(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127534
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】抗菌シート
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20220824BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20220824BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220824BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20220824BHJP
【FI】
D06M11/83
A41D13/11 M
A62B18/02 C
D03D15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021025731
(22)【出願日】2021-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】514057075
【氏名又は名称】株式会社伸光製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】添田 薫
(72)【発明者】
【氏名】角田 正典
【テーマコード(参考)】
2E185
4L031
4L048
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CB11
4L031AB34
4L031BA04
4L031DA12
4L048AA04
4L048DA22
(57)【要約】
【課題】抗菌対象物を継続的に抗菌できるようにする抗菌シートを提供する。
【解決手段】抗菌シート10は、金属又は合金でなるメッシュ形状の抗菌表面を有するシート状の抗菌メッシュ部を有しており、抗菌対象物に取付けられてその表面を抗菌する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金でなるメッシュ形状の抗菌表面を有するシート状の抗菌メッシュ部を有しており、抗菌対象物に取付けられてその表面を抗菌する抗菌シート。
【請求項2】
前記抗菌メッシュ部は、人手によって立体形状に変形可能な屈曲性と変形後の前記立体形状を維持する形状保持性とを有する
請求項1記載の抗菌シート。
【請求項3】
さらに、前記抗菌メッシュ部を覆う布製の被覆部を有する
請求項1又は2記載の抗菌シート。
【請求項4】
さらに、前記被覆部は、前記抗菌メッシュ部が過酸化水素の発生を促進するための反応促進剤を有する
請求項1~3何れか1項記載の抗菌シート。
【請求項5】
前記抗菌表面が、メッシュ基材を銅-すず-亜鉛からなる三元合金皮膜である
請求項1~4何れか1項記載の抗菌シート。
【請求項6】
前記抗菌メッシュ部は、メッシュサイズが50メッシュ以上80メッシュ未満である
請求項1~5何れか1項記載の抗菌シート。
【請求項7】
前記抗菌メッシュ部は、メッシュサイズが140メッシュを超え635メッシュ以下である
請求項1~6何れか1項記載の抗菌シート。
【請求項8】
請求項1~7何れか1項記載の抗菌シートの抗菌表面を呼気及び吸気に対する熱交換部として備える口鼻用マスク。
【請求項9】
請求項1~7何れか1項記載の前記抗菌シートを内面に備える収納具。
【請求項10】
請求項1~7何れか1項記載の前記抗菌シートを備える医療用部材。
【請求項11】
請求項1~7何れか1項記載の前記抗菌シートを備える化粧用部材。
【請求項12】
請求項1~7何れか1項記載の前記抗菌シートを備える屋内用設備。
【請求項13】
請求項1~7何れか1項記載の前記抗菌シートを備える感染症予防対策具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗菌シートに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌、ウイルス(以下、「細菌等」という。)の感染症対策として、例えばアルコール消毒液が利用されている。アルコール消毒液は、除菌対象物に直接吹付けたり、アルコール消毒液を含浸する布で除菌対象物の表面を拭き取ったりすることで、即時の感染症対策を行うものである。
【0003】
ところがアルコール消毒液は、除菌対象物に吹付けた後に蒸発してしまうため、吹付け作業や拭き取りの作業を定期的に行わなければならない。つまり、アルコール消毒液では、除菌し切れなかった細菌等や新たに付着した細菌等の増殖を抑制することは難しい。
