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特開2022-127297光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127297
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20220824BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20220824BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20220824BHJP
   C03C 13/04 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
H01S3/067
G02B6/02 376B
G02B6/036
C03C13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025362
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】杉田 充
(72)【発明者】
【氏名】平川 圭祐
【テーマコード(参考)】
2H250
4G062
5F172
【Fターム(参考)】
2H250AB04
2H250AB05
2H250AB07
2H250AB08
2H250AB09
2H250AB10
2H250AB20
2H250AB32
2H250AB70
2H250AD08
2H250AD15
2H250AH33
2H250BA22
2H250BA32
2H250BA33
2H250BB02
2H250BB32
2H250BB33
2H250BC02
4G062AA06
4G062LA03
4G062LA06
4G062LA10
4G062MM04
5F172AE13
5F172AF06
5F172AF15
5F172AM02
5F172AM08
5F172NN00
(57)【要約】
【課題】 光の実効断面積が大きい場合であってもビーム品質の劣化を抑制し得ると共に特性のばらつきが抑制され得る光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材を提供することを目的とする。
【解決手段】 光ファイバ10は、希土類元素が添加された内側コア11iと、内側コアの外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コア11oと、外側コア11oの外周面を隙間なく囲むクラッドと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素が添加された内側コアと、
前記内側コアの外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コアと、
前記外側コアの外周面を隙間なく囲むクラッドと、
を含む
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記内側コアには、イッテルビウムとリンとが共添加される
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記内側コアに添加されるリンの濃度は、前記外側コアに添加されるリンの濃度より高い
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記外側コアにはゲルマニウム及びリン以外のドーパントが非添加とされる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記外側コアにおけるP/GeOで示されるモル比が1.21以下である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項6】
希土類元素が添加された内側コアガラス体と、
前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コアガラス体と、
前記外側コアガラス体の外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体と、
を含む
ことを特徴とする光ファイバ用母材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの一つとして、コアにイッテルビウム(Yb)等の希土類元素が添加される増幅用光ファイバが知られている。このような増幅用光ファイバでは、下記特許文献1に記載されているように、イッテルビウムの結晶化を抑制するためにアルミニウム(Al)が共添加されることがあり、また、フォトダークニングを抑制するために更にリン(P)が共添加されることがある。また、希土類元素、アルミニウム、及びリンが共添加された部分を内側コアとし、この内側コアをゲルマニウム(Ge)が添加された外側コアで隙間なく囲んだ増幅用光ファイバが知られている。下記特許文献1には、このような光ファイバが記載されている。この光ファイバによれば、希土類が添加された内側コアで光が増幅され、外側コアでは光の増幅が抑制される。従って、この光ファイバでは、光の実効断面積が大きく高次モードの光が伝搬する場合であっても、基本モードの光を主に増幅することができる。このため、この光ファイバによれば、光の実効断面積が大きい場合であってもビーム品質の劣化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/203900号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光ファイバを製造するために、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法が用いられることがある。この場合、一般的に、クラッドとなる純粋シリカから成るガラス管の内周面上に外側コアとなるゲルマニウムが添加されたガラス層を所定数積層し、次に、このゲルマニウムが添加されたガラス層の内周面上に、内側コアとなる希土類元素が添加されたガラス層を所定数積層する。内側コアとなるガラス層を積層する際、必要に応じて、希土類元素の他にアルミニウムやリンを添加する。
