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特開2022-127116真空ポンプ、及び、真空ポンプ用回転体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127116
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、真空ポンプ用回転体
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
F04D19/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025072
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】時 永偉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131BA09
3H131CA01
3H131CA03
3H131CA34
3H131CA40
(57)【要約】
【課題】回転体と回転軸との結合部位に発生する応力を低減することが可能な真空ポンプを提供する。
【解決手段】回転翼形成部217の外周に回転翼102b、102cを有し、ボルト214によりロータ軸113に締結され、ロータ軸113と共に回転可能な回転体103を備え、回転体103の、回転軸113と嵌合する嵌合穴部215もしくはボルト214が貫通した貫通穴部216の少なくとも一方が応力低減対象部であり、回転体103に、回転体103の回転中に、応力低減対象部に発生する応力を低減させる溝部218を備えた。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部分の外周に回転翼を有し、
締結手段により回転軸に締結され、前記回転軸と共に回転可能な回転体を備えた真空ポンプにおいて、
前記回転体の、前記回転軸と嵌合する嵌合穴部もしくは前記締結手段が貫通した貫通穴部の少なくとも一方が応力低減対象部であり、前記回転体に、前記回転体の回転中に、前記応力低減対象部に発生する応力を低減させる溝部を備えたことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記溝部は、前記嵌合穴部もしくは前記貫通穴部よりも外周側に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記溝部は、前記回転体の内周面もしくは外周面の少なくとも一方に設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記溝部は、少なくとも内周側が緩やかな傾斜構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記溝部は、前記回転体の締結面ないしその延長面上に配置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記回転体には、表面処理が施され、
前記嵌合穴部もしくは前記貫通穴部の少なくとも一方の周縁部に、前記回転軸との当接を避ける座グリ部を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
円筒部分の外周に回転翼を有し、
締結手段により回転軸に締結される真空ポンプ用回転体において、
前記回転軸と嵌合する嵌合穴部もしくは前記締結手段が締結された締結部の少なくとも一方が応力低減対象部であり、回転中に前記応力低減対象部に発生する応力を低減させる溝部を備えたことを特徴とする真空ポンプ用回転体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプや真空ポンプ用回転体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプにおいては、回転翼が形成された回転体に回転軸(ロータ軸)が結合され、モータにより回転軸と回転体を回転させて排気を行うようになっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-286013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の各種のターボ分子ポンプのような真空ポンプにおいては、一般に、回転翼の回転数を高めるほど排気性能が向上する。しかし、発明者等が回転体と回転軸との結合部位に着目して構造解析を行ったところ、当該結合部位に応力集中が発生し易いことが分かった。
【0005】
そして、このような回転体と回転軸との結合部位に発生する応力を低減するため、定格運転時の回転数を低く設定することが考えられるが、回転数を低下させたのでは排気性能の向上が困難になる。一方で、上記のような応力集中の対策を考慮せずに、排気性能を向上するために回転数を高めたのでは、回転体と回転軸との結合部位において高い応力が発生し、信頼性が低下する。そして、回転体と回転軸との結合部位は、真空ポンプの信頼性に大きく関わる部位であるため、当該結合部位の大きな設計変更は容易ではない。
【0006】
