(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127221
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20220824BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
E02D29/02 304
E02D17/20 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025239
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502245118
【氏名又は名称】学校法人国士舘
(71)【出願人】
【識別番号】000112886
【氏名又は名称】フリー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】堀 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 直人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】岩津 雅也
(72)【発明者】
【氏名】前田 和徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘栄
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044DB53
2D048AA29
(57)【要約】
【課題】前記固化手段以外の手段で引き抜き抵抗力を高めたり、前記栗石層以外の部位を固化させたりすることによって前記栗石層本来の排水機能を保持しつつ石積み壁の崩壊を防止できる、石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材を提供する。
【解決手段】築石層21の背後に栗石層22を介して地山層23を備えた石積み壁20の補強構造であって、前記築石層21の背後に管状の補強部材10が位置決めされており、前記築石層21と前記地山層23とに引き抜き抵抗部11R、12Rが形成されている。前記引き抜き抵抗部11R、12Rは、前記管状の補強部材10に設けられた拡径機構11、及び/又は前記管状の補強部材10から排出された固化材(図示省略)で形成されている。前記管状の補強部材10は、中空多重管構造(一例として、短い外管1と長い内管2とからなる中空二重管構造)に形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
築石層の背後に栗石層を介して地山層を備えた石積み壁の補強構造であって、
前記築石層の背後に管状の補強部材が位置決めされており、前記築石層と前記地山層とに引き抜き抵抗部が形成されていることを特徴とする、石積み壁の補強構造。
【請求項2】
前記引き抜き抵抗部は、前記管状の補強部材に設けられた拡径機構、及び/又は前記管状の補強部材から排出された固化材で形成されていることを特徴とする、請求項1に記載した石積み壁の補強構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の石積み壁の補強構造に用いる管状の補強部材であって、前記管状の補強部材は、前記築石層で拡径する拡径機構を備えた単管と前記地山層で拡径する拡径機構を備えた単管とを2本以上組み合わせて外径が異なる中空多重管構造に形成されていることを特徴とする、管状の補強部材。
【請求項4】
前記管状の補強部材は、短い外管と長い内管とからなる中空二重管構造に形成され、前記外管は、前記築石層で拡径する拡径機構を備え、前記内管は、前記地山層で拡径する拡径機構を備え、前記外管は前記内管の移動に追随する構成とされていることを特徴とする、請求項3に記載した管状の補強部材。
【請求項5】
前記拡径機構は、管軸の周方向に形成された複数本のスリットであることを特徴とする、請求項3又は4に記載した管状の補強部材。
【請求項6】
前記内管は、前記築石層および前記地山層に相当する部位に前記固化材を排出する排出部が設けられていることを特徴とする、請求項4又は5に記載した管状の補強部材。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の管状の補強部材を築石層へ挿入し、前記内管が前記栗石層を貫通して前記地山層へ到達するまで前記管状の補強部材を押し込む工程と、
