(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127448
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】赤外線検出器および赤外線検出器を備えたガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20220824BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20220824BHJP
H01L 35/00 20060101ALI20220824BHJP
H01L 31/0232 20140101ALN20220824BHJP
【FI】
G01J1/02 C
G01N21/3504
H01L35/00 S
H01L31/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025609
(22)【出願日】2021-02-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「高感度赤外センサーに向けたプラズモン光源・検出器の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西島 喜明
(72)【発明者】
【氏名】木村 俊也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 裕正
(72)【発明者】
【氏名】上田 剛
(72)【発明者】
【氏名】河口 智博
(72)【発明者】
【氏名】酒井 創一朗
【テーマコード(参考)】
2G059
2G065
5F849
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC06
2G059CC09
2G059EE01
2G059GG02
2G059GG10
2G059HH01
2G059KK01
2G065AA04
2G065AB02
2G065AB14
2G065BA11
5F849BA03
5F849BB07
5F849HA15
5F849LA01
5F849XB05
5F849XB06
(57)【要約】
【課題】本発明は、応答速度の優れた赤外線検出器および赤外線検出器を備えたガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の赤外線検出器1は、基板2と、基板2上に設けられ、赤外線を吸収して熱を発する赤外線吸収体3と、基板2と赤外線吸収体3との間に設けられ、赤外線吸収体からの熱を電気量に変換する熱電変換層4とを備え、赤外線検出器1が、基板2と熱電変換層4との間に設けられ、基板2と熱電変換層4との間の熱伝導を抑制する熱伝導抑制層5と、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間に設けられ、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間を電気的に絶縁する絶縁層6とをさらに備えることを特徴とする。本発明のガスセンサは、赤外線検出器1を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、赤外線を吸収して熱を発する赤外線吸収体と、
前記基板と前記赤外線吸収体との間に設けられ、前記赤外線吸収体からの熱を電気量に変換する熱電変換層と
を備える赤外線検出器であって、
前記赤外線検出器が、
前記基板と前記熱電変換層との間に設けられ、前記基板と前記熱電変換層との間の熱伝導を抑制する熱伝導抑制層と、
前記熱電変換層と前記赤外線吸収体との間に設けられ、前記熱電変換層と前記赤外線吸収体との間を電気的に絶縁する絶縁層と
をさらに備える、
赤外線検出器。
【請求項2】
前記赤外線吸収体が、
前記赤外線を吸収して局在表面プラズモン共鳴を生じさせ得る金属微細構造層と、
前記金属微細構造層の下層に設けられる誘電体層と、
前記金属微細構造層との間で前記誘電体層を挟み込むように前記誘電体層の下層に設けられる金属層と
を備える、
請求項1に記載の赤外線検出器。
【請求項3】
前記熱伝導抑制層が、耐熱性有機高分子材料を含む、
請求項1または2に記載の赤外線検出器。
【請求項4】
前記熱伝導抑制層が、500nm以上、5000nm以下の膜厚を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項5】
前記絶縁層が、無機絶縁材料を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項6】
前記絶縁層が、50nm以上、100nm以下の膜厚を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の赤外線検出器。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の赤外線検出器を備えたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検出器および赤外線検出器を備えたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素などの検知対象ガスを検知するために、たとえば非分散型赤外線分析(NDIR)式などの、赤外線を利用したガスセンサが用いられる。赤外線を利用したガスセンサでは、検知対象ガスに含まれる分子の振動を励起することで赤外線が吸収される性質を利用して、検知対象ガスの同定および定量が行なわれる。検知対象ガスに吸収される赤外線の強度を測定するために、たとえば、赤外線を検出して発熱する赤外線吸収体と、赤外線吸収体からの熱を電気量に変換する熱電変換素子とを備えた赤外線検出器が用いられる。
