(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127159
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】アルミニウム材のスポット溶接方法及びアルミニウム材の接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/18 20060101AFI20220824BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
B23K11/18
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025140
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 舞
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 哲
(72)【発明者】
【氏名】永田 康弘
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA12
4E165AB02
4E165AB13
4E165AB22
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB22
4E165CA02
4E165CA05
4E165CA06
4E165CA12
4E165CA13
(57)【要約】
【課題】接着剤を併用する場合でもスポット溶接時のチリの発生が抑制でき、アルミニウム材の品質を維持しつつ接合できるアルミニウム材のスポット溶接方法及びアルミニウム材の接合方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム材のスポット溶接方法は、未硬化の接着剤を介して互いに重ね合わせたアルミニウム材を、一対の電極間に前記接着剤と共に挟み込んで加圧する加圧工程と、電極による加圧を継続させながら電極間に通電を行う本通電工程とを備える。加圧工程は、本通電工程の前に実施する第1加圧工程と、本通電工程と重複して実施する第2加圧工程とを含む。第1加圧工程の加圧力は第2加圧工程の加圧力より低くする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化の接着剤を介して互いに重ね合わせたアルミニウム材を、一対の電極間に前記接着剤と共に挟み込んで加圧する加圧工程と、
前記電極による加圧を継続させながら前記電極間に通電を行う本通電工程と、
を備えるアルミニウム材のスポット溶接方法であって、
前記加圧工程は、前記本通電工程の前に実施する第1加圧工程と、前記本通電工程と重複して実施する第2加圧工程と、を含み、
前記第1加圧工程の加圧力は前記第2加圧工程の加圧力より低くする、
アルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項2】
前記本通電工程の前に、前記本通電工程の最大溶接電流値よりも小さい電流値で通電するプレヒート通電工程を備える、
請求項1に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項3】
前記プレヒート通電工程は、前記第1加圧工程の少なくとも一部の期間と重複する、
請求項2に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項4】
前記プレヒート通電工程と前記第1加圧工程との重複期間は、100ms以上、400ms未満である、
請求項3に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項5】
前記プレヒート通電工程と前記本通電工程とを連続して実施する、
請求項2~4のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項6】
前記第1加圧工程の期間は、1000ms以上、2000ms以下である、
請求項1に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項7】
前記本通電工程は、アップスロープ通電期間を含む、
請求項1~6のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項8】
前記第1加圧工程は、前記第1加圧工程の加圧力から前記第2加圧工程の加圧力まで2段以上で段階的に増加させる多段加圧ステップを含む、
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項9】
前記第2加圧工程は、前記本通電工程後の前記アルミニウム材の加圧を保持する保持ステップを含む、
請求項1~8のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項10】
少なくとも一枚の前記アルミニウム材の溶接予定位置に、当該アルミニウム材と対向する他のアルミニウム材側へ突出する突起を有する、
請求項1~9のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項11】
前記突起は、前記アルミニウム材同士の重ね合わせ方向へ膨出する平面視円形状のエンボスである、
請求項10に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
【請求項12】