【0004】
これに対して、抗菌製品は、細菌等の増殖を抑制することで、除菌と同等の効果を継続的に発生することが期待される。抗菌製品には、例えば衣類や樹脂成形品が知られており、原料とする繊維や樹脂材が抗菌剤を含有することで抗菌機能を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-27447号公報
【特許文献2】特開2020-120763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、抗菌製品は、原材料に抗菌剤を含有するものであって、抗菌剤を含有しない既製品を抗菌するものではない。
【0007】
本発明の一態様は、抗菌対象物を継続的に抗菌できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、金属又は合金でなるメッシュ形状の抗菌表面を有するシート状の抗菌メッシュ部を有しており、抗菌対象物に取付けられてその表面を抗菌する抗菌シートである。
【0009】
本発明の一態様は、銅又は銅合金でなるメッシュ形状の抗菌表面を有するシート状の抗菌メッシュ部を有しており、抗菌対象物に取付けられてその表面を抗菌する抗菌シートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、抗菌対象物を継続的に抗菌することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態による抗菌シートの正面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態による抗菌シートの正面図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態による抗菌シートの正面図である。
【
図6】
図6は、抗菌シートを備える衛生マスクの正面図である。
【
図7】
図7は、抗菌シートを備えるマスクカバーと衛生マスクの正面図である。
【
図9】
図9は、抗菌シートを備えるマスクケースの正面図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態の抗菌シートの変形例を示す正面図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態の抗菌シートの変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一態様とその実施形態の例を、図面を参照しつつ説明する。また、以下では、以下に説明する一態様と実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0013】
【0014】
第1実施形態の抗菌シート10は、
図1で示すように、抗菌作用を有する金属又は合金による抗菌表面を有するメッシュシート(シート状のメッシュ部材)として構成されている。抗菌シート10は、それ自体が「抗菌メッシュ部」として形成されている。
【0015】
抗菌シート10の形状は、抗菌シート10を取付ける抗菌対象物(取付対象物)に対応する形状として構成することができる。抗菌シート10の大きさも形状と同様に、抗菌対象物に対応する大きさとして構成することができる。
【0016】
抗菌シート10の厚みをなす経線10a、緯線10bの経線は、一例として90μm~120μmのものを使用することができる。線径が90μmより小さいと剛性が低くなり洗浄時に型崩れが起きやすく、また変形した際に破断するおそれがある。線径が120μmを超えると、各種の抗菌対象物に取付けた際に厚く重くなってしまうためである。そして90μm~120μmの厚み範囲の抗菌シート10であれば、剛性を確保することができ、また様々な抗菌対象物に対して取付けを容易に行うことができる。抗菌シート10の厚みは、抗菌シート10の大きさ及び形状に応じて選択することができる。
【0017】
抗菌シート10のメッシュサイズは、50~635メッシュのものを使用することができる。但し、抗菌シート10を人体に触れる用途で使用する場合には、50メッシュ以上100メッシュ未満及び140メッシュを超え635メッシュ以下のものとして形成するのが好ましい。換言すると120~140メッシュを除くメッシュサイズのものとして形成するのが好ましい。メッシュサイズが120~140メッシュの範囲であると、体毛が抗菌シート10の経線10a、緯線10bで囲まれたメッシュ開口10cの中に入り込んで引っ掛かり、抗菌シート10が動くたびに体毛が引っ張られて痛くなり、使用感が不快となるおそれがあるからである。例えば、抗菌シート10を衛生マスクに取付けて男性が装着すると、ひげが抗菌シート10のメッシュ開口10cに入り込んで引っ掛かり、抗菌シート10が動くたびにひげが引っ張られて痛くなるおそれがある(ひげトラップの発生)。他方、例えば子供用の衛生マスクの場合には、ひげトラップの発生を考慮しなくてもよいことから、抗菌シート10のメッシュサイズは50~635メッシュのものを使用することができる。
