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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127370
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20220824BHJP
   F16F 9/20 20060101ALI20220824BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220824BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20220824BHJP
   F03C 2/00 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F9/20
F16F15/023 A
E04H9/02 351
F03C2/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025477
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】小竹 祐治
(72)【発明者】
【氏名】木本 政志
【テーマコード(参考)】
2E139
3H084
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA12
2E139BB02
2E139BB36
2E139BB53
2E139BD13
2E139BD35
2E139CC02
3H084AA06
3H084AA23
3H084BB01
3H084BB02
3H084CC31
3H084CC56
3J048AC04
3J048AD06
3J048BF14
3J048EA38
3J069AA50
3J069AA55
3J069EE14
(57)【要約】
【課題】
経時的な使用においても作動油の流量を当初設計通りに維持することが可能であり、減衰性能を適切に発揮することが可能な回転慣性質量ダンパを提供する。
【解決手段】
内部に粘性流体21が充填されたシリンダ20を備えるダンパ本体2と、前記シリンダ20内を一対の圧力室に区画し移動するピストン51と、前記ピストン51に連結された可動ロッド5と、高圧力側の圧力室22から低圧側の圧力室22に前記粘性流体21を移動させる作動流路31と、前記作動流路31に設けられ、回転運動を生成する油圧モータ30と、前記油圧モータ30の回転力が与えられる回転錘60と、前記油圧モータから前記粘性流体を回収するドレン回路と、前記ドレン回路33と連通していると共に、チェック弁32を介して高圧側の作動流路31と低圧側の作動流路31を接続する一対の戻し通路34と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に粘性流体が充填されたシリンダを備えるダンパ本体と、
前記シリンダ内を一対の圧力室に区画し、前記シリンダ内を移動するピストンと、
前記ピストンに連結され、前記シリンダに対して進退する可動ロッドと、
高圧力側の前記圧力室から低圧力側の前記圧力室に前記粘性流体を移動させる作動流路と、
前記作動流路に設けられると共に、前記粘性流体の流動を回転運動に変換させる油圧モータと、
前記油圧モータの回転運動に応じて回転力が与えられる回転錘と、
前記油圧モータから前記粘性流体を回収するドレン回路と、
前記ドレン回路と連通していると共に、チェック弁を介して高圧側の前記作動流路と低圧側の前記作動流路を接続する一対の戻し通路と、
を備えることを特徴とする回転慣性質量ダンパ。
【請求項2】
前記ドレン回路と連通するアキュムレータを有することを特徴とする請求項1記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項3】
前記ドレン回路と連通していると共に、オリフィスを介して高圧側の前記作動流路と低圧側の前記作動流路を接続する一対のバイパス管路を備えることを特徴とする請求項2記載の回転慣性質量ダンパ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転錘の回転慣性と粘性流体の抵抗を利用した回転慣性質量ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物等の構造物の地震に対する安全性を向上させるために、免震構造や制振構造に減衰装置を適用することが提案されている。
【0003】
