揮することができる。
【0015】
この衝撃吸収部材において、前記第3側壁の厚さは前記第4側壁の厚さより大きいとよい。車体本体の内側に配置される第3側壁の変形荷重を大きくして、オフセット衝突による横荷重で第3側壁が倒れてしまうことを抑制している。この場合、第3側壁の変形容易部は第4側壁の変形容易部よりも変形が容易であるとよく、変形容易部が貫通孔である場合は、第4側壁の貫通孔より第3側壁の貫通孔を大きく形成するとよい。厚さが大きい分、第3側壁の変形容易部を第4側壁の変形容易部より変形し易くすることにより、両側壁の軸圧潰を均等に生じさせることができる。
【0016】
この衝撃吸収部材において、前記第3側壁における車体本体への取り付け側端部に、該第3側壁を厚さ方向に凹溝状に屈曲させてなる補強部が前記筒体の長さ方向に沿って形成されているとよい。筒体は衝突時に軸圧潰されるが、第3側壁は、車体本体への取り付け側端部において補強部により局部的に座屈強度が高められており、この補強部が座屈しないで残ることにより、横方向荷重に対して倒れることが軸圧潰の最後の段階まで維持され、理想的な軸圧潰状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の衝撃吸収部材によれば、オフセット衝突により車両横方向への荷重が作用する場合でも理想的な軸圧潰状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態における衝撃吸収部材をバンパーリンフォースに取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1からバンパーリンフォースを仮想線として示す斜視図である。
【
図3】バンパーリンフォースを上方に向けた
図2の平面図である。
【
図4】
図1に用いられている衝撃吸収部材の斜視図である。
【
図5】衝撃吸収部材を
図4の矢印A方向から視た図である。
【
図6】衝撃吸収部材を
図4の矢印B方向から視た図である。
【
図7】衝撃吸収部材を
図5の矢印J方向から視た図である。
【
図8】衝撃吸収部材を
図5の矢印K方向から視た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る衝撃吸収部材の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は一対の衝撃吸収部材1A,1Bを車体本体2(
図3参照)の前方のバンパーリンフォース3に取り付けた状態を示している。この場合、バンパーリンフォース3は、両端部を車体本体2の後方に向けて傾斜した配置とするように屈曲形成されており、その屈曲部31よりも車体本体2の幅方向両端部の傾斜部32に、衝撃吸収部材1A,1Bが設けられている。バンパーリンフォース2の両傾斜部32は、必ずしも限定されるものではないが、いずれも図示例では車体本体2の幅方向(車幅方向)に対する傾斜角度θ1が20°に設定されている。
【0020】
この衝撃吸収部材1A,1Bは、筒体10と、この筒体10の一端に固定され、車体本体2に取り付けられる取付プレート40とにより形成されている。この場合、衝撃吸収部材1A,1Bはバンパーリンフォース3の傾斜部32に取り付けられ、オフセット衝突時の車両横方向の荷重も受けるため、車体本体2の幅方向中心線Cに対して傾斜して取り付けられる。具体的には、
図1~
図3に示すように、バンパーリンフォース3の左右の両傾斜部32の車体本体側に1個ずつ衝撃吸収部材1A,1Bの先端が固定されており、両衝撃吸収部材1A,1Bが車体本体2の後方に向かうにしたがって相互の離間間隔を漸次小さくする方向に傾斜している。衝撃吸収部材1A,1Bが取り付けられる車体本体2の取付面2aは左右方向(車幅方向)に沿って形成されているため、筒体10の前端面と後端面との両方が傾斜面に形成され、両傾斜面は異なる方向に傾斜している。筒体10の前端面をバンパー側取付面11、後端面を車体側取付面12とすると、例えば、バンパー側取付面11の傾斜角度θ2は12°、車体側取付面12の傾斜角度θ3は8°に形成される(