本発明の目的とするところは、回転体に発生する応力集中、特に、回転体と回転軸との結合部位に発生する応力を低減することが可能な真空ポンプ、及び、真空ポンプ用回転体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記目的を達成するために本発明は、円筒部分の外周に回転翼を有し、
締結手段により回転軸に締結され、前記回転軸と共に回転可能な回転体を備えた真空ポンプにおいて、
前記回転体の、前記回転軸と嵌合する嵌合穴部もしくは前記締結手段が貫通した貫通穴部の少なくとも一方が応力低減対象部であり、前記回転体に、前記回転体の回転中に、前記応力低減対象部に発生する応力を低減させる溝部を備えたことを特徴とする真空ポンプにある。
(2)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記溝部は、前記嵌合穴部もしくは前記貫通穴部よりも外周側に設けられたことを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
(3)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記溝部は、前記回転体の内周面もしくは外周面の少なくとも一方に設けられたことを特徴とする(1)または(2)に記載の真空ポンプにある。
(4)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記溝部は、少なくとも内周側が緩やかな傾斜構造を有することを特徴とする(1)から(3)のいずれか一項に記載の真空ポンプにある。
(5)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記溝部は、前記回転体の締結面ないしその延長面上に配置されることを特徴とする(1)から(4)のいずれか一項に記載の真空ポンプにある。
(6)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記回転体には、表面処理が施され、前記嵌合穴部もしくは前記貫通穴部の少なくとも一方の周縁部に、前記回転軸との当接を避ける座グリ部を有することを特徴とする(1)から(5)のいずれか一項に記載の真空ポンプにある。
(7)また、上記目的を達成するために他の本発明は、円筒部分の外周に回転翼を有し、
締結手段により回転軸に締結される真空ポンプ用回転体において、
前記回転軸と嵌合する嵌合穴部もしくは前記締結手段が締結された締結部の少なくとも一方が応力低減対象部であり、回転中に前記応力低減対象部に発生する応力を低減させる溝部を備えたことを特徴とする真空ポンプ用回転体にある。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、回転体と回転軸との結合部位に発生する応力を低減することが可能な真空ポンプ、及び、真空ポンプ用回転体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面図である。
図2】アンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5図1の一部を拡大して示す縦断面図である。
図6図5の一部を拡大して示す縦断面図である。
図7図1のターボ分子ポンプにおける溝部を拡大して示す説明図である。
図8】溝部の変形例を示す説明図である。
図9】(a)は溝部を設けない場合における回転体の撓みを示す説明図、(b)は溝部を設けた場合における回転体の撓みを示す説明図である。
図10】溝部の製作する場合の作業の様子を模式化して示す説明図である。
図11図1中に円Dで囲った部分に形成された応力制御凹部を拡大して示す縦断面図である。
図12】応力制御凹部の変形例を示す縦断面図である。
図13】(a)は図1図5に示す回転体とロータ軸の結合関係を示す説明図、(b)は回転体の変形例を示す説明図、(c)は回転体の他の変形例を示す説明図、(d)は回転体の更に他の変形例を示す説明図である。
図14】(a)は回転体の更に他の変形例を示す説明図、(b)は回転体の更に他の変形例を示す説明図、(c)は回転体の更に他の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0011】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113(回転軸)が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。回転体103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0012】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0013】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0014】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0015】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0016】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0017】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