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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127384
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】蒸着マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20220824BHJP
   C25D 1/10 20060101ALI20220824BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220824BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C25D1/10 311
H05B33/14 A
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025505
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲行
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107FF05
3K107FF15
3K107FF17
3K107GG04
3K107GG33
4K029HA02
4K029HA03
(57)【要約】
【課題】蒸着工程における熱収縮率の影響が低減された蒸着マスクを提供する。
【解決手段】蒸着マスクの製造方法は、支持基板上に下地金属層を介して所定のパターンが形成されたレジストマスクを形成し、下地金属層においてレジストマスクが形成されていない領域に、電鋳により金属を析出させることで、25℃以上35℃以下の温度において、熱収縮率が8ppm以上18ppm以下となるマスク本体を形成し、マスク本体上に、マスクフレームを配置した後、マスク本体を、支持基板から分離する。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に下地金属層を介して所定のパターンが形成されたレジストマスクを形成し、
前記下地金属層において前記レジストマスクが形成されていない領域に、電鋳により金属を析出させることで、25℃以上35℃以下の温度において、熱収縮率が8ppm以上18ppm以下となるマスク本体を形成し、
前記マスク本体上に、マスクフレームを配置した後、前記マスク本体を、前記支持基板から分離する、蒸着マスクの製造方法。
【請求項2】
前記熱収縮率は、蒸着工程後の蒸着マスクの収縮量/蒸着工程前の蒸着マスクの長さで表される、請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【請求項3】
前記電鋳による金属としてニッケルまたはニッケル合金、電解液としてスルファミン酸溶液を用いる、請求項1に記載の蒸着マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスクの製造方法に関する。特に、本発明は、マスクフレームに薄膜状のマスク本体を備えた蒸着マスクの製造方法に関する。
【0002】
フラットパネル型表示装置の一例として、液晶表示装置や有機EL表示装置が挙げられる。これらの表示装置は、絶縁体、半導体、導電体などの様々な材料を含む薄膜が基板上に積層された構造体である。これらの薄膜が適宜パターニングされ、接続されることで、表示装置としての機能が実現される。
【0003】
薄膜を形成する方法は、大別すると気相法、液相法、固相法に分類される。気相法は物理的気相法と化学的気相法に分類される。物理的気相法の代表的な例として蒸着法が知られている。蒸着法のうち最も簡便な方法が真空蒸着法である。真空蒸着法は、高真空下において材料を加熱することで、材料を昇華または蒸発させて材料の蒸気を生成する(以下、これらを総じて気化という)。この材料を堆積させるための領域(以下、蒸着領域)において、気化していた材料が固化し、堆積することで材料の薄膜が得られる。蒸着領域に対して選択的に薄膜が形成され、それ以外の領域(以下、非蒸着領域)には材料が堆積しないようにするために、マスク(蒸着マスク)を用いて真空蒸着が行われる(特許文献1および2参照)。
【0004】
蒸着マスクは、蒸着パターンが形成されたマスク本体に、マスク本体を固定するためのマスクフレームが接合されている。マスク本体は、支持基板上に金属層を介して形成された所定のパターンを有するフォトレジスト層をマスクとして、メッキ膜を形成し、フレームを接合した後、マスク本体と支持基板及び下地金属層とを分離することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-87840号公報
【特許文献2】特開2013-209710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
蒸着工程における蒸着雰囲気下では、電鋳により形成されたマスク本体が収縮することで、引張応力が増大する。この引張応力の影響により、蒸着マスク全体が反ってしまうという問題がある。蒸着マスクに反りが生じると、蒸着装置に設けられた磁石に蒸着マスクを吸着できなくなってしまう。また、磁石に蒸着マスクを吸着ができたとしても、蒸着マスクが歪んでしまうため蒸着パターンの精度が低下してしまう。
