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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127318
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】下糸巻回装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 59/00 20060101AFI20220824BHJP
   D05B 57/12 20060101ALI20220824BHJP
   D05B 57/26 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
D05B59/00 Z
D05B57/12
D05B57/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025394
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グエン ソン バン
(72)【発明者】
【氏名】ホ ゴック カイン
(72)【発明者】
【氏名】ホアン ミン ニャット
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA02
3B150CD06
3B150CD07
3B150CE02
3B150CE24
3B150CE27
3B150DG02
3B150DG14
3B150DG16
3B150FC00
3B150FE00
3B150FJ00
3B150FK01
3B150FK06
(57)【要約】
【課題】ボビンケースの角部へ下糸を自動で挿通することが可能な下糸巻回装置を提供する。
【解決手段】制御部500が、巻回機構101によるボビン30への下糸Sの巻回後に、係合機構102の糸掛け回動板120を回動させてボビンケース10から引き出された下糸Sに係合溝部131を係合させるとともに、ボビンケース把持機構200によってボビンケース10を移動させることにより、角部20の挿通路22に下糸Sを入り込ませて糸挿通孔21へ挿通させる。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンに下糸を自動で巻回する下糸巻回装置であって、
周壁部の端部から切り込まれたスリットと、前記周壁部に設けられるとともに前記スリットに連通する糸繰り出し穴と、前記周壁部の周囲に沿って湾曲するとともに前記糸繰り出し穴を塞ぐように周壁部に取り付けられた糸調子バネとを備えたボビンケースと、
下糸が巻回されるとともに前記ボビンケースに収容されるボビンと、
前記ボビンケース内の前記ボビンへ下糸を送り込むとともにボビンケースに対して近接及び離間移動が可能な供給機構と、
前記ボビンを回転させて前記下糸を巻回させる巻回機構と、
前記ボビンケースを把持するとともに、前記ボビンケースを把持した状態で前記ボビンの回転軸に沿って移動させるボビンケース把持機構と、
前記ボビンケースの周囲に回動可能に設けられて前記ボビンケースから引き出された前記下糸に係合可能な係合溝部を有する糸掛け回動板を備えた係合機構と、
ボビンケースに対して近接及び離間移動が可能で、接近した際には保持溝部によってボビンケースから引き出された前記下糸の移動を規制する糸保持板と、
前記供給機構、前記巻回機構、前記ボビンケース把持機構、前記係合機構及び前記糸保持板のそれぞれの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記巻回機構による前記ボビンへの前記下糸の巻回後に、前記ボビンから引き出された下糸を、前記ボビンケースの前記スリットから前記糸繰り出し穴に導くとともに、前記周壁部と前記糸調子バネとの間に前記下糸を挟んだ状態で前記ボビンケースの外側へ引き出した状態にすることが可能な下糸巻回装置において、
前記ボビンケースは、下糸を挿通させる糸挿通孔と、前記糸挿通孔に連通する挿通路とを有する角部を備え、
前記制御部は、
前記供給機構をボビンケースに対して離間移動して前記ボビンケースの外側へ引き出されて前記供給機構へ連なる前記下糸を張った状態にするとともに、前記糸掛け回動板を回動させて前記係合溝部を前記下糸に係合させるとともに、前記ボビンケース把持機構によって前記ボビンケースを移動させることにより、
前記角部の前記挿通路に前記下糸を入り込ませて前記糸挿通孔へ挿通させる、
ことを特徴とする下糸巻回装置。
【請求項2】
前記下糸を保持可能な保持溝部を有する糸保持板が揺動可能に設けられた保持機構を備え、
前記制御部は、
前記係合機構の前記糸掛け回動板の前記係合溝部によって前記下糸を係合させる際に、