0018】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0019】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0020】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0021】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0022】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0023】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0024】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0025】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0026】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0027】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0028】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0029】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0030】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0031】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0032】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0033】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0034】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0035】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0036】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0037】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0038】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0039】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0040】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0041】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0042】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0043】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0044】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0045】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0046】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0047】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133が図中の左側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(粗引きするバックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0048】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0049】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、円筒部102dやネジ付スペーサ131等により構成される溝排気機構部(後述する)に分けて考えることができる。
【0050】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0051】
例えば、図示は省略するが、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガス流路を設ける。そして、このパージガス流路(より具体的にはガスの入り口となるパージポート)に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0052】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0053】
なお、ターボ分子ポンプ100の構造を示す各図(図1図5図10図13図14)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0054】
次に、前述した回転体103が有する応力分散機能等について説明する。前述したように回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられている。回転体103には、図5に拡大して示すように、中心に嵌合穴211を有する円盤部212を有しており、嵌合穴211には、ロータ軸113の嵌合軸部241が嵌入されている。
【0055】
ロータ軸113の軸方向一端部(ここでは図1図5における上端部)には、相対的に細径な突出端部242と、上述した嵌合軸部241が形成されている。突出端部242と嵌合軸部241は、互いに異なる直径で形成されており、嵌合軸部241の直径は、突出端部242の直径よりも太くなっている。
【0056】
さらに、嵌合軸部241と突出端部242は、段付き形状を構成している。そして、嵌合軸部241は、回転体103の嵌合穴211に同軸的に挿入され、所定の手法(ここでは焼き締め)により圧力を生じながら嵌合穴211の内周面に接している。明確には図示していないが、嵌合軸部241の嵌合部分として作用する軸方向の長さは、図5に示す円盤部212の厚みHとほぼ一致している。また、ロータ軸113の突出端部242は、回転体103の円盤部212の外に位置している。
【0057】
回転体103の円盤部212には、嵌合穴211の周囲に配置された複数(例えば6個所、或いは8個所など)のボルト貫通穴213が形成されている。これらのボルト貫通穴213には、六角穴付きボルトなどのボルト214(締結手段)が挿入されている。これらのボルト214は、ロータ軸113にねじ込まれている。そして、回転体103とロータ軸113は、ボルト214の締結力により互いに連結されている。
【0058】
以下では図6に示すように、回転体103の円盤部212における、嵌合穴211および嵌合穴211の周囲の部分を嵌合穴部215(応力低減対象部)とする。さらに、円盤部212における、ボルト貫通穴213およびボルト貫通穴213の周囲の部分を貫通穴部216(同じく応力低減対象部)とする。また、嵌合穴部215と貫通穴部216が隣接している場合、応力低減対象部である嵌合穴部215と、応力低減対象部である貫通穴部216とが重なり合う領域が生じ得るものとする。そして、この場合の重なり合った領域も、応力低減対象部であるものとする。ここで、本実施形態では、嵌合穴部215が嵌合穴211を含み、貫通穴部216がボルト貫通穴213を含むよう説明を行っているが、これに限らず、嵌合穴部215が嵌合穴211を含ないものとし、貫通穴部216がボルト貫通穴213を含まないものとすることも可能である。
【0059】
また、円盤部212と、ボルト214の頭部との間には、円板状で環状の座金220が挟み込まれている。さらに、円盤部212の、座金220が配置された凹陥部223における底部の外周部分には、図6に示すように、座金220の板面に面する溝部(凹陥部内溝部)223aが形成されている。また、符号は省略するが、座金220には、円盤部212との間にガスが溜まるのを防止可能な複数の貫通穴が形成されている。
【0060】
回転体103における円盤部212の外周部には、図5に示すように、回転翼形成部217(円筒部分)が一体に連続して形成されている。この回転翼形成部217は、回転体103の前述した円筒部102dにも一体に連続して形成されている。さらに、円盤部212の、回転翼形成部217との境界部分224には、溝部218が形成されている。
【0061】
この溝部218は、円盤部212の内周面219に形成され、内周面219に開口している。さらに、本実施形態においては、溝部218は、内周面219の全周に亘って延びており、全周に亘り一定の断面形状を有している。なお、本実施形態に係る発明は、溝部218を内周面219の全周に亘って形成することに限定されず、溝部218を内周面219の周方向に沿って断続的に配置されるよう形成してもよい。
【0062】
溝部218は、図7に示すように、傾斜部221と、湾曲部222とを有している。これらのうち、傾斜部221は、回転体103の中心側から外周側へ深くなるよう傾斜しており、湾曲部222は、回転体103の中心側から外周側へ浅くなるよう円弧状に湾曲している。さらに、傾斜部221は、回転体103の中心側に位置しており、湾曲部222は、傾斜部221の外周側に位置している。
【0063】
傾斜部221は、円盤部212の内周面219に隣接した部位に形成されており、内周面219を基準とし、傾斜角度α1を介して、内周面219から連続している。また、傾斜角度α1は、傾斜部221の内周側から外周側に亘ってほぼ一定となっている。なお、これに限らず、傾斜部221の傾斜角度が、内周側から外周側へ途中で変化するようにしてもよい。
【0064】
湾曲部222は、円盤部212の内周面219を基準とし、接線角度がα2となるよう形成されている。図7において、接線角度α2は、湾曲部222と、内周面219の延長線219aとが交差する位置における接線の角度となっている。さらに、傾斜角度α1と接線角度α2との間には、α1<α2の関係がある。つまり、溝部218における接線角度α2と傾斜角度α1との関係に関しては、傾斜角度α1のほうが接線角度α2と比べて緩やかな傾斜構造であり、接線角度α2のほうが傾斜角度α1よりも大きくて急峻な傾斜構造となっている。