複数枚のアルミニウム材を用意する工程と、
前記アルミニウム材同士の間に接着剤を設ける工程と、
請求項1~11のいずれか1項に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法により前記アルミニウム材同士を接合する工程と、
を備える、
アルミニウム材の接合方法。
【請求項13】
少なくとも一枚の前記アルミニウム材における溶接予定位置に、他の前記アルミニウム材側への重ね合わせ方向へ突出する突起を形成する工程を更に備える、
請求項12に記載のアルミニウム材の接合方法。
【請求項14】
前記接着剤を設ける工程は、複数の溶接予定位置にそれぞれ前記接着剤を塗布する工程である、
請求項12又は13に記載のアルミニウム材の接合方法。
【請求項15】
前記接着剤を設ける工程は、前記アルミニウム材同士の間に接着シートを挟む工程である、
請求項12又は13に記載のアルミニウム材の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム材のスポット溶接方法及びアルミニウム材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の構造体においては、鋼材に代えて軽量なアルミニウム材が積極的に適用されるようになった。しかし、アルミニウム材は、鋼材と比較して電気抵抗が小さく熱伝導率が高いため、スポット溶接を行う際には、溶接電流を鋼材の場合の約3倍、溶接電極の加圧力を約1.5倍に高める必要がある。このため、アルミニウム材のスポット溶接には、鋼材のスポット溶接条件の適用及び応用が困難であり、アルミニウム材に最適な溶接条件を新たに見出す必要がある。
アルミニウム材のスポット溶接方法の例として、特許文献1には、溶接電極の加圧力を2段階に変化させ、この加圧力に合わせて溶接電流値を大電流から小電流への2段階に変化させる技術が開示されている。
【0003】
また、上記した構造体の接合強度及び剛性を更に向上させるため、接合する板の溶接部に予め接着剤を塗布した後に板同士をスポット溶接するウエルドボンド法が、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3862640号公報
【特許文献2】特開平5-285669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなウエルドボンド法による接合によれば、板材同士の接合強度を更に向上できる。しかし、接着剤を併用してアルミニウム材同士をスポット溶接する場合にはチリが発生しやすく、溶接品質が低下する懸念がある。
【0006】
そこで本発明は、接着剤を併用する場合でもスポット溶接時のチリの発生を抑制でき、高品質で接合できるアルミニウム材のスポット溶接方法及びアルミニウム材の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 未硬化の接着剤を介して互いに重ね合わせたアルミニウム材を、一対の電極間に前記接着剤と共に挟み込んで加圧する加圧工程と、
前記電極による加圧を継続させながら前記電極間に通電を行う本通電工程と、
を備えるアルミニウム材のスポット溶接方法であって、
前記加圧工程は、前記本通電工程の前に実施する第1加圧工程と、前記本通電工程と重複して実施する第2加圧工程と、を含み、
前記第1加圧工程の加圧力は前記第2加圧工程の加圧力より低くする、
アルミニウム材のスポット溶接方法。
(2) 複数枚のアルミニウム材を用意する工程と、
前記アルミニウム材同士の間に接着剤を設ける工程と、
(1)のアルミニウム材のスポット溶接方法により前記アルミニウム材同士を接合する工程と、
を備える、アルミニウム材の接合方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、接着剤を併用する場合でもスポット溶接時のチリの発生を抑制でき、高品質にアルミニウム材を接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の要部を示す概略構成図である。
【
図2】
図2の(A),(B)は、第1アルミニウム板と第2アルミニウム板との間の接着剤が加圧工程で広がる様子を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、第1の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、第2の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、第3の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6の(A)~(D)は、第1アルミニウム板に突起を形成し、第2アルミニウム板に接着剤を設け、双方のアルミニウム板同士を重ね合わせる様子を段階的に示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、重ね合わせたアルミニウム材を一対の電極で挟み込んで加圧工程を開始した状態の概略断面図である。
【
図8】
図8は、試験例2-1~試験例2-6のチリ発生数を第1スクイズ期間について纏めた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<スポット溶接機>
図1は、アルミニウム材を溶接するスポット溶接機の要部を示す概略構成図である。
