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特開2022-126810単層リポソームにおける親水性化合物の高い効率の封入
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022126810
(43)【公開日】2022-08-30
(54)【発明の名称】単層リポソームにおける親水性化合物の高い効率の封入
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20220823BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20220823BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20220823BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20220823BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220823BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20220823BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/10
A61K47/24
A61K47/28
A61K8/14
A61P31/02
A23L5/00 F
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101626
(22)【出願日】2022-06-24
(62)【分割の表示】P 2020501593の分割
【原出願日】2018-03-23
(31)【優先権主張番号】17162568.4
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519342493
【氏名又は名称】リピド システムス エスペ.ゼット.オ.オ.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】プシビウ,マグダレナ
(72)【発明者】
【氏名】ラングナー,マレク
(72)【発明者】
【氏名】ボロヴィク,トマシュ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】疎水性液体の存在下で変性する、例えばイオン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、天然ポリマー及び合成ポリマー、核酸、並びに核酸誘導体を含む大量の親水性化合物を、サイズ又は電荷等のそれらの更なる物理化学的特性に関わらず、安定に封入するリポソームを提供する。
【解決手段】親水性空間を封入する1つの脂質二重層を有する単層リポソーム(UL)であって、(i)脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、(ii)プロピレングリコール又はグリセリンと、を含み、親水性空間は、親水性溶媒中に溶解された少なくとも1つの親水性化合物を含み、親水性溶媒中の親水性化合物の濃度は、20℃及び101kPaで親水性溶媒中の親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である、ULを提供する。また、低温度押出を用いてULを作製する方法、薬剤、化粧品製品、食品添加物又は消毒薬の製造におけるこれらのULの使用も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製薬技術の分野に関し、特に親水性物質の高い効率のリポソーム封入に関する。より具体的には、本発明は、少なくとも1つの親水性化合物を含む親水性空間を封入する1つの脂質二重層を有する単層リポソーム(UL)に関し、またかかる単層リポソームを含む液体組成物に関する。本発明はまた、単層リポソーム(UL)に親水性化合物を封入する方法、及び薬剤、化粧品製品、食品添加物又は消毒薬の製造におけるこれらのULの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、親水性空間を封入する、細胞膜に類似した脂質二重層からなる膜を有する小胞である。膜分子は、両親媒性を特徴とし、親水性ヘッドと疎水性テールとを保有する。リポソームの膜内で、両親媒性分子は、親水性部分が、リポソームの内側及び外側の水性環境と接触しているのに対して、疎水性部分が、二重層内に位置するように配置される。膜分子は、非共有結合な相互作用によって互いに結合している。リポソームは、1つ以上の脂質二重層のいずれかを有し、25 nm~100 μmのサイズを有し得る。ベシクルの形状及びサイズは、とりわけ、周囲の水相の特性、それらの膜の正確な化学組成、及びそれらの生産方法に依存する。
【0003】
リポソームは、例えば、両親媒性化合物及び疎水性化合物の溶解度を高めるために、薬理学的配合物及び化粧品配合物において一般的に使用され、リポソームは、それらのバイオアベイラビリティを高める(例えば、非特許文献1又は非特許文献2を参照)。リポソームを薬物送達系として使用することで、ヒト生物において、上記薬物の、関連する部位への標的化された選択的輸送が容易となる。これにより、より低用量を投与することができるため、リポソームで配合される薬物の副作用が低減され、また効率が上がり、治療の幅が広がる。
【0004】
基本的には、リポソーム配合物は、リポソームの特殊な物理化学的特徴に起因して、ほとんどの化合物を受け入れやすい。水性リポソーム分散液では、高い分配係数を有する物質は、リポソームのトポロジー又はサイズに関わらず、脂質二重層内のみで見出される一方で、低い分配係数を有する物質は、水性分散液媒質中で分散若しくは希釈され得るか、又はリポソームの親水性空間内に封入され得る。
【0005】
それにも関わらず、現在のところ、リポソームにおける親水性物質の高い効率の封入に関する普遍的な方法が存在しないことに起因して、リポソームに封入された親水性化合物の実際の治療的使用は重要視されていない。封入される親水性化合物を含有する水溶液を用いて振盪することによる乾燥脂質膜の水和によってリポソームを作製することを包含する受動的な封入は、封入効率が非常に低く、封入効率は、多くの場合、数パーセントを超えない。さらに、この方法によって得られるリポソームは、多重層ベシクル(MLV)であり、MLVは、サイズ及びトポロジーが非常に多様である(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。より小さくてより一様なサイズの懸濁液を生産するために、水和された脂質分散液を均質化プロセス(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7を参照)又は超音波処理(例えば、特許文献8、又は非特許文献3を参照)に付すことによって、受動的な封入方法に変更を加えることができる。しかしながら、これらの技法は通常、低粘度の懸濁液をもたらし、それは、脂質構造による水性分散媒質の構造化を欠如することで、乏しい封入効率の結果をもたらす。通常、脂質膜に添加される総親水性薬物のほんの約5%~15%が、ベシクルに封入されるに過ぎない。さらに、均質化又は超音波処理中に印加される高いエネルギーは、酸化に起因してリポソーム懸濁液の不安定性を引き起こし、タンパク質又は超分子集合体等の高感度活性物質の機能的分解の危険性を高める。
【0006】
親水性化合物のリポソーム封入に関する別のグループの技法は、異なる極性を有する物質の混合物を使用している。しかしながら、これらの技法で使用される無極性溶媒が、かかる分子の構造を不可逆的に変更させるため、これらの技法は、たいていのタンパク質又は他の複雑な分子構造の封入に不適切である。さらに、これらの技法の封入効率は、いずれも満足できるものではない。例えば、特許文献9は、リポソームゲル組成物を作製する方法を開示しており、ここでは、リン脂質(15 wt%~30 wt%)を、14重量%~20重量%の量でモノヒドロキシアルコールを含有する水溶液を振盪することによって溶解し、得られたリポソームに、均質化によって親水性化合物を充填する。この方法は、脂質ベシクル膜による水相の構造化を引き起こすことは想定されておらず、封入の効率が低くなり、それと同時に、モノヒドロキシアルコールが、変性特性及び刺激特性を有する。特許文献10は、15重量%~20重量%の量のモノヒドロキシアルコール(エタノール又は2-プロパノール)の存在下で、最大30重量%の濃度で植物由来のリン脂質を激しく混合することによって、リポソーム分散液を作製する方法について記載している。この場合においても、得られる水性リポソーム含有分散液は構造化されず、封入効率は低いと予想される。この方法の更なる欠点は、混合によって形成されるリポソームのサイズが不均一であることである。
【0007】
また、リポソームの形成を可能にする水溶液の極性の変更は、溶媒としてハロゲン化炭化水素を使用すること(特許文献11)又はクロロフルオロカーボン溶媒(「フレオン(Freon)」)中に溶解させた脂質を、高温で水溶液に注入すること(特許文献12)によって達成することができる。しかしながら、これらの方法はいずれも、50%を超える親水性物質の封入効率をもたらさない。さらに、溶媒蒸発のために、高温を適用しなくてはならならず、このことが、タンパク質及び超分子複合体を封入する上記の方法の使用を妨げている。