【0007】
一方で、電鋳により形成されたマスク本体の引張応力の影響を0にしてしまうと、マスク本体にしわが生じたり、マスク本体がたわんでしまったりする。これにより、蒸着マスクを蒸着装置に吸着することが困難となる。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明の一実施形態は、蒸着工程における熱収縮率の影響が低減された蒸着マスクを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法は、支持基板上に下地金属層を介して所定のパターンが形成されたレジストマスクを形成し、下地金属層においてレジストマスクが形成されていない領域に、電鋳により金属を析出させることで、25℃以上35℃以下の温度において、熱収縮率が8ppm以上18ppm以下となるマスク本体を形成し、マスク本体上に、マスクフレームを配置した後、マスク本体を、支持基板から分離する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの平面図である。
図1B】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの平面図である。
図1C】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの断面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2B】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2C】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2D】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2E】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2F】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2G】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図2H】本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す断面図である。
図3】蒸着マスクの耐熱温度とピッチテストとの相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0012】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合がある。しかし図面に示す例は、あくまで一例であって、図示の態様について特段の記載をしない限りにおいては、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の構成には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0013】
本発明において、ある一つの膜に対してエッチングや光照射を行うことで複数の膜を形成した場合、これら複数の膜は異なる機能、役割を有することがある。しかしながら、これら複数の膜は同一の工程で同一層として形成された膜に由来し、同一の層構造、同一の材料を有する。したがって、これら複数の膜は同一層に存在しているものと定義する。
【0014】
本明細書および特許請求の範囲において、ある構造体の上に他の構造体が配置された態様を表現する際に、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、その構造体の直上に他の構造体が配置される場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体が配置される場合と、の両方を含むものと定義さ
れる。
【0015】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの構成について、図1A図1Cを参照して説明する。
【0016】
図1A及び図1Bは、本発明の一実施形態に係る蒸着マスク10の平面図である。具体的には、図1Aは、蒸着マスク10のマスク本体110の第1面110-1から眺めた平面図であり、図1Bは、蒸着マスク10のマスク本体110の第1面110-1の反対側の第2面110-2から眺めた平面図である。また、図1Cは、本発明の一実施形態に係る蒸着マスク10の断面図である。具体的には、図1Cは、図1Aまたは図1Bに示すA1-A2線に沿って切断した蒸着マスク10の断面図である。
【0017】
蒸着マスク10は、マスク本体110、マスクフレーム120、および接続部130を含む。マスク本体110は、第1面110-1及び第2面110-2を有する。図1Aおよび図1Bに示すように、マスクフレーム120および接続部130は、マスク本体110の第1面110-1に設けられている。また、平面視において、マスクフレーム120および接続部130は、マスク本体110と重畳している。図1Aに示すように、マスク本体110の第1面110-1から眺めた平面視において、マスクフレーム120および接続部130は、マスク本体110から露出している。一方、図1Bに示すように、マスク本体110の第2面110-2から眺めた平面視において、マスクフレーム120および接続部130は、マスク本体110から露出していない。換言すれば、マスク本体110の第2面110-2から眺めた平面視において、マスクフレーム120および接続部130は、マスク本体110によって覆われているということもできる。
