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  • 特開-車両用駆動装置の制御装置 図1
  • 特開-車両用駆動装置の制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127285
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20220824BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20220824BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20220824BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20220824BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H59/42
F16H61/68
F16D48/02 640P
F02D29/00 G
F02D29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025345
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】今村 友一
【テーマコード(参考)】
3G093
3J057
3J552
【Fターム(参考)】
3G093BA03
3G093BA14
3G093CB08
3G093DA06
3G093DA07
3G093DB01
3G093DB05
3G093EA02
3G093EA03
3G093EB03
3J057BB03
3J057GA26
3J057GB02
3J057GB05
3J057GB12
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB36
3J057GE07
3J057HH01
3J057JJ01
3J057JJ06
3J552MA01
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552RA02
3J552SA02
3J552SB02
3J552SB33
3J552UA02
3J552UA03
3J552UA08
3J552VA05W
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA45W
3J552VB01W
3J552VC01W
3J552VD02W
(57)【要約】
【課題】ロックアップクラッチが締結されていない状態であっても、ドライバビリティを損なうことなく滑らかに変速クラッチを締結してスムーズな変速を行うことができる車両用駆動装置の制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、エンジンの回転を変速して出力する変速機構と、トルクコンバータと変速機構との間に設けられた変速クラッチと、クラッチ操作を自動で行うクラッチアクチュエータとを備えた車両用駆動装置の制御装置であって、クラッチ制御部は、ロックアップクラッチが解放されている状態で変速を行う場合、目標タービン回転速度Nt*に基づきエンジン要求トルクTerを算出し、エンジンは、ロックアップクラッチが解放されている状態で変速を行う場合、エンジン要求トルクTerに基づき制御される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、
前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、
前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、
前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、
を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記クラッチアクチュエータの駆動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが解放されている状態で前記変速段を切り替える変速を行う場合、前記トルクコンバータ及び前記変速クラッチに接続されたタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度に基づき、前記エンジンから出力されるトルクの要求値であるエンジン要求トルクを算出し、