【0008】
リポソームに親水性物質を封入する更なる代替的な技法は、活性物質の親水性の静電気的高荷電粒子を、両親媒性対イオンと複合体形成することを含む。結果として、両親媒性複合体が形成されて、続いてそれは脂質で覆われる。この方法は、異なる極性を有する混合物の操作を必要とし、この操作は、技術的に困難である。さらに、この方法は、高荷電分子、即ち核酸のみに適用することができ(例えば、非特許文献4を参照)、疎水性液体の存在下で変性するタンパク質を封入するのに不適切である。
【0009】
親水性プリンヌクレオシドの封入効率を著しく高めて、高いリポソーム内薬物濃度を得るために、特許文献13は、ビダラビン(又は誘導体)を含有する多重層リポソームを形成することと、リポソームを、凍結乾燥、制御された再水和、及び任意選択で、圧力下での押出に付すこととを含む、リポソーム配合物の作製に関するプロセスを開示している。しかしながら、押出後、ほんの45%の最大封入効率が達成されるに過ぎなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/13887号
【特許文献2】欧州特許第1565164号
【特許文献3】欧州特許第0776194号
【特許文献4】ポーランド特許出願公開第396706号
【特許文献5】ポーランド特許出願公開第399298号
【特許文献6】ポーランド特許出願公開第388134号
【特許文献7】ポーランド特許出願公開第399592号
【特許文献8】ポーランド特許出願公開第389430号
【特許文献9】欧州特許第0514435号
【特許文献10】ドイツ特許第4003783号
【特許文献11】国際公開第96/40061号
【特許文献12】米国特許4,752,425号
【特許文献13】国際公開第95/15762号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kshirsagar, N. A.,Pandya, S. K.,Kirodian, B. G., and Sanath, S. (2005) Liposomal drug deliverysystem fromlaboratory to clinic., J. Postgrad. Med. 51, S5-S15
【非特許文献2】Kalhapure, R. S.,Suleman, N.,Mocktar, C., Seedat, N., and Govender, T. (2015) NanoengineeredDrug DeliverySystems for Enhancing Antibiotic Therapy, J Pharm Sci-Us 104,872-905
【非特許文献3】Watwe, R. M., andBellare, J. R.(1995) Manufacture of Liposomes-a Review, Curr Sci India 68,715-724
【非特許文献4】Oh, Y. K., and Park, T.G. (2009) siRNAdelivery systems for cancer treatment, Adv Drug Deliv Rev 61,850-862
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、従来技術の上述の問題を広く克服する、親和性化合物を含むリポソーム、及びかかるリポソームを作製する方法を提供することである。
【0013】
より具体的には、本発明の目的は、疎水性液体の存在下で変性する、例えばイオン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、天然ポリマー及び合成ポリマー、核酸、並びに核酸誘導体を含む大量の親水性化合物を、サイズ又は電荷等のそれらの更なる物理化学的特性に関わらず、安定に封入するリポソームを提供することである。
【0014】
また、本発明の目的は、最大100%の封入効率で、かかる親水性化合物を、リポソームの親水性空間に封入する方法を提供することである。驚くべきことに、これらの目的は、本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の態様において、本発明は、親水性空間を封入する1つの脂質二重層を有する単層リポソーム(UL)であって、(i)該脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、(ii)プロピレングリコール又はグリセリンとを含み、該親水性空間は、親水性溶媒中に溶解された少なくとも1つの親水性化合物を含み、該親水性溶媒中の該親水性化合物の濃度は、20℃及び101 kPaで該親水性溶媒中の該親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である、ULを提供する。
【0016】
第1の態様によるULの実施の形態において、前記脂質二重層を形成する前記少なくとも1つの疎水性化合物とプロピレングリコール又はグリセリンとの重量比は、2:1~1:1の範囲である。
【0017】
第1の態様によるULの更なる実施の形態において、前記脂質二重層を形成する前記少なくとも1つの疎水性化合物と前記少なくとも1つの親水性化合物との重量比は、100:1~1:3、50:1~1:2、又は25:1~1:1の範囲である。
【0018】
本発明の第1の態様の更なる実施の形態において、前記ULは、前記ULの15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、又は22重量%~24重量%、好ましくは前記ULの20重量%~40重量%の量で、前記少なくとも1つの疎水性化合物を含む。
【0019】
第1の態様によるULの更なる実施の形態において、前記少なくとも1つの親水性化合物は、(i)100 Da~1500 Da、200 Da~1400Da、300 Da~1200 Da、又は500Da~1000 Daの分子量を有する低分子量親水性物質、及び(ii)1500 Da~300 kDa、2kDa~280 kDa、5 kDa~250 kDa、10 kDa~200kDa、又は50 kDa~200 kDaの分子量範囲を有する親水性高分子からなる群から選択される。
【0020】
第1の態様によるULの更なる実施の形態において、前記少なくとも1つの親水性化合物は、イオン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、天然ポリマー及び合成ポリマー、核酸、核酸誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0021】
第1の態様によるULの更なる実施の形態において、前記親水性溶媒中の前記親水性化合物の前記飽和濃度は、親水性溶媒1000 mlにつき1 g~500 gの範囲、好ましくは10 g~200 gの範囲である。
【0022】
第1の態様によるULの更なる実施の形態において、前記親水性溶媒は、水、水性緩衝液、塩水溶液、単糖又は二糖水溶液及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0023】
第2の態様において、本発明は、ULに親水性化合物を封入する方法であって、下記の工程:(a)少なくとも1つの疎水性化合物と、プロピレングリコール及びグリセリンから選択される多価アルコールとを含む脂質溶液を準備する工程と、(b)少なくとも1つの親水性化合物を含む水相を準備する工程と、(c)(a)の該脂質溶液を、(b)の該水相と混合することによって、水和された脂質溶液を作製する工程と、(d)80℃未満の温度で、(c)の該水和された脂質溶液を押出す工程とを含み、該少なくとも1つの疎水性化合物は、ULの均質集団を形成し、該ULは、総容量の50%を超える該水相を含む、方法を提供する。
【0024】
第2の態様による方法の実施の形態において、前記少なくとも1つの親水性化合物は、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%から選択される封入効率で、前記UL内に封入される。
【0025】
第2の態様による方法の更なる実施の形態において、前記多価アルコールは、前記水和された脂質溶液の5重量%~30重量%、10重量%~25重量%、15重量%~22重量%、又は18重量%~20重量%の濃度で、工程(c)の前記水和された脂質溶液中に含まれる。
【0026】
第2の態様による方法の更なる実施の形態において、工程(c)の前記水和された脂質溶液中の前記少なくとも1つの疎水性化合物の全濃度は、前記水和された脂質溶液の15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、又は22重量%~24重量%、好ましくは、前記水和された脂質溶液の20重量%~40重量%である。
【0027】
第2の態様による方法の更なる実施の形態において、前記少なくとも1つの疎水性化合物は、リン脂質、スフィンゴ脂質又はステロールから、好ましくはホスファチジルコリン(正:phosphatidylcholine)から、より好ましくは精製された大豆ホスファチジルコリンから選択される。
【0028】
第2の態様による方法の更なる実施の形態において、工程(b)は、前記水相のpHを、好ましくは5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpHに調節することを含む。