【0003】
検知対象ガスを高精度かつ高感度で検知するための赤外線吸収体として、たとえば特許文献1に開示された、狭帯域の赤外線吸収特性を有する赤外線吸収体が期待されている。特許文献1の赤外線吸収体は、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる金属微細構造層を基板上に設けることで、局在表面プラズモン共鳴の共鳴条件を満たす特定波長の赤外線の吸収率を向上させることができる。それにより、特定の分子を含む特定の検知対象ガスだけを精度よく、また高感度で検知することが可能となることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
たとえば特許文献1の赤外線吸収体を赤外線検出器に用いる場合、基板の、金属微細構造層が設けられる側とは反対側に熱電変換素子が設けられる。その場合、赤外線を吸収して金属微細構造層で発生した熱が基板を介して熱電変換素子に伝達されるので、熱電変換素子に熱が伝達される際に基板内に熱が拡散してしまって、熱電変換素子への熱伝達が遅延する可能性がある。それに伴って、赤外線検出器の応答速度が遅くなる可能性がある。このように、特許文献1の赤外線吸収体に限らず、基板上に赤外線吸収構造が設けられた赤外線吸収体を用いた赤外線検出器では、基板内への熱拡散により、熱電変換素子への熱伝達の遅延が生じ、応答速度が遅くなる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、応答速度の優れた赤外線検出器および赤外線検出器を備えたガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の赤外線検出器は、基板と、前記基板上に設けられ、赤外線を吸収して熱を発する赤外線吸収体と、前記基板と前記赤外線吸収体との間に設けられ、前記赤外線吸収体からの熱を電気量に変換する熱電変換層とを備える赤外線検出器であって、前記赤外線検出器が、前記基板と前記熱電変換層との間に設けられ、前記基板と前記熱電変換層との間の熱伝導を抑制する熱伝導抑制層と、前記熱電変換層と前記赤外線吸収体との間に設けられ、前記熱電変換層と前記赤外線吸収体との間を電気的に絶縁する絶縁層とをさらに備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記赤外線吸収体が、前記赤外線を吸収して局在表面プラズモン共鳴を生じさせ得る金属微細構造層と、前記金属微細構造層の下層に設けられる誘電体層と、前記金属微細構造層との間で前記誘電体層を挟み込むように前記誘電体層の下層に設けられる金属層とを備えることが好ましい。
【0009】
また、前記熱伝導抑制層が、耐熱性有機高分子材料を含むことが好ましい。
【0010】
また、前記熱伝導抑制層が、500nm以上、5000nm以下の膜厚を有することが好ましい。
【0011】
また、前記絶縁層が、無機絶縁材料を含むことが好ましい。
【0012】
また、前記絶縁層が、50nm以上、100nm以下の膜厚を有することが好ましい。
【0013】
本発明のガスセンサは、前記赤外線検出器を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、応答速度の優れた赤外線検出器および赤外線検出器を備えたガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線検出器を備えるガスセンサを含むガス検知器の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る赤外線検出器の断面構造を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施例の赤外線検出器により得られた赤外線検出信号の変化を示すグラフである。
【
図4】比較例の赤外線検出器により得られた赤外線検出信号の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る赤外線検出器および赤外線検出器を備えるガスセンサを説明する。ただし、以下の実施形態は一例にすぎず、本発明の赤外線検出器およびガスセンサは以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の赤外線検出器1は、赤外線を検出し、赤外線の強度を測定することが可能な検出器である。赤外線検出器1は、赤外線を検出する必要のある様々な用途に適用可能である。以下では、
図1に示されるように、赤外線検出器1を、ガス検知器Mに備えられるガスセンサNの検出器に適用した例を挙げて説明する。ただし、赤外線検出器1は、ガスセンサに限定されることはなく、赤外線撮像装置の検出器としてなど、他の用途にも適用可能である。
【0018】