【0005】
外側コアとなるガラス層を積層する際、ゲルマニウムが添加されたガラスを焼結するために、ガラス管の外表面が2000℃から2050℃程度となるまで加熱する必要がある。この加熱によりガラス管が縮径する場合がある。このようにガラス管が縮径するとガラス管の直径にばらつきが生じやすくなる。ガラス管の直径にばらつきが生じると、外側コアや内側コアとなるガラス層に添加される添加物の濃度にばらつきが生じる傾向がある。このように添加物の濃度にばらつきがある光ファイバ用母材を線引して得られる光ファイバは、特性のばらつきを含む傾向にある。従って、MCVD法におけるガラス管の縮径に起因して、製造される光ファイバの特性にばらつきが生じ易くなるのである。
【0006】
そこで、本発明は、光の実効断面積が大きい場合であってもビーム品質の劣化を抑制し得ると共に特性のばらつきが抑制され得る光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の達成のため、本発明の光ファイバは、希土類元素が添加された内側コアと、前記内側コアの外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コアと、前記外側コアの外周面を隙間なく囲むクラッドと、を含むことを特徴とするものである。
【0008】
内側コアに希土類元素が添加され外側コアに希土類元素が非添加であることで、高次モードの光が伝搬するプロファイルを有する場合であっても、コア全体に希土類元素が添加される光ファイバと比べて、コアの中心に最も大きな強度を有し他に強度のピークを有さない基本モードの光を主に増幅し得る。従って、本発明の光ファイバは、実効断面積の大きく高次モードの光が伝搬する場合であっても基本モードの光を主に増幅し得、ビーム品質の劣化を抑制し得る。なお、実効断面積の大きな光が伝搬する場合には、誘導ラマン散乱を抑制することができる。
【0009】
ところで、ゲルマニウムおよびリンが添加されたガラス体の焼結温度は、ゲルマニウムが添加されリンが非添加のガラス体の焼結温度と比べて低い。従って、本発明の光ファイバの製造では、MCVD法によりクラッドとなるガラス管の内周面に外側コアとなる外側コアガラス体を積層する際、ゲルマニウムが添加されリンが非添加の外側コアガラス体を積層する場合と比べて、低温で外側コアガラス体を積層し得る。従って、ゲルマニウムが添加されリンが非添加の外側コアを有する光ファイバを製造する場合と比べて、外側コアガラス体を積層する際のガラス管の温度を下げ得、熱によるガラス管の縮径を抑制することができる。従って、ガラス管の直径のばらつきを抑えることができ、外側コアや内側コアとなるガラス層に添加される添加物の濃度のばらつきを抑制することができる。このため、本発明の光ファイバによれば、特性のばらつきが抑制され得る。
【0010】
また、前記内側コアには、イッテルビウムとリンとが共添加されることが好ましい。
【0011】
内側コアにイッテルビウムとリンとが共添加されることで、フォトダークニング現象を抑制することができる。
【0012】
この場合、前記内側コアに添加されるリンの濃度は、前記外側コアに添加されるリンの濃度より高いことが好ましい。
【0013】
光ファイバを製造する際の線引工程前後で、コアの屈折率がその組成に応じて変化することが知られている。この屈折率変化は、クラッドとコアとの組成の違いによる粘度差に起因する線引前後に生じる機械応力によるものである。上記のように内側コアに添加されるリンの濃度が外側コアに添加されるリンの濃度より高い場合、線引前後の屈折率上昇は、内側コアに添加されるリンの濃度が外側コアに添加されるリンの濃度より低い場合と比べて、内側コアの方が外側コアに比べて大きい傾向にある。これは次の理由による。すなわち、リンの濃度が外側コアよりも内側コアの方が低い場合の外側コアの粘度と比べて、リンの濃度が外側コアよりも内側コアの方が高い場合の外側コアの粘度は高い傾向にある。線引時の残留応力を考えると、粘度が高いほど線引時に早く固まり、線引時に巻き取る際の張力を負担しやすくなるため、線引後の光ファイバは、粘度が高い領域ほど引張応力が残留し、逆に粘度が低い領域ほど圧縮応力が残留する傾向にある。よって、この場合、内側コアには外側コアよりも相対的に大きな圧縮応力が残留する。この様に外側コアと比べて内側コアに大きな圧縮応力が残留すると、光弾性効果により、内側コアの屈折率は外側コアよりも上昇する。ところで、光ファイバが融着される場合、融着点付近では、融着時の加熱により、この残留応力が緩和される傾向にある。従って、融着点付近では、残留応力による内側コアと外側コアとの線引前後の屈折率変化が緩和される傾向にある。この結果、融着点付近では、融着点付近以外の部位と比べて、内側コアの外側コアに対する相対的な屈折率が小さくなる。その結果、融着点付近において、光の実効断面積を大きくし得る。このため、融着点付近における誘導ラマン散乱の発生を抑制し得る。
【0014】
また、前記外側コアにはゲルマニウム及びリン以外のドーパントが非添加とされることが好ましい。
【0015】
MCVD法では、添加物の種類が増えることで再現性が低下することが知られている。また、外側コアにゲルマニウム・リンと共に第3の元素を添加する場合、添加物の総量が多くなることで組成揺らぎによるレイリー散乱損失の増加が起こり得る。従って、外側コアにゲルマニウムとリン以外のドーパントが非添加であることで、本発明の光ファイバは、MCVD工程を経て製造する場合における再現性の低下の抑制することができ、また、レイリー散乱損失の抑制をし得る。
【0016】
また、前記外側コアにおけるP/GeOで示されるモル比が1.21以下であってもよい。
【0017】
