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特開2022-127031熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法
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  • 特開-熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127031
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/443 20060101AFI20220824BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C04B35/443
C04B35/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021024944
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】小池 康太
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詩門
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅崇
(57)【要約】
【課題】熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具等の製造に適した熱処理冶具用組成物、当該熱処理冶具用組成物を用いた熱処理冶具の製造方法の提供を目的とした。
【解決手段】本発明の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含み、ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むこと、を特徴としている。本発明の熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素の平均粒径が、12μm以上、45μm以下の範囲内であると良い。また、本発明の熱処理冶具用組成物は、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むと良い。熱処理冶具用組成物は、熱処理容器10のような熱処理冶具の製造方法に好適に使用される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナを重量比で5%以上33%以下、
炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含み、
ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むこと、を特徴とする熱処理冶具用組成物。
【請求項2】
前記炭化ケイ素の平均粒径が、12μm以上、45μm以下の範囲内であること、を特徴とする請求項1に記載の熱処理冶具用組成物。
【請求項3】
前記スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むこと、を特徴とする請求項1に記載の熱処理冶具用組成物。
【請求項4】
アルミナを重量比で5%以上33%以下、
炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含むように調製し、
前記炭化ケイ素及び前記アルミナの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、前記炭化ケイ素及び前記アルミナの含有量が規定されることを特徴とする熱処理冶具用組成物の調製方法。
【請求項5】
アルミナを重量比で5%以上33%以下、
炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下、
スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むように調製し、
前記炭化ケイ素、前記アルミナ、及び前記スピネルの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、前記炭化ケイ素、前記アルミナ、及び前記スピネルの含有量が規定されることを特徴とする熱処理冶具用組成物の調製方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の熱処理冶具用組成物、あるいは請求項4又は5に記載の熱処理冶具用組成物の調製方法により調製された熱処理冶具用組成物を成形し、焼成することを特徴とする熱処理冶具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されている熱処理容器のような熱処理冶具が、例えばリチウム電池用活物質の製造等において熱処理を行うために用いられている。
【0003】