免震構造は、建物と地盤との間に絶縁体としてのアイソレータを設け、地盤の揺れを建物に対して直接伝達させないものとし、地盤の揺れと建物との揺れを分離するものである。そのため、免震構造では、建物の振動と地盤の振動との間における共振を防ぐことができ、建物の揺れが地盤の揺れよりも長周期でゆっくりと発生することになる。また、免震構造では、アイソレータを通じて建物に伝達される振動エネルギを吸収する減衰装置が設けられている。減衰装置としては、ダンパ等が挙げられる。減衰装置が設けられていることによって、アイソレータによって分離された長周期の振動エネルギを吸収し、建物振動を早期に収束させることができる。これにより、地震によって起こる建物の崩壊や建物内の家具等の破損を防ぐことができる。
【0004】
制振構造は、免震構造と異なり、地盤に建物が設けられているため、地盤の振動が直接建物に伝達する。制振構造では、建物の架構の内部に減衰装置としてのダンパを組み込みこんでいる。当該ダンパは、地震によって生じた建物の変形に対する反力を柱や梁に伝達することで、地震による振動エネルギを吸収する。
【0005】
前記免震構造又は制振構造に適用することができる減衰装置としては、特許文献1のような油圧モータを利用したダンパが挙げられている。
【0006】
特許文献1のダンパは、シリンダ内をピストンによって2つの圧力室に区画してあり、当該シリンダ内には粘性流体としての作動油が充填されている。また、2つの圧力室は前記シリンダ外に設けられた作動流路によって互いに接続されている。地震が起きた際には、地震によって生じた振動エネルギが建物に連結されたロッドを介して前記ピストンへ軸方向変位として入力され、前記ピストンが前記シリンダ内を往復運動することになる。これにより、いずれか一方の圧力室内の作動油がピストンにより加圧され、加圧された作動油は、作動流路を通して他方の圧力室内に流動する。この際、前記作動流路内における作動油の流動に対しては大きな粘性抵抗が作用することから、地震の振動エネルギの一部は、当該粘性抵抗によって減衰することになる。
【0007】
また、前記作動流路の途中には油圧モータが設けられており、前記ピストンの軸方向変位によって生じた高圧力の作動油は、前記油圧モータを回転させる。当該油圧モータの出力軸には回転錘が設けられており、前記シリンダ内での前記ピストンの往復運動は前記回転錘の回転往復運動に変換される。前記回転錘には、回転数に応じた回転慣性が反力として当該回転錘に作用する。これにより、建物に作用する地震動に伴って前記シリンダ内を前記ピストンが往復運動し、前記回転錘が繰り返し反転する際には、前記回転錘の等価質量に応じた反力が建物に対して作用する。従って、特許文献1に開示されたダンパでは、前記作動油の流動に伴って生じる粘性抵抗、及び前記回転錘の反転の際に生じる回転慣性を前記ピストンの往復運動に対する反力として、建物に作用する振動エネルギの減衰を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-029910
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に用いられている油圧モータでは、高圧作動油の機械的な油漏れを防ぐことができないため、漏れ出した作動油をドレン回路によって回収する構造が設けられている。前記ドレン回路によって回収された作動油は前記油圧モータから排出された低圧の作動油と共に外部に配置された貯留タンクに送られ、当該貯留タンク内の作動油は油圧ポンプによって再度加圧された後に前記油圧モータに供給されている。
【0010】
しかし、前述した特許文献1のダンパでは、前記ピストンによって区画された一対の圧力室を前記作動流路で接続して作動油の閉回路を構成しており、この閉回路の途上に前記油圧モータが設けられている。このため、仮に前記油圧モータから機械的な油漏れが発生してしまうと、前記閉回路内における作動油の流量が減少してしまい、前記ダンパの減衰性能が設計通りに発揮されなくなる懸念があった。一方、前記ドレン回路を閉塞してしまうと、漏れ出した作動油によってドレン回路の内圧が上昇し、油圧モータに不具合を生じさせる可能性があった。
【0011】
そのため、特許文献1のダンパに既存の油圧モータをそのまま適用し、前記免震構造又は制振構造におけるダンパとして実際に使用することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、実際に免震構造又は制振構造に油圧モータを用いた減衰装置を適用する場合に、経時的な使用においても作動油の流量を当初設計通りに維持することが可能であり、減衰性能を適切に発揮することが可能な回転慣性質量ダンパを提供することにある。