前記エンジンは、前記変速を行う場合、前記エンジン要求トルクに基づき制御されることを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記目標タービン回転速度と、前記タービン軸から前記変速クラッチに伝達されるタービントルクの要求値であるタービン要求トルクと、に基づき、前記エンジンから前記トルクコンバータに入力される入力トルクの要求値である入力要求トルクを算出し、当該入力要求トルクに応じたエンジントルクを前記エンジン要求トルクとして算出することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記タービン軸の回転速度であるタービン回転速度及び前記タービントルクと前記入力トルクとの関係が定義されたマップを参照することにより、前記入力要求トルクを算出することを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記目標タービン回転速度と、前記エンジンから前記トルクコンバータに入力される入力トルクの要求値である入力要求トルクと、に基づき、目標エンジン回転速度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンの動力を変速機側に伝達する流体継手と、流体継手を機械的に断接するためのロックアップクラッチと、流体継手と変速機との間に設けられ、変速機の変速操作に応じて断接される変速クラッチと、を備えた動力伝達装置において、ドライバにより特異な発進操作が行われたときに、ロックアップクラッチを変速クラッチよりも先に接続するものが開示されている。特許文献1に記載の動力伝達装置によれば、ロックアップクラッチの接続不良を防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-76667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達装置にあっては、ロックアップクラッチの締結後でなければ変速クラッチの締結に係る制御を行うことができないため、変速に要する時間が長くなってしまう。変速に要する時間が長くなってしまうと、例えば発進加速時においては、加速のもたつきが発生し、ドライバビリティが悪化するおそれがある。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたもので、ロックアップクラッチが締結されていない状態であっても、ドライバビリティを損なうことなく滑らかに変速クラッチを締結してスムーズな変速を行うことができる車両用駆動装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、前記エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、前記トルクコンバータと前記変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、前記変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、前記クラッチアクチュエータの駆動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記ロックアップクラッチが解放されている状態で前記変速段を切り替える変速を行う場合、前記トルクコンバータ及び前記変速クラッチに接続されたタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度に基づき、前記エンジンから出力されるトルクの要求値であるエンジン要求トルクを算出し、前記エンジンは、前記変速を行う場合、前記エンジン要求トルクに基づき制御される構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロックアップクラッチが締結されていない状態であっても、ドライバビリティを損なうことなく滑らかに変速クラッチを締結してスムーズな変速を行うことができる車両用駆動装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両の動力伝達系の概念図である。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置におけるエンジン要求トルクの算出の流れを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、エンジンに接続されたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータと、エンジンの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力する変速機構と、トルクコンバータと変速機構との間に設けられ、動力を伝達する締結状態、又は、動力を遮断する遮断状態に切り替えられる変速クラッチと、変速クラッチの操作を自動で行うクラッチアクチュエータと、を備えた車両用駆動装置の制御装置であって、クラッチアクチュエータの駆動を制御する制御部を備え、制御部は、ロックアップクラッチが解放されている状態で変速段を切り替える変速を行う場合、トルクコンバータ及び変速クラッチに接続されたタービン軸の目標回転速度である目標タービン回転速度に基づき、エンジンから出力されるトルクの要求値であるエンジン要求トルクを算出し、エンジンは、変速を行う場合、エンジン要求トルクに基づき制御されることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップクラッチが締結されていない状態であっても、ドライバビリティを損なうことなく滑らかに変速クラッチを締結してスムーズな変速を行うことができる。