また、さらに言えば、傾斜角度α1は、鋭角構造(α<45度)となっていることが望ましい。
【0065】
このような回転体103を有するターボ分子ポンプ100においては、回転体103の回転数を上げるほど排気性能が高まる。しかし、回転体103の設計の際には、回転時の遠心力によって過度な応力が発生しないよう、各部の形状や寸法を決定する必要がある。
【0066】
また、回転体103において応力集中が発生し易い個所として、回転体103とロータ軸113との結合部位を挙げることができる。そして、回転体103とロータ軸113との結合部位としては、ボルト貫通穴213の周囲の貫通穴部216や、嵌合穴211の周囲の嵌合穴部215を挙げることができる。
【0067】
これらの個所に発生する応力を低減し、他の個所に発生する応力が過度に高まるのを防止できれば、回転体103の強度やターボ分子ポンプ100の信頼性が向上する。また、応力発生の余地を増やすことが可能となることから、回転体103の回転数を高めることが可能となり、ターボ分子ポンプ100の排気性能を向上できるようになる。
【0068】
このような観点から発明者等は、貫通穴部216や嵌合穴部215における応力を低減させることについての研究を重ね、回転体103における円盤部212に敢えて凹凸となる部分を追加し、円盤部212に発生する応力を増加させるという着想を得た。そして、凹凸となる部分として、前述のような溝部218を形成することにより、貫通穴部216や嵌合穴部215の近傍の部位において発生する応力を増加させることが可能となる。この結果、回転体103(特に円盤部212)において応力を分散させ、貫通穴部216や嵌合穴部215における応力を低減させることができ、ターボ分子ポンプ100の信頼性や性能を向上させることが可能となる。
【0069】
さらに、発明者等が、回転体103に溝部218を形成した構造モデルに対するシミュレーションや、実物を用いた実験を行ったところ、実際に、貫通穴部216や嵌合穴部215に発生する応力が低下した。これは、溝部218が、応力の所謂「ニゲ」となり、応力の平均化が図られたものと考えることができる。
【0070】
また、上述のように貫通穴部216や嵌合穴部215に発生する応力を低減できたとしても、溝部218における応力が過度になることは望ましくない。さらに、溝部218を設けることで、回転体103の加工のための工数やコストが過大となることは望ましくない。このため、発明者等は、溝部218の最適形状や加工法を検討し、前述のように、内周側に緩やかな傾斜部に221を配置し、外周側に相対的に急峻な部分(ここでは湾曲部222)を配置した形状が好ましいとの結論に至った。このような形状の溝部218を回転体103に形成することにより、応力の分布をより平均的に分散させることができた。
【0071】
図9(a)は、溝部218を設けない場合(従来構造)における回転体103の回転時の変形をモデル化して模式的に示している。また、図9(b)は、溝部218を設けた場合における回転体103の回転時の変形を同様にモデル化して示している。回転体103の回転時には、回転体103に遠心力が作用し、回転翼形成部217に外周側への荷重Fが作用する。さらに、回転体103とロータ軸との結合部位には、荷重Fによるモーメントが作用する。
【0072】
そして、回転体103は、ロータ軸113との締結部(ここでは貫通穴部216として考える)を支点として変形し、支点から外周側へ行くほど、吸気側(図9(a)、(b)における上方側)に大きく撓んで変位する。図9(a)、(b)では、円盤部212の外周側における軸方向への変位量をそれぞれδa、δbとし、回転翼形成部217の排気側(図9(a)、(b)における下方側)における径方向への変位量をγa、γbとしている。
【0073】
図9(b)に示すように溝部218を設けた場合、後述した理由により、円盤部212の変位量δa、δbに関しては、δbがδaより小さくなる。そして、下方側が拘束されていない回転翼形成部217の変位量γa、γbに関しては、γbがγaよりも大きくなる。つまり、溝部218を設けた図9(b)の場合は、溝部218を設けない図9(a)の場合に比べ、溝部218付近に発生する応力が高くなり、溝部218よりも外周側である回転翼形成部217の変形が大きくなる。そして、変形量が増大した分に相当する応力が溝部218やその周囲に発生し荷重Fによる応力が、締結部(支点)だけでなく、溝部218にも分散される。
【0074】
そして、荷重Fによる応力を溝部218に分散させることにより、締結部(支点)に発生する応力を低減できることとなる。そして、溝部218に発生する応力を適度に保ち、溝部218に発生する応力が過度に高まるのを防止することで、全体としては、回転体103の強度やターボ分子ポンプ100の信頼性が向上する。また、応力発生の余地を増やすのが可能であることから、回転体103の回転数を高めることが可能となり、ターボ分子ポンプ100の排気性能を向上できるようになる。
【0075】