前記糸保持板を揺動させ、前記係合溝部と反対側から前記保持溝部に前記下糸を保持させるように前記保持機構の駆動を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の下糸巻回装置。
【請求項3】
前記ボビンケースは半回転釜式ミシン用であることを特徴とする請求項1または2に記載の下糸巻回装置。
【請求項4】
前記角部には、先端を丸めるように折り返して根元部分に突き合わせることにより前記糸挿通孔が形成され、前記根元部分と折り返し部分との当接箇所に前記挿通路が設けられている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の下糸巻回装置。
【請求項5】
前記ボビンケースは、互いに入り込んだ凹部と凸部との隙間からなる前記挿通路を有する前記角部を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の下糸巻回装置。
【請求項6】
前記ボビンケースは、揺動可能な可動レバーを備え、前記可動レバーが揺動されることにより前記挿通路が開閉される角部を有する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の下糸巻回装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンに下糸を巻回する下糸巻回装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上糸と下糸とを使用して縫製を行うミシン等において、残糸除去作業、下糸巻回作業、糸掛け作業、糸切り作業及びボビンケース交換作業を自動的に行うことを可能とした下糸自動供給装置を備えたものがある。この下糸自動供給装置は、下糸供給源からの下糸をボビンケースの開口部から挿入し、ボビンを回転駆動させることによってボビンケース内のボビンに下糸を巻回する下糸巻回装置を備えている(例えば、特許文献1参照)。この下糸巻回装置は、ボビンを収容した釜を一方向へ回転させる全回転釜式ミシンの下糸自動供給装置に取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-56949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ボビンを収容した釜を揺動させる半回転釜式ミシンでは、角部を有するボビンケースが用いられ、このボビンケースから引き出された下糸が角部の先端の糸挿通孔に通されて供給される。
【0005】
上記の全回転釜式ミシンの下糸自動供給装置に適用される下糸巻回装置は、ボビンケースから引き出した下糸を角部の糸挿通孔に通すことが困難であった。このため、角部を有するボビンケースを用いる半回転釜式ミシンでは、手作業によってボビンへ下糸を巻回しなければならず、手間を要していた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ボビンケースの角部へ下糸を自動で挿通することが可能な下糸巻回装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の下糸巻回装置は、
内部に収容されたボビンから引き出した下糸を挿通させる糸挿通孔と、前記糸挿通孔に連通する挿通路と、を有する角部を備えた半回転釜式ミシン用のボビンケースに対して、前記ボビンに前記下糸を巻回する下糸巻回装置であって、
前記ボビンへ下糸を送り込む供給機構と、
前記ボビンを回転させて前記下糸を巻回させる巻回機構と、
前記ボビンケースを把持するとともに、前記ボビンケースを把持した状態で前記ボビンの回転軸に沿って移動させるボビンケース把持機構と、
前記ボビンケースの周囲に回動可能に設けられて前記ボビンケースから引き出された前記下糸に係合可能な係合溝部を有する糸掛け回動板を備えた係合機構と、
前記供給機構、前記巻回機構、前記ボビンケース把持機構及び前記係合機構のそれぞれの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記巻回機構による前記ボビンへの前記下糸の巻回後に、
前記係合機構の前記糸掛け回動板を回動させて前記ボビンケースから引き出された前記下糸に前記係合溝部を係合させるとともに、前記ボビンケース把持機構によって前記ボビンケースを移動させることにより、
前記角部の前記挿通路に前記下糸を入り込ませて前記糸挿通孔へ挿通させる。
【0008】
この構成の下糸巻回装置によれば、半回転釜式ミシン用のボビンへ下糸を巻回させ、その後、この下糸をボビンケースの角部の糸挿通孔へ通すことができる。これにより、角部を有するボビンケースが用いられる半回転釜式ミシンにおいて、そのボビンに下糸を自動で巻回する下糸巻回装置として好適に用いることができる。
【0009】
本発明の下糸巻回装置において、
前記下糸を保持可能な保持溝部を有する糸保持板が揺動可能に設けられた保持機構を備え、
前記制御部は、
前記係合機構の前記糸掛け回動板の前記係合溝部によって前記下糸を係合させる際に、