【0029】
更なる実施の形態において、工程(d)は、60℃未満、40℃未満、又は30℃未満の温度で、好ましくは、20℃で、(c)の水和された脂質溶液を押出すことを含む。
【0030】
更なる実施の形態において、第2の態様による方法は、プロピレングリコール及びグリセリンから選択される前記多価アルコールが、工程(d)で得られる押出された水和された脂質溶液から除去される工程(e)を更に含み、好ましくは、前記多価アルコールは、限外濾過によって、該押出された水和された脂質溶液から除去される。
【0031】
第3の態様において、本発明は、本発明の第2の態様による方法によって作製されるULを提供する。
【0032】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1又は第3の態様による少なくとも1つのULを含む液体組成物を提供する。
【0033】
上記第4の態様の実施の形態において、液体組成物は、下記の特性:(i)5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpH、(ii)30 mOsm~400 mOsm、40mOsm~300mOsm、又は50 mOsm~200 mOsmの範囲のオスモル濃度、(iii)前記親水性化合物対前記疎水性化合物の総モル比10-5~1のうちの少なくとも1つを有する。好ましい実施の形態において、上記液体組成物は、水性組成物である。
【0034】
本発明の第4の態様の更なる実施の形態において、液体組成物は、少なくとも1つの賦形剤を更に含み、好ましくは、該賦形剤は、緩衝剤、浸透圧活性剤(osmoticallyactive agents)、防腐剤、酸化防止剤、香味剤、芳香剤、及びそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくは、該浸透圧剤は、一価の塩又は糖から、より好ましくは塩化ナトリウム及びショ糖から選択される。
【0035】
第5の態様において、本発明は、治療法における使用のための第1若しくは第3の態様によるUL、又は第4の態様による組成物に関する。
【0036】
第6の態様において、本発明は、薬剤、化粧品製品、食品添加物又は消毒薬としての第1若しくは第3の態様によるUL、又は第4の態様による組成物の使用に関する。
(図面の簡単な説明)
【0037】
(図1)スピンドル速度の関数としての粘度の変化のグラフ表示の図である。グラフは、実施例8に記載するレオメータ測定からの結果を示す。試験したリポソーム試料は、種々の脂質濃度(10重量%、15重量%、20重量%、25重量%)を含んでおり、種々の押出パラメーターを用いて得られた。PC 10%:押出前の試料中の脂質濃度が上記試料の10重量%、PC 15%:押出前の試料中の脂質濃度が上記試料の15重量%、PC 20%:押出前の試料中の脂質濃度が上記試料の20重量%、PC 25%:押出前の試料中の脂質濃度が上記試料の25重量%、PC-MLV:押出していない試料、PC-UL RT:室温で押出した試料、PC-UL T70:70℃で押出した試料。
(図2)脂質濃度の関数としての粘度値のグラフ表示の図である。グラフは、実施例8に記載するレオメータ測定によって得られる結果を示す。試験したリポソーム試料は、種々の脂質濃度(試料の10重量%、15重量%、20重量%、25重量%)を含んでおり、種々の押出パラメーターを用いて得られた。詳細に関しては、図1の説明を参照のこと。
(図3)図3A図3B:リポソームサイズ分布及び相関データのグラフ表示の図である。グラフは、相関関数適合を用いて、動的光散乱(DLS)によって決定される、実施例8で作製した試料におけるリポソームサイズ分布について概説し、プロットした測定される試料内の粒子の拡散を表す。図3Aは、単回サイクルの押出から得られる試料におけるリポソームのサイズ分布を示し、その試料は、10重量%の脂質含有量を有していた。これらの試料の多分散指数は、少なくとも0.2であること(PDI>0.2)がわかった。図3Bは、単回サイクルの押出から得られる試料におけるリポソームのサイズ分布を示し、その試料は、30重量%の脂質含有量を有していた。これらの試料の多分散指数は、0.2未満であること(PDI<0.2)がわかった。
(図4)脂質濃度及びRTでの押出サイクルの数の関数としてのリポソームサイズのグラフ表示の図である。グラフは、PDI<0.2を有する試料を得るのに必要とされる脂質濃度及び押出サイクルの数の関数としての、室温で実施された押出により実施例8で作製した試料におけるリポソームサイズを示す。20重量%~40重量%の範囲の脂質含有量に関しては、非常に一様なリポソームサイズ分布を有する試料が、1回目の押出サイクルで既に得られた。
(図5)ULに封入された蛍光標識デキストラン(FITC-標識)及びパパインの試料発光スペクトルのグラフ表示の図である。グラフは、実施例9に記載する試料の限外濾過及び分画(fractionating)によって得られる透過液(permeate)及び残留液(retentate)の発光スペクトルを示す。デキストランFITC MW 5000 PC16%透過液:5 kDaのULに封入されたFITC標識デキストラン及び試料の16重量%の全ホスファチジルコリン(PC)濃度を含む試料からの透過液の発光スペクトル、デキストランFITC MW 5000 PC 16%残留液:5 kDaのULに封入されたFITC標識デキストラン及び試料の16重量%の全PC濃度を含む試料からの残留液の発光スペクトル、パパインMW 23000 PC 16%透過液、23 kDaのULに封入されたパパイン及び試料の16重量%の全PC濃度を含む試料からの透過液の発光スペクトル、パパインMW 23000 PC 16%残留液:23 kDaのULに封入されたパパイン及び試料の16重量%の全PC濃度を含む試料からの残留液の発光スペクトル。
(図6)蛍光標識デキストラン(FITC-標識)及びパパインに関する封入効率のグラフ表示の図である。グラフは、得られたUL懸濁液中の脂質濃度の関数として、実施例9に記載する方法によって、分子量5 kDaを有する蛍光標識デキストラン、及び分子量23 kDaを有するパパインの封入の効率を示す。
(図7)図7A図7B:本発明によるULの親水性空間内に封入された親水性高分子を含む試料のイメージングの図である。画像は、透過型電子顕微鏡法から得た。図7Aは、ULに封入された未分画ヘパリンを示す。構造の流体力学的直径:150 nm。図7Bは、分子量12kDaを有する塩素E6の共有結合分子を有するULに封入されたPVPポリマーを示す。構造の流体力学的直径:130 nm。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明を下記に詳細に説明する前に、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコル及び試薬は変更することができるため、本発明がこれらに限定されないことを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は特定の実施形態を説明することを目的とするものに過ぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。他に定義のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0039】
幾つかの文献が本明細書の文章全体を通して引用される。本明細書に引用される各々の文献(特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、使用説明書等の全てを含む)は、上記又は下記を問わず、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。本明細書中のいずれの記載も、本発明が先行発明のためにかかる開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるものではない。
【0040】
下記で本発明の要素を記載する。これらの要素は特定の実施形態とともに挙げられているが、更なる実施形態を作成するのに、これらの要素をどのような方法及びどのような数でも組み合わせることができることを理解されたい。多様に記載された実施例及び好ましい実施形態は、本発明を例示的に記載された実施形態のみに限定するものとは解釈されない。本明細書は例示的に記載された実施形態と、あらゆる数の開示された及び/又は好ましい要素とを組み合わせた実施形態を支持及び包含するものであると理解されたい。さらに文脈上他に指定のない限り、本出願において記載された全ての要素のあらゆる並び替え(permutations)及び組合せが本出願の明細書により開示されていると見なされる。
【0041】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む」という語は(the word "comprise", and variations suchas"comprises" and "comprising")、提示の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外しないことを意味するものと理解される。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、数量を特定していない単数形(the singular forms "a", "an", and"the")は、文脈上他に明確に示されていない限り、複数の指示対象を含む。
