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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127178
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】搭載型施肥装置
(51)【国際特許分類】
   A01C 15/00 20060101AFI20220824BHJP
   A01B 17/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
A01C15/00 Z
A01C15/00 G
A01C15/00 M
A01B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025164
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】591137156
【氏名又は名称】株式会社ジョーニシ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】村井 栄介
【テーマコード(参考)】
2B032
2B052
【Fターム(参考)】
2B032AA06
2B032FB02
2B032GA06
2B052BA06
2B052BC05
2B052BC13
2B052DA02
2B052DC02
2B052DC07
2B052DC09
2B052DC12
2B052DC14
2B052DC15
2B052DC18
2B052DD01
2B052DD04
2B052EA02
2B052EA09
2B052EA10
2B052EB08
2B052EC02
(57)【要約】
【課題】圃場の過去の記録を元に肥料の投下量を最適化しながら、効率よく肥料の導入ができるようにする。
【解決手段】搭載型施肥装置10の本体から左右両方について複数箇所に区切られた個別施肥域18に対して肥料を導入する個別施肥機11を複数個有し、個別施肥機11は個々に独立して導入する肥料量を調整する調整機構12を有し、位置情報を取得する位置情報取得部19と、圃場の過去の生育情報に基づく圃場を矩形に区切った個別エリア21ごとの肥料の目標導入量のデータを記録した記憶部33とを有する搭載型施肥装置10で、個々の調整機構12による肥料量を、位置情報から判別される肥料を導入しようとする個別エリア21の目標導入量に合わせた量に調整させる肥料調整手段を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場を走行する装置に搭載して走行しながら肥料を導入する搭載型施肥装置であって、
走行する装置本体から左右両方について複数箇所に区切られた個別施肥域に対して肥料を導入する個別施肥機を複数個有し、
前記個別施肥機は、個々に独立して、導入する肥料量を調整する調整機構を有し、
位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記圃場の過去の生育情報に基づく、前記圃場を矩形に区切った個別エリアごとの肥料の目標導入量のデータを記録した記憶部と、
を有し、
前記個別エリアを区切る線の方向に前記走行する装置を走らせながら肥料を導入する際に、個々の前記調整機構による肥料量を、前記位置情報から判別される肥料を導入しようとする前記個別エリアの目標導入量に合わせた量に調整させる肥料調整手段を実行する処理部と、
を有する搭載型施肥装置。
【請求項2】
前記個別施肥機は、導入する肥料が、肥料量を調整する機構から、肥料を導入する前記個別エリアの地面に到達するまでのタイムラグtを有しており、
前記処理部は、
前記走行する装置の移動速度vを取得する速度取得手段を実行し、
個々の前記調整機構で調整する肥料の量を、前記タイムラグtの経過後に導入する前記個別エリアの肥料の目標導入量とするディレイ調整手段を実行する
請求項1に記載の搭載型施肥装置。
【請求項3】
前記目標導入量は、
前記圃場の過去の生育情報となる過去の画像データを分析して、前記個別エリアごとに過去の生育の質を示す生育度を自動判別した上で、前記生育度の低い前記個別エリアほど高い前記目標導入量として設定した値をデフォルトとしたものである
請求項1又は2に記載の搭載型施肥装置。
【請求項4】