本実施形態の赤外線検出器1が適用されるガス検知器Mは、検知対象ガスを検知するために用いられる。ガス検知器Mが検知の対象とする検知対象ガスとしては、特に限定されることはなく、たとえば、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、ブタン、イソブタン、水、アンモニア、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫化水素、亜酸化窒素、アセトン、オゾン、六フッ化硫黄、オクタフルオロシクロペンテン、ヘキサフルオロ1、3ブタジエンなど、赤外線の波長領域において吸収ピークを有するガスが例示される。
【0019】
ガス検知器Mは、
図1に示されるように、検知対象ガスを検知するガスセンサNを備えている。ガス検知器Mは、任意で、ガスセンサNを操作するための操作部M1(たとえば操作ボタンなど)と、ガスセンサNにより得られる検知結果を表示する表示部M2(たとえば液晶ディスプレイなど)とを備えている。ガス検知器Mは、内部バッテリまたは外部電源などの図示しない電源から電力が供給されて作動する。
【0020】
ガスセンサNは、赤外線Lを検知対象ガスに照射して、検知対象ガスによって吸収された赤外線の吸収強度(減衰強度)を測定することで、検知対象ガスを検知する。ガスセンサNは、たとえば、公知の非分散型赤外線分析(NDIR)式として構成することができる。ガスセンサNは、本実施形態では、
図1に示されるように、内部空間Vを有する筐体N1と、筐体N1の内部に赤外線Lを放射する赤外線光源N2と、赤外線光源N2からの赤外線Lを反射する反射構造体N3と、赤外線Lを検出する赤外線検出器1と、赤外線光源N2および赤外線検出器1を制御する回路部N4とを備えている。ガスセンサNは、赤外線光源N2、反射構造体N3、赤外線検出器1および回路部N4が筐体N1に一体となって設けられ、単体として取扱い可能なモジュールを形成している。しかし、ガスセンサNは、たとえば回路部N4が筐体N1とは別に設けられてもよく、その構成は図示された例に限定されない。
【0021】
筐体N1は、本実施形態では、赤外線光源N2、反射構造体N3、赤外線検出器1および回路部N4を収容し、内部空間Vに検知対象ガスが供給される部材である。筐体N1は、
図1に示されるように、赤外線光源N2と赤外線検出器1とを結ぶ方向(
図1中、左右方向)に延びる筒状に形成され、その内部に内部空間Vが設けられる。また、筐体N1は、内部空間V内に検知対象ガスを導入するガス導入部(図示せず)と、内部空間Vから検知対象ガスを排出するガス排出部(図示せず)とを備えている。筐体N1では、ガス導入部から検知対象ガスが導入されて、内部空間V内に検知対象ガスが供給されて、ガス排出部から検知対象ガスが排出される。筐体N1は、特に限定されることはなく、たとえば樹脂材料などにより形成される。筐体N1は、本実施形態では一方向に延びる筒状に形成されているが、略直方体形状など他の形状に形成されてもよい。
【0022】
赤外線光源N2は、検知対象ガスを検知するために利用可能な赤外線Lを放射する。赤外線光源N2により放射される赤外線Lは、少なくとも検知対象ガスの吸収スペクトルにおける吸収ピークの波長を有する光を含んでいればよく、その波長の単色光であっても、その波長を含む広い波長範囲の光であってもよい。赤外線光源N2は、
図1に示されるように、回路部N4に通信可能に接続されて、回路部N4によってその出力が制御される。赤外線光源N2としては、特に限定されることはなく、公知の発光ダイオード(LED)や赤外線ランプなどを採用することができる。赤外線光源N2は、たとえば、連続光やパルス光を放射する。なお、赤外線光源N2は、少なくとも赤外線を放射することができればよく、放射する光に赤外線以外の波長域の光が含まれていても構わない。
【0023】
反射構造体N3は、筐体N1の内部空間V内において、赤外線光源N2から放射された赤外線L、または他の反射構造体N3の部分から反射された赤外線Lを反射して、さらに他の反射構造体N3の部分、または赤外線検出器1に赤外線Lを導く。反射構造体N3は、本実施形態では、
図1に示されるように、内部空間Vに隣接する筐体N1の内面に設けられる。反射構造体N3としては、特に限定されることはなく、公知の反射鏡などを採用することができる。
【0024】
回路部N4は、
図1に示されるように、赤外線光源N2および赤外線検出器1に通信可能に接続され、赤外線光源N2および赤外線検出器1を制御する。また、回路部N4は、赤外線光源N2から放射された赤外線Lの強度と、赤外線検出器1により測定された赤外線Lの強度とを比較することで、検知対象ガスの有無を判定し、あるいは検知対象ガスの濃度を算出する。回路部N4は、たとえば公知の中央演算処理装置(CPU)により構成することができる。
【0025】
赤外線検出器1は、赤外線Lを検出して、赤外線Lの強度を測定する。赤外線検出器1は、
図1に示されるように、赤外線光源N2から放射されて筐体N1の内部空間V内を伝搬した後の赤外線Lを検出する。赤外線検出器1は、赤外線光源N2から放射された赤外線L、および/または反射構造体N3から反射された赤外線Lを検出するように位置合わせされる。赤外線検出器1は、以下で詳しく述べるように、赤外線Lが照射されて、吸収した赤外線Lに対応した電圧などの電気量を出力する。赤外線検出器1は、回路部N4に通信可能に接続されて、出力した電気量を回路部N4に送信する。
【0026】
赤外線検出器1は、
図2に示されるように、基板2と、基板2上に設けられ、赤外線Lを吸収して熱を発する赤外線吸収体3と、基板2と赤外線吸収体3との間に設けられ、赤外線吸収体3からの熱を電気量に変換する熱電変換層4とを備えている。赤外線検出器1は、赤外線吸収体3に赤外線Lが照射された際に、赤外線吸収体3が赤外線を吸収して熱を発し、その熱が赤外線吸収体3から熱電変換層4に移動し、熱電変換層4がその熱を電気量に変換し、その電気量に基づいて赤外線Lを検出し、赤外線Lの強度を測定する。