【0042】
以下の節では、本発明の種々の態様がより詳細に規定される。そのように規定される各態様を、明らかに反対の記載がない限り、任意の他の態様又は複数の態様と組み合わせてもよい。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴を、好ましい又は有利であると示される他の任意の1以上の特徴と組み合わせてもよい。
【0043】
本発明に通じる研究において、驚くべきことに、大量の親水性化合物は、本発明の単層リポソーム内に安定に封入され得ることを見出した。具体的には、驚くべきことに、ULが、プロピレングリコール又はグリセリンを含む場合に、親水性溶媒中に溶解した親水性化合物は、20℃及び101 kPaで上記親水性溶媒中の上記親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%の濃度で、単層リポソーム(UL)の親水性空間内に封入され得ることを、本発明者らは見出した。
【0044】
単層リポソームにかかる大量の親水性化合物を首尾よく封入することは、上記リポソームの適用経路に応じて、幾つかの利点を提供する。静脈内経路又は筋内経路のいずれかによって、非経口的に投与されると、リポソームは、長期間にわたって、封入された親水性化合物の制御された「デポ」放出を提供することができ、血流中の遊離親水性化合物の濃度を制限することによって、親水性化合物の副作用を低減することができる。リポソームは、治療上好適な方法で親水性化合物の組織分布及び取込みを変更させることができ、化合物の投与頻度を下げることを可能にすることによって、治療法の利便性を高めることができる。
【0045】
したがって、本発明は、第1の態様において、親水性空間を封入する1つの脂質二重層を有する単層リポソーム(UL)であって、(i)該脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、(ii)プロピレングリコール又はグリセリンとを含み、該親水性空間は、親水性溶媒中に溶解された少なくとも1つの親水性化合物を含み、該親水性溶媒中の該親水性化合物の濃度は、20℃及び101 kPaで該親水性溶媒中の該親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である、ULを提供する。
【0046】
単層リポソーム(UL)
「単層リポソーム」又は「UL」という用語は、本明細書中で使用する場合、親水性空間を封入する単一脂質二重層で構成されるベシクルを指す。上記ベシクルは、楕円体、円板体、梨状ベシクル、カップ状ベシクル、蕾状(budded)ベシクル、及び球状ベシクルを含む任意の形状であり得る。好ましくは、本発明の単層リポソームは、形状が実質的に球状である。
【0047】
本発明のULは、最大100 nmの直径を有する小単層ベシクル(SUV)、又は100 nmよりも大きく、1μm以下の直径を有する大単層ベシクル(LUV)であってもよい。本発明のULの直径は、50 nm~250 nm、100 nm~200 nm、又は130nm~150nmであることが好ましい。「直径」という用語は、本明細書中で使用する場合、流体力学的直径を指し、これは、測定される粒子と同じように拡散する仮説上の硬質球体のサイズと理解されるべきである。動的光散乱(DLS)等の本明細書中に開示するULの流体力学的直径を決定する適切な方法は、当業者に既知である。
【0048】
本発明のULは、治療法において、又は薬剤、化粧品製品、食品添加物若しくは消毒薬の作製において使用されてもよい。
【0049】
脂質二重層
「脂質二重層」という用語は、本明細書中で使用する場合、疎水性化合物の集合によって形成される2つの脂質層で構成される閉じた構造を指す。
【0050】
疎水性化合物
「疎水性化合物」という用語は、本明細書中で使用する場合、極性領域及び無極性領域の両方を含有する両親媒性脂質化合物を指す。好ましくは、上記疎水性化合物は、リン脂質、スフィンゴ脂質、及びステロールから選択される。より好ましくは、上記疎水性化合物は、ホスファチジルコリン、更に好ましくは、精製された大豆ホスファチジルコリンである。
【0051】
本明細書中に記載するULにおいて、疎水性化合物の無極性鎖は、互いに向き合う脂質二重層の内側に向かって誘導され、したがって、2つの極性領域間の無極性領域を画定する。このようにして形成される2つの脂質層間の親油性内部コンパートメントは、内向き及び外向きの両方の親水性物質に対する透過性バリアとして作用する。疎水性化合物の極性基は、周囲媒質に向かって、及び脂質二重層によって形成される閉じた構造の内部空間に向かって位置づけられる。
【0052】
本発明によるULにおいて、脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、UL中に含まれるプロピレングリコール又はグリセリンとの重量比は、2:1~1:1の範囲である。化合物分離のための超遠心分離法、疎水性化合物の濃度決定のためのHPLC-ELSD、並びにプロピレングリコール及びグリセリン含有量決定のためのガスクロマトグラフィー(GC)等の上記重量比を決定する適切な方法は、当業者に一般的に既知である(例えば、ElmoslemanyRM, Abdallah OY, El-Khordagui LK,Khalafallah NM. Propylene Glycol Liposomes asa Topical Delivery System forMiconazole Nitrate: Comparison with ConventionalLiposomes. AAPS PharmSciTech.2012;13(2):723-731. doi:10.1208/s12249-012-9783-6を参照)。
【0053】
また、本発明のULは、前記ULの15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、又は22重量%~24重量%、より好ましくは前記ULの20重量%~40重量%の量で、前記少なくとも1つの疎水性化合物を含むことが好ましい。
【0054】
また好ましくは、脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、本明細書中に記載するULの親水性空間に含まれる少なくとも1つの親水性化合物との重量比は、100:1~1:3、50:1~1:2、又は25:1~1:1の範囲である。ULにおける上記重量比は、当業者に既知の任意の方法によって、例えば、疎水性化合物の抽出、続く疎水性化合物の濃度のHPCL-ELSD検出によって決定することができる。上記親水性化合物の物理化学的特性に応じて親水性化合物の検出に適した分析方法を選ぶことは、当業者の範囲内である。
【0055】
或る実施形態において、本発明のULは、荷電脂質を含まない。
【0056】
親水性空間
「親水性空間」という用語は、本明細書中で使用する場合、脂質二重層によって形成される閉じた構造の極性内部表面で囲まれている空間を指す。本発明によるULの親水性空間は、親水性溶媒及び上記親水性溶媒中に溶解される少なくとも1つの親水性化合物を含む。
【0057】
親水性溶媒
「親水性溶媒」という用語は、本明細書中で使用する場合、オクタノールと不混和性である任意の溶媒を指す。好ましくは、上記用語は、20℃で75.0~80.1の範囲内の比誘電率値を有する任意の溶媒を指す。本明細書中に記載する方法において、親水性溶媒は、水、水性緩衝液、塩水溶液、単糖又は二糖水溶液及びそれらの組合せからなる群から選択され得る。
【0058】
少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%の親水性溶媒が、本発明のULの親水性空間に含まれることが好ましい。最も好ましくは、100重量%の親水性溶媒が、本発明のULの親水性空間に含まれる。
【0059】
親水性化合物
「親水性化合物」という用語は、本明細書中で使用する場合、負のlogP値を有する任意の化合物を指す(P=オクタノール-水の分配係数)。分配係数は、当該技術分野で既知の任意の方法によって決定され得る(例えば、J. Sangster: Octanol-Water Partition Coefficients: FundamentalsandPhysical Chemistry, Vol. 2 of Wiley Series in Solution Chemistry, JohnWiley& Sons, Chichester, 1997を参照)。好ましくは、親水性化合物は、イオン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、天然ポリマー及び合成ポリマー、核酸、核酸誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0060】
また、前記少なくとも1つの親水性化合物は、(i)100 Da~1500 Da、200 Da~1400 Da、300Da~1200 Da、又は500 Da~1000Daの分子量を有する低分子量親水性物質、及び(ii)1500Da~300 kDa、2kDa~280 kDa、5 kDa~250kDa、10 kDa~200 kDa、又は50 kDa~200 kDaの分子量範囲を有する親水性高分子からなる群から選択されることが好ましい。
