(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022127551
(43)【公開日】2022-08-31
(54)【発明の名称】ペースト状食材を含む卵加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20220824BHJP
【FI】
A23L15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063288
(22)【出願日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2021025222
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521025452
【氏名又は名称】本田 貴博
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 貴博
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC09
4B042AD29
4B042AE10
4B042AG07
4B042AG09
4B042AH09
4B042AK11
4B042AK14
4B042AK15
4B042AK17
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP13
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】明太子等のぺースト状食材を、半熟卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品及びその製造方法の提供。
【解決手段】(i)ニワトリ又はウズラの半熟全卵ゆで卵の外側からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて半熟卵黄の一部を抜き取る工程、
(ii) (i)の工程でシリンジを刺し込むことにより形成された穴からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて黄身部分に卵以外のペースト状の食材を注入する工程、
を含む、半熟全卵の黄身部分にぺースト状食材を含む卵加工食品を製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) ニワトリ又はウズラの半熟全卵ゆで卵の外側からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて半熟卵黄の一部を抜き取る工程、
(ii) (i)の工程でシリンジを刺し込むことにより形成された穴からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて黄身部分に卵以外のペースト状の食材を注入する工程、
を含む、半熟全卵の黄身部分にぺースト状食材を含む卵加工食品を製造する方法。
【請求項2】
工程(i)において、シリンジを半熟全卵ゆで卵の下面からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて半熟卵黄の一部を抜き取る請求項1記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項3】
ペースト状の食材が、明太子、たらこ、キャビア、ウニ、のり佃煮、昆布佃煮、芽株佃煮、ゆず胡椒、バター、練りごま、練りわさび、練り梅、うめびしお、アンチョビペースト、青じそペースト、調味味噌、タイ味噌、いりこ味噌、エビ味噌、ゆず味噌、ふき味噌(ふきのとう味噌)、みょうが味噌、くる味噌、玉ねぎ味噌、ねぎ味噌、イカ墨、レバーペースト及び野菜ペーストからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項4】
ペースト状食材が、明太子、たらこ、ウニ、バター、のり佃煮及びゆず胡椒からなる群から選択される、請求項3記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項5】
(ii)の工程の後に、シリンジを刺し込むことにより形成された穴に食用糊を注入する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項6】
食用糊が、卵白及びデンプンを含み、食用糊の注入後、加熱により食用糊を固まらせる、請求項5に記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項7】