前記内管の基端部に短尺のテンション棒を取り付け、前記短尺のテンション棒を手前側に引くことによって前記内管の移動に追随する前記外管の拡径機構を前記築石層で拡径させる工程と、
前記短尺のテンション棒を前記内管から取り外した後、前記内管の奥端部に長尺のテンション棒を取り付け、前記長尺のテンション棒を手前側に引くことによって前記内管の拡径機構を前記地山層で拡径させる工程と、を有することを特徴とする、石積み壁の補強工法。
【請求項8】
前記内管を通じて前記築石層及び/又は前記地山層に固化材を注入することにより、前記築石層及び/又は前記地山層における前記管状の補強部材の外周に固化補強体を形成することを特徴とする、請求項7に記載した石積み壁の補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
築石層と裏込め栗石層(以下「栗石層」と称す。)と地山層(定着層とも言う。)とを備えた石積み壁は、前記栗石層が、地震による外力や大雨による水圧を受けて沈下することで前記築石層の背後から築石(間知石)を押し出す方向に力が作用し、その力に築石層が耐力保持できなくなることにより崩壊に至る。
この崩壊メカニズムを踏まえ、例えば、特許文献1、2に開示された従来の石積み壁の補強技術は、前記栗石層の沈下を防ぐことを目的に、築石層表面から地山方向に削孔し、削孔した孔にグラウト材を注入すること、又は補強部材を挿入してグラウト材を注入することで栗石層等を固化させて補強を行っていた。
【0003】
しかし、栗石層を固化させてしまうと、栗石層に期待される雨水や地山層からの地下水の排水機能を低下させることとなり、築石層の背後の水圧が高まることによって、その水圧に築石層(間知石)が耐力保持できなくなり石積み壁の崩壊を招くという新たな課題が懸念される。
また、補強部材(主に鉄筋棒)と地山層との固定手段について、従来はグラウト材等の固化材を補強部材と地山層との隙間に注入して固定を図っていたが、地山層自体が非常に漏出性の高い地盤である場合や、石積み壁のように地山層に隣接して栗石層などの空隙の大きい層が存在する場合は、固化材の充填不足による補強部材の引き抜き抵抗力不足となる課題があり、補強部材の引き抜き抵抗力を固化材だけで負担するのは限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-9209号公報
【特許文献2】特開2006-283309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、前記固化手段以外の手段で引き抜き抵抗力を高めたり、前記栗石層以外の部位(築石層、地山層)を固化させたりすることによって前記栗石層本来の排水機能を保持しつつ石積み壁の崩壊を防止することができる、施工性、確実性、安全性、及び品質性に優れた石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る石積み壁の補強構造は、築石層の背後に栗石層を介して地山層を備えた石積み壁の補強構造であって、
前記築石層の背後に管状の補強部材が位置決めされており、前記築石層と前記地山層とに引き抜き抵抗部が形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した石積み壁の補強構造において、前記引き抜き抵抗部は、前記管状の補強部材に設けられた拡径機構、及び/又は前記管状の補強部材から排出された固化材で形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明に係る管状の補強部材は、請求項1又は2に記載の石積み壁の補強構造に用いる管状の補強部材であって、前記管状の補強部材は、前記築石層で拡径する拡径機構を備えた単管と前記地山層で拡径する拡径機構を備えた単管とを2本以上組み合わせて外径が異なる中空多重管構造に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した管状の補強部材において、前記管状の補強部材は、短い外管と長い内管とからなる中空二重管構造に形成され、前記外管は、前記築石層で拡径する拡径機構を備え、前記内管は、前記地山層で拡径する拡径機構を備え、前記外管は前記内管の移動に追随する構成とされていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、請求項3又は4に記載した管状の補強部材において、前記拡径機構は、管軸の周方向に形成された複数本のスリットであることを特徴とする。