【0061】
本発明のULに含まれる親水性溶媒中の親水性化合物の濃度は、20℃及び101 kPaで親水性溶媒中の親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である。
【0062】
「飽和濃度」という用語は、本明細書中で使用する場合、親水性溶媒が、親水性化合物をそれ以上溶解することができず、かつ更なる量の上記親水性化合物が別個の相として、即ち沈殿物として出現する20℃及び101 kPaでの親水性溶媒中の親水性化合物の濃度を意味する。親水性化合物の飽和濃度を決定するのに適した方法、例えば、化学物質の水溶解度を試験するためのOECDガイドラインに従うフラスコ法又はカラム溶出法は、当業者に一般的に既知である(OECDGuidelinesfor the Testing of Chemicals, Section 1, Test no. 105-Watersolubilityを参照)。
【0063】
好ましくは、親水性溶媒中の親水性化合物の飽和濃度は、親水性溶媒1000mlにつき1 g~500 gの範囲、より好ましくは親水性溶媒1000 mlにつき10 g~200 gの範囲内である。
【0064】
本明細書中に記載するULに含まれる親水性化合物対疎水性化合物の総モル比は、1:100000よりも大きいことが更に好ましい。
【0065】
本発明の方法
本発明者らは、単層リポソーム内の親水性化合物の高い効率の封入に関する方法を更に開発した。驚くべきことに、脂質二重層を形成する疎水性化合物用の溶媒としてプロピレングリコール及びグリセリンから選択される多価アルコールを使用することによって、親水性化合物を含む水相の総容量の50%超を、ULに安定に封入することができることを見出した。
【0066】
したがって、第2の態様において、本発明は、ULに親水性化合物を封入する方法であって、下記の工程:少なくとも1つの疎水性化合物と、プロピレングリコール及びグリセリンから選択される多価アルコールとを含む脂質溶液を準備する工程と、少なくとも1つの親水性化合物を含む水相を準備する工程と、(a)の該脂質溶液を、(b)の該水相と混合することによって、水和された脂質溶液を作製する工程と、80℃未満の温度で、(c)の該水和された脂質溶液を押出す工程とを含み、該少なくとも1つの疎水性化合物は、ULの均質集団を形成し、該ULは、総容量の50%を超える該水相を含む、方法に関する。
【0067】
好ましくは、上記ULは、総容量の55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超、又は99%超の水相を含む。
【0068】
封入効率
本発明の上述の方法は、室温で低エネルギー押出の簡素なプロセスによって、明確に規定されたサイズ分布を有する安定なUL含有懸濁液の作製を容易とすると同時に、それぞれ、封入された親水性化合物の高い構造安定性及び高度の封入を提供する。
【0069】
前記少なくとも1つの親水性化合物は、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%から選択される封入効率で、本明細書中に記載する方法によって、UL内に封入され得る。
【0070】
本発明の文脈において、「封入効率」という用語は、パーセント(%)で表される「a」の値を指し、それは、下記式に従って決定される:
【数1】
(式中、「Cout」は、試料中のULの親水性空間の外側に残存する水相部分中の親水性化合物の濃度を指し、「Ctot」は、試料中の親水性化合物の総濃度を指す)。「Cout」及び「Ctot」は、分光法によって決定される。
【0071】
本発明の方法による親水性化合物の効率的な封入は、少なくとも1つの親水性化合物を含む水相の封入容量対ULの外側に残存する上記水相の容量の高い比の結果として達成される。このことは、本明細書中に記載する方法の工程(b)において準備される水相の総容量の少なくとも半分が、本明細書中に記載する方法によって得られるリポソームの内部に存在することを意味する。
【0072】
したがって、本発明の方法から得られる組成物は、ULの均質集団を含み、ここで、上記ULは、総容量の50%超、55%超、60%超、65%超、70%超、75%超、80%超、85%超、90%超、95%超、98%超、又は99%超の水相を含む。
【0073】
本発明の方法の工程(b)において、少なくとも1つの親水性化合物を含む水相は、親水性溶媒中に上記少なくとも1つの親水性化合物を溶解することによって作製され得る。好ましくは、工程(b)において準備される水相中の親水性化合物の濃度は、20℃及び101 kPaで親水性溶媒中の親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である。親水性溶媒中の親水性化合物の飽和濃度は、親水性溶媒1000 mlにつき1 g~500 gの範囲、好ましくは親水性溶媒1000 mlにつき10 g~200 gの範囲であり得る。
【0074】
本発明の方法の工程(b)は、水相のpHを、好ましくは5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpHに調節することを更に含む。上記pH調節は、温度20℃で実施されることが好ましい。液体溶液のpHを測定及び調節するのに適した方法は、当業者に既知である。
【0075】
本明細書中に記載する方法において、前記多価アルコールは、前記水和された脂質溶液の5重量%~30重量%、10重量%~25重量%、15重量%~22重量%、又は18重量%~20重量%の濃度で、工程(c)の前記水和された脂質溶液中に含まれることが好ましい。
【0076】
疎水性化合物濃度
さらに、高濃度の少なくとも1つの疎水性化合物が、本発明の方法の工程(c)において作製される水和された脂質溶液中に含まれる場合、上記ULの脂質二重層を高密度に充填したUL懸濁液が得られることを、本発明者らは見出した。したがって、工程(c)の前記水和された脂質溶液中の前記少なくとも1つの疎水性化合物の全濃度は、前記水和された脂質溶液の15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、又は22重量%~24重量%であり得る。
【0077】
工程(c)の水和された脂質溶液中の少なくとも1つの疎水性化合物の全濃度は、上記水和された脂質溶液の20重量%~40重量%、上記水和された脂質溶液の20重量%~30重量%、又は上記水和された脂質溶液の30重量%~40重量%であることが特に好ましい。このようにして濃縮されたUL懸濁液の単回押出サイクルは、本明細書中に記載する方法の封入効率を最大99%まで更に高めて、更なるゲル化剤又は増粘剤を用いずに4000 cPs(6 RPM RT)以上の高粘度のUL懸濁液を達成することを、本発明者らは見出した。好ましくは、少なくとも5000 cPs、少なくとも 7000 cPs、又は少なくとも10000 cPs(6 RPM RT)の粘度のUL懸濁液が達成される。
【0078】
少なくとも1つの疎水性化合物は、リン脂質、スフィンゴ脂質又はステロールから選択され得る。好ましくは、少なくとも1つの疎水性化合物は、ホスファチジルコリンから、より好ましくは精製された大豆ホスファチジルコリンから選択され得る。或る実施形態において、工程(c)の水和された脂質溶液は、荷電脂質を含まない。
【0079】
押出
工程(d)における(c)の水和された脂質溶液の押出は、80℃未満、60℃未満、又は40℃未満の温度で実施され得る。
【0080】
驚くべきことに、本発明の方法は、室温での単回押出サイクル後には既に、95%を超える効率で、本明細書中に記載するULにおける親水性高分子の封入を達成することがわかった。
【0081】
したがって、本明細書中に記載する方法の工程(d)は、30℃未満の温度で、より好ましくは室温(20℃)で、(c)の水和された脂質溶液を押出すことを含むことが好ましい。本発明の方法は、単回押出サイクルを含むことが更に好ましい。より好ましくは、本明細書中に記載する方法の工程(d)は、単回押出サイクルで、室温(20℃)で(c)の水和された脂質溶液を押出すことを含む。
【0082】
「押出サイクル」という用語は、本明細書中で使用する場合、(c)の水和された脂質溶液を、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに1回通すことを指す。
【0083】
更なる方法工程
本明細書中に記載する方法の押出工程(d)に続いて、押出工程(d)から得られるUL含有懸濁液から、グリセロール又はプロピレングリコールを除去する更なる工程(f)を行ってもよい。好ましくは、多価アルコールの上記除去は、限外濾過によって遂行される。特に好ましい実施形態において、押出工程(d)から得られるUL含有懸濁液は、限外濾過系(例えば、研究室スケールに関しては、MicroKros MWCO 70kD、又はより大きな調製物に関しては市販のカセット)にかけられて、続いて、等浸透圧性水相で洗浄される。限外濾過工程後にリポソーム懸濁液中に残存する多価アルコールの量は、試料及び適用される水相の体積分率に比例している。好ましくは、上記量は、UL含有懸濁液の1重量%未満、0.8重量%未満、0.5重量%未満、0.4重量%未満、0.3重量%未満、0.2重量%未満、又は0.1重量%未満である。
【0084】
