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特開2022-127474医療用切削具及び医療用切削具セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127474
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】医療用切削具及び医療用切削具セット
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/16 20060101AFI20220824BHJP
【FI】
A61B17/16
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025646
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】521075284
【氏名又は名称】コンメッド・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】史野 根生
(72)【発明者】
【氏名】野坂 修治
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL04
4C160LL27
4C160LL28
4C160LL29
(57)【要約】
【課題】大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を容易に形成することが可能な医療用切削具及び医療用切削具セットを提供する。
【解決手段】本開示の医療用切削具100は、軸線O方向に直交する横断面が略矩形形状を有し、外周面に第1刃部11が設けられた主切削部10と、主切削部10から先端方向に向かって縮幅する略角錐台形状を有する傾斜部20とを備えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に直交する横断面が略矩形形状を有し、外周面に第1刃部が設けられた主切削部と、
前記主切削部から先端方向に向かって縮幅する略角錐台形状を有する傾斜部と
を備えることを特徴とする医療用切削具。
【請求項2】
左右方向に並んで配置され、軸線方向に延びる2つの貫通穴を備える、請求項1に記載の医療用切削具。
【請求項3】
前記傾斜部における上面及び下面には、第2刃部が設けられている、請求項1又は2に記載の医療用切削具。
【請求項4】
前記第2刃部は、前記傾斜部の前記上面及び前記下面に形成された凹部に設けられている、請求項3に記載の医療用切削具。
【請求項5】
前記第2刃部は、前記傾斜部の前記上面、前記下面及び側面に形成されており、前記医療用切削具の先端部まで延びている、請求項3に記載の医療用切削具。
【請求項6】
前記第2刃部は、表刃が軸線方向に対してなす角度が、裏刃が軸線方向に対してなす角度よりも大きい刃部を有する、請求項3から5のいずれか一項に記載の医療用切削具。
【請求項7】
前記傾斜部から先端方向に向かって延びる先端刃部を更に備え、該先端刃部の外周面には、第3刃部が設けられている、請求項1から4及び6のいずれか一項に記載の医療用切削具。
【請求項8】
請求項5又は7に記載の医療用切削具と、
主切削部の前端部から先端部までの軸線方向長さが前記医療用切削具よりも短く、先端部に刃部を設けていない第2医療用切削具と
を備えたことを特徴とする医療用切削具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用切削具及び医療用切削具セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、両端骨片付き膝蓋腱を用いた前十字靱帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)再建術においては、例えば、まず略矩形形状の断面を有する直方体形状の開口部(空隙)を大腿骨付着部に作製すると共に、脛骨側にも略矩形形状の関節内開口部(空隙)を形成する。そして、両端骨片付き膝蓋腱の両端の直方体形状の骨片を、それぞれ大腿骨及び脛骨の開口部に挿入し、ねじ等で固定することにより腱の移植を行っている(例えば、非特許文献1参照)。このように、直方体形状の骨片を略矩形形状の断面を有する空隙に挿入することによって、大腿骨及び脛骨に対する各骨片の向きが定まるため、膝蓋腱が望ましい形状および向きを維持した状態で移植することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】史野根生 他、“前十字靱帯損傷に対する再建術 -膝蓋腱を用いた解剖学的長方形骨孔再建術-”、「膝靱帯手術のすべて」、MEDICAL VIEW社、2013年3月25日刊行、p.136 - 146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のACL再建術では、まず所定間隔で平行に並ぶ2つの穴をドリル等で形成し、その後に、拡張器(dilator)を2つの穴の間に叩き込んで押し広げることで、略矩形形状の断面を有する空隙を形成していた。しかし、上述の方法では、略矩形形状の断面を有する空隙を容易に形成することが難しく、改善の余地があった。
【0005】
本開示の目的とするところは、大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を容易に形成することが可能な医療用切削具及び医療用切削具セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の医療用切削具は、
軸線方向に直交する横断面が略矩形形状を有し、外周面に第1刃部が設けられた主切削部と、
前記主切削部から先端方向に向かって縮幅する略角錐台形状を有する傾斜部と
