(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127246
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】制電・抗ウイルス加工繊維製品
(51)【国際特許分類】
D06M 13/463 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
D06M13/463
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025288
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】508179545
【氏名又は名称】東洋紡STC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】福西 範樹
(72)【発明者】
【氏名】西田 右広
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA02
4L033AA05
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AB04
4L033AB09
4L033AC06
4L033AC10
4L033BA86
(57)【要約】 (修正有)
【課題】安全で洗濯耐久性に富む、帯電防止性及び抗ウイルス性の双方を満足する繊維製品を提供する。
【解決手段】[化1]の群から選択される少なくとも一種の第四級アンモニウム塩を含有することを特徴とする繊維製品。但し、[化1]中、m、nは0~5の整数、p、qは15~22の整数、X
ーはハロゲン化物イオンである。望ましくは、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維の少なくともいずれかを60重量%以上含む繊維製品であり、SEKマーク繊維製品の洗濯方法:令和2年10月13日版による洗濯15回後の抗ウイルス活性値Mvが3.0以上、且つ洗濯5回後の摩擦帯電圧が1500V以下であることを特徴とする繊維製品である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
[化1]の群から選択される少なくとも一種の第四級アンモニウム塩を0.01~10.0重量%含有することを特徴とする制電・抗ウイルス繊維製品。 尚、[化1]中、m、nは0~5の整数、p、qは15~22の整数、X-はハロゲン化物イオンである。
【化1】
【請求項2】
ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維の少なくともいずれかが60重量%以上含む請求項1に記載の繊維製品。
【請求項3】
SEKマーク繊維製品の洗濯方法:令和2年10月13日版による洗濯15回後の抗ウイルス活性値Mvが3.0以上、且つ洗濯5回後の摩擦帯電圧が1500V以下であるであることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維製品。
【請求項4】
繊維がマルチフィラメントの延伸糸及び/又は仮撚加工糸からなる織編物、又はマルチフィラメントからなる不織布である請求項1~3のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項5】
繊維がステープルファイバーであり、単糸繊度0.01~15.0デシテックスの不織布、紙、詰め綿、又は紡績糸である請求項1~4のいずれかに記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性と抗ウイルス性の両方の洗濯耐久性を備えた加工繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品への抗ウイルス加工は、病院や介護施設の白衣、食品工場の作業服など、今後の用途拡大が期待されている。ISO18184に基づく繊維製品上の抗ウイルス性の評価方法が確立して、一般社団法人繊維評価技術協議会による抗ウイルス加工繊維製品に対するマーク認証制度ができている。
【0003】
しかし、繊維製品、とりわけ繰り返し洗濯を必要とする白衣や作業衣、及び病院のシーツやカーテンなどリネン製品については、抗ウイルス性能に対する洗濯耐久性の向上が課題となっている。
【0004】
例えば特許文献1及び2では、少なくとも表面に抗ウイルス性化合物が固定された樹脂成形品や繊維製品に、抗ウイルス性化合物が第四級アンモニウムハロゲン化合物からなる抗ウイルス加工が記載されている。しかし、ここに記載されている第四級アンモニウム塩は炭素数が10以上の直鎖アルキル基が1鎖だけ含むものか、炭素数が精々9個までの直鎖アルキル基が2鎖含まれる第四級アンモニウム塩が開示されているが、これらの第四級アンモニウム塩は水溶性が高くて洗濯での耐久性が低いことが課題であった。更に特許文献1及び2に開示されているジデシルジメチルアンモニウムクロリドは劇物に指定されたため、繊維製品では使用量が制限されており、安全性を担保しながらでは精々洗濯10回程度の洗濯耐久性しか得られていないのが実情であり、より高い洗濯耐久性が求められてきた。また、白衣や作業衣においては、制電気を帯びないことが求められているが、従来の第四級アンモニウム塩は水溶性が高いことから、制電性(帯電防止性)の洗濯耐久性も低いことが実情であった。