【0011】
スポット溶接機11は、互いに重ね合わせた板材を、一対の電極間13,15に挟み込み、板厚方向に加圧しながら通電してスポット溶接するものである。このスポット溶接機11は、一対の電極13,15と、一対の電極13,15に接続された溶接トランス部17と、電源部19と、溶接トランス部17に電源部19からの溶接電力を供給する制御部21と、一対の電極13,15を軸方向に相対移動させる電極駆動部23とを備える。制御部21は、一対の電極13に通電する電流値、通電時間、電極の軸方向への加圧力、通電タイミング、加圧タイミング等を統合的に制御する。
【0012】
スポット溶接機11は、一対の電極13,15の間に、アルミニウム材である第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との少なくとも2枚の板材を、詳細を後述する接着剤を介して重ね合わせて挟み込む。そして、電極駆動部23による電極13と電極15との相対移動によって、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを板厚方向に加圧する。この加圧状態で電極13,15間に通電することにより、電極13,15に接着剤を介して挟まれた第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との間にナゲットNを形成する。こうして、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27が一体化されたアルミニウム溶接継手(接合体)29が得られる。
【0013】
上記例では第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを接合してアルミニウム溶接継手29を形成しているが、これに限らず3枚以上のアルミニウム板を接合してもよい。
【0014】
一対の電極13,15としては、その電極先端形状に曲面を有するR形又はDR形の電極を使用できる。ただし、電極の種類はこれに限らない。また、一対の電極13,15は、それぞれの内部に冷却部を備える。冷却部の冷却方式は特に限定されないが、図示例の構成では、電極13,15のそれぞれに形成された凹部31に冷却用パイプ33が配置され、冷却用パイプ33から水等の冷却媒体が凹部31内に供給されることで、電極13,15が冷却されるようになっている。
【0015】
<アルミニウム材>
ここで使用する第1アルミニウム板25及び第2アルミニウム板27としては、熱処理系のアルミニウム合金を例示できる。具体的には、2000系、6000系、7000系のアルミニウム合金が挙げられる。第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27の板厚は、例えば自動車の骨格部材等の構造部材の用途では、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上、又は2.0mm以上がより好ましい。さらに他のアルミニウム板を用いる場合には、そのアルミニウム板の板厚及び材質についても同様にすることが好ましい。各アルミニウム板の板厚は、互いに等しくても異なっていてもよい。また、アルミニウム材の形態は、圧延板に限らず、押出材や鍛造材、鋳造材であってもよい。
【0016】
<接着剤>
第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを含む板材の間には、接着剤が設けられる。この接着剤としては、例えばエポキシ樹脂が使用できる。接着剤は、塗布により板材の表面に設けてもよく、シート状にされた接着シートを板材の表面に貼着することで設けてもよい。
【0017】
以下、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との2枚の板材を、接着剤を介して接合する態様を説明するが、接合対象はこの態様に限定されない。
【0018】
<溶接条件>
(第1の溶接条件)
上記したスポット溶接機11を用いたアルミニウム材のスポット溶接方法においては、未硬化の接着剤を介して互いに重ね合わせたアルミニウム材を、一対の電極間に接着剤と共に挟み込んで加圧する加圧工程と、電極による加圧を継続させながら電極間に通電を行う本通電工程と、を備える。
【0019】
図2の(A),(B)は、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との間の接着剤が加圧工程で広がる様子を模式的に示す断面図である。
図2の(A)に示すように、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを、互いに対面する板面同士の間に接着剤35を設けて重ね合わせる。
具体的には、第2アルミニウム板27の第1アルミニウム板25との対向面27aにおける溶接予定位置に、接着剤35を塗布する。接着剤35は、第1アルミニウム板25の第2アルミニウム板27との対向面25aに塗布してもよく、第1アルミニウム板25及び第2アルミニウム板27の互いの対向面25a,27aにそれぞれ塗布してもよい。
【0020】
そして、互いに重ね合わせた第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを、一対の電極13,15の間に挿入し、第1アルミニウム板25及び第2アルミニウム板27の溶接予定位置を、電極13,15による加圧通電位置(電極の軸線Lの位置)Paに配置する。