下記特許文献1に開示されている熱処理容器は、60?95mass%でアルミナを含有する基部と、20?80mass%でスピネルを含有してなり、基部と一体に形成された表面部と、を有することを特徴とする。また、下記特許文献1に開示されている製造方法は、アルミナ系粉末を配置する工程と、スピネル系粉末をアルミナ系粉末の上方に配置する工程と、圧縮して成形する工程と、焼成する工程と、を有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5005100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の熱処理容器は、スピネルを含有させることにより、リチウム電池用正極活物質の製造等に際して、耐反応性を向上したものとされている。しかしながら、リチウム電池用正極活物質の変化に伴い、今までよりも優れた耐反応性を持つ熱処理容器が求められるようになり、従来のスピネル量では十分な耐久性を得られなくなってきているが、スピネル量を増やした場合には、熱衝撃に対する耐久性の低下が懸念される。具体的には、スピネルを含有させた熱処理容器においては、熱衝撃が加わることによりマイクロクラックが発生し、熱衝撃が繰り返し作用すると、やがてクラックが繋がって破損してしまう懸念がある。そのため、従来技術においては、例えばリチウム電池用活物質等の製造効率の向上等を図るべく、熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具や、このような熱処理冶具を形成するための熱処理冶具用組成物の提供が求められていた。
【0006】
かかる知見に基づき、本発明は、熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具等の製造に適した熱処理冶具用組成物、当該熱処理冶具用組成物を用いた熱処理冶具の製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含み、ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むこと、を特徴とするものである。
【0008】
(2)上述した熱処理冶具用組成物は、前記炭化ケイ素の平均粒径が、12μm以上、45μm以下の範囲内であること、を特徴とするものであると良い。
【0009】
(3)上述した熱処理冶具用組成物は、前記スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むこと、を特徴とするものであると良い。
【0010】
(4)上述した課題を解決すべく提供される本発明の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含むように調製し、前記炭化ケイ素及び前記アルミナの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、前記炭化ケイ素及び前記アルミナの含有量が規定されることを特徴とするものである。
【0011】
(5)上述した課題を解決すべく提供される本発明の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むように調製し、前記炭化ケイ素、前記アルミナ、及び前記スピネルの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、前記炭化ケイ素、前記アルミナ、及び前記スピネルの含有量が規定されることを特徴とするものである。
【0012】
(6)上述した課題を解決すべく提供される本発明の熱処理冶具の製造方法は、上述した本発明の熱処理冶具用組成物、あるいは上述した本発明の熱処理冶具用組成物の調製方法により調製された熱処理冶具用組成物を成形し、焼成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具等の製造に適した熱処理冶具用組成物、当該熱処理冶具用組成物を用いた熱処理冶具の製造方法の提供を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例に係る熱処理冶具の製造方法によって製造された熱処理容器を示す斜視図である。
図2】炭化ケイ素を重量比で5%含有させた実施例1,6及び比較例1,3に係る弾性率減少割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る熱処理冶具用組成物、及び当該組成物を用いた熱処理冶具の製造方法について説明する。
【0016】
以下において本実施形態で例示する熱処理冶具用組成物は、例えば、いわゆる匣鉢やルツボ等の熱処理容器、棚板、セッター等、熱処理用冶具全般の製造において好適に利用できる。本実施形態の熱処理冶具は、壁部の厚さの最も薄い最薄部が、9~12mmの厚さを有することが好ましい。また、本実施形態の熱処理冶具において、壁部の最薄部以外の部分の厚さは、特に限定されるものではないが、16mm以下の厚さであることが好ましい。
【0017】
本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナ、及び炭化ケイ素を含有し、ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むように調製したものである。さらに具体的には、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含むものとされている。また、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むものとされている。本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナ、炭化ケイ素、及びスピネルに加えて、ムライト、コージェライト、粘土などを残部に含んでいる。
【0018】
本実施形態の熱処理冶具は、上述した熱処理冶具用組成物を成形した成形体を焼成してなる。これらのセラミックス粉末の混合粉末から製造されることで、本発明の熱処理容器が多孔質セラミックスにより形成されることとなり、耐熱性を有するようになる。