請求項6に記載した発明は、請求項4又は5に記載した管状の補強部材において、前記内管は、前記築石層および前記地山層に相当する部位に前記固化材を排出する排出部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載した発明に係る石積み壁の補強工法は、請求項4~6のいずれか1項に記載の管状の補強部材を築石層へ挿入し、前記内管が前記栗石層を貫通して前記地山層へ到達するまで前記管状の補強部材を押し込む工程と、
前記内管の基端部に短尺のテンション棒を取り付け、前記短尺のテンション棒を手前側に引くことによって前記内管の移動に追随する前記外管の拡径機構を前記築石層で拡径させる工程と、
前記短尺のテンション棒を前記内管から取り外した後、前記内管の奥端部に長尺のテンション棒を取り付け、前記長尺のテンション棒を手前側に引くことによって前記内管の拡径機構を前記地山層で拡径させる工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載した発明は、請求項7に記載した石積み壁の補強工法において、前記内管を通じて前記築石層及び/又は前記地山層に固化材を注入することにより、前記築石層及び/又は前記地山層における前記管状の補強部材の外周に固化補強体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材によれば、以下の効果を奏する。
(1)管状の補強部材に設けた拡径機構を機械的に拡径することにより速やかに築石層と地山層とに引き抜き抵抗部を確実に形成することができるので、従来の流動状のグラウト材による注入量不足による引き抜き抵抗力不足の不安も解消される。よって、施工性、確実性はもとより、施工直後から耐震機能性、安全性、及び品質性に優れた石積み壁の補強構造を実現することができる。
(2)栗石層を改変することなく実施できるので、栗石層本来の排水機能を損なうことがない。よって、さらに耐震機能性、安全性、及び品質性に優れた石積み壁の補強構造を実現することができる。
(3)引き抜き抵抗部を、前記拡径機構と前記固化材との2種の補強手段を導入した構成で実施できるので、従前の固化手段だけで実施する場合と比し、前記2種の補強手段が協働することで、より一層、強度・剛性に優れた引き抜き抵抗部(固化補強体)を形成することができる。よって、耐震機能性、安全性、及び品質性に非常に優れた石積み壁の補強構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る石積み壁の補強工法の施工状況を概略的に示した説明図である。
【
図3】本発明に係る石積み壁の補強工法及び補強構造を概略的に示した説明図である。
【
図5】A~Dは、本発明に係る石積み壁の補強工法の施工状況を段階的に示した説明図である。
【
図6】A~Cは、本発明に係る石積み壁の補強工法の施工状況を段階的に示した説明図である。
【
図7】
図5Aに示した管状の補強部材のS部拡大図である。
【
図8】
図5Aに示した管状の補強部材のT部拡大図である。
【
図9】
図5Aに示した管状の補強部材のU部拡大図である。
【
図14】本発明に係る石積み壁の補強工法及び補強構造のバリエーションを概略的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係る石積み壁の補強構造及び補強工法並びに管状の補強部材を図面に基づいて説明する。
【実施例0016】
図1~
図13は、本発明に係る石積み壁20の補強工法及び補強構造並びに補強部材10の実施例を示している。
この石積み壁20の補強構造は、築石層21の背後に栗石層22を介して地山層23を備えており、前記築石層(間知石)21の背後に管状の補強部材10が位置決めされており、前記築石層21と前記地山層23とに引き抜き抵抗部11R、12Rが形成されている(
図3参照)。すなわち本発明は、前記栗石層22に引き抜き抵抗部11R、12Rを設けない等、栗石層22を改変しない構成で実施するので、栗石層22本来の排水機能を損なうことはない。
【0017】
前記引き抜き抵抗部11R、12Rは、本実施例では、前記管状の補強部材10に設けられた拡径機構11、12及び前記管状の補強部材10から排出・拡散された固化材(図示省略)で形成されている。すなわち、本実施例に係る引き抜き抵抗部11R、12Rは、前記拡径機構11、12と前記固化材との2種の補強手段を導入した構成で実施しているが、前記2種の補強手段のうち、いずれか一方の補強手段を用いて引き抜き抵抗部11R、12Rを形成してもそれ相応の効果(引き抜き抵抗力)を得られる。
【0018】