【0013】
本発明の回転慣性質量装置は、内部に粘性流体が充填されたシリンダを備えるダンパ本体と、前記シリンダ内を一対の圧力室に区画し、前記シリンダ内を移動するピストンと、前記ピストンに連結され、前記シリンダに対して進退する可動ロッドと、高圧力側の前記圧力室から低圧側の前記圧力室に前記粘性流体を移動させる作動流路と、前記作動流路に設けられると共に、前記粘性流体の流動を回転運動に変換させる油圧モータと、前記油圧モータの回転運動に応じて回転力が与えられる回転錘と、前記油圧モータから前記粘性流体を回収するドレン回路と、前記ドレン回路と連通していると共に、チェック弁を介して高圧側の前記作動流路と低圧側の前記作動流路を接続する一対の戻し通路と、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
以上のように構成された本発明の慣性質量装置によれば、油圧モータから漏れた粘性流体をドレン回路から低圧側の圧力室に流動させることによって、機械的な油漏れを防止することができ、減衰性能を適切に発揮することが可能な回転慣性質量ダンパを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の回転慣性質量ダンパの第一実施形態を説明する模式図である。
図2】本発明の回転慣性質量ダンパのドレン回路を詳細に示す模式図である。
図3】本発明の回転慣性質量ダンパの第二実施形態を示す模式図である。
図4】本発明の回転慣性質量ダンパの第三実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を適用した回転慣性質量ダンパについて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明を適用した回転慣性質量ダンパの第一実施形態の概要を説明する模式図である。この回転慣性質量ダンパ1は、内部にシリンダ20を有するダンパ本体2と、可動ロッド5と、ピストン51と、を備えている。前記回転慣性質量ダンパ1を免震構造に適用する場合には、前記ダンパ本体2と可動ロッド5のいずれか一方を地盤の揺れが直接伝達される建物基礎に設け、もう一方をアイソレータによって地盤の揺れから絶縁されている建物に設ける。地震が起きた場合は、アイソレータによって分離された建物と建物基礎の位置変位を元に戻そうとする反力が前記回転慣性質量ダンパ1によって働き、建物に生じている長周期振動を早期に収束させることができる。また、制振構造に適用する場合には、建物における各階の架構に組み込んで、地震によって生じた建物の変形に対する反力を柱や梁に伝達することで、地震による振動エネルギを減衰する
【0018】
前記可動ロッド5は、前記シリンダ20の内部を貫通して設けられている。前記可動ロッド5の端部は、前記シリンダ20から外部に突出している。当該突出している端部には、ボールジョイント50が設けられている。前記ボールジョイント50は、前記可動ロッド5を建物基礎又は建物に結合する時に使用される。前記可動ロッド5は、前記シリンダ20の軸方向に沿って進退する。前記可動ロッド5は、地震による振動エネルギによって紙面の左右方向に対し往復することになる。
【0019】
前記ピストン51は、前記可動ロッド5に結合されていると共に、前記シリンダ20の内部に配置されている。前記ピストン51は、前記シリンダ20内を一対の圧力室22a、22bに区画する。前記圧力室22a及び22bには、オイル等の粘性流体21が充填されている。前記ピストン51は、前記可動ロッド5の進退に応じて前記シリンダ20の軸方向に沿って往復する。前記粘性流体21は、前記可動ロッド5の軸方向変位が入力されると、前記可動ロッド5に結合された前記ピストン51が進退し、前記ピストン51によって加圧される。
【0020】
前記ピストン51には、前記圧力室22aと前記圧力室22bを連通させる貫通孔が2つ設けられている。夫々の貫通孔には、前記圧力室22aから前記圧力室22bに前記粘性流体21を流動させるリリーフ弁52a、及び前記圧力室22bから前記圧力室22aに前記粘性流体21を流動させるリリーフ弁52bが設けられている。前記リリーフ弁52aは、前記圧力室22b内の前記粘性流体21が過度に加圧され、各圧力室の内圧差が一定値以上になった場合にのみ開く。前記リリーフ弁52aが開いた場合は、前記リリーフ弁52aを介して前記圧力室22bから前記圧力室22に前記粘性流体21が流動する。他方、前記圧力室22a内の前記粘性流体21が過度に加圧された場合には、前記リリーフ弁52bが開き、前記圧力室22bから前記圧力室22aに前記粘性流体21が流動する。
【0021】