【0027】
基板2は、赤外線吸収体3、熱電変換層4、および以下で説明する追加の層を含む積層構造を支持する。基板2は、この積層構造を支持することができれば、特に限定されることはなく、半導体材料、誘電体材料、または金属材料により構成することができる。たとえば、基板2としては、シリコン基板、サファイア基板、またはガラス基板を採用することができる。基板2の厚さについては、特に限定されることはないが、強度の観点から、たとえば0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.7mm以上、よりさらに好ましくは0.9mm以上に設定され、取り扱い容易性の観点から、たとえば2.0mm以下、好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下、よりさらに好ましくは1.4mm以下に設定される。
【0028】
赤外線吸収体3は、赤外線を吸収して熱を発することができれば、その構造は特に限定されない。本実施形態では、赤外線吸収体3は、
図2に示されるように、赤外線を吸収して局在表面プラズモン共鳴を生じさせ得る金属微細構造層31と、金属微細構造層31の下層に設けられる誘電体層32と、金属微細構造層31との間で誘電体層32を挟み込むように誘電体層32の下層に設けられる金属層33とを備えている。赤外線吸収体3では、赤外線が照射されたときに、局在表面プラズモン共鳴が生じ、赤外線の吸収率が増加する。特に、赤外線吸収体3では、誘電体層32を介して金属微細構造層31と金属層33とが積層されることで、局在表面プラズモン共鳴が増強される。これは、赤外線が照射されて局在表面プラズモン共鳴が生じたときに、金属微細構造層31と金属層33との間に積層された誘電体層32内に強い電場が局在することになり、局在した電場の影響を受けて局在表面プラズモン共鳴が増強されるためだと考えられる。なお、赤外線吸収体3は、図示されるように、金属微細構造層31、誘電体層32および金属層33のそれぞれの層間に密着性を確保するなどの目的のためにクロム(Cr)やチタン(Ti)などの接着層A1が設けられてもよい(図示された例では、誘電体層32と金属層33との間にのみ設けられている)。
【0029】
金属微細構造層31は、共鳴条件を満たす赤外線を吸収して局在表面プラズモン共鳴を生じさせ得る層である。金属微細構造層31に赤外線が照射されると、金属微細構造層31の表面において自由電子のプラズモン振動が励起され、金属微細構造層31内で自由電子の粗密が生じることで、金属微細構造層31に分極状態が生じる。照射される赤外線の波長と金属微細構造層31の誘電率とが互いに共鳴条件を満足するとき、赤外線によって金属微細構造層31に生じる分極が非常に大きくなって、金属微細構造層31に局在表面プラズモン共鳴が生じる。赤外線吸収体3は、金属微細構造層31において局在表面プラズモン共鳴が生じることによって、共鳴条件を満たす赤外線の吸収率が高くなる。金属微細構造層31は、照射される赤外線により局在表面プラズモン共鳴を生じさせることができれば、その形成方法は特に限定されることはなく、たとえば公知の半導体製造技術、具体的にはフォトリソグラフィーにより形成することができる。
【0030】
金属微細構造層31は、局在表面プラズモン共鳴を生じさせることができれば、その構造は特に限定されない。金属微細構造層31は、たとえば、複数の島状の金属体が2次元に分散配置されたナノディスクアレイ構造を有していてもよいし、金属層に複数の孔が2次元に分散配置されたナノホールアレイ構造を有していてもよい。金属微細構造層31は、本実施形態では、
図2に示されるように、基板2の表面に対して垂直方向の上から見たときに略円形である略円板状の複数の金属微細構造体31aを備えている。複数の金属微細構造体31aのそれぞれは、誘電体層32上で、互いに間隔を空けて配列されている。
【0031】
金属微細構造体31aの形状および大きさは、特に限定されることはなく、赤外線を照射されたときに金属微細構造体31aに局在表面プラズモン共鳴を生じさせるように適宜設定することができる。たとえば形状に関しては、金属微細構造体31aの形状に応じて局在表面プラズモン共鳴を生じさせる赤外線の波長が変化する。金属微細構造体31aの形状を、たとえば棒状や板状とすることで、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる赤外線の波長が長波長側にシフトする。したがって、金属微細構造体31aは、局在表面プラズモン共鳴を生じさようとする赤外線の波長に応じて、本実施形態のように略円板状や、その他にも略矩形板状、略半球状、略棒状など任意の形状を選択することができる。また、たとえば大きさに関しては、金属微細構造体31aの大きさに応じて局在表面プラズモン共鳴を生じさせる赤外線の波長が変化する。金属微細構造体31aが大きくなると(たとえば金属微細構造体31aの直径が大きくなると)、局在表面プラズモン共鳴を生じさせる赤外線の波長が長波長側にシフトする。したがって、金属微細構造体31aは、局在表面プラズモン共鳴を生じさせようとする赤外線の波長に応じて、その大きさを適宜選択することができる。
【0032】
