(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127481
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造およびその製造方法、並びに、その固定構造を備えるラジアルベアリングおよびローラー
(51)【国際特許分類】
F16C 13/00 20060101AFI20220824BHJP
F16C 19/04 20060101ALI20220824BHJP
F16C 19/24 20060101ALI20220824BHJP
B65H 3/06 20060101ALI20220824BHJP
【FI】
F16C13/00 Z
F16C19/04
F16C19/24
F16C13/00 B
B65H3/06 330A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025655
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】友森 匡継
【テーマコード(参考)】
3F343
3J103
3J701
【Fターム(参考)】
3F343JA11
3F343JA14
3F343KB04
3F343KB05
3J103AA02
3J103AA12
3J103AA73
3J103BA41
3J103CA62
3J103DA05
3J103FA15
3J103FA26
3J103GA02
3J103GA33
3J103GA55
3J103HA02
3J103HA12
3J103HA31
3J103HA44
3J701AA02
3J701AA12
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701FA46
3J701GA42
(57)【要約】
【課題】 第2レイヤー部材が第1レイヤー部材から外れる不具合の発生が防止され、しかも、製造し易くて安価な構造の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 アウターレース1の表面には、所定間隔をあけて形成された固定溝1bと、固定溝1bの一方および他方の端部に固定溝1bよりも深く、かつ、固定溝1bの配設方向において両端部が固定溝1bの両端より張り出した洞穴状の一方側凹部1cおよび他方側凹部1dとが形成されている。弾性体2の裏面には、固定溝1bに形成される空間を埋める形状に突出した第1凸状部2aと、第1凸状部2aの一方側および他方側の側端部において、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dに形成される空間を埋める形状に突出した一方側第2凸状部2bおよび他方側第2凸状部2cとが形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1レイヤー部材と、当該第1レイヤー部材の表面に裏面が当接して固定される第2レイヤー部材との固定構造であって、
前記第1レイヤー部材の表面に所定間隔をあけて少なくとも2箇所以上に形成される固定溝と、
前記第1レイヤー部材の表面の一方の側端部における前記固定溝の一方の端部に前記固定溝よりも深く、かつ、前記固定溝が配設される方向において両端部が前記固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される一方側凹部と、
前記第1レイヤー部材の表面の他方の側端部における前記固定溝の他方の端部に前記固定溝よりも深く、かつ、前記固定溝が配設される方向において両端部が前記固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される他方側凹部と、
各前記固定溝に形成される空間を埋める形状に突出して前記第2レイヤー部材の裏面に形成される第1凸状部と、
前記第1凸状部の一方側の側端部において前記一方側凹部に形成される空間を埋める形状に突出して前記第2レイヤー部材の裏面の一方の側端部に形成される一方側第2凸状部と、
前記第1凸状部の他方側の側端部において前記他方側凹部に形成される空間を埋める形状に突出して前記第2レイヤー部材の裏面の他方の側端部に形成される他方側第2凸状部と
を備える第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造。
【請求項2】
前記一方側凹部は前記固定溝が配設される方向において1つおきに前記固定溝の一方の端部に形成され、
前記他方側凹部は前記固定溝が配設される方向において前記一方側凹部が形成されない前記固定溝の他方の端部に1つおきに形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造。
【請求項3】
前記第1レイヤー部材は円筒形状をし、
前記第2レイヤー部材は前記第1レイヤー部材の表面の外周面を裏面の内周面が覆う円筒形状をし、
前記固定溝は、前記第1レイヤー部材および前記第2レイヤー部材の円筒の中心軸と平行な方向に前記一方の端部および前記他方の端部が並ぶ
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造。
【請求項4】
前記第2レイヤー部材は弾性部材を材質とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造の製造方法。
【請求項5】