前記ダンパ本体2は、長手方向の一端にボールジョイント40を有している。前記ボールジョイント40は、建物基礎又は建物に結合する時に使用される。前記回転慣性質量ダンパ1を免震装置に使用する際には、前記ボールジョイント40と前記ボールジョイント50のいずれか一方を建物基礎に設け、もう一方を建物に設ける。また、前記回転慣性質量ダンパ1を制振装置に使用する際には、前記ボールジョイント40と前記ボールジョイント50のいずれか一方を上層階に設置したプレース等に設け、もう一方を下層階の躯体に設ける。これにより、上層階と下層階との層間変形を利用してダンパを作動させる。
【0022】
前記ダンパ本体2には、前記圧力室22aと前記圧力室22bを連通させる作動流路31が設けられている。図2に示すように、前記作動流路31は、前記圧力室22aと前記油圧モータ30とを接続する作動流路31aと、前記圧力室22bと前記油圧モータ30とを接続する作動流路31bと、から構成されている。前記ピストン51による加圧がなされ、各圧力室のいずれか一方が加圧された場合には、当該加圧された圧力室内の粘性流体21が前記作動流路31に押し出され、加圧されていない圧力室内に移動する。すなわち、前記ピストン51が移動し粘性流体21に圧力を加えると、前記ピストン51の加圧力に対して前記粘性流体21の粘性抵抗に基づく反力が作用する。これにより、前記可動ロッド5の軸方向変位は前記粘性流体21の圧力エネルギに変換される。他方、前記ピストン51に逆側の軸方向変位が入力された場合は、低加圧側の圧力室が加圧され、徐々に圧力が上昇し、低圧側圧力室と高圧側圧力室の圧力が逆転する。そのため、前記回転慣性質量ダンパ1は、地震による振動エネルギが入力される可動ロッド5の進退に応じて、前記ピストン51の移動方向及び前記粘性流体21の流動方向が変化する。
【0023】
前記作動流路31には、油圧モータ30が設けられている。前記油圧モータ30は、内部に漏れた前記粘性流体21を回収することができる。前記油圧モータ30は、前記粘性流体21の流動によって回転運動を発生させる。前記油圧モータ30の出力軸には、回転錘60が設けられている。そのため、前記油圧モータ30によって回転運動が生成されると、その回転運動の方向に前記回転錘60が回転し、当該回転方向の慣性質量を発生させる。他方、前記ピストン51に対し逆向きの軸方向変位が入力された場合は、作動流路31を流動する粘性流体21の向きも逆になるため、前記油圧モータ30の回転運動も逆になる。その結果、前記回転錘60の回転に起因して発生する慣性質量は、前記粘性流体21の逆向きの流動エネルギに対する反力として作用する。すなわち、回転錘の等価質量が実際の質量に対して増幅され、これに伴った減衰効果を発揮する。尚、前記油圧モータ30としては、歯車モータ、アキシャルピストンモータ等を用いることができる。
【0024】
前記油圧モータ30には、ドレン回路33が設けられている。前記ドレン回路33には、前記ドレン回路33と連通している戻し通路34が設けられている。前記戻し通路34は、高圧側の作動流路31と低圧側の作動流路31を連通させている。前記戻し通路34は、ドレン回路33と作動流路31aを連通させる戻し通路34aと、ドレン回路33と作動流路31bを連通させる戻し通路34bと、から構成されている。前記戻し通路34a及び34bには、夫々チェック弁32a及び32bが設けられている。前記チェック弁31a及び31bは、前記作動流路31と前記ドレン回路33の圧力差が一定値以下では開放しない。これにより、前記ドレン回路33内に流入した粘性流体21は、前記チェック弁32a及び32bによってせき止められる。前記ピストン51によって軸方向変位が入力されると、低加圧側の圧力室は負圧になるため、低加圧側の作動流路31と前記ドレン回路33との間の内圧差が生まれやすい状態になっている。
【0025】
前記チェック弁32は、前記作動流路31の内圧と前記ドレン回路33の内圧との間に一定値以上の圧力差が生まれると、前記ドレン回路33から低加圧側圧力室に対してのみ粘性流体21を流動させる逆流防止弁で構成されている。例えば、前記圧力室22aから前記圧力室22bに粘性流体21が移動する場合は、前記作動流路31bと前記ドレン回路33の内圧差が一定値以上になると、前記チェック弁32bが前記作動流路31b側に向けて開放し、前記チェック弁32aが前記作動流路31a側に開放することはない。これにより、前記油圧モータ30から漏れた粘性流体21を外部に漏らすことなく、低加圧側の圧力室に粘性流体21を流動させることができる。
【0026】
次に、このように構成された本実施形態の回転慣性質量ダンパ1の動作について説明する。