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、左右方向に並んで配置され、軸線方向に延びる2つの貫通穴を備えることが好ましい。
【0008】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、前記傾斜部における上面及び下面には、第2刃部が設けられていることが好ましい。
【0009】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、前記第2刃部は、前記傾斜部の前記上面及び前記下面に形成された凹部に設けられていることが好ましい。
【0010】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、前記第2刃部は、前記傾斜部の前記上面、前記下面及び側面に形成されており、前記医療用切削具の先端部まで延びていることが好ましい。
【0011】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、前記第2刃部は、表刃が軸線方向に対してなす角度が、裏刃が軸線方向に対してなす角度よりも大きい刃部を有することが好ましい。
【0012】
また、本開示の医療用切削具は、上記構成において、前記傾斜部から先端方向に向かって延びる先端刃部を更に備え、該先端刃部の外周面には、第3刃部が設けられていることが好ましい。
【0013】
また、本開示の医療用切削具セットは、
上記医療用切削具と、
主切削部の前端部から先端部までの軸線方向長さが前記医療用切削具よりも短く、先端部に刃部を設けていない第2医療用切削具と
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を容易に形成することが可能な医療用切削具及び医療用切削具セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の第1実施形態である医療用切削具の斜視図である。
図2】本開示の第1実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大平面図である。
図3】本開示の第1実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大側面図である。
図4】本開示の第1実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大正面図である。
図5図2におけるA部拡大図である。
図6図2におけるB-B断面図である。
図7】骨に略矩形形状断面の空隙を形成する手順を示すフローチャートである。
図8】本開示の第2実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大平面図である。
図9】本開示の第2実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大側面図である。
図10】本開示の第2実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大正面図である。
図11】本開示の第3実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大平面図である。
図12】本開示の第3実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大側面図である。
図13】本開示の第3実施形態である医療用切削具のヘッド部部分の拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本開示の実施形態である、医療用切削具100を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本開示の第1実施形態である、医療用切削具100全体の構成を示す斜視図である。本実施形態に係る医療用切削具100は、切削対象である大腿骨や脛骨などの骨を切削するヘッド部1と、ヘッド部1の近位部40に固定され、軸線O方向に延びるシャフト50とを備えている。
【0018】
なお、本願明細書、特許請求の範囲、及び図面において、本実施形態に係る医療用切削具100は、図1におけるX軸方向を左右方向とする。また、図1におけるY軸方向を上下方向とし、Y軸方向プラス方向を上方向、Y軸方向マイナス方向を下方向とする。また、図1におけるZ軸方向を軸線O方向とし、Z軸方向プラス方向を先端方向とし、Z軸方向マイナス方向を近位方向とする。
【0019】
ヘッド部1は、軸線O方向に直交する横断面(XY平面に沿う断面)が、左右方向に長い略矩形(長方形)形状を有する主切削部10と、主切削部10から先端方向に向かって縮幅し略角錐台形状を有する傾斜部20と、傾斜部20から更に先端方向に向かって縮幅する先端刃部30と、主切削部10の近位側に設けられた近位部40とを備えている。
【0020】
本実施形態において、ヘッド部1は、主切削部10、傾斜部20、先端刃部30及び近位部40がマルテンサイト系ステンレス鋼(SUS420J2及びSUS440Cなど)や析出硬化系ステンレス鋼(SUS630)で一体形成されている。なお、ヘッド部1は、複数の部材を組み合わせて構成してもよいし、異なる材質の部材を組み合わせてもよい。ヘッド部1の材料には、様々な金属、セラミックスを用い得るが、体内で使用するという観点から腐食性に優れている(上述の材料以外では、例えばSUS316Lなど)ことが好ましい。また、主切削部10、傾斜部20、先端刃部30には、SUS420J2の他、機械的強度に優れたオーステナイト系のSUS302や耐摩耗性に優れたマルテンサイト系のSUS403など他のステンレス鋼などを用いることもできる。ヘッド部1の材料として、上述の特性を備えたステンレス鋼以外の材料を用いてもよい。