前記第2レイヤー部材は、材質とする弾性部材がゲル化されて前記第1レイヤー部材にコンプレッション成形で固定されることを特徴とする請求項4に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造の製造方法。
【請求項6】
請求項3または請求項3を引用する請求項4に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を備え、
前記第1レイヤー部材をアウターレースとして前記第1レイヤー部材の内周側に設けられるインナーレースと、前記アウターレースと前記インナーレースとの間に配置される転動体と、前記転動体の転動位置を保持するリテーナとをさらに備えて構成されるラジアルベアリング。
【請求項7】
請求項3または請求項3を引用する請求項4に記載の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を備え、
前記第1レイヤー部材の内周に挿入されるシャフトをさらに備えて構成されるローラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1レイヤー部材とその第1レイヤー部材の表面に裏面が当接して固定される第2レイヤー部材との固定構造およびその製造方法、並びに、その固定構造を備えるラジアルベアリングおよびローラーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の固定構造としては、例えば、特許文献1に開示された給紙ローラにおける紙送りローラとその軸芯との固定構造がある。この給紙ローラは、紙送りローラに軸芯が圧入されることにより、または、両者が接着剤で接合されることにより、軸芯の外周に紙送りローラの内周が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の固定構造では、第1レイヤー部材である軸芯と第2レイヤー部材である紙送りローラとは単に圧入または接着で固定されるため、第2レイヤー部材である紙送りローラが第1レイヤー部材である軸芯から外れる不具合が発生する。また、両者が接着剤で接合される場合には、給紙ローラの製造において両者を接着剤で接合する製造の手間がかかる問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
第1レイヤー部材と、当該第1レイヤー部材の表面に裏面が当接して固定される第2レイヤー部材との固定構造であって、
第1レイヤー部材の表面に所定間隔をあけて少なくとも2箇所以上に形成される固定溝と、
第1レイヤー部材の表面の一方の側端部における固定溝の一方の端部に固定溝よりも深く、かつ、固定溝が配設される方向において両端部が固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される一方側凹部と、
第1レイヤー部材の表面の他方の側端部における固定溝の他方の端部に固定溝よりも深く、かつ、固定溝が配設される方向において両端部が固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される他方側凹部と、
各固定溝に形成される空間を埋める形状に突出して第2レイヤー部材の裏面に形成される第1凸状部と、
第1凸状部の一方側の側端部において一方側凹部に形成される空間を埋める形状に突出して第2レイヤー部材の裏面の一方の側端部に形成される一方側第2凸状部と、
第1凸状部の他方側の側端部において他方側凹部に形成される空間を埋める形状に突出して第2レイヤー部材の裏面の他方の側端部に形成される他方側第2凸状部と
を備える、第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を構成した。
【0006】
本構成によれば、第1レイヤー部材の表面に形成された固定溝に第2レイヤー部材の第1凸状部が嵌まることで、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材の表面を固定溝の配設方向に動くのが阻止される。また、固定溝よりも深い第1レイヤー部材の一方側凹部に第2レイヤー部材の一方側第2凸状部が嵌まると共に、固定溝よりも深い第1レイヤー部材の他方側凹部に第2レイヤー部材の他方側第2凸状部が嵌まることで、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材の表面を固定溝の配設方向と直交する方向に動くのが阻止される。また、固定溝の配設方向において両端部が固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される第1レイヤー部材の一方側凹部に第2レイヤー部材の一方側第2凸状部が嵌まると共に、固定溝の配設方向において両端部が固定溝の両端より張り出して洞穴状に形成される第1レイヤー部材の他方側凹部に第2レイヤー部材の他方側第2凸状部が嵌まることで、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材の表面から垂直な方向に剥がれるのが阻止される。
【0007】