【0027】
地震により地盤の揺れが発生すると、当該地盤の揺れが前記回転慣性質量ダンパ1における可動ロッド5の軸方向変位に変換される。変換された軸方向変位は、前記可動ロッド5に結合されたピストン51に伝達される。これにより、前記ピストン51は、前記シリンダ20の軸方向に沿って進退し、図1の紙面左右方向に移動する。
【0028】
まず、前記可動ロッド5が紙面左方向に変位したとすると、前記ピストン51によって前記圧力室22a内の粘性流体21が加圧される。加圧された前記粘性流体21は、作動流路31に押し出され、作動流路31aから油圧モータ30を通って作動流路31b、圧力室22bに流動する。そのため、前記粘性流体21が加圧され、作動流路31に流動することによって、前記ピストン51の加圧力に対して前記粘性流体21の粘性抵抗による反力が作用する。前記ピストン51により加圧されると、前記圧力室22a内は高圧になっているのに対し、前記圧力室22bは低圧になっている。
【0029】
前記油圧モータ30は、前記粘性流体21の流動に伴って、粘性流体21の圧力エネルギを回転運動に変換させる。前記油圧モータ30によって生成された回転運動は、前記油圧モータの出力軸に設けられている回転錘60に伝達され、前記回転錘60が回転する。
【0030】
次に、前記可動ロッド5に対し逆側の軸方向変位が入力されると、前記ピストン51が紙面右方向に向かって進行する。前記ピストン51が右方向に進行すると、前記圧力室22bが加圧され、前記圧力室22aが加圧されている場合の動きと同様に、前記圧力室22b内の粘性流体21が作動流路31b、31aを通って前記圧力室22a内に流動する。すなわち、前記粘性流体21の流動方向が逆になる。これにより、低加圧であった前記圧力室22bが前記ピストン51によって加圧され、徐々に圧力が上昇する。他方、前記圧力室22aの内圧は、徐々に下がっていく。
【0031】
前記粘性流体21の流動方向が逆になると、前記油圧モータ30によって生成される回転運動の方向も逆になり、前記油圧モータ30の出力軸に設けられている前記回転錘60に回転力が与えられる方向も逆になる。この際、前記回転錘60は、圧力室22aから圧力室22bに向かって移動する粘性流体21の流動に伴って回転していたため、これによる回転慣性が発生している。そのため、当該回転方向と逆方向に向かって回転力が与えられると、前記回転錘60は、回転数に応じて増幅した等価質量による反力が前記粘性流体21の流動に対して作用する。この結果、前記回転慣性質量ダンパ1は、前記粘性流体21の粘性抵抗による反力に加え、前記回転錘60の回転慣性質量効果によっても、地震による振動エネルギの減衰効果を発揮している。
【0032】
前記ピストン51が極端に大きな加速度で移動し、前記圧力室22a内が過度に高圧になってしまった場合は、前記リリーフ弁52bが開放し、前記ピストン51に設けられた貫通孔から前記圧力室22b内に前記圧力室22a内の粘性流体21が流動することによって圧力調整を行う。他方、前記圧力室22b内が過度に高圧になった場合は、前記リリーフ弁52aが開放し、前記ピストン51に設けられた貫通孔から前記圧力室11a内に前記圧力室22b内の粘性流体21が移動する。
【0033】
前記油圧モータ30の作動時には、前記粘性流体21の機械的な漏れが発生し、前記油圧モータ30によって回収される。回収された前記粘性流体21は、ドレン回路33に流動し、チェック弁32によってせき止められる。前記ピストン51による加圧力が過度に大きく、前記油圧モータ30から漏れた粘性流体21によって前記ドレン回路33内が高圧になり、前記ドレン回路33の内圧と前記作動流路31の内圧の間に一定値以上の圧力差ができた場合には、前記チェック弁32bが開く。前記チェック弁32bが開くと、前記ドレン回路33内でせき止められていた粘性流体21は、低圧側の作動流路31bに向かって流動する。これにより、前記ドレン回路33内の圧力は低下する。例えば、前記圧力室22aが加圧され、前記圧力室22aから前記圧力室22bに粘性流体21が移動している場合は、前記ドレン回路33と前記作動流路31bの内圧差が一定値以上になった場合に前記チェック弁32bが開放する。
【0034】
他方、前記圧力室22bが加圧され、前記圧力室22bから前記圧力室22aに流動する過程においても、前記油圧モータ30から漏れた粘性流体21によって、前記ドレン回路33内が高圧になってしまう可能性がある。この場合も、前記ドレン回路33と前記作動流路31aの内圧差が一定値以上になると、前記チェック弁32aが開き、前記ドレン回路33内の粘性流体21が作動流路31aに流動する。これにより、前記ドレン回路33内の圧力が低下する。