【0018】
マスク本体110は、開口領域111および非開口領域112を含む。開口領域111には、マスク本体110を貫通し、蒸着パターンに対応する開口113が設けられている。一方、非開口領域112には、開口113が設けられていない。開口領域111と非開口領域112との境界は必ずしも明確ではない。しかしながら、多くの場合、開口113は蒸着パターンにしたがって設けられるため、隣接する2つの開口113の間隔は所定のピッチを有する。そのため、蒸着パターンの所定のピッチを基準にして、開口領域111と非開口領域112とを区別することが可能である。
【0019】
マスク本体110の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下である。また、マスク本体110は、電鋳(または電解メッキ)で用いる材料で形成されることが好ましい。マスク本体110は、電鋳により、例えば、ニッケルまたはニッケル合金などの材料で形成される。
【0020】
蒸着マスク10を用いて蒸着工程を行う場合、マスク本体110の第2面110-2に被蒸着基板が設けられる。被蒸着基板として、例えば、基板上にトランジスタ等が形成された回路基板を用いる。蒸着マスク10は、被蒸着基板を間に挟んで、蒸着装置に設けられた磁石によって吸着した状態で、蒸着装置のチャンバー内に固定される。蒸着装置において、マスク本体110の第1面110-1側に蒸着源が設けられている。蒸着源が加熱されることにより、有機材料が加熱されて昇華または蒸発される。このような蒸着工程において、有機材料は、マスク本体110の開口113のみを通過して堆積する。そのため、被蒸着基板には、開口113に対応するパターン(蒸着パターン)が形成される。開口113は、表示装置の画素の配列と対応して設けることができ、例えば、マトリクス状に配置することができる。
【0021】
マスクフレーム120は、蒸着マスク10の外周に位置する枠部121および枠部121の内側に位置する桟部122を含む。マスクフレーム120は、枠部121の内側が開口されているが、その開口は、格子状に配置された桟部122によって、区画化されている。マスクフレーム120のサイズが大きくなると、枠部121の反りまたはねじれによってマスクフレーム120の平行度を所定の基準に保持することが困難な場合がある。蒸着マスク10では、桟部122が枠部121の剛性を高めることにより、マスクフレーム120の平行度を所定の基準に保持することができる。なお、蒸着マスク10のサイズが小さく、枠部121の剛性が十分高い場合には、桟部122を設けなくてもよい。
【0022】
マスクフレーム120は、枠部121と桟部122とが一体化して形成されていてもよく、枠部121と桟部122とが別々に作製され、枠部121と桟部122とが溶接されて形成されていてもよい。
【0023】
図1Aでは、マスクフレーム120は、桟部122によって12個の開口に区画化されているが、区画化された開口の数は、これに限定されない。区画化された開口の数は、被蒸着基板の大きさや蒸着パターンに合わせて適宜決定することができる。また、桟部122の配置は、格子状に限定されない。マスクフレーム120が短辺および長辺を有する長方形である場合、短辺よりも長辺で反りまたはねじれが生じやすい。そのため、向かい合う長辺を接続するように桟部122が設けられていることが好ましい。また、桟部122の配置は、蒸着パターンに応じた形状としてもよい。
【0024】
枠部121の幅および桟部122の幅は、蒸着マスク10の大きさに合わせて適宜決定することができる。なお、蒸着パターンの領域をできる限り大きくするため、桟部122の幅は枠部121の幅よりも小さいことが好ましい。
【0025】
マスクフレーム120の厚さは、例えば、10μm以上2000μm以下である。また、マスクフレーム120は、熱膨張係数の小さい材料で形成されることが好ましい。マスクフレーム120は、例えば、鉄およびニッケルを含有するインバーまたは鉄、ニッケル、およびコバルトを含有するスーパーインバーなどの材料で形成されることができる。
【0026】
接続部130は、マスク本体110とマスクフレーム120とを接続することができる。図1Cに示すように、マスク本体110とマスクフレーム120とは直接接しているが、マスク本体110とマスクフレーム120とは接着または接合されていない。接続部130が、マスク本体110とマスクフレーム120とに接合されることにより、マスク本体110とマスクフレーム120とが、接続部130を介して接続され、固定される。
【0027】