【0005】
しかし、繊維製品、とりわけ繰り返し洗濯を必要とする白衣や作業衣、及び病院のシーツやカーテンなどリネン製品については、抗菌性能、抗ウイルス性能に対する洗濯耐久性の向上が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2016-009928A1
【特許文献2】特許第5571577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、安全で洗濯耐久性に富む抗ウイルスと帯電防止性の双方を満足する繊維製品を提供することにある。更に、本発明は、高温の工業洗濯においても繰り返し洗濯や着用による耐久性に優れる、衣料用途等への使用に適した抗菌・抗ウイルス加工繊維製品を提供することを目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の長鎖アルキル基を複数含む第四級アンモニウム塩、とりわけ塩化物イオンや臭化物イオンなど電気陰性度大なる原子からなる陰イオン、特にハロゲン化物イオンと第四級アンモニウムカチオン (陽イオン)が塩を形成した第四級アンモニウム塩に着目した。これらの第四級アンモニウム塩は、優れた抗菌性や抗ウイルス性だけでなく帯電防止性の洗濯耐久性も保有した製品を開発できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)[化1]の群から選択される少なくとも一種の第四級アンモニウム塩を0.01~10.0重量%含有することを特徴とする制電・抗ウイルス繊維製品。但し、[化1]中、m、nは0~5の整数、p、qは15~22の整数、X-はハロゲン化物イオンである。
(2)ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維の少なくともいずれかが60重量%以上含む(1)に記載の繊維製品。
(3)般財団法人繊維評価技術協議会製品認証部発行の「SEKマーク繊維製品の洗濯方法:令和2年10月13日版」による洗濯15回後の抗ウイルス活性値Mvが3.0以上、且つ洗濯5回後の摩擦帯電圧が1500V以下であるであることを特徴とする(1)または(2)に記載の繊維製品。
(4)繊維がマルチフィラメントの延伸糸及び/又は仮撚加工糸からなる織編物、又はマルチフィラメントからなる不織布である(1)~(3)のいずれかに記載の繊維製品。
(5)繊維がステープルファイバーであり、単糸繊度0.01~15.0デシテックスの不織布、紙、詰め綿、又は紡績糸である(1)~(3)のいずれかに記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洗濯耐久性に優れた制電・抗ウイルス性を持つ繊維製品を提供することができる。インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスなどのウイルスの減少、不活性効果があり、また、従来にない耐久性のある帯電防止性をゆうするため、スポーツ衣料や肌着、靴下、寝装品、衣料資材、リネン用途を含めて頻繁に洗濯する幅広い用途への活用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明に用いる第四級アンモニウム塩の群[化1]である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維製品において、帯電防止及び抗ウイルス性を発揮する化合物は、炭素数が16以上の直鎖アルキル基が2鎖以上もつ第四級アンモニウム塩である。具体的には、前記[化1]の群から選択される少なくとも一種の第四級アンモニウム塩である。
但し、[化1]中、m、nは0~5の整数、p、qは15~22の整数、X-はハロゲン化物イオンである。
【0013】
前記[化1]で表わされる第四級アンモニウム塩は、炭素数が16以上の直鎖アルキル基が二つ持つが、素数が16以上の直鎖アルキル基は同じものでも異種のものであってもよいが、好ましくは二つの炭素数が16以上の直鎖アルキル基は同じものであることがよい。これは高い抗ウイルス性を得られやすいためである。この理由は明確ではないが同じ長さの長鎖アルキル基が対になるとウイルスを構成するタンパク質を変性する効果が高まるからではないかと考えている。
下記に炭素数が16以上の同じ直鎖アルキル基を二つもつ第四級アンモニウム塩を例示する。例えば、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジベヘニルジメチルアンモニウムクロリド、ジアラキジルジメチルアンモニウムクロリド、ジセチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロリド、、ジステアリルジメチルアンモニウムメトスルファート、ジステアリルジ(イソプロピル)アンモニウムクロリドまたはジステアロイル(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらの中でより好ましいものはジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジベヘニルジメチルアンモニウムクロリド、ジセチルジメチルアンモニウムクロリドがよい。尚、上記は代表して塩化物で例示しているが、これらの臭化物等の他のハロゲン化物やメトスルファートにしてもよい。これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