【0021】
主切削部10は、上述のように、横断面(XY平面に沿う断面)が、左右方向に長い略矩形(長方形)形状を有しており、上下左右の外周面には、骨に形成する空隙が略矩形形状の断面を有するように整形するための第1刃部11が設けられている。
【0022】
第1刃部11は、図2及び図3に示すように、主切削部10の外周面を取り囲むように形成された鋸状の刃部である。第1刃部11は、図5に示すように、表刃11a(先端側(Z軸方向プラス側)の刃面)が軸線O方向に対してなす角度(図5の例では45度以上)が、裏刃11b(近位側(Z軸方向マイナス側)の刃面)が軸線O方向に対してなす角度(図5の例では45度以下)よりも大きい。このような構成によって、ヘッド部1を後述する駆動部により先端方向に移動させて第1刃部11を骨に押し当てたときに骨が良好に切削される。なお、本実施形態では、後述する傾斜部20の第2刃部21a,23a、先端刃部30の第3刃部31についても、図5に示す第1刃部11と同様に、表刃が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃が軸線O方向に対してなす角度よりも大きくなるように方向付けられている。
【0023】
なお、本実施形態において、第1刃部11は、主切削部10の上下左右の各外周面の全領域に設けられているが、この態様には限定されず、主切削部10の上下左右の各外周面が、それぞれ少なくとも一部の領域に第1刃部11を有していればよい。また、本実施形態に係る医療用切削具100を用いて、関節内から外側に向かって大腿骨を切削するような場合、周囲の組織、例えばPCL(後十字靭帯)に接触して損傷しないように、主切削部10の左右方向(X軸方向)片側端部のYZ平面に沿う面に第1刃部11を設けなくてもよい。
【0024】
また、本実施形態では、第1刃部11の各刃部は、XY平面に沿って主切削部10の外周面を取り囲むように形成されているが、この態様には限定されず、XY平面に対して所定の角度をなすように形成されていてもよい。
【0025】
傾斜部20は、図2及び図3等に示すように、主切削部10から先端方向に向かって上下方向及び左右方向の幅が縮幅する略角錐台形状を有している。傾斜部20は、図2及び図4に示すように、上面21及び下面23における左右方向中央部には、それぞれ第2刃部21a,23aが設けられている。傾斜部20の上面21及び下面23は、左右方向中央部が左右方向端部よりも上下方向に凹む凹部が形成されており、第2刃部21a,23aは、当該凹部に設けられている。これによって、第2刃部21a,23aは、図3及び図6に示すように、各刃部が上面21及び下面23から上下方向外側にはみ出ないように設けられている。この構成によって、後述するように、大腿骨や脛骨などの骨に所定間隔で平行に並ぶ2つの穴をドリル等で形成した後、2つのドリル穴の間の壁部を傾斜部20で上下に押し広げる際に、傾斜部20の上面21及び下面23の第2刃部21a,23aが壁に引っ掛かることがない。
【0026】
なお、第2刃部21a,23aについても、第1刃部11と同様に、表刃21a1,23a1が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃21a2,23a2が軸線O方向に対してなす角度よりも大きくなるように形成されている(図6参照)。この構成によって、第2刃部21a,23aを2つの穴の間の壁部に押し当てたときに、骨が良好に切削されるように構成されている。なお、傾斜部20に第2刃部21a,23aを必ずしも設ける必要はない。第2刃部21a,23aを設けない場合には、ヘッド部1を骨に押し込んだときに、傾斜部20は2つの穴の間の壁部を上下に押し広げるように作用する。
【0027】
本実施形態では、図1及び図4等に示すように、軸線Oを挟んで左右方向に並んで配置された2本の貫通穴25が軸線O方向に延びており、傾斜部20における先端側から主切削部10を通って近位部40まで貫いている。このように、2本の貫通穴25を設けることによって、後述するように、骨の切削時において大腿骨や脛骨に刺入された2本のガイドピンがこの貫通穴25に嵌合することによって、ヘッド部1を大腿骨や脛骨に対して精度よく位置決めしながら骨の切削を行うことができる。
【0028】
本実施形態では、傾斜部20から先端方向に向かって延びる先端刃部30が設けられている。先端刃部30は、先端方向に向けて縮幅しており、図2及び図3に示すように、上下左右の外周面には、第3刃部31が形成されている。
【0029】
なお、第3刃部31についても、表刃が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃が軸線O方向に対してなす角度よりも大きくなるように形成されており、第3刃部31を2つの穴の間の壁部に押し当てたときに、骨が良好に切削されるように構成されている。
【0030】
近位部40は、主切削部10の近位側に設けられており、図2に示す平面視において、近位端における左右の角部には、面取り部41が設けられている。これによって、ヘッド部1を骨から引き抜く際に近位端の角部が骨に衝突してダメージを与えるのを抑制することが出来る。なお、面取り部41の大きさは任意に定めることができる。また、面取り部41を設けない構成としてもよい。
【0031】
シャフト50は、医療用切削具100を利用者が把持したり、医療用切削具100を軸線O方向に往復運動させるための図示しない駆動部にヤコブチャック等により装着するための部位である。本実施形態では、シャフト50はヘッド部1と一体形成されているが、ねじ部や締まり嵌め等によりヘッド部1に固定されるようにしてもよい。医療用切削具100を往復運動させる駆動部は、例えば、電磁式のリニアモータ等により直接往復運動を生み出す構成であってもよいし、電動モータの回転運動をクランク機構により直線運動に変換するものであってもよく、汎用の駆動装置を使用可能である。