【0018】
抗菌シート10の材質は、抗菌シート10の構造に応じて、例えば以下の3つを例示することができる。
【0019】
第1に、抗菌シート10は、メッシュ基材それ自体の材質を、抗菌作用を有する金属材料、合金材料とすることができる。
【0020】
第2に、抗菌シート10は、
図3で示すように、メッシュ基材10dの材質を、抗菌作用が無い金属や合金、合成樹脂材、繊維材、熱可塑性エラストマー等のゴム状弾性体とし、このようなメッシュ基材に抗菌作用を有する金属材料、合金材料を抗菌材として含有する抗菌層10eを形成したものとしてもよい。そうした抗菌層の形成方法は、鍍金、塗装、浸漬、印刷、3Dプリンティング等により形成することができる。
【0021】
第3に、抗菌シート10は、抗菌作用を有する金属材料、合金材料を抗菌材(抗菌充填材)として含有する合成樹脂材、繊維材、熱可塑性エラストマー等のゴム状弾性体により形成したものとしてもよい。このような合成樹脂材、ゴム状弾性体の抗菌性成形体、抗菌繊維体としても、抗菌表面を実現することが可能である。
【0022】
抗菌作用を有する金属材料、合金材料としては、細菌やウイルスの増殖を抑制する抗菌作用(殺菌作用、除菌作用を含む。)を有するすべての金属を用いることができる。具体的には、例えば銅、銀、亜鉛、コバルト、ニッケル、パラジウム、アルミニウム、モリブデン、鉛、タングステン、バナジウム、ジルコニウム及びこれらの1以上を含む合金を用いることができる。
【0023】
抗菌シート10には、抗菌作用(殺菌作用)を促進させる表面処理液により金属製のメッシュ基材10dを表面処理した抗菌層10eを有するものとしてもよい。このような殺菌用表面処理液としては、例えば国際公開第2019/008950に記載のものを例示できる。
【0024】
本実施形態の抗菌シート10は、金属製のメッシュ基材10dの全体(メッシュ基材をなす線材表面)を銅-すず-亜鉛からなる三元合金皮膜10eで被覆したものを使用することができる。この場合、三元合金皮膜10eは抗菌層を形成する。そのような三元合金皮膜10eとしては、例えば株式会社特殊鍍金化工所の三元合金皮膜「CSZ」(登録商標。以下同じ。)を好適に用いることができる。そして三元合金皮膜10eをメッシュ基材の線材10a,10bに鍍金により被覆することで、抗菌シート10を得ることができる。
【0025】
ここで三元合金皮膜10eとしての「CSZ」の特徴を説明する。三元合金皮膜10eを形成する三元合金は、銅:50~55質量%、すず:30~35質量%、亜鉛:15~20質量%の合金組成を有する。三元合金皮膜10eは、メッシュ基材10dを形成する金属製の線材10a,10bに対して均一な厚みでメッシュ基材10dの全面を被覆するめっき膜として形成されている。三元合金皮膜10eは抗菌表面としての機能性を有し、銅や銀と同様の抗菌効果を有しており、抗菌シート10の表裏両面の全面にわたって細菌、ウイルスの増殖を抑制する抗菌作用を発揮することができる。また、三元合金皮膜10eは、ニッケルを含まず人体に対して金属アレルギー反応を起こしにくい特徴を有する。したがって、本実施形態の抗菌シート10は、人体に触れる用途として使用することもできる。
【0026】
抗菌シート10は、家庭用の中性洗剤を使って洗浄することで、付着している異物を除去することが可能である。そして洗浄した抗菌シート10は、アイロンやスチームアイロンによってアイロンがけすることもできる。アイロンやスチームアイロンは低温側で80℃から設定可能であり、抗菌シート10に付着している細菌やウイルスを殺菌することができる。したがって抗菌シート10は、繰り返し使用することができるものである。
【0027】
本実施形態の抗菌シート10は、様々な抗菌対象物1の表面2に取付けることが可能である(
図3参照。具体的な取付対象物は後述する。)。抗菌シート10は、抗菌対象物1の表面2に取付けられることで、細菌やウイルスが抗菌対象物1に直接付着するのを阻止する障害物となる。抗菌シート10は、人手によって立体形状に変形可能な屈曲性と、変形後の立体形状を維持する形状保持性とを有する。したがって、抗菌対象物1の形状に応じて変形させて使用できる。そして抗菌シート10に直接付着した細菌等は、抗菌シート10の抗菌作用によって、その増殖を継続的に抑制することができる。