【0035】
以上のように構成された本発明の回転慣性質量ダンパによれば、地震による振動エネルギが入力され、油圧モータ30から漏れた粘性流体21が、前記油圧モータ30に設けられたドレン回路33からチェック弁32を介して低加圧側の圧力室に前記粘性流体21を戻すことができるため、前記回転慣性質量ダンパ1の外部へ前記粘性流体21が漏れることを防止できる。
【0036】
そのため、シリンダ20内における粘性流体21の容積が決まっている閉回路で構成された前記回転慣性質量ダンパ1において、前記油圧モータ30からの機械的な油漏れがあったとしても、漏れた粘性流体21を低圧側の圧力室に戻すことができるため、ダンパ全体における粘性流体21の減少を防ぐことができる。従って、既存の油圧モータを用いた回転慣性質量ダンパを実際に免震装置または制振装置に適用する場合であっても、粘性流体の流量を当初設計通りに維持することが可能であり、減衰性能を適切に発揮することができる。
【0037】
図3は、本実施形態を適用した回転慣性質量ダンパ1の第二実施形態を示す模式図である。
【0038】
第二実施形態の回転慣性質量ダンパは、第一実施形態の回転慣性質量ダンパにアキュムレータを設けたものである。これら以外の構成は、前述した第一実施形態の構成と同一であるため、図3中に第一実施形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0039】
図3に示すように、油圧モータ30から延びているドレン回路33には、アキュムレータ70が設けられている。前記アキュムレータ70は、前記ドレン回路33に流動してきた粘性流体21を回収し、当該回収した粘性流体21の圧力を維持する蓄圧機能を有する。そのため、前記アキュムレータ70は、前記ドレン回路33内の圧力を一定値に保持している。
【0040】
次に、第二実施形態の回転慣性質量ダンパの動作について説明する。
【0041】
第二実施形態の回転慣性質量ダンパの基本的な動作は、前述した第一実施形態の回転慣性質量ダンパと同じである。そのため、同じ動作については、簡略化して説明する。前記回転慣性質量ダンパ1は、地震が発生すると可動ロッド5の軸方向変位に変換され、前記可動ロッド5に結合されたピストン51がシリンダ20内を進退する。
【0042】
当該ピストン51の進行により、圧力室22aが加圧されると、前記圧力室22aに充填されている粘性流体21が加圧され、前記粘性流体21が作動流路31aに押し出される。これにより、前記粘性流体21が流動し、油圧モータ30及び作動流路31bを介して圧力室22bに移動する。
【0043】
前記油圧モータ30は、前記粘性流体21の流動に伴って、前記粘性流体21の圧力エネルギを回転運動に変換する。当該回転運動は、前記油圧モータ30の出力軸に設けられた回転錘60に伝達され、前記回転錘60が回転する。
【0044】
前記圧力室22aが過度に高圧になった場合は、リリーフ弁52aが開き、前記圧力室22aから前記圧力室22bに粘性流体21が流動する。これにより、前記圧力室22aが過度に高圧になった場合にのみ、内部の圧力を減圧することができる。
【0045】
戻し通路34に設けられたチェック弁32a及び32bは、前記ドレン回路33の内圧と作動流路31との間に一定値以上の圧力差がなければ開かないため、前記油圧モータ30から漏れた前記粘性流体21は、前記チェック弁32a及び32bでせき止められる。ここまでは、第一実施形態と同様である。
【0046】
前記ドレン回路33に流動してきた粘性流体21は、前記アキュムレータ70に一旦回収されて蓄圧される。すなわち、前記回転慣性質量ダンパ1内の容積が決まっている粘性流体21を一旦アキュムレータ70で保持することによって、装置内における粘性流体21の容積が一時的に少なくなるため、装置全体の圧力が低減される。また、前記粘性流体21が高熱により体積膨張した場合にも、前記アキュムレータ70で回収し、保持することができる。前記アキュムレータ70で保持された粘性流体21は、前記チェック弁32bを介し、時間差で前記圧力室22bに流動させることができる。そのため、前記ドレン回路33内が急激に高圧になった場合でも、一旦アキュムレータで回収・保持することで、前記ドレン回路33内の圧力を低減させることができる。
【0047】