これら炭素数が16以上の同じ直鎖アルキル基を2つもつ第四級アンモニウム塩の中で、特に炭素数が18以上のジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジベヘニルジメチルアンモニウムクロリド、ジセチルジメチルアンモニウムクロリドは、繊維製品を繰り返し洗濯したときの残留性が高く、帯電防止性や抗ウイルス性の耐洗濯性が高めることができる。前記の第四級アンモニウム塩は、化粧品、ヘアーコンディショナー等の柔軟剤や帯電防止の目的で使用されることが多いが、ポリエステル繊維等の疎水性繊維に特定の条件で付与したときに、高い洗濯耐久性をもつことや抗ウイルス性を発現することは、これまで知られていなかった。
【0015】
また、第四級アンモニウム塩の中には、過度に使用すると軽度の皮膚刺激や眼を含む粘膜への刺激が強いものが多いが、炭素数が16以上の直鎖状の長鎖アルキル基を2つもち、合成二分子膜構造を形成することから、比較的皮膚刺激性が低いと報告されており(鈴木 一成(2012)「塩化ジステアリルジメチルアンモニウム」化粧品成分用語事典2012,500.)、30年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激の報告がみあたらない。
【0016】
上記の第四級アンモニウム塩の繊維重量に対する使用量は、好ましくは0.1~10.0%owf、より好ましくは0.2~6.0%owf、更に好ましくは0.40~5.5%owfである。0.1%未満では十分な抗ウイルス性が発揮し難くなる。また、10.0%owf以上だと、帯電防止性や抗ウイルス性性能が頭打ちとなり、製造コストが高くなりすぎるたり、繊維製品が変色する可能性が生じる。
【0017】
本発明の第四級アンモニウム塩を用いることで洗濯耐久性の高い帯電防止性を繊維製品に付与することができるが、更に高い制電性必要な場合は、本発明の第四級アンモニウム塩に加えて、ステアルトリモニウムクロリドやベヘントリモニウムクロリドを併用してもよい。
【0018】
本発明の抗菌・抗ウイルス加工繊維製品は、上記式[a]で表わされる第四級アンモニウム塩又はその誘導体からなる抗菌・抗ウイルス加工剤で織物や編物、不織布といった繊維一次加工品を後加工処理することによって得られる。後加工方法としては、吸尽法、パディング法、スプレー法、コーティング法、プリント法など公知の方法を採用することができる。例えば吸尽法の場合は、染色同浴処理、若しくは染色後の任意工程で別浴処理することが可能である。パディング法の場合は、染色後、マングルパッダー等で所定量の薬液を生地にピックアップさせた上、加熱処理する。加熱処理法は、パッドドライ法、パッドドライキュア法、パッドスチームキュア法など公知の方法で実施することが可能である。また、必要に応じて上記の方法の併用も可能である。
【0019】
後加工処理の温度条件は、用いる繊維の種類によって異なるが、例えば吸尽法の場合は、湿熱70~135℃、より好ましくは湿熱90~130℃の範囲で適宜設定することができる。また、パディング法の場合は、パッド(ドライ)キュア法では例えばドライ温度100~130℃、キュアリング温度140~190℃の範囲を例示することができる。より好ましいキュア温度は160℃~180℃で30秒~2分処理するのがよい。キュア温度が高い程、第四級アンモニウム塩の洗濯後残存率が向上するが、第四級アンモニウム塩は、高温で分解しやすく、200℃以上でのキュア処理や3分以上処理すると繊維上で徐々に分解して有効成分が減少してしまう傾向がある。また、過剰な加熱処理は、各種堅牢度など生地物性に悪影響を引き起こす他、黄変の要因となり避けることが望ましい。
【0020】
本発明の第四級アンモニウム塩を均一に安定的に繊維に加工するために、ノニオン系界面活性剤カチオン系界面活性剤溶剤と混用して用いることができる。 ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンエーテル類,ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類,ポリオキシアルキレン脂肪酸ジエステル類,ポリオキシアルキレン樹脂酸エステル類,ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油類,ポリオキシアルキレンアルキルフェノール類,ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類,ポリオキシアルキレンフェニルエーテル類,ポリオキシアルキレンアルキルエステル類,ポリオキシアルキレンアルキルエステル類,ソルビタン脂肪酸エステル,ポリオキシアルキレンソルビタンアルキルエステル類,ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類,ポリオキシアルキレンソルビット脂肪酸エステル類,ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル類,ポリグリセリンアルキルエーテル類,ポリグリセリン脂肪酸エステル類,ショ糖脂肪酸エステル類,脂肪酸アルカノールアミド,アルキルグルコシド類,ポリオキシアルキレン脂肪酸ビスフェニルエーテル類,ポリプロピレングリコール,ポリエーテル変性シリコーン、すなわち、ポリオキシアルキレン変性ジオルガノポリシロキサン,ポリグリセリル変性シリコーン,グリセリル変性シリコーン,糖変性シリコーン,パーフルオロポリエーテル系界面活性剤,ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー,アルキルポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマーエーテルが例示される。この中でもポリオキシアルキレンアルキルエーテル類,ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル類等のポリオキシエチレン付加型ノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。
【0021】
ノニオン系界面活性剤は、HLB7~18のものが好ましい。より好ましくはHLB8~16,更に好ましくはHLB10~14である。具体的には、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル(HLB12.5)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(HLB11)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル等が好適に用いられる。
【0022】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オレイルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、オクタデシルジエチルメチルアンモニウムサルフェート、等のアルキル第四級アンモニウム塩;(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテル乳酸塩、ステアリルアミノエーテル乳酸塩、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアミノエーテルジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)硬化牛脂アルキルエチルアミンエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアンモニウムジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ステアリルアミン乳酸塩等の(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩;N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-N-ステアロイルアミドプロピルアンモニウムナイトレート、ラノリン脂肪酸アミドプロピルエチルジメチルアンモニウムエトサルフェート、ラウロイルアミドエチルメチルジエチルアンモニウムメトサルフェート等のアシルアミドアルキル第四級アンモニウム塩;ジパルミチルポリエテノキシエチルアンモニウムクロライド、ジステアリルポリエテノキシメチルアンモニウムクロライド等のアルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩;ベンジルジメチル{2-[2-(p-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノオキシ)エトオキシ]エチル}アンモニウムクロライド等のベンゼトニウム塩;セチルピリジニウムクロライド等のピリジニウム塩;オレイルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート、ラウリルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート等のイミダゾリニウム塩;N-ココイルアルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩、N-ラウロイルリジンエチルエチルエステルクロライド等のアシル塩基性アミノ酸アルキルエステル塩;ラウリルアミンクロライド、ステアリルアミンブロマイド、硬化牛脂アルキルアミンクロライド、ロジンアミン酢酸塩等の第一級アミン塩;セチルメチルアミンサルフェート、ラウリルメチルアミンクロライド、ジラウリルアミン酢酸塩、ステアリルエチルアミンブロマイド、ラウリルプロピルアミン酢酸塩、ジオクチルアミンクロライド、オクタデシルエチルアミンハイドロオキサイド等の第二級アミン塩;ジラウリルメチルアミンサルフェート、ラウリルジエチルアミンクロライド、ラウリルエチルメチルアミンブロマイド、ジエタノールステアリルアミドエチルアミントリヒドロキシエチルホスフェート塩、ステアリルアミドエチルエタノールアミン尿素重縮合物酢酸塩等の第三級アミン塩;脂肪酸アミドグアニジニウム塩;ラウリルトリエチレングリコールアンモニウムハイドロオキサイド等のアルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩等が挙げられる。