【0028】
抗菌シート10のメッシュ開口10cを通過して抗菌対象物1に付着する細菌等は、メッシュ開口10cの内部で抗菌シート10に付着することで、その増殖を継続的に抑制することができる。
【0029】
メッシュ開口10cの内部は経線10a、緯線10bで包囲された凹形状の小孔となっており、手指等が入らず直接触れることができない。このためメッシュ開口10cの内部に入り込んで抗菌対象物1の表面2に直接付着している細菌等に直接触れてしまうことも継続的に抑制することができる。特に、抗菌シート10のメッシュ形状を形成する線材(10a,10b)の断面が円形である場合、線材(10a,10b)と抗菌対象物1との間に徐々に狭くなる隙間3が形成されており、そこに細菌等を付着させることも可能であるため、比較的メッシュサイズの大きい場合でも、手指でメッシュ開口10cの内部の細菌等に触れることを抑制することができる。
【0030】
以上のように抗菌シート10は、抗菌対象物1が既製品であるとしても、それに添えて取付けることで継続的な抗菌作用を発揮することができ、感染症対策に好適に利用することができる。
【0031】
【0032】
第2実施形態の抗菌シート20は、第1実施形態の抗菌シート10を抗菌シート本体21として備えており、抗菌シート本体21の外縁を覆う「被覆部」としての外縁被覆部22を設けたものである。抗菌シート本体21の説明は、第1実施形態の抗菌シート10と同じであるため重複説明を省略する。
【0033】
外縁被覆部22は、抗菌シート本体21の外端のホツレを防止したり、肌触りを改善したりするために設けられている。外縁被覆部22は、一例として、抗菌シート本体21の外周縁を表裏から挟むように形成することができる。このような外縁被覆部22は、一例として、布、樹脂フィルム、熱可塑性エラストマー等のゴム状弾性体シート、皮革等の素材のものを用いることができ、接着、熱圧着、一体成形等により抗菌シート本体21の外周縁に固着することができる。また、外縁被覆部22は、3Dプリンタにてウレタン系、シリコーン系等のゴム状弾性材を用いて形成することもできる。
【0034】
外縁被覆部22の材料を布とする場合には、天然繊維、化学繊維の少なくとも何れかを含む素材により構成することができる。天然繊維としては、例えば綿等の植物繊維、絹、羊毛等の動物繊維を使用することができる。化学繊維としては、再生繊維、合成繊維を使用することができ、再生繊維としては、例えば吸湿性が良く縮みにくいキュプラ等を使用できる。また合成繊維としては、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等を使用できる。
【0035】
本実施形態の外縁被覆部22は、化学繊維を素材とする不織布にて形成されている。このため抗菌シート本体21の外端のホツレを防止したり、外端における肌触りを改善したりすることができる。
【0036】
また、外縁被覆部22を形成する不織布は保湿性を有し、液状物(液体、クリームを含む。)を保持する担体として構成することができる。
【0037】
例えば、抗菌シート20を人体に触れたり、人体に近い位置で使用する構成とする場合、不織布でなる外縁被覆部22は、例えばレモン、バラ、ユーカリ、クローブ等の嗅素を含有するアロマオイルを保持する担体として構成することができる。これにより抗菌シート20は、リラックス効果によるストレス改善や、嗅覚障害を改善する嗅覚刺激療法に用いることもできる。
【0038】
また、抗菌シート20を人体に触れる構成として使用する場合、不織布でなる外縁被覆部22は、例えばスキンケア剤を保持する担体として構成することができる。スキンケア剤は、液状、クリーム状、固体状でもよく、具体的にはローション、化粧水、保湿クリーム等でもよい。また、スキンケア剤には、ビタミンC、ヒアルロン酸、ポリフェノール、クエン酸の抗酸化物質を含有するものでもよい。これにより抗菌シート20は、肌質の保全や改善にも用いることができる。
【0039】
銅又は銅合金でなる抗菌シート本体21は、反応促進剤が付着することで過酸化水素の発生を促進して、細菌等の増殖を抑制する抗菌性を発揮する。反応促進剤の一例は水であり、これは例えば抗菌シート20を衛生マスクに取付けて、人体の呼気に含まれる水分によって供給することが可能である。したがって、抗菌シート20は、衛生マスクを抗菌作用付き衛生マスクとして構成することができる。また、他の反応促進剤としては、酸化防止剤であるビタミンC(アスコルビン酸)、グルタチオンを含有するものを利用することができる。これらによれば水よりもさらに過酸化水素を発生する反応速度を高めることができる。したがって、抗菌シート20に設ける外縁被覆部22は、それらの反応促進剤をスプレー、塗布、浸漬等によって含有するものとして構成するのが好ましい。前述のビタミンCを含有するスキンケア剤は、スキンケアとしての効能だけでなく、抗菌シート本体21が抗菌性を促進させる効能も有するものである。
