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  • 特開-超伝導マグネット装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127372
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】超伝導マグネット装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/06 20060101AFI20220824BHJP
   H01L 39/04 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
H01F6/06 500
H01L39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025479
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】江原 悠太
(72)【発明者】
【氏名】三上 行雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸明
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114BB03
4M114CC03
4M114CC05
4M114DA02
4M114DA47
4M114DA52
(57)【要約】
【課題】超伝導マグネット装置における凍結防止用加熱器の故障リスクを低減する。
【解決手段】超伝導マグネット装置10は、超伝導コイル12と、超伝導コイル12を収容する真空容器14と、超伝導コイル12に接続され、真空容器14に設置された電流リード16と、真空容器14の外に配置され、電流リード16に接続された給電ケーブル18と、電流リード16から離れて配置され、給電ケーブル18を介して電流リード16を加熱する加熱器20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを収容する真空容器と、
前記超伝導コイルに接続され、前記真空容器に設置された電流リードと、
前記真空容器の外に配置され、前記電流リードに接続された給電ケーブルと、
前記電流リードから離れて配置され、前記給電ケーブルを介して前記電流リードを加熱する加熱器と、を備えることを特徴とする超伝導マグネット装置。
【請求項2】
前記加熱器は、前記給電ケーブルに装着された加熱素子を有することを特徴とする請求項1に記載の超伝導マグネット装置。
【請求項3】
前記超伝導コイルは、立入制限区域に設置され、
前記加熱器は、前記立入制限区域の外に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超伝導マグネット装置。
【請求項4】
前記加熱器は、前記給電ケーブルの温度を測定する温度センサを有し、前記温度センサによる前記給電ケーブルの測定温度に基づいて、前記測定温度が前記給電ケーブルの使用温度上限値以下となるように前記加熱器の出力を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の超伝導マグネット装置。
【請求項5】
前記加熱器は、前記超伝導コイルの通電状態に応じて前記加熱器の出力を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の超伝導マグネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導マグネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超伝導マグネット装置は、超伝導コイルと、これを極低温に冷却した状態で収容する真空容器とを備える。外部から超伝導コイルに給電するために、コイル用電極が真空容器の外側に設けられている。コイル用電極は、超伝導コイルからの熱伝導により冷却される。そのため、コイル用電極には、真空容器周囲の空気中の水分が凍結しうる。従来、これを防ぐために、コイル用電極に取り付けられたヒーターを動作させ、コイル用電極を直接加熱することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/170265号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記の超伝導マグネット装置を検討し、以下の課題を認識した。コイル用電極に取り付けられたヒーターは、超伝導マグネット装置が発生させる強力な磁場に起因した漏洩磁場により、故障リスクが高まる。加えて、超伝導マグネット装置が加速器に搭載されている場合には、超伝導マグネット装置の近傍で放射線の線量が高くなるため、ヒーターの故障リスクはさらに高まる。
【0005】
ヒーターが故障した場合にはヒーターの修理や交換など保守作業を要するが、漏洩磁場や放射線により作業者のアクセスが阻まれ、超伝導マグネット装置を運用しながら保守作業を行うことは困難である。保守作業のために超電導マグネット装置を停止することは、すなわち超伝導マグネット装置のダウンタイムとなるから、望ましくない。
【0006】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、超伝導マグネット装置における凍結防止用加熱器の故障リスクを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によると、超伝導マグネット装置は、超伝導コイルと、超伝導コイルを収容する真空容器と、超伝導コイルに接続され、真空容器に設置された電流リードと、真空容器の外に配置され、電流リードに接続された給電ケーブルと、電流リードから離れて配置され、給電ケーブルを介して電流リードを加熱する加熱器と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超伝導マグネット装置における凍結防止用加熱器の故障リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る超伝導マグネット装置を示す模式図である。