また、上記目的の達成のため、本発明の光ファイバ用母材は、希土類元素が添加された内側コアガラス体と、前記内側コアガラス体の外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コアガラス体と、前記外側コアガラス体の外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体と、を含むことを特徴とするものである。
【0018】
このような光ファイバ用母材によれば、上記の光ファイバの説明と同様にして、ビーム品質の劣化及び誘導ラマン散乱を抑制し得、特性のばらつきが抑制され得る光ファイバを製造し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、光の実効断面積が大きい場合であってもビーム品質の劣化を抑制し得ると共に特性のばらつきが抑制され得る光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
図2図1に示される光ファイバを製造する工程を示すフローチャートである。
図3図1に示される光ファイバを製造するために用いられる光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。
図4】外側コアガラス体積層工程の様子を示す図である。
図5】内側コアガラス体積層工程の様子を示す図である。
図6】線引工程及び被覆工程を示す図である。
図7】実験例1で作成された光ファイバ用母材を細く引伸ばした後の中心軸からの径方向の距離とドーパントの濃度との関係を示す図である。
図8】実験例1で作成された光ファイバ用母材の中心軸からの径方向の距離と屈折率との関係とを示す図である。
図9】実験例1において、ガラス管の外径の変化の様子を示す図である。
図10】実験例9,10におけるガラス管の外径を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る光ファイバ、及び光ファイバ用母材を実施するための形態が図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。また、本明細書では、理解を容易にするために、各部材の寸法が誇張して示されている場合がある。
【0022】
図1は、実施形態に係る光ファイバの長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。本実施形態で例示される光ファイバは、コアに希土類元素が添加されるダブルクラッドファイバであり、伝搬する励起光によって上記希土類元素が励起される増幅用光ファイバである。図1に示すように、光ファイバ10は、コア11と、コア11を隙間なく囲む内側クラッド12と、内側クラッド12の外周面を隙間なく囲む外側クラッド13と、外側クラッド13を被覆する被覆層14と、を主な構成として備える。また、コア11は、内側コア11iと、内側コア11iを隙間なく囲む外側コア11oとを有している。内側クラッド12の屈折率はコア11の屈折率よりも低く、外側クラッド13の屈折率は内側クラッドの屈折率よりも低い。
【0023】
内側コア11iはドーパントとして希土類元素が添加された石英から成る。本実施形態では、内側コア11iには、更にアルミニウム(Al)及びリン(P)がドーパントとして共添加されている。アルミニウムはAlとして存在し、リンはPとして存在する。なお、希土類元素としては、イッテルビウム(Yb)、ツリウム(Tm)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)等が挙げられる。本実施形態の例では、希土類元素としてイッテルビウムが添加されている。なお、内側コア11iには、屈折率を上昇させるゲルマニウム等のドーパントや、屈折率を低下させるフッ素(F)やホウ素(B)等のドーパントが更に添加されてもよい。また、内側コア11iには、希土類元素が添加される限りにおいて、アルミニウム、リンが添加されなくてもよい。ただし、イッテルビウムの結晶化を抑制するために、上記のようにアルミニウムが共添加されることが好ましく、また、フォトダークニングを抑制するためにリンが共添加されることが好ましい。
【0024】
外側コア11oはゲルマニウム(Ge)及びリン(P)がドーパントとして添加された石英から成る。また、外側コア11oには、希土類元素が非添加である。ゲルマニウムはGeOとして存在する。なお、ゲルマニウム及びリン以外のドーパントが非添加であることが好ましい。外側コア11oにゲルマニウム及びリン以外のドーパントが非添加であることで、添加物の種類が増えることによるMCVD工程における再現性の低下の抑制や、レイリー散乱損失の抑制をし得る。ただし、屈折率を調整すること等を目的として、外側コア11oには、ゲルマニウム及びリン以外の屈折率を上昇させるドーパントや、フッ素(F)やホウ素(B)等の屈折率を低下させるドーパントが更に添加されてもよい。
【0025】
また、本実施形態では、内側コア11iに添加されるリンの濃度は、外側コア11oに添加されるリンの濃度より高いことが好ましい。内側コア11iに添加されるリンの濃度が外側コア11oに添加されるリンの濃度より高いことで、光ファイバ10が融着される場合における融着点付近の誘導ラマン散乱の発生を抑制することができる。以下、この理由を説明する。光ファイバを製造する際の線引工程前後で、コアの屈折率がその組成に応じて変化することが知られている。この屈折率変化は、クラッドとコアとの組成の違いによる粘度差に起因する線引前後に生じる機械応力によるものである。上記のように内側コア11iに添加されるリンの濃度が外側コア11oに添加されるリンの濃度より高い場合、線引前後の屈折率上昇は、内側コア11iに添加されるリンの濃度が外側コア11oに添加されるリンの濃度より低い場合と比べて、リンの濃度が外側コア11oよりも内側コア11iの方が低い場合の外側コア11oの粘度と比べて、リンの濃度が外側コア11oよりも内側コア11iの方が高い場合の外側コア11oの粘度は高い傾向にある。線引時の残留応力を考えると、粘度が高いほど線引時に早く固まり、線引時に巻き取る際の張力を負担しやすくなるため、線引後の光ファイバは、粘度が高い領域ほど引張応力が残留し、逆に粘度が低い領域ほど圧縮応力が残留する傾向にある。