前記管状の補強部材10は、短い外管1と長い内管2とからなる中空二重管構造に形成され、前記外管1は、前記築石層21で拡径する拡径機構11を備え、前記内管2は、前記地山層23で拡径する拡径機構12を備え、前記外管1は前記内管2の移動に追随する構成で実施されている。
本実施例では、あくまでも一例として、前記外管1は、めっき処理した鋼管が用いられ、外径23mm程度、肉厚3mm程度、長さ(軸方向長さ)300mm程度で実施され、前記内管2は、めっき処理した鋼管が用いられ、外径17mm程度、肉厚3mm程度、長さ2000mm程度で実施され、前記外管1は前記内管2に隙間なく外嵌めした構成、言い換えると外管1の内径面と内管2の外径面とがほとんど隙間なく接した構成で実施されている。かつ、前記外管1は前記内管2に、
図7、
図8に示したように、その基端部同士を揃えないで(符号H参照)、溶接手段13で一体化している。前記符号Hは、本実施例では20mmで実施しているがこれに限定されず、前記拡径機構11、12又は形成する引き抜き抵抗部11R、12Rの形態等の構造設計に応じて適宜設計変更可能である。前記溶接手段13もこれに限定されず、前記外管1が前記内管2の一方向への移動に追随(連動)する構成であればよいので、例えばボルト接合手段や突設部(鍔部)等の掛け止め手段でも同様に実施できる。
【0019】
また、前記内管2は、先端部は尖端形状をなし(
図9参照)、基端部と奥端部とにそれぞれ、後述するテンション棒8、9を取り付けるための雌ねじ部2a、2bが形成されている。前記雌ねじ部2a、2bは、削孔機械のロッド(図示省略)の接続に供することもできる。
なお、本実施例に係る前記外管1、内管2は、めっき処理した鋼管で実施されているが勿論これに限定されず、ステンレス製やチタン製でも実施可能である。前記外管1、内管2の長さ等の寸法は、勿論前記に限らず、本発明を適用する石積み壁20の形態等に応じて適宜設計変更可能である。
【0020】
前記拡径機構11、12は、本実施例では、管軸の周方向に略等間隔に形成された複数本(本実施例では4本)の線状のスリット11a、12aで構成され、周方向に隣接する線状のスリット同士11a、12aの間の部位が、管軸方向から見て放射状に膨らんで(浮き上がって)拡径することにより引き抜き抵抗部11R、12Rが形成される。
前記外管1に設けるスリット11aは、本実施例では、あくまでも一例として、各スリット11aの長さが80mmで、屈曲部位(両端部と中央部との3箇所)は丸孔11bに形成することにより、
図5Cの方向から見ると、二等辺三角形状に拡径する構成で実施されている。
前記内管2に設けるスリット12aは、本実施例では、あくまでも一例として、各スリット12aの長さが200mmで、屈曲部位(両端部と中央より左寄りの3箇所)は丸孔12bに形成することにより、
図6Bの方向から見ると、前記外管1の拡径寸法よりも大きい、直角三角形状に拡径する構成で実施されている。
なお、前記引き抜き抵抗部11R、12Rの形態(大きさ、形状)は、図示例に限定されない。例えば、本実施例に係る前記引き抜き抵抗部11R、12Rの拡径寸法11W、12W(
図6C参照)はそれぞれ、80mm、150mmで実施しているが、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。また、前記スリット11a、12a周辺に補強リブを設けて管自体の強度・剛性を高める等の工夫は適宜行われるところである。
【0021】
本実施例では、前記引き抜き抵抗部11R、12Rを、前記拡径機構11、12による補強手段に加え、前記固化材を排出(注入)する補強手段を併用した構成で実施している。この固化材を排出する補強手段を実施するべく、本実施例では、前記内管2について、前記築石層21および前記地山層23に相当する部位にそれぞれ、前記固化材を排出する排出部(排出手段)を設けている。
具体的に、前記築石層21へ排出する排出部は、
図5C、
図12に示したように、一例としてφ5~8m程度の複数の排出孔2cを前記内管2の基端側に当該内管2の内外を連通する構成で穿設し、前記内管2の中空部内に注入した固化材が前記内管2の排出孔2cを通じて前記拡径機構11を利用して排出される。前記排出孔2cの径、配置間隔、及び穿設個数は、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
一方、前記地山層23に排出する排出部は、本実施例の場合は特に排出部を設けなくても、前記内管2の中空部内に注入した固化材は前記内管2の奥端部で拡径した拡径機構12を利用して排出される。