図2】他の実施の形態に係る超伝導マグネット装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0011】
図1は、実施の形態に係る超伝導マグネット装置10を示す模式図である。超伝導マグネット装置10は、超伝導コイル12を備え、たとえばサイクロトロンなどの加速器、またはその他の高磁場利用機器の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。
【0012】
超伝導コイル12は、たとえば二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機またはその他の形式の極低温冷凍機(図示せず)と熱的に結合され、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で使用される。この実施形態では、超伝導マグネット装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸漬するのではなく、極低温冷凍機によって直接冷却する、いわゆる伝導冷却式として構成される。なお、超伝導コイル12は、極低温液体冷媒に浸漬する浸漬冷却式により冷却されてもよい。
【0013】
また、超伝導マグネット装置10は、超伝導コイル12を収容する真空容器14と、超伝導コイル12に接続され、真空容器14に設置された電流リード16と、真空容器14の外に配置され、電流リード16に接続された給電ケーブル18と、電流リード16から離れて配置され、給電ケーブル18を介して電流リード16を加熱する加熱器20と、を備える。
【0014】
真空容器14は、その内部空間に、超伝導コイル12を超伝導状態とするのに適する極低温真空環境を提供する。真空容器14は、例えばクライオスタットである。一例として、超伝導コイル12は、円環状の形状を有し、真空容器14は、超伝導コイル12を囲むドーナツ状の形状を有する。真空容器14は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0015】
電流リード16は、給電ケーブル18を介して超伝導コイル12を電源装置22に接続する。電流リード16は、少なくとも正極側と負極側で一対に設けられる。電流リード16の周囲環境側(室温側)の端部には、真空容器14の壁部を貫通して真空容器14内へと電流を導入するための気密端子16aが設けられている。図示される例においては、気密端子16aは、真空容器14の上面に設置されているが、この配置には限定されない。電流リード16の反対側(低温側)の端部は、超伝導コイル12に接続される。
【0016】
給電ケーブル18は、第1端部18aと、第2端部18bと、第1端部18aと第2端部18bをつなぐコード部18cとを有する。第1端部18aは、例えばコネクタ接続、またはその他適宜の接続方法により、気密端子16aに接続される。第2端部18bは、適宜の接続方法により、電源装置22に接続される。
【0017】
給電ケーブル18には、コード部18cのシースを形成する合成樹脂材料の耐熱温度など、給電ケーブル18の物理的性質に基づく使用温度上限値が定められている。したがって、給電ケーブル18は、この使用温度上限値を超えない使用環境で使用することが推奨される。
【0018】
加熱器20は、給電ケーブル18に装着された加熱素子20aと、給電ケーブル18の温度を測定する温度センサ20bと、温度センサ20bによる給電ケーブル18の測定温度に基づいて、測定温度が給電ケーブル18の使用温度上限値以下となるように加熱器20の出力を制御するコントローラ20cと、を備える。
【0019】
加熱素子20aは、例えばラバーヒーターなど接触式の加熱素子であり、給電ケーブル18のコード部18cに取り付けられている。加熱素子20aは、コード部18cのシースに巻き付けるようにしてコード部18cに取り付けられてもよい。したがって、加熱素子20aは、給電ケーブル18上で気密端子16aから離れて配置され、気密端子16aには取り付けられていない。
【0020】
交換を容易にするために、加熱素子20aは、給電ケーブル18に取り外し可能に装着されてもよい。
【0021】
温度センサ20bは、汎用の温度センサであり、加熱素子20aによる給電ケーブル18の被加熱部位の温度を測定するように給電ケーブル18に取り付けられている。温度センサ20bは、加熱素子20aとコード部18cとの間に、あるいは加熱素子20aに隣接または近接して、コード部18cに取り付けられている。
【0022】
コントローラ20cは、温度センサ20bが出力する温度信号を受信するように温度センサ20bと電気的に接続されている。この温度信号は、加熱素子20aによる給電ケーブル18の被加熱部位の測定温度を示す。また、コントローラ20cは、加熱素子20aを制御する制御信号を加熱素子20aに送信するように加熱素子20aと電気的に接続されている。この制御信号に応じて加熱素子20aの出力が制御される。コントローラ20cは、例えばPID制御など公知の制御方法により、給電ケーブル18の測定温度に基づいて、測定温度が給電ケーブル18の使用温度上限値以下となるように加熱器20の出力を制御する。
【0023】
なお、コントローラ20cは、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
この実施の形態では、真空容器14、すなわち超伝導コイル12は、立入制限区域24に設置される。電源装置22は、立入制限区域24の外に設置され、給電ケーブル18は、立入制限区域24内の気密端子16aから立入制限区域24の外へと引き出されている。加熱器20は、立入制限区域24の外に配置され、加熱素子20aは、立入制限区域24の外で、上述のように給電ケーブル18に装着されている。
【0025】
立入制限区域24は、基準を超える磁場及び/または放射線量が発生しうる区域として超伝導コイル12の周囲に事前に設定され、この区域への人の立ち入りは少なくとも超伝導コイル12の運転中は制限される。立入制限区域24は、放射線管理区域であってもよい。
【0026】