【0021】
図3は、第1の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。電極13,15による加圧力と溶接電流とは、
図1に示す制御部21によって制御される。
制御部21は、電極駆動部23を駆動して、電極13,15間に挟まれた第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを、加圧通電位置Paで電極13,15によって板厚方向に加圧する。すると接着剤35は、
図2の(B)に示すように、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との対向面25a,27a同士の間で、電極13,15の軸線Lの位置から排除されるように広がる。
【0022】
図3に示すように、アルミニウム材を電極13,15により加圧する加圧工程は、加圧力がP1の第1加圧工程と、加圧力P1より大きい加圧力P2の第2加圧工程と、を有する。第1加圧工程は、本通電工程の前に期間t
P1で実施される。第2加圧工程は、第1加圧工程の後で、本通電工程の期間と一部が重複して期間t
P2で実施される。第1加圧工程の加圧力P1を、第2加圧工程の加圧力P2より低く設定することで、接着剤35の流動性が高められる。
【0023】
本通電は、第1加圧工程の加圧開始からスクイズ期間tSを経過したときに開始する。ここでは、通電期間にアップスロープ期間tUSを設けており、所定の溶接電流値Iまで漸増させた後、溶接期間tの間、溶接電流値Iの通電が維持される。この溶接電流の通電は、第2加圧工程の期間tP2内で実施され、第2加圧工程の開始から期間tS2を経過した後に開始される。また、通電終了後は、保持期間tHDの間、加圧力P2の加圧が維持される。なお、本通電は、溶接条件によってはアップスロープ期間tUSを設けずに、単一の矩形パルス電流を流すことであってもよい。
【0024】
上記した第1の溶接条件によれば、本通電工程前に比較的低い加圧力P1を接着剤35に付与する第1加圧工程(第1スクイズ期間tS1)で、接着剤35が加圧通電位置Paからその周囲に向けて徐々に広がるため、加圧通電位置Paにおける接着剤35の厚さが確実に減少する。そして、第1加圧工程後の第2加圧工程で、接着剤35に付与される加圧力をP2に増加させる(第2スクイズ期間tS2)。これにより、第1加圧工程で加圧通電位置Paに残留した接着剤35が加圧通電位置Paから排除されやすくなる。こうして、接着剤35が加圧通電位置Paから排除された状態で通電が開始されて、電極13と電極15とによる通電経路に接着剤35が殆ど介在しなくなり、安定した通電が実施される。
【0025】
また、本通電工程がアップスロープ通電期間tUSを含むことで、溶接電流のオーバーシュートを防止でき、スパッタの発生を抑制して安定した通電を実現できる。その結果、チリの発生を抑制して適正サイズのナゲットを安定して形成でき、溶接品質を向上できる。また、本通電期間後に適正な保持期間tHD(保持ステップ)を設けることにより、溶接部における内部欠陥の抑制効果が得られる。
【0026】
図2の(B)に示すような、接着剤35を介してアルミニウム材をスポット溶接する場合に、接着剤35に大きな加圧力を急激に付与して、接着剤35を加圧通電位置Paから排除しようとしても、接着剤35は、その流動性が抑えられて排除されにくくなる。しかし、本方法によれば、加圧通電位置Paからの接着剤35の排除効果が高くなり、これにより、通電経路に接着剤35が介在して電気抵抗が場所によって不均一になる等、通電経路を不安定にする要因を解消できる。
【0027】
そして、本方法によれば、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27との間に接着剤35を設けるため、
図1に示すナゲットNを形成した溶接箇所の周囲において、第1アルミニウム板25と第2アルミニウム板27とを接着剤35により接合できる。よって、スポット溶接による接合箇所の接合と、接着剤35による接着とが相まって、より強固な接合が可能となる。その結果、耐剥離性が高められ、アルミニウム溶接継手29の剛性を更に向上できる。
【0028】
(第2の溶接条件)
次に、第2の溶接条件を説明する。
図4は、第2の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。
第2の溶接条件は、前述した
図3に示す第1の溶接条件の第1加圧工程を、段階的に加圧力を増加させる多段加圧ステップにした以外は、第1の溶接条件と同様である。
【0029】
図4に示すように、第1加圧工程の期間t
P1は、加圧力P1aを付与する前半の第1スクイズ期間t
S1aと、加圧力P1bを付与する後半の第1スクイズ期間t
S1bとを有する(ただし、P1a<P1b<P2)。また、第2加圧工程の開始から溶接電流を通電するまでの期間を第2スクイズ期間t
S2とする。第1加圧工程で加圧力を増加させる段数は、ここでは2段の場合を例示しているが、段数は任意である。また、
図1に示す電極駆動部23の制御が可能であれば、加圧力を連続的に増加させる加圧パターンであってもよい。
【0030】
この溶接条件によれば、第2加圧工程よりも低い加圧力に設定される第1加圧工程を、徐々に高い加圧力に増加させることで、前述した加圧通電位置Paの接着剤35の排除性を調整できる。例えば、接着剤35の粘度、導電度、等の特性パラメータ、溶接施工条件等に応じて、最適な加圧パターンに設定できる。