前記糸保持板を揺動させ、前記係合溝部と反対側から前記保持溝部に前記下糸を保持させるように前記保持機構の駆動を制御してもよい。
【0010】
この構成の下糸巻回装置によれば、係合機構の糸掛け回動板の係合溝部に係合させる下糸を糸保持板の保持溝部で反対側から保持させることにより、より円滑に挿通路を通して角部の糸挿通孔へ下糸を導くことができる。
【0011】
本発明の下糸巻回装置において、前記角部には、先端を丸めるように折り返して根元部分に突き合わせることにより前記糸挿通孔が形成され、前記根元部分と折り返し部分との当接箇所に前記挿通路が設けられていてもよい。
【0012】
この構成の下糸巻回装置によれば、糸掛け回動板の係合溝部に下糸を係止させるとともにボビンケースを移動させると、角部の先端の折り返し部分と根元部分との当接箇所の挿通路に下糸が食い込まされる。すると、角部の折り返し部分が弾性変形して挿通路が広げられ、下糸が通過可能となる。これにより、角部の挿通路を通して下糸を糸挿通孔へ容易に導くことができる。また、下糸が挿通路を通過して糸挿通孔へ通された後は、弾性変形していた角部の折り返し部分が戻って挿通路が狭まるので、糸挿通孔に通した下糸の挿通路からの外れを抑えることができる。
【0013】
本発明の下糸巻回装置において、前記ボビンケースは、互いに入り込んだ凹部と凸部との隙間からなる前記挿通路を有する前記角部を備えてもよい。
【0014】
この構成の下糸巻回装置によれば、糸掛け回動板の係合溝部に下糸を係止させるとともにボビンケースを移動させると、凹部と凸部との隙間からなる挿通路を通して下糸を糸挿通孔へ容易に導くことができる。また、挿通路が互いに入り込んだ凹部と凸部との隙間からなるので、糸挿通孔に通した下糸の挿通路からの外れを抑えることができる。
【0015】
本発明の下糸巻回装置において、前記ボビンケースは、揺動可能な可動レバーを備え、前記可動レバーが揺動されることにより前記挿通路が開閉される角部を有していてもよい。
【0016】
この構成の下糸巻回装置によれば、糸掛け回動板の係合溝部に下糸を係止させるとともにボビンケースを移動させると、可動レバーが揺動することにより開かれる挿通路を通して下糸を糸挿通孔へ容易に導くことができる。また、可動レバーが逆方向に揺動されて挿通路が閉じられることにより、糸挿通孔に通した下糸の挿通路からの外れを抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ボビンケースの角部へ下糸を自動で挿通することが可能な下糸巻回装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ボビンケースを示す斜視図及び角部の拡大図である。
図2】ボビンケース及びボビンを示す斜視図である。
図3】本実施形態に係る下糸巻回装置の斜視図である。
図4】下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図5】糸巻き部を構成する係合機構に設けられた糸掛け回動板を示す図であって、(a)及び(b)は、それぞれ異なる方向から視た斜視図である。
図6】糸巻き工程を説明する下糸巻回装置の斜視図である。
図7】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の斜視図である。
図8】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の斜視図である。
図9】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図10】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の斜視図である。
図11】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の下方から視た斜視図である。
図12】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の下方から視た斜視図である。
図13】バネ掛け工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図14】糸通し工程を説明する下糸巻回装置の斜視図である。
図15】糸通し工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図16】糸通し工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図17】糸通し工程を説明する下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。
図18】変形例1に係る角部の斜視図である。