【0032】
次に、上述の医療用切削具100を用いて、大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を形成する手順を、図7等を用いて説明する。
【0033】
まず、手術者は、患者から、膝蓋骨側及び脛骨側の骨片を両端部に有する骨片付き移植腱を採取する。手術の一例として、膝蓋骨側からは、幅1.1cm、長さ1.0cmの骨片を採取する。また、脛骨側から採取された骨片は、幅1.0cm、長さ1.5cm、厚さ5mmの大きさに形成される。なお、移植腱の種類としては、上述の膝蓋骨側及び脛骨側の骨片を両端部に有する骨片付き移植腱に限定されるものではなく、例えば骨片付大腿四頭筋腱やハムストリング筋腱を使った移植腱であってもよい。
【0034】
次に、切除器具、ドリルガイド、ダイレーターなどを挿入するポータルを作製した後、脛骨骨孔を作製する。脛骨骨孔の作製は、まず、正常ACL脛骨付着部中央及びそこからオフセットした位置に、ガイドワイヤーを刺入する(図7のステップS101)。ガイドワイヤーの直径は、例えば、約2.4mm程度とすることができる。そして、直径約5mmのドリルを用いて、中央鋼線を抜去した各ガイドワイヤーに沿って2つのドリル穴を形成する(図7のステップS102)。なお、上述のドリル径は、5×10[mm]の矩形状骨孔を形成する場合の一例である。例えば、患者の体格によって矩形状骨孔のサイズを5×8[mm]又は6.5×13[mm]とする場合には、それぞれ直径4mm又は6.5mmのドリルを用いて2つのドリル穴を形成してもよい。
【0035】
次に、手術者は、本実施形態に係る医療用切削具100を往復駆動させるための駆動部を駆動させ、先端刃部30を2つのドリル穴の間の壁部に向かって押し当てる。これによって、壁部には、先端刃部30により軸線O方向に押し込まれて凹所が形成される(図7のステップS103)。壁部の凹所は、先端刃部30の第3刃部31によって上下方向、ドリル穴間隔に依っては左右方向にも切削されて軸線O方向に更に切り込まれる(図7のステップS104)。なお、このとき、脛骨側に2本のガイドピンを刺入しておき、医療用切削具100のヘッド部1に形成された2本の貫通穴25にこのガイドピンを嵌合させることによってヘッド部1が所定方向にガイドされるようにしてもよい。
【0036】
壁部に形成された凹所が第3刃部31によって軸線O方向に切り込まれると、傾斜部20の上面21及び下面23が切り込まれた壁部の凹所における上面及び下面に接触するようになる。上述のように、傾斜部20の上面21及び下面23には、図4に示すように、左右方向(X軸方向)中央部に向かって凹む凹部が形成されており、当該凹部には、第2刃部21a,23aが形成されている。ヘッド部1が軸線O方向に壁部に対して押し付けられると、傾斜部20の上面21及び下面23が壁部の凹所を上下に押し広げるが、このとき上方及び下方から傾斜部20に向かって突出する壁部が第2刃部21a,23aに押し付けられて切削される(図7のステップS105)。このように、壁部において切削により形成された凹所は、傾斜部20により上下方向の高さが徐々に拡大されて、傾斜部20の近位側では、主切削部10の上下方向厚みに相当する高さまで切り込まれる。
【0037】
脛骨において、壁部の凹所の高さが傾斜部20によって主切削部10の厚み相当まで拡大された軸線O方向位置においては、次に主切削部10により所定の略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される(図7のステップS106)。すなわち、凹所において傾斜部20によって主切削部10の厚み相当まで上下に拡大された部位では、矩形形状断面を有する主切削部10の第1刃部11によって、2つのドリル穴の間の壁部のみならず、2つのドリル穴の左右方向縁部まで切削されて、左右方向に長い略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される。このようにして、ステップS102で形成された2つのドリル穴は、主切削部10の横断面に対応する略矩形形状の断面を有する脛骨骨孔へと整形される。
【0038】
大腿骨骨孔については、大腿骨ACL付着部中央に2箇所マーキングを施し、例えば、直径約2.4mmの2本のガイドワイヤーを刺入する。そして、直径約5mmのドリルを用いて、中央鋼線を抜去した各ガイドワイヤーに沿って2つの直径約5mmのドリル穴を形成する。それ以降の手順については、脛骨骨孔の場合と同様に行う。
【0039】
なお、骨孔の形成手順については、上述の2つのドリル穴を設ける手順のほか、中央鋼線に沿って直径約5mmのドリルで貫通穴を中央に作り、本実施形態にかかる医療用切削具100で矩形状骨孔を形成するようにしてもよい。
【0040】
上述の各ステップにより、脛骨骨孔及び大腿骨骨孔を形成した後、骨片付き移植腱の両端部の各骨片をそれぞれ脛骨骨孔及び大腿骨骨孔に挿入し、医療用ねじを用いて各骨片をそれぞれ脛骨及び大腿骨に固定する。
【0041】
以上述べたように、本実施形態は、軸線O方向に直交する横断面が略矩形形状を有し、外周面に第1刃部11が設けられた主切削部10と、主切削部10から先端方向に向かって縮幅する略角錐台形状を有する傾斜部20とを備えるように構成した。このような構成の採用によって、ヘッド部1を2つのドリル穴の間の壁部に対して軸線O方向に押し付けることで、当該壁部を上下に押し広げて凹所を形成することができる。そして、ヘッド部1を、形成された凹所に対して更に軸線O方向に押し込むことによって、2つのドリル穴の間の壁部のみならず、2つのドリル穴の左右方向縁部まで主切削部10によって切削して、左右方向に長い略矩形形状の断面を有する空隙を形成することができる。