前記可動ロッド5の軸方向変位が逆側に入力された場合も、前記各構成の動作は同じである。前記ピストン51が圧力室22bを加圧すると、前記圧力室22bに充填されている粘性流体21が加圧され、前記作動流路31bに押し出される。そして、前記粘性流体21は、油圧モータ30及び作動流路31aを介して前記圧力室22aに流動する。そして、前記油圧モータ30は、前記粘性流体21の流動に伴って回転運動を生成し、前記油圧モータ30の出力軸に設けられた回転錘60が回転する。この際、前記回転錘60の等価質量は実際の質量に対して増幅しているため、増幅した質量に応じた反力を発生させる。
【0048】
以上のように構成された第二実施形態の回転慣性質量ダンパによれば、ドレン回路33内が高圧になった場合には、前記粘性流体21をアキュムレータ70で一旦保持することができる。そして、保持した前記粘性流体21は、前記チェック弁32を介して低加圧側の圧力室に流動させることができる。そのため、前記ドレン回路33内が急激に高圧になった場合であっても、アキュムレータ、及びチェック弁の各作用によって前記ドレン回路33内の圧力をコントロールすることができ、また、前記粘性流体21の熱膨張分を一旦アキュムレータ70で回収・保持することで、より安全性が担保できる。従って、既存の油圧モータを用いた回転慣性質量ダンパを実際に免震装置または制振装置に適用する場合であっても、当初設計通りの減衰性能を適切に発揮し、かつ安全に建物等に作用する振動の減衰効果を発揮することが可能となる。
【0049】
図4は、本実施形態を適用した回転慣性質量ダンパ1の第三実施形態を示す模式図である。
【0050】
第三実施形態の回転慣性質量ダンパは、第二実施形態の回転慣性質量ダンパにオリフィスを設けたものである。これら以外の構成は、前述した第二実施形態の構成と同一であるため、図4中に第二実施形態と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0051】
前記バイパス管路34は、前記ドレン回路33と作動流路31aを連通させるバイパス管路34aと、前記ドレン回路33と作動流路31bを連通させるバイパス管路34bと、から構成されている。前記バイパス管路34は、前記作動流路31a及び31bを連通させている。また、前記ドレン回路33には、アキュムレータ70が設けられている。
【0052】
前記バイパス管路34a及び34bには、夫々に対しオリフィス90a及び90bが設けられている。前記オリフィス90の内径は、前記作動流路31の内径よりも小さく構成されている。オリフィスには、流体の流量を調節することで圧力を減少させる機能があるため、前記作動流路31内が高圧になった場合は、前記オリフィス90によって減圧させることができる。そして、減圧した粘性流体21を前記ドレン回路33に流動させ、前記アキュムレータ70で一旦保持させることができる。前記オリフィス90a及び90bが設けられていることによって、前記作動流路31の内圧が上昇した場合であっても、オリフィスで減圧してドレン回路33に流動させることができる。これにより、減圧した粘性流体21をアキュムレータ70で回収させることができる。そのため、前記アキュムレータ70に高圧の粘性流体21が流動することを防ぐことができる。前記アキュムレータ70で保持された粘性流体21は、前記チェック弁32bを介し、前記圧力室22bに流動させる。そのため、前記作動流路内が急激に高圧になった場合でも、粘性流体21の圧力をオリフィスで減圧し、アキュムレータで保持することで、作動流路全体の圧力をコントロールすることができる。
【0053】
以上のように構成された第三実施形態の回転慣性質量ダンパによれば、ダンパ全体が過度に高圧になった場合に、前記オリフィス90で粘性流体21を減圧し、減圧した前記粘性流体21をアキュムレータ70で蓄圧・保持することができる。そして、保持した前記粘性流体21は、前記チェック弁32を介して低加圧側の圧力室に流動させることができる。そのため、前記作動流路31が急激に高圧になった場合であっても、高圧の粘性流体21をそのまま前記アキュムレータ70に流動させることがない。従って、前記アキュムレータ70には、作動流路31内の高圧な粘性流体21が流動しない構成になっているため、前記アキュムレータ70の故障等を防止することが可能となる。また、アキュムレータ70、オリフィス90、及びチェック弁32によって、ダンパ全体の圧力をコントロールすることができるため、当初設計通りの減衰性能を適切に発揮し、かつ安全に建物等に作用する振動の減衰効果を発揮することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1…回転慣性質量ダンパ、2…ダンパ本体、5…可動ロッド、20…シリンダ、21…粘性流体、22…圧力室、30…油圧モータ、31…作動流路、33…ドレン回路、51…ピストン、52…リリーフ弁


図1
図2
図3
図4