【実施例0010】
以下、本発明の一実施例に係る車両用駆動装置の制御装置を備えた車両について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、車両用駆動装置としての自動変速機3と、駆動輪4と、制御装置10と、エンジンコントローラ20と、を含んで構成されている。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。エンジン2は、車両1の動力源である。
【0013】
自動変速機3は、エンジン2と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられている。自動変速機3は、トルクコンバータ30と、変速機構31と、変速クラッチ32と、クラッチアクチュエータ33と、を有している。
【0014】
トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ35を有する、いわゆるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータである。トルクコンバータ30は、エンジン2と変速クラッチ32との間の動力伝達経路に設けられ、流体を介して動力の伝達を行いタービン軸36に出力する。
【0015】
タービン軸36には、変速クラッチ32が接続されている。トルクコンバータ30は、エンジン2のクランク軸21から入力されるトルク(駆動力)を、流体を介することにより回転差にて増幅してタービン軸36および変速クラッチ32に出力する。そして、トルクコンバータ30の出力は、タービン軸36および変速クラッチ32を介して変速機構31に伝達される。
【0016】
トルクコンバータ30の内部は、ロックアップクラッチ35を境にして図示しないアプライ室とリリース室とに区画されている。アプライ室又はリリース室には作動油が供給され、供給される作動油の油圧(作動油圧)によってロックアップクラッチ35の作動状態を切り替えるようになっている。
【0017】
ロックアップクラッチ35は、トルクコンバータ30内に設けられ、エンジン2のクランク軸21とタービン軸36とが一体的に回転して動力伝達するように接続(以下、「直結」という)する締結状態と、クランク軸21とタービン軸36との直結を解除して流体(作動油)を介してクランク軸21とタービン軸36とが動力伝達をする解放状態と、の間で作動状態が切り替えられるようになっている。
【0018】
ロックアップクラッチ35は、アプライ室に作動油圧(以下、この作動油圧を「締結油圧」という)が供給されてリリース室から作動油が排出されることで、締結状態に切り替えられる。逆に、ロックアップクラッチ35は、リリース室に作動油圧(以下、この作動油圧を「解放油圧」という)が供給されてアプライ室から作動油が排出されることで、解放状態に切り替えられる。
【0019】
変速機構31は、変速クラッチ32と駆動輪4との間の動力伝達経路に設けられ、変速クラッチ32に接続された入力軸37と、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に接続された出力軸38と、を有する。変速機構31は、変速クラッチ32から入力軸37に入力される駆動力を変換および回転速度を変速して、出力軸38から出力する。
【0020】
変速機構31は、エンジン2から出力され、入力軸37に伝達されたエンジン2の回転を、後述する複数の変速段のうち選択されたいずれかの変速段に応じた変速比で変速して出力軸38に出力する。出力軸38に出力された回転や駆動力は、図示しないディファレンシャルを介して駆動輪4に伝達される。
【0021】
変速機構31は、歯数比の異なる複数のギヤ対によって変速比の異なる複数の変速段を形成可能に構成されている。変速機構31における変速段の切替は、図示しないシフトアクチュエータによって自動で行われるようになっている。詳細には、制御装置10が、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照することにより変速の要否を判断し、変速の指示をシフトアクチュエータに出力する。そして、変速指示を受けたシフトアクチュエータが動作して、変速が行われる。
【0022】
変速クラッチ32は、トルクコンバータ30と変速機構31との間の動力伝達経路に設けられている。変速クラッチ32は、タービン軸36と一体で回転するように連結されたクラッチホイールディスク32aと、変速機構31の入力軸37と一体で回転するように連結されたクラッチディスク32bと、を有する。
【0023】