【0042】
また、本実施形態では、左右方向に並んで配置され、軸線O方向に延びる2つの貫通穴25を備えるように構成した。このような構成の採用によって、ヘッド部1を軸線O方向に押し込む際に、ヘッド部1が2本の貫通穴25に嵌合する2本のガイドピンによって位置決めされるので、精度よく略矩形形状断面を有する骨孔を形成することができる。
【0043】
また、本実施形態では、傾斜部20における上面21及び下面23には、第2刃部21a,23aが設けられるように構成した。このような構成の採用によって、傾斜部20が壁部を上下に押し広げる際に、上方及び下方から突出する壁部が第2刃部21a,23aに押し付けられて切削される。従って、傾斜部20が壁部を上下に押し広げながら効率よく切削することができる。
【0044】
また、本実施形態では、第2刃部21a,23aは、傾斜部20の上面21及び下面23に形成された凹部に設けられるように構成した。このような構成の採用によって、2つのドリル穴の間の壁部を傾斜部20で上下に押し広げる際に、第2刃部21a,23aが壁部に引っ掛かることを抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、第2刃部21a,23aは、表刃21a1,23a1が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃21a2,23a2が軸線O方向に対してなす角度よりも大きい刃部を有するように構成した。このような構成の採用によって、ヘッド部1を先端方向に移動させつつ第2刃部21a,23aを骨に押し当てたときに骨を良好に切削することができる。従って、2つのドリル孔の間の壁部が未だ傾斜部20によって十分に上下に押し広げられていない状態であっても、ヘッド部1を壁部に押し付けることによって、第2刃部21a,23aにより壁部を効率的に切削することができる。
【0046】
また、本実施形態では、傾斜部20から先端方向に向かって延びる先端刃部30を更に備え、先端刃部30の外周面には、第3刃部31が設けられるように構成した。このような構成の採用によって、2つのドリル穴の間の壁部が未だ傾斜部20によって十分に上下に押し広げられていない状態であっても、ヘッド部1を壁部に押し付けることによって、第3刃部31により壁部を効率的に切削することができる。
【0047】
次に、本開示の第2実施形態である、医療用切削具200について詳細に説明する。
【0048】
図8から図10は、本実施形態に係る、医療用切削具200のヘッド部101全体の構成を示す拡大図である。本実施形態に係る医療用切削具200は、第1実施形態の医療用切削具100と同様に、切削対象である大腿骨や脛骨などの骨を切削するヘッド部101と、ヘッド部101の近位部40に固定され、軸線O方向に延びるシャフト50とを備えている。
【0049】
なお、シャフト50の構成は、第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。また、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の定義は第1実施形態と同一である。
【0050】
ヘッド部101は、軸線O方向に直交する横断面(XY平面に沿う断面)が、左右方向に長い(図10参照)略矩形(長方形)形状を有する主切削部10と、主切削部10から先端方向に向かって縮幅し略角錐台形状を有する傾斜部20と、主切削部10の近位側に設けられた近位部40とを備えている。
【0051】
主切削部10は、上述のように、横断面(XY平面に沿う断面)が、左右方向に長い略矩形(長方形)形状を有しており、上下左右の外周面には、骨に形成する空隙が略矩形形状の断面を有するように整形するための第1刃部11が設けられている。
【0052】
第1刃部11は、図8及び図9に示すように、主切削部10の外周面を取り囲むように形成された鋸状の刃部である。第1刃部11は、第1実施形態と同様に(図5参照)、表刃11a(先端側(Z軸方向プラス側)の刃面)が軸線O方向に対してなす角度(図5の例では45度以上)が、裏刃11b(近位側(Z軸方向マイナス側)の刃面)が軸線O方向に対してなす角度(図5の例では45度以下)よりも大きい。このような構成によって、ヘッド部101を駆動部により先端方向に移動させて第1刃部11を骨に押し当てたときに骨が良好に切削される。後述する傾斜部20の第2刃部21a,22a,23aについても、図5に示す第1刃部11と同様に、表刃が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃が軸線O方向に対してなす角度よりも大きくなるように方向付けられている。
【0053】
なお、本実施形態において、第1刃部11は、主切削部10の上下左右の各外周面の全領域に設けられているが、この態様には限定されず、主切削部10の上下左右の各外周面が、それぞれ少なくとも一部の領域に第1刃部11を有していればよい。また、本実施形態に係る医療用切削具200を用いて、関節内から外側に向かって大腿骨を切削するような場合、周囲の組織、例えばPCL(後十字靭帯)に接触して損傷しないように、主切削部10の左右方向(X軸方向)片側端部のYZ平面に沿う面に第1刃部11を設けなくてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、第1刃部11の各刃部は、XY平面に沿って主切削部10の外周面を取り囲むように形成されているが、この態様には限定されず、XY平面に対して所定の角度をなすように形成されていてもよい。
【0055】