【0019】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、アルミナは、主として被熱処理化合物に対する耐反応性を高める効果を発揮する。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物を焼成して形成される熱処理冶具は、被熱処理化合物に対して高い耐反応性(耐食性とも称す)を発揮する。
【0020】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、アルミナは、重量比で5%以上33%以下の割合で配合される。これにより、被熱処理化合物に対する高い耐反応性を得られる熱処理冶具を製造できる。アルミナ粉末の含有割合が5%未満では、熱処理冶具においてアルミナ粉末の含有の効果を十分に発揮できなくなる。アルミナ粉末の含有割合が33%を超えると、セラミックス粉末に含まれる他の成分が相対的に減少し、熱処理冶具が所望の特性を発揮できにくくなる。
【0021】
炭化ケイ素は、本実施形態の熱処理冶具用組成物を用いて形成された熱処理冶具に熱衝撃が加えられた際にマイクロクラックの発生を抑制する効果を発揮する。炭化ケイ素を熱処理冶具用組成物に含有させることにより、当該熱処理冶具用組成物により形成された熱処理冶具に対して熱衝撃を作用させた際の弾性率の低下を抑制できる。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物において、炭化ケイ素は、主として耐熱衝撃性の向上を図る効果を発揮する。
【0022】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、炭化ケイ素は、重量比で2%以上20%以下の範囲で配合される。これにより、耐熱衝撃性が高く、熱処理冶具への成形性の面においても十分な性能を発揮可能な熱処理用冶具を製造できる。炭化ケイ素の含有割合が2%未満である場合にも、耐熱衝撃性の向上に対する効果は見込める。しかしながら、熱衝撃に対して十分な耐久性を示す熱処理用冶具を形成するためには、炭化ケイ素の含有量が2%以上であることが好ましい。また、炭化ケイ素を重量比で20%よりも多く配合することによっても、耐熱衝撃性の向上効果が見込める。しかしながら、成形性の観点からすると、炭化ケイ素の配合量は、重量比で20%以下であることが好ましい。
【0023】
また、本実施形態の熱処理冶具用組成物において、炭化ケイ素は、平均粒径が12μm以上、45μm以下の範囲内のものとして配合される。炭化ケイ素の平均粒径が12μm未満の粒径である場合には、被熱処理化合物の焼成に際して熱処理冶具が酸化雰囲気下に晒された場合に、炭化ケイ素が酸化してしまい、耐熱衝撃性の向上効果が十分発揮できなくなる懸念がある。また、炭化ケイ素の平均粒径が45μmよりも大きい場合には、熱処理冶具の強度が大幅に低下する懸念がある。
【0024】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、コージェライトは、主として耐熱衝撃性を高める効果を発揮する。本実施形態の熱処理冶具用組成物においては、上述した炭化ケイ素についても、耐熱衝撃性の向上に寄与する。そのため、コージェライトは、炭化ケイ素によって得られる耐熱衝撃性の向上効果をさらに高める効果を発揮する。そのため、炭化ケイ素に加えてコージェライトを配合することにより、熱処理冶具用組成物を焼成して形成される熱処理冶具の耐熱衝撃性をより一層高めることができる。
【0025】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、コージェライトは、上述したアルミナや炭化ケイ素の残部の範囲内で配合される。コージェライトの含有割合を少なくすると、熱処理冶具における耐熱衝撃性の向上効果が低くなる。また、コージェライトの含有割合が上述したアルミナ及び炭化ケイ素の残部の範囲を逸脱して多くなると、熱処理冶具における被熱処理化合物による汚染が生じやすくなる。特に、リチウムを含む活物質用セラミック材料のように、リチウムを含有するリチウム含有化合物を非熱処理化合物とするときには、リチウム含有化合物による汚染が生じやすくなる。
【0026】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、ムライトは、コージェライトと同様に、主として耐熱衝撃性を高める効果を発揮する。また、ムライトは、コージェライトと同様に、上述したアルミナや炭化ケイ素の残部の範囲内で配合される。このような配合量でムライトを配合することにより、熱処理冶具の耐熱衝撃性をさらに高めることができる。
【0027】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、ムライトの含有割合を少なくすると、熱処理冶具における耐熱衝撃性の向上効果が低くなる。また、ムライトの含有割合が上述したアルミナ及び炭化ケイ素の残部の範囲を逸脱して多くなると、熱処理冶具用組成物に含まれる他の成分が相対的に減少し、熱処理容器自身が所望の特性を発揮できにくくなる。
【0028】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、スピネルは、主として耐反応性を高める効果を発揮する。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物においてスピネルを配合したものを焼成して形成される熱処理冶具は、高い耐反応性を発揮する。スピネル粉末による耐反応性の向上は、熱処理容器の被熱処理化合物がリチウムを含有する化合物の場合に特に効果を発揮し、リチウムイオン二次電池の正極活物質の場合に特に優れた効果を発揮する。