前記圃場の過去の生育情報又はそれにより算出された目標導入量を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記圃場の個別エリアごとに、前記目標導入量のデータ入力を受け付ける操作部と、を有し、
前記処理部は、前記操作部から入力された前記個別エリアの前記目標導入量を前記記憶部に記憶する目標導入量受付手段を実行する
請求項1乃至3のいずれかに記載の搭載型施肥装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の搭載型施肥装置を搭載し、
耕うんと同時に肥料の導入を行う装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圃場に適量の肥料を導入する施肥機に関する。
【背景技術】
【0002】
現在ほとんどの圃場において生育を良好にするための肥料の導入は必須である。しかし、肥料を過剰に導入するとその分無駄なコストを生じるだけでなく、かえって作物の生育を悪化させてしまう場合もある。そこで、適量の肥料を導入するための様々な工夫が提案されている。
【0003】
圃場へ肥料を導入するにあたっては、スピンナーと呼ばれる回転板に載せた肥料を左右に撒き散らすブロードキャスターを搭載した車両を走行させる方式が一般的に用いられている(例えば特許文献1)。このようなブロードキャスターでは、進行方向へ走行していくタイミングに合わせて、撒き散らす肥料の量を調整する可変施肥が可能である。左右方向の到達距離としては、5~10メートル程度まで好適に飛ばすことができる。
【0004】
また、圃場に導入する肥料の量を、個別に区切ったエリアごとに設定する施肥マップを作成することが特許文献2で提案されている。GPS(Global Positioning System)機能によって圃場内における位置を確認しながら、産業用ヘリコプターやドローンなどで上空から写真撮影した画像データや、その他の測定データを取得し、生育情報や土壌の状態に関する情報を得て、エリアごとに最適な肥料の量を算出して設定する。GPS測定装置を有する自動可変施肥機がその施肥マップに従ってマイコン制御で施肥量を調整しながら施肥を行うことも提案されている。
【0005】
さらに、GPS信号に基づく速度情報を得るとともに、車速センサで測定した車速で車速を補正しながら、位置に適した肥料噴管から左右に肥料を散布する技術が特許文献3に記載されている。左右の肥料噴管にはそれぞれ肥料タンクと所定量の散布粒剤を繰出す繰出装置が設けられ、繰り出された散布粒剤は送風装置により左右の噴管へと送られる。噴管には所定間隔ごとに所定の口径の噴口が下方へ空けられており、肥料が投下される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-254752号公報
【特許文献2】特開2011-254711号公報
【特許文献3】特開2010-233461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のようなブロードキャスターでは左右両方に撒き散らす量は走行方向に対しては量の調整ができるが、左右方向に対しては一律の量しか撒き散らすことができない。例えば走行方向に沿って可変施肥するとして、進行方向1メートルごとに肥料の量を調整することができるが、左右幅10メートルに亘っては一律同程度の量を投下するしかない。このため、縦1メートル横10メートルの範囲の中で、1メートル×1メートルの1つのエリアだけ生育状態が悪い場合に、その1つのエリアに必要となる十分な量の肥料を投下しようとすると、隣接する9つ分のエリアにも同程度の量の肥料を投下しなければならない。これは、肥料の無駄となり、肥料過剰によりかえって生育が悪くなるエリアができてしまうおそれもあった。
【0008】
このような状況となる圃場の概念図を図8に示す。図8(a)は圃場を区切った個別エリアごとの過去の生育情報である。個別エリアごとに生育情報が異なっている。生育情報の表示は図8(b)に示すように、色の薄い方をgood、色の濃い方をbadとする。このような、生育情報にばらつきのある圃場に対して、個別エリアの生育情報が悪いエリアが多い列ほど肥料の目標導入量を多く、生育情報が良いエリアが多い列ほど肥料の目標導入量を少なくする。それに対応した量の肥料を散布して次の生育状態をできるだけ均一にすることを目標とする補正をかけようとすると、図8(c)に示すように、縦方向には増減が調整できるものの一度に巻き散らす横方向には同一の量となる肥料を導入することになる。こうして設定した量の肥料を撒くと、ある程度の生育量の補正はできるものの、元々生育が良かったところには過剰な肥料が投下されやすく、元々生育が良くなかったところが十分に補正されきらずに生育のやや良くない場所として生育状態のムラが残りやすい。肥料投下後の想定される生育情報を図8(d)に示す。