変速クラッチ32は、乾式単板クラッチであって、クラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aに押し付けることでクラッチディスク32bをクラッチホイールディスク32aが一体的に回転して動力伝達する締結状態と、クラッチディスク32bがクラッチホイールディスク32aから分離されることでクラッチホイールディスク32aとクラッチディスク32bとの間の動力伝達を遮断する遮断状態と、に切り替えられるようになっている。つまり、変速クラッチ32は、締結状態ではタービン軸36と入力軸37との間で動力を伝達し、遮断状態ではタービン軸36と入力軸37との間の動力伝達を遮断する。
【0024】
変速クラッチ32に対する締結状態と遮断状態とを切り替える操作(以下、「クラッチ操作」という)は、クラッチアクチュエータ33によって自動で行われるようになっている。
【0025】
クラッチアクチュエータ33は、制御装置10に電気的に接続されており、制御装置10からの指令に基づき、変速クラッチ32のクラッチ操作を行うようになっている。具体的には、クラッチアクチュエータ33は、いずれも図示しないレリーズベアリングをレリーズフォーク等にて入力軸37の軸方向に移動させ、レリーズベアリングにてクラッチホイールディスク32aのダイヤフラムスプリングを弾性変形させて変速クラッチ32を遮断状態とする。また、クラッチアクチュエータ33は、レリーズベアリングを遮断状態の位置から遮断状態にする時と反対の方向に移動させ、ダイヤフラムスプリングを弾性変形から解放させて変速クラッチ32を締結状態とする。
【0026】
制御装置10及びエンジンコントローラ20は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0027】
これらコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、これらコンピュータユニットを制御装置10及びエンジンコントローラ20として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらコンピュータユニットは、本実施例における制御装置10及びエンジンコントローラ20として機能する。
【0028】
制御装置10には、上述した図示しないシフトアクチュエータ、クラッチアクチュエータ33及び油圧制御装置40等の各種装置、クランク角センサ50、タービン回転速度センサ51、クラッチ回転速度センサ52、クラッチ位置検出センサ53、ロックアップ油圧センサ54、車速センサ55及びアクセルセンサ56等の各種センサ類が接続されている。
【0029】
油圧制御装置40は、トルクコンバータ30のロックアップクラッチ35やクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧を制御する。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきロックアップクラッチ35に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、ロックアップクラッチ35を締結状態又は解放状態に切り替える。油圧制御装置40は、制御装置10からの指令に基づきクラッチアクチュエータ33に供給する作動油圧の大きさを調整することにより、変速クラッチ32を締結状態又は遮断状態に切り替える。
【0030】
クランク角センサ50は、クランク軸21の回転角(以下、「クランク角」という)を検出する。制御装置10は、クランク角センサ50から入力されたクランク角を示す情報に基づきエンジン2の回転速度(クランク軸21の回転速度)であるエンジン回転速度を算出する。
【0031】
タービン回転速度センサ51は、タービン軸36の回転速度(以下、「タービン回転速度」という)を検出する。クラッチ回転速度センサ52は、クラッチディスク32b及び入力軸37の回転速度(以下、「クラッチ回転速度」という)を検出する。
【0032】
クラッチ位置検出センサ53は、変速クラッチ32におけるレリーズベアリングの位置あるいはレリーズベアリングの移動状態に関連して移動するレリーズフォーク等の部品の位置(以下、「クラッチ位置」という)を検出する。クラッチ位置は、変速クラッチ32の状態(遮断状態/半クラッチ状態/締結状態)を示すものでもあり、変速クラッチ32の伝達するトルクの大きさを示すものとも考えられる。ロックアップ油圧センサ54は、ロックアップクラッチ35に供給される作動油圧を検出する。本実施例では、アプライ室に作用する締結油圧を検出する例で説明したが、リリース室に作用する解放油圧を基準にアプライ室に作用する油圧を推定あるいは検出してもよい。車速センサ55は、車両1の速度である車速を検出する。アクセルセンサ56は、運転者による図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出する。なお、アクセルセンサ56は、アクセルペダルの踏込み量に連動して変化するスロットル弁の動きを検出してもよい。