本発明の方法は、好ましくは、生理食塩水、より好ましくは滅菌生理食塩水を添加することによって、工程(d)又は工程(e)から得られるUL含有懸濁液を希釈する更なる工程を含んでもよい。
【0085】
或いは、リポソーム粉末等の固体リポソーム含有組成物を提供するために、上記更なる方法工程は、工程(d)又は工程(e)から得られるUL含有懸濁液の凍結乾燥又は噴霧乾燥を含んでもよい。
【0086】
賦形剤
本発明の方法は、緩衝剤、浸透圧活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香味剤、芳香剤、及びそれらの組合せからなる群から選択され得る少なくとも1つの賦形剤を添加することを更に含んでもよい。上記浸透圧剤(osmotic agents)は、一価の塩又は糖から、より好ましくは塩化ナトリウム及びショ糖から選択されることが好ましい。本発明の方法は、30 mOsm~400 mOsmの範囲のオスモル濃度の最終製品が得られるような量で、浸透圧剤を添加することを含むことが更に好ましい。
【0087】
本発明の組成物
第3の態様において、本発明は、本明細書中に記載する本発明による少なくとも1つのULを含む組成物を提供する。第4の態様において、本発明は、本明細書中に記載する方法によって作製される組成物を提供する。
【0088】
本発明の文脈において、「組成物」という用語は、それぞれ、第3の態様による組成物及び第4の態様による組成物の両方を指し、液体、半固体及び固体組成物を含む。本発明の組成物は、液体組成物、好ましくは水性液体組成物、例えば水性希釈液若しくは懸濁液、又は半固体組成物、例えば軟膏若しくはゲルであり得る。
【0089】
本発明の組成物はまた、固体組成物、好ましくは粉末組成物、例えば噴霧乾燥又は凍結乾燥した粉末組成物であり得る。
【0090】
本明細書中に記載する組成物は、医薬組成物、化粧品組成物、食品組成物、食品添加物組成物、又は消毒薬組成物から選択され得る。本発明の組成物が医薬組成物である場合、親水性化合物は、薬学的活性剤又は薬物化合物であることが好ましい。
【0091】
本明細書中に記載する組成物は、少なくとも1つの賦形剤を更に含んでもよい。好ましくは、上記賦形剤は、緩衝剤、浸透圧活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香味剤、芳香剤、及びそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくは、上記浸透圧剤は、一価の塩又は糖から、より好ましくは塩化ナトリウム及びショ糖から選択される。
【0092】
好ましくは、本発明の組成物は、下記の特性:(i)5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpH、(ii)30 mOsm~400 mOsm、40 mOsm~300mOsm、又は50 mOsm~200 mOsmの範囲のオスモル濃度、及び/又は(iii)親水性化合物対疎水性化合物の総モル比10-5~1ののうちの少なくとも1つを有する。
【0093】
本明細書中に記載する組成物は、少なくとも4000 cPs(6 RPM RT)、少なくとも5000 cPs(6 RPM RT)、少なくとも7000 cPs(6 RPM RT)、又は少なくとも10000 cPs(6 RPM RT)の粘度を有する。
【0094】
本発明のUL及び組成物の使用
本明細書中に記載する単層リポソーム(UL)又は組成物はそれぞれ、薬剤、化粧品製品、食品添加物若しくは消毒薬として、又は、薬剤、化粧品製品、食品添加物若しくは消毒薬の作製において使用され得る。或る実施形態において、本発明のUL又は組成物は、治療法において使用される。
【0095】
本明細書中に記載する組成物は、軟膏の形態で皮膚科用製品又は化粧品製品として、更に変更を加えずに使用され得る。
【0096】
本明細書中に記載する組成物はまた、希釈された形態で使用されてもよい。ULに封入される親水性物質が、医薬品として全身用途を対象とする場合、本発明の組成物は、UL内に封入される親水性化合物の量を変更させない等張溶液で希釈されることが好ましい。かかる希釈されたUL懸濁液は、治療用途におけるペプチド、完全タンパク質、ポリマー、糖又は核酸の投与に使用することができる。今日に至るまで、これらの化合物の薬学的使用は、生理液からそれらが急速に除去されることに起因して制限されている。このことは、タンパク質、ポリマー、糖又は核酸が消化中に加水分解される経口投与に特に関連する。
【0097】
したがって、要約すると、生物学的薬物の開発及び治療用途における主な障害が、本発明によって克服される。
【0098】
本発明は、下記の実施例によって記載されるが、下記の実施例は、単なる説明に過ぎず、本発明の範囲を限定しないと解釈されるべきである。
【実施例0099】
実施例1
Phospholipon 90G(LipoidAG)1000 mgを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、プロピレングリコール(Chempur)750 mg中に溶解した後、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝した蛍光標識デキストラン(分子量5 kDa)5 mgを含有する水相3250 mgと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。
【0100】
結果として、上記懸濁液の重量当たり20%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、標識デキストランの96%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0101】
実施例2
Phospholipon 90G(LipoidAG)1500 mgを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、プロピレングリコール(Chempur)1000 mg中に溶解した後、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝した蛍光標識デキストラン(分子量5 kDa)5 mgを含有する水相2500 mgと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。
【0102】
結果として、上記懸濁液の重量当たり30%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、標識デキストランの96%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0103】
実施例3
Phospholipon 90G(LipoidAG)2000 mgを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、プロピレングリコール(Chempur)1000 mg中に溶解した後、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝した蛍光標識デキストラン(分子量5 kDa)5 mgを含有する水相2000 mgと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。
【0104】
結果として、上記懸濁液の重量当たり40%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、標識デキストランの99%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0105】
実施例4
Phospholipon 90G(LipoidAG)1500 mgを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、プロピレングリコール(Chempur)1000 mg中に溶解した後、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝したパパイン(分子量23 kDa)50 mgを含有する水相2500 mgと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。
【0106】
結果として、上記懸濁液の重量当たり30%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、パパインの99%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0107】
実施例5
下記の成分を有する、癌の治療における添加物又は栄養補助食品(dietarysupplement:食事性サプリメント)としての使用のための高濃縮ビタミンC製品を作製した。
【0108】
【表A】
【0109】
Phospholipon 90G(LipoidAG)210 mgを、プロピレングリコール(Chempur)180 mg中に溶解することと、この混合物を、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌すること(4時間、RT、60 RPM)とによって、製品を作製した。上記溶液を、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝したビタミンC 210 mgを含有する水相590 mgと混合した(12時間、RT、200 RPM)。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。続いて、EDTA、天然芳香物質及び甘味物質を添加し、攪拌して(0.5時間、RT、60 RPM)、最終製品を得た。