【0031】
(第3の溶接条件)
次に、第3の溶接条件を説明する。
図5は、第3の溶接条件における電極の加圧力と溶接電流との波形を示すタイミングチャートである。
第3の溶接条件は、前述した
図3に示す第1の溶接条件の本通電工程前にプレヒート通電工程を備えること以外は、第1の溶接条件と同様である。
【0032】
プレヒート通電工程は、本通電工程の溶接電流値Iよりも小さい溶接電流値Ipで通電する工程である。プレヒート通電工程は、本通電工程前に接着剤35の粘度を低下させ、接着剤35の流動性を向上させる効果が得られる。
【0033】
そして、プレヒート通電工程の期間は、第1加圧工程の期間に少なくとも一部が含まれるように設定される。つまり、
図5に示すように、プレヒート通電工程の期間t
PHは、第1加圧工程に重なる第1プレヒート期間t
PH1と、第2加圧工程に重なる第2プレヒート期間t
PH2とを有する。
【0034】
この溶接条件によれば、本通電工程前にプレヒート通電工程を設けることで、接着剤35はプレヒート通電により加熱されて粘度が低下する。これにより、
図2の(B)に示す加圧通電位置Paの接着剤35は、流動性が向上して加圧通電位置Paから排除されやすくなる。更に詳細には、接着剤35は、比較的低い加圧力P1で加圧する第1加圧工程内でプレヒートされることで(第1プレヒート期間t
PH1)流動性がより高まり、加圧通電位置Paからの排除性が相乗効果によって格段に向上する。そして、より大きな加圧力P2で加圧する第2加圧工程に達してもプレヒートを継続するため(第2プレヒート期間t
PH2)、接着剤35の流動性が低下せずに向上し続け、大きな加圧力P2で加圧された場合でも流動性を維持できる。その結果、接着剤35はスムーズに周囲に流動して、加圧通電位置Paから確実に排除される。
【0035】
また、プレヒート通電工程後にアップスロープ通電期間tUSを含む本通電工程を行うことで、より安定した通電を実現できる。
【0036】
<突起を有するアルミニウム材のスポット溶接>
次に、一対のアルミニウム材の一方のアルミニウム材の溶接予定位置に、そのアルミニウム材に対向する他方のアルミニウム材側へ突出する突起を形成する場合を説明する。
図6の(A)~(D)は、第1アルミニウム板に突起を形成し、第2アルミニウム板に接着剤を設け、双方のアルミニウム板同士を重ね合わせる様子を段階的に示す概略断面図である。
【0037】
(突起形成)
図6の(A)に示すように、第1アルミニウム板25Aにエンボス加工を施して突起を形成する。具体的には、プレス加工等により、第1アルミニウム板25Aの溶接予定位置に、第2アルミニウム板27側への重ね合わせ方向へ膨出する平面視円形状の突起であるエンボスEを形成する。エンボスEを形成すると、第1アルミニウム板25のエンボスEの周縁部Esが、加工硬化によって他の部分よりも硬度が上昇する。
【0038】
エンボスEの突出側(第2アルミニウム板27側)の対向面25aにおける外径(エンボス径)φdは、3√t~7√tmm(tは板厚)が好ましい。エンボスEの突出側の対向面25aからエンボスEの頂部Etまでのエンボス高さhは、t/2以下が好ましい。また、エンボスEの突出側の対向面25aにおける曲率半径rは、電極13,15の先端曲率半径よりも小さいことが好ましい。
【0039】
エンボスEは、根元側(第1アルミニウム板25の突出側の反対側)の面25bにおけるエンボス根元径φdnが、電極13,15の先端径φde(電極先端の曲率半径が一定の領域)よりも小さくなるように形成する。換言すると、溶接に用いる電極13,15としては、エンボスEの根元径φnよりも大きい先端径φdeを有する電極を用いる。
【0040】
(接着剤塗布)
また、
図6の(B)に示すように、第2アルミニウム板27の第1アルミニウム板21Aとの対向面27aにおける溶接予定位置に、接着剤35を塗布する。
【0041】
(配置工程)
そして、
図6の(C)に示すように、第1アルミニウム板25AのエンボスEの突出側を第2アルミニウム板27に向け、第1アルミニウム板25Aと第2アルミニウム板27とを互いに重ね合わせる。
【0042】
(加圧工程、本通電工程)
このようにして互いに重ね合わせた第1アルミニウム板25Aと第2アルミニウム板27とを、
図6の(D)に示すように、一対の電極13,15の間に挿入する。そして、前述した第1加圧工程を開始し、続いて第2加圧工程を開始して本通電工程を実施する。
【0043】
図7は、重ね合わせたアルミニウム材を一対の電極で挟み込んで加圧工程を開始した状態の概略断面図である。
図7に示すように、第1アルミニウム板25Aと第2アルミニウム板27とが加圧されると、エンボスEの頂部Et(
図6の(D)参照)を含むエンボス中心側が、加工硬化した周縁部Esを支点として、突出方向の逆方向(矢印S方向)へ押し込まれる。これにより、エンボスEは、中心側が凹み、周縁部Esが第2アルミニウム板27側へ僅かに環状に突出した状態になる。この環状に突出したエンボスEの周縁部Esが第2アルミニウム板27に当接することで、第1アルミニウム板25Aの表面には、エンボスEの中心側に僅かに凹む隙間空間Gが形成される。このとき接着剤35は、エンボスEの中心側から外周側へ押し出されるため、隙間空間Gには接着剤35が存在しなくなる。
【0044】