傾斜部20は、図8及び図9等に示すように、主切削部10から先端方向に向かって上下方向及び左右方向の幅が縮幅する略角錐台形状を有している。傾斜部20は、図8から図10に示すように、上面21、側面22及び下面23の全領域に、それぞれ第2刃部21a,22a,23aが設けられている。本実施形態では、第1実施形態とは異なり、傾斜部20の上面21及び下面23には凹部が形成されていない。この構成によって、後述するように、大腿骨や脛骨などの骨に所定間隔で平行に並ぶ2つの穴をドリル等で形成した後、2つのドリル穴の間の壁部を傾斜部20で上下に押し広げる際に、傾斜部20の上面21及び下面23の第2刃部21a,23aをより積極的に用いて壁部を切削することができる。また、本実施形態では、傾斜部20の側面22にも第2刃部22aを設けているので、2つのドリル穴の間の壁部を左右方向に切削する速度を高めることもできる。
【0056】
なお、傾斜部20に第2刃部21a,22a及び23aを必ずしも設ける必要はない。第2刃部21a,22a,23aを設けない場合には、ヘッド部101を骨に押し込んだときに、傾斜部20は2つの穴の間の壁部を上下左右に押し広げるように作用する。また、傾斜部20の上面21、側面22及び下面23の一部のみに第2刃部21a,22a及び23aを設けるようにしてもよい。例えば、上面21及び下面23の全領域に第2刃部21a,23aを設け、側面22には第2刃部22aを設けない構成としてもよい。また、上面21、側面22及び下面23それぞれの一部の領域にのみ第2刃部21a,22a,23aを設ける構成としてもよい。
【0057】
なお、2本の貫通穴25の構成及び役割については、第1実施形態と同様であるのでここでの説明は省略する。
【0058】
本実施形態では、傾斜部20の上面21及び下面23に凹部を設けておらず、また側面22にも第2刃部22aを設けている。そのため、第1実施形態とは異なり、傾斜部20と先端刃部30の境界が存在せず、ヘッド部101の先端部まで傾斜部20が延在する構成としている。すなわち、第1実施形態において先端刃部30が果たしていた役割を、本実施形態では、傾斜部20の先端部が担っていることになる。
【0059】
近位部40は、主切削部10の近位側に設けられており、図8に示す平面視において、近位端における左右の角部には、面取り部41が設けられている。これによって、ヘッド部101を骨から引き抜く際に近位端の角部が骨に衝突してダメージを与えるのを抑制することが出来る。なお、面取り部41の大きさは任意に定めることができる。また、面取り部41を設けない構成としてもよい。
【0060】
次に、上述の医療用切削具200を用いて、大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を形成する手順について、第1実施形態との差異点を中心に説明する。
【0061】
図7のステップS102を実行した後、手術者は、本実施形態に係る医療用切削具200を往復駆動させるための駆動部を駆動させ、第1実施形態の先端刃部30に代わる傾斜部20の先端部を2つのドリル穴の間の壁部に向かって押し当てる。これによって、壁部には、傾斜部20の先端部により軸線O方向に押し込まれて凹所が形成される(図7のステップS103)。壁部の凹所は、第1実施形態の先端刃部30に代わる傾斜部20の先端部の第2刃部21a,22a,23aによって上下方向、ドリル穴間隔に依っては左右方向にも切削されて軸線O方向に更に切り込まれる(図7のステップS104)。なお、このとき、脛骨側に2本のガイドピンを刺入しておき、医療用切削具200のヘッド部101に形成された2本の貫通穴25にこのガイドピンを嵌合させることによってヘッド部101が所定方向にガイドされるようにしてもよい。
【0062】
壁部に形成された凹所が第2刃部21a,22a,23aの先端部によって軸線O方向に切り込まれると、傾斜部20の上面21及び下面23が切り込まれた壁部の凹所における上面及び下面に接触するようになる。ヘッド部101が軸線O方向に壁部に対して押し付けられると、傾斜部20の上面21及び下面23の第2刃部21a,23aが壁部の凹所を上下に押し広げつつ切削する(図7のステップS105)。このように、壁部において切削により形成された凹所は、傾斜部20により上下方向の高さが徐々に拡大されて、傾斜部20の近位側では、主切削部10の上下方向厚みに相当する高さまで切り込まれる。このとき、壁部の凹所は、傾斜部20の側面22の第2刃部22aによって主切削部10の左右方向幅に相当する幅まで左右方向にも切り込まれる。
【0063】
脛骨において、壁部の凹所の高さ及び幅が傾斜部20によって主切削部10の厚み及び幅相当まで拡大された軸線O方向位置においては、次に主切削部10により所定の略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される(図7のステップS106)。すなわち、凹所において傾斜部20によって主切削部10の厚み及び幅相当まで拡大された部位では、矩形形状断面を有する主切削部10の第1刃部11によって、2つのドリル穴の左右方向縁部まで切削されて、左右方向に長い略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される。このようにして、ステップS102で形成された2つのドリル穴は、主切削部10の横断面に対応する略矩形形状の断面を有する脛骨骨孔へと整形される。
【0064】
なお、図7のステップS106を実行するに際しては、本実施形態の医療用切削具200に代えて、後述するヘッド部201の軸線O方向の長さを短くした、第3実施形態の医療用切削具300を用いるようにしてもよい。
【0065】
大腿骨骨孔については、大腿骨ACL付着部中央に2箇所マーキングを施し、例えば、直径約2.4mmの2本のガイドワイヤーを刺入する。そして、直径約5mmのドリルを用いて、中央鋼線を抜去した各ガイドワイヤーに沿って2つの直径約5mmのドリル穴を形成する。それ以降の手順については、脛骨骨孔の場合と同様に行う。