【0110】
実施例6
下記の成分を有する、貧血の治療における添加物又は栄養補助食品としての使用のための高濃縮鉄配合物を作製した。
【0111】
【表B】
【0112】
Phospholipon 90G(LipoidAG)220 mgを、プロピレングリコール(Chempur)180 mg中に溶解することと、この混合物を、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌すること(4時間、RT、60 RPM)とによって、製品を作製した。上記溶液を、リン酸緩衝液(0.01 M、pH 7.2)で緩衝した二リン酸鉄(III)20 mgを含有する水相580mgと混合した(12時間、RT、200 RPM)。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。続いて、酸化防止剤としてのビタミンE、天然芳香物質及び甘味物質を添加し、攪拌して(0.5時間、RT、60 RPM)、最終製品を得た。
【0113】
実施例7
下記の成分を有する、遺伝子治療法における使用のための医薬品を作製した。
【0114】
【表C】
【0115】
ホスファチジルコリン240 mg、N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウムメチル硫酸(DOTAP)10 mg及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)20mgを、プロピレングリコール(Chempur)200 mg中に溶解することと、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌すること(4時間、RT、60 RPM)とによって、製品を作製した。上記溶液を、リン酸緩衝生理食塩水1×(PBS)で緩衝したデオキシリボ核酸(DNA)20 mgを含有する水相530mgと混合した(12時間、RT、200 RPM)。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。得られた製品を、直接的な投与用に凍結乾燥したか、又は生理食塩水中に希釈した。
【0116】
実施例8
単層リポソーム(UL)の生産プロセスを最適化するために、表1に示す配合及びプロセスパラメーターを使用して、幾つかのリポソーム含有試料を作製し、これらの試料における粘度及びサイズ分布を決定した。
【0117】
表1:試験したリポソーム試料の配合及びプロセスパラメーターの概要
【表1】
【0118】
単層リポソーム(UL)含有試料の生産プロセスの第1の工程において、ホスファチジルコリン及びプロピレングリコールの混合物を攪拌することと、上記混合物を、ホスファチジルコリンの完全溶解まで室温で数時間インキュベートすることとによって、脂質溶液を作製した。得られた透明な黄色脂質溶液に、最終試料重量10 gを得るような量で、蒸留水を添加した。リン脂質の均質な白色懸濁液が得られるまで、試料を激しく混合した。
【0119】
多重層リポソーム(MLV)の得られた懸濁液を、3つの等しいバッチに分けた。1つのバッチを粘度試験(未調整バッチ)に付した。他の2つのバッチは、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通した押出によって調整した。試料において得られた単層リポソーム(UL)の均質なサイズ分布が得られるまで、押出プロセスを、それぞれ、室温(RT)又は70℃のいずれかで実行した。
【0120】
得られたリポソーム含有試料の粘度は、コーンプレート測定システムを備えたBrukerレオメータを使用することによって決定した。少量の試料(0.1 g~0.2 g)を、恒温測定チャンバーに入れ、コーンの回転速度に対する粘度の変化を測定することによって特性評価した。測定は、室温(20℃)で実施した。これらの粘度測定の結果を図1及び図2に示す。
【0121】
さらに、得られた試料におけるリポソームのサイズ分布は、試料を蒸留水で1:100の比で希釈した後に、Malvern ZetaSizerNano ZS機器を使用して、動的光散乱(DLS)によって決定した。サイズ決定の結果を、図3A図3B及び図4に示す。
【0122】
結果
単層リポソーム(UL)の生産プロセスを最適化した結果として、ULの形成は、室温での低圧力の押出後に既に行われていることがわかった。さらに、押出される試料中の脂質の量は、少なくとも20重量%であることが好適であることがわかった。さらに、上記脂質濃度を20重量%以上に設定することで、より少量の脂質を含有する試料とは対照的に、試料をポリカーボネートフィルターに1回通すことによって、リポソームの単分散集団(PDI<0.2)が得られることが容易であることがわかった。
【0123】
実施例9
本発明の親水性高分子の封入方法の高い効率を実証するために、実施例1~実施例4に従って、脂質のプロピレングリコール溶液を、それぞれ、蛍光標識親水性ポリマー(5kDaのFITC標識デキストラン)又はタンパク質(23 kDaの分子量を有するパパイン)の水溶液と混合することと、得られた懸濁液を、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出すこととによって、試料を作製した。得られたUL懸濁液中の脂質濃度は、上記懸濁液の20重量%~40重量%の範囲であった。
【0124】
試料を蒸留水で1:100の比で希釈した後、実施例8に記載するようにDLS技法を使用して、ULのサイズを検証した。
【0125】
ULに封入した蛍光標識ポリマー又はタンパク質の濃度を、分光法によって決定した。したがって、試料を、カットオフ(cut-off)範囲140 kDa~300kDaを有するBiomax-50濾過カセット(MerckMillipore)による限外濾過に付して、両方の区画、即ち、リポソームの外側(透過液の画分)及びリポソームの内側(残留液の画分)において、親水性化合物の濃度を決定した。Thermo Scientific Nicolet Evolution 100 UV-VIS蛍光分光計を用いて、定常状態蛍光発光スペクトルを測定した。励起波長を、パパイン及びフルオレセイン標識デキストラン(FITC-デキストラン)に関してそれぞれ280 nm及び490 nmに設定した。
【0126】
本明細書中の上記で提供する式に従って、封入効率を決定した。簡潔に述べると、パーセント(%)で表される封入効率「a」を、下記式に従って決定した:
【数2】
(式中、「Cout」は、試料中のULの親水性空間の外側に残存する水相部分中の親水性化合物の濃度を定め、「Ctot」は、試料中の親水性化合物の総濃度を定める)。
【0127】
結果
試料全てにおいて、単回押出サイクル後に、平均サイズ約100 nm及びPDI<0.2を有するULの均質な集団が得られ、そこでは、デキストラン又はパパインのほぼ100%が、それぞれ、UL内に封入された。パパインを含有する試料及び蛍光標識デキストランを含有する試料の両方に関して、濾液(透過液)及びUL内に封入された水性画分(残留液)の試料発光スペクトルを、それぞれ、図5に示す。
【0128】
具体的には、本発明の方法は、95%を超える効率で、これらの親水性高分子を上記ULに封入することを達成したことを示した。算出した封入効率を、試料中の脂質濃度の関数として図6に示す。
【0129】
実施例10
本明細書中に提示する親水性高分子を封入するための方法論の高い効率及び得られた構造の完全性を確認するために、それぞれ、未分画ヘパリン及び塩素E6の共有結合分子を有するPVPを含有する本発明によるUL配合物のイメージングを、透過型電子顕微鏡法を使用して実行した(実施例7を参照)。得られた画像から、本明細書中に記載する本発明のULにおける親水性高分子の封入の有効性及び本明細書中に記載する封入方法の高い効率が確認される。
【0130】
実施例11
本発明の親水性高分子に関する封入方法の高い効率を更に実証するために、Phospholipon90G(Lipoid AG)1000 mgを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、グリセリン(PCC、ポーランド)1000mg中に溶解した後、0.1 M NaCl中にアルブミン(分子量66kDa超)10 mgを含有する水溶液2000mgと混合した。上記実施例9に記載するように、封入効率を決定した。
【0131】
結果として、上記懸濁液の重量当たり25%の脂質濃度を含有するUL懸濁液が得られ、そこでは、アルブミンの83%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0132】
実施例12