図19】変形例1に係る角部を説明する図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図20】変形例2に係る角部の斜視図である。
図21】変形例2に係る角部を説明する図であって、(a)は挿通路が閉じた状態の側面図、(b)は挿通路が開いた状態の側面図である。
図22】ボビンケースの他の例を示す斜視図、角部の拡大図、及び角部の先端部の断面図である。
図23】ボビンケースのさらに他の例を示す斜視図、角部の拡大図、及び角部の先端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る下糸巻回装置によって下糸が巻回されるボビン及びボビンケースについて説明する。
図1は、ボビンケースを示す斜視図及び角部の拡大図である。図2は、ボビンケース及びボビンを示す斜視図である。
【0021】
図1及び図2に示すように、ボビンケース10は、前面部11と、周壁部12とを有しており、内部にボビン30が収容される。このボビンケース10は、釜を揺動させる半回転釜式ミシンに用いられるボビンケースであり、先端に下糸Sを掛ける角部20を有している。
【0022】
ボビンケース10は、例えば、金属から形成されている。このボビンケース10は、周壁部12が筒状に形成されており、この周壁部12の一端側が前面部11によって閉塞され、前面部11の反対側が開放された凹状に形成されている。このボビンケース10には、その前面部11と反対側からボビン20が収容可能とされている。
【0023】
ボビンケース10に収容されるボビン30は、ミシンの釜の支軸が挿入される円筒部31と、この円筒部31の両端に設けられた外径の等しいフランジ部32とを有しており、フランジ部32の間における円筒部31の外周に下糸Sが巻回される。また、フランジ部32には、中心軸を挟んだ反対位置の二か所にクラッチ孔33が形成されている。
【0024】
ボビンケース10の周壁部12は、糸繰り出し穴15を有している。この糸繰り出し穴15は、周壁部12の縁部から切り込まれたスリット16につながっている。そして、ボビン20をボビンケース10の内側に格納した状態で、ボビン30から引き出された下糸Sは、スリット16から糸繰り出し穴15に導かれる。また、ボビンケース10の周壁部12には、その縁部から切り込まれて糸繰り出し穴15の近傍に達する開口部17が形成されている。
【0025】
ボビンケース10には、その周壁部12に、糸調子バネ18が取り付けられている。この糸調子バネ18は、周壁部12の周面に沿って湾曲しており、糸繰り出し穴15を外側から塞ぐように周壁部12に取り付けられている。これにより、糸繰り出し穴15から繰り出される下糸Sは、周壁部12と糸調子バネ18との間に挟まれ、その挟持圧によって生じる摺動抵抗により糸張力が付与される。
【0026】
糸調子バネ18には、周壁部12に形成されたネジ穴に螺入された調節ネジ19が設けられている。そして、この調節ネジ19のねじ込み量を調節することにより、周壁部12と糸調子バネ18との隙間が調節され、挟持圧が変えられるようになっている。
【0027】
ボビンケース10に設けられた角部20は、棒状に形成されて径方向外方へ延在されており、その先端が周壁部12からの下糸Sの引き出し位置に対向した位置に配置されている。角部20の先端には、糸挿通孔21が形成されており、この糸挿通孔21に、周壁部12から引き出された下糸Sが挿通可能とされている。この糸挿通孔21は、角部20の先端を丸めるように折り返して根元部分に突き合わせることにより円形状に形成されている。この角部20は、根元部分と折り返し部分の端部との当接箇所が挿通路22とされている。この挿通路22は、糸挿通孔21の外側から下糸Sを食い込ませることにより弾性変形して広がり、下糸Sが通過可能とされる。そして、この挿通路22を通過させることにより、下糸Sが糸挿通孔21に挿通させることができるようになっている。
【0028】
次に、上記の半回転釜式ミシン用のボビンケース10に収容されたボビン30へ下糸Sを巻回させる下糸巻回装置について説明する。
図3は、本実施形態に係る下糸巻回装置の斜視図である。図4は、下糸巻回装置の糸巻き部の斜視図である。図5は、糸巻き部を構成する係合機構に設けられた糸掛け回動板を示す図であって、(a)及び(b)は、それぞれ異なる方向から視た斜視図である。
【0029】
図3に示すように、本実施形態に係る下糸巻回装置1は、糸巻き部100を有している。この糸巻き部100は、巻回機構101と、係合機構102とを有している。また、下糸巻回装置1は、ボビンケース把持機構200と、保持機構300と、供給機構400と、を備えている。これらの糸巻き部100、ボビンケース把持機構200、保持機構300及び供給機構400は、ベース板40に組付けられている。また、下糸巻回装置1は、制御部500を備えている。この制御部500は、巻回機構101、係合機構102、ボビンケース把持機構200、保持機構300及び供給機構400の駆動を制御する。