【0029】
本実施形態の熱処理冶具用組成物において、スピネルは、重量比で35%以上65%以下の範囲で含むように配合される。これにより、本実施形態の熱処理冶具用組成物においてスピネルを配合したものを焼成して形成される熱処理冶具は、被熱処理化合物に対する耐反応性が高いという特性を発揮する。ここで一般的に、熱処理冶具用組成物においてスピネルを配合した場合には、熱衝撃に対する耐久性の低下が懸念される。しかしながら、炭化ケイ素の存在下においてスピネルを配合することにより、熱衝撃に対する耐久性の低下が抑制される。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物によれば、十分な耐熱衝撃性を確保しつつ、耐反応性の高い熱処理冶具を形成することができる。
【0030】
上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素及びアルミナの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、炭化ケイ素及びアルミナの含有量を規定することができる。すなわち、上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素を含まない状態においてアルミナが占める含有量の一部を、炭化ケイ素によって置換するように、炭化ケイ素の含有量を調整することができる。そのため、上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素の含有量の増加に伴い、アルミナの含有量が減少するように、アルミナ及び炭化ケイ素の含有量を規定することができる。また、上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素、アルミナ、及びスピネルの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、炭化ケイ素、アルミナ、及びスピネルの含有量を規定することができる。すなわち、上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素を含まない状態においてアルミナ及びスピネルが占める含有量の一部を、炭化ケイ素によって置換するように、炭化ケイ素の含有量を調整することができる。そのため、上述した熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素の含有量の増加に伴い、アルミナ及びスピネルのいずれか一方又は双方の含有量が減少する相関関係が成立するように、アルミナ、スピネル、及び炭化ケイ素の含有量を規定することができる。
【0031】
本実施形態の熱処理冶具用組成物は、上述したアルミナ、炭化ケイ素、スピネル、ムライト、コージェライトに加えて、粘土を含んでいる。また、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、例えば、従来公知の添加剤等を含有したものとすると良い。本実施形態の熱処理冶具用組成物に添加する添加剤は、例えば、成形体を焼成に伴って消失する化合物や、バインダ等のように、従来の熱処理容器に用いられている添加剤のうち、熱処理容器の特性に変化を生じさせないものとすると良い。例えば、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、バインダを含有したものとすることにより、熱処理冶具の成形性を向上させ、熱処理冶具の製造コストの抑制、歩留まりの向上等の効果が期待できる。
【0032】
本実施形態の熱処理冶具の製造方法は、上述した熱処理冶具用組成物を所定形状に成型した後、所定条件で焼成することによって実現できる。焼成条件については適宜設定可能であるが、例えば、最高温度を1250℃ ~1400℃ 、好ましくは1280℃~1350℃ として、所定時間に亘って焼成すると良い。焼結によるコージライトの分解を防止するため、焼成温度は1400℃ 以下にすると良い。
【0033】
本実施形態の熱処理冶具用組成物、及び当該組成物を用いた熱処理冶具の製造方法によれば、例えば以下の(1)~(7)のような効果が得られる。
【0034】
(1)本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含み、ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むこと、を特徴とするものである。
【0035】
このように、炭化ケイ素を含有させた熱処理冶具用組成物を用いて熱処理冶具を形成すると、熱衝撃が加わることによるマイクロクラックの発生を抑制できる。これにより、熱衝撃を繰り返し作用させても、マイクロクラックが成長しにくく、熱処理冶具が破断しにくい熱処理冶具を形成することが可能となる。従って、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具等の製造に適している。
【0036】