本発明の親水性高分子に関する封入方法の高い効率を更に実証するために、Phospholipon90G(Lipoid AG)25 gを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、グリセリン(PCC、ポーランド)25g中に溶解した後、0.1 M NaCl中に0.5% w/wのヘパリンを含有する水相50 gと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。封入効率を評価するために、得られたUL懸濁液を、カットオフ範囲140 kDa~300 kDaを有するBiomax-50濾過カセット(Merck Millipore)による限外濾過に付して、両方の区画、即ち、リポソームの外側(透過液の画分)及びリポソームの内側(残留液の画分)において、親水性化合物の濃度を決定した。ELSD検出器及びSECカラムを備えたHPLCを使用して、検出器及びUL封入ヘパリンの濃度を決定した。
【0133】
結果として、上記懸濁液の重量当たり25%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、ヘパリンの56%が、単層リポソーム(UL)内に封入された。
【0134】
実施例13
本発明の親水性高分子に関する封入方法の高い効率を更に実証するために、Phospholipon90G(Lipoid AG)30 gを、均質な脂質黄色溶液が得られるまで攪拌しながら(4時間、RT)、グリセリン(PCC、ポーランド)20g中に溶解した後、0.1 M NaCl中に0.5% w/wのヘパリンを含有する水相50 gと混合した。得られた混合物を、1回のサイクルで、孔径100 nmを有するポリカーボネートフィルターに通して押出した。封入効率を評価するために、得られたUL懸濁液を、カットオフ範囲140 kDa~300 kDaを有するBiomax-50濾過カセット(Merck Millipore)による限外濾過に付して、両方の区画、即ち、リポソームの外側(透過液の画分)及びリポソームの内側(残留液の画分)において、親水性化合物の濃度を決定した。ELSD検出器及びSECカラムを備えたHPLCを使用して、検出器及びUL封入ヘパリンの濃度を決定した。
【0135】
結果として、上記懸濁液の重量当たり30%の脂質濃度を含有するリポソーム懸濁液が得られ、そこでは、ヘパリンの80%が、単層リポソーム(UL)内にそれぞれ封入された。
【0136】
本発明は、以下を包含する。
1.親水性空間を封入する1つの脂質二重層を有する単層リポソーム(UL)であって、
(i)該脂質二重層を形成する少なくとも1つの疎水性化合物と、
(ii)プロピレングリコール又はグリセリンと、を含み、該親水性空間は、親水性溶媒中に溶解された少なくとも1つの親水性化合物を含み、該親水性溶媒中の該親水性化合物の濃度は、20℃及び101 kPaで該親水性溶媒中の該親水性化合物の飽和濃度の少なくとも80%である、単層リポソーム。
2.前記脂質二重層を形成する前記少なくとも1つの疎水性化合物とプロピレングリコール又はグリセリンとの重量比は、2:1~1:1の範囲である、前項1に記載の単層リポソーム。
3.前記脂質二重層を形成する前記少なくとも1つの疎水性化合物と前記少なくとも1つの親水性化合物との重量比は、100:1~1:3、50:1~1:2、又は25:1~1:1の範囲である、前項1又は2に記載の単層リポソーム。
4.前記単層リポソームの15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、若しくは22重量%~24重量%、又は前記単層リポソームの20重量%~40重量%の量で、前記少なくとも1つの疎水性化合物を含む、前項1~3のいずれか一項に記載の単層リポソーム。
5.前記少なくとも1つの親水性化合物は、
(i)100Da~1500 Da、200 Da~1400Da、300 Da~1200Da、又は500 Da~1000 Daの分子量を有する低分子量親水性物質、及び、
(ii)1500Da~300 kDa、2 kDa~280kDa、5 kDa~250 kDa、10 kDa~200 kDa、又は50kDa~200 kDaの分子量範囲を有する親水性高分子、からなる群から選択される、前項1~4のいずれか一項に記載の単層リポソーム。
6.前記少なくとも1つの親水性化合物は、イオン、タンパク質、ペプチド、炭水化物、天然ポリマー及び合成ポリマー、核酸、核酸誘導体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される、前項1~5のいずれか一項に記載の単層リポソーム。
7.前記親水性溶媒中の前記親水性化合物の前記飽和濃度は、親水性溶媒1000mlにつき1 g~500 gの範囲、若しくは10g~200 gの範囲である、前項1~6のいずれか一項に記載の単層リポソーム。
8.前記親水性溶媒は、水、水性緩衝液、塩水溶液、単糖又は二糖水溶液及びそれらの組合せからなる群から選択される、前項1~7のいずれか一項に記載の単層リポソーム。
9.前項1~8のいずれか一項に記載の少なくとも1つの単層リポソームを含む液体組成物。
10.下記の特性:
(i)5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpH、
(ii)30mOsm~400 mOsm、40 mOsm~300mOsm、又は50 mOsm~200mOsmの範囲のオスモル濃度、
(iii)前記親水性化合物対前記疎水性化合物の総モル比10-5~1、のうちの少なくとも1つを有する、前項9に記載の液体組成物;又は
下記の特性:
(i)5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpH、
(ii)30mOsm~400 mOsm、40 mOsm~300mOsm、又は50 mOsm~200mOsmの範囲のオスモル濃度、
(iii)前記親水性化合物対前記疎水性化合物の総モル比10-5~1、のうちの少なくとも1つを有し、水性組成物である、前項9に記載の液体組成物。
11.少なくとも1つの賦形剤を更に含む、又は、少なくとも1つの賦形剤を更に含み、該賦形剤は、緩衝剤、浸透圧活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香味剤、芳香剤、及びそれらの組合せからなる群から選択される、又は少なくとも1つの賦形剤を更に含み、該賦形剤は、緩衝剤、浸透圧活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香味剤、芳香剤、及びそれらの組合せからなる群から選択され、該浸透圧活性剤は、一価の塩及び糖から、若しくは塩化ナトリウム及びショ糖から選択される、前項9又は10に記載の液体組成物。
12.単層リポソームに親水性化合物を封入する方法であって、下記の工程:
(a)少なくとも1つの疎水性化合物と、プロピレングリコール及びグリセリンから選択される多価アルコールとを含む脂質溶液を準備する工程と、
(b)少なくとも1つの親水性化合物を含む水相を準備する工程と、
(c)(a)の該脂質溶液を、(b)の該水相と混合することによって、水和された脂質溶液を作製する工程と、
(d)80℃未満の温度で、(c)の該水和された脂質溶液を押出す工程と、を含み、該少なくとも1つの疎水性化合物は、単層リポソームの均質集団を形成し、該単層リポソームは、総容量の50%を超える該水相を含む、方法。
13.前記少なくとも1つの親水性化合物は、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%から選択される封入効率で、前記単層リポソーム内に封入される、前項12に記載の方法。
14.前記多価アルコールは、前記水和された脂質溶液の5重量%~30重量%、10重量%~25重量%、15重量%~22重量%、又は18重量%~20重量%の濃度で、工程(c)の前記水和された脂質溶液中に含まれる、前項12又は13に記載の方法。
15.工程(c)の前記水和された脂質溶液中の前記少なくとも1つの疎水性化合物の全濃度は、前記水和された脂質溶液の15重量%~40重量%、16重量%~39重量%、17重量%~38重量%、18重量%~37重量%、19重量%~35重量%、20重量%~30重量%、21重量%~25重量%、若しくは22重量%~24重量%、又は、前記水和された脂質溶液の20重量%~40重量%である、前項12~14のいずれか一項に記載の方法。
16.前記少なくとも1つの疎水性化合物は、リン脂質、スフィンゴ脂質又はステロールから選択される、又は前記少なくとも1つの疎水性化合物は、ホスファチジルコリンである、又は、前記少なくとも1つの疎水性化合物は、精製された大豆ホスファチジルコリンである、前項12~15のいずれか一項に記載の方法。
17.工程(b)は、前記水相のpHを、5.0~7.5、6.0~7.4、又は7.0~7.2の範囲内のpHに調節することを含む、前項12~16のいずれか一項に記載の方法。
18.プロピレングリコール及びグリセリンから選択される前記多価アルコールが、工程(d)で得られる押出された水和された脂質溶液から除去される工程(e)を更に含む、又は、プロピレングリコール及びグリセリンから選択される前記多価アルコールが、工程(d)で得られる押出された水和された脂質溶液から除去される工程(e)を更に含み、前記多価アルコールは、限外濾過によって、該押出された水和された脂質溶液から除去される、前項12~17のいずれか一項に記載の方法。
19.前項12~18のいずれか一項に記載の方法によって作製される単層リポソーム(UL)。
20.治療法における使用のための前項1~8及び19のいずれか一項に記載の単層リポソーム、又は前項9~11のいずれか一項に記載の組成物。
21.薬剤、化粧品製品、食品添加物又は消毒薬としての前項1~8及び19のいずれか一項に記載の単層リポソーム、又は前項9~11のいずれか一項に記載の組成物の使用。