したがって、第2レイヤー部材は、第1レイヤー部材の表面の面方向および第1レイヤー部材の表面に垂直な方向における動きが規制され、第1レイヤー部材の表面に裏面が固定される結果となる。このため、圧入や接着剤によって第2レイヤー部材を第1レイヤー部材の表面に固定する場合のように、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材の表面から外れる不具合が発生するのが防止される。また、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材の裏面が上記のように単に嵌まることで、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材の裏面が接着剤を使用することなく固定される。このため、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材を固定する際、接着剤を用いて両者を固定する手間はかからなくなる。
【0008】
また、本発明は、
一方側凹部は固定溝が配設される方向において1つおきに固定溝の一方の端部に形成され、
他方側凹部は固定溝が配設される方向において一方側凹部が形成されない固定溝の他方の端部に1つおきに形成される
ことを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、一方側凹部および他方側凹部が固定溝の配設方向において互い違いに固定溝の各端部に交互に形成されることで、一方側凹部および他方側凹部の各両端部が固定溝の配設方向において張り出す距離を確保することができ、第1レイヤー部材が固定溝の配設間隔を十分に取れない小さな大きさであっても、上記の作用効果を奏する固定構造を実現することができる。
【0010】
また、一方側凹部および他方側凹部がそれぞれ固定溝の各端部に連続して形成される場合に比較して簡素な構造としながら、第1レイヤー部材の表面の面方向および第1レイヤー部材の表面に垂直な方向における第2レイヤー部材の動きを十分に規制できる構造が提供される。また、一方側凹部および他方側凹部が固定溝に対して非対称に配置されることで、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材の表面から外れ難くなる。このため、製造し易くて安価でしかも外れ難い構造の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を提供することができる。
【0011】
また、本発明は、
第1レイヤー部材は円筒形状をし、
第2レイヤー部材は第1レイヤー部材の表面の外周面を裏面の内周面が覆う円筒形状をし、
固定溝は、第1レイヤー部材および第2レイヤー部材の円筒の中心軸と平行な方向に一方の端部および他方の端部が並ぶ
ことを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、大径円筒状の第2レイヤー部材が小径円筒状の第1レイヤー部材の外周を囲む円環状のコロが形成され、外周側の第2レイヤー部材がその内周側の第1レイヤー部材から外れる不具合の発生を防止できるコロが提供される。
【0013】
また、本発明は、第2レイヤー部材が弾性部材を材質とすることを特徴とする。
【0014】
本構成によれば、第2レイヤー部材が弾性を有するため、第2レイヤー部材は、それと接触する部材との間における緩衝材として機能する。このため、第2レイヤー部材に接触する部材を傷付けることがなく、また、第2レイヤー部材にかかる外力を緩衝可能な第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を提供することができる。
【0015】
また、本発明は、第2レイヤー部材が、材質とする弾性部材がゲル化されて第1レイヤー部材にコンプレッション成形で固定される、第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造の製造方法を構成した。
【0016】
第1レイヤー部材に弾性部材からなる第2レイヤー部材を固定する製造方式として、ゲート口を通じて金型内に熱によって軟化した未加硫の弾性部材を流し込み、金型内に充填された弾性材を規定時間加硫することで、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材の裏面を固定する加硫接着方式がある。この加硫接着方式で本構成の固定構造を製造しようとすると、金型内に流し込まれた軟化した弾性部材は、洞穴状に固定溝よりも深く第1レイヤー部材の表面に形成される一方側凹部および他方側凹部の隅々にまで、気泡の混入により、行き渡らないことがある。このように気泡が混入すると、第1レイヤー部材の表面に形成される一方側凹部および他方側凹部の気泡混入箇所において、第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との接着力が低下する。
【0017】
しかし、本構成によれば、第2レイヤー部材が、材質とする弾性部材がゲル化されて第1レイヤー部材にコンプレッション成形で固定されることで、ゲル化した弾性部材は、成形時、気泡を発生させることなく、第1レイヤー部材の表面に形成される一方側凹部および他方側凹部の隅々にまで行き渡るようになる。したがって、第2レイヤー部材を形成する弾性部材は一方側凹部および他方側凹部の隅々にまで充填されるので、一方側凹部および他方側凹部において、加硫接着方式で製造する場合のように接着力が低下することはない。このため、第1レイヤー部材に第2レイヤー部材を確実に強固に固定することができる、第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造の製造方法を提供することができる。