よって、この場合、内側コア11iには外側コア11oよりも相対的に大きな圧縮応力が残留する。この様に外側コア11oと比べて内側コア11iに大きな圧縮応力が残留すると、光弾性効果により、内側コア11iの屈折率は外側コア11oよりも上昇する。ところで、光ファイバ10が融着される場合、融着点付近では、融着時の加熱により、この残留応力が緩和される傾向にある。従って、融着点付近では、残留応力による内側コア11iと外側コア11oとの線引前後の屈折率変化が緩和される傾向にある。この結果、融着点付近では、融着点付近以外の部位と比べて、内側コア11iの外側コア11oに対する相対的な屈折率が小さくなる。その結果、融着点付近において、光の実効断面積を大きくし得る。このため、融着点付近における誘導ラマン散乱の発生を抑制し得る。また、本実施形態では、外側コア11oにおけるP/GeOで示されるモル比が1.21以下であるが、この範囲を超えてもよい。
【0026】
なお、内側コア11iと外側コア11oとの屈折率が概ね同じであることが好ましい。上記のように、光ファイバ10を製造する際の線引工程前後において、内側コア11iの外側コア11oに対する相対的な屈折率が変化する。上記のように、内側コア11iに添加されるリンの濃度が外側コア11oに添加されるリンの濃度より高い場合には、線引工程前後において、内側コア11iの外側コア11oに対する相対的な屈折率が上昇する。従って、製造される光ファイバ10において内側コア11iと外側コア11oとの屈折率が概ね同じになるように、光ファイバ10の母材の製造時に内側コア11iとなる内側コアガラス体と外側コア11oとなる外側コアガラス体の屈折率を調整する。
【0027】
内側クラッド12は、ドーパントが添加されていない純粋石英から成る。なお、本実施形態では、内側クラッド12に屈折率を低下させるフッ素やホウ素等のドーパントが添加されてもよい。
【0028】
外側クラッド13は、樹脂または石英から成る。このような樹脂としては、例えば、紫外線硬化樹脂或いは熱硬化樹脂が挙げられる。石英としては、例えば、内側クラッド12よりもさらに屈折率が低くなるように屈折率を低下させるフッ素やホウ素等のドーパントが添加された石英が挙げられる。本実施形態では、外側クラッド13は熱硬化樹脂から成る。
【0029】
被覆層14は、紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂等の樹脂から成る。なお、外側クラッド13が樹脂の場合、被覆層14は、外側クラッド13を構成する樹脂とは異なる紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂等から成る。本実施形態では、被覆層14は、外側クラッド13を構成する熱硬化樹脂とは異なる熱硬化樹脂から形成されている。
【0030】
上記の構成により、本実施形態では、外側クラッド13の屈折率は内側クラッド12の屈折率よりも低く、内側クラッド12の屈折率はコア11の屈折率よりも低い。
【0031】
次に、図1に示す光ファイバ10を製造する方法について説明する。
【0032】
図2は、光ファイバ10の製造方法の工程を示すフローチャートである。図2に示すように、光ファイバ10の製造方法は、外側コアガラス体積層工程P1と、内側コアガラス体積層工程P2と、コラプス工程P3と、線引工程P4と、被覆工程P5と、を含む。
【0033】
まず、光ファイバ用母材の製造方法により、光ファイバ用母材を製造する。光ファイバ用母材の製造方法は、上記の外側コアガラス体積層工程P1と、内側コアガラス体積層工程P2と、コラプス工程P3とを含む。
【0034】
図3は、図1に示される光ファイバ10を製造するために用いられる光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の構造を示す図である。図3に示すように、光ファイバ用母材10Pは、円柱状の形状をしており、光ファイバ10のコア11となるコアガラス体11Pと、コアガラス体11Pの外周面を隙間なく囲み、光ファイバ10の内側クラッド12となるクラッドガラス体12Pとから構成される。また、コアガラス体11Pは、光ファイバ10の内側コア11iとなる内側コアガラス体11Piと、内側コアガラス体11Piの外周面を隙間なく囲み、光ファイバ10の外側コア11oとなる外側コアガラス体11Poとから構成される。
【0035】
内側コアガラス体11Piは内側コア11iと同様の材料から成り、外側コアガラス体11Poは外側コア11oと同様の材料から成り、クラッドガラス体12Pは内側クラッド12と同様の材料から成る。また、内側コアガラス体11Piの直径と外側コアガラス体11Poの外径との比は、光ファイバ10の内側コア11iの直径と外側コア11oの外径との比と略同一である。
【0036】
<外側コアガラス体積層工程P1>
図4は、本工程の様子を示す図である。本工程はMCVD法により行われる。図4に示すように、本工程においては、クラッドガラス体12Pとなるガラス管12Tを軸中心に回転させると共に、ガラス管12Tの長手方向に沿ってバーナBAを移動させることで、ガラス管12Tを加熱する。このときガラス管12Tの貫通孔内に原料ガスをキャリアガスと共に供給する。本工程では、原料ガスは、SiCl、GeCl、及びPOClである。バーナBAが原料ガスの供給側から排出側に移動する、いわゆる行きトラバースにおいて、バーナBAよりも排出側において、原料ガスに由来するスートが堆積して、堆積したスートがバーナBAの移動により加熱されて焼結する。こうして、ドーパントとしてゲルマニウム及びリンが添加された外側コアガラス体11Poとなるガラス層11Loがガラス管12Tの内周面上に積層される。なお、本工程におけるガラス管12Tの外周面の温度は、例えば、1800℃以上2100℃以下とされる。
【0037】
<内側コアガラス体積層工程P2>