続いて、上述のような溝部218を製作する場合、図10に示すように作業を行うことが可能である。例えば、回転体103の母材230を軸心周りに回転させながら、母材230の内周側に切削工具(バイト)231を進入させる。ここで、図10に符号Cで示すのは、母材230の軸心であり、溝部218の製作時には、この軸心Cを中心として母材230が回転している。また、図10には、軸心Cを境として、母材230における半分の一部分のみを示している。
【0076】
切削工具231の先端には、旋削用のチップ(刃先)232が取り付けられている。チップ232の先端には、角部233を挟んで刃先面234a、234bが形成されている。チップ232は、先端側を、母材230における円盤部212の外周側(径方向の外側)に向けて、切削工具231に取り付けられている。
【0077】
切削工具231は、図示しない送り機構を介して、母材230の軸心Cに沿った進退移動や、軸心Cに対する直交面内での縦横移動を行う。そして、チップ232が、一方の刃先面234aを内周側(径方向の内側)に斜めに向けた状態で、母材230に接し、必要に応じて進退移動及び縦横移動を行いながら、回転する母材230を徐々に削る。切削工具231は、チップ232が、外周側へいくほど母材230を深く削るように案内され、傾斜部221を形成する。
【0078】
さらに、切削工具231は、外周側に移動させられながら円盤部212に対し後退させられる。そして、チップ232が、円盤部212から回転翼形成部217の側へ達するよう移動し、湾曲部222が形成される。このような切削工具231の移動は、傾斜部221を形成する場合に比べて、径方向の狭い幅内で行われる。この結果、傾斜部221と湾曲部222とでは、図7に示すように、傾斜部221における径方向の幅(環状部分の幅)W1が、湾曲部222における径方向の幅(同じく環状部分の幅)W2に比べて大きくなる。
【0079】
このように、傾斜部221に係る傾斜角度α1を、湾曲部222に係る接線角度α2よりも小さくすることにより、溝部218を可及的に滑らかに形成することができる。また、円盤部212の外周側の部位において、回転翼形成部217が存在しない側である内周側寄りに切削工具231を配置して、母材230の加工を行うことができる。
【0080】
そして、溝部218の製作の際に、母材230の内周面側の空間(内部空間)を有効に活用できる。さらに、チップ232が回転翼形成部217に干渉しないよう加工することができる。この結果、溝部218を製作する場合に、切削工具231の向きを変えるといったような作業が不要になり、溝部218を少ない工数で容易に製作することが可能となる。また、専用の工具を用意することなく、一般的な切削工具231により溝部218を製作することが可能となる。
【0081】
次に、回転体103とロータ軸113との間で発揮される応力制御機能について説明する。図11は、図1に一点鎖線の円Dで囲った部分を拡大して示している。ここで、図11では、ロータ軸113の、嵌合軸部241は縦断せず、嵌合軸部241よりも図中の下側の部位を縦断して示している。
【0082】
図11の例では、ロータ軸113の嵌合軸部241における根元の部位に、応力制御凹部251(座グリ部)が形成されている。この応力制御凹部251は、嵌合軸部241における根元の部位の周囲において、ボルト214がねじ込まれる雌ねじ部分252の開口部に座グリ加工を施すことにより、一定の深さ(例えば0.1~0.5mm程度)で形成されている。さらに、応力制御凹部251は、回転体103におけるボルト貫通穴213の開口部の周縁部に面するよう形成されている。
【0083】
この応力制御凹部251は、回転体103とロータ軸113との対向面に凸部(図示略)が存在した場合に、この凸部を、対向面が接触(当接)したり圧迫したりすることがないよう、内側の空間内に受け入れる。そして、応力制御凹部251は、上記凸部や、凸部との接触面に発生する応力が加わることにより、円盤部212に発生する応力が増加するのを防止する。
【0084】
この結果、嵌合穴部215や貫通穴部216に発生する応力と、溝部218に発生する応力との関係が、凸部の圧迫により崩れてしまうのを防止できる。そして、溝部218の応力分散機能が、凸部の圧迫による影響を受けることなく、設計通りに発揮されることとなる。さらに、応力制御凹部251を設けることで、溝部218による応力分散機能を、より確実に機能させることが可能となる。
【0085】
ここで、凸部としては、例えば、嵌合穴211やボルト貫通穴213の内周面に対して、腐食性ガスへの耐性を向上するための表面処理(無電解ニッケルめっきなど)を行った場合に発生するもの(所謂メッキだれ)や、予期せず嵌合穴部215や貫通穴部216に発生した凸部などを例示できる。そして、これらのような凸部が、嵌合穴211やボルト貫通穴213の近傍の部位に発生していた場合であっても、応力制御凹部251により応力の発生を防止することにより、或いは抑制することにより、溝部218の機能を最大限発揮させることが可能となる。
【0086】
なお、図11には、応力制御凹部251をロータ軸113に設けた例を示したが、これに限定されず、例えば、図12に示すように、回転体103の側に、応力制御凹部254(座グリ部)を設けることも可能である。図12の例では、ボルト貫通穴213の開口部に座グリ加工を施すことにより、一定の深さ(例えば0.1~0.2mm程度)で形成されている。このように回転体103の側に応力制御凹部254を形成した場合でも、図11の例と同様の発明の作用効果を奏することが可能である。