接続部130は、マスクフレーム120の枠部121または桟部122の側面の少なくとも一部に設けられていればよい。ただし、マスク本体110とマスクフレーム120との接合強度を大きくするため、接続部130は、枠部121または桟部122の側面の1/2以上に設けられていることが好ましく、枠部121または桟部122の側面の全面に設けられていることがさらに好ましい。また、接続部130は、電鋳で用いる材料で形成されることが好ましい。接続部130は、例えば、ニッケルまたはニッケル合金などの材料で形成される。接続部130の材料は、マスク本体110の材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
蒸着マスク10は、上述したように、マスク本体110とマスクフレーム120とが直接接しているが、マスク本体110とマスクフレーム120とは直接固定されていない。そのため、マスク本体110とマスクフレーム120とが熱膨張係数の異なる材料であっても、マスク本体110またはマスクフレーム120の応力を分散させることができる。なお、マスク本体110とマスクフレーム120とが直接接しておらず、マスク本体110とマスクフレーム120との間に間隙が設けられていてもよい。この場合においても、マスク本体110またはマスクフレーム120の応力を分散させることができる。
【0029】
蒸着工程における蒸着雰囲気下では、電鋳により形成されたマスク本体が収縮することで、引張応力が増大する。この引張応力の影響により、蒸着マスク全体が反ってしまうという問題がある。蒸着マスクに反りが生じると、蒸着装置に設けられた磁石に蒸着マスクを吸着できなくなってしまう。また、磁石に蒸着マスクを吸着ができたとしても、蒸着マスクが歪んでしまうため蒸着パターンの精度が低下してしまう。
【0030】
一方で、電鋳により形成されたマスク本体の引張応力の影響を0にしてしまうと、マスク本体にしわが生じたり、マスク本体がたわんでしまったりする。これにより、蒸着マスクを蒸着装置に吸着することが困難となる。
【0031】
また、蒸着工程において、蒸着マスクに常温(25℃)よりも高くなる熱が加わる。マスク本体に熱が加わることで、マスク本体が収縮してしまうことで、蒸着パターンの精度が低下してしまう。
【0032】
上述した蒸着マスクの不具合は、蒸着マスクのサイズが大きくなればなるほど、顕著に現れる。
【0033】
そこで、本発明の一実施形態は、蒸着工程における熱収縮率の影響が低減された蒸着マスク10を提供することを目的の一つとする。
【0034】
本発明の一実施形態に係る蒸着マスク10は、マスク本体110の熱収縮率が8ppm以上18ppm以下となるように調整される。ここで、熱収縮率とは、以下の式で求められる値である。
熱収縮率(ppm)
=(蒸着工程後の蒸着マスクの収縮量(μm)/蒸着工程前の蒸着マスクの長さ(μm))・・・・・・(式1)
また、本実施形態において、蒸着工程後の蒸着マスクの収縮量とは、25℃以上35℃以下において、最大240秒間の処理が施されたときの収縮量である。また、上記収縮量は、蒸着マスクの長さに平行な方向への変化量である。例えば、蒸着マスク上に構造物を2つ形成し、2つの構造物間の距離を測定する。その後、蒸着マスクを25℃以上35℃以下において、最大240秒間の処理を施した後に、当該2つの構造物間の距離を測定する。処理の前後で、2つの構造物間の距離が変化した量が収縮量に相当する。
【0035】
マスク本体110の温度は、マスク本体110に熱電対を接触させることで、計測することができる。蒸着工程において、マスク本体110は、例えば、30℃以上に加熱される。このとき、マスク本体110には、縮もうとする力が生じる。マスク本体の熱収縮率が18ppmを超えると、マスク本体に生じる引張応力の増大により、蒸着マスク全体が反ってしまうおそれがある。蒸着マスクの反り量が大きくなると蒸着装置に蒸着マスクを磁石によって吸着できなくなる可能性がある。また、熱収縮率が8ppm未満であると、蒸着装置に蒸着マスク10を吸着させる際に、マスク本体110にしわが生じたり、マスク本体がたわんでしまったりするという不具合が生じる。したがって、蒸着工程前及び蒸着工程中、蒸着マスクが適切な引張応力を維持できるように、マスク本体110の熱収縮率が8ppm以上18ppmとなるように制御することが好ましい。
【0036】
また、被蒸着基板のサイズに応じて、許容できるマスク本体の反り量を制御する必要がある。例えば、被蒸着基板に接するマスク本体110のサイズがG4.5H(450mm×730mm)である場合には、マスク本体の反り量を、2mm以下とすることが好ましい。被蒸着基板に接するマスク本体110のサイズがG6H(1500mm×925mm)である場合には、マスク本体の反り量を、1.5mm以下とすることが好ましい。また、被蒸着基板のサイズがG6(1500mm×1850mm)である場合には、マスク本体の反り量を、1.0mm以下とすることが好ましい。
【0037】
ここで、反り量とは、マスク本体を、第1面110-1を上にして平面に載置した場合の、第1面110-1において平面に対して最も高い位置と最も低い位置との間の高さの差である。反り量の正負は、マスク本体の第1面110-1が下に凸の場合をプラスとして、上に凸の場合をマイナスとする。典型的には、最も高い位置と最も低い位置とは、一方はマスク本体の中央部付近、他方はマスク本体の端部付近となる。蒸着マスクの反り量は、例えば、レーザ変位センサで計測することができる。例えば、被蒸着基板のサイズとして、G4.5Hを用いる場合、反り量が2mmを超えると、蒸着マスクを蒸着装置に吸着することが困難となる。マスク本体の長辺方向の長さ820mmに対し、このマスク本体の反り量を2mm以下とすることができるマスク本体(メッキ層)の収縮量は15μm程度である。収縮量15μmと、マスク本体の長辺方向の長さ820mmと、式(1)に当てはめると、そのときの収縮率は18.3ppmとなる。