半熟全卵ゆで卵が、調味液を染み込ませた味付け卵である、請求項1~6のいずれか1項に記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項8】
半熟全卵ゆで卵の黄身部分にペースト状の食材を注入した後に調味液を染み込ませる、請求項1~7のいずれか1項に記載の卵加工食品を製造する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法により製造された、半熟全卵の黄身部分にぺースト状食材を含む卵加工食品。
【請求項10】
半熟全卵の黄身のうち質量ベースで5~90%が、ペースト状食材に置換された、請求項9記載の卵加工食品。
【請求項11】
半熟全卵の黄身のうち質量ベースで10~50%が、ペースト状食材に置換された、請求項10記載の卵加工食品。
【請求項12】
半熟全卵のいずれかの面に、食用糊で塞がれた穴が存在する、請求項9~11のいずれか1項に記載の卵加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半熟卵の黄身部分に明太子等のぺースト状食材を含む煮卵等の卵加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の卵加工食品が知られている。この中でも煮卵は、栄養価が高く、手軽に食することができるので、卵加工食品として好まれている。
煮卵として、冷凍水煮卵の製造方法が報告されていた(特許文献1を参照)。
また、卵加工食品の中でも卵焼きを製造するときに中に明太子を入れて製造する、明太子入り卵焼きは存在した。さらに、ゆで卵を半分に切って、その上に明太子をのせた卵料理が存在した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、明太子等のぺースト状食材を、半熟卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
卵加工食品の中でも卵焼きを製造するときに中に明太子を入れて製造する、明太子入り卵焼きやゆで卵を半分に切って、その上に明太子をのせた卵料理が存在した。
【0006】
しかしながら、これらの卵料理は、卵と明太子の一体感に乏しく、卵の風味と明太子の風味が渾然一体となった新しい食感や風味を楽しむことはできなかった。
【0007】
本発明者は、卵の風味と明太子の風味が渾然一体となった新しい食感や風味を楽しむ卵加工食品の製造方法の開発に鋭意検討を行った。その結果、半熟卵の黄身の一部を抜き取り、その部分にペースト状の明太子を注入することにより、あたかも最初から黄身部分に明太子が含まれているような新しい食感と風味を楽しめる卵加工食品の製造に成功した。本発明者は、明太子以外のペースト状食材を用いることにより、さらに多彩な食感や風味を楽しめることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] (i) ニワトリ又はウズラの半熟全卵ゆで卵の外側からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて半熟卵黄の一部を抜き取る工程、
(ii) (i)の工程でシリンジを刺し込むことにより形成された穴からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて黄身部分に卵以外のペースト状の食材を注入する工程、
を含む、半熟全卵の黄身部分にぺースト状食材を含む卵加工食品を製造する方法。
[2] 工程(i)において、シリンジを半熟全卵ゆで卵の下面からゆで卵の黄身部分にシリンジを刺し込み、該シリンジを用いて半熟卵黄の一部を抜き取る[1]記載の卵加工食品を製造する方法。
[3] ペースト状の食材が、明太子、たらこ、キャビア、ウニ、のり佃煮、昆布佃煮、芽株佃煮、ゆず胡椒、バター、練りごま、練りわさび、練り梅、うめびしお、アンチョビペースト、青じそペースト、調味味噌、タイ味噌、いりこ味噌、エビ味噌、ゆず味噌、ふき味噌(ふきのとう味噌)、みょうが味噌、くる味噌、玉ねぎ味噌、ねぎ味噌、イカ墨、レバーペースト及び野菜ペーストからなる群から選択される、[1]又は[2]の卵加工食品を製造する方法。
[4] ペースト状食材が、明太子、たらこ、ウニ、バター、のり佃煮及びゆず胡椒からなる群から選択される、[3]の卵加工食品を製造する方法。
[5] (ii)の工程の後に、シリンジを刺し込むことにより形成された穴に食用糊を注入する工程を含む、[1]~[4]のいずれかの卵加工食品を製造する方法。