図5は、本工程の様子を示す図である。本工程はMCVD法により行われる。本工程においては、外側コアガラス体積層工程P1と異なり、原料ガスは、SiCl、Yb(DPM)、AlCl、BBr、及びPOClである。本工程においては行きトラバースにおいて、バーナBAよりも排出側において、まず原料ガスのうちSiCl、Yb(DPM)、AlClをキャリアガスと共に供給し、これらの原料ガスに由来するスートが堆積する。その後BBrをキャリアガスと共に供給しながらバーナBAが再びトラバースされ、前記スートにボロンが添加される。その後POClをキャリアガスと共に供給しながらバーナBAが再びトラバースされ、前記スートにリンが添加される。その後バーナBAが再びトラバースされることで前記スートがバーナBAの移動により加熱されて焼結し、ドーパントとしてイッテルビウム、アルミニウム、及びリンが添加された内側コアガラス体11Piとなるガラス層11Liがガラス層11Loの内周面上に積層される。なお、内側コアガラス体11Piに添加されるリンの濃度が外側コアガラス体11Poに添加されるリンの濃度より高くなるように、原料ガスが供給されることが好ましい。本工程におけるガラス管12Tの外周面の温度は、イッテルビウムとアルミニウムが添加されたスートを堆積する工程では例えば、1450℃以上1700℃以下、前記スートにボロンを添加させる工程では例えば、1100℃以上1600℃以下、前記スートにリンを添加させる工程では例えば、1100℃以上1600℃以下、焼結工程では例えば、1800℃以上2100℃以下とされる。
【0038】
<コラプス工程P3>
次に、内周面上にガラス層11Lo,11Liが積層されたガラス管12Tを加熱して、ガラス管12Tの貫通孔をコラプスする。こうして、ガラス管12Tは、クラッドガラス体12Pとなり、ガラス層11Loは外側コアガラス体11Poとなり、ガラス層11Liは内側コアガラス体11Piとなり、図3に示す光ファイバ用母材10Pが製造される。
【0039】
(線引工程P4)
次に得られた光ファイバ用母材10Pを線引する。図6は、本工程及び次の被覆工程を示す図である。図6に示すように、本工程では、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、防止炉に設置された光ファイバ用母材10Pを加熱し、光ファイバ用母材10Pの下端を溶融し、光ファイバ用母材10Pを線引する。線引されたガラスは、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、内側コアガラス体11Piが内側コア11iとなり、外側コアガラス体11Poが外側コア11oとなり、クラッドガラス体12Pが内側クラッド12となる。これにより、内側コア11i及び外側コア11oを有するコア11と、内側クラッド12とから構成される光ファイバ裸線10Nが形成される。その後、この光ファイバ裸線10Nは、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。
【0040】
(被覆工程P5)
線引工程P4の後、本工程が行われる。図6に示すように、線引工程P4によって形成された光ファイバ裸線10Nは、外側クラッド13となる第1熱硬化樹脂が入った第1コーティング装置131を通過し、内側クラッド12の外周面がこの第1熱硬化樹脂で被覆される。第1熱硬化樹脂で被覆された光ファイバは、第1加熱炉132に入り、第1加熱炉132内で加熱される。この加熱により、第1熱硬化樹脂が硬化し、内側クラッド12の外周面上に外側クラッド13が形成される。
【0041】
外側クラッド13で覆われた光ファイバは、第1熱硬化樹脂とは異なる材料からなる第2熱硬化樹脂が入った第2コーティング装置133を通過し、外側クラッド13の外周面が第2熱硬化樹脂で被覆される。第2熱硬化樹脂で被覆された光ファイバは、第2加熱炉134に入り、第2加熱炉134内で加熱される。この加熱により、第2熱硬化樹脂が硬化し、外側クラッド13の外周面に被覆層14が形成される。
【0042】
こうして、光ファイバ用母材10Pを線引することで図1に示される光ファイバ10が製造される。製造された光ファイバ10は、ターンプーリー141により方向が変換され、リール142により巻取られる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ10は、希土類元素が添加された内側コア11iと、内側コア11iの外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コア11oと、外側コア11oの外周面を隙間なく囲むクラッドである内側クラッド12と、を含む。
【0044】
内側コア11iに希土類元素が添加され外側コア11oに希土類元素が非添加であることで、高次モードの光が伝搬するプロファイルを有する場合であっても、コア11全体に希土類元素が添加される光ファイバと比べて、コア11の中心に最も大きな強度を有し他に強度のピークを有さない基本モードの光を主に増幅し得る。従って、本実施形態の光ファイバ10は、実効断面積の大きく高次モードの光が伝搬する場合であっても基本モードの光を主に増幅し得、ビーム品質の劣化を抑制し得る。なお、実効断面積の大きな光が伝搬する場合には、誘導ラマン散乱を抑制することができる。
【0045】
また、ゲルマニウムおよびリンが添加されたガラス体の焼結温度は、ゲルマニウムが添加されリンが非添加のガラス体の焼結温度と比べて低い。従って、本実施形態の光ファイバ10の製造では、MCVD法により内側クラッド12となるガラス管12Tの内周面に外側コア11oとなるガラス層11Loを積層する際、ゲルマニウムが添加されリンが非添加のガラス層を積層する場合と比べて、低温でガラス層を積層し得る。従って、ゲルマニウムが添加されリンが非添加の外側コアを有する光ファイバを製造する場合と比べて、外側コア11oとなるガラス層11Loを積層する際のガラス管12Tの温度を下げ得、熱によるガラス管12Tの縮径を抑制することができる。従って、ガラス管12Tの直径のばらつきを抑えることができ、外側コア11oや内側コア11iとなるガラス層11Lo,11Liに添加される添加物の濃度のばらつきを抑制することができる。このため、本実施形態の光ファイバ10によれば、特性のばらつきが抑制され得る。