【0022】
かくして、前記拡径機構11、12を利用して排出・拡散される固化材は、前記管状の補強部材10の前記築石層21の周囲と前記地山層23の周囲で固化され、それぞれ塊状の固化補強体、ひいては前記引き抜き抵抗部11R、12Rを呈し、当該引き抜き抵抗部11R、12Rの楔(アンカー)効果による抵抗力により、従来の流動状のグラウト材による注入量不足による引き抜き抵抗力不足の不安も解消される、耐震機能性、安全性、及び品質性に優れた石積み壁の補強構造を実現することができる。
【0023】
次に、本発明にかかる石積み壁20の補強工法を説明する。
この石積み壁20の補強工法は、上述した外管1と内管2とからなる管状の補強部材10を、築石層21へ挿入し、前記内管2が前記栗石層22を貫通して前記地山層23へ到達するまで前記管状の補強部材10を押し込む(
図1、
図2参照)。この押し込み手段は、前記内管2の基端部に設けた雌ねじ部2aに、図示は省略するが、先端に雄ねじ部を形成したロッドをねじ込んで接続し、当該ロッドを介して回転しながら打撃を加えるドリフター等の削孔機により推進力を与えて実施する。本実施例では、水平方向やや斜め下方に勾配(例えば5~10度程度)をつけて地山層(定着層)23へ向けて打ち込んでいる。もっとも、前記管状の補強部材10を築石層21へ挿入する前に削孔機で事前削孔しておいてもよい。本実施例では、固化材の良好な流動等を勘案し、水平方向やや斜め下方に勾配をつけて地山層23へ打設しているがこれに限定されず、水平方向へ打設して実施することもできる。
そして、前記管状の補強部材10を所定位置まで押し込んだ(打ち込んだ)後、前記ロッドを前記内管2から取り外して撤去する(
図5A参照)。
【0024】
次に、
図5Bと
図10に示したように、前記内管2の基端部の雌ねじ部2aに短尺のテンション棒8をねじ込んで接続する。短尺のテンション棒8を取り付けた後は、当該短尺のテンション棒8の基端部にカプラー25をねじ込んで取り付け、さらに前記カプラー25にセンターシャフト26をねじ込んで取り付けることにより引張ジャッキ24を前記石積み壁20(築石層21)の表面へ当接させて位置決めする。
【0025】
次に、
図5Bから
図5Cに段階的に示したように、前記石積み壁20表面に反力をとって前記センターシャフト26、ひいては前記短尺のテンション棒8を手前側に引くことによって、
図10から
図11に段階的に示したように、前記短尺のテンション棒8に接続された前記内管2が前記引張ジャッキ24に衝突するまで(符号H=20mm)移動する。そうすると、前記内管2の移動に追随する構成の外管1は、その基端が前記引張ジャッキ24に当接されたままの状態で(
図10参照)、その先端部(
図8参照)を手前側へ引き寄せることになるので、前記拡径機構11のスリット11aの中央付近の丸孔11b辺りに座屈作用が働き、その結果、
図5C(
図12)に示したように、前記外管1に形成した拡径機構11(スリット11a)が前記築石層21で放射状に膨らんで拡径する。
【0026】
次に、
図5Dに示したように、前記短尺のテンション棒8を内管2の基端部から取り外して撤去した後、
図6Aと
図13に示したように、前記内管2の奥端部の雌ねじ部2bに長尺のテンション棒9をねじ込んで接続する。長尺のテンション棒9を取り付けた後は、当該長尺のテンション棒9の基端部にカプラー25をねじ込んで取り付け、さらに前記カプラー25にセンターシャフト26をねじ込んで取り付けることにより引張ジャッキ24を前記石積み壁20(築石層21)の表面へ当接させて位置決めする。
【0027】
次に、
図6Aから
図6Bに段階的に示したように、前記石積み壁20表面に反力をとって前記センターシャフト26、ひいては前記長尺のテンション棒9を手前側に引くことによって、前記内管2の基端が前記引張ジャッキ24に当接されたままの状態で(
図11参照)、その先端部を手前側へ引き寄せることになるので、前記拡径機構12のスリット12aの中央左寄り付近の丸孔12b辺りに座屈作用が働き、その結果、
図6Bに示したように、前記内管2に形成した拡径機構12(スリット12a)が前記地山層23で放射状に膨らんで拡径する。
前記外管1、内管2にそれぞれ形成する引き抜き抵抗部11R、12Rの拡径度合いは、前記引張ジャッキ24のストローク量で管理することができる。
しかる後、前記長尺のテンション棒9を前記内管2から取り外して撤去する(
図6C参照)。
【0028】