図5参照)。
【0021】
なお、車体本体2の向きを左右方向(又は車幅方向)、上下方向(又は車高方向)、前後方向(又は車両長さ方向)とするが、衝撃吸収部材1A,1Bは車体本体2の前後方向に対して若干傾斜して配置されているので、前後方向ではなく、筒体10の軸方向(又は長さ方向)として説明する。また、筒体10の軸方向と直交する方向を筒体10の幅方向(左右方向)とするが、車体本体2の幅方向(車幅方向又は左右方向)とは若干異なる方向であるので、筒体10の幅方向(又は左右方向)、車体本体2の幅方向(又は左右方向)若しくは車幅方向として区別する。
また、
図1~
図3に示す例ではバンパーリンフォース3が配置される側を車体本体2の前方とし、以下では、車体本体2の前方のバンパーリンフォース3に衝撃吸収部材1A,1Bが設けられている例を説明するが、衝撃吸収部材は、車体本体2の後方のバンパーリンフォースに取り付けられる場合もあり、その場合、
図1~
図3に示す例と前後対称に設けられる。
【0022】
図3に示すようにバンパーリンフォース3の左右に設けられる両衝撃吸収部材1A,1Bは、車体本体3の幅方向中心線Cを介して左右対称に形成されており、筒体10は同じ形状のものが左右で取付姿勢を変えて(上下逆に)配置されている。以降の説明では、両衝撃吸収部材1A,1Bの一方1Aについて、
図1~
図3に示す取付姿勢で説明する。
【0023】
[筒体10の構成]
筒体10は、
図4~
図8に示すように、車体本体2に取り付けたときに上面となる第1側壁13と、下面となる第2側壁14と、第1側壁13及び第2側壁14の両側縁部を連結する第3側壁15及び第4側壁16と、第1側壁13及び第2側壁14の幅方向の中間位置を連結する中壁17とを備え、
図6に示すように、全体としては横断面矩形枠状をなす閉断面形状と言えるが、第1側壁13と第3側壁15及び第4側壁16との接続部、第2側壁14と第3側壁15及び第4側壁16との接続部がともにわずかな幅で面取り状に傾斜した傾斜角部18に形成されていることにより、横断面において、これら傾斜角部18の表面を一辺とすれば、断面八角形状に形成されている。また、中央の中壁17を有することから、漢字の「日の字」状の断面に形成される。
【0024】
第1側壁13及び第2側壁14の幅寸法W1は第3側壁15及び第4側壁16の幅寸法W2より大きく形成されている。このため、筒体10の全体の幅寸法W3が上下方向寸法H1より大きく、例えばほぼ2倍に形成されている。そして、第1側壁13及び第2側壁14の両側部に、各側壁13,14を凹溝状に屈曲形成してなる複数のトリガー部51が筒体10の軸方向(長さ方向)に相互間隔をおいて形成されている。各トリガー部51は、
図5に示すように、凹溝の長さ方向を筒体10の車体側取付面12と平行に形成され、第1側壁13及び第2側壁14の車体側取付面12に沿う辺の長さの半分より若干短い長さに形成されている。そして、凹溝の一端を第1側壁13及び第2側壁14の両側縁に開放し、他端を筒体10の幅方向の中央部に向けて配置されている。
【0025】
この場合、第1側壁13及び第2側壁14の幅方向中央部側に配置されるトリガー部51の端部は、第1側壁13及び第2側壁14における中壁17の接続部17aにまでは到達していない。また、第1側壁13及び第2側壁14のそれぞれにおいて、トリガー部51は、筒体10の幅方向の中心を介して互い違いに形成されている。一方、第1側壁14に設けられるトリガー部51と第2側壁14に設けられるトリガー部51とは、
図7及び
図8に示すように、厚さ方向(上下方向)に対向するように同じ位置に配置されている。
図5等に示す例では、トリガー部51は、第1側壁14の左右に3個ずつ、第2側壁14の左右に3個ずつ形成されている。