【0009】
特許文献2の施肥マップを利用する方法では、区切り線によって区切られた1ラインごとに施肥機を走行させるため、個々のエリアに適した量の肥料を導入することができる。しかし、区切ったラインごとに施肥機を走行させなければならず、施肥マップを区切る精度を上げていくと、その分走行させる回数が膨大になってしまうという作業負担の問題があった。
【0010】
特許文献3に記載の装置では、GPSにより位置を確認しながら位置に適した量の肥料を散布するにあたり、左右両方の肥料噴管に向かう繰出装置を駆動させる左右のローラを独立駆動させる旨が記載されており、左右で異なる量の肥料を導入することが提案されている。しかし、左右それぞれの噴管に複数設けられた噴口からの投下量は独立しておらず、左右に複数ある噴口のうちの一つについて十分な量の肥料を導入しようとすると、その噴口が属する噴管を共有する他の噴口も大量の肥料を投下されることになり、どうしても無駄が生じていた。
【0011】
そこでこの発明は、圃場の過去の記録を元に肥料の投下量を最適化しながら、効率よく肥料の導入ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、
圃場を走行する装置に搭載して走行しながら肥料を導入する搭載型施肥装置であって、
走行する装置本体から左右両方について複数箇所に区切られた個別施肥域に対して肥料を導入する個別施肥機を複数個有し、
前記個別施肥機は、個々に独立して、導入する肥料量を調整する調整機構を有し、
位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記圃場の過去の生育情報に基づく、前記圃場を矩形に区切った個別エリアごとの肥料の目標導入量のデータを記録した記憶部と、
を有し、
前記個別エリアを区切る線の方向に前記走行する装置を走らせながら肥料を導入する際に、個々の前記調整機構による肥料量を、前記位置情報から判別される肥料を導入しようとする前記個別エリアの目標導入量に合わせた量に調整させる肥料調整手段を実行する処理部と、
を有する搭載型施肥装置により上記の課題を解決した。
【0013】
走行する装置本体から左右両方について複数個所に区切られた個別施肥域に対して肥料を導入する個別施肥機を複数個有するので、前記個別エリアに対して個別に肥料量を調整しながら導入する作業を、前記個別エリアの左右それぞれ2列以上の合計4列以上に対して同時に進めながら走行することができ、精度と効率性とを両立させることができる。
【0014】
また、この発明にかかる搭載型施肥装置の前記個別施肥機は、導入する肥料が、肥料量を調整する機構から、肥料を導入する前記個別エリアの地面に到達するまでのタイムラグtを有しており、
前記処理部は、
前記走行する装置の移動速度vを取得する速度取得手段を実行し、
個々の前記調整機構で調整する肥料の量を、前記タイムラグtの経過後に導入する前記個別エリアの肥料の目標導入量とするディレイ調整手段を実行する実施形態とすることができる。
【0015】
この発明にかかる搭載型施肥装置は、前記走行する装置に搭載されて走行しながら肥料を投下するが、一旦停止して投下する肥料の量を調整して投下してから前記個別エリア横一行分走行し、また停止して投下したのでは時間と手間がかかりすぎてしまう。走行しながら、現時点における位置からタイムラグtの間に移動速度vで動く距離だけ先の位置にある前記個別エリアに導入する肥料を前記調整機構で調整する。これにより、走行を停止させることなく、肥料を導入する個別エリアにと到達した時点で、タイムラグtだけ前に予め調整された最適な量の肥料を投下していくことができる。
【0016】
また、この発明にかかる搭載型施肥装置は、
前記目標導入量が、前記圃場の過去の生育情報となる過去の画像データを分析して、前記個別エリアごとに過去の生育の質を示す生育度を自動判別した上で、前記生育度の低い前記個別エリアほど高い前記目標導入量として設定した値をデフォルトとしたものである実施形態を選択することができる。