【0038】
本発明の一実施形態に係る蒸着マスク10によれば、マスク本体110の熱収縮率が制御されている。そのため、マスク本体110にしわやたるみを生じさせることなく、蒸着マスク10を蒸着装置に吸着することができる。また、蒸着工程において、マスク本体110に熱が加えられたとしても、マスク本体110の熱収縮率が制御されているため、蒸着マスク10の反り量が2mmを超えて大きくなることを抑制することができる。これにより、蒸着マスク10の反り量が大きくなることで、蒸着パターンの精度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0039】
次に、本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法について、図2A図2Hを参照して説明する。図2A図2Cは、第1電鋳工程を説明する図である。
【0040】
まず、図2Aに示すように、支持基板210上に金属層220を形成し、金属層220上に所定のパターンを有するフォトレジスト層230を形成する。
【0041】
支持基板210は、蒸着マスク10の製造工程において各層を支持する。そのため、支持基板210は、剛性基板であることが好ましい。蒸着マスク10の製造工程には、支持基板210を加熱する工程が含まれる。加熱処理によって支持基板210が膨張または収縮すると、支持基板210上に形成されるフォトレジスト層230の位置ズレが生じるだけでなく、応力によって剥離される場合もある。そのため、蒸着マスク10の製造工程を安定させるためにも、支持基板210は、熱膨張係数が小さい剛性基板であることがさらに好ましい。支持基板210の材料としては、例えば、ステンレス(SUS304またはSUS430など)、42アロイ、インバー、スーパーインバー、またはステンレスインバーなどである。
【0042】
金属層220は、第1電鋳工程における下地金属として機能することができる。金属層220の材料としては、例えば、ニッケルまたはニッケル合金である。金属層220は、スパッタリングなどによって形成する。
【0043】
なお、金属層220は、最終的には分離されて除去される。そのため、金属層220を分離させやすくするために、金属層220上に導電層が設けられてもよい。この場合、導電層を剥離することで、金属層220を容易に分離する。
【0044】
蒸着マスク10は、電鋳ではなく、無電解メッキを用いて製造することもできる。この場合、金属層220の代わりに、絶縁層を用いてもよい。
【0045】
フォトレジスト層230は、第1電鋳工程におけるマスクとして機能する。フォトレジスト層230は、所定の膜厚を有するように、金属層220上に1つまたは複数の感光性ドライフィルムレジストを配置し、熱圧着によって形成される。感光性ドライフィルムレジストは、ポジ型またはネガ型のいずれであってもよい。なお、以下では、感光性ドライフィルムがネガ型であるとして説明する。
【0046】
フォトレジスト層230は、蒸着マスク10のマスク本体110の開口パターンに対応するパターンを有する。フォトレジスト層230のパターンは、フォトリソグラフィーにより形成する。すなわち、フォトレジスト層230のパターンは、ドライフィルムレジストにフォトマスクを密着させ、紫外線を照射してドライフィルムを露光し、未露光部分を溶解除去することによって形成する。
【0047】
次に、図2Bに示すように、フォトレジスト層230をマスクとして、第1メッキ層240を形成する。第1メッキ層240は、電鋳(メッキ)により形成する。
【0048】
電鋳において使用されるメッキ液は、通常、溶媒に、1種又は2種類以上の金属塩、有機電解質、リン酸等の酸、アルカリ物質等の各種電解質を溶解させたものが用いられる。溶媒として、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の直鎖状カーボネート類、又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0049】
金属塩は、析出させる金属、合金等を考慮して適宜選択すればよい。金属塩の金属として、例えば、Cu、Zn、Ga、As、Cr、Se、Mn、Fe、Co、Ni、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ru、Rh、Pd、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、W、Po、Re、Os、Ir、Pt等が挙げられる。これらの中でも、Ni、Ag、Au、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、Sn、Znが好ましく、さらに、Niが特に好ましい。なお、これらの金属は、それぞれ単独で、または、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