【0087】
応力制御凹部251、254を形成する部品としては、凸部が生じない側(或いは生じ難い側)の部品を選択することが考えられる。例えば、回転体103とロータ軸113のうち、ロータ軸113にめっきを施すことは少ないので、ロータ軸113に応力制御凹部251を形成することが考えられる。
【0088】
以上説明したような本実施形態のターボ分子ポンプ100によれば、回転体103に設けられた溝部218により、回転体103の回転時に、貫通穴部216や嵌合穴部215の応力を分散させることができる。このため、貫通穴部216や嵌合穴部215に発生させ得る応力が増加し、結果として、回転体103及びターボ分子ポンプ100の信頼性や性能を向上することが可能となる。
【0089】
溝部218による応力の平均化は、貫通穴部216や嵌合穴部215、及び、回転体103に発生する応力に係るエネルギを全体として変化させるものではない。しかし、溝部218を設けない場合には、平均を超えるような応力が発生し得る部位における応力を低下させることが可能となる。
【0090】
また、溝部218は、傾斜角度α1の傾斜部221と、接線角度α2の湾曲部222とを有し、傾斜角度α1と接線角度α2との間にはα1<α2の関係がある。そして、傾斜部221は湾曲部222に対して緩やかであり、湾曲部222は傾斜部221に対して急峻であるということができる。このため、緩やかな傾斜部221と、急峻な湾曲部222とにより、貫通穴部216や嵌合穴部215に対して適切に応力分散を行うことができる。
【0091】
なお、傾斜角度α1と接線角度α2の両方を同様に緩やかな角度とすることも可能であり、その場合には、傾斜部221と湾曲部222の両方に同様な応力の分布を発生させることができる。これに対し、上述のように、湾曲部222を傾斜部221よりも急峻な構造とすることにより、湾曲部222における径方向の幅(環状部分の幅)W2を小さくすることが可能となる。
【0092】
さらに、図7の例では、回転翼形成部217から遠い内周側に傾斜部221を形成し、回転翼形成部217に近い外周側に湾曲部222を形成していることから、傾斜部221の加工の際に、母材230の内部空間を有効に活用し、切削工具231におけるチップ232の基端側が、回転翼形成部217に干渉するのを防止しながら、溝部218の加工を行うことができる。そして、溝部218の加工を低コストで行うことが可能となる。
【0093】
ここで、図7の例では、傾斜部221と湾曲部222とを組み合わせて溝部218の断面形状が構成されているが、これに限らず、例えば、図8に示すように、第1傾斜部226と、第2傾斜部227とを組み合わせて溝部228を形成してもよい。図8の例では、第1傾斜部226は、図7の例における傾斜部221と同様に形成されているが、第2傾斜部227は、円弧状の面ではなく、傾斜角度α3のほぼ平坦な傾斜面により構成されている。また、図8の例では、第1傾斜部226と第2傾斜部227とが、断面形状が円弧状である接続曲面部229を介して連続している。
【0094】
このような図8の例においても、内周側の第1傾斜部226は外周側の第2傾斜部227に比べて緩やかであり、第2傾斜部227は第1傾斜部226に比べて急峻であるということができる。そして、母材230の内部空間を有効に活用しながら溝部228の加工を行うことが可能である。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々に変形することが可能である。例えば、溝部218の配置は、図5に示すような、円盤部212における回転翼形成部217との境界部分224に限らず、境界部分224よりも内周側寄りのいずれかの部位(嵌合穴部215もしくは貫通穴部216よりも外周側で境界部分224よりも内周側の部位)としてもよい。また、境界部分224と嵌合穴211との間に、溝部218を複数設けることも可能である。
【0096】
さらに、溝部218は、回転体103の内周面もしくは外周面の少なくとも一方に設けられたものとすることが可能である。そして、溝部218の配置は、回転体103の外周面に開口するよう形成することも可能である。そして、回転体103の外周面としては、円盤部212の外周面225を例示することができる。また、回転体の内周面や外周面として、回転体103における回転翼102よりも排気側の円筒部102d(図1)の内周面や外周面も挙げることができる。さらに、回転体103の内周面と外周面との区別については、例えば、回転体103の内部空間に臨んだ面を内周面とし、それ以外を外周面として区別することなどが考えられる。
【0097】
ここで、溝部218による応力分散機能は、溝部218の配置を、回転体103とロータ軸113との結合部位(嵌合穴部215や貫通穴部216)よりも外周側で、且つ、当該結合部位に近い部位とした方が、発揮され易いと考えられる。そして、このような部位としては、図5の例の場合には、円盤部212の内周面219や外周面225における、貫通穴部216よりも外周側の部位を挙げることができる。
【0098】