【0017】
前記個別エリアごとの前記目標導入量は、個別で土壌調査して決定しようとすると大変な手間がかかる。前記圃場の過去の画像データを分析して、前記目標導入量のデフォルトを定めることにより、この発明にかかる搭載型施肥装置を運用する際の手間を大幅に省くことができる。
【0018】
さらに、この発明にかかる搭載型施肥装置は、
前記圃場の過去の生育情報又はそれにより算出された目標導入量を表示する表示部と、
前記表示部に表示された前記圃場の個別エリアごとに、前記目標導入量のデータ入力を受け付ける操作部と、を有し、
前記処理部は、前記操作部から入力された前記個別エリアの前記目標導入量を前記記憶部に記憶する目標導入量受付手段を実行する
実施形態を選択することができる。
【0019】
搭載型施肥装置にモニタのような表示部を設けて、操作部からデータ入力できるようにすることで、走行させながら、あるいは走行させる直前の段階で操縦者が直接目視で圃場の様子を確認して目標導入量を適宜入力して修正し、より適した目標導入量に変更させることができるようになる。
【0020】
この発明にかかる搭載型施肥装置を搭載させる前記走行する装置は、耕うんと同時に肥料の導入を行う実施形態とすることができる。圃場を二度回ることなく、一度の走行で耕うんと施肥との両方を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、面積の広い圃場に対して、細かく範囲を絞った個別エリアごとに適した量の肥料を、少ない手間で導入することができ、肥料を節約して無駄をなくすとともに、環境保全にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明にかかる搭載型施肥装置の実施形態例を示す斜視図
図2図1に示す搭載型施肥装置の個別施肥機の断面図
図3】この発明にかかる搭載型施肥装置の実施形態例の個別施肥域と個別エリアとの概念図
図4】この発明にかかる搭載型施肥装置の実施形態例の機能ブロック図
図5】(a)圃場の育成情報の概念図、(b)表示の凡例、(c)個別施肥域の概念図、(d)圃場への施肥実行時の概念図、(e)育成情報に導入量を補正した想定状態の概念図
図6】(a)施肥作業しながら施肥量を修正する実施形態の概念図、(b)個別エリアごとの目標導入量を表示する画面例図
図7】この発明にかかる搭載型施肥装置の実行手順例を示すフローチャート
図8】(a)圃場の育成情報の概念図、(b)表示の凡例、(c)従来のブロードキャスターによる施肥実行時の概念図、(e)育成情報に導入量を補正した想定状態の概念図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明について具体的な実施形態とともに説明する。この発明は、圃場を縦横に区切った個別エリアごとに可変施肥が可能な搭載型施肥装置である。
【0024】
この搭載型施肥装置10の実施形態例を図1の斜視図とともに説明する。ここで搭載型施肥装置10を搭載する走行する装置1は、エンジン又はモータと車輪を有して自走することができるものである。人が乗り込んで運転するものでもよいし、自動制御や遠隔制御により走行するものでもよい。この実施形態にかかる搭載型施肥装置10は、施肥と同時に耕うんを行えるように、走行する装置1の後方(図1中右下方向)に、カバー15に格納されて、回転する耕うん爪16を有するロータリ17を有する。すなわち、この実施形態での走行する装置1は施肥機であるとともに耕うん機でもある。さらに、搭載型施肥装置10は位置情報を把握するための位置情報取得部19を有する。図の例ではアンテナとして動作しやすいように耕うん機の屋根部分に位置情報取得部19を取り付けてある。
【0025】
なお、本発明において走行する方向を前、その反対側を後、走行する方向に向かっての左右方向を左右方向という。
【0026】
この実施形態にかかる搭載型施肥装置10は、それを搭載させる走行する装置1本体から左右両方について、カバー15の上方に、個別施肥機となるホッパー11a,11bとホッパー11c,11dとを有している。ホッパー11a~11dはそれぞれ肥料を格納しており、それぞれがカバー15下の領域を仮想的に複数個所に区切られた個別施肥機に対して肥料を導入するものである。この例では左右2つずつのホッパーを設けているが、左右ともに複数個のホッパーがあればよい。ホッパーの質量と容量にもよるが、装置構造上支えられるようであれば、左右に2~10個程度のホッパーを有していてよい。