(2)本実施形態の熱処理冶具用組成物は、炭化ケイ素の平均粒径が、12μm以上、45μm以下の範囲内であること、を特徴とするものである。このように、12μm以上の大きさの炭化ケイ素を含有させることにより、12μmよりも小さな炭化ケイ素を含有させた場合よりも、酸化雰囲気下において熱処理冶具が使用された際に炭化ケイ素として存在し続け、マイクロクラックの発生を抑制する効果を維持できる可能性が高まる。また、炭化ケイ素として平均粒径が45μ以下のものを用いることにより、炭化ケイ素を含有させることによる熱処理用冶具の強度低下を抑制できる。従って、炭化ケイ素の平均粒径を12μm以上、45μm以下の範囲内とすることにより、熱処理冶具におけるマイクロクラックの発生を抑制する効果を十分に確保しつつ、炭化ケイ素を含有させることによる強度低下を抑制可能な熱処理冶具用組成物を提供できる。なお、本明細書等における平均粒径については、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製MT3300II)にて測定した材料粉末のD50の値とした。
【0037】
(3)本実施形態の熱処理冶具用組成物は、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むこと、を特徴とするものである。一般的に、熱処理冶具用組成物にスピネルを含有させると、耐反応性の向上が図れる一方、耐熱衝撃性の低下が懸念される。しかしながら、本実施形態の熱処理冶具用組成物のように、炭化ケイ素を含有させることにより、スピネルを含有させることによる耐熱衝撃性の低下を抑制することができる。従って、本実施形態の熱処理冶具用組成物によれば、炭化ケイ素とスピネルとの相乗効果により、耐熱衝撃性の向上を図りつつ、耐反応性の向上も図ることができる。
【0038】
(4)本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含むように調製し、炭化ケイ素及びアルミナの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、炭化ケイ素及びアルミナの含有量が規定されたものである。このように、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナ及び炭化ケイ素の含有量をバランスさせたものである。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物によれば、アルミナによる耐反応性の向上効果と、炭化ケイ素による耐熱衝撃性の向上効果の双方がバランス良く発揮できる熱処理冶具を形成することができる。
【0039】
(5)本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むように調製し、炭化ケイ素、アルミナ、及びスピネルの含有量の和が重量比で所定の割合となるように、炭化ケイ素、アルミナ、及びスピネルの含有量が規定されたものである。このように、本実施形態の熱処理冶具用組成物は、アルミナ、スピネル、及び炭化ケイ素の含有量をバランスさせたものである。また上述したように、スピネルを、炭化ケイ素と共に含有させることにより、スピネルを含有させることによる耐熱衝撃性の低下を抑制することができる。そのため、本実施形態の熱処理冶具用組成物によれば、アルミナ及びスピネルによる耐反応性の向上効果と、炭化ケイ素による耐熱衝撃性の向上効果の双方がバランス良く発揮できる熱処理冶具を形成することができる。
【0040】
(6)本実施形態の熱処理冶具の製造方法は、上述した本実施形態の熱処理冶具用組成物、あるいは上述した本実施形態の熱処理冶具用組成物の調製方法により調製された熱処理冶具用組成物を成形して焼成するものである。そのため、本実施形態の製造方法によれば、熱衝撃に対する耐久性の高い熱処理冶具を製造することができる。
【実施例0041】
以下、実施例を用いて本発明の熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法について具体的に説明する。本実施例では、熱処理冶具の例として、図1に示すように、天面側に開口部分を有する槽状の外観形状を有する匣鉢を熱処理容器10として製作した。熱処理容器10は、例えば、リチウムを含む活物質用セラミック材料を被熱処理化合物とし、これを焼成するため等の用途に用いることができるものである。
【0042】
図1に示した熱処理容器10は、底部12及び立設壁14を有する。底部12は、板状のものであり、例えば平面視で矩形、円形等の形状のもの(図示例では矩形)のものとすることができる。また、立設壁14は、底部12の周縁部において、底部12の全周にわたって立設するように形成された部分である。図1の熱処理容器10は、底部12及び立設壁14のうち、厚さの最も薄い最薄部が、9~12mmの厚さとし、最薄部以外の部分の厚さを16mm以下の厚さとして製造した。
【0043】
また、アルミナ、炭化ケイ素、スピネル、ムライト、コージェライト、及び粘土を準備し、以下の表1~表3に示した重量比になるように秤量して混合した熱処理冶具用組成物を試料として複数種準備した。また、各試料について、以下に説明する試験方法によって評価試験を行い、その結果を表1~表3に示した。なお、以下の表1~表3において、共通する試料名にて表示されている熱処理冶具用組成物は、それぞれ同一の重量比で各成分を含むものである。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
≪試験方法について≫
【0048】
(a)曲げ応力について
【0049】
上述した各試料について、10×10×60mmの大きさに成形したものを準備した。当該試料について、支点間距離を40mmとして、JISR1604に準拠して、常温における三点曲げ強度を計測した。