このような加圧状態を維持しながら電極13,15間に溶接電流を通電する。すると、第1アルミニウム板25A及び第2アルミニウム板27は、電極13,15間の溶接予定位置で溶融が始まる。このとき、第2アルミニウム板27の対向面27aにエンボスEの環状の周縁部Esが押し付けられ、エンボスEの中心側に隙間空間Gが形成されているので、溶接予定位置の溶融は、エンボスEの周縁部Esから開始されてエンボス中心へ向かって進行する。これにより、通電によって生じた溶融アルミニウムは、エンボスEの外周側へ流れ出ることが抑制されて、隙間空間Gが溶融アルミニウムで満たされる。
【0045】
所定時間の通電が行われると、溶接予定位置には、真円度が高く、母材である第1アルミニウム板25A、及び第2アルミニウム板27への溶け込み率の優れたナゲットNが形成される。これにより、第1アルミニウム板25Aと第2アルミニウム板27とが高強度に一体化され、高品質なアルミニウム溶接継手が形成される。
【0046】
また、ナゲットNの厚さが過剰となってアルミニウム板の表面にナゲットNが露出することがないため、電極13,15の表面に溶融アルミニウムが付着することはない。したがって、電極13,15のドレッシングを頻繁に実施する必要がなくなり、生産効率を向上できる。
【0047】
電極13,15として、曲面からなる端面を有するR形又はDR形の電極を用いる場合には、電極13,15の先端面が曲面であるので、フラットな先端形状の電極に比べて電極13,15の角度のバラツキや電極の片当たり(不均一な接触)による影響が抑えられる。これにより、第1アルミニウム板25Aと第2アルミニウム板27とを安定した加圧が行え、真円度の高いナゲットNを形成して高品質なスポット溶接を実現できる。
【0048】
なお、上記した突起の形状として、施工が容易なエンボスを例示しているが、これに限らない。例えば、第1アルミニウム材の表面に突起用部材を打ち込んで、アルミニウム材の表面から突起用部材が突出する形態にする等、突起が形成される方法であれば他の形成方法を採用することも可能である。
【実施例0049】
<試験例1>
2枚のアルミニウム板を用意して、一方のアルミニウム板にエンボスを形成し、他方のアルミニウム板に接着剤を塗布し、形成したエンボスの突出側が塗布された接着剤に対向するように双方のアルミニウム板を重ね合わせてスポット溶接した。その場合のスポット溶接後のチリの発生状況を確認した。ここでは、材料及び通電条件を一定とし、加圧条件を異ならせた試験例1-1~1-5の5種類の試験を実施して、チリ発生数を調べた。
【0050】
(アルミニウム板)
上板 材質:A6022 板厚t:1.0mm エンボス径φd:φ5mm
下板 材質:A6022 板厚t:2.0mm
(接着剤)
エポキシ樹脂
(電極)
種別:クロム銅、R形電極
先端曲率半径:100mm
電極直径(元径)φde:19mm
(溶接条件)
本溶接の溶接電流値I:26kA
本溶接の溶接期間t:80ms
アップスロープ期間tUS:20ms
【0051】
試験例1-1~1-5における加圧条件を表1に示す。
【0052】
【0053】
試験例1-1は、
図3に示す第1加圧工程(t
P1)を設けずに、加圧力P2の第2加圧工程(t
P2)のみとし、第2加圧工程での第2スクイズ期間t
S2を600ms(スクイズ期間t
S:600ms)、保持期間t
HDを400msとした参考例である。
試験例1-2では、第1加圧工程の期間t
P1を500ms、加圧力P1を1kNとし、第2スクイズ期間t
S2を100msにして、スクイズ期間t
Sを600msとした。
試験例1-3では、試験例1-2のスクイズ期間t
Sを600msのままとし、第1加圧工程での第1スクイズ期間t
S1を500msから300msに短縮した。
試験例1-4では、試験例1-2の第1加圧工程の加圧力を、
図4に示すように、1段目の加圧力P1aを1kN(t
S1a:200ms)、2段目の加圧力P1bを2kN(t
S1b:200ms)とし、第2スクイズ期間t
S2を200msにして、スクイズ期間t
Sを600msとした。
試験例1-5は、試験例1-4と同様の2段の第1加圧工程とし、1段目の加圧力P1aの期間t
S1a、2段目の加圧力P1bの期間t
S1b、第2スクイズ期間t
S2をそれぞれ600msにして、スクイズ期間t
Sを1800msに延長した。
【0054】
各試験例の条件で、アルミニウム板をスポット溶接した際のチリ発生数を調べた。
第1加圧工程を設けない試験例1-1では、チリ発生数が8個に達した。
第1加圧工程を1段とした試験例1-2,1-3では、いずれも第1加圧工程を設けない試験例1-1のチリ発生数の半分以下の3個となり、チリの発生が抑制された。また、第1加圧工程を2段とした試験例1-4,1-5では、第1加圧工程を1段とした試験例1-2,1-3よりもチリ発生数が多いが、試験例1-1と比較してチリの発生が抑制された。2段加圧を実施した試験例1-4,1-5の中でも、加圧初期の1段目の加圧工程(期間tS1a)を長く設定した試験例1-5の方がチリ発生の抑制効果が高くなる傾向がある。
【0055】
<試験例2>
次に、第1加圧工程の加圧力P1を1kNに設定して、スクイズ期間tSを変化させたときのチリ発生数を調べた。表2に試験条件を示す。
【0056】
【0057】
試験例2-1では、
図3に示すように、第1スクイズ期間t
S1を500ms、第2スクイズ期間t
S2を100msとし、合計のスクイズ期間t
S(=t
S1+t
S2)を600msとした。その結果、前述した試験例1-1の場合と比較して、チリ発生数が半分以下の3個に減少した。
【0058】