【0030】
図3及び図4に示すように、糸巻き部100の巻回機構101は、巻取り軸110を有している。この巻取り軸110には、その先端にクラッチ板111が設けられており、このクラッチ板111には、ボビン30の円筒部31に係合可能な係合突起112と、フランジ部32のクラッチ孔33に係合可能なクラッチ突起113とが設けられている。これにより、クラッチ板111は、その係合突起112及びクラッチ突起113がボビン30の円筒部31及びクラッチ孔33に係合することによりボビン30に係合する。
【0031】
巻取り軸110は、その後端に、ベルト115が掛けられたプーリ116を有している。ベルト115は、ボビン回動モータ117の駆動プーリ118に掛けられており、ボビン回動モータ117の回動力を駆動プーリ118からプーリ116へ伝達する。これにより、巻取り軸110は、ボビン回動モータ117によって回動されるようになっている。
【0032】
糸巻き部100の係合機構102は、糸掛け回動板120を有している。この糸掛け回動板120は、円弧状に湾曲した板体からなるもので、その後端がプーリ121に固定されている。プーリ121は、巻取り軸110と同軸を中心に回動可能とされており、このプーリ121には、ベルト122が掛けられている。ベルト122は、糸掛け回動モータ123の駆動プーリ124に掛けられており、糸掛け回動モータ123の回動力を駆動プーリ124からプーリ121へ伝達する。これにより、糸掛け回動板120は、糸掛け回動モータ123によって、巻取り軸110の外周に沿って回動されるようになっている。
【0033】
図5の(a)及び(b)に示すように、糸掛け回動板120は、一側部に、係合溝部131と、糸掛け溝部132とを有している。また、糸掛け回動板120は、他側部に、糸掛けV溝133と、動メス部134とを有している。
【0034】
図4に示すように、糸巻き部100は、固定メス部135を有している。この固定メス部135は、回動する糸掛け回動板120の動メス部134が接することにより、動メス部134と固定メス部135との間に通された下糸Sを切断する。
【0035】
図3に示すように、ボビンケース把持機構200は、ボビンケース10を把持するチャック210を有している。このチャック210は、例えば、エアーの供給によって駆動するシリンダ211によって開閉し、ボビンケース10の把持及把持の解除を行う。このチャック210は、ロッド212に支持されたアーム部213に設けられている。ロッド212は、ベース板40に支持されており、アーム部213は、ロッド212の長手方向に移動可能とされている。これにより、アーム部213に設けられたチャック210は、糸巻き部100に対して近接及び離間方向へ移動可能とされている。アーム部213は、連結部材215を介して従動プーリ216と駆動プーリ217とに掛けられたベルト218に連結されている。駆動プーリ217は、チャック移動モータ219の駆動軸に設けられている。これにより、チャック210は、チャック移動モータ219が駆動してベルト218が移動することにより、糸巻き部100に対して近接及び離間方向へ移動される。
【0036】
保持機構300は、糸巻き部100の下方に設けられている。この保持機構300は、糸保持アーム310を有している。この糸保持アーム310は、板体からなるもので、上端に保持溝部311が形成されている。糸保持アーム310は、その下端が、ベース板40に固定されたフレーム312に回動可能に連結されている。また、この糸保持アーム310は、その中間部が、ベース板40に固定されたソレノイド313に連結されている。そして、糸保持アーム310は、ソレノイド313が駆動して中間部がベース板40に対して近接及び離間する方向へ移動されることにより、フレーム312との連結箇所を中心に回動される。これにより、糸保持アーム310は、その保持溝部311が、ボビンケース10から離れた退避位置と、ボビンケース10に近接した糸保持位置との間で移動される。
【0037】
供給機構400は、糸供給ノズル410を有しており、この糸供給ノズル410は、その後端が糸供給ブロック411に接続されている。糸供給ブロック411は、ベース板40に回動可能に支持されたプーリ412に固定されており、このプーリ412には、ベルト413が掛けられている。ベルト413は、ノズル回動モータ414の駆動プーリ415に掛けられており、ノズル回動モータ413の回動力を駆動プーリ415からプーリ412へ伝達する。これにより、糸供給ノズル410が固定された糸供給ブロック411は、ノズル回動モータ414によって回動されるようになっている。これにより、糸供給ノズル410は、その先端が、ボビンケース10から離れた退避位置と、ボビンケース10に近接した糸供給位置との間で移動される。
【0038】