金属微細構造体31aは、特に限定されないが、たとえば後述するように誘電体層32が有機高分子材料を含む場合に、有機高分子材料に含まれる分子結合の振動に起因した赤外線の吸収強度を高めるという観点から、たとえば1000nm以上、5000nm以下の直径を有し、その中でも、1000nm以上、2000nm以下の直径を有することが好ましく、1000nm以上、1800nm以下の直径を有することがさらに好ましく、1000nm以上、1600nm以下の直径を有することがよりさらに好ましい。
【0033】
金属微細構造層31は、照射される赤外線により局在表面プラズモン共鳴を生じさせることができればよく、その膜厚は特に限定されない。金属微細構造層31の膜厚は、局在表面プラズモン共鳴を増強させるという観点から、10~200nmであることが好ましく、30~100nmであることがさらに好ましく、35nm~75nmであることがよりさらに好ましく、40nm~70nmであることが最も好ましい。
【0034】
金属微細構造層31は、照射される赤外線により局在表面プラズモン共鳴を生じさせる金属により構成されていれば、その構成金属は特に限定されない。金属微細構造層31は、たとえば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成される。金属微細構造層31は、表面の化学的安定性の観点および局在表面プラズモン共鳴による赤外線の吸収率を高めるという観点から、たとえば、金(Au)、銀(Ag)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。表面の化学的安定性の観点からは、金(Au)が好ましく、局在表面プラズモン共鳴による赤外線の吸収率を高めるという観点からは、銀(Ag)が好ましい。
【0035】
誘電体層32は、
図2に示されるように、金属微細構造層31と金属層33との間に積層されて、金属微細構造層31に局在表面プラズモン共鳴が生じた際に電場が局在し得る層である。誘電体層32は、金属層33の表面内で連続した膜として形成される。誘電体層32は、特に限定されることなく、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着、スピンコートなど、公知の成膜手法により形成することができる。
【0036】
誘電体層32は、金属微細構造層31と金属層33との間に積層されて、金属微細構造層31に局在表面プラズモン共鳴を生じさせることができれば、その構成材料は、特に限定されることはない。誘電体層32は、たとえば、酸化シリコン(SiO2など)、酸化アルミニウム(Al2O3など)、窒化シリコン(Si3N4など)、シリコン(Si)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、酸化チタン(TiO2など)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成することができる。誘電体層32は、金属微細構造層31で生じる局在表面プラズモンの消失を抑制するという観点から、酸化シリコン(SiO2など)、酸化アルミニウム(Al2O3など)、窒化シリコン(Si3N4など)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。
【0037】
上述した無機系材料を含む誘電体層32の膜厚は、特に限定されることはないが、金属微細構造層31で生じる局在表面プラズモンが金属層33により影響を受けて消失するのを抑制するという観点から、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることがよりさらに好ましく、50nm以上であることが最も好ましい。また、誘電体層32の膜厚は、金属微細構造層31により生じる局在表面プラズモン共鳴を増強し、それによって赤外線の吸収率を向上させるという観点から、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることがよりさらに好ましく、80nm以下であることが最も好ましい。
【0038】
誘電体層32は、以上に述べた材料以外にも、赤外線を吸収して振動が励起され得る分子結合を有する有機高分子材料を含んでいてもよい。それにより、赤外線吸収体3に赤外線が照射された際に、分子振動の励起に起因した赤外線の吸収が生じる。有機高分子材料に含まれる分子結合の振動の励起に起因した吸収ピーク(たとえばC=O結合の振動に起因した吸収ピーク)の波長幅は、局在表面プラズモン共鳴に起因した吸収ピークの波長幅に比べて小さい。したがって、この分子振動の励起に起因した吸収ピークを利用することで、狭帯域の赤外線吸収特性を実現することができる。
【0039】
また、分子振動の励起に起因した吸収と同時に局在表面プラズモン共鳴に起因した吸収が生じることで、分子振動の励起に起因した吸収による赤外線の吸収率が大きくなる。したがって、赤外線吸収体3は、金属微細構造層31と金属層33との間に有機高分子材料を含む誘電体層32を積層することで、狭い波長幅の赤外線を高い吸収率で吸収することができる。特に、局在表面プラズモン共鳴に起因した吸収ピークの波長が、分子振動の励起に起因した吸収ピークの波長に近いほど、分子振動の励起に起因した吸収による赤外線の吸収率が大きくなる。これは、誘電体層32における分子振動と金属微細構造層31における局在表面プラズモン共鳴とが強結合することによるものと考えられる。分子振動に起因した吸収ピークの強度を増強し、その吸収ピークの波長域の赤外線の吸収率を増大させるという観点から、局在表面プラズモン共鳴に起因した吸収ピークの波長を、分子振動に起因した吸収ピークの波長に近くなるように設定することが好ましい。たとえば、局在表面プラズモン共鳴に起因した吸収ピークの波長は、分子振動に起因した吸収ピークの波長の±3μmの範囲であることが好ましく、±2μmの範囲であることがさらに好ましく、±1μmの範囲であることがよりさらに好ましい。