【0040】
以上のような抗菌シート20は、抗菌対象物1が既製品であるとしても、それに添えて取付けることで継続的な抗菌作用を発揮することができ、感染症対策に好適に利用することができる。
【0041】
また、外縁被覆部22を不織布として構成することで、前述した各種の液状物(アロマオイル、スキンケア剤)を保持する担体として利用することができる。
【0042】
【0043】
第3実施形態の抗菌シート30は、第1実施形態の抗菌シート10を抗菌シート本体31として備えており、抗菌シート本体31の全体(両面)を覆う被覆部32を設けたものである。また、本実施形態の被覆部32は、抗菌シート本体31の全体を覆うものである点で、第2実施形態の外縁被覆部22と相違する。抗菌シート本体31の説明は、第1実施形態の抗菌シート10と同じであるため重複説明を省略する。
【0044】
被覆部32は、中央被覆部33と外縁被覆部34とを有する。被覆部32は袋状に形成されており、その内側は抗菌シート本体31の収納部として形成されている。被覆部32にはスリット35が形成されており、ここから抗菌シート本体31を出し入れすることができる。スリット35は、被覆部32を形成するシート面に線状の切込みを入れて形成されている。
【0045】
被覆部32は、多孔質材シート(多孔質フィルター)にて形成することができる。その一例として本実施形態では第1実施形態と同様に不織布にて形成されている。多孔質材シートとしては、例えば樹脂フィルム、熱可塑性エラストマー等のゴム状弾性体シート、皮革等を素材とし、孔を形成したものを用いることができる。被覆部32を袋状に形成するには、接着、熱圧着、一体成形等により形成することが可能である。
【0046】
以上のような抗菌シート30は、抗菌対象物1が既製品であるとしても、それに添えて取付けることで継続的な抗菌作用を発揮することができ、感染症対策に好適に利用することができる。具体的には、抗菌シート30を抗菌対象物1に取付けることで、被覆部32を通過して抗菌シート本体31に付着した細菌等の増殖を抑制することができる。また、細菌等が抗菌シート本体31に付着することで、細菌等が人体に触れることを抑制することができる。
【0047】
被覆部32を不織布として構成することで、第2実施形態で説明した各種の液状物(アロマオイル、スキンケア剤、反応開始剤)を保持する担体として利用することができる。しかも本実施形態では、外縁被覆部34だけでなく中央被覆部33を有する。このためその全面を各種の液状物を保持する担体として利用することができ、第2実施形態よりもさらに使用する液状物による効果を奏することができる。
【0048】
被覆部32は、スリット35を有することで、抗菌シート本体31を取り出すことができる。このように被覆部32に対して抗菌シート本体31を着脱可能に構成することによって、抗菌シート本体31を洗浄することができ、またアイロンがけにより殺菌することもできる。この利点は第1実施形態の抗菌シート10と同じである。さらに、本実施形態では、被覆部32をディスポーザブル部材として構成できる。被覆部32をディスポーザブル可能とすることで、抗菌シート30を感染症対策に適するものとして構成することができる。なお、被覆部32はディスポーザブル部材として構成する場合でも、洗浄して乾燥させれば再利用可能である。
【0049】
抗菌シート付部材の説明
【0050】
以上のような抗菌シート10、20、30は、簡易な構成であることから、様々な部材(抗菌対象物)に取付けることが可能である。そして既製品であっても、後付けで抗菌機能を付与して感染症予防対策を講ずることができる。以下、そのような抗菌シート付部材を例示して説明する。なお、抗菌シート10、20、30の大きさや形状は、取付対象とする抗菌対象物に応じて適宜変更することができる。
【0051】
【0052】
感染症予防対策具には、大別して対人装着用対策具と対物装着用対策具とがあり、これらには抗菌シート10、20、30を備えることができる。このうち対人装着用対策具には、例えば口元フェイスカバー、衛生マスク、マスクカバー等がある。これらはそれぞれ本発明の一態様である「口鼻用マスク」を構成する。
【0053】