なお、トリガー部51の凹溝形状は、例えば、その底部が凹円弧部51aに形成されるとともに、凹円弧部51aの周縁から溝幅を広げるように外側に傾斜する傾斜面部51bが形成され、傾斜面部51bの周縁が第1側壁13及び第2側壁14の表面に凸円弧面部51cによって接続された形状である。
【0026】
第3側壁15及び第4側壁16のうち、車体本体2に取り付けたときに車体本体2の幅方向内側に配置される第3側壁15は、幅方向外側に配置される第4側壁16よりも軸方向長さが大きく形成されている。そして、これら第3側壁15及び第4側壁16には、これら側壁15,16の幅方向に沿うスロット状の貫通孔からなる変形容易部52が筒体10の軸方向(長さ方向)に並んで複数形成されている。
【0027】
図7に示す例では、第3側壁15には5個の変形容易部52が形成され、そのうち車体側取付面12から数えて1番目、3番目、5番目の各変形容易部52が、この第3側壁15との接続部側における側部に配置されている第1側壁13及び第2側壁14の各トリガー部51とほぼ同じ軸方向位置に設けられている。一方、
図8に示すように、第4側壁16には4個の変形容易部52が形成され、そのうち車体側取付面12から数えて2番目と4番目の各変形容易部52が、第4側壁16との接続部側における側部に配置されている第1側壁13及び第2側壁14の各3個のトリガー部51のうちの2個のトリガー部51と同じ軸方向位置に設けられている。つまり、トリガー部51による変形時に変形容易部52も同じ軸方向位置で変形することで、軸圧潰が阻害されないようになっている。
【0028】
なお、車体本体2の幅方向内側に配置される第3側壁15は、外側に配置される第4側壁16よりも大きい厚さに形成されており、オフセット衝突による横荷重に対して倒れにくくしている。このため、変形容易部52における変形により、両側壁15,16が均等に(倒れずに)軸圧潰するように、変形容易部52となる貫通孔は、第4側壁16に設けられる貫通孔より第3側壁15に設けられる貫通孔が大きく形成され、第3側壁15の変形容易部52が第4側壁16の変形容易部52より変形し易く形成されている。
【0029】
また、第1側壁13及び第2側壁14において、複数のトリガー部51のうちの1個、
図5等に示す例では、バンパー側取付面11から数えて2番目のトリガー部51(車体本体2の外側の側部に並ぶ3個のトリガー部51では、1番目のトリガー部51)のほぼ延長上に、これら側壁13,14に対する中壁17の接続端縁を露出させるように丸穴状の切欠き部53が形成されている。この切欠き部53は、衝撃荷重を受けたときに、座屈の起点となる1個のトリガー部51を特定するためのものであり、この切欠き部53が設けられている近傍のトリガー部51(バンパー側取付面11から数えて2番目のトリガー部51)が最初に変形するように設定される。
【0030】
さらに、第3側壁15の車体側取付面12となる側の端部には補強部54が形成されている。この補強部54は、第3側壁15の端部をトリガー部51と同様の凹溝状に屈曲形成してなるものであり、第3側壁部15の車体側取付面12に開放し、筒体10の軸方向(長さ方向)に延びて形成されている。この補強部54が設けられている長さの範囲で第3側壁15の座屈強度が高められる。
【0031】
筒体10の材料や諸寸法は必ずしも限定されるものではないが、例えば、JISの6000番台又は7000番台のアルミニウム合金によって製作され、筒体10の幅W3が105mm~115mm、筒体10の高さ(上下方向寸法)H1が45mm~55mm、第3側壁15の長さが30mm~40mm、第1側壁13から第4側壁16の各側壁の厚さが1.5mm~2.5mm、第3側壁15の厚さが2mm~3mm、第3側壁15の軸方向長さが200mm~250mm、トリガー部51の深さが2mm~4mm、トリガー部51の溝幅が10mm~20mm、トリガー部51の長さが35mm~45mm、トリガー部51の配列ピッチが40mm~60mm、変形容易部52のスロット幅が5mm~10mm、スロット長さが15mm~35mm、変形容易部52の配列ピッチが20mm~30mm、補強部の深さが3mm~5mm、補強部の長さが30mm~40mm、補強部の溝幅が10mm~15mmとされる。