【0040】
誘電体層32に含まれる有機高分子材料としては、赤外線を吸収して振動が励起され得る分子結合を有していればよく、特に限定されることはない。有機高分子材料は、赤外性吸収体3が赤外線を吸収して熱を発する際に、その熱に耐え得る耐熱性を有する耐熱性有機高分子材料であることが好ましい。ここでいう耐熱性とは、加熱されても大きく変性することがないことを意味し、たとえば、耐熱性有機高分子材料を、少なくとも100~200℃の範囲で、好ましくは200~300℃の範囲で、さらに好ましくは300~400℃の範囲で、よりさらに好ましくは400~500℃の範囲で加熱しても、赤外線を吸収して振動が励起され得る分子結合が、加熱前と比べて、少なくとも60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上残存する性質を意味する。
【0041】
耐熱性有機高分子材料としては、耐熱性を有し、赤外線を吸収して振動が励起され得る分子結合を有していればよく、特に限定されることはないが、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性エラストマー樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂および尿素樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。耐熱性有機高分子材料は、局在表面プラズモン共鳴をより増強し、分子振動をより増強するという観点から、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂および熱硬化性エラストマー樹脂からなる群から選択される1種または2種以上を含むことがさらに好ましい。
【0042】
有機高分子材料を含む誘電体層32の膜厚は、特に限定されることはないが、誘電体層32に含まれる分子結合の振動を励起することによる赤外線の吸収強度を高める観点から、50nm以上が好ましく、100nm以上がさらに好ましく、200nm以上がよりさらに好ましい。また、誘電体層32の膜厚は、局在表面プラズモン共鳴をより増強して、誘電体層32に含まれる分子結合の分子振動をより増強するという観点から、600nm以下が好ましく、500nm以下がさらに好ましく、400nm以下がよりさらに好ましい。
【0043】
金属層33は、誘電体層32を介して金属微細構造層31と積層されることで、金属微細構造層31で生じる局在表面プラズモン共鳴を増強させる。金属層33は、少なくとも金属成分を含み、導電性を有する層として形成される。金属層33は、本実施形態では、
図2に示されるように、誘電体層32の下層に連続した膜として形成される。金属層33は、局在表面プラズモン共鳴を増強させることができれば、特に限定されることはなく、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着など、公知の成膜手法により形成することができる。
【0044】
金属層33は、局在表面プラズモン共鳴を増強させることができればよく、その膜厚は特に限定されない。金属層33は、赤外線を反射させるとともに、赤外線の透過を抑制するという観点から、赤外線反射率が赤外線透過率よりも高くなるように構成されることが好ましい。金属層33の膜厚は、赤外線を反射させるとともに、赤外線の透過を抑制するという観点から、たとえば、100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましく、200nm以上がよりさらに好ましい。また、金属層33の膜厚は、均一性の観点から、1000nm以下が好ましく、600nm以下がさらに好ましく、400nm以下がよりさらに好ましい。
【0045】
金属層33は、局在表面プラズモン共鳴を増強させることができればよく、その構成材料は特に限定されない。金属層33は、たとえば、赤外線に対する反射率の高い金属により構成されることが好ましく、その観点から、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、アルミニウム(Al)、オスミウム(Os)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることが好ましい。また、金属層33としては、たとえばスズ(Sn)およびインジウム(In)という金属成分を含む酸化スズインジウム(ITO)などを採用することもできる。金属層33は、表面の化学的安定性の観点から、金(Au)、銀(Ag)からなる群から選択される1種または2種以上を含んで構成されることがさらに好ましい。表面の化学的安定性の観点からは、金(Au)が最も好ましい。
【0046】