【0018】
また、本発明は、第1レイヤー部材をアウターレースとして第1レイヤー部材の内周側に設けられるインナーレースと、アウターレースとインナーレースとの間に配置される転動体と、転動体の転動位置を保持するリテーナとを、上記に記載の円筒形状をした第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造にさらに備えて、ラジアルベアリングを構成した。
【0019】
本構成によれば、第1レイヤー部材によって構成されるラジアルベアリングのアウターレースの外周に第2レイヤー部材を外郭材として設けたラジアルベアリングを、アウターレースの外周から外郭材が外れる不具合の発生を防止して、提供することができる。
【0020】
また、本発明は、第1レイヤー部材の内周に挿入されるシャフトを、上記に記載の円筒形状をした第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造にさらに備えて、ローラーを構成した。
【0021】
本構成によれば、第1レイヤー部材とその外周を覆う第2レイヤー部材の外郭材とによって構成されるコロの内周にシャフトを設けたローラーを、コロの外周から外郭材が外れる不具合の発生を防止して、提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、第2レイヤー部材が第1レイヤー部材から外れる不具合の発生が防止され、しかも、製造し易くて安価な構造の第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造およびその製造方法、並びに、その固定構造を備えるラジアルベアリングおよびローラーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態による第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明による第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造およびその製造方法をラジアルベアリングに適用した一実施の形態について説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一符号を付して説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態によるラジアルベアリングにおける、アウターレース1とその外周に固定されて設けられる弾性体2との固定構造3を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す固定構造3の分解斜視図である。
【0026】
固定構造3は、中空の小径円筒形状をしたアウターレース1を第1レイヤー部材とし、中空の大径円筒形状をした弾性体2を第2レイヤー部材としている。アウターレース1は、樹脂や金属、弾性部材等を材質とするが、本実施形態ではポリアセタール樹脂からなる。弾性体2は、ゴム等の弾性部材を材質とし、本実施形態ではウレタンからなる。第2レイヤー部材である弾性体2は、第1レイヤー部材であるアウターレース1の表面の外周面に裏面の内周面が当接して固定され、アウターレース1の表面を裏面が覆っている。
【0027】
ラジアルベアリングは、図示する固定構造3に加え、アウターレース1の内周側に設けられる図示しないインナーレースと、アウターレース1とインナーレースとの間に配置される図示しない転動体と、転動体の転動位置を保持する図示しないリテーナとをさらに備えて構成される。本実施形態で説明するラジアルベアリングは、転動体としてボールが用いられるボールベアリングを構成し、アウターレース1の内周面にはボールが転動するボール溝1aが切削加工等で形成されている。転動体としてコロが用いられる場合には、ラジアルベアリングはローラベアリングを構成する。
【0028】
アウターレース1の外周面には、固定溝1b、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dが形成されている。固定溝1bは、アウターレース1の表面に所定間隔をあけて少なくとも2箇所以上に形成されている。一方側凹部1cは、アウターレース1の表面の一方の側端部における固定溝1bの一方の端部に、固定溝1bよりも深く、かつ、固定溝1bが配設されるアウターレース1の周方向において両端部が固定溝1bの両端より張り出して、洞穴状に形成されている。他方側凹部1dは、アウターレース1の表面の他方の側端部における固定溝1bの他方の端部に、固定溝1bよりも深く、かつ、固定溝1bが配設されるアウターレース1の周方向において両端部が固定溝1bの両端より張り出して、一方側凹部1cと同様な洞穴状に形成されている。
【0029】
本実施形態では、固定溝1bは、アウターレース1および弾性体2の円筒の中心軸Cと平行な方向に、一方の端部および他方の端部が並んでいる。
【0030】
また、弾性体2の内周面には、第1凸状部2a、一方側第2凸状部2bおよび他方側第2凸状部2cが形成されている。第1凸状部2aは、各固定溝1bに形成される空間を埋める形状に突出して、弾性体2の裏面に形成されている。一方側第2凸状部2bは、第1凸状部2aの一方側の側端部において、一方側凹部1cに形成される空間を埋める形状に突出して、弾性体2の裏面の一方の側端部に形成されている。他方側第2凸状部2cは、第1凸状部2aの他方側の側端部において、他方側凹部1dに形成される空間を埋める、一方側第2凸状部2bと同様な形状に突出して、弾性体2の裏面の他方の側端部に形成されている。