【0050】
(b)弾性率について
上述した各試料について、100×50×10mmの板状に成形したものを準備し、常温における弾性率を弾性率計にて計測した。
【0051】
(c)熱衝撃劣化試験について
【0052】
上述した各試料について、熱衝撃を繰り返し加えることによる劣化の進行度についての評価を行うべく、熱衝撃劣化試験を行った。具体的には、上述した各試料について、100×50×10の板状に成形したものを準備し、当該試料について(1)1000℃で30分加熱、(2)水中投下、(3)弾性率計測、からなる一連のフローを6回繰り返して行う試験を行った。熱衝撃を繰り返し加えることによる劣化の進行度についての評価は、各サンプルの初期の弾性率から、6セット後の弾性率への変化率(劣化率)を百分率で表すことにより評価した。
【0053】
(d)成形性について
上述した各試料について、熱処理容器10として成形する際の成形性について、成形しやすいものを○、成形しにくいものを×として評価した。
【0054】
≪試験結果について≫
以下、上述した各試験の結果について、上記した表1~表3に基づいて説明する。
【0055】
[表1に示した試験結果について]
表1は、アルミナを重量比で15%以上35%以下、炭化ケイ素を重量比で0%以上20%以下の範囲で含むと共に、ムライトを重量比で5%、コージェライトを重量比で15%含み、これらの残部にスピネルを重量比で35%、粘土を重量比で10%含んだ実施例1~実施例6、及び比較例1~4について、上記各試験の試験結果を纏めたものである。
【0056】
表1に纏めた試験例では、実施例1~実施例6、及び比較例1~4で、熱処理冶具用組成物に含まれる炭化ケイ素の有無や重量比が相違している。そのため、表1によれば、熱処理冶具用組成物における炭化ケイ素の有無や重量比が、熱処理冶具において求められる特性に与える影響についての知見を得ることができる。表1に纏めた試験例においては、炭化ケイ素及びアルミナの含有量の和が重量比で所定の割合(35%)となるように炭化ケイ素及びアルミナの含有量を規定し、炭化ケイ素の含有量の増加あるいは減少に応じて、アルミナの含有量が減少あるいは増加させている。また、表1に纏めた試験例では、炭化ケイ素の粒径の大きさを変動させている。そのため、表1によれば、炭化ケイ素の粒径が、熱処理冶具において求められる特性に与える影響についての知見を得ることができる。以下、表1に纏めた試験結果について各試験毎に検討する。
【0057】
先ず、表1に列挙された各実施例及び比較例に関し、曲げ応力に関する試験結果を確認すると、実施例1~6及び比較例1~4のうち、炭化ケイ素の平均粒径が45μmよりも大きな150μmのものを用いた比較例3において、他の実施例や比較例よりも大幅に曲げ応力が他のものよりも著しく低くなることが見いだされた。これにより、炭化ケイ素として45μmよりも大きなものを用いると、曲げ応力(強度)が著しく低下するとの知見が得られた。
【0058】
また、初期弾性率についての試験結果を確認すると、実施例1~実施例6、及び比較例1~4のいずれにおいても4.0[GPa]以上の強度が発揮されることが見いだされた。
【0059】
続いて、表1に列挙された各実施例及び比較例に関し、熱衝撃劣化試験を行い、熱衝撃劣化度を導出した。その結果、実施例1~6及び比較例3は、6セット分の熱衝撃を加えても、初期の弾性率に対して50%以上の弾性率を維持できることが見いだされた。しかしながら、炭化ケイ素を含まない比較例1は、6セット分の熱衝撃を加えた後の弾性率が、初期の弾性率の31.7%に過ぎず、大幅に劣化した結果が得られた。また、炭化ケイ素が重量比で1%含まれた比較例2については、炭化ケイ素を全く含まない比較例1よりも十分高い値(47.3%)であったが、僅かながら50%には届かない結果であった。
【0060】
また、炭化ケイ素を重量比で5%含んでいる場合であっても、炭化ケイ素の粒径が12μmよりも小さいもの(2μm)である比較例4の場合には、炭化ケイ素を含まない場合に比べて熱衝撃劣化度合いが改善されることが見いだされた。その一方で、比較例4の熱衝撃劣化度合いが40.8%であったことから、炭化ケイ素の粒径が12μm以上とすることが、熱衝撃劣化度合いの改善においてさらに好適な条件であるとの知見が得られた。なお、炭化ケイ素の粒径が12μmよりも小さい場合に、これよりも粒径が大きな場合に比べて熱衝撃劣化度合いが低い結果に至ったのは、炭化ケイ素が酸化雰囲気において酸化してしまうことにより、炭化ケイ素を含有させることによる効果が低減されたことが原因であると推認される。
【0061】
さらに、実施例1~実施例6、及び比較例1~4のうち、炭化ケイ素を重量比で5%含有させたもの(実験例1,6及び比較例3)について、熱衝撃を複数回作用させた場合の弾性率の減少割合を調べた。その結果、図2のように、炭化ケイ素を含まない比較例1においては、2回目以降の熱衝撃を加えるごとに弾性率が大幅に減少していくことが見いだされた。これに対し、実験例1,6及び比較例3のように、炭化ケイ素を含有したサンプルにおいては、2回目以降の熱衝撃を加えても弾性率の大幅な低下は起こらないことが見いだされた。これらの試験結果に基づき、熱処理冶具用組成物において炭化ケイ素を含有させることにより、熱衝撃を繰り返し付与することによる弾性率の低下を抑制できることが見いだされた。
【0062】