メッキ液の主成分である金属塩の具体例としては、例えば、ニッケルメッキ液として、硫酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル等が挙げられる。これらの金属塩を、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせたメッキ液を用いてもよい。上述したニッケルメッキ液に、スルファミン酸コバルトを添加したメッキ液を用いてもよい。
【0051】
第1電鋳工程は、金属層220およびフォトレジスト層230を、上述したメッキ液を所定の条件に建浴した電鋳漕に入れる。そして、フォトレジスト層230に覆われていない金属層220の表面から、フォトレジスト層230の高さまで金属メッキを形成する。第1メッキ層240の材料として、例えば、ニッケルまたはニッケル合金などが挙げられる。
【0052】
本実施形態では、金属塩として、スルファミン酸ニッケルを用いることが好ましい。金属塩として、スルファミン酸ニッケルを用いて、電流密度を調整することにより、析出するニッケル膜の内部応力を調整することができる。また、メッキ液に、サッカリンのような応力減少剤を添加させることで内部応力を低下させてもよい。
【0053】
また、ニッケルメッキ液に、不純物を添加することで、ニッケル膜の内部応力を調整することができる。ニッケルメッキ液に、有機化学種として、例えば、分子内に硫黄原子を含む化合物を添加することで、ニッケル膜に、圧縮応力を生じさせることができる。また、ニッケルメッキ液に、無機化学種として、例えば、鉄(II,III)イオン、亜鉛イオン及びこれらの水酸化物、クロム酸イオン、又は有機化学種として、分子内に2重結合を有する2-ブチン1,4-ジオールおよび2-プロピン1-オールを添加することで、ニッケル膜に、引っ張り応力を生じさせることができる。ニッケル膜に圧縮応力を与える場合には、ニッケルメッキ液に、圧縮応力を生じさせる不純物を添加することが好ましい。また、ニッケル膜の応力を調整するために、圧縮応力を生じさせる不純物に加えて、引っ張り応力を生じさせる不純物を添加してもよい。
【0054】
次に、図2Cに示すように、金属層220の表面からフォトレジスト層230を剥離する。フォトレジスト層230は、例えば、アミン系の剥離液によって剥離する。これにより、開口領域111及び非開口領域112を有する第1メッキ層240が形成される。第1メッキ層240は、熱収縮率を7ppm以上15ppm以下に制御することができる。
【0055】
フォトレジスト層230を剥離する前に、電鋳によって形成された第1メッキ層240を研磨してよい。第1メッキ層240を研磨することにより、第1メッキ層240の表面を平坦化することができる。
【0056】
なお、第1メッキ層240は、蒸着マスク10のマスク本体110に対応する。そのため、以下では、便宜上、第1メッキ層240をマスク本体110として説明する。
【0057】
図2Dおよび図2Eは、マスクフレーム密着工程を説明する図である。
【0058】
図2Dに示すように、マスク本体110の開口領域111上に、保護層250を形成する。保護層250は、後述の工程によって発生するパーティクルが開口領域111の開口113に入り込み、開口113が塞がれることを防止することができる。また、保護層250は、後述する第2電鋳工程におけるマスクとして機能することができる。保護層250として、フォトレジスト層230と同様の材料を用いる。
【0059】
次に、図2Eに示すように、マスク本体110の非開口領域112上に接着層280を設け、接着層280上にマスクフレーム120を接着する。接着層280は、後述の工程で除去されるため、完全に硬化されなくてもよい。接着層280の材料としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、シアノアクリレート樹脂、またはアクリル樹脂などを用いることができる。また、接着層280の材料としては、ドライフィルムレジストを用いることもできる。接着層280の材料としてドライフィルムレジストを用いる場合、ドライフィルムレジストを弱く露光しておいてもよい。ドライフィルムレジストを露光しておくことで、後述する工程においてドライフィルムレジストを除去しやすくすることができる。マスクフレーム120は、枠部121および桟部122がマスク本体110の開口領域111と重畳しないように配置される。すなわち、マスクフレーム120は、マスク本体の非開口領域112上に配置される。
【0060】
図2Fは、第2電鋳工程を説明する図である。
【0061】
図2Fに示すように、マスク本体110とマスクフレーム120とを接続する第2メッキ層270を形成する。第2メッキ層270は、金属層220またはマスクフレーム120に通電する電鋳によって形成することができる。第2メッキ層270は、第1メッキ層240と同様の方法で形成することができる。第2メッキ層270は、非開口領域112の開口を埋めるように設けられるため、第2メッキ層270は、金属層220と接する。また、第2メッキ層270は、マスク本体110の非開口領域112の上面および側面と、マスクフレーム120とを接続する。すなわち、第2メッキ層270は、蒸着マスク10の接続部130に対応する。そのため、以下では、便宜上、第2メッキ層270を接続部130として説明する。