【0023】
有機溶剤としては、水と混和可能な有機溶剤であれば特に制限はないが、例えば、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類等、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。なお、水と有機溶剤の比率は特に限定されるものではない。
【0024】
更に、洗濯耐久性を高めるために、メラミンホルムアルデヒド樹脂やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などのバインダーを併用させてもよい。これら樹脂との併用を実施する場合、同時処理の他、多段処理としても構わない。多段処理の場合は薬剤処理の順序も限定を加えるものではない。
【0025】
本発明の抗菌・抗ウイルス加工繊維製品は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維の少なくともいずれかの合成繊維が単独又は複数混用して60重量%以上含むものである。好ましくはポリエステル繊維からなる繊維製品が好ましい。繊維製品におけるこれら合成繊維の好ましい混率は、80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有するものである。含有割合が上記未満では、抗菌・抗ウイルス性の初期性能は良好であるが、繰り返し洗濯に対する耐久性が不足し、繰り返し洗濯を必要とする衣料用途としては好ましくない。本発明のポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど公知のものが使用できる。勿論、これらホモポリマーからなる繊維以外に、当該繊維を複数種組み合わせて使用することも可能であるし、複合紡糸方法によって多層貼合構造や芯鞘構造繊維とすることも可能である。更に、共重合ポリエステルやポリエステルをマトリックスにして他のポリマーを混練したブレンドポリマーであっても構わない。
【0026】
上記の合成繊維以外に20%未満で混用できる繊維としては、公知の繊維を用いることができる。例えば、再生繊維ならビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックなど、半合成繊維ならセルロースアセテート(トリアセテート、ジアセテート)、プロミックスなど公知の繊維を用いることができる。また、天然繊維としては、木綿、麻(亜麻、大麻、ラミー、マニラ麻、サイザル麻など)、ウール、カシミヤ、モヘア、アルパカ、絹、カポック、ケナフ、パイナップル繊維、サトウキビ繊維、ハイビスカス繊維、バナナ繊維、竹繊維など公知のものが使用できる。また、これら繊維の形態は、短繊維及び長繊維のいずれでもよく、断面形状も通常丸断面の他、矩形断面、多葉断面、中空断面など公知の断面を使用することができる。更に、短繊維、長繊維のみならず、長短複合紡績法による紡績糸であってもよく、特に限定を加えない。
【0027】
また、本発明の制電・抗ウイルス繊維製品は、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維の少なくともいずれかの合成繊維が単独又は複数混用して60重量%以上含むものである。これらの繊維は、マルチフィラメントの延伸糸及び/又は仮撚加工糸からなる繊維製品、あるいはステープルファイバーからなる不織布、紡績糸、紙などのシート状物、詰め綿、硬綿、紡績糸などの形態であることが好ましい。前記繊維がマルチフィラメントの延伸糸及び/又は仮撚加工糸である場合は、単糸繊度0.3~9.0デシテックスとすることが好ましい。より好ましくは0.5~8.0デシテックス、更に好ましくは1.0~5.0デシテックスであることが好ましい。繊維がステープルファイバーである場合の単糸繊度は単糸繊度0.01~15.0デシテックスであることが好ましい。上記の単糸繊度は、単一繊度である必要はなく、複数の繊度の繊維を組み合わせて使用することも何ら制限されるものでない。単糸繊度が上記範囲を下回る超極細繊維では繊維の表面積が大きくなり、初期の抗菌・抗ウイルス性能はよいが、繰り返し着用や洗濯によって脱落しやすく耐久性が低下する場合もある。また、単糸繊度が上記範囲を超過する超極太繊維では、繊維断面が大であることによって縫製部位でのチクツキ感が強く、強い皮膚刺激を与えたり、繊維製品が硬くなり過ぎたりして、衣料品やそれぞれの用途とするのに好ましいものにはなり難くなる。