本実施例では、その後、前記内管2の中空部に固化材を注入し、前記中空部を通じて前記築石層21及び前記地山層23へそれぞれ固化材を排出・拡散することにより、前記築石層21及び前記地山層23における管状の補強部材10の外周に固化補強体(引き抜き抵抗部11R、12R)を形成する。具体的に、本実施例では、前記内管2の中空部を通じてその奥端部の地山層23へ固化材(例えば、セメントミルク、無機系固化材)を排出・拡散させた後、前記内管2の基端部側に設けた排出孔2cを通じて外管1の拡径機構11から築石層21へ固化材(例えば、ウレタン)を排出・拡散させることより四方の隣り合う築石(間知石)を相互に固定する。かくして、前記栗石層22を改変することなく前記地山層23と前記築石層21とにそれぞれ所要の強度・剛性を備えた塊状の固化補強体(引き抜き抵抗部11R、12R)を形成することができる。
なお、前記固化材の注入作業の際に注入用チューブや逆止弁パッカーを装着したインサートパッカーを用いる等の工夫は適宜行われるところである。
【0029】
しかる後、前記補強部材10の基端部の突き出し部に受圧板(固定プレート)19をボルト18(
図3参照)、又は溶接等の接合手段で接合することにより前記石積み壁20を支圧する。具体的には前記ボルト18を用いて接合する場合、前記内管2の基端部の雌ねじ部2aに前記ボルト18をねじ込んで接続し、前記接続したボルト18に前記受圧板19(の中央に形成した孔)を通した上でナットをねじ込んで締結して接合する。前記受圧板19を固定する際、石積み壁20表面を覆う被覆ネットを鋼線、ワイヤロープ、又は樹脂材料を用いて張設する等の工夫は適宜行われるところである。
そして、上記段落[0023]~[0028]で説明した施工工程を、打設する補強部材10の本数(図示例では略千鳥配置に12本)に応じて繰り返し行い、もって、石積み壁20の補強工法を終了する。
【0030】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
【0031】
例えば、
図1~
図13に係る実施例は、前記管状の補強部材10を、短い外管1を1本と長い内管2を1本の計2本の単管からなる中空二重管構造に形成し、前記築石層21と前記地山層23とに1箇所ずつ計2箇所に引き抜き抵抗部11R、12Rを設けて実施しているが、本発明の範囲はこれに限定されない。前記管状の補強部材10を、前記築石層21で拡径する拡径機構を備えた単管と前記地山層23で拡径する拡径機構を備えた単管とを2本以上組み合わせて外径が異なる中空多重管構造に形成して実施することもできる。具体的に
図14は、前記築石層21で拡径する拡径機構を備えた単管1本と前記地山層23で拡径する拡径機構を備えた単管2本の計3本の単管を組み合わせて外径が異なる中空三重管構造に形成した管状の補強部材10’の実施例を概略的に示している。この中空三重管構造をなす管状の補強部材10’は、既に説明した
図1~
図13に係る前記中空二重管構造の管状の補強部材10の拡径手法に倣って順に拡径される。
すなわち、例えば、前記3本の単管を内方から外方へ順に内管、中管、外管と称するとして、前記外管は前記中管の移動に追随し、前記中管は前記内管の移動に追随する構成とし、先ず前記中管の基端部の雌ねじ部に短尺のテンション棒をねじ込み、手前側に引くことによって、前記外管に形成した拡径機構を前記築石層21で拡径させ、次に、前記内管の基端部の雌ねじ部に短尺のテンション棒をねじ込み、手前側に引くことによって、前記中管に形成した拡径機構を前記地山層23で拡径させ、次に、前記内管の奥端部の雌ねじ部に長尺のテンション棒をねじ込み、手前側に引くことによって、前記内管に形成した拡径機構を前記地山層23で拡径させる。
この
図14に係る実施例は、
図1~
図13に係る実施例と比し、地山層23だけで2箇所の引き抜き抵抗部12Rを形成することができるので、前記地山層23が軟弱で1箇所の引き抜き抵抗部12R(
図3参照)では所定の引き抜き耐力を確保できない(虞がある)場合、引き抜き耐力を飛躍的に高めることができる効果がある。
なお、
図14に係る管状の補強部材10’は、中空三重管構造で実施しているがこれに限定されず、中空四重管以上の構造で実施することもでき、当該構造に応じて地山層23に3箇所以上の引き抜き抵抗部12Rを形成して実施することもできる。
【0032】
その他、前記補強部材10を構成する内管2は、一本物のほか、端部がネジきり加工された管材同士をカプラーで連結した構成で実施することも勿論できる。
【0033】
以上、本実施例では石積み壁20を中心に説明したが、石垣にも適用可能であることを念のため特記しておく。