【0062】
図2Gおよび図2Hは、支持基板を分離する工程を説明する図である。
【0063】
図2Gに示すように、保護層250を剥離する。保護層250は、フォトレジスト層230と同様の方法で剥離することができる。
【0064】
次に、図2Hに示すように、マスク本体110から、支持基板210、金属層220を分離する。支持基板210および金属層220は、同時に分離されてもよく、支持基板210を分離した後、金属層220が分離されてもよい。
【0065】
以上の工程により、マスクフレーム120および接続部130がマスク本体110と重畳する蒸着マスク10を作製することができる。
【0066】
なお、蒸着マスク10の製造方法における工程の順序は、上述したものに限られない。例えば、図2Dに示した保護層250の形成は、図2Eに示したマスクフレーム120をマスク本体に密着させた後に行ってもよい。また、図2Gに示した保護層250の剥離は、図2Hに示した支持基板210の分離後に行ってもよい。
【0067】
本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの製造方法によれば、マスク本体110の熱収縮率が制御されている。そのため、マスク本体110にしわやたるみを生じさせることなく、蒸着マスク10を蒸着装置に吸着することができる。また、蒸着工程において、マスク本体110に熱が加えられたとしても、熱収縮率が制御されているため、蒸着マスク10の反り量が大きくなることを抑制することができる。蒸着マスク10の反り量が大きくなることで、蒸着マスク10が蒸着装置に吸着できなくなったり、蒸着パターンの精度が低下してしまったりすることを抑制することができる。
【実施例0068】
本実施例では、本発明の一実施形態に係る蒸着マスクの耐熱温度と蒸着マスクの収縮量との相関を調査した結果を説明する。
【0069】
本実施例に係る蒸着マスクのマスク本体は、厚さ5μmのニッケルメッキ層である。また、マスク本体のサイズは、G4.5H(450mm×730mm)であり、収縮量測定の基準となるマスク本体の長辺方向の長さは、820mmである。
【0070】
図3は、本実施例に係る、同じ条件で作成された23枚の蒸着マスクの各々における耐熱温度と蒸着マスクの収縮量との相関図である。横軸は、蒸着マスクの収縮量(μm)を示し、縦軸は耐熱温度(℃)を示す。
【0071】
図3に示すように、耐熱温度が高くなるほど、蒸着マスクが収縮する傾向があるという、負の相関関係が確認された。また、この関係を表す線形モデルは、y=-0.4672x+26.413である。
【0072】
上述した線形モデルによれば、蒸着マスクの温度が30℃の場合における蒸着マスクの収縮量を、外挿により求めることができる。蒸着マスクの温度が30℃の場合における蒸着マスクの収縮量は、-7.6μmとなることがわかった。したがって、当該収縮量7.6μmと、マスク本体の長辺方向の長さ820mmと、を式(1)に当てはめることにより、熱収縮率(ppm)は、8.5ppmであることがわかった。
【0073】
マスク本体のサイズがG4.5H(450mm×730mm)の場合、マスク本体の熱収縮率が8ppm未満であると、マスク本体にしわが生じたり、マスク本体がたわんでしまうことがある。つまり、熱収縮率が8ppm未満の場合、蒸着マスクを蒸着装置に吸着することができなくなる。
【0074】
また、上述した線形モデルによれば、蒸着マスクの温度が35℃の場合における蒸着マスクの収縮量は、18.4μmであることがわかる。当該収縮量18.4μmと、マスク本体の長辺方向の長さ820mmと、を式(1)に当てはめることにより、熱収縮率(ppm)は、22.4ppmであることがわかる。
【0075】
上述したように、マスク本体の長辺方向の長さ820mmに対し、このマスク本体の反り量を2mm以下とすることができるマスク本体の収縮量は15μm程度である。そのため、収縮量が15μmを超えると、マスク本体の反り量が2mmを超えてしまう恐れがある。そのため、マスク本体の収縮量の上限は15μmが好ましい。マスク本体の収縮量15μmと、マスク本体の長辺方向の長さ820mmと、式(1)に当てはめると、そのときの熱収縮率は18.3ppmとなる。
【0076】
本実施例に係る蒸着マスクによれば、25℃以上35℃以下におけるマスク本体の熱収縮率を、8ppm~18ppm程度に管理することで良好に蒸着工程を遂行できることが示された。
【0077】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除または設計変更を行ったもの、もしくは、工程の追加、省略または条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0079】
10:蒸着マスク、110:マスク本体、110-1:第1面、110-2:第2面、111:開口領域、112:非開口領域、113:開口、120:マスクフレーム、121:枠部、122:桟部、130:接続部、210:支持基板、210-1:第1面、220:金属層、230:フォトレジスト層、240:第1メッキ層、250:保護層、260:仮固定具、270:第2メッキ層、280:接着層
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3