【0033】
制御装置10は、クラッチ位置検出センサ53によって検出されたクラッチ位置に基づき、クラッチ位置とクラッチ伝達トルク(以下、「クラッチトルク」ともいう)との関係を定義した図示しないマップを参照することにより、変速クラッチ32を制御、具体的には変速クラッチ32のクラッチ操作が行われるようクラッチアクチュエータ33を制御するクラッチ制御部101としての機能を有する。本実施例のクラッチ制御部101は、制御部を構成する。
【0034】
制御装置10は、変速を行う場合、変速クラッチ32を締結状態から遮断状態に切り替えた後、変速機構31における変速段を切り替え、その後、変速クラッチ32を遮断状態から締結状態に切り替えるように、クラッチアクチュエータ33及びシフトアクチュエータを制御することによって、クラッチ操作及びシフト操作を自動で行うようになっている。
【0035】
上記のような変速を違和感なく(ドライバビリティを損ねることなく)スムーズに行うには、変速クラッチ32への入力部材であるタービン軸36のタービン回転速度をクラッチ締結時にショックなくクラッチ回転速度と同期できるよう制御することが望ましい。また、変速クラッチ32の解放中には、理想的なタービン回転速度にタービン回転速度を制御することで、タービン回転速度やエンジン回転速度の吹け上がりを防止でき、変速に要する時間が長くなることや加速のもたつきが発生することを防止することが望ましい。
【0036】
仮に、クラッチトルクよりも変速クラッチ32に入力されるトルク(タービントルク)が大きい場合には、変速クラッチ32が過度に滑ってエンジン回転速度が吹け上がってしまう。逆に、クラッチトルクよりも変速クラッチ32に入力されるトルクが小さい場合には、変速クラッチ32が滑らずに急締結されてエンジン2側のイナーシャ(慣性力)の作用によってショックが生じてしまう。
【0037】
したがって、制御装置10は、変速に伴い変速クラッチ32を締結する際には、クラッチトルクと理想的なタービン回転速度の目標値である目標タービン回転速度に応じた、エンジン2に要求されるトルクであるエンジン要求トルクを決定することが好ましい。また、ロックアップクラッチ35が締結された状態の変速と、締結されていない状態の変速とにて、車両の挙動に大きな違いがなく運転者に違和感を与えないことが好ましい。
【0038】
ここで、ロックアップクラッチ35が締結された状態においては、クランク軸21とタービン軸36とが直結しているので、エンジン回転速度と上述したタービン回転速度とが一致する。このため、ロックアップクラッチ35が締結された状態で変速を行う場合は、制御装置10は、目標エンジン回転速度に基づきエンジン要求トルクを決定すればよく、エンジン要求トルクを「変速クラッチ32に入力されるトルク」として変速クラッチ32を制御することができる。
【0039】
これに対し、ロックアップクラッチ35が解放された状態では、クランク軸21とタービン軸36とがトルクコンバータ30の流体を介して動力伝達を行うため、エンジン回転速度とタービン回転速度が一致しないこととなる。このため、ロックアップクラッチ35が解放された状態で変速を行う場合に、上述のように目標エンジン回転速度に基づきエンジン要求トルクを決定する制御をしてしまうと、変速クラッチ32への入力部材であるタービン軸36の回転数であるタービン回転速度が、クラッチ回転速度に対してスムーズに同期できない。この場合、上述したようなエンジン回転速度の吹け上がりや、ショックが発生してしまい、ドライバビリティが損なわれるおそれがある。また、駆動力が大きく異なることになるため、車両の加速に大きな違いが発生して運転者に違和感を与えるおそれがある。
【0040】
そこで、本実施例においては、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合は、変速クラッチ32への入力部材であるタービン軸36に着目し、タービン回転速度を制御目標として、当該タービン回転速度に基づきエンジン要求トルクを決定するようにした。具体的には、制御装置10は、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合、タービン軸36の目標回転速度すなわちタービン回転速度の目標値である目標タービン回転速度と、タービン軸36から変速クラッチ32に伝達されるトルク(変速クラッチ32の入力トルク)の要求値であるタービン要求トルクと、に基づき、そのトルクを出力するのに必要なトルクコンバータ30へ入力されるべきトルクコンバータ30の入力トルクの要求値(入力要求トルク)を算出し、当該トルクコンバータ30の入力要求トルクに応じたエンジントルクをエンジン要求トルクとして算出するようにした。エンジン2は、上記変速を行う場合、上記で算出したエンジン要求トルクに基づき制御され、必要なエンジントルクを出力する。上記エンジン要求トルクの算出方法については、後述する。
【0041】