表1に示した試験結果に基づけば、熱処理冶具用組成物について、炭化ケイ素を重量比で2%以上含むものとすることにより、炭化ケイ素を含まないものに比べて初期弾性率や熱衝撃劣化度合いを改善できることが見いだされた。また、炭化ケイ素を含むものとする場合には、炭化ケイ素の粒径を12μm以上とすることにより、熱衝撃劣化度合いの改善効果が高まることが見いだされた。さらに、炭化ケイ素の粒径を45μm以下にすることにより、炭化ケイ素を含まないものと比較して、曲げ応力についての改善効果が高まることが見いだされた。
【0063】
[表2に示した試験結果について]
表2は、アルミナを重量比で10%以上35%以下、炭化ケイ素を重量比で0%以上25%以下の範囲で含むと共に、ムライトを重量比で5%、コージェライトを重量比で15%含み、これらの残部にスピネルを重量比で35%、粘土を重量比で10%含んだ実施例1~実施例6、及び比較例1,2,5について、上記各試験の試験結果を纏めたものである。
【0064】
表2においては、熱処理冶具用組成物に炭化ケイ素を含有させることによる成形性への影響について検討した試験結果を纏めている。表2に示すように、炭化ケイ素を重量比で1%以上20%以下の範囲において含有した熱処理冶具用組成物(実施例1~5及び比較例2)は、炭化ケイ素を含有していない比較例1と同様に、成形性が良好であった。しかしながら、炭化ケイ素の含有量を重量比で25%まで増やすと成形性が低下した。そのため、熱処理冶具を成形するために用いるためには、熱処理冶具用組成物に炭化ケイ素の含有量を重量比で25%以下の範囲とすることが好ましいとの知見が得られた。
【0065】
[表3に示した試験結果について]
表3は、炭化ケイ素を重量比で5%含有させると共に、炭化ケイ素の粒径を12μmとした条件下において、アルミナの含有量を重量比で5%以上30%以下、スピネルの含有量を重量比で35%以上65%以下の範囲で変動させた実験例1,7~11、及び比較例6について、上記各試験の試験結果を纏めたものである。
【0066】
先ず、表3に列挙された各実施例及び比較例に関し、曲げ応力に関する試験結果を確認すると、実験例1,7~11、及び比較例6の全てにおいて、熱処理冶具として使用するうえで求められる曲げ応力が発揮できるとの知見が得られた。また、初期弾性率についての試験結果についても、実験例1,7~11、及び比較例6の全てにおいて、4.0[GPa]以上の強度が発揮され、熱処理冶具として使用するうえで十分な性能が得られることが見いだされた。
【0067】
続いて、表3に列挙された各実施例及び比較例に関し、熱衝撃劣化試験を行い、熱衝撃劣化度を導出した。その結果、炭化ケイ素を含有させた実験例1,7~11については、耐熱衝撃性の低下が懸念されるスピネルの含有量を65重量%まで増やしてもなお、熱処理冶具として使用するうえで十分な熱衝撃劣化度合いの数値が得られるとの知見が得られた。これに対し、炭化ケイ素を含有させなかった比較例6については、他の実験例1,7~11に比べて熱衝撃による劣化が大きく、耐熱衝撃性の観点において熱処理冶具として使用するには性能が劣るとの知見が得られた。従って、熱処理冶具用組成物に炭化ケイ素と共にスピネルを含有させる場合には、少なくとも重量比で35%以上65%以下の範囲でスピネルを含むものとすることにより、熱処理に適した性能を発揮可能な熱処理用冶具を形成できるとの知見が得られた。
【0068】
以上、表1~表3に示した各実施例や各比較例についての試験結果に基づけば、熱処理冶具用組成物は、アルミナを重量比で5%以上33%以下、炭化ケイ素を重量比で2%以上20%以下の範囲で含み、ムライト、コージェライト、スピネルから選ばれる一又は複数を残部に含むものであると良いことが判明した。また、熱処理冶具用組成物にスピネルを含有させる場合には、スピネルを重量比で35%以上65%以下の範囲で含むものとすると良いことが判明した。さらに、熱処理冶具用組成物に含有させる炭化ケイ素は、平均粒径が12μm以上、45μm以下の範囲内のものであることが好ましいことが判明した。
【0069】
また、表1~表3に示した各実施例や各比較例についての試験結果に基づけば、上述したような好適な組成比で各成分を含む熱処理冶具用組成物を成形して焼成することで、温度変化に対する耐久性の高い熱処理冶具を提供できるとの知見が得られた。
【0070】
さらに、上述した各実施例や各比較例についての試験結果に基づけば、上述した好適な組成比で各成分を含む熱処理冶具用組成物によって製造された熱処理冶具は、リチウムを含むリチウムイオン二次電池の活物質用セラミック材料を焼成して製造するのに最適であるとの知見が得られた。具体的には、上述した製法で製造された熱処理冶具は、例えば、リチウムイオン二次電池用の活物質を収容しつつ、未だ高温(例えば約500度程度の高温)の状態において強制的に空冷する等の処理を行ったとしても破損等しにくい。また、上述した製法で製造された熱処理冶具は、リチウム含有化合物に含まれるリチウムに対する耐食性が高い。そのため、上述した製法で製造された熱処理冶具は、リチウムイオン二次電池の活物質の製造に適している。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法は、熱処理に用いるための冶具全般の素材、及び製造方法として好適に利用できる。また、本発明の熱処理冶具用組成物、及び熱処理冶具の製造方法によって形成された熱処理冶具は、例えばリチウムイオン二次電池の活物質の製造等において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0072】
10 : 熱処理容器(熱処理冶具)
12 : 底部
14 : 立設壁
図1
図2