【0066】
なお、本実施形態の医療用切削具200では、ドリルを用いた貫通下穴を形成することなく、表面の皮質骨を少し削った後に、2本のガイドワイヤーに沿って直に掘削することによって矩形状骨孔を形成することもできる。
【0067】
以上述べたように、本実施形態では、第2刃部21a,22a,23aは、傾斜部20の上面21、下面23及び側面22に形成されており、医療用切削具200の先端部まで延びるように構成した。このような構成の採用によって、2つのドリル穴の間の壁部を傾斜部20で上下に押し広げる際に、傾斜部20の上面21及び下面23の第2刃部21a,23aをより積極的に用いて切削することができる。また、本実施形態では、傾斜部20の側面22にも第2刃部22aを設けているので、2つのドリル穴の間の壁部を左右方向に切削する速度を高めることもできる。
【0068】
次に、本開示の第3実施形態である、医療用切削具300(第2医療用切削具)について詳細に説明する。
【0069】
図11から図13は、本実施形態に係る、医療用切削具300のヘッド部201全体の構成を示す拡大図である。本実施形態に係る医療用切削具300は、第1実施形態の医療用切削具100と同様に、切削対象である大腿骨や脛骨などの骨を切削するヘッド部201と、ヘッド部201の近位部40に固定され、軸線O方向に延びるシャフト50とを備えている。
【0070】
なお、シャフト50の構成は、第1実施形態と同様であるので、ここでの説明は省略する。また、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の定義は第1実施形態と同一である。
【0071】
ヘッド部201は、軸線O方向に直交する横断面(XY平面に沿う断面)が、左右方向に長い(図13参照)略矩形(長方形)形状を有する主切削部10と、主切削部10から先端方向に向かって縮幅し略角錐台形状を有する傾斜部20と、傾斜部20の前端部に形成された先端突部35と、主切削部10の近位側に設けられた近位部40とを備えている。
【0072】
なお、主切削部10の構成は、第1及び第2実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。本実施形態に係る主切削部10の軸線O方向に直交する横断面(XY平面に沿う断面)形状は、寸法も含めて第1又は第2実施形態と略同一であることが好ましい。これによって、後述するように、骨の切削工程の途中までを第1又は第2実施形態にかかる医療用切削具100,200で行った後、本実施形態にかかる医療用切削具300へとスムーズに切り替えることができる。
【0073】
傾斜部20は、図11及び図12等に示すように、主切削部10から先端方向に向かって上下方向及び左右方向の幅が縮幅する略角錐台形状を有している。傾斜部20は、図11から図13に示すように、上面21、側面22及び下面23の全領域に、それぞれ第2刃部21a,22a,23aが設けられている。本実施形態では、第2実施形態と同様に、傾斜部20の上面21及び下面23には凹部が形成されていない。この構成によって、大腿骨や脛骨などの骨に所定間隔で平行に並ぶ2つの穴をドリル等で形成した後、2つのドリル穴の間の壁部を傾斜部20で上下に押し広げる際に、傾斜部20の上面21及び下面23の第2刃部21a,23aをより積極的に用いて壁部を切削することができる。また、本実施形態では、傾斜部20の側面22にも第2刃部22aを設けているので、2つのドリル穴の間の壁部を左右方向に切削する速度を高めることもできる。
【0074】
なお、2本の貫通穴25の構成及び役割については、第1及び第2実施形態と同様であるのでここでの説明は省略する。
【0075】
傾斜部20の前端部には、更に先端に向けて延びる先端突部35が設けられている。先端突部35は、図11及び図12に示すように刃部を有しておらず、上下方向厚み及び左右方向の幅が傾斜部20の第2刃部21a,22a,23aよりも小さくなるように構成されている。また、第2実施形態(図8及び図9)と、本実施形態(図11及び図12)との比較から分かるように、本実施形態にかかる医療用切削具300(第2医療用切削具)における主切削部10の前端部から先端部までの軸線O方向長さが、第1及び第2実施形態にかかる医療用切削具100,200よりも短い。このような構成によって、例えば、図7のステップS106の掘削終盤の場面で主切削部10により壁部の凹所を略矩形形状断面の空隙へと整形する際に、第1又は第2実施形態の医療用切削具100,200から、主切削部10の前端部から先端部までの軸線O方向長さがより短い医療用切削具300(第2医療用切削具)へと切り替えることによって、対向する骨に先端部が当たりづらくなる。また、先端突部35に刃部が設けられていないため、対向する骨に先端突部35が当たった場合でも骨へのダメージを軽減することができる。従って、手術時における患者への負担を軽減することができる。
【0076】
近位部40の構成及び役割については、第1及び第2実施形態と同様であるのでここでの説明は省略する。
【0077】
次に、上述の医療用切削具300を用いて、大腿骨や脛骨などの骨に、略矩形形状の断面を有する空隙を形成する手順について説明する。
【0078】