熱電変換層4は、赤外線吸収体3からの熱伝導が可能に配置され、赤外線吸収体3から伝導した熱の熱量を電気量に変換する層である。変換される電気量は、電圧、電流、抵抗値、静電容量など、電気信号として出力可能な電気に関連する量である。赤外線検出器1は、熱電変換層4が基板2と赤外線吸収体3との間に設けられ、基板2を介在することなく赤外線吸収体3に近接して設けられることで、基板の、赤外線吸収体が設けられる側とは反対側に熱電変換層が設けられる場合と比べて、吸収された赤外線の電気量への変換の応答速度が改善される。本実施形態では、熱電変換層4は、基板2と赤外線吸収体3との間に連続した膜として形成される。熱電変換層4は、特に限定されることなく、抵抗加熱蒸着、スパッタリング、電子ビーム蒸着、スピンコートなど、公知の成膜手法により形成することができる。
【0047】
熱電変換層4は、赤外線吸収体3からの熱を電気量に変換することができれば、特に限定されることはなく、公知の熱電材料を用いて形成することができる。使用可能な熱電材料としては、たとえば、Bi
2Te
3、PbTeなどのテルル化合物系、NaCo
2O
4、CaCoO
3などの金属酸化物系、SiGe、β-FeSi
2などのシリコン化合物、ZnSb、lnSb、Zn
4Sb
3などのアンチモン化合物、コンスタンタン、クロメル、アルメル、白金ロジウムなどの合金や、Au、Al、Cu、Fe、Pt、Ni、Cr、W、Taなどの金属を例示することができる。本実施形態では、熱電変換層4は、
図2に示されるように、クロメル電極41およびアルメル電極42により形成した熱電対として構成される。熱電変換層4は、熱伝導抑制層5上でクロメル電極41およびアルメル電極42が互いに重なるように形成され、この重なり部分の上層に絶縁層6が形成される。熱電対として構成される熱電変換層4は、赤外線吸収体3から伝導した熱により生じる起電力(電圧)を電気量として出力する。
【0048】
熱電変換層4は、赤外線吸収体3からの熱を電気量に変換することができればよく、その膜厚は特に限定されない。熱電変換層4の膜厚は、熱電変換効率を高める観点から、たとえば、100nm以上が好ましく、150nm以上がさらに好ましく、200nm以上がよりさらに好ましい。また、熱電変換層4の膜厚は、均一性の観点から、1000nm以下が好ましく、600nm以下がさらに好ましく、400nm以下がよりさらに好ましい。
【0049】
赤外線検出器1は、
図2に示されるように、上述した基板2、赤外線吸収体3および熱電変換層4に加えて、基板2と熱電変換層4との間に設けられる熱伝導抑制層5と、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間に設けられる絶縁層6とをさらに備えている。つまり、赤外線検出器1は、基板2の上層に熱伝導抑制層5が設けられ、熱伝導抑制層5の上層に熱電変換層4が設けられ、熱電変換層4の上層に絶縁層6が設けられ、絶縁層6の上層に赤外線吸収体3が設けられている。ただし、赤外線検出器1は、図示されるように、それぞれの層間の密着性を確保するなどの目的のために、それぞれの層間にクロム(Cr)やチタン(Ti)などの接着層A2が設けられてもよい(図示された例では、赤外線吸収体3と絶縁層6との間にのみ設けられている)。
【0050】
熱伝導抑制層5は、基板2と熱電変換層4との間の熱伝導を抑制する層である。赤外線検出器1は、熱伝導抑制層5により基板2と熱電変換層4との間の熱伝導を抑制することにより、熱電変換層4に伝達される熱が基板2に拡散するのを抑制することができる。それによって、赤外線吸収体3から熱電変換層4に伝達された熱をより正確に電気量に変換することができ、吸収された赤外線の電気量への変換において高い応答速度を得ることができる。
【0051】
熱伝導抑制層5は、基板2と熱電変換層4との間の熱伝導を抑制することができれば、特に限定されることはなく、公知の低熱伝導率材料により形成することができる。低熱伝導率材料としては、20℃における熱伝導率が0.8W/m・K以下、好ましくは0.6W/m・K以下、より好ましくは0.4W/m・K以下、よりさらに好ましくは0.3W/m・K以下の材料を用いることができる。そのような低熱伝導率材料として、耐熱性有機高分子材料が例示され、熱伝導抑制層5は、耐熱性有機高分子材料を含むことが好ましい。耐熱性有機高分子材料としては、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性エラストマー樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂および尿素樹脂からなる群から選択される1種または2種以上が例示される。
【0052】
熱伝導抑制層5は、基板2と熱電変換層4との間の熱伝導を抑制することができればよく、その膜厚は特に限定されない。熱伝導抑制層5の膜厚は、熱伝導をより抑制するという観点から、200nm以上が好ましく、400nm以上がさらに好ましく、500nm以上がよりさらに好ましい。熱伝導抑制層5の膜厚は、熱伝導抑制層5の均一性の観点から、5000nm以下が好ましく、3000nm以下がさらに好ましく、1000nm以下がよりさらに好ましい。
【0053】
絶縁層6は、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間を電気的に絶縁する層である。赤外線検出器1は、絶縁層6により熱電変換層4と赤外線吸収体3との間を電気的に絶縁することで、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間で電流が流れるのを抑制して、熱電変換層4で変換した電気量をより正確に出力することができる。特に、本実施形態のように、赤外線吸収体3に局在表面プラズモン共鳴を生じさせる構造を採用している場合には、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間で電流が流れるのを抑制することで、局在表面プラズモン共鳴の減衰を抑制することができる。