超伝導マグネット装置10の運転中、電源装置22から給電ケーブル18および電流リード16を通じて超伝導コイル12に励磁電流が供給される。それにより、超伝導マグネット装置10は、強力な磁場を発生することができる。このとき超伝導コイル12は極低温に冷却されているため、電流リード16を通じた熱伝導により、気密端子16aも冷却されうる。気密端子16aは真空容器14の周囲環境に露出されているので、周囲の空気中の水分が気密端子16aに結露したり着霜したりするおそれがある。場合によっては、水分が気密端子16aに凍結しうる。
【0027】
しかしながら、実施の形態によると、加熱器20が給電ケーブル18を介して真空容器14を加熱する。給電ケーブル18が加熱素子20aから気密端子16aへの伝熱経路として利用され、加熱素子20aが発する熱は、給電ケーブル18、とくにケーブル内の導線を介して気密端子16aに伝わる。こうして気密端子16aの温度低下が抑制され、気密端子16aへの結露や着霜、さらには凍結を防止または軽減することができる。
【0028】
加熱器20は、電流リード16、つまり超伝導コイル12から離れて配置される。超伝導コイル12から距離をとることにより、超伝導コイル12が発生しうる漏洩磁場や放射線の影響の低い場所(例えば、立入制限区域24の外)に加熱器20を配置することができる。よって、加熱器20を電流リード16に直接取り付ける場合に比べて、漏洩磁場や放射線による加熱器20の故障リスクを低減することができる。
【0029】
また、加熱器20が立入制限区域24の外に配置される場合、超伝導マグネット装置10の運転中であっても作業者が加熱器20にアクセスすることができ、点検など保守作業を行うことができる。仮に加熱器20が故障したとしても対処することが容易である。
【0030】
上述の実施の形態では、加熱器20は、温度センサ20bとコントローラ20cを用いて加熱素子20aを温調制御する形式を有するが、これに限られない。加熱素子20aは、一定の出力で給電ケーブル18を加熱してもよい。この場合、加熱器20は、温度センサ20bとコントローラ20cを有しなくてもよい。
【0031】
図2は、他の実施の形態に係る超伝導マグネット装置10を示す模式図である。上述の実施の形態と同様に、超伝導マグネット装置10は、超伝導コイル12と、超伝導コイル12を収容する真空容器14と、超伝導コイル12に接続され、真空容器14に設置された電流リード16と、真空容器14の外に配置され、電流リード16に接続された給電ケーブル18と、電流リード16から離れて配置され、給電ケーブル18を介して電流リード16を加熱する加熱器20と、を備える。加熱器20は、立入制限区域24の外に配置される。
【0032】
この実施の形態では、加熱器20は、超伝導コイル12の通電状態に応じて加熱器20の出力を制御する。そこで、コントローラ20cは、電源装置22から超伝導コイル12の通電状態を示す信号を受信するように電源装置22と電気的に接続されている。この信号に基づいて、コントローラ20cは、超伝導コイル12のオンオフ、または超伝導コイル12に供給される電流の大きさなど、超伝導コイル12の通電状態を把握する。
【0033】
例えば、コントローラ20cは、超伝導コイル12がオフであるとき加熱素子20aをオンとし、超伝導コイル12がオンであるとき加熱素子20aをオフとしてもよい。超伝導コイル12がオンであるときには、給電ケーブル18および電流リード16に電流が流れることによりジュール熱が発生し、これにより気密端子16aを加熱することができる。この加熱を利用して気密端子16aの凍結を防ぐことができると期待される場合には、加熱素子20aはオフとされてもよい。
【0034】
同様に、コントローラ20cは、超伝導コイル12に供給される電流の大きさがしきい値より小さいとき(例えば、超伝導コイル12がアイドル運転のとき)、加熱素子20aをオンとしてもよい。コントローラ20cは、超伝導コイル12に供給される電流の大きさがしきい値以上のとき(例えば、超伝導コイル12が通常運転のとき)、加熱素子20aをオフとしてもよい。しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0035】
加熱素子20aをオンとすることに代えて、加熱素子20aは、その最高出力、またはある高い第1出力で動作してもよい。また、加熱素子20aをオフとすることに代えて、加熱素子20aは、最高出力または第2出力より低い第2出力で動作してもよい。
【0036】
このようにしても、気密端子16aの温度低下が抑制され、気密端子16aへの結露や着霜、さらには凍結を防止または軽減することができる。また、超伝導コイル12からの漏洩磁場や放射線による加熱器20の故障リスクを低減することができる。
【0037】
なお、超伝導コイル12の通電状態に基づく加熱器20の制御は、測定温度に基づく加熱器20の制御と併用されてもよい。例えば、コントローラ20cは、超伝導コイル12の通電状態に基づいて加熱器20がオンとされている間、温度センサ20bによる給電ケーブル18の測定温度に基づいて、測定温度が給電ケーブル18の使用温度上限値以下となるように加熱器20の出力を制御してもよい。
【0038】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0039】
立入制限区域24が設定されない場合には、加熱器20は、効率的な加熱のために、気密端子16aの近傍に設けられてもよい。例えば、加熱素子20aは、給電ケーブル18の第1端部18aに装着されてもよい。また、立入制限区域24が設定される場合であっても、より効率的に加熱するために、立入制限区域24内に加熱器20が配置されてもよい。
【0040】
加熱器20は、例えば赤外線ヒーター、サーキュレーターなど、非接触式の加熱素子を有してもよく、給電ケーブル18はこうした非接触式の加熱素子により加熱されてもよい。
【0041】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0042】
10 超伝導マグネット装置、 12 超伝導コイル、 14 真空容器、 16 電流リード、 16a 気密端子、 18 給電ケーブル、 20 加熱器、 20a 加熱素子、 20b 温度センサ、 24 立入制限区域。
図1
図2