口元フェイスカバーは、顔に装着され、口の前方にPET樹脂等の透明樹脂でなるカバー板が設けられている。このカバー板の内側面(口側の面)における口の前方位置に、抗菌シート10、20、30を取付けることができる。その取付けには、例えば貼付テープ、クリップ等の取付部材を使用することができる。これによれば口元フェイスカバーのカバー板を抗菌シート10、20、30によって抗菌することができる。
【0054】
図6は、衛生マスク40に抗菌シート30を取付けた例である。抗菌シート30は衛生マスク40の内側面(口側面)に対して、取付部材としての粘着テープ41によって取付けられている。これによって既製品の衛生マスク40に抗菌機能を付与することができる。
【0055】
図6では、衛生マスク40のノーズフィット40aに臨む下側位置に粘着テープ41(第1の粘着テープ)で抗菌シート30を取付けている。ノーズフィット40aを上に、粘着テープ41をその下に配置する位置関係とすることで、抗菌シート30を衛生マスク40の内側に保持することが容易となる。即ち、それらの上下の位置関係を逆にすると、ノーズフィット40aを曲げたときに抗菌シート30が衛生マスク40の上端からはみ出してしまうおそれがある。そこでノーズフィット40aを上に、粘着テープ41をその下に配置することで、ノーズフィット40aを曲げても抗菌シート30が衛生マスク40からはみ出さないようにすることができる。また、そのように抗菌シート30をノーズフィット40aに隣接して配置することで、ノーズフィット40aを曲げるのと同時に抗菌シート30も曲げることができる。したがって、実質的にノーズフィット40aと抗菌シート30とを一体として鼻に合わせて容易にフィットさせることが可能であり便利である。
【0056】
また、抗菌シート30は、ノーズフィット40aに隣接する上端側の粘着テープ41だけでなく、衛生マスク40の下縁側に隣接する下端側の粘着テープ41(第2の粘着テープ)も有する。このように抗菌シート30をその上下位置で衛生マスク40に取付けることで、確実に衛生マスク40に保持することができる。また、下端側の粘着テープ41は、衛生マスク40の下端側を顎下方向に引っ張って顔に装着した形状となった衛生マスク40に対して貼り付けるようにする。こうすることで、衛生マスク40が顔にフィットした状態で鼻と口の前方に抗菌シート30を位置することができ、このように取付けられた抗菌シート30は、顎下に引っ張って伸ばした状態の衛生マスク40を補強して、その形状を維持することもできる。下端側の粘着テープ41には、このような有用性があるもののこれを省略し、上端側の粘着テープ41だけを設けるように構成してもよい。
【0057】
また、抗菌シート30の被覆部32が不織布であるため、呼気に含まれる水分の吸湿効果があるため、咽喉や鼻の乾燥を抑制することもできる。
【0058】
さらに、抗菌シート30の被覆部32には、第2実施形態で説明した各種の液状物(アロマオイル、スキンケア剤、反応促進剤)を含浸させて使用することができる。例えばアロマオイルを含浸させた場合には、リラックス効果によるストレス改善、嗅覚障害を改善する嗅覚刺激療法に利用することができる。また、スキンケア剤を含浸させた場合には、肌の保湿効果や肌質改善効果が得られる。さらに反応促進剤を含浸させた場合には抗菌効果を早く得ることができる。
【0059】
なお、
図6では衛生マスク40の内側面に抗菌シート30を取付ける例を示したが、内側面に代えて外側面に取付けても良く、両面に取付けてもよい。
【0060】
また、
図6では、抗菌シート30を取付ける例を示したが、抗菌シート10や抗菌シート本体21が露出する抗菌シート20を取付けるようにしてもよい。この場合、特に抗菌シート10、抗菌シート本体21は外気を吸い込む吸気時に熱交換部として機能するため、衛生マスク40の内側に冷感を与えることができる。即ち、抗菌シート10、20、30を備える衛生マスク40は、「熱中症対策マスク」として構成することができる。また、抗菌シート10、抗菌シート本体21は呼気時にも熱交換部として機能するため、衛生マスク40の内側に温感を与えることができる。これにより抗菌シート10、20、30を備える衛生マスク40は寒冷地での使用に好適な「温感マスク」として構成することができる。
【0061】