制御装置10は、ロックアップクラッチ35の締結又は解放を制御するロックアップクラッチ制御部102としての機能を有する。例えば、制御装置10は、所定のロックアップ条件が成立した場合、ロックアップクラッチ35を解放状態から締結状態に切り替えるよう、油圧制御装置40を制御するロックアップ制御を実行する。
【0042】
本実施例においては、例えば車速が所定車速以上となったことを、所定のロックアップ条件とする。所定のロックアップ条件は、これに限定されるものではなく、他の条件としてもよく、変速段と車速の状態を所定のロックアップ条件としてもよい。
【0043】
エンジンコントローラ20は、制御装置10と相互に情報のやり取りを行うよう接続されており、上述したように制御装置10において算出されたエンジン要求トルクに基づき、エンジン2を制御するようになっている。
【0044】
(エンジン要求トルクの算出方法)
次に、図2及び図3を参照して、本実施例の制御装置10におけるロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合のエンジン要求トルクの算出方法について説明する。
【0045】
エンジン要求トルクの算出方法を説明するにあたり、本実施例の車両1の動力伝達系における各種パラメータを、図2に示す通り、具体的には以下の通り定義する。以下において、「*」を付したパラメータは、「*」を付していないパラメータの目標値を示し、「r」を付したパラメータは、「r」を付していないパラメータの要求値を示している。
【0046】
Ne :エンジン回転速度
Ne*:目標エンジン回転速度
Nt :タービン回転速度
Nt*:目標タービン回転速度
Nc :クラッチ回転速度
Te :エンジントルク
Ter:エンジン要求トルク
Ti :インペラトルク(入力トルク)
Tir:入力要求トルク
Tt :タービントルク
Ttr:タービン要求トルク
Tc :クラッチトルク
Tc*:目標クラッチトルク
Ie :エンジンイナーシャ
Ii :インペライナーシャ
It :タービンイナーシャ
Ic :クラッチイナーシャ
【0047】
また、図2に明示していない他のパラメータについては、以下の通り定義する。
C :トルクコンバータ30の容量係数
SR :速度比
τ :トルク比
dNe/dt*:目標エンジン回転変化量
∂ωt/∂t*:目標タービン回転変化量
【0048】
上記の速度比SRは、トルクコンバータ30への入力回転速度である目標エンジン回転速度Ne*と目標タービン回転速度Nt*との比(Nt*/Ne*)である。トルク比τは、トルクコンバータ30の入力トルクと出力トルクとの比(出力トルク/入力トルク)である。目標エンジン回転変化量dNe/dt*は、目標エンジン回転速度Ne*を時間微分した値である。目標タービン回転変化量∂ωt/∂t*は、目標タービン回転速度Nt*に対応する角速度を偏微分した値である。
【0049】
まず、車速センサ55及びアクセルセンサ56等の各種センサ類からの出力を受けて、制御装置10が、車速及びアクセルペダルの踏込み量に基づき変速マップを参照して変速の要否を判断し、変速が必要と判断した時は変速の指示をクラッチアクチュエータ33に出力する。そして、変速指示を受けたクラッチアクチュエータ33が動作して、変速クラッチ32が「締結状態」→「遮断状態」→「締結状態」と切り替えが行われる。この時、車速及びアクセルペダルの踏込み量、あるいはアクセルペダルの踏込み速さに基づき、運転者の加速要求レベルを推測し、変速機構31の変速段の切替後の変速クラッチ32の締結操作(「遮断状態」→「締結状態」)の緩急や締結完了時の駆動力の大きさを決定する。また、変速クラッチ32への入力部材であるタービン軸36の回転数であるタービン回転速度Ntをクラッチ締結時にショックなくクラッチ回転速度Ncと同期できるように、目標タービン回転速度Nt*を計算し、計算された目標タービン回転速度Nt*を基に、タービン要求トルクTtrを決定する。
【0050】
具体的には、タービン要求トルクTtrは、制御装置10によって次式を用いて算出される。
Ttr=Tc*+It(∂ωt/∂t*)
【0051】
上記式における目標クラッチトルクTc*は、車両1の加速要求等から求められる。例えば、制御装置10は、アクセル開度と目標クラッチトルクTc*との関係を予め実験的に求めてROMに記憶されたマップを参照することにより、アクセル開度から目標クラッチトルクTc*を求めることができる。なお、タービン軸36の慣性モーメントであるイナーシャItは予め設計データより求めておくことができる。
【0052】
そして、図3に示すように、制御装置10は、目標タービン回転速度Nt*及びタービン要求トルクTtrからインペラトルクすなわちトルクコンバータ30への入力要求トルクTirを算出する(ステップS1)。具体的には、制御装置10は、タービン回転速度NtとタービントルクTtとトルクコンバータ30の入力トルクTiとの関係を予め計算により求めた第1の変換マップを参照することにより、トルクコンバータ30の入力要求トルクTirを算出する。当該第1の変換マップは、制御装置10のROMに記憶されている。