【0028】
本発明の繊維製品は、洗濯15回後の抗ウイルス活性値Mvが3.0以上であることを特徴とする。本発明に使用する第四級アンモニウム塩は、水への溶解性が比較的少なく、疎水性繊維、特にポリエスエルへの親和性が高いため、洗濯耐久性を向上することができる。特に好ましい形態では、洗濯30回後でも抗ウイルス活性値3.0以上の性能を実現可能である。
【0029】
ウイルスには、エンベロープを持つウイルスと、エンベロープを持たないウイルスに大別される。エンベロープとは、単純ヘルペスウイルスやインフルエンザウイルスなど一部のウイルス粒子(ビリオン)に見られる膜状構造物で、ウイルスの基本構造を形成するウイルスゲノムやカプシド蛋白質などを覆う、ウイルス粒子(ビリオン)の最外殻を構成するものである。エンベロープは、大部分が脂質からなり、アルコールや有機溶媒などで処理すると容易に破壊できる為、エンベロープを持つウイルスよりもエンベロープを持たないウイルスの方が一般的には不活化し難いという特徴を有する。
【0030】
エンベロープを持つウイルスとしては、インフルエンザウイルス、はしかウイルス、風疹ウイルス、エイズウイルス、ヘルペスウイルスなどが例示される。また、エンベロープを持たないウイルスとしては、ノロウイルス、ロタウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなどが代表例として例示される。第四級アンモニウム塩はエンベロープを持たないウイルスへの効果は低い傾向にあるが、本発明の炭素数が18以上の同じ直鎖アルキル基を二つもつ第四級アンモニウム塩はエンベロープを持たないウイルスへの抗ウイルス効果が優れている。
【0031】
本発明の繊維製品は、洗濯耐久性に優れた帯電防止性能、抗ウイルス性能を示し、風合変化や変色、生地物性変化が少ないので病院白衣などにも好適に用いることができる。その他の用途としては、食品白衣などのレンタルユニフォーム類、シーツ、カーテン、インナーウェア、シャツ、スクールユニフォーム、体操服など広範囲の分野に用いることができる。
【0032】
本発明の繊維製品は、洗濯5回後の摩擦帯電圧を1500V以下とすることができる本発明に使用する第四級アンモニウム塩は、水への溶解性が比較的少なく、疎水性繊維、特にポリエスエルへの親和性が高いため、洗濯耐久性を向上することができる。特に好ましい形態では、洗濯10回後でも摩擦帯電圧を2000V以下に維持することが可能である。
【実施例0033】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性測定方法は下記に基づくものである。
【0034】
(抗ウイルス性試験)
2014年度版ISO18184記載の方法に準じて評価した。試験対象ウイルスは下記の2種である。
・A型インフルエンザウイルス(H3N2)(ATCC VR-1679)
・ネコカリシウイルス(F-9)(ATCC VR-782)
【0035】
(洗濯方法)
一般財団法人繊維評価技術協議会製品認証部発行の「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」(令和2年10月13日改定版・文書番号JEC326)に従い、下記の条件で洗濯処理を実施した。
・標準洗濯法(1995年度版JIS L0217:1995 103法記載の方法)を用いて洗濯処理を実施し、乾燥は吊り干しで行い、洗濯5回、10回、15回の評価試料を作成した。
【0036】
(帯電防止性)
JIS L1094:2004 7.2 B法(摩擦帯電圧測定法)にて測定した。
【0037】
(実施例1)
(ポリエステル100%織物)
ポリエチレンテレフタレートのフルダル仮撚加工糸167デシテックス48フィラメント(商標名:東洋紡エステル)を経糸及び緯糸に用いて、経糸密度90本/inch、緯糸密度70本/inchにて平織組織で製織した。(ポリエステル混率100%)
【0038】
該生機を定法にて連続精練、液流リラックス、乾熱予備セットを施した上、日阪製作所社製高圧液流染色機を用い、高松油脂社製ポリエステル系吸水SR剤(商標名:SR-1000)3%owf.共存下、湿熱130℃条件で分散染料による染色を施した。染色後はハイドロサルファイトナトリウム及びソーダ灰を用いた定法の還元洗浄処理した後、湯洗、水洗を実施し、脱水後に拡布状態でショートループドライヤーによる乾燥処理を施した。この織物の目付は130g/m2であった。
【0039】
次いで上記の方法で得られた生地を下記処方の分散液を用いて、パッドドライキュア法によって処理した。因みに生地の樹脂パディングはドライオンウェット処方(乾燥した生地に薬液を浸漬後、搾液し所定の薬剤量を生地に処理する方法)にて実施した。
まず、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムを同量のイソプロピルアルコール(IPA)に溶解し、更に塩化ジステアリルジメチルアンモニウムに対して20重量%のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステルを加えて撹拌し、塩化ジスステアリルジメチルアンモニウムのIPA液を作成した。