第1実施形態にかかる医療用切削具100又は第2実施形態にかかる医療用切削具200を用いて図7のステップS105を実行した後、手術者は、上記の医療用切削具100,200に代えて本実施形態の医療用切削具300の先端突部35を、ステップS105で形成された壁部の凹所に挿入する。そして、壁部の凹所は、本実施形態にかかる医療用切削具300の主切削部10により所定の略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される(図7のステップS106)。すなわち、凹所において傾斜部20によって主切削部10の厚み及び幅相当まで拡大された部位では、矩形形状断面を有する主切削部10の第1刃部11によって、2つのドリル穴の左右方向縁部まで切削されて、左右方向に長い略矩形形状の断面を有する空隙へと整形される。このようにして、ステップS102で形成された2つのドリル穴は、主切削部10の横断面に対応する略矩形形状の断面を有する脛骨骨孔へと整形される。
【0079】
なお、本実施形態の医療用切削具300は、例えば大腿骨の切削の最終段階 (貫通させるとき)や、PCL(後十字靭帯)、MCL(内側側副靭帯)、MPFL(内側膝蓋大腿靭帯)などの再建にも用いることができる。
【0080】
以上述べたように、本実施形態の医療用切削具セットは、第1実施形態又は第2実施形態にかかる医療用切削具100,200と、主切削部10の前端部から先端部までの軸線O方向長さが医療用切削具100,200よりも短く、先端部に刃部を設けていない医療用切削具300(第2医療用切削具)とを備えるように構成した。このような構成の採用によって、掘削終盤の場面で主切削部10により壁部の凹所を略矩形形状断面の空隙へと整形する際に、第1又は第2実施形態の医療用切削具100,200から、医療用切削具300(第2医療用切削具)へと切り替えることによって、対向する骨に先端部が当たりづらくなる。また、先端突部35に刃部が設けられていないため、対向する骨に先端突部35が当たった場合でも骨へのダメージを軽減することができる。従って、手術時における患者への負担を軽減することができる。
【0081】
本開示を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0082】
例えば、第1から第3実施形態では、軸線O方向に延びる2つの貫通穴25を備えるように構成したが、この態様には限定されない。貫通穴25は、1つのみ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。また、貫通穴25を設けない構成としてもよい。
【0083】
また、第1から第3実施形態では、傾斜部20に第2刃部21a,22a,23aを設けるように構成したが、この態様には限定されない。傾斜部20に第2刃部21a,22a,23aを設けない構成としてもよいし、上面21、側面22又は下面23の一部にのみ第2刃部21a,22a,23aを設けてもよい。また、第1実施形態において、上面21又は下面23に加えて、左右方向の側面22にも第2刃部を設けるようにしてもよい。
【0084】
また、第1実施形態では、第2刃部21a,23aは、傾斜部20の上面21及び下面23に形成された凹部に設けられるように構成したが、この態様には限定されず、傾斜部20の上面21及び下面23に凹部を設けない構成としてもよい。
【0085】
また、第1から第3実施形態では、第2刃部21a,22a,23aは、表刃21a1,23a1が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃21a2,23a2が軸線O方向に対してなす角度よりも大きい刃部を有するように構成したが、この態様には限定されない。第2刃部21a,22a,23aは、表刃21a1,23a1が軸線O方向に対してなす角度が、裏刃21a2,23a2が軸線O方向に対してなす角度よりも小さくなるように構成してもよい。また、第2刃部21a,22a,23aは、図2図8及び図11等に示すような軸線Oに直交する方向に延びるものに限定されず、軸線Oに対して斜め方向に延びる刃部を有していてもよい。また、第2刃部21a,22a,23aは、本実施形態のように刃の配列が平行なものに限定されず、刃が交差しているものであってもよい。また、第2刃部21a,22a,23aは、特定方向に延びる形状に限定されず、例えば突起を多数備えているものであってもよい。これは、第1刃部11、及び第3刃部31についても同様である。第1刃部11、第2刃部21a,22a,23a、及び第3刃部31は、大腿骨や脛骨などの骨を切削するやすりとして機能する他の構成を備えていてもよい。
【0086】
また、第1実施形態では、傾斜部20から先端方向に向かって延びる先端刃部30を更に備え、先端刃部30の外周面には、第3刃部31が設けられるように構成したが、この態様には限定されない。先端刃部30及び第3刃部31を設けない構成としてもよい。
【0087】
また、本開示では、医療用切削具100又は200と、医療用切削具300とを組み合わせた医療用切削具セットの例を示したが、この態様には限定されず、医療用切削具セットは3本以上の医療用切削具100,200,300を組み合わせて用いるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本開示の医療用切削具100,200,300及び医療用切削具セットは、大腿骨や脛骨などの骨に略矩形形状の断面を有する空隙を形成する、様々な手術等に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1,101,201 ヘッド部
10 主切削部
11 第1刃部
11a 表刃
11b 裏刃
20 傾斜部
21 上面
21a 第2刃部
21a1 表刃
21a2 裏刃
22 側面
22a 第2刃部
23 下面
23a 第2刃部
23a1 表刃
23a2 裏刃
25 貫通穴
30 先端刃部
31 第3刃部
35 先端突部
40 近位部
41 面取り部
50 シャフト
100,200 医療用切削具
300 医療用切削具(第2医療用切削具)
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13