【0031】
本実施形態では、アウターレース1の外周面に形成される一方側凹部1cは、固定溝1bが配設されるアウターレース1の周方向において、1つおきに固定溝1bの一方の端部に形成されている。他方側凹部1dは、固定溝1bが配設されるアウターレース1の周方向において、一方側凹部1cが形成されない固定溝1bの他方の端部に1つおきに形成されている。弾性体2の内周面に形成される一方側第2凸状部2bは、第1凸状部2aが配設される弾性体2の周方向において、アウターレース1の外周面に形成される一方側凹部1cの形成箇所に応じて、1つおきに第1凸状部2aの一方の端部に形成されている。他方側第2凸状部2cは、第1凸状部2aが配設されるアウターレース1の周方向において、一方側第2凸状部2bが形成されない第1凸状部2aの他方の端部に、他方側凹部1dの形成箇所に応じて、1つおきに形成されている。
【0032】
本実施形態の固定構造3は、弾性体2が、材質とする弾性部材がゲル化されて、アウターレース1にコンプレッション成形で固定され、製造される。コンプレッション成形では、アウターレース1をセットして加熱した金型の凹部(キャビティ)内に、計量したウレタン材料が入れられ、キャビティ内のウレタン材料が圧縮成形機で加圧されて加硫される。この加硫によってアウターレース1の外周面に弾性体2の内周面が密着して定着する。
【0033】
このような本実施形態の固定構造3によれば、アウターレース1の表面に形成された固定溝1bに弾性体2の第1凸状部2aが嵌まることで、弾性体2がアウターレース1の表面を固定溝2bの配設方向であるアウターレース1の周方向に動くのが阻止される。また、固定溝1bよりも深いアウターレース1の一方側凹部1cに弾性体2の一方側第2凸状部2bが嵌まると共に、固定溝1bよりも深いアウターレース1の他方側凹部1dに弾性体2の他方側第2凸状部2cが嵌まることで、弾性体2がアウターレース1の表面を固定溝1bの配設方向であるアウターレース1の周方向と直交する方向に動くのが阻止される。また、固定溝1bの配設方向において両端部が固定溝1bの両端より張り出して洞穴状に形成されるアウターレース1の一方側凹部1cに弾性体2の一方側第2凸状部2bが嵌まると共に、固定溝1bの配設方向において両端部が固定溝1bの両端より張り出して洞穴状に形成されるアウターレース1の他方側凹部1dに弾性体2の他方側第2凸状部2cが嵌まることで、弾性体2がアウターレース1の表面から垂直な方向に剥がれるのが阻止される。
【0034】
したがって、弾性体2は、アウターレース1の表面の面方向およびアウターレース1の表面に垂直な方向における動きが規制され、アウターレース1の表面に裏面が固定される結果となる。このため、従来の、圧入や接着剤によって弾性体2をアウターレース1の表面に固定する場合のように、弾性体2がアウターレース1の表面から外れる不具合が発生するのが防止される。また、アウターレース1の表面に弾性体2の裏面が上記のように単に嵌まることで、アウターレース1の表面に弾性体2の裏面が接着剤を使用することなく固定される。このため、アウターレース1の表面に弾性体2を固定する際、接着剤を用いて両者を固定する手間はかからなくなる。
【0035】
上記の効果を確認するため、本実施形態の構造をした、コンプレッション成形で製造された固定構造3を持つコロと、第1レイヤー部材の外周に第2レイヤー部材を接着剤で固定した比較例の固定構造を持つコロとについて、耐荷重性能を比較する実験を行った。比較例の固定構造を持つコロは、円筒形状をしたポリアセタール樹脂からなる第1レイヤー部材としてのラジアルベアリングの外周をブラスト処理で荒らし、荒らした外周に接着剤を付け、ラジアルベアリングの外周にウレタンからなる第2レイヤー部材を注型によって巻き付けて、構成した。実験は、各コロにラジアル方向に98Nの荷重をかけ、300rpmの回転速度で回転させて、行った。その結果、比較例の固定構造を持つコロでは50~60万回転でラジアルベアリングの外周のウレタンが剥がれたが、本実施形態の固定構造3を持つコロでは、100万回転させても、アウターレース1の外周の弾性体2は剥がれることは無く、本実施形態の固定構造3の奏する効果が確認された。
【0036】
また、本実施形態の固定構造3によれば、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dが固定溝1bの配設方向において互い違いに固定溝1bの各端部に交互に形成されることで、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dの各両端部が固定溝1bの配設方向において張り出す距離を確保することができ、アウターレース1が固定溝1bの配設間隔を十分に取れない小さな大きさであっても、上記の作用効果を奏する固定構造3を実現することができる。
【0037】
また、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dがそれぞれ固定溝1bの各端部に連続して形成される場合に比較して簡素な構造としながら、アウターレース1の表面の面方向およびアウターレース1の表面に垂直な方向における弾性体2の動きを十分に規制できる構造が提供される。また、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dが、固定溝1bに対して非対称に配置されることで、弾性体2がアウターレース1の表面から外れ難くなる。このため、製造し易くて安価でしかも外れ難い構造のアウターレース1と弾性体2との固定構造3を提供することができる。