[6] 食用糊が、卵白及びデンプンを含み、食用糊の注入後、加熱により食用糊を固まらせる、[5]の卵加工食品を製造する方法。
[7] 半熟全卵ゆで卵が、調味液を染み込ませた味付け卵である、[1]~[6]のいずれかの卵加工食品を製造する方法。
[8] 半熟全卵ゆで卵の黄身部分にペースト状の食材を注入した後に調味液を染み込ませる、[1]~[7]のいずれかの卵加工食品を製造する方法。
[9] [1]~[8]のいずれかの方法により製造された、半熟全卵の黄身部分にぺースト状食材を含む卵加工食品。
[10] 半熟全卵の黄身のうち質量ベースで5~90%が、ペースト状食材に置換された、[9]の卵加工食品。
[11] 半熟全卵の黄身のうち質量ベースで10~50%が、ペースト状食材に置換された、[10]の卵加工食品。
[12] 半熟全卵のいずれかの面に、食用糊で塞がれた穴が存在する、[9]~[11]のいずれかの卵加工食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の卵加工食品は、半熟卵の黄身部分に、他のペースト状食材を含み、卵の風味とペースト状食材の風味が渾然一体となった新しい食感や風味を楽しむことができる。また、携帯に優れており、場所を問わず食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ぺースト状食材を、卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品の製造工程を示す図である。
【
図2】卵の黄身部分にペースト状明太子を含む卵加工食品の写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、明太子等のぺースト状食材を、卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品である。本発明の卵加工食品は、黄身(卵黄)及び白身(卵白)を有する、卵殻を有しない、無殻の全卵のゆで卵又は煮卵である、卵加工食品である。ここで、全卵とは、卵丸々1個のことをいい、本発明においては、黄身の一部が抜き取られ、黄身部分に卵以外のペースト状の食材を含む加工卵も、外見は通常の卵と区別がつかず、黄身と白身を有するので、全卵と呼ぶ。全卵のゆで卵又は煮卵をゆで全卵又は煮全卵と呼ぶこともできる。
【0012】
本発明の卵加工食品の卵としては、鳥類の卵を用いることができる。鳥類の卵として、鶏卵、ウズラ卵、アヒル卵、カモ卵、ガチョウ卵、ダチョウ卵、カモメ卵、ホロホロチョウ卵、キジ卵、ヤマドリ卵、エミュー卵等があげられる。また、前記の鳥類の雑種の卵も含む。好ましくは、鶏卵及びウズラ卵である。
【0013】
これらの鳥類の卵は、卵殻を有し、卵殻を取った中身の部分は黄身(卵黄)及び白身(卵白)を有する。
用いる卵のサイズは限定されず、鶏卵の場合、SS、S、MS、M、L、LLのいずれのサイズの卵も用いることができる。この中でも、MS又はMが好ましい。
【0014】
本発明の卵加工食品は、黄身部分に鳥類の卵由来ではないペースト状食材が含まれている。黄身の一部を抜き取って、そこにペースト状食材を注入するため、黄身がペースト状食材で置換されているということもできる。
【0015】
本発明の卵加工食品は、半熟の全卵のゆで卵又は煮卵の黄身を注入器を用いて抜き取り、抜き取った黄身部分にペースト状食材を注入器を用いて注入して充填することにより製造することができる。
【0016】
ゆで卵とは、鳥類の卵を殻のまま茹でて凝固させたものをいう。本発明で用いるゆで卵は、黄身を抜き取る必要があるため、黄身に火が半分通り、黄身が部分的に凝固しておらずやわらかい状態を保っている半熟卵が好ましい。鳥類の卵が鶏卵の場合、半熟卵は、冷蔵庫で10℃以下で保存しておいた卵を冷蔵庫から出し、冷えた状態の卵を沸騰した湯に入れ、6~8分間、好ましくは6分30秒~から8分、さらに好ましくは6分45秒~7分45秒、さらに好ましくは7分~7分30秒、特に好ましくは7分15秒ボイルする。この際、好ましくは中火~弱火でボイルする。卵を沸騰した湯に入れるときには、卵の殻にひびが入らないように、お玉等を用いてゆっくり入れる。例えば、4Lの湯に卵を10~15個入れてボイルすればよい。上記の時間ボイルした後、余熱でさらに加熱されるのを防ぐため卵を冷ます。この際、卵を湯から取り出し、水又は氷水に入れ数分間、好ましくは2~10分間、さらに好ましくは4~6分間、さらに好ましくは5分間氷水中で回しながら粗熱を取ればよい。
【0017】