【0027】
上記の個別施肥機となる個々のホッパー11、ロール12及びホース14と、走行する装置1において施肥される部分を耕すロータリ17、及びロータリ17を覆うカバー15までの関係を、図2の横断面図とともに説明する。ホッパー11の下には導入する肥料量を調整する調整機構として、ロール12が設けられている。回転するロール12の表面には所定量の肥料を格納できる穴である格納部13が複数個設けられており、格納部13に格納された分の肥料だけが下に落ちる。これにより、ロール12の回転数を増やすほど、投下する肥料を増やすことができる。投下する肥料はホッパー11及びロール12ごとにまとめられて、ホース14内を落下してカバー15内の耕うん爪16より前の所定の個別施肥域18(18a,18b,18c・・・)へと落ちる。なお、ホース14はホッパー11ごとに一本に限る必要はなく、想定される最大量を投下しようとするときに、滞ることなく落下できるように、個別施肥域18ごとに複数本のホース14を有していてもよい。図1では1つのホッパー11及び個別施肥域18あたり3本のホース14を設けて肥料を投下可能としている。このホッパー11とロール12とホース14とが個別施肥域18ごとに取り付けられる個別施肥機となる。
【0028】
なお、図示しないが、ホッパー11の肥料を格納する部分がホッパー11a~11dのように分かれた形態ではなく、上部が連結した一体のホッパーである形態でもよい。ホッパー11への導入作業をまとめることができる。その場合でも、ロール12は個別施肥域18ごとに個々に有することが調整の点から必要となる。一方で、ホッパー11が分かれている方がホッパー11から肥料を導入する部分はスムーズに運用できる。
【0029】
上記の個別施肥域18は、投下する肥料の量を他の領域と区別して投下できる区域であり、圃場の地図データを縦横に区切る個別エリア21と同じ横幅Lであると好ましい。すなわち、個別エリア21の区切りと個別施肥域18の区切りとが重なるようにして搭載型施肥装置10を走行させると好ましい。個別施肥域18の横幅Lは10cm以上2m以下程度が好ましい。出願時点のGPS精度上は50cm以上が現実的であるが、位置情報の精度が十分に向上すればその分横幅Lを狭くして運用することができる。一方、2mより大きいと、肥料の量を最適に調整しようとしても大まかなものとなってしまい、無駄に投下される肥料の量が無視できず、本発明の意義を十分に享受できない。以降の説明では特に説明がない場合、個別エリア21及び個別施肥域18の横幅Lを1m程度とした実施形態を例にする。
【0030】
一方、個別施肥域18の縦幅Dは、走行する装置1の走行速度に応じて、投下できる肥料の量を変更、調整できる精度に応じて決定される。運用上は、圃場の地図データを縦横に区切る個別エリア21と同じ縦幅Dであると好ましい。走行する装置1の走行とともに、ここからここまでの縦幅D分は量+1で投入し、それより先の縦幅D分は量±0で投入し、という切り替えが可能となる幅を縦幅Dとする。個別施肥域18の縦幅Dは10cm以上2m以下が好ましい。走行速度を遅くすれば縦幅Dを細かくすることはできるが、遅すぎると作業効率の点からデメリットが大きすぎることになってしまう。一方、2mより大きいと、肥料の量を最適に調整しようとしても大まかなものとなってしまい、無駄に投下される肥料の量が無視できず、本発明の意義を十分に享受できない。以降の説明では特に説明がない場合、個別エリア21及び個別施肥域18の縦幅Dを1m程度とした実施形態を例にする。
【0031】
上記の通り、個別エリア21は圃場を縦横に直交する線によって区切った方形であるが、特に縦横幅を揃えた正方形であると、位置の管理がしやすく好ましい。
【0032】
図3に、耕うんとともに施肥する圃場20を個別に区切る個別エリア21において、個別エリア21を区切る仮想的な線に沿って走行する装置1を走行させる際の平面視した概念図を示す。走行する装置1の左右に2基ずつ、個別施肥機の一部となるホッパー11a,11bとホッパー11c,11dを有し、それぞれのホースの下に個別施肥域18a、18bと18c、18dとが位置するようになる。個別施肥域18を区切る線と個別エリア21を区切る線とが合わさるように、走行する装置1を走らせて、耕うんとともに施肥する。