【0046】
また、本実施形態の光ファイバ用母材10Pは、希土類元素が添加された内側コアガラス体11Piと、内側コアガラス体11Piの外周面を隙間なく囲み、希土類元素が非添加でゲルマニウム及びリンが添加された外側コアガラス体11Poと、外側コアガラス体11Poの外周面を隙間なく囲むクラッドガラス体12Pと、を含む。
【0047】
このような光ファイバ用母材によれば、上記の光ファイバ10の説明と同様にして、ビーム品質の劣化及び誘導ラマン散乱を抑制し得、特性のばらつきが抑制され得る光ファイバ10を製造し得る。
【0048】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
例えば、上記実施形態では光ファイバ10としてダブルクラッドファイバを例に説明したが、本発明の光ファイバは、シングルクラッドファイバであっても良く、クラッドが3層以上かならなる光ファイバであってもよい。
【0050】
また、例えば、線引工程P4の前に、コアの直径とクラッドの厚みとの比を調整するためにクラッド管を母材の上から被せるジャケット工程を経てもよい。
【0051】
次に、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0052】
(実験例1)
外径が32mm、肉厚が2.5mmの塩素が添加された石英から成るガラス管を準備した。次にSFとOとを石英管内に流しながら、酸水素バーナによってガラス管の外周面の温度が2050℃となるように、酸水素バーナを7トラバースさせて、ガラス管の内周面の清浄化した。
【0053】
次にガラス管の貫通孔内の圧力を50Paに調整しながら、SiCl、GeCl、POClをキャリアガス(O)と共に供給しながら、ガラス管を酸水素バーナで複数回トラバースして加熱して、ガラス管の内周面にゲルマニウム及びリンが添加された図4に示すガラス層11Loと同様のガラス層を複数層積層し、その後コラプスして、光ファイバ用母材を作成した。従って、本例では、図5に示す内側コア11iとなるガラス層は積層していないため、この光ファイバ用母材では内側コアガラス体は存在しない。この光ファイバ用母材におけるガラス層は図1に示す外側コア11oと同様の組成である。なお、本例のガラス層を積層する際、SiCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を600sccmとし、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を95~114sccmの範囲で変化させ、Oを1650sccmとし、POClの発生量が18~50mg/minの範囲となるようにPOClへのキャリアガス(O)を流し、ガラス層を積層した。具体的には、POClの発生量、ガラス管の外周面の温度、積層するガラス層の層数、積層されたガラス層におけるP及びGeOの濃度、及びP/GeOで示されるモル比が下記表1の条件1,2,3の順となるようにガラス層を48層積層して、積層されたガラス層のガラス管に対する比屈折率が0.095~0.167%となるようにした。なお、上記のようにこのガラス管は塩素が添加された石英から成るため、ガラス管が純粋石英である場合には、積層されたガラス層のガラス管に対する比屈折率が0.122~0.194%となる。
【0054】
作成した光ファイバ用母材を細く引き伸ばし加工して、加工された光ファイバ用母材の中心軸からの径方向の距離とドーパントの濃度との関係を測定した。その結果を図7に示す。図7において、中心におけるドーパントの濃度が低いが、これはコラプス時にドーパントが貫通孔内から揮発したことに起因する。
【0055】
また、作成した光ファイバ用母材の中心軸からの径方向の距離と屈折率との関係とを図8に示す。この測定時には、光ファイバ用母材を引伸ばしていない。図8に示すように、ドーパントの濃度の変化に伴い、比屈折率が変化していることが分かる。
【0056】
表1の条件でガラス層を積層することで、図7,8に示すようにドーパントが適切に添加され、所望の比屈折率を有する外側コアガラス体が形成できることが分かった。
【0057】
また、表1の条件でガラス層を積層する際の、ガラス管の外径の変化の様子を測定した。その結果を図9に示す。図9に示すように、ゲルマニウム及びリンが添加されたガラス層を積層する場合、計48層積層後におけるガラス管の外径は約31mmであった。従って、約1mmの縮径に抑えることができることが分かった。
【0058】
(実験例2)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、POClを供給せず、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を157~190sccmとし、ガラス層におけるGeOの濃度が1.32mol%で、ガラス管に対する比屈折率が0.120%となるようにしたこと以外は、実験例1と同様にして、ガラス層を33層積層した。本例では、スートを焼結させるため、ガラス管の外周面の温度が2000℃~2050℃となるように酸水素バーナでガラス管を加熱する必要があった。本例では、ガラス層を33層積層した後のガラス管の外径は約26.4mmであった。従って、約5.6mm縮径したことになる。
【0059】
実験例1,2の結果から、外側コアとなるガラスを積層する際にリンを添加せずゲルマニウムのみを添加する場合には、スートを焼結させるための温度が高いことから、外側コアとなるガラスを積層する際にゲルマニウム及びリンを添加する場合と比べて、縮径が大きくなることが分かった。
【0060】