【0053】
トルクコンバータ30の入力要求トルクTirを算出する上記第1の変換マップは、例えば、次の手順により作成可能である。本実施例ではトルクコンバータ30への入力回転速度はエンジン回転速度Neであるので、以下においては、トルクコンバータ30への入力回転速度を「エンジン回転速度Ne」とする。
【0054】
任意の入力トルク(インペラトルクTi)及び任意のタービン回転速度に対して、「C×Ne」で計算される理論入力トルクと任意の入力トルクとが等しくなるつり合い点のエンジン回転速度Neは1つの値に決定される。その時の「Nt/Ne」から速度比SRを求めると、トルコン特性からトルクコンバータ30の容量係数C及びトルク比τも決定される。トルコン特性とは、トルクコンバータ30の伝達トルク容量等の諸元に基づき定まる特性である。
【0055】
ここで、タービントルクTtは、「Tt=Ti×τ」により計算可能である。このため、タービントルクTtは、任意の入力トルク及びタービン回転速度から計算することができる。したがって、こうした計算を予め行って計算結果をマップ化することにより、目標タービン回転速度Nt*及びタービン要求トルクTtrからトルクコンバータ30への入力要求トルクTirを算出可能な上記第1の変換マップが作成される。
【0056】
トルクコンバータ30は、定性的には上記つり合い点でのみ作動をする。具体的には、前記理論入力トルクはトルクコンバータ30の入力トルクに対する負荷トルクとして捉えられるため、前記理論入力トルクが前記入力トルクを上回る場合には、トルクコンバータの入力回転速度(エンジン回転速度Ne)が減少することとなり、前記理論入力トルクが減少することとなる。一方で、前記理論入力トルクが前記入力トルクを下回る場合には、トルクコンバータの入力回転速度(エンジン回転速度Ne)が上昇することとなり、前記理論入力トルクが増加することとなり、結果としてつり合い点でのみ定性的に作動する。
【0057】
制御装置10は、目標タービン回転速度Nt*、及び、ステップS1で算出したトルクコンバータ30への入力要求トルクTirから目標エンジン回転速度Ne*を算出する(ステップS2)。具体的には、制御装置10は、タービン回転速度Ntとトルクコンバータ30への入力トルクTiとエンジン回転速度Neとの関係を予め計算により求めた第2の変換マップを参照することにより、目標エンジン回転速度Ne*を算出する。当該第2の変換マップは、制御装置10のROMに記憶されている。
【0058】
目標エンジン回転速度Ne*を算出する上記第2の変換マップは、例えば、次の手順により作成可能である。上述の通り、任意の入力トルク(インペラトルクTi)及びタービン回転速度に対して、「C×Ne」で計算される理論入力トルクと任意の入力トルクとが等しくなるエンジン回転速度Neは1つの値に決定される。この決定結果(計算結果)をマップ化することにより、目標タービン回転速度Nt*及びトルクコンバータ30への入力要求トルクTirから目標エンジン回転速度Ne*を算出可能な上記第2の変換マップが作成される。なお、第1の変換マップと第2の変換マップは環境因子によって変化させてもよい。例えば、トルクコンバータ30の特性(容量係数、トルク比)が変化するトルクコンバータ内のオイル温度に従い、切り替えてもよい。
【0059】
また、本実施例では、第1変換マップと第2の変換マップとの2つの変換マップを使用して、制御を構築しているが、1つの変換マップを用いて演算してもよい。具体的には、上記計算を同様に行い、任意のタービントルクTtと任意のタービン回転速度Ntとのつり合い点におけるエンジン回転速度Neを予め計算して変換マップとして記憶し、目標タービン回転速度Nt*と入力要求トルクTirとから直接、目標エンジン回転速度Ne*を算出してもよい。
【0060】
次いで、制御装置10は、ステップS2で算出した目標エンジン回転速度Ne*を時間微分することにより、目標エンジン回転変化量dNe/dt*を算出する(ステップS3)。
【0061】
続いて、制御装置10は、ステップS3で算出した目標エンジン回転変化量dNe/dt*にエンジンイナーシャIeを乗算することにより、エンジンイナーシャトルク「(dNe/dt*)×Ie」を算出する(ステップS4)。
【0062】
次いで、制御装置10は、ステップS1で算出したトルクコンバータ30への入力要求トルクTirにエンジンイナーシャトルク「(dNe/dt*)×Ie」を加算することにより、エンジン要求トルクのフィードフォワード項Te_FFを算出する(ステップS5)。
【0063】
制御装置10は、実際のタービン回転速度(以下、「実タービン回転速度」という)と、ステップS1の算出に使用した目標タービン回転速度Nt*と、の差を算出し、フィードバック制御によりエンジン要求トルクを補正する(ステップS6)。すなわち、制御装置10は、エンジン要求トルクのフィードバック項Te_FBを算出する。制御装置10は、前述のようなフィードバック制御を行うことにより、車両特性のずれが発生した場合であっても変速フィーリングが悪化してしまうことを抑制できる。