【0033】
このような走行する装置1に搭載する搭載型施肥装置10を構成する機能ブロック図の例を図4に示す。搭載型施肥装置10は、データを入力されて搭載型施肥装置10の動作を制御する処理部35を有する。具体的にはマイコンやCPUなどであり、後述する記憶部33に記憶されたプログラムとして後述する各手段を実行する。
【0034】
搭載型施肥装置10は、揮発型又は不揮発型の記憶装置である記憶部33を有する。ハードウェアとしては、磁気ディスクや半導体メモリなどが挙げられる。電源を切っても記録を保持できる不揮発型の記憶装置と、処理部35が作業メモリとして用いる揮発型の記憶装置との両方を有していると好ましい。記憶部33には、処理部35に後述する各手段を実行させるためのプログラムが記録されている。また、前記圃場の過去の生育情報に基づく、前記圃場を矩形(正方形を含む)に区切った個別エリアごとの肥料の目標導入量のデータを記録してある。生育情報そのものは含まれていなくてもよいが、作業者が目視で確認しながら作業する際の参照用として含まれていてもよい。この個別エリアの情報は、位置情報を含むか、少なくとも位置情報と関連付けられる形式である必要がある。この目標導入量のデータは、施肥しようとする前記圃場で作業を開始するごとに入れ替えてもよいし、永続的に記録しておくものでもよい。なお、搭載型施肥装置10を多くの圃場で使いまわす場合には、データが入れ替え可能であることが必要となる。
【0035】
上記の処理部35と記憶部33は、ハードウェアとして一般的なコンピュータを用いてよい。また、記憶部33の一部として、後述する通信部37を介して接続されるクラウド上のストレージを利用する形態でもよい。
【0036】
搭載型施肥装置10は、位置情報を取得する位置情報取得部19を有しており、処理部35に現時点での位置情報を送信できる。ただし、走行する装置1自体に取り付けられている位置情報取得部19に接続して利用可能であるインターフェースを有する実施形態でもよい。位置情報取得部19としては例えばGPSなどの人工衛星Sから発せられる電波を用いて測位できるものをいう。ハードウェアとしてはアンテナと、そのアンテナで受信した電波により得られた情報を送信する端子などからなる一般的なものが利用できる。位置情報取得部19の位置精度は基本的に高いほど個別エリア21を細かく設定して精度の高い施肥が実現できるので望ましい。
【0037】
搭載型施肥装置10は走行する装置1の車輪または車軸に取り付けた速度計34から移動速度vを取得できる速度取得手段を実行できると好ましい。また、移動速度vを取得できるのであれば車輪に取り付けた速度計34からの情報でなくてもよく、例えば車載カメラで撮影された映像を用いた画像解析や、位置情報取得部19により得られる位置情報の変化といったその他の情報から速度を算出するものでもよい。これらの場合は他のハードウェアから得られる情報を処理部35で算出して移動速度vを得る。ただし、本発明出願時点においては、精度及び簡便さの点から車輪または車軸から速度の値を測定するのが簡便で好ましい。得られた移動速度vは処理部35に送信される。
【0038】
搭載型施肥装置10は、現時点での位置情報や圃場のマップデータ、処理部35に対するコマンドなどを表示できる表示部31を有すると好ましい。基本的には液晶または有機ELのパネルを有するモニタである。専用のモニタを備えていてもよいし、有線又は無線インターフェースでタブレットやスマートフォンを処理部35に繋げて、これらのタブレットやスマートフォンのモニタを表示部31として活用できる実施形態でもよい。
【0039】
搭載型施肥装置10は、処理部35に対して数値データを入力したり、コマンドを指示したりする操作部32を有すると好ましい。操作性の点からは、上記の表示部31と重なるタッチパネルがあると好ましい。タブレット又はスマートフォンを表示部31として用いる場合は、そのタッチパネルである画面を操作部32として入力されるとよい。また、ダイヤルやボタン、スイッチなどであってもよい。これらは一つのハードウェアである必要はなく、操作できる装置が複数供えられていてもよい。ただし、データの入力を行う場合にはキーボードかタッチパネルがあることが望ましい。
【0040】