糸供給ブロック411には、糸供給ノズル410に連通するエアー供給路417が形成されている。また、糸供給ブロック411には、糸供給路418が形成されており、この糸供給路418は、糸供給ブロック411内でエアー供給路417に連通されている。エアー供給路417には、コンプレッサ等のエアー供給源(図示略)からエアーが供給され、糸供給路418には、下糸Sが供給される。
【0039】
供給機構400では、糸供給路417に供給される下糸Sは、エアー供給路417に供給されるエアーによって糸供給ノズル410へ送り込まれ、この糸供給ノズル410の先端から送り出される。そして、糸供給ノズル410の先端がボビンケース10に近接した糸供給位置に配置された状態で下糸Sが糸供給ノズル410の先端から送り出されることにより、糸巻き部100に装着されたボビン30に下糸Sが巻き取られる。
【0040】
次に、上記構成の下糸巻回装置1における制御部500によるボビン30への下糸Sの巻回動作の制御について説明する。
図6図17は、ボビン30への下糸Sの巻回動作を示す工程図である。なお、各図において、奥側を矢印A、手前側を矢印B、時計回りを矢印R1、半時計回りを矢印R2で示す。
【0041】
(糸巻き工程)
図6に示すように、ボビンケース10を把持したボビンケース把持機構200のチャック210を、糸巻き部100に対して近接方向である奥側(矢印A方向)へ移動させ、ボビンケース10内のボビン30を巻回機構101のクラッチ板111に係合させる。また、供給機構400の糸供給ブロック411を反時計回り(矢印R2方向)へ回動させて糸供給ノズル410の先端をボビンケース10に近接した糸供給位置に配置させる。
【0042】
この状態において、糸供給ノズル410の先端から下糸Sを送り出しながら巻回機構101の巻取り軸110を巻回方向である時計回り(矢印R1方向)へ回転させる。すると、ボビンケース10の開口部17を通してボビン30に下糸Sが送り込まれ、ボビン30の円筒部31に下糸Sが巻回される。ボビン30へ設定された長さの下糸Sの巻回が完了したら、巻取り軸110の回転を停止させて巻取りを終了させる。
【0043】
(バネ掛け工程)
図7に示すように、供給機構400の糸供給ブロック411を時計回り(矢印R1方向)へ回動させることにより、糸供給ノズル410の先端を退避位置に移動させる。すると、ボビン30と糸供給ノズル410の先端との間の下糸Sが張られる。また、係合機構102の糸掛け回動板120を時計回り(矢印R1方向)に回動させ、この糸掛け回動板120の糸掛けV溝133に下糸Sを係止させて持ち上げる。これにより、保持機構300の上方から下糸Sを退避させる。
【0044】
図8に示すように、保持機構300のソレノイド313を引き込めることにより、糸保持アーム310を揺動させ、この糸保持アーム310の保持溝部311をボビンケース10に近接した糸保持位置に配置させる。さらに、ボビンケース把持機構200のチャック210を奥側(矢印A方向)へ移動させる。また、図9に示すように、係合機構102の糸掛け回動板120を反時計回り(矢印R2方向)に回動させると、下糸Sは糸掛けV溝133から外れるとともに糸保持アーム310の保持溝部311内に保持される。さらに、糸掛け回動板120を反時計回り(矢印R2方向)に回転させると、ボビンケース10から引き出された下糸Sが、糸掛け回動板120の糸掛け溝部132に係止される。図10は、下糸Sが糸掛け溝部132に係止されたまま、糸掛け回動板120を反時計回り(矢印R2方向)に約1回転させた状態を示している。
【0045】
図11に示すように、ボビンケース把持機構200のチャック210を手前側(矢印B方向)へ移動させる。これにより、糸掛け溝部132に係止された状態でボビンケース10から引き出されている下糸Sをボビンケース10のスリット16へ導き、このスリット16に下糸Sを掛ける。
【0046】
この状態において、図12に示すように、ボビンケース把持機構200のチャック210を奥側(矢印A方向)へ移動させた後に、係合機構102の糸掛け回動板120を時計回り(矢印R1方向)へ回動させる。すると、下糸Sが、糸掛け回動板120の糸掛け溝部132から外れた状態となる。また、下糸Sはスリット16の傾斜に沿って移動するように規制された状態となる。
【0047】
この状態において、糸掛け回動板120をさらに時計回り(矢印R1方向)へ回動させると、図13に示すように、下糸Sは、時計回り(矢印R1方向)へ回動されている糸掛け回動板120の糸掛けV溝133に係止されて持ち上げられ、スリット16の傾斜に沿って移動してボビンケース10の周壁部12と糸調子バネ18との間に入り込む。そして、下糸Sは、ボビンケース10の糸繰り出し穴15(図2参照)へ導かれ、ボビンケース10の周壁部12と糸調子バネ18との間を通って開口部17の近傍から引き出された状態となる。
【0048】
(糸通し工程)