煮卵は、殻をむいたゆで卵を調味液中に漬け込んで得られる卵加工食品をいい、調味液が卵中に染み込んでいる。この際、半熟卵の黄身が固まらないように、ゆで卵を冷たい調味液中に入れ加熱させずに調味液を染み込ませることが好ましい。調味液としては、醤油、めんつゆ、叉焼の煮汁、みりん、焼き肉のたれ、鰹節の出汁やこれらの混合液を用いることができる。例えば、醤油とみりんの混合液を用いることができ、醤油とみりんの混合比は体積比で、3:1~1:3、好ましくは3:2である。調味液には、さらに、砂糖、酢、料理酒、ラー油、ごま油等が含まれていてもよい。例えば、ゆで卵を醤油に入れて漬け込んで得られた卵加工食品をゆで卵の醤油漬けや醤蛋とも呼ぶ。また、煮卵を味付け卵とも呼ぶ。好ましくは、からをむいたゆで卵を調味液に漬け込み、冷蔵庫中で1~24時間、好ましくは3~20時間、さらに好ましくは9~15時間、さらに好ましくは11~13時間、特に好ましくは12時間漬け込む。本発明においては、煮卵は、調味液が染み込んだゆで卵を意味する。
【0018】
上記の工程で得られたゆで卵又は煮卵の黄身の一部を抜き取り、代わりにペースト状食材を注入する。
【0019】
ペースト状食材とは、流動性と高い粘性のある食材をいう。多くは懸濁した分散系である。ペースト状食材は、形状が注射器に類似した注入器を用いて鳥類の半熟ゆで卵の黄身部分に注入するため、注入器に容易に吸い込むことができる程度の流動性及び半熟ゆで卵の黄身部分に注入した場合に、漏れ出ない程度の粘性を有している必要がある。
【0020】
例えば、本発明で用いるペースト状食材の硬さは、以下の方法で測定した場合に、5×103 N/m2以下、好ましくは3×103N/m2以下である。すなわち、試料を直径40mmの容器に高さ15mmに充填し、直径20mmのプランジャで圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで測定する。測定は20±2℃で行う。ただし、測定容器に移すことで、物性が変化するもの、測定容器に移せないもの、不定形なものなどは測定に支障のないことを確認して、クリアランスを試料の厚さ30%として直接測定してもよい。プランジャの材質には規定はなく、測定機器としては、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いる。例えば、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置としてテクスチャーアナライザー(例えば、TA Xt plus(英弘精機社製))を用い、凝固させたエマルション食品に、φ20mm円柱型プランジャを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値を測定することにより行えばよい。また、本発明で用いるペースト状食材の粘度は、50,000mPa・s以下、好ましくは30,000mPa・s以下、さらに好ましくは20,000mPa・s以下である。粘度は市販のクレブス粘度計やブルックフィールド粘度計等の回転式粘度計を用いて計測できる。
【0021】
ペースト状食材として、明太子、たらこ、キャビア、ウニ等の魚介類の卵;のり佃煮、昆布佃煮、芽株佃煮等の佃煮;ゆず胡椒;バター;練りごま;練りわさび;練り梅;うめびしお;アンチョビペースト;青じそペースト;調味味噌、タイ味噌、いりこ味噌、エビ味噌、ゆず味噌、ふき味噌(ふきのとう味噌)、みょうが味噌、くる味噌、玉ねぎ味噌、ねぎ味噌等の味噌加工品;イカ墨;レバーペースト;にんにくペースト、生姜ペースト、小松菜ペースト、トマトペースト、えだまめペースト、パンプキンペースト等の野菜ペースト等が挙げられる。明太子、たらこ等の魚介類の卵は、皮や筋を除去した魚卵を用いる。本発明においては、魚介類の卵という場合、皮や筋を除去した魚介類の卵を意味する。ペースト状食材は、パテ状食材ともいう。また、本発明において、ペースト状食材はピューレ状食材も含む。ピューレ状食材はペースト状食材よりも水分量が多いものをいうが、その区別は明確ではないので、本発明においては、ピューレ状食材をペースト状食材に含める。
【0022】
上記の食材そのものをペースト状食材として用いてもよいし、さらに、適した流動性及び粘性を有するようにペースト状に加工して用いてもよい。ペースト状に加工とは、本来固い食材をすりつぶしたり、裏ごしにかけたりして、大きな塊のない柔らかい状態に加工することをいう。
【0023】