搭載型施肥装置10は、外部から信号またはデータを入力される通信部37を有すると好ましい。具体的には、移動体通信網に接続可能な通信モジュールを備えているとよい。移動体通信網を介してインターネットに接続し、必要なデータをダウンロードできるようになっていると好ましい。必要なデータとは、例えば位置情報を含む個別エリアごとの目標導入量のデータや、目標導入量を判断するための過去の生育情報などが挙げられる。ダウンロードされたデータは記憶部33に一旦格納された後、適宜呼び出して処理部35が処理する。また、記憶部33の一部をクラウド上にする場合は、通信部37はクラウドサーバとの接続も行う。
【0041】
なお、通信部37の代わりに、または通信部37と併せて、USB端子やSDカードリーダなどの外部記憶メディア用のインターフェースを有していてもよい。これらの外部記憶メディア経由で目標導入量のデータや過去の生育情報などを入力されてもよい。
【0042】
記憶部33が記憶する肥料の目標導入量は、前記圃場の過去の生育情報となる過去の画像データを分析して、前記個別エリアごとに過去の生育の質を示す生育度を自動判別した上で、前記生育度の低い前記個別エリアほど高い前記目標導入量として設定した値をデフォルトとしたものであると好ましい。この画像データの分析や自動判別は、搭載型施肥装置10ではなく別途サーバなどで処理しておき、設定された値のみを搭載型施肥装置10で利用するようにすると、装置の負荷が少なくて済む。ただし、あくまでデフォルトであり、表示部31に表示した目標導入量の値を操作部32からの操作で作業者が変更できると好ましい。過去の画像データの値が古かったり、現場を目視して判断できる変更点がある場合にも対応できるようになる。
【0043】
処理部35は、上記の目標導入量に合わせた肥料を導入するように、個別施肥機となるロール12a~12dの回転数を設定する肥料調整手段を実行する。なお、ここで調整する基準となる目標導入量は、その時点において位置情報取得部19によって取得された位置情報が示す、搭載型施肥装置10が現時点で居る場所の真下である個別エリア21ではなく、それよりも走行方向前方の個別エリア21における目標導入量に合わせる。ロール12からホース14を通り個別施肥域18に到達するまでタイムラグtがかかる。その間に搭載型施肥装置10が移動速度vで動くと、ロール12で調整した量の肥料が圃場に到達するまで、t×vだけ前方に移動している。このため、現時点で搭載型施肥装置10の個別施肥域18が設定される個別エリア21よりも、t×vだけ進行方向前方の個別エリア21の目標導入量に合わせてロール12を調整するディレイ調整手段を実行するのが好ましい。このため、処理部35は速度計34から速度を取得するか、又は録画された画像データや位置情報の変化から速度を取得する速度取得手段を定期的に又は常時実行する。
【0044】
このような手段を実行して施肥していく圃場の概念図を図5に示す。図5(a)は圃場の個別エリア21ごとの過去の生育情報である。個別エリア21ごとに生育情報が異なっている。生育情報の表示は図5(b)に示すように、色の薄い方をgood、色の濃い方をbadとする。このような、生育情報にばらつきのある圃場に対して、図5(c)に示すように個別エリア21に対応した個別施肥域18となるように、個別施肥域18ごとに異なる施肥量を設定する。個別エリア21の生育情報がbadである程度の強いところほど、大量の肥料「多」となるように目標導入量を設定する。逆に生育情報がgoodである程度の強いところほど、肥料は少量で済むように目標導入量を設定する。こうして設定された目標導入量に、導入する肥料量を調整しながら、走行する装置1を走行させながら搭載型施肥装置10によって施肥していき、次の想定される生育情報を平準化させていく(図5(d))。この作業を圃場全域に対して行うことで、圃場全体の次の生育を平準化させ、無駄のない肥料導入が可能となる(図5(e))。
【0045】
また別の実施形態として、過去の生育情報を用いずに、ユーザーが任意で施肥量を決めたい場合もある。あるいは、過去の生育情報を利用しつつも、一部についてはユーザーが任意で施肥量を決めたい場合もある。これらのような場合に対応するため、走行する装置1を走行させる操縦者が、適宜目視しながら目標導入量を調整できると好ましい。その実行する状況の概念図を図6(a)に示す。操縦席に、表示部31でありかつ操作部32となるタブレット端末22を用意する。表示部31であるタブレット端末22の画面には、表示部31に過去の生育情報についての撮影写真や、それを数値化したデータ、又はそれに基づく肥料の目標導入量などを表示する。また、現在位置として個別施肥域18を表示させてもよい。この表示状況を図6(b)に示す。この画面表示を見ながら、一旦走行する装置1を停止させて、操作部32となる画面を操作し、変更する目標導入量を入力する。例えば、該当する個別エリア21の表示部分を長押しし、図5(b)のような品質選択表示をポップアップさせ、変更すべき量のタイルを選択して、データ入力とするような実施形態が挙げられる。あるいは、数値入力などにより受け付けてもよい。処理部35はそのような入力を受け付けたら、修正後の目標導入量を記憶部33に記憶させる目標導入量受付手段を実行する。