【0054】
絶縁層6は、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間を電気的に絶縁することができれば、特に限定されることはなく、公知の高抵抗材料により形成することができる。高抵抗材料としては、体積抵抗率が106Ω・cm以上、好ましくは109Ω・cm以上、さらに好ましくは1011Ω・cm以上、よりさらに好ましくは1013Ω・cm以上の材料を用いることができる。絶縁層6は、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間の絶縁性を担保しつつ、赤外線吸収体3から熱電変換層4への熱伝導を阻害しない材料により形成されることが好ましい。そのような観点から、絶縁層6は、たとえば上述した熱伝導抑制層5よりも熱伝導率の高い材料により形成されることが好ましく、より具体的には、無機(電気)絶縁材料を含むことが好ましい。無機絶縁材料としては、たとえば、酸化シリコン(SiO2など)、窒化シリコン(Si3N4など)、酸化アルミニウム(Al2O3など)、酸化ハフニウム(HfO2など)、酸化ジルコニウム(ZrO2など)、酸化チタン(TiO2など)からなる群から選択される1種または2種以上が例示される。
【0055】
絶縁層6は、熱電変換層4と赤外線吸収体3との間を電気的に絶縁することができればよく、その膜厚は特に限定されない。絶縁層6の膜厚は、絶縁性の観点から、10nm以上が好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上がよりさらに好ましい。また、絶縁層6の膜厚は、熱伝導性の観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がさらに好ましく、100nm以下がよりさらに好ましい。
【実施例0056】
以下、実施例をもとに、本実施形態の赤外線検出器を説明する。ただし、本発明の赤外線検出器は、以下の実施例に限定されることはない。
【0057】
(赤外線検出器)
実施例の赤外線検出器として、
図2に示される赤外線検出器1を作製した。作製した赤外線検出器1の各構成要素の作製条件は、以下の通りであった。
赤外線吸収体3:
金属微細構造層31:Au(構成材料)、1000nm(金属微細構造体31aの直径)、50nm(膜厚)、電子線リソグラフィー+抵抗加熱蒸着(成膜方法)
誘電体層32:SiO
2(構成材料)、100nm(膜厚)、電子ビーム蒸着(成膜方法)
接着層A1:Cr(構成材料)、5nm(膜厚)、抵抗加熱蒸着(成膜方法)
金属層33:Au(構成材料)、200nm(膜厚)、抵抗加熱蒸着(成膜方法)
接着層A2:Cr(構成材料)、5nm(膜厚)、抵抗加熱蒸着(成膜方法)
絶縁層6:SiO
2(構成材料)、60nm(膜厚)、電子ビーム蒸着(成膜方法)
熱電変換層4:クロメル(クロメル電極41用材料)およびアルメル(アルメル電極42用材料)、200nm(膜厚)、電子ビーム蒸着(成膜方法)
熱伝導抑制層5:ポリイミド樹脂(真空重合法で作製したポリイミド樹脂、または株式会社IST製Pyre-M.L.)(構成材料)、3000nm(膜厚)、スピンコート(成膜方法)
基板2:シリコン基板(厚さ:0.7mm)
【0058】
比較例の赤外線検出器として、熱電変換素子の上に基板を配置し、基板の上に接着層を介して赤外線吸収体を配置した赤外線検出器を作製した。作製した赤外線検出器の基板、接着層および赤外線吸収体としては、実施例の赤外線検出器の基板2、接着層A2および赤外線吸収体3と同じものを用いた。熱電変換素子としては、実施例の赤外線検出器の熱電変換層4と同様に、クロメル-アルメル熱電対を用いた。比較例では、基板の、赤外線吸収体が設けられる側とは反対側に、実施例と同様に、互いに重ね合わされる部分を有するようにクロメル電極およびアルメル電極を電子ビーム蒸着により形成した。
【0059】
(赤外線検出器の応答特性)
実施例の赤外線検出器1に赤外線を照射したときに熱電変換層4に生じた起電力(電圧)を測定した結果を
図3に示す。用いた赤外線は、タングステンフィラメント型光源から放射された広い波長領域の赤外線を含む熱放射赤外線で、その放射強度は、1.0mW/srであった。赤外線は、赤外線検出器1の表面に対して略垂直に照射した。熱電変換層4に生じた起電力は、ポテンショスタットによって測定した。
図3は、メカニカル光学シャッターによって5秒毎に赤外線をON/OFFしたときに熱電変換層4に生じた起電力(電圧)の変化を示している。
図3を参照すると、赤外線のON/OFFに対応して電圧が変化していることから、赤外線検出器1では、赤外線を吸収することによって熱が発生し、その熱によって熱電変換層4に起電力が発生していることが分かる。特に、
図3では、赤外線のON/OFFのタイミングにおいて電圧が急激に変化しており、赤外線をON/OFFしてから約0.3秒程度で安定した電圧を示している。それに対して、同じ条件で測定した比較例の赤外線検出器の応答特性を示す
図4を参照すると、赤外線をON/OFFしてから電圧が緩やかに変化して約20秒以上経過してようやく所定の電圧まで達している。このことから、本実施形態の赤外線検出器1では、比較例の赤外線検出器と比べて、高い応答速度が得られていることが分かる。