試験例2-2では、試験例2-1のスクイズ期間tSと同じにして、第1スクイズ期間tS1を300msに短縮し、第2スクイズ期間tS2を300msに延長した。その結果、チリ発生数が3個で、試験例2-1と同じであった。
【0059】
試験例2-3では、試験例2-1の第1スクイズ期間tS1を500msから100msに短縮して、スクイズ期間tSを600msから200msに短縮した。その結果、チリ発生数は5個に増加した。
【0060】
試験例2-4では、試験例2-3の第1スクイズ期間tS1を同じにして、第2スクイズ期間tS2を500msに延長して、スクイズ期間tSを600msにした。その結果、チリ発生数は5個となり、試験例2-3と同じ結果になった。
【0061】
試験例2-5では、第1スクイズ期間tS1を1000msとし、第2スクイズ期間tS2を100msにして、スクイズ期間tSを1100msに延長した。試験例2-6では、試験例2-5の第1スクイズ期間tS1を1000msから2000msに延長して、スクイズ期間tSを2100msとした。試験例2-5,2-6の結果は、いずれもチリ発生数が0となり、良好な結果が得られた。
【0062】
図8は、試験例2-1~試験例2-6のチリ発生数を第1スクイズ期間t
S1について纏めた結果を示すグラフである。
図8によれば、第1スクイズ期間t
S1が長くなるほど、チリ発生数が低下していることがわかる。
【0063】
図8に示すチリ発生数の分布を直線近似して、得られた近似直線Lpがチリ発生数0となる加圧時間を求めると、約950msとなる。そのため、第1加圧工程の加圧力P1を1kNに設定する期間を1000msに設定すれば、チリ発生数が0となる可能性が高くなる。このように、比較的低い加圧力P1で加圧する第1加圧工程を有する場合には、低加圧でのスクイズ期間を十分に長くすることで、チリ発生を抑制できることがわかった。
【0064】
<試験例3>
次に、接着剤の特性の一つである粘度を、通電によるプレヒートで変化させ、接着剤の流動性(排除性)を調整した試験例を以下に示す。試験例3-1~試験例3-6の試験条件を表3に示す。
【0065】
(溶接条件)
プレヒート期間tPHの電流値IP:8kA
本溶接の溶接期間t:80ms
【0066】
【0067】
試験例3-1では、
図5に示す本溶接の溶接電流値Iを25kA、第1加圧工程の加圧力P1を1kN、第2加圧工程の加圧力P2を3kN、スクイズ期間t
Sを100ms、第1プレヒート期間t
PH1を400ms、第2プレヒート期間t
PH2を100ms、アップスロープ期間t
USを20ms、保持期間t
HDを400msとしている。その結果、チリ発生数は2個であった。試験例3-2では、試験例3-1の第1プレヒート期間t
PH1を400msから100msに短縮した。その結果、チリ発生数は3個であった。
【0068】
試験例3-3では、試験例3-1の第1プレヒート期間tPH1を400msから100msに短縮し、アップスロープ期間tUSを20msから200msに延長した。
試験例3-4では、試験例3-3のアップスロープ期間tUSを100msにし、試験例3-5では、試験例3-3のアップスロープ期間tUSを60msにした。
【0069】
試験例3-3,3-4,3-5は、アップスロープ期間tUSを延長したことにより、溶接品質が安定して、チリ発生数が0となった。このように、プレヒート期間tPHを設ける場合には、アップスロープ期間tUSを60ms以上に設定するとよい。
【0070】
試験例3-6では、試験例3-5の本溶接の溶接電流値Iを25kAから27kAに増加させた。その場合にも、チリ発生数は0のままであった。
【0071】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0072】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 未硬化の接着剤を介して互いに重ね合わせたアルミニウム材を、一対の電極間に前記接着剤と共に挟み込んで加圧する加圧工程と、
前記電極による加圧を継続させながら前記電極間に通電を行う本通電工程と、
を備えるアルミニウム材のスポット溶接方法であって、
前記加圧工程は、前記本通電工程の前に実施する第1加圧工程と、前記本通電工程と重複して実施する第2加圧工程と、を含み、
前記第1加圧工程の加圧力は前記第2加圧工程の加圧力より低くする、
アルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、本通電工程の前に実施する第1加圧工程を第2加圧工程の加圧力より低い加圧力で実施することにより、第1加圧工程を設けない場合と比較して、チリの発生を抑制できる。
【0073】
(2) 前記本通電工程の前に、前記本通電工程の最大溶接電流値よりも小さい電流値で通電するプレヒート通電工程を備える、(1)に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、プレヒート通電工程により接着剤が加熱され、接着剤の粘度が低下することで、接着剤の排出性を向上できる。また、第1加圧工程の時間を短縮してもチリ抑制効果を維持でき、スポット溶接のタクトタイムを短縮できる。
【0074】
(3) 前記プレヒート通電工程は、前記第1加圧工程の少なくとも一部の期間と重複する、(2)に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、加圧力が比較的低い第1加圧工程と、プレヒート通電工程とを重複させることで、加熱された接着剤を円滑に流動させて排出できる。