このように抗菌シート10、20、30を取付けた衛生マスク40を装着すれば、呼吸時に吸気冷感と呼気温感とのバランスの取れた呼吸を繰り返し行うことが可能であり、また衛生マスク40の不織布や吸湿性のある不織布等の布で形成した外縁被覆部22や被覆部32によって、鼻と喉の渇きによる脱水を抑制することができる。特に呼吸時には、吸気冷感と呼気冷感とのバランスの取れた呼吸が体調管理の上で重要である。例えば、夏季に吸気冷感だけが得られて呼気温感が得られない場合、喉が渇き気管が低湿度乾燥となって、脱水症状を促進してしまい、熱中症を引き起こす原因となりうる。他方、冬季に呼気温感が得られないと、低温環境下で凍傷が促進するおそれがある。したがって、抗菌シート10、20、30を備える衛生マスク40によれば、金属製の抗菌シート10、抗菌シート本体21,31が呼吸時の熱交換部として機能することで、電気や外部エネルギーを使わずに、吸気冷感と呼気温感とのバランスの取れた呼吸を繰り返し行える呼吸環境を作ることができるという特徴を有する。つまり、抗菌シート10、20、30付衛生マスク40は、健康管理にも繋がる。そして、衛生マスク40が抗菌作用や呼吸環境を、電気や外部エネルギーを使わずに実現できることは、SDGsの要請にも合致することができる。
【0062】
図7、
図8は、衛生マスク40を覆うマスクカバー50に抗菌シート30を取付ける例である。マスクカバー50は、布製であり筒状に形成されている。マスクカバー50の内側には、衛生マスク40を配置することができる。マスクカバー50の内面には、衛生マスク40の外側面と内側面と対向する部位に、それぞれ抗菌シート20が取付けられている。これによって衛生マスク40とマスクカバー50とに抗菌機能を付与することができる。
【0063】
また、抗菌シート20は、変形した状態を維持する形状保持性を有するので、マスクカバー50の形状も抗菌シート20の変形に合わせて形状を維持することが容易となる。
【0064】
さらに、マスクカバー50を形成する布が吸湿性のある綿等を素材とする場合には、呼気に含まれる水分の吸湿効果があるため、咽喉や鼻の乾燥を抑制することもできる。特に、抗菌シート20は、外縁被覆部22の内側に抗菌シート本体21が露出しており、吸湿効果を期待できないため、マスクカバー50に吸湿効果がある構成とすることは特に好ましい。
【0065】
なお、
図7、
図8では抗菌シート20を2枚備える例を示したが、そのうちの一方のみを備える構成としてもよい。
【0066】
対物装着用対策具としては、例えばカーテン、衝立等がある。カーテンは、例えば職場や病室等を仕切るものであるが、カーテンに抗菌シート10、20、30を取付けることで、既製品のカーテンを抗菌仕様に変えることができる。その取付けには、貼付テープやクリップ等の取付部材を用いることができる。なお、既製品のカーテンだけでなく、新品のカーテンに抗菌シート10、20、30を取付けてもよいことはもちろんである。
【0067】
カーテンと同様に職場や飲食店等では隣接する席どうしを仕切る衝立が利用されているが、この衝立の板面(両面)に抗菌シート10、20、30を取付けることで、既製品の衝立を抗菌仕様に変えることができる。その取付けには、貼付テープやクリップ等の取付部材を用いることができる。なお、既製品の衝立だけでなく、新品の衝立に抗菌シート10、20、30を取付けてもよいことはもちろんである。
【0068】
屋内用設備
【0069】
室内に設置されている様々な設備に抗菌シート10、20、30を取付けることで、既製品の設備を抗菌仕様に変えることができる。屋内用設備の一例としては、ドアノブ、ドアノブカバー、カーテン、壁、エアコンフィルター、掃除機フィルター等に、抗菌シート10、20、30を取付けることができる。その取付けには、貼付テープやクリップ等の取付部材を用いることができる。
【0070】
化粧用部材
【0071】
化粧品や化粧道具等の化粧用部材は、顔や手肌に触れる機会が多いものであるため、それらに抗菌シート10、20、30を取付けることで抗菌仕様とすることができる。例えば、コンパクト等の化粧道具用ケースの内面に、貼付テープ等の取付部材を用いて抗菌シート10、20を取付けることができる。また、抗菌シート30の被覆部32には、ビタミンCやヒアルロン酸等の肌質改善剤を含浸させることができる。このため肌質改善用シート(化粧品)として構成することができる。
【0072】
医療用部材
【0073】
医療用部材、特に対人装着用医療部材については、感染症予防の観点から抗菌仕様とするニーズが高い。例えば傷口を保護する絆創膏に抗菌シート30を取付けることで抗菌仕様とすることができる。この場合、抗菌シート30の被覆部32には、ビタミンCやヒアルロン酸等の肌質改善剤を含浸させて使用することもでき、それにより肌質改善機能付き絆創膏として構成することができる。
【0074】
収納具
【0075】
各種の収納具の内面に抗菌シート10、20、30を取付けることで抗菌仕様にすることができる。例えば、歯ブラシケース、髭剃りケース、バッグ、化粧ポーチ等の内面に、抗菌シート10、20、30を貼付テープ、クリップ、ボタン等により取付けることができる。