【0038】
また、本実施形態の固定構造3によれば、アウターレース1の外周に弾性体2を外郭材として設けたラジアルベアリングを、アウターレース1の外周から弾性体2が外れる不具合の発生を防止して、提供することができる。
【0039】
また、本実施形態の固定構造3によれば、ウレタン等からなる大径円筒状の弾性部材からなる第2レイヤー部材(弾性体2)が小径円筒状の第1レイヤー部材(アウターレース1)の外周を囲む円環状のコロが形成され、外周側の第2レイヤー部材がその内周側の第1レイヤー部材から外れる不具合の発生を防止できるコロが提供される。
【0040】
また、アウターレース1の外周に弾性部材からなる弾性体2を固定する製造方法の方式として、ゲート口を通じて、アウターレース1がセットされた金型のキャビティ内に熱によって軟化した未加硫のウレタン材を流し込み、キャビティ内に充填されたウレタン材を規定時間加硫することで、アウターレース1の表面に弾性体2の裏面を固定する加硫接着方式がある。この加硫接着方式で本実施形態の固定構造3を製造しようとすると、キャビティ内に流し込まれた軟化したウレタン材は、洞穴状に固定溝1bよりも深くアウターレース1の表面に形成される一方側凹部1cおよび他方側凹部1dの隅々にまで、気泡の混入により、行き渡らないことがある。このように気泡が混入すると、アウターレース1の表面に形成される一方側凹部1cおよび他方側凹部1dの気泡混入箇所において、アウターレース1と弾性体2との接着力が低下する。
【0041】
しかし、本実施形態の固定構造3の製造方法によれば、弾性体2が、材質とするウレタン材がゲル化されてアウターレース1にコンプレッション成形で固定されることで、ゲル化したウレタン材は、成形時、気泡を発生させることなく、アウターレース1の表面に形成される一方側凹部1cおよび他方側凹部1dの隅々にまで行き渡るようになる。したがって、弾性体2を形成するウレタン材は一方側凹部1cおよび他方側凹部1dの隅々にまで充填されるので、一方側凹部1cおよび他方側凹部1dにおいて、加硫接着方式で製造する場合のように接着力が低下することはない。このため、本実施形態の固定構造3の製造方法によれば、アウターレース1に弾性体2を確実に強固に固定することができる、アウターレース1と弾性体2との固定構造3の製造方法を提供することができる。
【0042】
なお、上記の実施形態では、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材がコンプレッション成形によって定着して固定構造3が製造される場合について説明したが、成形した第2レイヤー部材を弾性変形させて、第1レイヤー部材の表面に組み込むことで、第1レイヤー部材の表面に第2レイヤー部材を固定するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
また、上記の実施形態では、固定構造3をラジアルベアリングに適用した場合について説明したが、ローラに適用するようにしてもよい。この場合、第1レイヤー部材の内周に挿入される図示しないシャフトを、上記に記載の固定構造3にさらに備えることで、図示しないローラーが構成される。本構成によれば、第1レイヤー部材とその外周を覆う第2レイヤー部材の外郭材とによって構成されるコロの内周にシャフトを設けたローラーを、コロの外周から外郭材が外れる不具合の発生を防止して、提供することができる。
【0044】
また、上記の実施形態では、固定構造3が、円筒状の第1レイヤー部材および第2レイヤー部材から構成される場合について説明したが、四角柱状や平板状をした第1レイヤー部材および第2レイヤー部材から構成されるようにしてもよい。この場合、第1レイヤー部材が下層の基材とされ、弾性部材からなる第2レイヤー部材が上層の緩衝材として、ブロック材やクッション材として使用される。このようなブロック材やクッション材においても上記の実施形態と同様な作用効果が奏され、上層の緩衝材が下層の基材から外れる不具合の発生が防止され、しかも、製造し易くて安価な構造の基材と緩衝材との固定構造およびその製造方法を提供することができる。
【0045】
また、上記の実施形態の固定構造3およびその固定構造3を用いた各変形例では、第2レイヤー部材を弾性部材を材質とした場合について説明した。しかし、第2レイヤー部材は必ずしも弾性部材を材質とする必要はなく、例えば硬質プラスチックなどを材質としてもよい。しかし、第2レイヤー部材を弾性部材を材質とすることで、第2レイヤー部材は、それと接触する部材との間における緩衝材として機能する。このため、第2レイヤー部材に接触する部材を傷付けることがなく、また、第2レイヤー部材にかかる外力を緩衝可能な第1レイヤー部材と第2レイヤー部材との固定構造並びにその固定構造を備えるラジアルベアリングおよびローラを提供することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…アウターレース(第1レイヤー部材)、1a…ボール溝、1b…固定溝、1c…一方側凹部、1d…他方側凹部、2…弾性体(第2レイヤー部材)、2a…第1凸状部、2b…一方側第2凸状部、2c…他方側第2凸状部、3…固定構造