卵の黄身の一部を抜き取るときにはゆで卵又は煮卵の外側から注入器の先端のノズル部分を卵の中心部の黄身部に刺し込み、注入器中に黄身部を吸い込む。刺し込む位置は、卵の外側からであれば、下面からでも、上面からでも、側面からでも、いずれの位置からでもよい、好ましく下面の中央付近から刺し込む。ここで、卵の下面とは、卵のとがっていない端部である鈍端部をいう。卵の上面とは下面の反対側で卵のとがっている端部である鋭端部をいう。注入器は、柔らかい状態の黄身を抜き取ることができるものであるならば、どのような形状のものを用いることもできる。好ましくは、円筒形の筒と可動式の押子(プランジャ)を有する構造の注射筒形状のものを用いればよい。また、好ましくは樹脂製のものを用いる。注入器を注射器又はシリンジとも呼ぶ。例えば、乳児に液体状の薬を投薬するために用いられる注入器を用いることができる。注入器は5~18mL、好ましくは10~15mLの容量のものを用いればよい。卵が鶏卵の場合、注入器のノズル又は針を卵の下面から1.5~3cm、好ましくは1.5cm~2.5cm、さらに好ましくは2cm程度刺し込めばよい。ノズル又は針はまっすぐの形状であっても、湾曲した形状であってもよい。プランジャを引くことにより、黄身の一部を抜き取ることができる。抜き取る黄身の量は、卵が鶏卵の場合、2~5g、好ましくは3~4g、さらに好ましくは3.5g程度である。抜き取る黄身の量は、質量ベースで鶏卵の黄身全部の5~95%、好ましくは10~80%、さらに好ましくは10~70%、さらに好ましくは10~60%、さらに好ましくは10~50%、さらに好ましくは15~40%、さらに好ましくは10~30%、さらに好ましくは15~30%である。
【0024】
黄身を抜き取った後に、注入器を用いて抜き取った黄身部分にペースト状食材を注入する。この際、注入器としては、黄身を抜き取るのに用いた注入器と同じものを用いればよい。ペースト状食材は、抜き取った黄身と同程度の量注入すればよい。例えば、黄身を3.5g抜き取った場合、ペースト状食材を2~5g、好ましくは3~4g、さらに好ましくは3.5g注入すればよい、注入は、注入器のシリンジ部分にペースト状食材を吸い込み、注入器のノズル又は針部分を、黄身を抜き取るときに開けた卵の下面の穴に刺し込み、プランジャを押し込んでシリンジ部分に入れたペースト状食材を卵中に注入すればよい。
【0025】
卵黄を2つ有する二黄卵の場合は、2つの卵黄の両方にペースト状食材が含まれていてもよく、どちらか1つの卵黄にペースト状食材が含まれていてもよい。
【0026】
注入後、注入器のノズルを刺し込むことにより形成された穴からペースト状食材が漏れ出てしまうのを防ぐため、穴を塞ぐ。そのために、穴に食用糊を注入し穴を塞げばよい。食用糊は、好ましくは、少なくとも、卵白及びデンプンを含む。食用糊は、さらに、カードラン、こんにゃく粉、寒天、ゼラチンを含んでいてもよい。さらに、カラギーナン、ガム類(キサンタンガム、グアーガム)等の増粘多糖類を含んでいてもよい。また、食用糊は、卵白、デンプン、カードラン、こんにゃく粉、寒天、ゼラチン、カラギーナン、ガム類(キサンタンガム、グアーガム)の複数の混合物であってもよい。卵白は好ましくは鶏卵の卵白であり、市販の乾燥品を用いてもよい。デンプンの由来植物は限定されず、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)、小麦デンプン、馬鈴薯デンプン(片栗粉)等いずれの由来のデンプンも用いることができる。また、架橋デンプン等の加工デンプンも含まれる。加工デンプンとして、食品添加物として認められている、アセチルリン酸化架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化アジビン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム(オクテニルコハク酸デンプンNa)、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン等が挙げられる。カードランは微生物により生産される発酵多糖類をいい、(C6H10O5)nで表されるD-グルコースがC1位とC3位でβ-グルコシド結合した非イオン性の直鎖状の多糖類(β-1,3グルカン)である。食用糊を食用接着剤や食用グルーとも呼ぶ。
【0027】
食用糊は、例えば、卵白20~25g、片栗粉1~5g及び水を4~10g、好ましくは卵白21.5~23.5g、片栗粉1.4~3.4g及び水を5.8~7.8g混合することにより作製することができる。好ましくは、これらの材料を混合し、煮詰めて作製する。
【0028】