【0076】
また、収納具としてのマスクケース60の内面に、衛生マスク40と接触可能な抗菌シート10、20、30を設けても良い。
図9は、その一例であり横型封筒タイプのマスクケース60の内面に抗菌シート10を設けたものである。国立感染症研究所 国立国際医療研究センター 国際感染症センターが発行する「新型コロナウイルス感染症に関する感染管理」(改訂2020年6月2日)によれば、一旦外したマスクを保管する際に、内側が汚染されないように工夫することが推奨されているが、抗菌シート10、20、30を取付けたマスクケースであれば、そうした要請に応えることができる。
【0077】
変形例
【0078】
前記実施形態では、衛生マスク40として不織布マスクを例示したが、例えばウレタン系素材で形成されたフィット感の高い立体型の衛生マスクや綿や化学繊維を材質とする布製の衛生マスクに、抗菌シート10、20、30を取付けてもよい。
【0079】
前記実施形態では、衛生マスク40に抗菌シート30を貼付ける例を示したが、衛生マスクにポケット部を設け、そこに抗菌シート10、20を挿入して取付けてもよい。
【0080】
前記実施形態では、衛生マスク40に1枚の抗菌シート30を取付ける例を示したが、例えば右側、左側に配置する複数枚の抗菌シート30を取付けるようにしてもよい。即ち、衛生マスク40を含めて様々な抗菌対象物について、1面に付き1枚ではなく複数枚の抗菌シート10、20、30を取付けてもよい。
【0081】
前記第2実施形態では、四角枠状の外縁被覆部22を有する抗菌シート20を例示したが、例えば
図10で示すように幅方向の中央に補強部23を設けてもよい。このような補強部23を設けることで、抗菌シート20を取付けた衛生マスク40を鼻回りにフィットさせるように衛生マスク40を屈曲させたときに、衛生マスク40の破断を予防することができる。
【0082】
前記第3実施形態では、抗菌シート本体31の全体を被覆する被覆部32を例示したが、例えば
図11で示すような被覆部36としてもよい。被覆部36は、多数の孔36aを設けたものである。孔36aは被覆部36の両面に設けられている。そのサイズは一例として3~5mmとすることができる。被覆部36に孔36aを有する抗菌シート30によれば、衛生マスク40に装着した際に通気性を高めることができ、呼吸を楽にすることができる。また、孔36aが無い場合と比べると、抗菌シート30の洗濯や洗浄もより容易に行うことができる。
【0083】
図11で示すように孔36aを有する被覆部36を抗菌シート30に設ける場合には、被覆部36が抗菌シート本体31に密着固定されることが好ましい。被覆部36が抗菌シート本体31に対して固定されていないと、抗菌シート30を衛生マスク40に取付けた際に、呼吸のたびに孔36aの周囲の部分が抗菌シート本体31から浮いたり付いたりして衛生マスク40の装着感が悪くなるためである。被覆部36を抗菌シート本体31に密着固定するには、例えば被覆部36を形成する例えば2枚の不織布シートの間に抗菌シート本体31を挟んで、各不織布シートの対向面に形成されている熱圧着剤を介して熱圧着することで、抗菌シート本体31に対して被覆部36を密着固定することができる。
図11で示す変形例の抗菌シート30は、このような製法により形成されている。
【0084】
以上、本発明の一態様による実施形態について詳細に説明したが、本発明の構成及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。特に、第1実施形態~第3実施形態の構成、それらの利用例である抗菌シート付部材の構成及び変形例の構成は、任意の組合せとして実施することができる。
【0085】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、抗菌シート10、20、30の構成も本発明の一態様による実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 抗菌対象物
2 表面
10 抗菌シート(第1実施形態)
10a 経線
10b 緯線
10c メッシュ開口
10d メッシュ基材
10e 抗菌層、三元合金皮膜
20 抗菌シート(第2実施形態)
21 抗菌シート本体
22 外縁被覆部
23 補強部
30 抗菌シート(第3実施形態)
31 抗菌シート本体
32 被覆部
33 中央被覆部
34 外縁被覆部
35 スリット
36 被覆部
36a 孔
40 衛生マスク
40a ノーズフィット
41 粘着テープ
50 マスクカバー
60 マスクケース