【0032】
このように構成された衝撃吸収部材1A,1Bは、バンパーリンフォース3と車体本体2との間で衝撃荷重を受けたときに筒体10が軸圧潰して衝撃エネルギーを吸収し、車体本体2への衝撃エネルギーの伝達を抑制して乗員を保護する。
この場合、筒体10のトリガー部51において、切欠き部53が並んで形成されているトリガー部51が最初に変形し始め、その後、変形が伝搬するように他のトリガー部51が順次変形する。これらトリガー部51は衝撃荷重の作用方向(車体本体2の前後方向)に直交して配置されているので、その凹溝を狭めるように座屈変形する。このとき、筒体10の第3側壁15及び第4側壁16においては貫通孔からなる変形容易部52がトリガー部51とほぼ同じ位置にも形成されているので、トリガー部51の変形を促し、軸圧潰が生じ易くなる。
なお、どの程度の荷重で軸圧潰させるかは、4つの側壁13~16及び中壁17により形成される断面形状と、トリガー部51、変形容易部52及び切欠き部53による部分的な変形能とにより、調整すればよい。
【0033】
一方、オフセット衝突により車体本体2の横方向に大きな荷重が作用した場合、筒体10は、その上下方向寸法H1よりも幅W3が大きく形成されているため、横方向荷重に対して倒れにくい。しかも、車体本体2の幅方向内側に配置される第3側壁15の肉厚が他の側壁13,14,16より大きいため、横方向荷重で第3側壁15が倒れてしまうことが抑制される。この場合、第3側壁15及び第4側壁16には変形容易部52が設けられているので、軸圧潰を阻害することはない。さらに、第3側壁15の車体本体2側には補強部54が形成されているので、軸圧潰の最後まで第3側壁15の倒れが防止され、理想的な軸圧潰状態を維持することができる。
【0034】
図9は、オフセット衝突時の衝撃吸収部材の変形に要する荷重と、衝撃吸収部材の変形との関係を模式的に示すグラフであり、同図(a)が従来のほぼ平坦な筒体からなる衝撃吸収部材を想定しており、同図(b)が本実施形態の衝撃吸収部材である。横軸が変位S、縦軸が変形荷重Fを示す。
【0035】
図9(a)に示すように、変形し始める際の荷重Pが大きいと、軸圧潰するよりも筒体が倒れ易く、倒れが生じると、その後の変形荷重が矢印で示すように低下し、その結果、吸収エネルギーEも小さくなる。
【0036】
一方、本実施形態の場合は、変形し始める際の荷重Pが同図(a)に比べて小さく、隣接するトリガー部の変形荷重もほぼ同等であるため、矢印で示すように各トリガー部が順次座屈して軸圧潰状態となり、その結果、吸収エネルギーEも大きくなる。
このように、本実施形態の衝撃吸収部材は、変形し始める際の荷重が小さく、その後、トリガー部が連鎖的に座屈変形して軸圧潰状態となり、大きな衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において変更を加えることが可能である。
例えば、トリガー部や変形容易部の数や配置などは適宜設計できる。この場合、トリガー部は連続的な座屈を生じさせるために複数必要であるが、変形容易部は、第3側壁及び第4側壁によりトリガー部の座屈を妨げないようにする観点から少なくとも1個設けられていればよい。
また、筒体の横断面形状を漢字の「日」の字状に形成したが、中壁を2個平行に形成して、漢字の「目」の字状に形成してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1A,1B 衝撃吸収部材
2 車体本体
2a 取付面
10 筒体
11 バンパー側取付面
12 車体側取付面
13 第1側壁
14 第2側壁
15 第3側壁
16 第4側壁
17 中壁
18 傾斜角部
3 バンパーリンフォース
31 屈曲部
32 傾斜部
40 取付プレート
51 トリガー部
52 変形容易部
53 切欠き部
54 補強部