図14に示すように、係合機構102の糸掛け回動板120を反時計回り(矢印R2方向)へ回動させて糸掛けV溝133から下糸Sを外すとともに、糸供給ブロック411を時計回り(矢印R1方向)へ回動させて糸供給ノズル410の先端を糸巻き部100から引き離すことにより、下糸Sを張った状態にする。これにより、図15に示すように、ボビンケース10から引き出された下糸Sを角部20の上に掛け、糸保持アーム310の保持溝部311に掛ける。
【0049】
図16に示すように、係合機構102の糸掛け回動板120をさらに反時計回り(矢印R2方向)へ回動させることにより、下糸Sに対して、糸掛け回動板120の係合溝部131を上方から係合させる。すると、下糸Sは、ボビンケース10の角部20に係止されるとともに、係合溝部131の一方の壁部131aに係止されて手前側(矢印B方向)への移動が規制された状態となる。
【0050】
この状態において、図17に示すように、ボビンケース把持機構200のチャック210を手前側(矢印B方向)へ移動させる。すると、手前側(矢印B方向)への移動が規制された下糸Sに対してボビンケース10が手前側(矢印B方向)へ移動することにより、角部20に係止されていた下糸Sが、角部20の挿通路22に食い込み、その後、この挿通路22を通過して糸挿通孔21へ通される。
【0051】
その後、係合機構102の糸掛け回動板120が時計回りに回動される。すると、角部20の糸挿通孔21から引き出されている下糸Sが糸掛け回動板120の糸掛けV溝133に掛けられ、さらに、糸掛け回動板120は時計回りに回動を続けて、動メス134と固定メス部135とで下糸Sが切断される。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態に係る下糸巻回装置1によれば、ボビン30へ下糸Sを巻回させ、その後、この下糸Sをボビンケース10の角部20の糸挿通孔21へ通すことができる。これにより、角部20を有するボビンケース10が用いられる半回転釜式ミシンにおいて、ボビン30に下糸Sを自動で巻回する下糸巻回装置として好適に用いることができる。
【0053】
また、本実施形態に係る下糸巻回装置1は、下糸Sを保持可能な保持溝部311を有する糸保持板310が揺動可能に設けられた保持機構300を備えている。そして、制御部500は、係合機構102の糸掛け回動板120の係合溝部131によって下糸Sを係合させる際に、糸保持板310を揺動させ、係合溝部131と反対側から保持溝部311に下糸Sを保持させるように保持機構300の駆動を制御する。したがって、係合機構102の糸掛け回動板120の係合溝部131に係合させる下糸Sを糸保持板310の保持溝部311で反対側から保持させることにより、より円滑に挿通路22を通して角部20の糸挿通孔21へ下糸Sを導くことができる。
【0054】
また、ボビンケース10の角部20には、先端を丸めるように折り返して根元部分に突き合わせることにより糸挿通孔21が形成され、根元部分と折り返し部分との当接箇所に挿通路22が設けられている。したがって、角部20の先端の折り返し部分と根元部分との当接箇所の挿通路22に下糸Sを食い込ませることにより、角部20の折り返し部分が弾性変形されて挿通路22が広げられ、下糸Sが通過可能となる。これにより、角部20の挿通路22を通して下糸Sを糸挿通孔21へ容易に導くことができる。また、下糸Sが挿通路22を通過して糸挿通孔21へ通された後は、弾性変形していた角部20の折り返し部分が戻って挿通路22が狭まるので、糸挿通孔21に通した下糸Sの挿通路22からの外れを抑えることができる。
【0055】
次に、形状や構造の異なる角部の変形例について説明する。
(変形例1)
図18は、変形例1に係る角部の斜視図である。図19は、変形例1に係る角部を説明する図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【0056】
図18図19の(a)及び(b)に示すように、変形例1に係る角部20Aは、入り組んだ形状の挿通路22Aを有している。具体的には、挿通路22Aは、互いに対向面の間に形成されており、対向面の一方には凹部23が形成され、対向面の他方には凹部23に入り込んだ凸部24が形成されている。そして、これらの凹部23と凸部24との入り組んだ隙間が挿通路22Aとされている。また、凹部23を有する一方の対向面は、その凹部の23の両側壁部分が、凸部24を有する他方の対向面から突出された突出部23aとされている。
【0057】
この変形例1では、糸通し工程において、角部20Aに掛けられて先端側へ引き寄せられる下糸Sが突出部23aに係合し、その後、凹部23と凸部24との隙間からなる入り組んだ挿通路22Aに通されて糸挿通孔21に導かれる。したがって、この変形例1の場合も、糸通し工程によってボビンケース10の角部20Aの糸挿通孔21へ容易に下糸Sを通すことができる。また、挿通路22Aが互いに入り込んだ凹部23と凸部24との隙間からなるので、糸挿通孔21に通した下糸Sの挿通路22Aからの外れを抑えることができる。