【0046】
この発明にかかる搭載型施肥装置を実行する一連の操作手順を図7とともに説明する。
まず、準備段階として、実際に肥料を導入する1シーズン以上前に、肥料を導入しようとする圃場の作物の生育情報を取得する(S101)。例えばドローンやヘリコプター、小型飛行機などによって撮影する空中写真が用いられる。次に、肥料を導入しようとする圃場について、発明を実行する搭載型施肥装置10の位置情報取得部19の精度上可能な範囲で、個別施肥域18の大きさに合わせた長方形に区切った個別エリア21を設定する(S102)。なお、S101とS102は順番が逆でもよい。例えば、当該圃場に対して実行するのが2シーズン目以降であれば、個別エリア21は既に設定済みであり、最新の生育情報を取得するだけでよい。
【0047】
その上で、生育情報である画像を解析して、個別エリア21ごとの肥料の目標導入量を設定する(S103)。この画像の解析にあたっては、撮影されたときに圃場に植えられていた作物の品質と上空写真とを紐づけた機械学習がされた識別手段などを用いるとよい。こうして個別エリア21ごとに設定された目標導入量の値を、位置情報と併せて記憶部33に導入する(S104)。
【0048】
走行する装置1を、肥料を導入しようとする圃場の端部まで移動させる(S110)。その位置から走行を予定する方向にある、個別施肥域18としてカバーできる個別エリア21の目標導入量を記憶部33から読みだす(S111)。なお、フローには図示しないが、この読取の段階で表示部31にて内容を表示し、なんらかの問題がある個別エリア21のデータについてはデフォルトから設定しておいてもよい。
【0049】
準備が完了したら、走行とともに耕うんを開始する(S112)とともに、個別エリア21ごとへの肥料調整手段を実行し肥料の投下を開始する。移動速度vが所定の速度V以下である場合は(S113→No)、現時点で走行する装置1が存在する個別エリア21の目標導入量に合わせて調整機構を調整して投下する(S114)。一方、移動速度vが所定の速度Vを超える場合は(S113→Yes)、現時点ではなくt×vだけ先の個別エリア21の目標導入量に合わせて調整機構を調整して、先んじて投下を開始する(S115)ディレイ調整手段を実行する。この所定の速度Vは、基本的にはタイムラグtと個別エリア21の縦幅Dに対してV=t/Dとなる。タイムラグtの間に個別エリア21にして1つ分以上移動してしまう場合は先んじて調整する必要があるからである。
【0050】
個別エリア21の区切り線に沿って圃場の終端に至るまで(S116→No)、速度vに合わせて肥料を調整しながら投下し、耕うんを続ける(S116→Yes)。まだ圃場の全域について耕うんと肥料の導入が終了していなければ(S121→No)、直前に耕うんを終えた個別エリア21に隣接する個別エリア21へ向けて個別施肥域18が重なるように移動し(S122)、目標導入量を読み込んで(S111)同様に作業を行う。圃場の全域について耕うんと肥料の導入が終わったら(S121→Yes)その段階で終了となる(S130)。
【符号の説明】
【0051】
1 走行する装置
10 搭載型施肥装置
11,11a,11b,11c,11d ホッパー(個別施肥機)
12,12a,12b,12c,12d ロール(調整機構)
13 格納部
14 ホース
15 カバー
16 耕うん爪
17 ロータリ
18,18a,18b,18c,18d 個別施肥域
19 位置情報取得部
20 圃場
21 個別エリア
22 タブレット端末
31 表示部
32 操作部
33 記憶部
34 速度計
35 処理部
37 通信部
D 縦幅
L 横幅
S 人工衛星
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8