【0040】
マングル圧を前記平織物のW.P.U%(ウエットピックアップ率 繊維重量当たりの液付着率)が50%となるように調整した。パッダーで前期水溶液を付与してマングルで絞った。乾燥後に塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの付着量が5.0%owf(on the weight of fiber:繊維重量比)となるよう塩化ジステアリルジメチルアンモニウムIPA液を水に分散希釈してエマルジョン液を作成した。具体的には塩化ジステアリルジメチルアンモニウムIPA液が水に22重量%含有した分散液を作製した。パッダーで前記エマルジョン液を前記平織物に付与してマングルで絞った。120℃で乾燥温度し、更にキュアリング温度170℃で1分間、最終セットを兼ねて熱処理を行った。抗ウイルス加工織物を得た。以後、実施例及び比較例について、未洗濯、洗濯後の抗菌・抗ウイルス性等の評価結果を表1に示す。実施例1の塩化ジステアリルジメチルアンモニウムが5.0重量%含有した加工布は、抗菌・抗ウイルス性共に効果が高く、洗濯後の機能性低下も少なく、一般衣料用途として好適なものが得られた。
【0041】
(実施例2)
<ポリエステル100%不織布>
東洋紡株式会社製スパンボンド不織布「商標名:エクーレ」品番:3A01A、目付103g/m2、厚み0.4mmを用いた。実施例と同様の条件でマングルで絞った時のW.P.U率=100%であった。前記スパンボンドに対して乾燥後の塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの付着量が0.8%owfになるよう分散液濃度を調整して、実施例1と同様に加工を行った。
【0042】
(実施例3)
<ポリアミド・スパンデックス経編>
ナイロン6のフルダル仮撚加工糸84デシテックス72フィラメント、22デシテックス48フィラメントのスパンデックス(東レ・オペロンテックス株式会社製の商標名:オペロン)、を合わせてz撚方向に400回/m合撚した合撚糸を作製して整経した。この整経ビームをカールマイヤー社製経編機(KS3)を用いて、ハーフ組織のトリコット生機を製編した。 得られたトリコット生機をプレウェッターで湿熱処理した後、連続精練、乾燥幅出しセットを施した。次いで液流染色機にて実施例1同様の処方で高圧液流染色及び同浴中での吸水SR処理を施した後、ネットコンベア式乾燥機(ヒラノエンテック社製シュリンクサーファードライヤー)を用いて乾燥し染色生地を得た。この染色生地の混率はナイロン6が79%、スパンデックスが21%であった。得られた染色生地を下記処方の薬液を用いて、パッドドライキュア法によって処理した。因みに実施例、比較例のパディングはドライオンウェット法(乾燥した生地に薬液を浸漬後、搾液し所定の薬剤量を生地に処理する方法)にて実施している。
【0043】
塩化ジヘベニルジメチルジメチルアンモニウムを同量のイソプロピルアルコール(IPA)に溶解し、更に塩化ジヘベニルジメチルアンモニウムに対して20重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを加えて撹拌し、塩化ジヘベニルジメチルアンモニウムのIPA液を作成した。マングル圧を前記経編のW.P.U率が100%となるように調整した。経編生地を乾燥した後の塩化ジヘベニルジメチルアンモニウムの付着量がが5.0%owfとなるよう水分散液を調整してからマングルパッダーで付与し、乾燥温度130℃、キュアリング温度180℃で処理し、160℃の設定温度で最終セットを施して加工布を得た。得られた生地密度は47コース/インチ、38ウェール/インチ、生地目付は240g/m2である。未洗濯、洗濯後の抗菌・抗ウイルス性等の評価結果を表1に示す。実施例3の加工布は、実施例1、実施例2同様、抗菌・抗ウイルス性共に効果が高く、洗濯後の機能性低下も少なく、一般衣料用途として好適なものが得られた。
【0044】
(比較例1)
薬剤処理法を下記に変更した以外は、実施例1と同様の方法で染色加工布を得た。
ジデシルジメチルアンモニウムクロリドの濃度が10g/Lの水溶液を調製し、乾燥後にジデシルジメチルアンモニウムクロリドの付着量が0.5%owfとなるようマングルパッダーで付与し、乾燥温度120℃、キュアリング温度170℃で1分間、最終セットを兼ねて熱処理を行った。得られた織物の目付は130g/m2であった。比較例1の加工布は、洗濯初期では帯電防止性・抗ウイルス性の効果があるが、洗濯による機能性低下が大きかった。
【表1】
【0045】
尚、表中のHL(ホームランドリー)5、HL10、及びHL15は、前述の洗濯方法に記載した標準洗濯法5回、10、及び15回を実施したあとの試料を評価した数値である。
本発明の抗菌・抗ウイルス加工繊維製品は、帯電防止性と抗ウイルス特性の双方の洗濯耐久性に優れており、各種衣料、寝装寝具、生活資材等々に広く活用することができる。とりわけ病院や介護・養護施設など各種医療機関などで着用する白衣、予防衣、カーテン、各種作業衣、及び食品工場や厨房など食べ物を取扱う現場や製薬工場や飲料工場など衛生面を特に重要視すべき現場で着用する作業服、作業衣などへの適用が可能である。