【0064】
制御装置10は、ステップS5で算出したフィードフォワード項Te_FFと、ステップS6で算出したフィードバック項Te_FBとを合算することにより、エンジン要求トルクTerを算出する(ステップS7)。
【0065】
制御装置10は、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合、ステップS7で算出したエンジン要求トルクTerに基づき、エンジン2を制御する。これにより、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合であっても、変速クラッチ32への入力部材であるタービン軸36の回転数であるタービン回転速度が、理想的な目標タービン回転速度となるようにエンジントルクを制御でき、クラッチ締結の際にスムーズな同期を実現できる。
【0066】
以上のように、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合、目標タービン回転速度Nt*に基づきエンジン要求トルクTerを算出するように構成されている。また、エンジン2は、ロックアップクラッチ35が解放されている状態で変速を行う場合、算出されたエンジン要求トルクTerに基づき制御されるよう構成されている。
【0067】
これにより、変速クラッチ32が滑らずに急締結されてエンジン2側のイナーシャ(慣性力)の作用によってショックが生じてしまうことを防止できる。また、エンジン回転速度の吹け上がりや、ショックが発生してしまうといったことを防止できる。
【0068】
さらに、ロックアップクラッチ35が締結されていない状態での変速において上記のようなショックや変速クラッチ32の解放中のタービン回転速度やエンジン回転速度の吹け上がりを防止できるので、ロックアップクラッチ35が締結されていない状態でもスムーズな変速を行うことができる。このため、変速に要する時間が長くなることを防止でき、加速のもたつきが発生することを防止できる。また、変速クラッチ32の解放中、締結中等に関わらず、連続して本構成の制御を用いることができるため、連続した制御を実現でき、制御の切り替え等によりエンジン要求トルクのステップ変化等が発生しないことから、滑らかな変速フィーリングを得られる。本実施例の制御装置10は、前述のようなフィードバック制御を行うことにより、車両特性のずれが発生した場合であっても変速フィーリングが悪化してしまうことを抑制できる。
【0069】
このように、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、ロックアップクラッチ35が締結されていない状態であっても、ドライバビリティを損なうことなく滑らかに変速クラッチ32を締結してスムーズな変速を行うことができる。
【0070】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、目標タービン回転速度Nt*とタービン要求トルクTtrとに基づき、エンジン2からトルクコンバータ30に入力される入力トルクの要求値である入力要求トルクTirを算出し、当該入力要求トルクTirに応じたエンジントルクをエンジン要求トルクTerとして算出するよう構成されている。
【0071】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、タービン回転速度Nt及びタービントルクTtと入力トルクTiとの関係が定義された第1の変換マップを参照することにより入力要求トルクTirを算出するので、簡易に最適な入力要求トルクTirを求めることができる。
【0072】
また、本実施例に係る車両用駆動装置の制御装置は、目標タービン回転速度Nt*と、入力要求トルクTirと、に基づき、目標エンジン回転速度Ne*を算出するよう構成されている。
【0073】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0074】
1 車両
2 エンジン
3 自動変速機(車両用駆動装置)
4 駆動輪
10 制御装置
20 エンジンコントローラ
21 クランク軸
30 トルクコンバータ
31 変速機構
32 変速クラッチ
32a クラッチホイールディスク
32b クラッチディスク
33 クラッチアクチュエータ
35 ロックアップクラッチ
36 タービン軸
37 入力軸
38 出力軸
40 油圧制御装置
50 クランク角センサ
51 タービン回転速度センサ
52 クラッチ回転速度センサ
53 クラッチ位置検出センサ
54 ロックアップ油圧センサ
55 車速センサ
56 アクセルセンサ
101 クラッチ制御部(制御部)
102 ロックアップクラッチ制御部
Ter エンジン要求トルク
Ttr タービン要求トルク
Ti 入力トルク
Tir 入力要求トルク
Tc* 目標クラッチトルク
Ne* 目標エンジン回転速度
Nt* 目標タービン回転速度
図1
図2
図3