(実験例3)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、ガラス管の貫通孔内の圧力を85Paに調整し、ガラス層におけるGeOの濃度が1.07mol%で、ガラス管に対する比屈折率が0.100%となるようにしたこと以外は、実験例2と同様にして、ガラス層を30層積層した。本例でも、スートを焼結させるため、ガラス管の外周面の温度が2000℃~2050℃となるように酸水素バーナでガラス管を加熱する必要があった。本例では、ガラス層を30層積層した後のガラス管の外径は約26.6mmであった。従って、約5.4mm縮径したことになる。また、貫通孔内の圧力を85Paとしたことに起因してガラス管が不要に膨れる箇所が生じた。従って、外側コアとなるガラスを積層する際にリンを添加せずゲルマニウムのみを添加する場合には、ガラス管の部分的な膨れを抑えるコントロールが困難であるため、縮径を抑えることが困難であるということが分かった。
【0061】
(実験例4)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、POClを供給せず、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を95sccmとし、原料温度150℃のAlClへのキャリアガス(He)を150sccmとしたこと以外は、実験例1と同様にして、ガラス層を13層積層した。本例では、スートを焼結させるため、ガラス管の外周面の温度が1950℃~1960℃となるように酸水素バーナでガラス管を加熱する必要があった。本例では、ガラス層を13層積層した後のガラス管の外径は約32mmであり、ガラス管の縮径が殆ど生じなかった。しかし、本例では、14層目のガラス層を積層する途中でガラス管が割れた。これは、ゲルマニウムとアルミニウムとが共添加されたガラス層と、ガラス管との熱膨張係数差が大きいことが原因と考えられる。従って、ゲルマニウムと共添加すべきドーパントはアルミニウムよりもリンが好ましいということが分かった。
【0062】
(実験例5)
本例は、図3に示す光ファイバ用母材10Pを製造する例である。実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を83~89sccmとし、POClの発生量が42mg/minとなるようにPOClへのキャリアガス(O)を流し、ガラス層におけるPの濃度が0.70mol%で、GeOの濃度が0.67mol%で、ガラス管に対する比屈折率が0.120%となるようにしたこと以外は、実験例1と同様にして、図3に示す外側コアガラス体11Poとなるガラス層を18層積層した。本例では、スートを焼結させるため、ガラス管の外周面の温度が1950℃となるように酸水素バーナでガラス管を加熱する必要があった。本例では、ガラス層を18層積層した後のガラス管の外径は約31.7mmであり、ガラス管の縮径が殆ど生じなかった。
【0063】
次に、図3に示す内側コアガラス体11Piとなるガラス層を積層した。具体的には、ガラス層を積層する際、ガラス管の貫通孔内の圧力を50Paに調整し、SiCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を600sccmとし、原料温度230℃のYb(DPM)へのキャリアガス(He)を467~502sccm、原料温度150℃のAlClへのキャリアガス(He)を134~137sccmとし、原料温度20℃のBBrへのキャリアガス(Ar)を53sccmとし、POClの発生量が143mg/minとなるようにPOClへのキャリアガス(O)を流し、Oを1650~3500sccmで流し、Heを20~100sccmで流しながらスートの堆積、元素添加と焼結を繰り返し、積層した。このガラス層を積層する際、まずSiCl、Yb(DPM)、AlClのキャリアガスを流しながらガラス管の外周面の温度が1630℃~1650℃となるようトラバースし、続いてBBr3のキャリアガスを流しながらガラス管の外周面の温度が1200℃となるようトラバースし、続いてPOClのキャリアガスを流しながらガラス管の外周面の温度が1200℃となるようトラバースし、最後に石英管の外周面の温度が2050℃となるように酸水素バーナをトラバースさせた。これを繰り返すことで、ガラス層を10層積層した。その後、酸水素バーナの火力をさらに上げてコラプスして、光ファイバ用母材10Pを製造した。
【0064】
この光ファイバ用母材10Pの内側コアガラス体11Piの直径3.48mmであり、外側コアガラス体11Poの外径は5.99mmであり、光ファイバ用母材10Pの直径、すなわちクラッドガラス体12Pの外径は17.19mmであった。また、内側コアガラス体におけるYbの濃度が0.29mol%であり、Pの濃度が4.49mol%であり、Alの濃度が5.00mol%であった。
【0065】
(実験例6)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、実験例2におけるガラス層の積層と同様にして外側コアとなるガラス層を18層積層した。次に実験例5の内側コアとなるガラス層の積層と同様にして、内側コアとなるガラス層を積層した。その後、酸水素バーナの火力をさらに上げてコラプスして、光ファイバ用母材を製造した。この光ファイバ用母材の内側コアガラス体の直径3.40mmであり、外側コアガラス体の外径は5.88mmであり、光ファイバ用母材の直径は16.52mmであった。
【0066】
実験例6で製造した光ファイバ用母材の直径は、実験例5で製造した光ファイバ用母材の直径よりも小さい結果となった。従って、外側コアにリンが含まれる場合、外側コアにリンが含まれない場合と比べて、製造される光ファイバ用母材の直径が大きくできることが分かった。これは、本例の場合、外側コアとなるガラス層を積層する際に実験例1や実験例5と比べてガラス管が縮径するため、後に積層されるガラス層ほど、本例で積層されるガラス層は実験例1や実験例5で積層されるガラス層よりも1層当たりのガラスの総量が少なくなるためと考えられる。
【0067】
(実験例7)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を164~198sccmとし、ガラス層におけるGeOの濃度が1.19mol%で、ガラス管に対する比屈折率が0.107%となるようにしたこと以外は、実験例2と同様にして、ガラス層を21層積層した。本例でも、スートを焼結させるため、ガラス管の外周面の温度が2000℃~2050℃となるように酸水素バーナでガラス管を加熱する必要があった。本例では、ガラス層を21層積層した後のガラス管の外径は約28.3mmであり、実験例5で外側コアガラス体11Poとなるガラス層を18層積層した後のガラス管よりも、ガラス管が縮径していた。