食用糊を、黄身の抜き取り、ペースト状食材の注入のために開けた穴に、穴が塞がれるように注入する。この際、食用糊は黄身部分まで注入する必要はなく、白身の部分に注入すればよい。鶏卵の場合、穴の開口部から0.5~1cmの部分に、0.3~1g、好ましくは0.3~0.7g、さらに好ましくは0.5gの食用糊を注入すればよい。
【0029】
食用糊が、卵白を含む場合、卵白を固めるために、ゆで卵又は煮卵を蒸すこと等により加熱してもよい。例えば、湯を沸騰させた蒸し器で、1~12分、好ましくは3~10分、さらに好ましくは5~9分、特に好ましくは7分蒸せばよい。蒸したゆで卵又は煮卵は冷却される。冷却は、自然冷却でも冷蔵庫に入れての冷却でもよい。
【0030】
また、食用糊が寒天、ゼラチン等冷やすことにより固まる材料を含む場合、冷却により、食用糊を固めることができる。
【0031】
卵の調味液中への漬け込み、すなわち煮卵又は味付け卵の作製は、ゆで卵の黄身の一部を抜き取りペースト状食材を注入する前に行っても、後に行ってもよい。すなわち、本発明の卵加工食品の製造方法として、(1)ゆで卵を作製し、(2)卵を調味液に漬け込んで味付けし、(3)黄身を抜き取りペースト状食材を注入する製造方法、又は(1)ゆで卵を作製し、(2)黄身を抜き取りペースト状食材を注入し、(3)卵を調味液に漬け込んで味付けする製造方法がある。これらのうち、(1)ゆで卵を作製し、(2)黄身を抜き取りペースト状食材を注入し、(3)卵を調味液に漬け込んで味付けする製造方法が好ましい。また、この際、食用糊を穴に注入し穴を塞いだ後に卵を調味液中へ漬け込むことが好ましい。半熟全卵ゆで卵の黄身部分にペースト状の食材を注入した後に調味液を染み込ませる、という場合、食用糊を穴に注入し穴を塞いだ後に調味液を染み込ませる場合を含む。
【0032】
上記の方法で製造した、ぺースト状食材を、卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品を保存、流通させる場合、好ましくは真空包装すればよい。真空包装は、真空パック器を用いて行うことができる。
保存は、冷蔵庫中で行い、出荷も冷蔵状態で行うことが好ましい。
【0033】
本発明の、ぺースト状食材を、卵の黄身部分に含む煮卵等の卵加工食品は、卵の風味とペースト状食材の風味が渾然一体となった新しい食感や風味を感じることができる。卵の風味に他の食材の風味を併せ持った従来にない卵加工食品である。
該卵加工食品は、半熟全卵の黄身のうち質量ベースで5~90%が、好ましくは10~50%がペースト状食材に置換されている。
また、該卵加工食品は、半熟全卵のいずれかの面に、好ましくは下面に食用糊で塞がれた穴が存在する。
【0034】
ペースト状食材がペースト状の明太子の場合、最終製品である卵加工食品をめんたい煮卵、めんたい煮玉子、めんたい味付け卵又はめんたい味付け玉子と呼ぶ。
【実施例0035】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
本実施例では、ペースト状食材として、明太子の皮や筋を取り除き魚卵のみを含むように加工した、市販のペースト状明太子(辛子めんたいこバラ子(業務スーパー))を用いた。また、黄身の抜き取り、ペースト状食材の注入のための注入器として、容量12mlの市販の樹脂製のシリンジを用いた。
【0037】
(1) 冷蔵庫から出したLサイズの卵を沸騰したお湯に入れた。この際、卵殻が割れないようにお玉を用いてゆっくり入れた。
(2) 卵をお湯から取り出し氷水に入れ5分間回しながら粗熱を取った。
(3) 殻をむき調味液(醤油3:みりん2)に入れ12時間冷蔵庫で漬け込んだ。
(4) 卵の下面から卵の中心部まで注入器を刺し込み黄身3.5gを抜き取った。
(5) 同じ穴に注入器を刺し明太子ペーストタイプを3.5g注入した。
(6) 食用糊(卵白、片栗粉、水を煮詰めて作ったもの)を空いた穴に0.5g注入した。
(7) 蒸し器にてお湯が沸騰した状態から7分蒸した。
(8) 自然冷却し、粗熱をとった。
(9) 真空機で真空パックしラベルを貼った。
(10) 冷蔵庫にて保管した。
(11) 冷蔵出荷した。
【0038】
図1に製造工程図を示す。Aが本発明の黄身部分にペースト状明太子を含む卵加工食品の製造工程図であり、Bが黄身部分に他の食材を含まない従来の煮卵の製造工程図である。
【0039】
図2に、黄身部分にペースト状明太子を含む卵加工食品の写真を示す。Aは、卵の下面に食用糊を黄身の抜き取り、ペースト状食材の注入のために開けた穴を食用糊で塞いだ状態を示す。Bは真空包装した卵加工品を示す。Cは卵加工品の断面写真を示し、半熟卵の黄身部にペースト状の明太子を含む。