また、溝部218を、円盤部212の内周面219と外周面225の両方に設けることも可能である。発明者等の解析では、溝部218を、外周面225に設けた場合よりも内周面219に設けた場合の方が、嵌合穴部215や貫通穴部216に発生する応力は小さくなった。さらに、上述のように溝部218を、円盤部212の内周面219と外周面225の両方に設けた場合には、応力が平均化され、応力分散の効果がより一層高まった。
【0099】
また、発明者等の解析では、円盤部212の厚みH(図5)を薄くした場合にも、溝部218を設けたことによる応力分散の効果が顕著であった。さらに、図1図5の例では、凹陥部223における底部の外周部分に、座金220の板面に面する溝部223aが形成されているが、この溝部223aも、応力分散機能を有していると考えることが可能である。
【0100】
また、図1図5等には、回転体103とロータ軸113との結合関係に関して、回転体103の嵌合穴211にロータ軸113が貫通するよう挿入されるタイプのものを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図13(b)~(g)に、部分的に縦断して示すような種々のタイプの回転体103b~103gにも適用することが可能である。
【0101】
例えば、図13(a)は、図5に示した実施形態に係る回転体103の一部(円盤部212)を拡大し、更に部分的に縦断して示しているが、これに限らず、図13(b)に示すように、嵌合穴(図5の符号211)を備えないタイプの回転体103bにロータ軸113bを結合したものにも、本発明の適用が可能である。図13(b)に示すロータ軸113bは、図13(a)に示す例における嵌合軸部241や突出端部242を備えないものとなっている。このように、ロータ軸113bを回転体103bに突き当てて両者を締結した構造については、溝部218が、回転体103bの締結面(ロータ軸113bが突き当たった内周面219b)ないしその延長面上に配置されたものになる。
【0102】
また、図13(c)に示すのは、円盤部212cにおける嵌合穴211cの周囲にボルト穴を有していないタイプの回転体103cである。このタイプの回転体103cは、ロータ軸113cにおける突出端部242cにナット256が装着され、ナット256を締め付けて座金220を回転体103cに押し付けて、ロータ軸113cに結合されている。
【0103】
さらに、図13(d)に示すのは、嵌合穴211dが、円盤部212dを貫通しておらず、円盤部212dの厚さ方向における途中の部位で閉じているタイプの回転体103dである。このタイプの回転体103dを採用した場合には、ロータ軸113dが円盤部212dを貫通しない状態で、回転体103dに対してボルト214により固定されている。なお、図13(d)に示す回転体103dとロータ軸113dは、ロータ軸113dの軸方向端部に形成された突部257を回転体103dの凹部(符号省略)に挿入して、ロータ軸113dを回転体103dに係合させたものであるともいえる。
【0104】
また、図14(a)に示すのは、図13(b)に示すタイプの回転体103bと類似しているが、座金220eとの間に、突起258による係合構造を有している点で異なっている回転体103eである。図14(a)の例では、突起258が座金220eに形成されており、この突起258が、回転体103eの凹部(符号省略)に入り込んでいる。このように、ロータ軸113bを回転体103bに突き当てて両者を締結した構造についても、図13(b)の例と同様に、溝部218が、回転体103eの締結面(ロータ軸113eが突き当たった内周面219e)ないしその延長面上に配置されたものになる。
【0105】
また、図14(b)に示すのは、凸部259を有し、この凸部259をロータ軸113fの凹部(符号省略)に挿入して、ロータ軸113fに係合したタイプの回転体103fである。
【0106】
さらに、図14(c)に示すのは、突起260と凸部259を有し、突起260を座金220gの凹部に入り込ませ、凸部259を、図14(b)の例と同様に、ロータ軸113gの凹部(符号省略)に挿入したタイプの回転体103gである。
【0107】
これらのような各種のタイプの回転体103b~103gや、ロータ軸113b~113g等を備えたターボ分子ポンプにおいても、溝部218および223aを適切な位置に設けることにより、図1図5等に示したターボ分子ポンプ100と同様に、応力分散機能を発揮することが可能である。
【0108】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内であれば、当業者の通常の創作能力によって多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0109】
100 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
102 回転翼
103 回転体(真空ポンプ用回転体)
113 ロータ軸(回転軸)
214 ボルト(締結手段)
215 嵌合穴部(応力低減対象部)
216 貫通穴部(応力低減対象部)
217 回転翼形成部
218 溝部
219 円盤部の内周面(内周面)
219b 回転体の締結面(及び延長面)
225 円盤部の外周面(外周面)
251、254 応力制御凹部(座グリ部)
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