【0068】
次に、原料温度220℃のYb(DPM)へのキャリアガス(He)を259sccm、原料温度150℃のAlClへのキャリアガス(He)を100sccmとし、POClの発生量が59mg/minの範囲となるようにPOClへのキャリアガス(O)を流し、Heを100sccmで流したこと、またBBr3を使用しなかったこと以外は、実験例5と同様にしてガラス層を5層積層した。このときガラス管の外周面の温度は実験例5と同様とした。その後、酸水素バーナの火力をさらに上げてコラプスして、光ファイバ用母材を製造した。この条件で製造した光ファイバ用母材の内側コアガラス体におけるYbの濃度が0.21mol%であり、Pの濃度が3.10mol%であり、Alの濃度が3.22mol%であった。
【0069】
(実験例8)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を153~198sccmとし、ガラス層におけるGeOの濃度が1.17mol%となるようにしたこと以外は、実験例7と同様にして、外側コアガラス体となるガラス層を28層積層した。このときガラス管の外周面の温度は実験例7と同様とした。
【0070】
次に、原料温度150℃のAlClへのキャリアガス(He)を120sccmにしたこと以外は、実験例7と同様にしてガラス層を5層積層した。このときガラス管の外周面の温度は実験例5と同様とした。その後、酸水素バーナの火力をさらに上げてコラプスして、光ファイバ用母材を製造した。この条件で製造した光ファイバ用母材の内側コアガラス体におけるYbの濃度が0.16mol%であり、Pの濃度が2.29mol%であり、Alの濃度が2.82mol%であった。
【0071】
実験例8の内側コアガラス体におけるYbの濃度は、実験例7の内側コアガラス体におけるYbの濃度よりも低い結果となった。AlClへのキャリアガスの流量の変化は、この結果に殆ど影響しないと考えられ、外側コアガラス体となるガラス層の層数が、実験例8では実験例7よりも多いことが、この結果の原因と考えられる。具体的には、内側コアガラス体となるガラス層と積層する際における、ガラス管の外周面から積層されるガラス層までの距離は、実験例8の方が実験例7よりも大きいため、積層されるガラス層に伝わる温度が低いことが原因と考えられる。従って、外側コアガラス体となるガラス層を積層する際にガラス管が縮径して、ガラス管の肉厚が大きくなると、内側コアガラス体となるガラス層を積層する際に積層されるガラス層に伝わる温度が低くなり、当該ガラス層に添加されるYbの濃度が低くなる傾向があると予想される。
【0072】
(実験例9)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を6本準備して、それぞれのガラス管に対して、実験例1と同様に清浄化し、実験例5の外側コアガラス体となるガラス層の積層と同様にして、ガラス層を18層積層した。従って、このガラス層にはゲルマニウム及びリンが添加される。その後、それぞれのガラス管の外径を測定した。その結果を図10に示す。外径の平均は30.7mmとなり、外径の標準偏差は0.18となった。
【0073】
(実験例10)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を6本準備して、それぞれのガラス管に対して、実験例1と同様に清浄化し、実験例3の外側コアガラス体となるガラス層の積層と同様にして、ガラス層を18層積層した。従って、このガラス層にはリンが添加されずゲルマニウムのみ添加される。その後、それぞれのガラス管の外径を測定した。その結果を図10に示す。外径の平均は26.8mmとなり、外径の標準偏差は0.39となった。
【0074】
実験例9,10の結果から、外側コアガラス体となるガラス層にゲルマニウム及びリンが共添加される場合、外側コアガラス体となるガラス層にリンが添加されずゲルマニウムのみが添加される場合と比べて、ガラス管が大きく縮径すると共に、ガラス管の外径にばらつきが生じることが分かった。
【0075】
(実験例11)
実験例1のガラス管と同様のガラス管を実験例1と同様に清浄化し、GeCl(液温24℃)へのキャリアガス(O)を75~84sccmとし、POClの発生量が45mg/minの範囲となるようにPOClへのキャリアガス(O)を流し、積層されたガラス層におけるPの濃度が0.73mol%で、GeOの濃度が0.60mol%で、ガラス管に対する比屈折率が0.120%となるように調整したこと以外は、実験例1と同様にして、ガラス層を23層積層した。このガラス層におけるP/GeOで示されるモル比は1.21である。その後、水素バーナの火力をさらに上げてコラプスして、光ファイバ用母材を製造した。本例では、実験例1の条件2,3よりもガラス層に添加されるPの濃度を高くしたため、ガラス層を積層する際のガラス管の外周面の温度を実験例1の条件2,3におけるガラス管の外周面の温度以下にすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、光の実効断面積が大きい場合であってもビーム品質の劣化を抑制し得ると共に特性のばらつきが抑制され得る光ファイバ、及びそれに用いる光ファイバ用母材が提供され、例えばファイバレーザなどの分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
10・・・光ファイバ
10N・・・光ファイバ裸線
10P・・・光ファイバ用母材
11・・・コア
11i・・・内側コア
11о・・・外側コア
11Pi・・・内側コアガラス体
11Po・・・外側コアガラス体
12・・・内側クラッド
12P・・・クラッドガラス体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10