【0058】
(変形例2)
図20は、変形例2に係る角部の斜視図である。図21は、変形例2に係る角部を説明する図であって、(a)は挿通路が閉じた状態の側面図、(b)は挿通路が開いた状態の側面図である。
【0059】
図20図21の(a)及び(b)に示すように、変形例2に係る角部20Bは、基端が揺動可能に連結された可動レバー25を有しており、この可動レバー25の円弧状に形成された先端の一部が糸挿通孔21の一部を構成している。また、角部20Bは、バネ26を有しており、可動レバー25は、バネ26によって先端が角部20Bから離れる方向へ付勢されている。
【0060】
この変形例2では、この可動レバー25の先端と角部20B側との互いの対向面同士の間に挿通路22Bが形成される。この挿通路22Bを形成する互いの対向面は、バネ26による可動レバー25の付勢方向に向かって基端の揺動軸側へ傾斜されている。これにより、可動レバー25がバネ26によって付勢されることにより、可動レバー25の先端と角部20B側との互いの対向面同士が当接されて挿通路22Bが閉ざされた状態となる。また、角部20B側の対向面には、円弧状に凹む凹部27が形成され、可動レバー25側の対向面には、円弧状に出っ張る凸部28が形成されており、これらの凹部27と凸部28とが互いに係合可能とされている。
【0061】
この変形例2では、糸通し工程において、下糸Sが角部20Bに掛けられて先端側へ引き寄せられると、この下糸Sの張力によって可動レバー25が押圧されてバネ26の付勢力に抗して揺動される。すると、互いに係合されている凹部27と凸部28とが離間し、可動レバー25の先端と角部20B側との互いの対向面同士の間の挿通路22Bが開かれる(図21の(b)参照)。これにより、下糸Sが挿通路22Bを通過して糸挿通孔21に通され、その後、可動レバー25がバネ26によって戻され、挿通路22Bが閉ざされる(図21の(a)参照)。したがって、この変形例2の場合も、糸通し工程によってボビンケース10の角部20Bの糸挿通孔21へ容易に下糸Sを通すことができる。また、下糸Sの張力によって揺動された可動レバー25が逆方向に揺動されて挿通路22Bが閉じられることにより、糸挿通孔21に通した下糸Sの挿通路22Bからの外れを抑えることができる。
【0062】
図22は、ボビンケースの他の例であるボビンケース10Aを示す斜視図、角部20Cの拡大図、及び角部の先端部の断面図である。本例のボビンケース10Aの角部20Cは、ボビンケース10の角部20などと同様に、先端部がボビンケース10A側に折り曲げられることによって円環状の挿通路22Cが形成されている。また、図22における角部の先端部の断面図に示すように、角部20Cの先端は、角部20Cに設けられた開口部に入り込んでいる。
【0063】
このような角部20Cの形状により、糸通し工程によってボビンケース10Aの角部20Cの挿通路22Cへ容易に下糸を通すことができるとともに、挿通路22Cに通した下糸が挿通路22Cから外れにくい。
【0064】
図23は、ボビンケースのさらに他の例であるボビンケース10Bを示す斜視図、角部20Dの拡大図、及び角部の先端部の断面図である。本例のボビンケース10Bの角部20Dは、ボビンケース10の角部20などと同様に、先端部がボビンケース10B側に折り曲げられることによって円環状の挿通路22Dが形成されている。また、図23における角部の先端部の断面図に示すように、角部20Dの先端は、角部20Dに設けられた溝部に入り込んでいる。
【0065】
このような角部20Dの形状により、糸通し工程によってボビンケース10Bの角部20Dの挿通路22Dへ容易に下糸を通すことができるとともに、挿通路22Dに通した下糸が挿通路22Dから外れにくい。
【0066】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところである。
【符号の説明】
【0067】
1 下糸巻回装置
10,10A,10B ボビンケース
20,20A,20B,20C,20D 角部
21 糸挿通孔
22,22A,22B,22C,22D 挿通路
23 凹部
24 凸部
25 可動レバー
30 ボビン
101 巻回機構
102 係合機構
120 糸掛け回動板
131 係合溝部
200 ボビンケース把持機構
300 保持機構
310 糸保持板
311 保持溝部
400 供給機構
500 制御部
S 下糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図17
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図19
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図21
図22
図23