【0075】
(4) 前記プレヒート通電工程と前記第1加圧工程との重複期間は、100ms以上、400ms未満である、(3)に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、接着剤の粘度を良好に低下させ、流動性を高められる。
【0076】
(5) 前記プレヒート通電工程と前記本通電工程とを連続して実施する、(2)~(4)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、プレヒート通電工程により加熱された接着剤を、温度を低下させずにスポット溶接を実施できるため、接着剤の高い流動性を維持できる。
【0077】
(6) 前記第1加圧工程の期間は、1000ms以上、2000ms以下である、(1)に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、接着剤を確実に排出できるため、チリの発生を抑制できる。
【0078】
(7) 前記本通電工程は、アップスロープ通電期間を含む、(1)~(6)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、アップスロープ通電期間を設けることで溶接品質の安定化が図れる。
【0079】
(8) 前記第1加圧工程は、前記第1加圧工程の加圧力から前記第2加圧工程の加圧力まで2段以上で段階的に増加させる多段加圧ステップを含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、第1加圧工程での加圧力を簡単な制御で変更可能となる。
【0080】
(9) 前記第2加圧工程は、前記本通電工程後の前記アルミニウム材の加圧を保持する保持ステップを含む、(1)~(8)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、内部欠陥の抑制効果を高められる。
【0081】
(10) 少なくとも一枚の前記アルミニウム材の溶接予定位置に、当該アルミニウム材と対向する他のアルミニウム材側へ突出する突起を有する、(1)~(9)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、突起が通電経路となり、突起を中心に接着剤が放射状に広がって、溶接予定位置から接着剤を確実に排除できる。
【0082】
(11) 前記突起は、前記アルミニウム材同士の重ね合わせ方向へ膨出する平面視円形状のエンボスである、(10)に記載のアルミニウム材のスポット溶接方法。
このアルミニウム材のスポット溶接方法によれば、突起を簡単な加工により形成でき、施工性を向上できる。つまり、アルミニウム材に形成されたエンボスは、電極によって均一に押し潰されて、その周縁部が加工硬化する。このエンボスの膨出側を他のアルミニウム材へ向けてアルミニウム材の溶接予定位置同士を重ね合わせ、互いに重ね合わせたアルミニウム材を電極で挟み込んで加圧する。すると、エンボスの加工硬化された周縁部を残してエンボス中心側が押し込まれて凹むようになる。さらに加圧を継続させながら電極間に通電を行うと、電極間に配置されたアルミニウム材の溶接予定位置で溶融が始まる。このとき、他のアルミニウム材の表面にはエンボスの周縁部が押し付けられ、エンボス中心側には隙間が形成されているので、溶接予定位置におけるアルミニウム材の溶融は、エンボスの周縁部から開始され、エンボス中心へ向かって進行する。このため、通電によって生じた溶融アルミニウムをエンボスの外周側へ流出させることがない。また、エンボス中心側の隙間が溶融アルミニウムで満たされるため、真円度が高く、しかも、母材であるアルミニウム材への溶け込み率に優れたナゲットが形成される。これにより、高品質なアルミニウム材同士の接合体が得られる。また、ナゲットが厚くなりすぎてアルミニウム材表面に露出するのを抑制でき、電極の表面に溶融アルミニウムが付着することがない。よって、電極のドレッシングを頻繁に実施する必要がなくなり、生産効率を向上できる。
【0083】
(12) 複数枚のアルミニウム材を用意する工程と、
前記アルミニウム材同士の間に接着剤を設ける工程と、
(1)~(11)のいずれか1つに記載のアルミニウム材のスポット溶接方法により前記アルミニウム材同士を接合する工程と、
を備える、アルミニウム材の接合方法。
このアルミニウム材の接合方法によれば、チリの発生を抑制した高品質な状態でアルミニウム材同士を接合できる。
【0084】
(13) 少なくとも一枚の前記アルミニウム材における溶接予定位置に、他の前記アルミニウム材側への重ね合わせ方向へ突出する突起を形成する工程を更に備える、(12)に記載のアルミニウム材の接合方法。
このアルミニウム材の接合方法によれば、アルミニウム板に突起を設けることで、より確実にアルミニウム材同士を接合できる。
【0085】
(14) 前記接着剤を設ける工程は、複数の溶接予定位置にそれぞれ前記接着剤を塗布する工程である、(12)又は(13)に記載のアルミニウム材の接合方法。
このアルミニウム材の接合方法によれば、広い面積であっても簡単に接着剤を設けられ、施工性を向上できる。
【0086】
(15) 前記接着剤を設ける工程は、前記アルミニウム材同士の間に接着シートを挟む工程である、(12)又は(13)に記載のアルミニウム材の接合方法。
このアルミニウム材の接合方法によれば、均一な厚さの接着剤が簡単に設けられ、施工性を向上できる。